魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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そして、コレが第3部プロローグ!
細かい点はまだ流動的ですが、大まかな方針は立てていますので、何とか続けて行きたいと思います。

拙い点も多々あるかと思いますが、どうか皆様、よろしくお付き合いの程、お願い申しあげます。


第3部プロローグ「女王の騎士」

Side エヴァンジェリン

 

・・・この男と出会ってから、5年。

いや、それ以上の時間が経っているのか?

普通、それだけ長く付き合えばどこかに好意的に見れる場所が見つかる物だが。

 

 

「まぁ所詮、嫌な奴はどこまで行っても嫌な奴と言うわけだな」

「出会い頭に何を失礼なことを言っているのですか、この合法ロリが」

 

 

こめかみに青筋を浮かべて私を見ているのは、「あの」クルト・ゲーデルだ。

場所は総督府、王国宰相の執務室。

私はそこで、ゲーデルが嫌な奴だと言うことを再確認していた。

 

 

・・・と言うのは、まぁ、冗談だ。

私は持ってきていた書類の束を、ゲーデルに手渡した。

 

 

「麻帆良からの技術提供とセリオナ達の頑張りのおかげで、魔導技術は飛躍的に進歩している。個人的な感想を言わせてもらえば、もういつ実用化しても構わないだろう」

「・・・すでに市場に普及している試験品は?」

「今の所、不具合の報告は2件。どちらも輸送時のトラブルだから、技術的には問題ない」

 

 

私はこの5年間、主に魔導技術・・・かつての魔法に代わる技術の開発に従事していた。

とは言え、実際には麻帆良のハカセの持つ未来技術を魔法世界で利用できるように改良しただけだが。

大体、私自身はハイテクはわからんし・・・。

まぁ、その改良の過程には血反吐を吐く程の頑張りがあったわけだが。

 

 

ゼロから技術開発を行っている他国に比べれば、私達の技術はまさに100年先を行っている。

書類に軽く目を通したゲーデルは、どこか満足気に頷いて、私を見た。

・・・相変わらず、笑顔が胡散臭い男だな。

 

 

「御苦労でした、マクダウェル工部尚書。科学技術局の尽力に感謝します」

「・・・別にお前のためじゃない。だが、局の連中には休暇とボーナスでも出してやってくれ」

「ええ、そうしましょう・・・ですが」

「わかってる。市場に流すのは廉価品だけだ、最先端の技術は公開しないで・・・」

 

 

わああぁぁ・・・!

 

 

その時、執務室の映像装置(テレビ)から歓声が聞こえてきた。

空中に浮かぶ映像には、先の戦いで死んだ連中を弔う合同慰霊祭の様子が映し出されている。

確か、今年で5回目・・・毎年、10月12日にやることになっている。

つまり、今日だ。

 

 

「確か、慰霊碑も完成したんだったか・・・」

「ええ、アリア様が取り組まれた最初の事業の一つでしたから」

 

 

結構な数の人間が、逝ったからな。

そう思った時、画面に私の家族・・・そして私達の女王でもある少女が映った。

馬車に乗り、民衆に嬉しそうな顔で手を振っている。

 

 

腰まで伸びた白髪に、左右で色の違う瞳。

慰霊祭用の黒いドレスによって、透き通るような白い肌がさらに強調されている。

5年前に比べて身長も伸び、顔立ちも大人びたが・・・どこかまだ幼さを残しているようにも見える。

聞く所によれば、最近ますます実母(アリカ)に似てきたと言うが、な・・・。

 

 

「・・・さて、アリア様が市街地を回り終える前に、我々も慰霊祭会場に向かいましょう」

 

 

ふとゲーデルに視線を戻すと、奴はそんなことを言って席を立った。

いつも通りの澄ました表情だが、実の所、何を考えているやら・・・。

だが実際、アリアが市街地を回っている間に会場にいないと不味いしな。

さて、では・・・。

 

 

わああぁ―――・・・!

 

 

「・・・ん?」

 

 

映像装置(テレビ)から聞こえる歓声が、どこか調子を変えた気がした。

もう一度、画面に視線を戻すと・・・。

 

 

「・・・なっ!?」

 

 

画面の向こうが、白い煙に覆われていた。

あんな演出があるとは、聞いていない。

だとすれば・・・。

 

 

――――――――テロか!

 

 

 

 

 

Side アリア

 

この国の女王の座について、5年。

5年と言うのは、結構長い時間だとは思いますが・・・実の所、あっという間でしたね。

 

 

10畳分くらいの書類の柱(山じゃないです、柱です)に囲まれてみたり、毎日何かしかの会議してみたり、国から国を飛び回って色々な国の首脳からお世辞を言われてみたり、旧オスティアの復興事業を進めてみたり、国内を視察してみたり、夜中に隠れて仕事を処理してみたり・・・。

・・・思い出せば、この5年間、仕事ばっかりしてた気がします。

新田先生、元気ですかねー・・・。

 

 

「新田先生がいない今、私を止められる人間はいませんよ・・・」

「・・・? 何か申されましたか、女王陛下?」

「何でもありません。そのまま馬を御していてください」

「は、はいっ!!」

 

 

私の言葉に過剰に反応して、御者の兵士が慌てて前を向きました。

・・・この御者の方は、近衛に入隊したての人でしたかね。

5年前の戦いからこっち、一般兵の私を見る目が、同じ人間を見る目ではないのですよね・・・。

・・・去年、クルトおじ様が5年前の「宮殿の戦い」を映画化してから、さらに拍車がかかったような気がします。

 

 

2頭立ての馬車の上から、道の端に集まっている人々を見ます。

兵士の方々の作る規制線の向こう側の一般市民の方々に手を振ると、歓声が上がります。

・・・公式行事の際には人間扱いされない、そんな私。

 

 

「・・・まぁ、今日は・・・特別な日ですしね」

 

 

オスティア合同慰霊祭。

端的に言えば、5年前の戦いで命を落とした方々を追悼する催しです。

今年になってようやく慰霊碑も完成しましたので、形式も整ったことになります。

・・・私の判断のために死んだ方々を、弔うことができます。

 

 

その時、ふと左手の薬指が・・・正確には、薬指に嵌められた指輪が目に入ります。

オープンセッティング・タイプの指輪で、白く煌めくダイヤのような宝石が6本の立て爪で支えられています。

それを視界に収めると、私は少し口元に笑みを浮かべて・・・。

 

 

「・・・じ、女王陛下!」

「え・・・」

 

 

御者の方の声に、顔を上げます。

次の瞬間、民衆の人だかりの中から、物凄い勢いで白い煙が噴き出し始めました。

馬車の馬が驚いて、ガタンッ、と音を立てて馬車が止まります。

瞬く間に、周囲が白い煙で覆われます。

 

 

『複写眼(アルファ・スティグマ)』。

反射的に右眼の魔眼を起動し、周囲を・・・。

 

 

「・・・魔力の、煙・・・?」

「じ、女王陛下、すぐに避難を・・・!」

「落ち着いてください。まずは市民の安全を・・・っ」

 

 

その時、ボフンッ・・・と視界内の一部の煙が弾けました。

身を乗り出し、御者の兵を突き飛ばします。

その分だけ、私自身を守るための行動が遅れます。

 

 

「・・・っ!」

 

 

息を飲みます。

目の前に、剣の切っ先。

速い、瞬動・・・相手の姿は捉えられませんが、銀色の刃だけは見えています。

正直、かわせません・・・が。

 

 

心配は、していません。

何故なら。

 

 

ガキャンッ!

 

 

激しい金属音と同時に、私に触れかけた剣が細切れにされました。

銀の刃に代わって私の視界に入るのは、独特な形をした黒い剣。

 

 

「・・・彼女に、触れるな・・・」

 

 

とんっ、と御者台に降り立ち、私の前に立つのは、白い髪の少年。

黒の礼服に黒の剣を持つのは、この5年で身長も伸び、最近ますます私を困らせる人。

 

 

「・・・フェイト!」

 

 

私の騎士(ナイト)が、そこにいました。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

視界を、白い魔力の煙・・・いや、霧かな、これは。

白い霧が馬車の周辺5mを除いて、全てを覆ってしまっている。

周辺には1000名からなる近衛と親衛隊が配置されているはずなのに、未だ馬車の傍に来ない。

つまり、この短距離でも相手の意識を撹乱・誤認させられる魔力の霧。

 

 

この5年、久しく見覚えのない現象だね。

まるで、「魔法」のような。

 

 

「・・・白い髪に、黒い剣・・・」

「ふん・・・」

 

 

アリアの命を狙ったらしい暗殺者は、妙にこの場にあった格好をしていた。

黒いネクタイの、黒い礼服。

まぁ、合同慰霊祭だしね・・・。

黒髪黒目の、東洋系の男。年齢は18くらい・・・かな。

 

 

「<女王の騎士(クイーンズ・ナイト)>・・・!」

「・・・キミ、誰だい?」

 

 

僕がさっき砕いた剣は、いたって普通の剣だった。

魔法は使えなくなったけど、魔装兵具『千刃黒曜剣』は使用可能だからね。

コレはアーウェルンクスシリーズ固有の武装でね、魔法とは違う。

 

 

でもこの霧は、ちょっと見たことが無いね。

だが、魔法は使えない。

となると、吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)の部署が作っているような道具かな。

だが、アレはまだ実用化されていないはずだ。

他の国や組織が開発に成功したと言う話も聞かない。

 

 

「・・・私は、先の戦いでの戦没者を悼む者の一人だ、とだけ言っておこう」

「ふん、そう・・・まぁ、どうでも良いよ」

 

 

魔装兵具『千刃黒曜剣』を10本ほど生みだし、切っ先を全て目の前の男に向ける。

実際、この男が何を考えてアリアを狙ったかは興味がない。

重要なのは、この男が僕のアリアに触れようとしたこと。

・・・消えて良いよ。

 

 

「・・・女王直属の騎士がいるとなれば、勝ち目は薄い、退かせてもらおう」

 

 

男が手を振ると、ボンッ・・・と霧が舞い上がり、男の姿を隠す。

その刹那、僕は剣を撃ち込む。

けれど・・・。

 

 

「・・・・・・逃げられた」

 

 

手応えが無い、逃げられたらしい。

・・・生け捕りにして情報を得ようとした分、狙いが甘くなったかな。

後ろを見ると、礼装に身を包んだアリアが、柔らかな表情で僕を見ていた。

この5年で、以前よりもずっと女性らしくなったアリアが。

 

 

「・・・ごめん、逃げられた」

「いえ・・・守ってくれてありがとう、フェイト」

 

 

別に、お礼を言われることじゃない。

この5年、ずっと守って来たのだから。

 

 

「・・・キミも、もう少し頑張って」

「は、は、はいっ!!」

 

 

アリアに突き飛ばされた御者台の兵にそう言うと、ガチガチに固まりながら敬礼してきた。

まぁ、今のは一般兵には厳しい状況だったろうけどね。

 

 

「・・・それにしても、今のはいったい、誰だったのでしょう・・・?」

「さぁ・・・」

 

 

霧が晴れて、アリアが馬車の座席に立って大きく手を振ると、混乱していたらしい民衆や兵士も落ち着きを取り戻した。

その姿を視界に収めながら・・・僕は、さっきの男のことを考えていた。

 

 

5年前の戦い以来、アリアの下には色々な暗殺者が来たけれど、逃がしたのは初めてだね。

・・・面倒なことに、ならなければ良いけれど。

 




エヴァンジェリン:
ふん、エヴァンジェリンだ。
私や茶々丸は5年前から容姿も何も変わっていないからな、イメージしやすいだろうさ。
ふふん、だがアリアは違うぞ?
流石は私の家族と言うだけあって、と言うか茶々丸が死ぬほど気を遣った結果、問題なく美幼女から美少女になりつつあり、そしておそらくは美女になるだろう。
・・・つまり外見的に、私の方がすでに年下・・・並んで歩くともう、もう・・・。


エヴァンジェリン:
さて、次回は一種の顔見せだ。
魔法世界、旧世界の諸勢力の今を見せる予定だ。
理由として、合同慰霊祭の一週間後に、各国の首脳がオスティアに集まる行事があるからだ。
具体的には・・・現実世界で言う所の、サミット。
次回は合同慰霊祭の続きから始まるから、つまりは準備編、だな。
では、また会おう。

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