魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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注意報発令です!
今回以降のお話をお読みになる場合、以下の点をあらかじめご了承ください。

・この物語は、原作第326話までの情報を基に作成しております。
(故に、原作第327話以降の設定と大きく異なる可能性があります)
・具体的には、オリジナル設定が多々出てくると考えられます。
(私が原作作者様の設定を100%理解できているわけでは無いためです)
(独自解釈・独自設定が噴き出す危険性が高いのです)
・なので、原作派の方がもしお読みになる場合は特にご注意を。
(原作を汚すな!的な思想の方には耐えられない内容かと思いますので)
・可能な限り頑張って設定を組みましたが、無茶な点もあるかと思います。
(今回ほど、原作作者様に質問に行きたいと思ったことはありません)


以上の点をご了承いただいた上で・・・。
では、どうぞ。


第26話「ことのてんまつ」

Side アリア

 

気が付いた時、私は花畑にいました。

・・・一瞬、あの世かと思ってしまったのは秘密です。

 

 

そうでは無いと気付けたのは、エヴァさんの姿があったからです。

花畑の中央に置かれたシックな丸テーブルと、それを囲む5つの簡素な椅子。

それぞれの椅子に、私、エヴァさん、フェイトさん、ネギが座っています。

ただ一人、ロングのエプロンドレスを着た宮崎さんだけが立っていました。

 

 

「え・・・ええ? ね、ネギせんせー・・・」

「の、のどかさん?」

 

 

宮崎さんだけでなく、他のメンバーも服装が変わっていました。

私は、白い薄絹(シルク)と黒いベルベットを編み込んだフリルドレスを着ていました。

視界の隅に、白と黒のリボンが視えます。どうやら同色のヘッドドレスを頭に着けているようです。

 

 

私の右隣のエヴァさんは、白と桃色のフリルがあしらわれた豪奢なドレスを着ています。

状況の変化に警戒しているのか、非常に難しい表情をしています。

ちなみに、ネギは黒の礼服。

私の左隣のフェイトさんは、白のタキシード・・・変わりませんね。

 

 

「すまんの、男の服には詳しく無いのでな」

 

 

いつの間に、そこにいたのか。

空席だった5番目の椅子に、黒いローブを纏った少女がいました。

金髪碧眼、長い髪を背中に流して、その少女は紅茶のカップを手に・・・っ。

 

 

「茶が冷めるぞ?」

 

 

彼女はどこか愉快そうな声で、私達にお茶を勧めます。

私達の前に、ティーカップが置かれていました・・・フェイトさんだけ、マグカップですけど。

まったく、気が付きませんでした。

 

 

「・・・幻想空間(ファンタズマゴリア)か」

「そうじゃよ」

 

 

忌々しげなエヴァさんの声に、愉快そうな声が返ります。

幻術と見破れているのに抜けだせないと言うことは、支配権を奪われていると言うことですね。

まぁ、私の右眼をもってすれば・・・。

 

 

「まぁ、つもる話もある・・・まずは一服するが良い」

 

 

そう言って、再度お茶を勧められました。

・・・まぁ、まさか毒が入っているわけでも無いでしょうけど。

 

 

などと思っていたら、フェイトさんがマグカップを手にとって、躊躇なくコーヒーを口にしました。

それを皮切りに、エヴァさんも紅茶を口に。

ネギもミルクの瓶を手に取って、紅茶に入れていました。

ふむ、では私も・・・。

 

 

「・・・いきなりミルクかい」

 

 

・・・ミルクを取ると見せかけて、即座にカップを手に取りました。

私は最初からカップを手に取るつもりでした。

ミルク? そんな飲み物が地上にあったのですか?

寡聞にして、存じませんでしたね。

 

 

「・・・何だよ」

「別に」

 

 

ネギとフェイトさんが少しばかり険悪になっていましたが、それは置いておいて。

ストレートティーと言う物もありまして・・・むぅ、少し苦味が。

軽く顔を顰めると、フェイトさんが自分の分のミルクをそっと私の方に押して来ました。

 

 

・・・フェイトさん、ブラック派なんですね。

と言うか、言動と行動が不一致ですよ、フェイトさん。

・・・そそくさとミルクを入れる私も、現金な物ですが。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

紅茶にミルクを入れると、フェイトが嫌味を言ってきた。

・・・そのくせ、自分の分のミルクをアリアにあげてた。

普通に、ムカついた。

 

 

「時間については心配せずとも良い。現実での一瞬がこちらでは数時間じゃ」

「だとしても、貴様に付き合う理由は無いがな」

「無いなら、作れば良かろう?」

 

 

どこかアリアに似た顔立ちをしてるその女の子は、エヴァンジェリンさんと仲が悪そうだった。

と言うか、エヴァンジェリンさんが一方的に嫌ってる感じ。

 

 

「あ、あの・・・どうして私はメイドさんなのでしょー・・・?」

「何、興が乗っただけじゃよ」

 

 

興が乗ったから、のどかさんをメイドに?

と言うか、僕の肩の傷は・・・?

 

 

「さて、何から話すかの・・・」

「・・・とりあえず、お名前をお聞きしても良いですか?」

「む、そうじゃな。では・・・我が名はアマテル。ウェスペルタティア王国の初代女王であった女じゃ」

「アマテルだと? パクティオー制度の元になった石像の?」

「そうじゃよ」

 

 

世界最古の歴史を持つウェスペルタティア王国。

その王家の始祖となった女性が、初代女王アマテルだって言われてる。

それくらいは、僕も魔法世界に来て聞いたことがある・・・お伽話として。

一説には、創造神の娘だとか何とか。

 

 

「あれ? でも、それが本当なら・・・」

「女性の年齢に言及するのは良く無いな、赤毛の末裔(ネギ)よ」

 

 

・・・それが本当なら、この人は2000年以上生きてることになるんだけど・・・。

にわかには、信じられない。

 

 

「・・・まぁ、よしんばそれを信じるとして」

 

 

紅茶にミルクを入れながら、アリアが言った。

当然のように、フェイトはそれに何も言わない。

 

 

「全てを話すとは、どう言うことでしょう?」

 

 

アリアのその言葉に、アマテルさんは笑みを浮かべた。

アマテルさんの背後に、黒い鍵が浮かび上がる。

・・・<最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>!

 

 

「なっ・・・貴様!」

「そもそも、お前達はこの魔法世界(せかい)について何を知っておる?」

 

 

エヴァンジェリンさんの声を遮って、アマテルさんはそう言った。

魔法世界について・・・?

 

 

アマテルさんが右手の指を、パチンッ、と鳴らした瞬間。

周りが、光を失ったかのように真っ暗になった。

 

 

 

    ◆  ◆  ◆

 

 

 

始まりは、3人だった。

いつ、どこでどのように出会ったのかは、今となってはもう覚えてもいない。

とにかく、気が付いたら3人だった。

男が一人に、女が二人。

 

 

3人にとっての世界はそれで、全てだった。

全てで・・・やはり、全てだった。

 

 

男には、大きな力があった。

人間の中で最初にその才能に目覚めた男は、しかしその力を使う術を持たなかった。

ある日、男は夢を見た。

自分と同じような才能を持った人間が、未来において迫害され、死んでいく夢を。

それを将来に起こり得る現実だと確信した男は、嘆いた。

 

 

「ああ、私の力を使うことができれば、彼らを守ってやることができると言うのに」

 

 

それを聞いた女の一人が、言った。

 

 

「なら、ボクの杖を使うと良い。ボクの杖は、キミの助けになるだろうから」

 

 

女は、一本の杖を男に与えた。

その杖を使い、男は新たな世界を拓いた。

地球に見切りをつけた―――と言うより、場所が無いと判断した―――男は、遥か遠くの星の大地に、新しい世界を、同胞のための新たな揺り籠を創造した。

その世界は、新世界(まほうせかい)と名付けられた。

そこは、男の力によって維持される幻想世界だった。

 

 

いつしか男は<造物主(ライフメイカー)>と呼ばれるようになり、杖は<造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)>と呼ばれるようになった。

 

 

地球・・・旧世界からも、続々と才能に目覚めた人間達が移住してきた。

この間に新世界開発の労働力として生み出された「亜人種」も自立し、後の「ヘラス帝国」に繋がるコミュニティを形成し始めていた。

 

 

ここで、新たな問題が発生した。

亜人と人間、あるいは亜人同士、人間同士で争いが起こるようになったのだ。

それを見た<造物主(ライフメイカー)>は、嘆いた。

 

 

「ああ、私が彼ら全てと語ることができるなら、彼らを諫めてやれると言うのに」

 

 

それを聞いたもう一人の女は、<造物主(ライフメイカー)>に言った。

 

 

「なら、私が彼らをまとめよう。彼らの想いを、私がお前に伝えよう」

 

 

その女は、移住者達の王となり、国を興した。

これが、後に「ウェスペルタティア王国」と呼ばれることになる国の始まりである。

 

 

杖を与えた女は、月の女神(シンシア)

国を建てた女は、太陽の女神(アマテル)

それが、2人の女の名前だった。

 

 

造物主(ライフメイカー)>が同胞の生存圏として新世界(まほうせかい)を創造し、2人の女がそれを支えた。

シンシアは子を成せない身体だったが、アマテルは子を成すことができた。

造物主(ライフメイカー)>と<太陽の女神(アマテル)>の間に、子が生まれた。

これが、「ウェスペルタティア王家」の始まりである。

 

 

そして、新たな問題が発生した。

 

 

新世界・・・魔法世界の人口が増えるにつれ、世界の規模を広げる必要が出てきた。

人々が暮らしていくには、その世界は狭すぎたのだ。

だが広大な幻想世界を触媒、つまり火星の大地に固定するためには、楔が必要であった。

楔は強く、清らかで、長い時間を孤独に過ごさねばならない・・・。

それを知った<造物主(ライフメイカー)>は、嘆いた。

 

 

「ああ、私自身が生贄になれれば、この世界を維持することができると言うのに」

 

 

それを聞いたシンシアは、言った。

 

 

「なら、ボクの身体を使うと良い。ボクの身体は、条件を満たしているだろうから」

 

 

その言葉には、流石の<造物主(ライフメイカー)>も逡巡を示した。

月の女神の名を持つ女は、笑って言った。

 

 

「良いよ良いよ、良いよ良いよ、家族のためなら、何て事はないさ」

「キミの望みが叶うなら、それに越したことは無いさ」

「キミ達が幸せなら、それで十分さ」

「キミ達の子供が幸せに生きていければ、ボクは十分に幸せだからさ・・・」

 

 

・・・そして、魔法世界は2000年の安定を得ることになった。

メデタシ、メデタシ。

 

 

 

    ◆  ◆  ◆

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「・・・とまぁ、コレが魔法世界の創世物語にして、ウェスペルタティアの建国物語なわけじゃが」

 

 

クルクルとフィルムを巻き直しながら、アマテルが言った。

・・・過去を語る際に、上映会みたくなるのは何故だ。

アリアの時も、そうだったが。

 

 

「・・・最後なんですけど」

「うむ?」

「全然、メデタシメデタシじゃ無いですよ!」

 

 

ガチャンッ・・・と、アリアがテーブルを叩いたせいで、テーブルの上のカップが音を立てる。

だが、それを気にしない程に、アリアは怒っていた。

目尻には、涙さえ浮かんでいた。

それは、そうだろうと思う。

 

 

先程の記憶・・・記録? の中のシンシアは、アリアの記憶の中のシンシアと同じ姿をしていた。

・・・む、だが、どう言うことだ?

 

 

「・・・アリアは、どうして怒っているの?」

「キミには関係の無い話だよ、ネギ・スプリングフィールド」

 

 

お前だって知らないだろう、若造(フェイト)。

 

 

「何で、シンシア姉様が人柱みたいなことになってるんですか!?」

「別に死んだわけでは無い。確かに身動きは取れなくなったかもしれんが、生きてはいた。それにまだ続きがある・・・6年前のことも含めて、な」

「・・・」

 

 

そう、6年前だ。

6年前、アリアの村で、アリアはシンシアに出会っているはずではないか・・・?

 

 

「それにしても、<造物主(ライフメイカー)>と言うのは情けない男のようだな。女の手を汚して目的を果たすか。まぁ、悪くは無いと思うがな」

「とは言え、私やシア・・・シンシアが本当の意味で彼の役に立ったのは4度きりじゃ。杖と、国と、子と、身体。コレきりじゃよ」

「・・・それで十分だと思いますけど」

「まぁ、そう尖るな。さて・・・どこまで話したかの?」

 

 

アマテルはカップを手にとり、紅茶を口につけた。

それから腕を組み、数秒ほど考え込んだ。

 

 

「・・・私には、彼やシンシアには無い才能があった」

 

 

やがて考えがまとまったのか、そう切り出した。

 

 

「現在、<王家の魔力>として伝わる力がそれじゃ。名称は特に無いが・・・<精霊殺し>、と言うのが一番近い気がするの」

「名前からして、効果が大体わかるな」

「まぁの。そもそもお前達が使う<魔法>とは、<造物主(ライフメイカー)>の力の模造品なのじゃ。精霊とは、お前達が<魔法>を使うための補助機能として創られた。無詠唱呪文や呪文詠唱のできない体質の者は、精霊を必要としないと言うが・・・何かの形で精霊の力を借りる必要がある、それがルールじゃ」

 

 

突然、何の話だ・・・とも、思わなくもないが。

しかし、一応、聞こう。

 

 

「無詠唱呪文であっても、魔法発動の際には精霊の助けがいる。呪文が使えずとも、魔法の道具を使う際には精霊の助けがいる。コレが絶対の法則じゃ、コレは新旧両世界共通のルールなのじゃ」

「・・・私のアーティファクトは、精霊の力を必要としませんが」

「うん? それはそうじゃろうの、主(ぬし)のアーティファクトはシンシアの作品なのじゃからな」

 

 

こともなげに、アマテルはそう言い放った。

アリアの眼が、驚きに見開かれる。

・・・ぼーやが驚いているのは、アリアのアーティファクトの効果を初めて聞いたからだろう。

 

 

「アーティファクト・・・つまりパクティオー制度を作ったのは私じゃが、アーティファクトの中でも古い物は、いくつかはシンシアの作品じゃよ・・・10種類ほどな」

 

 

まぁ、アリアのあの能力は元々、シンシアの持ち物だったらしいしな。

不思議は無い・・・か?

 

 

「話を続けても良いかの?」

 

 

皆が黙ると、アマテルはまた語り始めた。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

「<王家の魔力>とは、原則としてウェスペルタティア王家の女子にのみ発現する。稀に先祖返りした分家の娘や、私の血が色濃く出たらしい男子に出ることもあるが、直系の女子が原則じゃ」

 

 

先代のアリカ女王も、<王家の魔力>を使っていたね。

10年ほど前に、何度か見たことがある。

 

 

「<王家の魔力>保持者は精霊に頼ることなく魔法を使える。それは<王家の魔力>・・・つまり私の力が、私の血が、精霊よりも上位の存在として認識されるからじゃ。特に私の<精霊殺し>を受け継いだ存在を、現在は<黄昏の姫御子>と呼んでおるようじゃが・・・凶悪じゃぞ、まさに精霊を殺せる。もし精霊を皆殺しにすれば、極端な話、魔法世界は滅ぶ」

「物理的に不可能だろう」

「じゃが、兵器として利用しようとする気合いの入った輩もいての」

 

 

吸血鬼の言葉に、墓所の主は自嘲気味に笑う。

・・・神楽坂明日菜、アスナ姫。

彼女はまさに、ウェスペルタティアの兵器として利用されていた。

 

 

「加えて言えば、<黄昏の姫御子>には他の<王家の魔力>保持者には無い特徴がある。<造物主(ライフメイカー)>の力、<始まりと終わりの力>の情報をその魂に刻まれておるのじゃ」

 

 

それが、<黄昏の姫御子>の役目。

最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>と並ぶ、重要な鍵としての役目。

世界の始まりと終わり・・・黄昏を司る存在。

 

 

「・・・お話はわかりましたが」

 

 

アリアは、冷静でいることを自分に強いているような声で、言う。

シンシアと言う人物の話を聞いた時から、様子がおかしいけれど。

 

 

「肝心のお話を、まだ聞いていません」

「何じゃ、シンシアの話か?」

「それもありますが、もっと重要なことです・・・結局、『リライト』を止めるには、どうすれば良いのですか?」

 

 

そう、アリアは『リライト』を止めるための手掛かりを求めて、ここにいる。

それについて、主は何も言っていない。

主は、どこか不思議そうな顔でアリアを見た後、話し始めた。

 

 

「世界再編魔法『リライト』。これは世界の『再構築』魔法であり、精霊たちとの『再契約』魔法でもある・・・ああ、イコールで『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』と結び付けるでないぞ、アレはそこのフェイト達が再構築後の新たな世界(うけざら)として用意した物に過ぎん」

 

 

そうだね、『リライト』と『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』は分けて考えるべきだね。

究極的なことを言えば、今と同じような世界を再構築しても問題は無いんだ。

不可能では無い・・・2000年以上前に<造物主(ライフメイカー)>・・・主(マスター)がやったことと同じことをやれば良いのだから。

 

 

けれど、主(マスター)は同じ世界を望まなかった。

救われない、弱き魂の多さに嘆いた主(マスター)は、『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』と言う永遠の楽園を用意した。

それを実現するための手足が、僕達だった。

 

 

全ての祝福され得ぬ魂の救済、それが「彼」の目的。

そう、「全て」の「魂」を救う次善解としての『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』。

争いも不幸も無い、安らぎだけの世界に、人々を封じ込める。

魔法世界を消すことになるから、魔法世界人は少なくとも肉体を失うことになるけれど・・・。

安らぎのみの世界では、肉体など必要無い。

 

 

「何故、『リライト』が必要か? シンシアの時と同じような理由じゃよ・・・資源が足りぬ、人の数が多すぎる、この2点に限る。始まりは23人の集落、今では12億の世界・・・足りるわけが無い。いずれ資源が尽きて瓦解するのは、当然じゃろう?」

 

 

そう、当然だ・・・だから、この機会に新たな世界を再構築しようとした。

極端な話、僕らは「彼」の願い・・・こだわりのために、動いていたわけだ。

つまり、言ってしまえば、「彼」は人間に絶望して・・・。

 

 

『俺達は、お前らほど人間をあきらめちゃいねぇ、そんだけさ』

 

 

・・・脳裏に、10年以上前に聞いた言葉が甦る。

僕らの主(マスター)が、人間を諦めていると評したあの男。

ナギ・スプリングフィールド。

 

 

「・・・まぁ、とどのつまり、別に『リライト』を止める必要は無いわけじゃ。『リライト』後に再構築される世界を、今と同じような世界にすれば良い。2000年前はそうしたわけじゃしの」

「・・・『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』でなくても良い、と?」

「まぁの、ただ規模が拡大するから・・・膨大な魔力と、シンシアに匹敵する楔が必要じゃがな」

 

 

まぁ、僕やアリア、吸血鬼のような個人レベルの魔力じゃ足りないね。

それこそ、<造物主(ライフメイカー)>クラスの魔力が必要だ。

そして、シンシアと言う人物に匹敵する楔・・・人柱。

・・・チリチリと、胸の奥がザワめく。

 

 

一瞬、主と僕の視線が交わった。

直後、墓所の主が言う。

 

 

「この中では、末裔の少女(アリア)赤毛の末裔(ネギ)が有資格者じゃの」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』には楔はいらぬ。アレは厳密には魔法世界の再構築では無く、新たな世界じゃからの。だが今の魔法世界を再構築するなら、楔がいる」

 

 

この中で、その楔とやらになれるのは、私かネギ。

理由は何となく、わからなくもありません。

 

 

「ちなみに、どちらか、では無い。どちらも必要じゃな。2人でようやく1人分の楔になれる、と言った所かの。まさかの双子、しかも父親が王家外部の人間じゃからの・・・」

 

 

やはり、血統ですか。

そして本来ならば一人だったはずの子は、双子になっています。

少し前、王家の儀式の際に聞いた言葉が甦ります。

アマテルの血は、半分だけだ・・・と。

 

 

「まぁ、9年6ヵ月以内に2人で子供を作ると言うのも手ではあるがの」

 

 

ドゴンッ!・・・ピキキキィィ・・・ンッ。

 

 

・・・前の音は、フェイトさんがテーブルを砕いた音。

後の音は、エヴァさんが『断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)』をアマテルさんの首に突き付けた音です。

 

 

「ダメだな」「ダメだね」「だ、ダメだと思いますー」

 

 

エヴァさん、フェイトさん・・・そして密かに宮崎さんも反対します。

・・・私も嫌です。

 

 

「・・・では、この2人が楔になるしかないの。『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』を受け入れるのならば別じゃが・・・ここに至れば、『リライト』は止まりようが無い。選択肢は他に無い」

「なっ・・・」

 

 

親指と人差し指で『断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)』をつまみ、砕くアマテルさん。

あまりに軽々と砕かれてしまって、エヴァさんが驚いたような声を上げます。

<王家の魔力>の、オリジナル・・・<精霊殺し>。

 

 

不意に、アマテルさんが腕を振りました。

ブゥンッ・・・と私の目の前に、<最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>が浮かび上がります。

 

 

「楔になるための方法は、簡単じゃ。それを持って私の墓・・・初代女王の墓に来れば良い。まぁ、つまりは私と同じ墓に入れと言うわけじゃな」

「その言い方だと、お前はすでに死んでるみたいな言い方だな」

「肉体は死んでおるぞ、普通に。魂は魔法世界の監視者として、こうして動いておるがな」

 

 

そう言った直後、アマテルさんの身体が一瞬だけ、透けて見えました。

 

 

「故に、私が楔になることはできぬ。楔は強く、清らかでなければならぬ故な・・・」

 

 

何と言うか、酷く曖昧な選定基準ですね・・・。

でも、とりあえずは<最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>を手にとってみます。

意外に重いそれは、どうしてか酷く手に馴染むような気がしました。

複写眼(アルファ・スティグマ)』を起動、「鍵」を解析・・・その瞬間。

 

 

 

衝撃と苦痛が、私の脳を満たします。

 

 

 

やめておけばよかったと、頭の片隅で後悔します。

鍵から手を離そうとも思いますが・・・できません。

どうにも、できません。

私は、鍵から瞳が読み取る情報の膨大さに、振り回されていました。

 

 

ツ・・・と、右眼から何かが流れ落ちるのを感じます。

エヴァさんが何かを叫んだような気もしますが・・・聞きとることができません。

痛みが、恐怖が、悲しみが、そして何か大きな感情が、私の頭に流れ込んできて。

 

 

「あ・・・」

 

 

痛みが。

これは、「誰」の、痛み?

冷たい、暗い、孤独で、寂しくて、そんな痛み。

そしてそれは、終わりが無くて、永遠に続く―――――――――。

 

 

「あ、ああっ・・・あああああっ、あああっ・・・」

 

 

たまりかねて、悲鳴を上げそうになった、その時。

 

 

「アリア」

 

 

名前を、呼ばれました。

一瞬、誰の名前かわかりませんでしたが、すぐに自分の名前だとわかるようになります。

 

 

手を、握られていました。

鍵の柄を握る私の手に、誰かの白い手が重ねられていました。

フェイトさんの手。

それに気付いた時、凄く、楽になりました・・・。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

フェイトがアリアと一緒に<最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>を持つと、鍵が凄く安定しているのがわかった。

 

 

アリアが手に取った瞬間、鍵が物凄い勢いで紅く輝いた。

アリアが右眼から血を流し始めて・・・エヴァンジェリンさんが慌てて止めようとしたけど、無理だった。

でもフェイトが鍵に触った途端、光が収まった。

 

 

「・・・それで、楔になる覚悟はできたかの?」

 

 

それを静かに見ていたアマテルさんが、そう聞いてきた。

楔・・・世界を救うために必要な物。

僕が・・・僕とアリアがそれになれば、皆を助けられる。

マギステル・マギは、皆を助けるための存在。

 

 

「・・・僕は、良いです。楔になります」

「ネギせんせー!?」

 

 

のどかさんが悲鳴のような声を上げるけど、これは僕の意思だ。

僕が犠牲になることで、皆が助かるのなら。

それはとても、良いことだと思う。

 

 

「・・・ふむ、息子の方は良いそうじゃが、娘の方はどうじゃな?」

 

 

アマテルさんはそう言うと、フェイトに半分抱えられるようにして椅子に座るアリアを見た。

エヴァンジェリンさんは、凄く心配そうにアリアを見ている。

アリアは顔にかかった前髪を片手で払いながら、アマテルさんを見つめた。

どこか憔悴したような表情を浮かべつつも、アリアははっきりと答えた。

 

 

「断固拒否します」

「・・・え?」

 

 

僕は思わず声を漏らしたけど、アリアは気にした風も無かった。

エヴァンジェリンさんは、ほっとしたような顔をしてた。

・・・え、どうして?

 

 

「何が悲しくて、世界のための生贄にならなくちゃいけないんですか。冗談じゃありません」

「ほぅ、では『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』を受け入れるのかの?」

「それも拒否します。と言うか・・・そうですね、前提の思想が間違ってるんですよ」

「前提?」

 

 

アリアは、どこか不満そうな顔で、言った。

 

 

「どうして、たった一人・・・ないし、少人数で世界を維持しなければならないんですか?」

「だ、だってそれは、それが皆のためになるから」

「ネギはそれで良いかもしれませんが、私は嫌です。この世界は、この世界に住む全ての存在によって維持されるべきです」

「ほう・・・?」

 

 

アマテルさんが、興味深そうにアリアを見る。

でも、僕には理解できなかった。

自分の犠牲で皆を守れるのなら、それで良いと思うのは間違いなの?

 

 

「楔になるのは・・・この世界の12億の人間、全てであるべきです」

「・・・」

「皆のため、なんて嫌です。不特定多数の皆のために、あんな感情を味わい続けるのは嫌です」

 

 

あんな、感情?

 

 

「だが、楔の資格は主ら2人にしか無いぞ?」

 

 

そう言われると、アリアも言葉に詰まる。

そう、僕達にしかできないのなら、やっぱり。

 

 

「・・・一つ、聞きたいんだがな」

 

 

エヴァンジェリンさんが、話に入ってきた。

 

 

「最初の楔は、シンシアだったんだろう?」

「そうじゃよ」

「なら何故、貴様の子孫が楔の資格を有するんだ? シンシアの子孫ならわかるが、貴様の子孫だけがその資格を有すると言うのは、筋が通らないと思うのだが?」

 

 

エヴァンジェリンさんのその言葉に、アマテルさんが小さく笑みを浮かべた。

それに、エヴァンジェリンさんが冷たい目を向ける。

 

 

「・・・嘘(プラフ)か」

「別に嘘は吐いておらんよ、実際、私の子孫に楔としての適性が高い者が多く生まれるのは事実じゃからな。それに私も、10年前までは考えもしなかったのじゃ・・・他の人間全てに世界を背負わせるなど」

 

 

10年前。

そう言った時、アマテルさんが僕と、そしてアリアを見た。

それから、くっくっ・・・と、喉を鳴らして笑う。

 

 

「・・・何がおかしい」

「いや、すまんの・・・何と言うか、やはり親子じゃなと思っての・・・」

 

 

親子。

それって、もしかして・・・。

 

 

「10年前、同じことを<造物主(ライフメイカー)>に言った者達がいた、それが・・・」

 

 

紅き翼(アラルブラ)>。

アマテルさんの口から出たその名前に、僕は息を飲んだ。

・・・父さんが?

 

 

 

 

 

Side 墓所の主(アマテル)

 

10年前の話じゃ。

紅き翼(アラルブラ)>・・・特に、ナギとアリカの2人。

あの妙に気持ちの良い連中が、<造物主(ライフメイカー)>と戦った。

 

 

完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』に代わる・・・と言うより、『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』など必要無いと言って。

たった一人に世界を背負わせる必要は無いのだと言って、そんなくだらない世界のヒミツを、壊しに来たと言って、<造物主(ライフメイカー)>と戦ったのじゃ。

造物主(ライフメイカー)>は、<紅き翼(アラルブラ)>を受け入れることは無かった。

 

 

紅き翼(アラルブラ)>の考えは、<造物主(ライフメイカー)>には受け入れられなかった。

多くの救われぬ魂を救いたい彼は、全ての者に負担を強いるナギ達の考えを認められなかった。

人間を、信じることができなかった。

 

 

「あの者達は、無茶苦茶だったぞ。<造物主(ライフメイカー)>が長年かけて築いた世界の理を崩し、入れ替え、新しい術式を組み、やってきた」

 

 

20年前の戦いで世界の秘密を知った彼ら<紅き翼(アラルブラ)>は、メガロメセンブリアから追われる日々を過ごしながらも、様々な勢力の支援を受けて活動を続けていた。

10年の歳月をかけて、新しい「楔の術式」を開発もした。

今の世界を続けるための術式を携えて来たのじゃ、奴らは。

 

 

『人間(おれたち)を、なめんじゃねぇっ!!』

 

 

ナギ・スプリングフィールドは、そう言っていた。

造物主(ライフメイカー)>にとって、いや私にとって、それがどれ程の衝撃だったことか。

シンシアを犠牲にしない方法があるなどと、夢にも思わなかった。

後輩の魔法使いに・・・負うた子に教わるなどと、考えもしなかった。

 

 

「ち、ちょっと待ってください! じゃあ、父さんは成功したんでしょう!? だって・・・」

「だがぼーや、世界の危機はそのままだ。と言うことは・・・」

「・・・お父様は、失敗したのですね?」

「完全に失敗したわけでは無いがな」

 

 

造物主(ライフメイカー)>は彼の地に封印され、20年前に続いて10年前も、<造物主(ライフメイカー)>の意図は挫かれたわけじゃしな。

 

 

だが、<紅き翼(アラルブラ)>の術も完全には発動しなかった。

造物主(ライフメイカー)>は封印の間際に、<紅き翼(アラルブラ)>の<楔の術式>を発動直前で止めることに成功した。

自分が封印される代わりに、封印したのじゃ。

 

 

「<紅き翼(アラルブラ)>の<楔の術式>は、今も我が<初代女王の墓>の中で起動するのを待っている状態じゃ」

 

 

と言うか、<楔の術式>の封印の核は私の肉体じゃし。

おかげで、身動きが取れん。

 

 

「必要な物は4つ、鍵と、主ら3人」

 

 

フェイト、アリア、そしてネギを指差しながら、私は言った。

・・・フェイトとアリアが2人で持っている杖は、大人しく2人の制御化にある。

先の2番目(セクンドゥム)のように無茶な呪紋で扱うのではなく、あくまで自然体で。

まぁ、どちらかが手を離せば、また暴走するがな。

 

 

アレを制御するには、シンシアの魂の情報がいるのじゃ。

この2人には、その情報がある。

 

 

「ただし<紅き翼(アラルブラ)>の方法では、結局、世界は何も変わらん」

 

 

10年前、<楔の術式>によって、シンシアの代わりに楔の役目を代行する女が現れた。

紅き翼(アラルブラ)>と行動を共にしていた女・・・アリカ。

我が末裔でもあるアリカは、シンシアを解き放った。

 

 

そこから4年間、シンシアは旧世界を旅していた。

それまでもたまに魂だけで動いていたようだが・・・肉体を取り戻したシンシアは、急激に活動的になった。理由はわからない。

まるで、何かを探しているかのように。

 

 

そして、6年前の話じゃ。

シンシアが死んだ、突然だった。

 

 

「それでも、<紅き翼(アラルブラ)>の方法を継ぐかの?」

 

 

今、私の目の前にはシンシアの魂の半分を継いだ少女(アリア)がいる。

私の手で、残りの半分を見つけるために核にシンシアの魂を埋め込んだ少年(フェイト)がいる。

まぁ、急遽埋め込んだので、多少記憶が抜け落ちたりはしたようじゃが。

とにかく、その2人が<杖>を持っている。

 

 

シンシアでは無いが、シンシアの魂を継いだ2人が、<シンシアの杖>を持っていた。

2人は、少しの間見つめ合った後・・・。

 

 

答えを。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

「そんな小型艇で、良くもここまで来れた物ですね、タカミチ」

「まぁ、師匠直伝の無音拳のおかげでね」

 

 

実際、あんな一人用の小型艇でここまで来るとは思いませんでした。

いや、逆に一人だから来れたのかもしれませんが。

 

 

「ああ、あの戦艦の砲撃も弾くアレですか。ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグのアレは見事な物だと思っていましたが、まさかお前がそこまでの域に達していたとは」

「はは、僕なんて師匠に比べれば、まだまださ」

「でしょうね、お前は所詮、そこまでの男だ」

 

 

結局の所、憧れるばかりで超えようともしない男は、そこまででしょうよ。

しかし、私は違いますよ。

何故なら私は今日、<紅き翼(アラルブラ)>に成し得なかったことをするのですから・・・!

 

 

20年前、あの日、あの処刑場で、私は誓ったのですから。

必ず、アリカ様の名誉を回復して見せると。

必ず、メガロメセンブリア元老院の虚偽と不正を暴き、断罪すると。

 

 

「クルト、キミはアリアちゃんのことをどうするつもりなんだい?」

「そのようなことを、お前に聞かれる筋合いはありませんね」

「・・・クルト様」

 

 

その時、部下が私の耳元で何事かを囁きました。

・・・ふむ、召喚魔が?

私は口元に小さな笑みを浮かべると、甲板の上から降りて、タカミチと目線を合わせます。

相手のステージに、合わせてやろうじゃありませんか。

 

 

「アリア様の今後が知りたくば、来月に創刊される王室専門誌『うぇすぺるっ』を購入なさい。編集長は絡繰さんです」

「・・・王室って、アリアちゃんしかいないんじゃないかな?」

「細かいことを言う男ですね」

 

 

良いですか、まずは国民にアリア様のことを知って頂くことが肝要なのです。

これは高度に政治的な物であって、個人の趣味などでは断じてありません。

 

 

「・・・で、結局、何をしに来たんだ、タカミチ?」

「当然、ネギ君と明日菜君を助けに来たんだ、通してくれないかな?」

「ほう・・・」

 

 

ふむ、ネギ君と姫御子をね・・・。

・・・・・・数秒後、私は眼鏡を外し、溢れる涙を拭うような仕草をしました。

ああ・・・何と言う美しいお話なのでしょう。

 

 

「ふ・・・負けましたよタカミチ、貴方のひたむきな想いに」

「急に2人称がお前から貴方になったけど、どうしてかな」

「我が剣など、貴方の拳の前には小枝の如しですよ。ふふ・・・忠誠では献身には勝てないと言うことですね・・・さぁ、行きなさいタカミチ!」

 

 

ばっ・・・と手を広げて、私はタカミチに先に進むように促します。

 

 

「私はここで貴方の背中を守ると、友情にかけて誓おうじゃないですか! この世で友情以上に尊ぶ物は無いとは、良く言った物です・・・おや、どうしたんですかタカミチ、そんな胡散臭い物を見るような目で私を見て」

「・・・まぁ、行かせてくれるなら、行くけどね」

「ええ、まぁ、他の選択肢も無いでしょうしね」

 

 

まさか、ここで「怪しいから」と言って、帰ることもできないでしょう。

だがタカミチ、私は本心からお前にネギ君達を救って欲しいと思っているのですよ?

そして結局、タカミチは私の横を通り抜けて行きました。

ふん・・・せいぜい、頑張ることですね。実力はあるのですから。

 

 

「・・・さぁ、陛下が<最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>を手に入れ、召喚魔を消滅させるとの報告がありました! もう少しですよ、奮起なさい!」

「「「仰せのままに(イエス・マイ・)我が主(ロード)!!」」」

 

 

さて、そろそろ撤退の準備に入りますかね・・・。

 

 

 

 

 

Side ラカン

 

「行くぜ、オラァッ!!」

 

 

右拳を大きく振りかぶりながら、俺は『インペリアルシップ』の甲板から跳んだ。

目標は・・・えー、目の前のドラゴンみてーので良いか。

そいつの腹に、キツいのを喰らわせてやるぜ!

 

 

「『ラカン・インパクト』!!」

 

 

キュボンッ・・・って音がしたかと思えば、殴ったドラゴンの胴体が全部吹き飛びやがった。

さらに左拳で殴る!

余波で周りの雑魚も消し飛ばしながら、そのドラゴンの残り半分は100mくらい吹き飛んで・・・。

 

 

「おお?」

 

 

船の甲板に着地した時、召喚魔共の様子がおかしいことに気付いた。

なんつーか、召喚した魔獣が契約破棄で還る時みてーな感じがするぜ。

古強者の俺様には、感覚でそう言うのがわかったりするんだよ。

 

 

そして実際、召喚魔共の背後に魔法陣が現れて、それぞれの召喚魔を「門」の向こう側に引き摺り込まれていきやがった。

あん・・・?

 

 

「なんだぁ? もう終わりか・・・?」

「・・・任務、完了」

「お?」

 

 

パシッ、と音を立てて、雷の小僧がすぐ傍に現れやがった。

さっきから気になってたんだが、このアーウェルンクス。

けど、すぐにどっか行っちまうしよぉ。

 

 

「おい、てめ『ジャック!』ぇって、んだよじゃじゃ馬姫(テオドラ)

 

 

突然、じゃじゃ馬姫から念話が入りやがった・・・って、念話妨害も切れたのか?

 

 

『セラスから連絡が入った・・・国境の兵が、連合の軍勢が大挙侵攻してきたと報告してきたらしい!』

「ほー、大変だな、そりゃ」

『他人事みたいに言うな! 王国側との盟約に従い、帝国軍は迎撃に向かわねばならん。お前もじゃぞ!』

「へーいへい・・・で、おめーはどうすんだ?」

 

 

アーウェルンクスの小僧に声をかけると、そいつは俺に見向きもしねぇで。

 

 

「僕の任務は終わった。4(クゥァルトゥム)と合流して宮殿へ向かう」

「あっそ、じゃ、ここでお別れだな」

「・・・」

 

 

返事しろよ・・・む?

何となく、小僧の目線の先を見る。

「墓守り人の宮殿」から、光の柱が立ち上って・・・空に刺さってやがる。

空に映って見える、あの街は、確か・・・?

 

 

・・・嫌な予感が、するぜ。

しかも、俺にはどうしようもねぇ・・・そんな予感が、だ。

 

 

 

 

 

Side コレット

 

「「アリアドネー九八式!」」

 

 

委員長と呼吸を合わせて、剣を投げる。

予備の剣まで使って、10本の剣がまるで盾みたいに私達の前に広がる。

アリアドネー九八式、瞬時絶対対物小隊結界・・・!

 

 

「「『戦乙女の花楯(スクードゥム・フローレウム)』!!」」

 

 

物理的な物を通さない強力な小隊魔法結界が、路地の前方から迫る召喚魔を押し止める。

よし、やっぱり鍵持ちじゃない奴には効果がある!

 

 

「うぉるぅりゃあああっっ!!」

 

 

その楯が砕けた直後、クママさんが雄たけびを上げて(女の人だけどネ!)、突撃した。

クママさんのラリアットで3体の召喚魔が吹き飛ばされて、後続の召喚魔にぶつかる。

そこに左ストレートを叩きこんで、地面に倒れた奴を足で踏みつぶし、たまに頭突きで壁にめり込ませながら、私達が走るための道を作る・・・って、強!?

 

 

「わぁ~・・・」

「あのおばちゃん、すごーい!」

 

 

私と委員長が抱えてる子供達なんか、もう、すっかりクママさんのファンになってる。

いや、私達も頑張ってるんだけど・・・でも、憧れちゃう気持ちもわかるなぁ。

凄く、強いもんねー、見た目はラブリーなのに。

 

 

「てめぇら、和んでる場合じゃねぇぞ!」

「わわわっ、ごめんなさいっ!」

 

 

後ろから怒鳴られる、振り向くとトサカさんとビーさんが、路地の後ろから来る召喚魔を、頑張って防いでいた。

と言うかトサカさんも結構、強いんだよね・・・子供達はクママさんに夢中だけど。

 

 

「おいママ! 正直ヤベェぞ!」

「泣きごと言ってんじゃないわさ!」

 

 

路地から出れないし、少しずつ袋小路に追い詰められてる感じがする。

ち、ちょっと、ヤバいかも・・・。

 

 

「お嬢様! コレットさん! 上です!」

 

 

ビーさんの声に、上を見ると・・・げ、鍵持ちが・・・!

とっさにその場で身体を丸めて、亜人の子を庇う。

これまでの戦いで、鍵持ちは亜人を狙うってことはわかってるから!

・・・私も、亜人だけどね。

 

 

「・・・んなひょろいガキ、狙ってんじゃねぇよっ!」

 

 

自分の上に、誰かが覆いかぶさる感触があった。

背中の柔らかいのは、たぶん委員長。

じゃあ、私の上にいるのって・・・?

 

 

そんなことを考えながら、ギュッて目をつぶる。

先生・・・!

 

 

・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・あれ?

 

 

いつまで経っても、何も起こらない。

不思議に思って目を開けると、そこにはトサカさんの顔が。

私と委員長を庇うみたいな姿勢。

・・・守ってくれたの?

 

 

「ほら、いつまでも乗ってんじゃないよ」

「へぶぉっ!?」

 

 

でも、クママさんに蹴られて転がって行った。

それを見て、子供達が笑う。

・・・後でお礼、言わなくちゃね。

 

 

それはそれとして、何が・・・?

と言うか、召喚魔は?

 

 

「召喚魔は、どこに行ったんですの?」

「それが・・・突然、消えてしまったのです。おそらくは術者によって還されたのかと・・・」

 

 

委員長に、ビーさんが説明してる。

ええっと、とりあえず、助かったってこと?

 

 

「やっ・・・」

 

 

次の瞬間、私達の側にあった建物が崩れた。

やったーって言おうとした体勢のまま、私は固まる。

もうちょっとズレてたら、巻き込まれてたんだけど。

・・・へ?

 

 

「どらごんがおちたーっ!」

 

 

舌ったらずな女の子の声が、耳に届いた。

・・・はぁ? ドラゴン?

・・・・・・何で?

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

「「環!?」」

 

 

両側から、暦さんと焔の声がハモって聞こえた。

環さんらしい竜(ドラゴン)が、撃ち落とされたから。

召喚魔にじゃ無い、それはどう言うわけか知らないけど、さっき消えちゃった。

環さんを堕としたのは・・・!

 

 

「ふん、殺さないようにするには火は加減が難しいな」

 

 

クゥァルトゥム君・・・じゃなく、もう呼び捨てで良いわよ、こんな奴。

とにかく、あいつに堕とされたのよ。

召喚魔撃墜のどさくさに紛れて・・・!

 

 

「あんた、召喚魔が消えるってわかってから撃ったでしょ!?」

「言いがかりはやめて欲しいな、何の証拠があって?」

 

 

今、加減がどうとか言ってたじゃないのよ・・・!

 

 

「まぁ、亜人は別に殺しても構わないんだけどね」

「・・・あんたね!」

「『豹族獣化(チェンジ・ビースト)』!」

「『炎精霊化(チェンジ・ファイア・スピリット)』!」

 

 

焔が身体から炎を吹き上げて、暦さんは黒い豹の姿になった。

かなり、怒ってる。

最初はフェイトそっくりな顔に戸惑ってたみたいだけど、今はもう完全に敵と見なしてるわね。

・・・私もだけど!

 

 

「来るのかい? 良いよ、来なよ・・・こうなると、僕も身を守るために戦わざるを得ないね」

「ぬけぬけと・・・!」

「特に、キミだ・・・小娘」

 

 

何よ、さっき殴ったの根に持ってるわけ?

肝の小さい男ね。

 

 

ゴッ・・・と、『アラストール』で自分の炎魔法の効果を底上げする。

私の身体の周囲を、小さな炎のロープが回転する。

やってやるわよ・・・!

 

 

そう思って、睨み合った直後。

パシッ・・・って音がした次の瞬間、クゥァルトゥムが消えた。

・・・へ?

 

 

次いで、隣の建物に何かが突っ込んだみたいな音がした。

見れば、アパートの3階の部屋の壁に穴が一つ、開いていたわ。

え、何が起こったわけ?

 

 

「・・・何をしている、4(クゥァルトゥム)。任務以外での戦闘行為は禁止されているはずだ」

 

 

パリッ・・・全身に電気を纏わせた男の子が、さっきまでクゥァルトゥムが立ってた場所にいた。

また、フェイトのそっくりさん・・・しかも髪型が違う。

何と言うか、セットに時間がかかりそうな感じの髪型ね。

その時、アパートの壁からクゥァルトゥムが顔を出した。

 

 

「・・・5(クウィントゥム)! 貴様・・・!」

「何かが僕達を呼んでいる、宮殿に戻れ」

「何・・・?」

 

 

ど、どうも、く、くうぃんとぅむ?

クウィントゥム君が、クゥァルトゥムを殴り飛ばした・・・のかしら?

助かった、みたい。

で、でも、何と言うか、それよりも・・・!

 

 

「「「な、何人いるの・・・?」」」

 

 

私と焔と暦さんが、声を揃えた。

フェイトって意外と、大家族の出身なのかしら。

 

 

 

 

 

Side 調

 

樹霊結界をスクナ様に施して、どれくらい経ったでしょうか。

10分か、1時間・・・ジリジリと私の魔力が失われていくのを感じます。

元々、自分よりも強大な存在を封印できるような術ではありません。

正直、どこまで持つか・・・!

 

 

『調? そちらの様子はどうなっているの?』

 

 

その時、総督府の栞から通信が入りました。

でも正直、私はそちらに気を配れません。

 

 

『こちらで確認した情報だと、新オスティアの召喚魔が消失したと言うことですけど・・・』

 

 

召喚魔が消失した?

だとすれば、勝ったのでしょうか?

 

 

ビシッ・・・!

樹霊結界に、罅が入りました。

血の気が引く音を、聞いた気がします。

そんな、もう・・・!

 

 

『調、そちらは・・・』

「出る・・・!」

『え?』

「出てしまう・・・!」

『出るって・・・何が? 調、状況が良くわからないのだけど・・・?』

 

 

私がいくら魔力を込めても、もはやどうにもなりません。

木の精霊達が、悲鳴を上げているのを感じる。

もう・・・!

 

 

「もう・・・ダメ・・・!」

『調? 貴女・・・』

「ダメぇ・・・っ」

 

 

次の瞬間、結界が弾け飛んだ。

悲鳴を上げて、私も吹き飛ばされてしまいます。

ホテルの壁に身体を打ち付けられて、床に沈む。

 

 

解き放たれた力が大きすぎて、栞との通信も途切れてしまいました。

元より、私に通信の余裕は無かったのですけど・・・。

 

 

「ぐ・・・!」

 

 

それでも床に手をついて、上体を起こします。

フェイト様直属の私が、この程度のことで・・・!

 

 

 

目の前に、スクナ様がいました。

 

 

 

けれど私でなければ、スクナ様とはわからなかったかもしれません。

結界に封じ込める前のスクナ様は、10歳くらいの男の子の容姿をしていました。

でもどう言うわけか、今は別の姿をしています。

 

 

白みがかった長い髪に、金色の瞳。

少し背も伸びて、今では私と同じくらいの身長のようです。

服装も、随分とオリエンタルな白装束で・・・?

 

 

「あ、あの・・・」

「・・・ん?」

 

 

私の声には反応を示さずに、スクナ様は明後日の方向を見つめました。

金色の瞳を猫のように細めて、どこか遠くを、それでいて近くを見ているような・・・。

 

 

「うん、わかってるぞ・・・恩人(アリア)の所に行かないと。僕(スクナ)に任せて・・・」

 

 

寄り道は良く無いな、そう言ってスクナ様は、私に背を向けました。

呼びとめようと手を伸ばした途端に、温かな光が私の身体を包みます。

・・・回復魔法?

 

 

慌てて顔を上げるとスクナ様の傍に、一瞬、何かが見えました。

それは長い髪の、半透明の女の子のような・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

えっと、<最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>同調(シンクロ)、命令権掌握。

術式『億鬼夜行』解除・・・残存召喚魔・全送還。

 

 

「こ、これで・・・良いんでしょうか?」

「うん」

 

 

少々不安ですが、フェイトさんがそう言うなら・・・。

アマテルさんの「幻想空間(ファンタズマゴリア)」から戻って来た私達は、まず召喚魔の送還を行いました。

右眼で緩やかに解析しつつ、<最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>を使います。

「幻想空間(ファンタズマゴリア)」の中で多少無茶しましたが、何とか・・・。

 

 

でも、実はフェイトさんの方が上手く使えてる感じなんですよね。

どうも、一つ下の<第二の鍵(グランドマスターキー)>の使い方を知ってるんだとか。

 

 

「・・・なぁ」

「はい?」

 

 

腰に手を当てたポーズの千草さんが、何か言いたげに私を見ていました。

千草さんは私、フェイトさん、<最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>の順番で視線を動かして。

物凄く、何か言いたげな表情を浮かべていました。

 

 

「・・・何で、2人で仲良く持っとるん? 共同作業か? 共同作業なんか!? ふざけるのも大概にせぇよ!?」

「いえ、コレは私とフェイトさんが2人で持たないと使えなくてですね?」

「そんな魔法具があるかぁっ!!」

「あるんだから、仕方が無いじゃないですか!!」

 

 

実際、どちらかが手を離すと凄く頭が痛くなるんです。

力も十全に使えませんし・・・2人で持っていないと。

私とフェイトさんの2人で、はい。

 

 

「・・・まぁ、ええわ。で? 結局『リライト』は止めへんで、親父さんらが残した術を使うって?」

「はい・・・正直、『リライト』はもう止められなくて。お父様達の術式を起動させて、『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』との連結を消して・・・世界を再構築する手段を取りたいと思います」

「・・・信用できるんか? いや、アリアはんを疑うわけやない。あの墓所の主とか言うのは・・・信じられるんか?」

 

 

・・・そこなのですよね。

アマテルさんにとっては、おそらく魔法世界が変わらずに続いても、『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』でも良いのでしょう。

救済の形に、こだわりは無いようなのです。

 

 

とは言え、『強制証文(ギアスペーパー)』や『鵬法璽(エンノモス・アエトスフラーギス)』では<王家の魔力>のオリジナル、<精霊殺し>で無効化される可能性があります。

アーティファクトも、怪しいですね。

私の魔法具なら・・・でもアマテルさんは、シンシア姉様と深い縁のある方のようですし・・・。

面倒な相手ですね。

 

 

「・・・<紅き翼(アラルブラ)>が何かの方法を持っていたのは、確かだと思うよ」

「そうなのですか・・・って、何で知ってるんです?」

「10年前、僕もその場にいた・・・いたと、思う」

 

 

多少、言いにくそうに、フェイトさんがそう言いました。

フェイトさんにしては、歯切れが悪いですね・・・。

 

 

「例え罠だとしても、『リライト』を止める手段が無い。加えて他の代案も無い・・・となれば」

「・・・それに懸けるしか無い、か。あの墓所の主の言葉をあえて信じた上で、しかも10年前のアリアはんの親父さんらのことを信じるしか」

「ジッサイ、モウジカンモネーシナ」

 

 

エヴァさんの言葉に、千草さんが頷きました。

そしてチャチャゼロさんの言うように、『リライト』発動まであと37分。

時間が、ありません。

 

 

あと30分で私が考える救済案よりは、お父様達が10年がかりで考えた救済策の方が、まだ説得力があるでしょう。

その前提は、アマテルさんが私達に嘘を吐いていないこと・・・。

 

 

カリ・・・と、親指の爪を噛みます。

本当なら、こんな博打みたいな手段は取りたくないのですが・・・。

・・・でも、そんなポンポンと世界を救う手段が思いつくはずも無いですし。

 

 

「・・・」

 

 

視界の隅に、ネギと宮崎さんが映ります。

どうもアマテルさんを疑う私達の議論を、面白く思っていないようです。

・・・と言うか、ネギからすれば私の考えは面白く無いでしょう。

私とネギ、二人が被れば済む負担を、全員に負わせようと言うのですから。

 

 

・・・でも、エヴァさん達はともかく、千草さんや親衛隊の人達も文句は言わないのですよね。

私一人が犠牲になれば終わる話なのに・・・あたっ。

 

 

コツンッ、とエヴァさんに頭を叩かれました。

 

 

「茶々丸なら、ロケットパンチだぞ」

 

 

・・・それは、痛そうですね。

 

 

「・・・わかった。ここまで来たら腹ぁ括るしかないわな、やるか!」

「他に方法も思いつかんしな」

「ヤルゼー」

 

 

千草さんとエヴァさんも、腹を決めたようです。

私も、決めました、やります。

きゅ・・・と<最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>を握る手に力を込めます。

そんな私の手に、フェイトさんの手が軽く触れます・・・。

 

 

「・・・呪ってええか?」

「若造(フェイト)だけならな」

「千草はーん♪」

「・・・月詠、うちは別に羨ましいわけやないんや」

 

 

月詠さんが何か言いたげに刀を掲げていますが、そこはスルーしましょう。

・・・と言うか、傍に立ってる黒い人は何でしょう、やけに小太郎さんが威嚇してますけど。

 

 

「言い忘れたがの」

「わひゃあっ!?」

 

 

突然、背後にアマテルさんが出現しました!

さっきまで、どこぞに消えていたのに・・・!

 

 

「何もそんなに驚かんでも良かろうに・・・愛い奴じゃの?」

 

 

く、流石に2000歳以上年上の方なだけあって、経験の差はいかんともしがたい物がありますね。

 

 

「年齢差は関係ないと思うがの・・・まぁ、良い。それよりもじゃ」

 

 

アマテルさんは、ツイ・・・と、上を指差して。

 

 

「旧世界と繋がりかけたまま『リライト』を発動すると、旧世界側にも被害が出るぞ?」

「被害って言うとどれくらいや? 具体的に言うてくれへんか?」

「さぁ、初めてのケースじゃから・・・まぁ、向こうに見える街一つくらいは、吹き飛ぶのではないか?」

 

 

どこか棘のある千草さんの言葉に、アマテルさんは気にした風も無く答えます。

と言うか、軽く言わないでください。

 

 

「・・・そもそも、何故、ゲートが繋がったの?」

「ゲート?」

「うん、麻帆良と旧オスティアは20年前まではゲートで繋がってたんだけど・・・」

「そして現在、ゲートが活性化しておる。原因はこちらではなく・・・向こう側じゃ」

 

 

フェイトさんの説明を、アマテルさんが引き継ぎます。

麻帆良・旧オスティア間のゲート。

向こう側、つまりは旧世界・麻帆良に原因が・・・?

 

 

「向こう側・・・つまり麻帆良のゲートのある世界樹の下には、魔法世界と強く結び付いておる存在がおる。それを取り除く・・・つまりこちら側に戻した上で、旧世界との繋がりを断つ。それから『リライト』に移行するのが妥当じゃろうの」

「原因を消すことはできませんか?」

「無理じゃの、何せ彼は『不滅』じゃから」

 

 

不滅?

これはまた、不可思議な表現を使いますね。

それに言ってることは妥当に聞こえるので、ますますタチが悪いのですが・・・。

 

 

「・・・で、いったい麻帆良の世界樹の下に、何があるんだ?」

 

 

いい加減、うんざりしたような声で、エヴァンジェリンさんが問います。

まぁ、実際、これ以上は何があっても驚きはしないって感じですけどね。

アマテルさんは、どこか意味深な視線をエヴァさんに向けています。

 

 

「・・・主(ぬし)にも関係のある人物じゃがな」

「あ・・・?」

 

 

麻帆良の下に、何があるのか。

アマテルさんは、淀みなく続けました。

 

 

 

「始まりの魔法使い・・・<造物主(ライフメイカー)>」

 

 

 

・・・この人を信じて、良いのでしょうか。

シンシア姉様―――――――――。

 

 

 

 

 

Side 6(セクストゥム)

 

ピクンッ、と核が震えるのを感じます。

私の後方、旧世界側からとても強い力を感じます。

・・・とても、抗い難い力です。

 

 

まるで、呼ばれているかのような・・・。

喚ばれているかのような、そんな力を感じます。

 

 

「召喚魔は、どうやら消えたようじゃの」

「・・・そうですね。送還されたようです」

 

 

そして同時に、それを打ち消そうとする力も感じます。

それは、私のすぐ傍から感じます・・・。

 

 

召喚魔は、旧世界側に到達する前に消失しました。

おそらくですが、お義姉様(じょうおうへいか)が<最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>をお姉様(にばんめ)から奪い取ったのでしょう。

だとするならば、『リライト』に関する連絡もそろそろあるはずですが。

 

 

「・・・っ」

 

 

ギシリ、と、自分の核が誰かに掴まれるような・・・不快な気分です。

私はマスター・・・デュナミス様に調整されたアーウェルンクスシリーズの6番目(セクストゥム)

デュナミス様以外の存在が、私の核に影響を与えられるはずがありません。

ですが、唯一例外がいるとするならば・・・もしや・・・。

 

 

不快感が、私の思考を阻害します。

他のお兄様達(よんばんめ・ごばんめ)は、どうなっているのでしょうか。

 

 

「・・・1000年単位で、我でも及ばぬか」

 

 

私の生み出した水面を揺らしながら、晴明とか言う人形がそう呟きました。

晴明は、一定のリズムを刻みながら水面の上を移動しています。

無数の五方星が生まれては消え、消えては生まれて行きます。

・・・どうもそれは、旧世界側から私を呼ぶ何かの力を防ごうとしている物のようです。

 

 

「正直、侮っておったわ。我よりも長く、そして我よりも深く力に目覚めている存在がよもや、地上に存在しようとは」

「・・・」

「井の中の蛙とは、今の我にこそ相応しい言葉であろうよ」

 

 

もし、私に刷り込まれている記憶が確かであれば、今、私を呼んでいる存在はこの世で最も強大な存在。

人形などに、どうにかできるような物ではありません。

 

 

「ですが一応、礼は言っておきましょう」

「何、構わんよ・・・向こう側との繋がりが消えるまでは、この結界も維持せねばならんしな」

 

 

何かに纏わりつかれるような、不快感。

虫のように鬱陶しい召喚魔の問題が片付いたかと思えば、これですか。

・・・デュナミス様。

私はいったい、どうすれば良いのでしょうか。

人形の私には、貴方様の最後の命令に従う他、ありません。

 

 

すなわち、「女王を助けろ」。

コレが、今の私の行動原理なのですから・・・。

 

 

 

 

 

Side クウネル(アルビレオ・イマ)

 

もう、10年も前の話になりますかね。

私達<紅き翼(アラルブラ)>が、まだチームとして機能していた頃の話。

魔法世界、旧オスティア・・・ゲートポート周辺で<造物主(ライフメイカー)>に戦いを挑みました。

 

 

魔法世界の崩壊を防ぐため、そして『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』を否定するため。

私達は、世界の創造主に戦いを挑みました。

まぁ、半分ほど<造物主(ライフメイカー)>の説得に費やしましたけど。

 

 

「ナギの場合、拳で説得と言うのが普通でしたけどね・・・」

 

 

それで大体が上手くいくのが、ナギのナギたる所以ですかね。

実際、大戦後の10年間の活動はナギ主導でしたし。

ナギの勢いに、引っ張られた感じですね。

・・・まぁ、アリカ様が良くコントロールしていたとも言えますが。

 

 

「ま、詠春は関西呪術協会で忙しかったですからね、アリカ様が押さえ役にならざるを得なかったわけで・・・」

 

 

けれど今、ここにいるのは私一人。

全身を、闇と混沌と虚無に包まれるかのような感覚。

絶望と呪詛が、私の身体を蝕んで行く感覚。

この10年、ずっと感じていました。

 

 

私の「本体」・・・「メルキセデクの書」を基点とする封印が張られて、10年。

麻帆良のゲートと共に「彼」が封じられて、10年。

自分が少しずつ侵されていくのを、ずっと感じていました。

彼の絶望、あのバケモノの絶望を感じていました。

 

 

「20年前、討伐できず・・・10年前にかろうじて封印したわけですが・・・」

 

 

そのために、一人の英雄を・・・私達の仲間を犠牲にする必要がありました。

同時に、今も別の仲間が犠牲になり続けています。

 

 

アリカ様は今も、「墓守人の宮殿」・・・<初代女王の墓>で私達の合図を待っています。

私達を信じて、待ち続けています。

魔法世界を再構築・・・「更新」するための合図を。

墓の封印を解く、合図を。

 

 

「・・・どうも、そろそろ、限界のようですねぇ・・・」

 

 

ギシギシと、封印が軋む音を立てているのがわかります。

魔法世界から流れ込んでくる魔力を吸って、「彼」が力を得ているのがわかります。

 

 

私の手には、一本の小さな杖。

元は、ナギの杖だった物です。

真っ二つに折れてしまいましたから、元通りには修理できませんでしたが。

・・・ネギ君に届けるまでに、生きていられると良いのですが。

 

 

「いやぁ・・・何と言えば良いのか」

 

 

しかしそれでも、私が浮かべているのは、笑み。

もう、「彼」の力に抵抗するだけでも死ぬほど辛いと言う状況で、私は笑っています。

「彼」の放つ絶望の匂いに全身を包まれながら、それでも私は愉快な気分でした。

 

 

嬉しそうに笑う、自分がいることに気付きます。

なぜなら。

 

 

「いよいよですねぇ・・・ナギ」

 

 

今度こそ、ケリをつけられると良いのですけど。

例えその結果、魔法世界の人々が「魔法」を失うことになったとしても。

 




アリア:
アリアです。
・・・どーしろってんでしょうね、コレ。
もう、何と言うか、切羽詰まってますよね。
聞いた話が全部嘘だった場合、何もできずに終わりますよ?
それにしても、お父様達はお父様達で、頑張ってらしたんですね・・・。
・・・情報が多すぎて、何が何やら・・・。



アリア:
それでは次回は、旧世界から「例のあの人」を魔法世界へ戻します。
さらにゲートを一度閉じて、『リライト』を調整、お父様達の術式を作動させます・・・って、全部やるわけじゃないですけどね。
大変ですが・・・頑張ってみようと思います。
それでは、またお会いしましょう。

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