魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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第29話「フェイト」

Side テオドラ

 

公国領との国境線と新オスティアの中間のクレーニダイと言う都市の近郊で、連合の軍と対峙しておる。

うーむ、ざっと4個艦隊と言った所か、我が軍のおよそ倍じゃな。

 

 

「だが、どうも動く気配が無いの」

「そのようですな」

 

 

妾の言葉に、『インペリアルシップ』の艦長が頷きを返してくる。

実際、連合の艦隊にも陸軍にも、これといった動きが無かった。

もちろん、我らに隙を与えもしないが・・・。

 

 

・・・隙らしい隙のない、けれん味の無い良い布陣じゃ。

数が少ない我らにとっては、嬉しく無い話じゃが。

 

 

「敵の将は、ガイウスと言ったな?」

「ええ、情報部がもたらした確かな情報です」

 

 

ガイウス・マリウス司令官、メガロメセンブリアの宿将じゃな。

まぁ、ここ最近は帝国と連合の国境紛争で良く聞く名前じゃった。

主に、帝国軍を敗退させた相手として。

アレがヴァルカン総督に就いている間は、アルギュレーからの侵攻は無理じゃと帝国軍上層部が父上に泣きついてきたこともある。

 

 

シルチス亜大陸方面は、メガロメセンブリア統治下の旧ウェスペルタティア軍が精強で、北上できんかったらしいしの。

東に行くとアリアドネーがあるし、アルギュレーもシルチスも無理、と言う有様じゃったしの。

 

 

「・・・国境は?」

「・・・すでに、こちらに優勢に戦局が傾いていると」

 

 

そう、すでに我が帝国軍は国境を越え、連合の駐屯軍と戦闘状態に入っておる。

本国の軍を動かすのは、いろいろとリスクが高いが・・・軍部はこの件に関しては協力的じゃし。

 

 

シルチス方面は、独立宣言した「パルティア連邦共和国」なる勢力の協力を得て、優位に戦闘を進めておるらしい。

連合の北の辺境、龍山地域の反乱勢力も我々に支援を求めてきておる。

そしてアルギュレーにはガイウス司令の軍がいない、空屋の状態じゃ。

 

 

「・・・まぁ、コレで負けたりしたら、うちの軍は世界最弱になってしまうわけじゃが・・・」

 

 

この後に控えておるウェスペルタティア、パルティアなどとの国境画定交渉を思えば、勝っておくに越したことは無い。

支払った代価分、目に見える形で回収せねばならぬ、本国における妾の立場的に。

すなわち、領土。

 

 

「・・・まぁ、あちらの方が凌げればの話じゃがな」

 

 

「墓守り人の宮殿」の方が失敗すれば、妾のやっていることは無意味じゃ。

さて・・・どうなるかの。

 

 

「ああ、そうじゃ、艦長、知っておるか? 王国のクルト宰相代理じゃがな、また何かやるらしいぞ・・・?」

「ほぅ、楽しみですな」

「楽しみにしてどうする・・・」

 

 

じゃが・・・まぁ、楽しみではある。

ウェスペルタティアを中心とする新国家連合の話など、な。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「手出しは、させない」

 

 

その言葉に、<造物主(ライフメイカー)>が私からフェイトさんへと視線を動かしました。

どこか、興味を引かれたような表情でした。

黒いローブの裾が、エヴァさんの身体を包むように動いています。

 

 

フェイトさん自身は、いつものポケットに片手を入れた体勢で歩いてきました。

そのまま、鼻が触れ合いそうな距離にまで近付きます。

フェイトさん、今は私と同じサイズですからね・・・。

な、何と言うか、もの凄くガン飛ばしてますね。

 

 

「・・・手出しを、させない?」

「・・・」

「面白いことを言う。私に造られた人形、それも素焼きの分際で・・・」

「・・・好きにしろと言ったのは貴方だ」

 

 

パリッ・・・と、2人の間で何かが鬩ぎ合います。

あまりの緊迫感に私がごくり、と唾を飲み込んだ、次の瞬間。

 

 

パァンッ!

 

 

乾いた音を立てて、フェイトさんの身体が砕けました。

突然の事態に、一瞬、思考が真っ白になります。

 

 

「フェ・・・!?」

 

 

思わず声を上げかけた刹那、<造物主(ライフメイカー)>の背後に、五体満足なフェイトさんが現れました。

背中を合わせるかのような体勢。

ゴトンッ・・・と音を立てて床に落ちたのは、フェイトさんの形をした・・・石像?

 

 

「・・・石像」

「そう」

 

 

短いやり取りの後、フェイトさんが<造物主(ライフメイカー)>の襟元のフードを後ろ手に掴みます。

そしてそのまま、力を込めて―――――投げました。

<造物主(ライフメイカー)>を、満身の力を込めて、投げ飛ばしたのです。

 

 

「ぬ・・・!」

 

 

あっと言う間に、数百mの距離を投げ飛ばされる<造物主(ライフメイカー)>。

いくつかの建造物を巻き込んで、見えなくなります。

 

 

・・・そう言えば私、京都でも魔法具を使ってなお、フェイトさんには勝てなかったんですよね。

つまり私より普通に強いんですよね、フェイトさん。

いわゆる、最強クラス。

エヴァさんと同位の域に、いるのですよね。

 

 

「・・・へ?」

 

 

私がそんなことを考えていると、パサッ・・・と、私の肩に見覚えのある詰襟の上着がかけられました。

それから、そっと私の目の前に手が差し伸べられて・・・。

見上げると、フェイトさんの顔が。

 

 

「・・・立てる?」

 

 

・・・か、カッコ良い・・・・・・じゃ、なくて。

自分で立とうとして、でもやっぱりフェイトさんの手に指先だけ乗せてみたりして、立ち上がります。

 

 

「えっと・・・ありがとうございます」

「うん」

 

 

・・・?

何で、こっちを見ないんでしょうって、あわわ・・・!

慌てて、貸してもらった上着の前を閉じます。

少し大きいですが、どうにかこうにか・・・。

 

 

「・・・驚いた」

 

 

その時、黒いローブの<造物主(ライフメイカー)>が何事も無かったかのように戻って来ました。

当然のように、無傷です。

まぁ、投げたぐらいでどうにかなるような相手でも無いでしょうけど。

 

 

「よもや、ただの人形が私に反逆するまでに自我を得ようとは・・・」

「・・・ここにいて」

「あ、ちょ・・・」

 

 

歩き出そうとするフェイトさんの服の裾を掴んで、止めます。

ここまで来て、それは無しですよ。

 

 

「私も、行きます」

 

 

私も、行きますよ。

相手はエヴァさんの身体を使ってるんですから、私が行かないと。

 

 

「・・・まぁ、『リライト』まで5分。2人とも、まとめて処理すれば良し」

 

 

片腕を掲げて、再び魔法陣を展開する<造物主(ライフメイカー)>。

フェイトさんは、目だけで私を見てから・・・。

 

 

「・・・そう」

 

 

いつも通り、短く答えました。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン(造物主)

 

誰でも良いとは言ったが、若造(フェイト)が来るとは思わなかった。

一瞬、<造物主(ライフメイカー)>に協力して殴りに行きかけたしな、さっきのやりとり。

と言うか、普段だったら殴る。

今は、状況が状況なので、感謝・・・はしないが黙認することにする。

 

 

それに、アレだ。

もしかしたら若造(フェイト)も、相手が私の身体とあっては全力で戦(や)れんかもしれんし。

アリアの家族だしな、うん。

 

 

・・・そう思っていた時期が、私にもあった。

 

 

「ぬ・・・!」

 

 

ズンッ! と脳にまで響いて来る鈍い音。

下を見れば、若造(フェイト)の右拳が私の腹部に突き刺さっている。

痛覚は共有していないから威力の程はわからんが、かなり重そうな一撃。

こ、この若造(フェイト)・・・!

おそらくは、全力で撃ってきているはずだ。

 

 

「『障壁突破(ト・テイコス・デイエルクサトー)・石の槍(ドリユ・ペトラス)』」

 

 

前後左右、同時に四方向の地面から石の槍が放たれる。

障壁貫通能力を付与された、物理攻撃。

<造物主(ライフメイカー)>の身体を守る多層障壁を喰い破って、届く。

だが、<造物主(ライフメイカー)>が腕を振るうだけで、それらの槍は砕けてしまう。

 

 

殴られた衝撃をそのまま利用して空中で身体を立て直し、着地と同時に前へ。

<造物主(ライフメイカー)>が攻撃に転じる。

 

 

若造(フェイト)が片手を前に出し、<造物主(ライフメイカー)>の拳の軌道を逸らす。

確か、八卦掌とか言う流派だな。

そのまま手を器用に動かし、<造物主(ライフメイカー)>の攻撃を阻み続ける。

もう一方の手で空中に石の槍を作り出し、牽制に投げてきた。

 

 

<造物主(ライフメイカー)>は半歩下がり、腕を振るってそれを消し飛ばしてしまう。

そして・・・。

 

 

「・・・魔法具」

 

 

上空から、アリアの魔力を感じた。

見上げてみれば、両腕を掲げたアリアと、無数の刀。

 

 

「『剣(ソード)』、『千刀・鍛』・・・そして、『剣群の指揮者』!」

 

 

アリアの目前で一枚のカードが弾け、左腕に装着された鈍色の武骨な鉄の腕輪が輝く。

同時に、千本の刀が頭上から降り注いでくる!

当然、<造物主(ライフメイカー)>が腕を振るうだけで全て弾かれてしまうわけだが・・・。

 

 

弾かれた刀が、まるで自分の意思でも持っているかのように動き、再び襲い掛かって来た。

おそらくは、『剣群の指揮者』とやらの効果だろう。

持ち手もいないのに、全ての刀に持ち手がいるかのごとく操られている。

空中に浮かび、縦横無尽に戦場を駆ける千の刃。

 

 

「<リライト>」

 

 

全方位に向けて、<造物主(ライフメイカー)>が<リライト>を放つ。

カシャンッ、と硝子が砕けるような音を立てて、全ての刀が砕けて消える。

しかし次の瞬間、足元が何かで斬られたかのように、白い線が無数に走った。

顔を上げれば、黒い剣を周囲に展開させた若造(フェイト)の姿。

 

 

・・・間違ってはいないし、正しい対応なのだが。

何故かアリアと若造(フェイト)を相手に本気で戦ってる気分になってしまって、鬱だ。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

釈然としない「苛立ち」。

アリアに触れる「彼」を見て、僕はそれを感じた。

何と言って表現すれば良いのだろうね、この「苛立ち」を。

 

 

以前、暦君が「勉強用」にと貸してくれた書物に、何かあったような気もするね。

アレは、何と言うべき状況だったかな・・・?

 

 

「・・・ふっ!」

 

 

ボッ・・・と右拳で空を裂くように攻撃するも、届かない。

身体を鎮めてかわした<造物主(ライフメイカー)>は、左膝で僕のガードを上げ、左の掌底を続けざまに打ち込んでくる。

<造物主(ライフメイカー)>のスキルか、それとも吸血鬼の真祖の身体が持つ技術かはわからないけど、かなりの技量だ。

 

 

僕の魔法やアリアの魔法具は<リライト>で消されるし、距離が離れると強大な火力で薙ぎ払われる。

なかなか、厳しい相手だね。

 

 

「ほっ!」

 

 

トンッ・・・と僕の肩に手を乗せて、アリアが蹴りを放つ。

それは当然、防がれる。

アリアが僕の肩から手を離して跳ぶのと同時に、僕も跳ぶ、両手を滑らかに動かして使うのは千の杭。

 

 

「『万象貫く黒杭の円環』」

「<リライト>」

 

 

無数の杭が、一瞬にして消滅する。

地属性最大の貫通力を持つ魔装兵具がこうも簡単に・・・恐ろしいな。

 

 

しかしその間に、アリアが<造物主(ライフメイカー)>の脇に身体を押し付けるような体勢で掌底を放っている。

それは一瞬、障壁で防がれてしまうけれど・・・。

 

 

「・・・『壁』を解析、解除・・・!」

 

 

バシャンッ・・・と、あっけない音を立てて、<造物主(ライフメイカー)>の障壁が砕けて消える。

無防備な肉体が晒された一瞬、その時、僕はすでに<造物主(ライフメイカー)>の懐に踏み込んでいる。

 

 

・・・ああ、そうだ。

そう言えば、こういう場合にはこう言えば良いんだったね。

思い出したよ、確か・・・。

 

 

「・・・僕の女(アリア)に」

 

 

トンッ・・・<造物主(ライフメイカー)>の左胸のあたりに拳を添えて。

 

 

「手を」

 

 

足元の床石が砕けて、一瞬で魔力と膂力の全てが拳に収束して。

 

 

「出すな・・・!」

 

 

突き出した。

障壁に守られていない<造物主(ライフメイカー)>・・・吸血鬼の真祖の身体が、吹き飛んだ。

先程とは違って、ただ投げるのではなく、最高の攻撃力を乗せた一撃で。

まぁ、身体を砕けはしないけど、ダメージは入ったんじゃないかな。

倒せはしないだろうけど、こう言うのは忍耐がいるからね。

 

 

「・・・あの・・・」

「・・・何?」

 

 

僕の横で、何故か顔を赤くしたアリアが僕を見ていた。

何かを聞きとるように、片手を耳に添えている。

 

 

「・・・『図に乗るなよ若造』、だそうです」

「・・・?」

「あ、わからないなら良いんです、はい・・・」

 

 

その後も、アリアは何かをモゴモゴと小声で喋っていた。

わからないって・・・何が?

 

 

 

 

 

Side 6(セクストゥム)

 

頭が、痛い。

<造物主(ライフメイカー)>からの呼びかけは、弱まりはしても途切れることはありません。

むしろ中途半端に防いでいるので、虫にまとわりつかれるかのような不快さが続いています。

 

 

全ての感覚が優れている私達アーウェルンクスにとっては、非常に鬱陶しい。

胸、脇、そして背中に晴明の札を張り、頭には晴明その物を乗せて、「核」を守っています。

 

 

「「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト」」

 

 

同じ始動キーを唱えて、4(クゥァルトゥム)と私が魔法を発動させます。

火と水の精霊が、互いを憎悪するかのような歌を奏でます。

 

 

「『紅蓮蜂(アペス・イグニフェラエ)』!」

「『魔法の射手(サギタ、マギカ)連弾(セリエス)氷の101矢(グラキアーリス)』」

 

 

紅い魔力の蜂を、私の氷の矢が迎え撃ちます。

一匹撃ち落とすごとに、無駄に大きな爆発が起こります。

火属性の魔法は効率性が悪い、威力の大きさばかりに捉われ、結果を重視しないのですから。

私の周囲で爆風が起こりますが、私自身にはダメージはありません。

私の多層障壁が、全てを防いで・・・。

 

 

「我のことも気にかけてくれ!」

「自分で何とかなさい」

「手を離したら落ちるのじゃ!」

 

 

耳元で晴明が声を上げます。

ですが、チクチクと脳を刺されるかのような感覚のせいで、私も細かい点までは気が回りません。

その時、爆炎の中から拳に炎を纏った4(クゥァルトゥム)が現れました。

下から突き上げるかのように放たれてくる拳を、私も拳に冷気を纏って受け止めます。

 

 

「鉄をも蒸散させる、我が灼熱の一撃を・・・!」

「そんな単純な物を蒸散させることが、そんなに自慢ですか?」

「貴・・・様!」

 

 

炎熱と冷気が鬩ぎ合い、何かが蒸発しているかのような音があたりに響きます。

周囲の人間を巻き込まないために、私と4(クゥァルトゥム)は祭壇の上空で戦闘を行っています。

まぁ、4(クゥァルトゥム)は別に誰を巻き込もうとも気にしないでしょうが。

 

 

「貴様・・・6(セクストゥム)! 主(マスター)に逆らうか!」

「私のマスターは、デュナミス様ただお一人」

「<造物主(ライフメイカー)>の使徒として造られておきながら・・・」

 

 

実の所、この台詞を言うだけでかなりの抵抗を感じますが。

しかし、私は4(クゥァルトゥム)が言う主(マスター)には会ったこともありません。

だと言うのに、私の「核」にひっきりなしに影響を与えて来る。

その傲慢さ、我慢がなりません。

 

 

デュナミス様は言いました、「女王を助けろ」と。

ならば私は、次の命令が無い限りお義姉様(じょおうへいか)に味方せねばなりません。

それがたとえ、私の生みの親に叛逆することになるとしても。

 

 

「・・・どうやら、お前は欠陥品のようだな」

「・・・かも、しれません」

「実力で、排除する」

「それは、拒否します」

 

 

ズズズ・・・と、4(クゥァルトゥム)の背後に巨大な炎の渦が発生します。

それに対応するように、私も巨大な氷壁を喚び出します。

 

 

「『炎帝召喚』!!」

「『氷帝召喚』!!」

 

 

炎と氷の化身が、周囲の空間を押し潰すかのように姿を現しました。

 

 

 

 

 

Side タカミチ

 

祭壇に上がって来た時、そこは戦場・・・と言うより惨状だった。

無数の兵士達が倒れていて、そこら中で戦いの気配がする。

 

 

上空では2体の巨大な召喚獣が激しい衝突を繰り返しているし、祭壇では雷のような塊の少年が龍宮君を中心とする兵士達と戦闘を繰り広げている。

アレは、もしかして話に聞いていたアーウェルンクスの・・・?

一瞬、加勢するかどうか悩んだけれど。

 

 

「アレは・・・明日菜君!」

 

 

祭壇の最深部に、明日菜君が磔にされているような体勢で安置されていた。

その周囲で蠢いている術式と魔力・・・まさか!?

 

 

「く・・・っ!」

 

 

ぐっ・・・と駆け出そうとした直後、僕の目の前に白い刀が5本、突き立った。

まるで僕の行く手を阻むかのように放たれたそれの持ち主は、ゆらり、と姿を現した。

白いロングの髪に、和装、そして般若の仮面。

 

 

「アリア女王陛下守護、親衛隊が副長・・・霧島 知紅(しるく)」

 

 

一瞬の内に、僕は周囲を王国兵に取り囲まれていた。

親衛隊・・・何か、また僕の知らない間によくわからない組織が追加されたらしい。

・・・ナギのファンクラブにも、似たような物があったような気もする。

 

 

だが、今は構っている暇は無い。

一刻も早く明日菜君をあそこから下ろさないと、『リライト』が・・・うん?

・・・ここにいるのはアリア君の仲間なはず、なら『リライト』を止めに来たんじゃないのか?

それが今は、まるで『リライト』を発動させようとしているかのような動きを見せている。

どういう、ことだ・・・?

 

 

「・・・今、明日菜さんを下ろすと危険なのです、高畑先生」

「・・・キミは」

 

 

スタッ・・・と、僕の前に灰銀色の狼が現れる。

その上に女の子座りで乗っているのは・・・茶々丸、君?

 

 

「あと、4分7秒で『リライト』は発動いたします」

「な・・・そんなことをすれば、世界が・・・!」

「『リライト』を止める手段は存在しません。また、今、明日菜さんを下ろせば不完全に発動した『リライト』によって人間の魔法使い市民6700万人が無防備で荒野に投げ出されることになります」

 

 

・・・それは、大変だね。

それが本当だとするなら、確かに不味い。

 

 

「だが、『リライト』が発動すれば・・・」

「それについては、一応の解決策が10年前に<紅き翼(アラルブラ)>の方から・・・」

 

 

紅き翼(アラルブラ)>・・・ナギ達から?

それは、どう言う・・・。

 

 

「・・・話が盛り上がってる所、悪いが!!」

 

 

その時、床に片手と片膝をついた体勢で、龍宮君が何かに吹き飛ばされるかのように滑り込んできた。

ザザー・・・ッと、踏み止まった龍宮君は、何と言うか・・・人間の姿をしていなかった。

こ、これは・・・と言うか、この1分で僕は何回驚いているんだろう。

 

 

「暇な奴は手伝ってくれ! 私とシャオリーだけじゃ、手が回らないんだ・・・ぐっ!」

 

 

キキュンッ、と甲高い音を立てて、雷のような少年が龍宮君に膝を叩きこんできた。

反射的に、ポケットに手を入れる。

龍宮君は空中で体勢を整えると、少し離れた位置で銃を構えた。

 

 

「・・・発動まで3分。まぁ・・・僕が全員を片付ければ良いだけのことだが」

 

 

その少年はそう呟くと、無数の雷の分身体を生み出した。

速い・・・!

 

 

 

 

 

Side 造物主(ライフメイカー)

 

・・・どう言うことだ?

いや、3(テルティウム)が私に反すること自体はそこまで驚くべきことでは無い。

そもそも、忠誠心や目的意識を組み込んでいないのだから。

 

 

「『千の魔法』№53・・・『マグネシア』!」

 

 

我が末裔の周囲に、臙脂色に色付く半透明の微細な粒子が大量に生み出された。

一見、ただの砂のようにも見えるが。

しかし微細な磁力を感じる・・・おそらく、見た目以上に重い物質なのだろう。

そしてそれらが、私の砲撃の間隙を縫うようにして私の周囲を取り囲み、激しく回転を始めた。

 

 

竜巻の中に囚われたかのような錯覚を覚える。

だが、私には通用しない。

 

 

「・・・だろうね」

 

 

頭上を見上げれば、粒子の嵐のはるか上空に、3(テルティウム)がいた。

その背後に、大量の砂を展開させて。

 

 

あ奴は「地」のアーウェルンクス。

高速高密度の砂塵攻撃など、呼吸するよりも簡単にできるだろう。

しかし、私には通用しない。

故に頭上から降り注ぐ砂塵も、意味が無い。

 

 

「<リライト>」

 

 

パンッ、と音を立てて、砂塵も粒子も消し飛ぶ。

無意味だ。

私が造った人形の技、私が造った魔法。

 

 

「『王者の終焉』・・・『黒い靴(ダークブーツ)』!」

 

 

拳をグローブに、足を黒いブーツで覆った我が末裔が、砂塵の中から飛び出してきた。

右手でグローブで覆われた拳を受け止めると、かすかに痺れるような感触を感じた。

む・・・何らかの概念が付与されているのか。

 

 

「・・・はぁっ!」

 

 

拳を止められるのも構わず、そのままの体勢で蹴りを放ってきた。

左手で、その足を掴む。

黒い魔力の炎が噴き出すそのブーツを軽く握ると、それは砕けて消えた。

後に残るのは、細い足首。

 

 

「わっ・・・」

 

 

ガクンッ、とバランスを崩しそうになって―――――しかし、そうはならない。

3(テルティウム)が手を掴み、支えたからだ。

くんっ、と器用に身体を回して、我が末裔が私の腹部に触れる。

 

 

「『壁』を解析・・・解除!」

 

 

またしても、障壁が消える。

太陽の女神(アマテル)の力では無い。

いや、そもそも・・・。

 

 

「ぬ・・・!」

 

 

顔面に衝撃。

3(テルティウム)の容赦の無い一撃が、私を襲う。

あの男・・・ナギ・スプリングフィールドよりも拙い一撃。

この女・・・吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)よりも遅い一撃。

 

 

浮き上った私の足を掴み、引き寄せるようにしてもう一撃。

拙く、遅いが・・・重い。

アーウェルンクスシリーズの中でも、最強の膂力。

 

 

だが・・・何故だ。

何故・・・3(テルティウム)の肉体に、月の女神(シンシア)の魂がある。

そうでなければ、すでに削除している。

我が末裔にしても、そうだ。

 

 

「・・・行く」

「はい!」

 

 

遠距離では勝率が低いと踏んだのか、超近距離での戦闘を仕掛けてくる。

入れ替わり立ち替わり、攻守の担当を入れ替えて。

まるで、舞のような。

 

 

・・・月の女神(シンシア)の魂を他の肉体に埋め込めるのは、私の知る限りただ一人だ。

私と月の女神(シンシア)自身を除けば、たった一人。

 

 

 

太陽の女神(アマテル)

我が、妻。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

『よーし、良いぞ! 良い感じにボコってるな!・・・・・・複雑だ』

 

 

頭の中で、エヴァさんの声がします。

それは、まぁ・・・確かに、複雑でしょうけども。

 

 

でも結構、私も色々とキツいです。

再生が早いのか、目に見える負傷とかはしていませんが、それでもエヴァさんの身体ですからね。

・・・フェイトさんは、あんまり逡巡もせずに全力で殴ってるようですけど。

 

 

「・・・せっ!」

 

 

ぐんっ、とフェイトさんと手を繋いだ体勢で、振り回される要領で蹴りを放ちます。

当然のように防がれますが・・・そこで、フェイトさんと手を離します。

両手で床に手をついて、旋風脚!

ガインッ・・・と無理矢理ガードをこじ開けます。

 

 

「あと、2分だ」

 

 

そこに、フェイトさんの拳。

先程から、この繰り返しです。

まだ10分も経っていませんが、気の遠くなるような攻防。

相手に目立ったダメージが無いのも、この際はキツいですね。

 

 

フェイトさんはどうだか知りませんが、私は魔法具やら魔法やら、全力ですから。

非常に、疲れます。

祭壇まで温存していなければ、早々に魔力切れを起こしていたでしょう。

 

 

「フェイトさん!」

「何?」

「もうちょっと・・・優しく、お願いします!」

「・・・善処しよう」

 

 

直後、ズムッ! と擬音が目に見えそうな強烈なボディーブローを叩きつけるフェイトさん。

・・・優しくって、言ったのに。

 

 

まぁ、それはそれとして遠距離では全然、勝ち目がありませんからね。

近距離でも、魔法や魔法具は決定打になりませんし。

障壁だけは『複写眼(アルファ・スティグマ)』で外せますけど。

私が外して、フェイトさんが殴る、このループですね。

 

 

「・・・解せぬ」

 

 

不意に、<造物主(ライフメイカー)>が口を開きました。

正直、倒し方がわからないボスキャラって、困ります。

 

 

ゆらり、と立ち上がり、<造物主(ライフメイカー)>が私達を見ます。

何か、理解し難い物でも見るかのような目です。

例えるなら、できるはずの算数の問題ができなくて途方に暮れている目、とでも言いましょうか。

 

 

「解せぬが・・・拾えば、良し」

 

 

<造物主(ライフメイカー)>が片手を掲げた瞬間、やたらと巨大な黒い魔法陣が<造物主(ライフメイカー)>の背後に展開されました。

幾百もの魔法陣が重なって展開される、複雑な多重魔法陣。

・・・何と言うか、公式は知らないけど答えは合ってました、みたいな展開を望んでるような。

 

 

「・・・そろそろ、終わりが見えたね・・・アリア」

「ああ・・・そんな熱い展開でしたか」

「おや、気が付かなかったのかい?」

「何しろ、少女な物で」

 

 

そう言う、男子的な空気の読み方は知りませんのでね。

それでも、こうしてフェイトさんと一緒に立っていられるのが、嬉しいですね。

思えば、最初は殺し合いから始まった仲ですけど。

 

 

「・・・次で決着(ケリ)だ」

「ええ」

 

 

正直、魔力とか限界ですから・・・持ってきた回復用の宝石とかも、使い切りましたし。

相手も最終攻撃的な物を出してきた所で、締めとしましょうか。

『リライト』までの時間も、1分を切ったでしょうか。

 

 

・・・決着(ケリ)、つけに行きましょうか。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

父さんに再会して数分ほどした時、待っててもらったはずののどかさんが、どう言うわけか飛んできました。

文字通り、飛行魔法で。

でも、のどかさんはそんな魔法を使えなかったはずなんだけど・・・。

 

 

「助かったぜ、アル」

『いえいえ、ナギも無事息災なようで何よりですよ』

 

 

アルさん・・・マスターが一緒でした。

と言うか、マスターって、本だったの・・・!?

 

 

そしてそのマスターのおかげで、父さんの怪我も治りました。

治ったと言っても、骨折から罅が入ってる・・・くらいの変化でしかないらしい。

父さんの全身の骨は、ちょっとした衝撃でまた折れちゃうんだって・・・。

・・・僕、そこまで大掛かりな治癒魔法は使えないし・・・。

 

 

「え、えーと、ネギせんせーのお父さん、ですかー・・・?」

「ん? おー、まぁ・・・な? アンタ誰だ?」

『ネギ君のガールフレンドですよ。ふふ、貴方に似て手が早いですから』

「はぁ? 誰の手が早いってんだよ」

「あ、あわわ・・・!」

 

 

・・・父さんに似てるって言われた。

ちょっと、嬉しくなりました。

 

 

「・・・っし、んじゃま、行くか! アル、お前、実体化できるか?」

『無茶言わないでください、この10年でスッカラカンですよ』

「え・・・ちょ、父さん、どこに行くんですか!?」

「あん? んなもん、お前、<造物主(ライフメイカー)>の野郎を殴りに行くに決まってんだろうが」

「そんな!? でも父さん、全身の骨が・・・それ以前に、魔力だって!」

 

 

今の父さんには、魔力も残って無い。

全身の骨だって、何とか繋いだだけで、無理をすればすぐに折れる。

それなのに・・・無茶だよ!

 

 

「・・・っせぇ! こんなもん、気合いで何となるっつーの!」

「いや、何ともならないですよ!?」

 

 

気合いで骨折が治ったら、お医者さんはいりませんよ!?

 

 

「あー、ゴチャゴチャグチャグチャうるせーな、お前は・・・感じねーか?」

「か、感じる?」

「・・・<造物主(ライフメイカー)>と今、戦(や)ってる奴ぁ・・・あー、たぶん、俺のもう一人のガキだろ?」

『おや、ナギが親のようなことを・・・まぁ、18年前もなんだかんだでアリカ様を助けてましたしね』

「うっせーぞ、アル。・・・てーか、お前も兄貴ならこんな所にいねーで、助けに行こうとか思わねーのか、んー?」

「わわっ・・・」

 

 

グシャグシャと、頭を撫でられる。

・・・アリアを、助けに? 僕が?

 

 

「・・・僕が、行っても・・・」

「あ? んだよ、喧嘩でもしてんのか? んなもん、お前、後でいくらでもできんだろー?」

「その・・・僕が行っても、アリアも嬉しく無いと思いますし・・・」

「ああ?」

「あの、僕とアリアは仲が悪いって言うか、お互いにせ「うっぜええぇぇっ!!」んそうめらっ!?」

 

 

・・・ま、また殴られた・・・。

今度は、拳骨でした。

 

 

「ああ、もう良い、わかった! お前は来なくて良い! ここにいやがれ!」

 

 

そう言って、父さんは僕に背を向けて歩き出した。

マスター(本)を掴んで、ズンズン歩いて行きます。

と言うか今ので、腕の骨折れて無いんですか・・・?

 

 

「・・・まぁ、アレだ。今までほったらかしにしてた俺が何言ってもアレだけどよ・・・」

 

 

不意に立ち止まって、父さんが言った。

 

 

「と・・・父さん?」

「男ってのはなぁ、大事なもんがピンチになってたら、とりあえずピンチの原因を殴りに行かねぇといけねぇんだよ」

「・・・は、はぁ・・・」

「はぁ・・・じゃ、ねぇよ! 惚れた女! 子供! 仲間にダチ! あと・・・まぁ、色々! 自分の大事なもんを、自分のやり方で守る! それができて初めて男は、自分は男だって胸張れるんだよ」

『ははは、ナギが父親のような・・・ああ、やめてよしてページを破らないで・・・』

 

 

大事な・・・物を。

自分の・・・やり方で。

でも、僕は・・・何が大事で、どんなやり方ができるのか、わからない。

わからないんです、父さん。

 

 

「俺は行くぜ、あの野郎にゃ、10年じゃ言い足りねぇことが山ほどあんだ。あと多分、ここで行かねーとアリカに殺されるしな」

 

 

父さんは・・・僕のイメージとは少し、違ったけど。

とても、まっすぐな所は・・・イメージと、一緒でした。

 

 

「今、お前は他人に胸張って、『自分は男だ、文句あるかゴルァ!?』って言えんのか? ネギ、男の判断はいつだって、そこから始まるんだぜ?」

 

 

そう言って、父さんは笑った。

笑って・・・行ってしまった。

 

 

僕は・・・誰かに。

胸を、張れるんだろうか・・・・・・?

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

新オスティアへの召喚魔の襲撃は、とりあえず終わったわ。

後は、アリア達が無事に帰って来るのを祈るだけ・・・。

 

 

「環さんは、大丈夫?」

「ああ、命に別状は無いそうだ。今は暦がついてる」

「良かった・・・」

 

 

焔の言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。

クゥァルトゥムにやられた環さんは、たまたま一緒になったアリアドネーの人達が助けてくれたんですって。

シャークティー先生達とも途中で合流できて、栞さんの誘導で宰相府の施設までやって来れたの。

おかげで、今は一息つけてる。

 

 

「やー・・・生き残れたねー、委員長、ビーさん」

「そうですわね・・・サヨさんやフォン・カッツェさん達も無事だと良いのですが」

「私達の無事は、クママさんとトサカさんのおかげです。本当にありがとうございます」

「あん? 別に俺はお前らみてーな小便臭ぇガキなんざなぁ・・・」

「何だいトサカ、照れてんのかい?」

「はぁ!?」

 

 

アリアドネーの人達も、道中かなりキツかったらしくて、今はヘタりこんでるわ。

あの、クママさんって人は今日も凄かったらしいけど。

 

 

「うおーいシオン、これはどこにやれば良いんだ!?」

「それはあっち、それからあっちの物をこっち、そして向こうの物をこっちよ」

「もう少し簡潔に言ってくれよ!?」

 

 

そしてロバートは水やら食糧やらを持ち出せるだけ持ち出して指示で積み上げて、シオンはそれを端末片手にサポートしてる。

まぁ、ここまでは良いわ。

問題は・・・。

 

 

「か、春日さん・・・その、何と言えば良いのか」

「あわわ・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

問題は、春日さん。

隅の方で座り込んで俯いたまま、何も言わない。

高音さんも佐倉さんも、困り果ててるみたい。

シャークティー先生も、今は春日さんに何かをしろとは、言わない。

 

 

・・・実際、かける言葉が無いわ。

私も、私達も・・・すぐ傍にいたのに、助けられなかった。

 

 

「・・・別に、彼女だけじゃない」

 

 

焔が、呟くようにそう言った。

実際、春日さんと同じような境遇の人が、今日、たくさん生まれた・・・。

 

 

「・・・やってられないわね」

 

 

私の言葉に、焔は何も言わなかった。

 

 

ふと、旧オスティアの方を見る。

ここからじゃ、「墓守り人の宮殿」は見えない。

でも旧オスティアの方から漏れてくる魔力の光が、空を覆ってるのは見える・・・。

 

 

「・・・無事に、帰って来なさいよ」

 

 

誰が、とは言わなかった。

皆に帰ってきて欲しいって・・・そう、思ったから。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

正直、<造物主(ライフメイカー)>の魔力量が凄すぎて半端無いです。

目の前の多重魔法陣に込められている魔力は、そうですね・・・私やネギの魔力を足したうえで10倍しても届かないのではないでしょうか。

 

 

「・・・じゃ、まぁ、そんな感じで」

「うん」

 

 

フェイトさんとアイコンタクト込みの5秒会議をして、役割を決めます。

まぁ、これまでと一緒ですが。

ただ・・・。

 

 

「・・・何ですか?」

「何がだい?」

「いえ・・・笑っているようなので」

「・・・僕は、笑っているかい?」

 

 

私が頷くと、フェイトさんは少しだけ戸惑ったように、自分の頬に片手を当てます。

それでもなお、口元に浮かぶ小さな笑みは消えません。

 

 

「・・・笑っているように、見えます」

「・・・『楽しい』、からかな」

「戦いがですか? フェイトさんも男の子ですねー」

「それも、あるのかもしれないね」

 

 

私を見ながら、そんなことを言うフェイトさん。

それも・・・ね。

 

 

「・・・こんなこと以外にも、楽しいことは一杯、ありますよ」

「そうだね・・・コーヒーとか」

「苺とか」

 

 

・・・コーヒーと苺って、合いますかね?

今度、茶々丸さんに聞いてみましょう。

 

 

「・・・楽しいことを、たくさんしようか」

「ええ・・・一緒に」

 

 

ぐ・・・と、身体に力を込めます。

両眼の魔眼を起動させる段になって、<造物主(ライフメイカー)>も動きを再開します。

まさかとは思いますが、こちらの会話が終わるのを待っていたわけでも無いでしょう。

向こうも、何かを考えていたのでしょうよ。

 

 

「・・・ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト! 契約により我に従え奈落の王!!」

 

 

隣で、フェイトさんが魔法の詠唱に入ります。

あえて、大きな声と大きなモーションで・・・その間に、私は2つの魔法具を使います。

所有する刀剣を操る『剣群の指揮者』と、切れない糸を紡ぐ『ラッツェルの糸』。

それらを使用しつつ、『速(スピード)』を伴った瞬動で前へ。

 

 

「地割り来れ、千丈舐めつくす灼熱の奔流!!」

 

 

キュンッ・・・と黒い魔力が収束する多重魔法陣の中心を、両手で触れます。

発射直前、5秒前!

収束する魔力を『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』で強制吸収、同時に『複写眼(アルファ・スティグマ)』で<造物主(ライフメイカー)>の多重魔法陣へ強制介入。

 

 

「・・・無駄だ、我が末裔よ」

「・・・・・・!」

 

 

無駄は、承知!

・・・支援魔導機械(デバイス)、起動・・・計算補助!

 

 

『Append』

 

 

左耳に聞こえるのは、ミク・・・では無く、ルカの声、いつの間に入れ替わったのやら。

Appendモードに入り、高速で演算に入ります。

元々は、悪魔の永久石化解除の補助のために作られた機能ですが。

 

 

「滾れ! 迸れ! 嚇灼たる亡びの地神!!」

 

 

フェイトさんの詠唱を背に、私は激しく両腕を動かしています。

<造物主(ライフメイカー)>の魔法陣に込められた魔力の奔流で指先が多少切れますが、問題ありません。

・・・『時(タイム)』!

 

 

「・・・何?」

 

 

やはり、<造物主(ライフメイカー)>には『時(タイム)』の効果が無いですね!

でも、魔法陣は別・・・さぁ、数学の時間ですよ・・・!

 

 

・・・多重魔法陣構成術式を別個に再組織、仮称A1~Z23までの中小魔法陣の連結を阻害及び変更、並びに解除・・・無理! ならば軌道変更、直線軸状を180度として仰角変更作業を開始、魔力収束速度20~30、連結解除・・・失敗! それなら連結続行の上で再計算、予測される13のポイントの数値を改竄、各変数に対してランダムに数値変更し・・・・・・う、ぬ、ぬぬぬぬぬぬううううぅぅぅっっ!!

 

 

「外れ・・・ろぉっ!!」

 

 

私の叫びと共に、3秒間の時間停止が終わります。

同時に、<造物主(ライフメイカー)>の多重魔法陣から膨大な魔力が放たれます。

 

 

頭上に向けて。

 

 

成功・・・と言っても、『複写眼(アルファ・スティグマ)』をもってしても解除できないと言う、デタラメな魔法でしたが。

照準を誤魔化すので、限界でした・・・所要時間も数秒が限界でしたし。

 

 

「きゃ・・・ぁぁああああっ!?」

 

 

おまけに、至近距離で砲撃の余波を受けた私は、吹っ飛ばされましたし。

ドッ・・・と地面に身体を打ち付けながら、それでも私は何とか体勢を整えようとします。

 

 

「『引き裂く大地』!!」

 

 

入れ替わるように、フェイトさんが地属性の最上級呪文を発動させます。

しかしそれだけでは、<造物主(ライフメイカー)>の<リライト>には対抗できません。

でも・・・!

 

 

ガンッ・・・と『力(パワー)』の込められた腕で、地面を叩きます。

跳ね上がる私の身体。

その左手には・・・王家の剣が添えられています。

なぜ、<造物主(ライフメイカー)>に弾かれたはずの剣がここにあるのか?

 

 

『剣群の指揮者』は、私が所有する剣、全てが操作の対象になります。

千本の刀を操作した際、当然、この剣も操作の対象でした。

そしてその剣を囲むように展開するのは、『ラッツェルの糸』が生み出す無限の糸。

キリリ・・・と弓の弦のように張ったそれに、王家の剣が矢のようにセットされています。

 

 

「<造物主(ライフメイカー)>は・・・この剣だけは、弾きました」

 

 

全ての攻撃を<リライト>で防ぐ<造物主(ライフメイカー)>が、この剣だけは打ち消さずに弾きました。

つまり・・・もしかしたなら。

 

 

「いっ・・・けええええぇぇぇぇぇ―――――――――――――――――っっ!!」

 

 

ビュンッ・・・と放たれる剣。

直後、凄まじい衝撃が、場を包み込みました。

ブツッ・・・と、両眼の視界が同時に失われました。

うわ・・・ここに来て、ガス欠のようです・・・!

 

 

『・・・若造(フェイト)にしては、良くやった方だな・・・!』

 

 

同時に、エヴァさんの声が響きます。

・・・結局、自分じゃできなかったな・・・。

 

 

アリアは、ダメな子ですね。

シンシア姉様――――――――。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

「『引き裂く大地』!!」

 

 

溶岩と化した大地を支配下において、僕は<造物主(ライフメイカー)>に攻撃を仕掛ける。

迷いは無い。

好きなように、するさ。

 

 

<造物主(ライフメイカー)>の腕が動く。

<リライト>の体勢・・・魔法が消され・・・その刹那。

一本の剣が僕の頬を掠めるようにして飛来した。

それは、コンッ・・・と音を立てて<造物主(ライフメイカー)>の・・・吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)の身体の心臓の位置に当たった。

 

 

「女神(シンシア)の・・・!」

 

 

障壁に阻まれて、落ちかける剣に。

その柄頭に・・・拳を打ち付ける。

 

 

「な・・・」

 

 

・・・魔法剣士スタイルの人間の基本魔法、『術式装填』。

サウザンドマスターも、自分の杖に魔法を込めて槍にしたりしていたね。

効果は・・・魔法を武器に込めること。

そしてこの剣は、随分と魔力の伝導率が良いようだね。

 

 

『引き裂く大地』をアリアの剣に乗せて、放つ。

灼熱の剣が、障壁に罅を入れる。

 

 

「にいいいいいいいいいぃぃぃっっ!?」

 

 

柄頭に拳を当てた体勢のまま、僕と<造物主(ライフメイカー)>の身体は移動する。

直線的に、廃墟の建物をいくつも倒しつつ、進む。

僕と<造物主(ライフメイカー)>の間で、罅割れた障壁とアリアの剣の切っ先が鬩ぎ合う。

 

 

3(テルティウム)・・・アーウェルンクスシリーズの中で唯一、私に対する叛逆を選択できるアーウェルンクス・・・!」

「・・・」

「私を倒すか、人形・・・!!」

「違う」

 

 

障壁突破(ト・テイコス・デイエルクサトー)石の槍(ドリユ・ペトラス)』。

<造物主(ライフメイカー)>の背後の土が盛り上がり、障壁貫通力を持つ槍になる。

そしてそれに、<造物主(ライフメイカー)>の身体が衝突する。

 

 

「ぬ、ぉ・・・!?」

 

 

ブチッ・・・と、衝撃の強さに僕の身体が悲鳴を上げる。

アリアの剣の柄頭に触れている手から白い体液が噴き出す。

その拍子に剣が僕の手から離れて、障壁を、そして<造物主(ライフメイカー)>を・・・。

 

 

「おおおおぉぉおおぉおおぉおぉおおぉおっっ!?」

 

 

貫いた。

心臓の位置を黒いローブごと貫かれて、建物の壁に縫い付けられた。

かなり深く刺さったらしく・・・剣の柄に手を触れるが、抜けずにいる。

・・・まぁ、これだけやっても倒せないと言うのは、規格外だと思うけどね。

 

 

不死の身体に、不滅の魂・・・か。

バグだね。

 

 

「僕は・・・フェイト(にんげん)だ」

 

 

そう呟くように言った、次の瞬間。

「墓守り人の宮殿」の方角から、巨大な魔力が発生するのを感じた。

 

 

・・・『リライト』が、発動する。

 

 

認識するのと同時に、僕は水を使った転移(ゲート)を使う。

最初に転移する先は、アリアの所。

アリアは、どこかぼんやりした様子で、ヘタりこんでいた。

 

 

両眼は、閉ざされている。

頬には、血を拭ったような後がある。

もちろん、それが彼女の魅力を阻害する原因にはなりはしないけれど・・・。

見えないはずの眼で、それでも僕を見つけると、アリアは力の無い笑みを浮かべてくれた。

 

 

「・・・立てる?」

「あはは・・・2回目ですが、今度は無りゃひゃっ!?」

 

 

時間が無いので、両手で抱き上げる。

背中に回した手から流れる体液で服や肌を汚してしまうけれど、そこは許してもらうしかない。

そして再び、転移する。

 

 

今度は、祭壇へ。

最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>の、目の前へ。

 

 

「・・・わかる?」

「あ、はい・・・何となく・・・ひゃ!?」

 

 

覚束ない手の動きに、僕はアリアの身体を後ろから抱きすくめるように体勢を変えた。

そして片手をアリアの手に重ねて、一緒に<最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>に触れられるようにする。

 

 

「・・・行くよ」

「ど、どんと来いです!」

 

 

激しい輝きを放つ<最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>に、2人で手を伸ばす。

 

 

3(テルティウム)!? ・・・させん!」

 

 

祭壇にいた5(クゥィントゥム)が僕達に気付いたのか、雷化して迫って来る。

 

 

「行かせないさ・・・!」

 

 

龍宮真名が銃を撃つ。

雨あられと放たれる銃弾を回避しながら、5(クゥィントゥム)が迫る。

しかし、それよりも早く。

 

 

「・・・魔法世界の」

「そして、私達の仲間達の生存を懸けて・・・」

 

 

僕達の手が、鍵に触れる。

 

 

「「『世界再編魔法(リライト)』!!」」

 

 

瞬間、<最後の鍵(グレートグランドマスターキー)>から猛烈な勢いで魔力と閃光が迸り、全てを塗り替えて行く――――――――――・・・・・・。

 

 

 

 

 

    ―――――待ったよ、この時を―――――

 

 

 

 

 

その時、脳裏に、誰かの声が響いた気がした――――――。

 




エヴァンジェリン:
エヴァンジェリンだ、若造め・・・後で覚えていろよ・・・。
・・・まぁ、それはさておき。
今回は、6割方が<造物主>戦だったな。
つまりそれだけ、私の身体が若造に良いようにされていたわけだ。
・・・人が喋れないのを良いことに、あの若造は随分と好き勝手していたようだが。


ちなみに、今回初登場の魔法具と魔法は以下の通りだ。
ここに上げている物以外は以前に出したことがあるので、公開している資料と情報を参照してくれ。

・剣群の指揮者 (オリジナル)、司書様提案だ。
・マグネシア(灼眼のシャナ)、司書様、ギャラリー様提案だ。
礼を言う、ありがとう。


エヴァンジェリン:
さて、次回だが・・・戦いが終わる。
かなり長い間、戦っていたような気もするが・・・やはり終わりはある物だ。
次回、何やらまた作者が「書きたいシーン」がどうのと言っていたぞ。
では、またな。

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