魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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第3部第3話「Ⅰ」

Side アリア

 

「・・・ずっと、貴女のことが好きでした」

「・・・・・・え?」

 

 

その時の私の顔は、たぶん、そんな言葉を受けるような顔では無くて。

半笑いのような、あまり綺麗な表情は浮かべていなかったとは思います。

 

 

「・・・あ、えっと! 昔のことだし、そんな本気で受け取ってくれなくても、冗談みたいなノリで受け取ってくれれば・・・」

「・・・冗談、なのですか?」

「え、いや、それはもちろん本気って言うか、うん、まぁ・・・本気、だった」

 

 

一瞬ワタワタした後、元のように寂しそうな顔をするミッチェル。

好き「でした」、本気「だった」。

・・・物の見事に、過去形なのが気になりますが。

 

 

「・・・でも、本当・・・昔のことだから」

「いえ、言われた私としてはそれで済ませられないんですけど・・・」

「あ・・・そ、そうだよね・・・ごめん・・・」

 

 

・・・この空気、どうすれば良いのでしょうか。

えっと・・・と、とりあえず・・・。

 

 

「ご・・・ごめんなさい?」

「え、5年越しにフラれたの、僕・・・婚約してるんだから、それはそうなんだろうけど・・・」

「え、あっ・・・ご、ごめんなさい、こう言う経験があまり無くて・・・」

 

 

えっと、ほ、本当にどうすれば・・・?

と言うか、ミッチェルが私を・・・?

しかも、5年越しと言うことは、え、メルディアナ時代からずっと・・・?

だとすれば、私、ミッチェルに酷いことを・・・。

 

 

でも、ミッチェルの気持ちを受け入れられるかと言えば、それは。

それは・・・無理です。

いろいろな理由で・・・いえ、それ以前に、私にとってミッチェルは大切な友人です。

大切な・・・お友達で。

 

 

「本当に、その、気にしないで良いよ・・・昔のことだから」

「でも・・・」

「まぁ、だったら言うなよって話なんだけどね!」

 

 

あははーと、急に明るくなるミッチェル。

それから、やっぱり寂しそうな顔になって。

 

 

「婚約おめでとう、アリアさんが幸せなら、僕も嬉しい」

「ミッチェル」

「じ、じゃあね!」

「あ・・・」

 

 

ミッチェルはそのまま、舞踏会場に小走りに戻って行きました。

後には、少しだけ手を伸ばしかけた、私だけ。

・・・ミッチェル。

 

 

「・・・はぁ・・・」

 

 

溜息を吐いて、空を見上げます。

満天の星空を見上げながら・・・いろいろと、昔のことを考えます。

・・・そう言う目で見れば、いろいろと思い当たる節と言うのは、あるものですね。

 

 

それに気付いてあげれなかった自分が、バカみたい。

そして、気付けても受け入れなかっただろう自分が、嫌になります。

けど、もしかしたら何か、もっと・・・もっと、別の形で。

 

 

「アリア」

 

 

・・・その、声に。

心臓が掴まれたかのような、そんな錯覚を覚えます。

実際には、そんなことはあり得ないのに。

何故か、逃げ出したい気分になります。

 

 

「身体、冷えるよ」

 

 

ふわり、と肩にかけられる白い上着を、両手でそっと掴みます。

顔を上げれば、そこには・・・いつも通りの無表情を浮かべた、フェイトがいます。

特に、変化は無いようです、が・・・。

 

 

「そろそろ、中に戻った方が良い」

「・・・ええ」

 

 

・・・聞かれた?

いえ、聞かれたから何だって言うのですか。

別に不義を働いたわけではありませんし、後ろ暗いわけでもありません。

けど・・・どうして。

 

 

「・・・あの」

「何?」

「・・・いえ・・・」

 

 

聞いていたとしたらどうして、何も言わないのでしょう。

何も、言ってくれないのでしょう・・・?

いえ、何か言われたいのでしょうか、私は。

何を?

 

 

見ていたのなら、どうして。

どうして、何も・・・?

フェイトは、いつも。

 

 

「・・・優しい・・・」

 

 

何も言わず、当然のような顔をして、私の傍にいてくれます。

責めることも求めることも無く、ただ傍に・・・。

嬉しくて、有難くて・・・幸せなこと、だけど・・・。

 

 

・・・それが一番、辛いのに。

 

 

 

 

 

Side シャオリー

 

クゥァルトゥム殿の持つ支援魔導機械(デバイス)は、3つの指輪で構成される独特な物だ。

右手の中指に小さな指輪が2つ、人差し指に大きな指輪が1つ。

3つの指輪には、それぞれルビーのような宝石が1つずつ付けられている。

 

 

そしてその3つの指輪から、小さな炎が噴き出している。

それが、クゥァルトゥム殿の好戦的な笑みを照らしているのだが・・・。

 

 

「やれやれ・・・こんな小道具に頼らなければならないなんて、面倒な世の中になった物だよ」

「・・・そうしたのは、キミ達王国側の人間だと思うけど」

 

 

それに対して、テロリストの青年は動揺した様子は無い。

詠唱魔法の使えないこの世界で、アレだけの火の精霊を活性化させていると言うのに。

チャ・・・と、刃の無い剣をクゥァルトゥム殿に向ける。

 

 

「仲間を、助けにでも来たの?」

「・・・仲間?」

 

 

炎に照らされたクゥァルトゥム殿の顔が、皮肉気に歪む。

左手をポケットに入れたまま、右手を相手に向ける。

 

 

「誰のことだい、それは」

 

 

それに対し、私は表情を引き攣らせた・・・やはりか!

正直な話、クゥァルトゥム殿はフェイト殿やクゥィントゥム殿と違い、仲間内での評判が悪い。

何故なら・・・。

 

 

「・・・消えなよ」

 

 

ゴッ・・・と、炎の渦がテロリストの青年を包み込む。

ただその炎の量は、お世辞にも青年の傍で倒れている私を気遣っているとは思えない。

と言うか、今も身体を引き摺るように離れようとしている所だ。

火の粉が、服の端に・・・!

 

 

クゥァルトゥム殿は、仲間内でも評判が悪い。

その好戦的な性格以上に、味方を味方と思わない態度が嫌われているのだ。

 

 

「ふん・・・3(テルティウム)が仕留め損ねた奴の仲間だと言うから、少しはやるかと思ったのだけれどね・・・まぁ、魔法の使えない人間なんて、この程度か」

 

 

私のことなど気にもせずに、クゥァルトゥム殿は自分の右手を見やった。

3つあった指輪の1つが、パキンッ、と砕けて地面に落ちた。

試作品ゆえに、クゥァルトゥム殿の炎の量に耐えられなかったのか・・・?

 

 

 

「・・・生憎だけど・・・」

 

 

 

次の瞬間、炎の渦が何かに切り裂かれたかのように細分化されて、消えた。

そこには、焦げ目一つ無い、青年がいた。

・・・バカな!?

 

 

「・・・貴様」

 

 

何か言おうとしたクゥァルトゥム殿の頬に、一筋の切り傷が生まれた。

頬だけでなく、肩先、服の端・・・次々と切れて行く。

やはりだ、魔力も無く、刃も無いのに、切られていく。

柄だけしかない剣を、ただ少し動かしただけで・・・っ!

 

 

「クゥァルトゥム殿!」

「遅いよ」

 

 

私の声よりも、青年の手の動きの方が早い。

次の瞬間、身体中を何かに切り裂かれて・・・クゥァルトゥム殿が、その場に膝を付いた。

それに伴い、総督府への道を塞いでいた炎の壁も、消える。

 

 

「・・・進ませて貰うよ・・・もう、5分も無いんだ」

 

 

ぐ・・・何と言うことだ、少し考えればわかることだったのに。

刃が無いと言う先入観が、気付くのを遅らせてしまった・・・!

私が倒れ、クゥァルトゥム殿が退けられてしまえば、後は・・・。

 

 

「・・・くくく・・・」

「・・・クゥァルトゥム殿!」

「へぇ・・・動けるんだ、腱を切ったつもりだけど」

 

 

膝を付いていたクゥァルトゥム殿が、顔を上げた。

その顔には・・・あくまでも不敵な笑みを浮かべている。

ボッ・・・と、残った2つの指輪に再び炎が灯る。

 

 

そして、左手をポケットから出した。

その手には、小さな箱のような物を持っている。

何か、奇妙な紋様の描かれた箱だが・・・。

アレは・・・?

 

 

「・・・思ったよりも、つまらない芸だったね」

「・・・キミ、見えて・・・?」

「当然」

 

 

クゥァルトゥム殿が、その箱に右手の指輪をぶつけた、次の瞬間。

小さな爆発が、私達を包み込んだ。

 

 

 

 

 

Side 4(クゥァルトゥム)

 

僕が取り出した小箱の名は、『檻箱(スピリトゥス・ディシピュラ)』。

理論通りなら、中位以下の魔法を一つ事前に込めておける箱型の支援魔導機械(デバイス)だ。

ただし、事前に支援魔導機械(デバイス)で込める必要がある上、試作品。

案の定、発動するハズだった魔法は発動せず、見事なまでに爆発した。

 

 

まぁ、どちらかと言えば、そのつもりでやったんだけどね。

所詮、人間の作った兵器などその程度さ。

 

 

「キミの玩具も、同じことさ」

 

 

爆発に紛れて近付き、ゴッ・・・テロリストの顎に一撃。

ぐ・・・と右の拳を握りこむと、支援魔導機械(デバイス)の宝石から炎が溢れ、僕の拳を覆う。

まぁ、火属性の魔法の矢1発分と言う所かな。

 

 

「・・・十分!」

 

 

浮き上ったテロリストの身体の真ん中に、拳を叩きこむ。

すると、まるで人形のように・・・彼の身体が吹き飛んだ。

歩いてきた道を戻り、地面に3度衝突して、最終的には地面と口付けを交わすことになった。

パリンッ・・・僕の指輪がまた1つ、砕けた。

 

 

「な、な・・・?」

 

 

近くで倒れている近衛の女が状況についてこれていないようだけれど、どうでも良いね。

僕は、テロリストが取り落とした剣の柄のような物体を拾った。

 

 

「・・・ふぅん、面白い武器だね」

 

 

その刃の無い柄には、ちゃんとした刃が付いている。

まぁ、刃と言うにはいささか細すぎるように思えるけどね。

 

 

「無数の糸のような刃か・・・どうやって操作するのかな、魔力の込め方で柔軟さと硬度が変化すると言う所か」

 

 

本来なら刃があるべきそこには、幾本もの糸が付いている。

近衛の女や僕を斬ったのは、どうやらこれらしい・・・爆発でほとんど消し飛んだけど。

ふん、しかし鋼より硬い糸なんて、聞いたことが無いね。

 

 

「・・・それは、人間の髪だ」

「ほう?」

 

 

顔を上げると、テロリストが膝をつき、ゆっくりと立ち上がる所だった。

僕の拳が叩き込まれた胸を押さえている所を見るに、ダメージはあるらしい。

 

 

「被験体B-25とB-34・・・型式番号的には、僕の妹に当たる人間の髪だ」

「へぇ・・・」

「彼女達の髪には、精霊を取り込んで動くと言う特殊な現象を起こす力があってね・・・偶発的に似た遺伝子を持って生まれた僕が使うと、さっきのようなことができる」

「聞きもしないことをベラベラ喋るね」

「・・・喋りたくもなるさ」

 

 

まぁ、正直、目の前のテロリストがどこの誰だろうと興味は無い。

知ったことじゃない。

ボッ・・・と、残った最後の指輪に炎を灯す。

コレも、強度が足りなくて困る。

 

 

「久しぶりに少しだけ楽しめたよ、人間」

「人間、か・・・・・・まぁ、キミの手を煩わせる必要も無いさ」

「ふん・・・?」

「どの道、僕はもう死ぬ」

 

 

そう言って、テロリストは胸から手をどけた。

そこには・・・風穴が開いていた。

僕の一撃が叩き込まれた箇所なのだろうけど、どうもそれだけじゃないね。

 

 

「・・・元々、今日までの命だった」

 

 

その穴が、徐々に広がる。

サラサラと・・・身体の端から砂のように崩れて行く。

そんな彼が、懐から何かを取り出す。

 

 

「僕はただの・・・」

 

 

それは、何かのスイッチのような物体で。

テロリストが、躊躇なくそれを・・・。

 

 

パァンッ!

 

 

その瞬間、テロリストの首が何かに撃ち抜かれた。

・・・龍宮真名の狙撃か。

テロリストの身体が、狙撃の衝撃でガクンッ、と揺れる。

だが。

 

 

「・・・メッセンジャーさ」

 

 

だが、彼は躊躇なくそれを押した。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

舞踏会の最中、セラス総長と「あはは」「うふふ」とお喋りしております。

まぁ、お喋りの内容はとても他所には出せないような、そんな内容なのですがね。

 

 

「あはは、セラス総長はご冗談もユニークですねぇ」

「うふふ、いえいえ、クルト宰相ほどではありませんわ」

「あはは、ですが国内の復興に忙しいので技術者は無理です」

「うふふ、これまでのアリアドネーの尽力と支持を考慮してほしいですわね」

「あはは・・・」

「うふふ・・・」

 

 

一部を抜粋すると、こんな感じですね。

その他、交易の自由化だとか、軍事・技術交流はどうするだとか、そんなお話ですね。

まぁ、正直・・・政治勢力としてのアリアドネーはそれほど脅威では無いのですよね。

 

 

ただし、研究機関としてのアリアドネーは脅威です。

いかに現在は技術的に優位を保っているとは言え、将来はどうなるか。

なので、可能な限りその将来を引き延ばさせて頂くわけです。

ゲートの独占も、長くてあと10年と言う所でしょうかね。

ゲートの過半を域内に抱える帝国が政治的に安定するかどうかで、期間が変動しますが。

 

 

「・・・む、少々、失礼しますよ」

 

 

セラス総長から離れ、会場の壁際に移動します。

そこで待っていたのは、騎士服を着たジョリィ。

彼女は一礼した後、私の耳元に口を寄せて・・・。

 

 

「シャオリーから報告が・・・」

「・・・ふむ、侵入者ですか」

 

 

ちら、とアリア様を見ると・・・女中姿の親衛隊副長が、アリア様の耳元で何かを囁いておりました。

アリア様の表情を見るに、霧島副長がアリア様のドレス姿を褒めているわけではないでしょう。

・・・ふむ、アーウェルンクスがいつもより50センチほどアリア様から離れていますね、何かあったのでしょうか?

 

 

「・・・まぁ、そちらの処理は外の警備に任せるとして、他のルートからの侵入を警戒して・・・」

 

 

私がジョリィに指示を出しかけた、その時。

ブゥン・・・と、舞踏会場の巨大スクリーンが動きだしました。

これまで沈黙していた映像装置の突然の起動に、自然、皆の視線が集まります。

 

 

む・・・?

ザザ・・・ザ・・・と数秒間波打った後、鮮明な映像が浮かび上がります。

そこに映し出された物は・・・。

 

 

『・・・魔法世界に生きる、全ての人々にご挨拶させて頂きます・・・』

 

 

そこに映ったのは、車椅子の少女。

肩先で切り揃えられた金色の髪に、閉ざされた目。

間違いなく美少女の域の相貌ではありますが、緑色の病院服と左腕に繋がれた薬品のパックのような物が、その完璧な造形に異を唱えているように見えるから不思議です。

小柄な身体付きですが、年は15前後でしょうか・・・?

 

 

しかし、問題なのはその顔立ち。

あの、顔は・・・!

 

 

『私は・・・アイネ』

「・・・すぐに映像を止めなさい!」

「は、はっ・・・!」

 

 

もし一人であれば、爪の一つも噛んでいる所ですよ。

アレが・・・リカードが言っていたホムンクルスの、完成系だとすれば・・・!?

 

 

『私達は、「Ⅰ」・・・・・・救われぬ1を体現する者』

 

 

再びアリア様の様子を伺えば・・・どうやら、私ほどに動揺はしていない様子ですが。

むしろ、他の連中の方が動揺しているように見えますよ。

そしてその間にも、アイネと名乗った少女の言葉は続きます。

特に次の言葉は・・・。

 

 

『私達は・・・新メセンブリーナ連合の指示で活動しています』

 

 

私達の度肝を抜くには十分な言葉でした。

 

 

 

 

 

Side 近右衛門

 

「これは、どう言うことだ!?」

「私に言うな、そもそもあの施設の責任者は・・・!!」

「責任者などいない! そもそも全ての施設は『リライト』直後に廃棄が決まっただろう!!」

「それが何故、生き残りが・・・」

「いや、それよりも誰が命令しているのだ!?」

 

 

メガロメセンブリア元老院・・・では無く、グラニクスの新メセンブリーナ連合評議会は、凄まじい混乱に見舞われておる。

原因は、今まさに議場のスクリーンに流れておる車椅子の少女の映像じゃ。

 

 

どうやら、あの娘のことを知らぬのはここではワシだけのようで、皆が一様に慌てふためいておる。

はて・・・まぁ、どうやら良い状況では無いことは確かなようじゃが。

 

 

『私達の指導者は、新メセンブリーナ連合。彼らは私達に託しました、世界の行く末を。間違った救済を正すための力を授けて、私達に託しました』

 

 

どこか原稿を読んででもいるかのような、アイネとか言う画面の中の娘。

この映像は、どうやら魔法世界の11の地域で同時に流されておるらしい。

地域の中にはケフィッススも入っておるから、おそらくはネギ君達の目にも止まっておるじゃろう。

 

 

何故わかるかと言うと、聞いたからじゃ。

先程、突如一人の娘が議場に乱入してきた。

エリジウム大陸の食糧問題をどうするかと言う結論の出るはずもない会議を続けていたワシらの下に、15歳前後の黒髪の娘が現れて、言ったのじゃ。

 

 

『初めまして義父様方、最初で最後の親孝行をさせて頂きます――――』

 

 

・・・その娘は、砂になって消えた。

じゃが、最後のあの清々しいまでの笑顔は、しばらく夢に見そうじゃ。

ワシでこうなのじゃから、事情を知っておるらしい他の面々はどうなのじゃろうな。

 

 

・・・単純な話、ワシを除く全員に心当たりがあるようで、この放送に対して「無関係だ」と言えない事情があるらしいのじゃ。

なので、これを否定する声明も出せんし、出せたとして別の証拠を突きつけられればどうにもならん。

八方ふさがりじゃな。

 

 

『私達は親たる新メセンブリーナ連合の命令が「ある限り」、活動を続けるでしょう。新メセンブリーナ連合が「存在し続ける限り」、我々は王国・帝国、あるいはアリアドネーへの攻撃を続行する物とします・・・新メセンブリーナ連合が、「在る限り」』

 

 

ホ・・・3回も繰り返しおった。

狙いが透けて見え過ぎて、涙が出そうじゃわい。

前から思っとったが、ワシの人生はこれ以上浮上しそうにないのぅ。

わかっとったけど。

 

 

『私達「Ⅰ」は、新メセンブリーナ連合の忠実なる下僕なのですから』

 

 

ふむ・・・とりあえずはネギ君、タカミチ君と相談するかの。

八方ふさがりの状況から、命からがら逃れるのは得意じゃし。

・・・自慢にもならんがの。

 

 

『それでは皆様・・・またお会いしましょう』

 

 

犯行声明なのだか、それとも他の何かなのか・・・。

とにもかくにも、一応、なんとか・・・終わったようじゃった。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

あのアイネだか「Ⅰ」だか知らんけど、とにかく連中の犯行声明が流された1時間半後には、うちは仕事着に着替えとった。

月詠を起こさんように寝室の鏡台の前に座って、最低限の化粧を済ませる。

今は11時、あの子はいつも9時には寝るから・・・。

 

 

長い黒髪を頭の後ろで束ねた後、鏡の前で身だしなみを確認する。

・・・うん、若く無くなるのは辛かったけど、やっぱ元の姿はええわ。

5年前の段階で、エヴァンジェリンはんに戻してもろうたからな。

いや、やっぱあのままやったら母親には見えへんやん?

 

 

「・・・仕事ですかー?」

「ん? ああ、すまんな、起こしてもうたか?」

「元々、眠りは浅い方なんでー」

 

 

布団の中から芋虫のように、年頃の娘が這い出て来る。

・・・なかなか、シュールな光景やね。

 

 

「どこ行くんです~・・・?」

「総督府や。10分前に呼ばれてん・・・もうすぐ迎えが来るはずや」

「うちも行った方がええですか~・・・?」

「大丈夫やえ、護衛がいるような話はせんと思うから・・・」

 

 

クルトはんらの反応は、早かったえ。

あの犯行声明の1時間後に緊急で記者会見を開いて、そこで「イヴィオン」・帝国・アリアドネー・メガロメセンブリアの共同宣言を発表した。

1時間でまとめたもんやから、それほど凝った文章や無い。

 

 

要は「新メセンブリーナ連合、死ね」な内容や。

今までは経済制裁で止めとったねんけど、今回ので軍事制裁にランクアップするかもしれへんな。

 

 

「・・・ま、情報の出所はわからんでもないわな」

 

 

共同宣言の内容は、第一に新メセンブリーナ連合への批難。

次に、「Ⅰ」の正体・・・ある筋からの確かな情報とかボカしとったけど、間違いなく新メセンブリーナ連合の元々の親玉、つまりはリカードはんが情報の出所やろ。

ウェスペルタティア王家の血を使うたホムンクルス計画なぁ・・・。

マジやとしたら、外道やな。

 

 

まぁ・・・わかりやすいわな。

そんな外道なことをした連合を許すな、そんな物で生みだした人間兵器でテロをする連合を倒せ・・・その言葉の、何て説得力のあることか。

民衆の支持を得るに、これ程わかりやすい対比も無いやろな。

 

 

巻き込まれる側は、溜まったもんやないけどな。

長からこっちでのことは委任されとるけど、さて、どうするかな。

 

 

「ほな、行ってくるえ」

「はい~」

 

 

襦袢姿の月詠とぎゅっと抱き合うた後、うちは寝室を出て・・・家を出る。

そこには、この5年ですっかり見慣れた仮面の黒い殿方がおった。

 

 

「千草殿、迎えが来ている」

「はいな・・・カゲタロウはん」

 

 

軽く微笑んだ後、総督府から来た迎えの所に行く。

まぁ、それ程歩くわけや無いけど・・・。

 

 

「・・・それにしても」

 

 

あの映像の子、アリアはんそっくりやったな・・・。

 

 

 

 

 

Side リカード

 

いや、酷い目にあったぜ・・・。

共同宣言に参加できたのは収穫だったが、その代わり記者会見で集中砲火を浴びたぜ・・・。

マスコミ、マジでヤベェ・・・。

 

 

アリア女王もテオドラ陛下もセラス総長も、その他の首脳も誰も助けちゃくれねぇからな。

当たり前だけどよ・・・何せ、「黄昏計画」の説明役は俺しかできねぇし。

後々のためにも、正直にわかってることを言わなくちゃいけねぇし・・・。

・・・これで12月にアリカ女王の真実を告げたら、メガロメセンブリア、終わるんじゃねぇかマジで。

 

 

「今でさえ、支持率がマイナスに行きそうだって話だしなー・・・」

 

 

史上初めてだぜ、支持率マイナス。

記者の質問で一番キツかったのは、アレだなやっぱ・・・。

 

 

『あの映像の少女と、ウェスペルタティア女王陛下が良く似ておられましたが・・・』

 

 

だから、人造のそっくりさんだっつぅの!

アレ何て拷問だよ・・・ひょっとして俺がメガロメセンブリアを何とかしようと踏ん張ってるのは、無駄な努力とかそういう感じな物なのか・・・?

 

 

とにかく、新メセンブリーナ連合に対する共同宣言は今日付けで効力を発揮した。

内容は・・・。

 

 

①魔法世界人と実験の被害者に対する即時の謝罪と補償の要求。

②非合法な人体実験及び関連計画について、10日以内に全面的かつ完全に申告するよう要求。

③30日以内に無条件で共同宣言署名国代表団の査察に協力することを要求。

④新メセンブリーナ連合の行動が平和と安全に対する脅威でなくなるよう、ただちに抑圧行為を停止するよう要求。

⑤人道支援が必要な人々に対し適切な対応が行えるよう、ただちに共同宣言署名国の支援物資輸送部隊に自由なアクセス権を与えるよう要求。

⑥指揮下にあるテロリストの即時の活動の停止及び引き渡し、さらに責任者の引き渡しを要求。

⑦この宣言に対するいかなる侵害も、新メセンブリーナ連合にとっては最も重大な結果をもたらすであろうことを強調する。これは「トリスタン条約」の精神に則る物であることを明記する。

 

 

共同宣言署名国は、ウェスペルタティア王国、ヘラス帝国、アリアドネー、メガロメセンブリア、アキダリア、龍山、パルティア、オレステス・・・まぁ、ほぼ魔法世界の全勢力だな。

 

 

「・・・事実上の最後通牒だよな」

 

 

7つの項目の内6つまでが要求なわけだが、その内の1つだって連中は受け入れないだろうぜ。

受け入れないってか、受け入れられない、だな。

俺達は正直、あのテロリスト集団が新メセンブリーナの指揮下にあるとは思ってねぇ。

だが、指揮下にある物として扱わなきゃならねぇ。

 

 

何故なら、どうやったかは知らねぇが・・・オスティアだけでなく、世界のほとんどの地域であの映像が流れた。

それを見た市民達が、新メセンブリーナ連合を潰せと叫んでいる。

だから今は、わかってて乗ってやるしかない。

 

 

会議の日程を至急縮めて、明日には首脳陣は自分の国に帰って準備を始めなくちゃならねぇ。

・・・戦争の準備だ。

 

 

「・・・っつーわけで、また忙しくなるぜ、ミッチェル・・・おい、ミッチェル?」

 

 

ホテルの部屋で今後のことについて話してたんだが、ミッチェルの野郎はウンともスンとも言わねぇ。

どうしたんだ・・・って。

めちゃくちゃ落ち込んでんじゃねぇかよ・・・。

 

 

「・・・最後に・・・」

「あん?」

「最後に抱き締めようかとも、思ったけど・・・」

「はぁ?」

「・・・やらなくて、良かった・・・」

「・・・おーい」

「本当に、良かった・・・!」

 

 

・・・どうも、話になりそうにねぇな。

しゃーねー、思春期のガキンチョの話に、付き合ってやるとしますかね・・・。

まず、男がビービー泣くんじゃねーよ。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

・・・疲れました・・・。

会見やら会談やら手配やらを終えて、ようやく寝室に入れた時には、すでに日付が変わっていました。

時間的にはいつもよ同じくらいですが、内容が濃かったですね、今日・・・。

 

 

「公人としても私人としても・・・ですね・・・」

 

 

公人としてのは私は、今日の国際会合を主催する立場です。

それだけでも忙しいのに、何とテロリストは私のクローン。

しかも襲撃、シャオリーさんは怪我をして、しかもクゥァルトゥムさんが試作品の支援魔導機械(デバイス)をドカドカ壊してくださいましたので、始末書が・・・それはグッジョブですけど。

・・・新メセンブリーナとも事を構えなければなりませんし、高確率で軍事制裁ですね・・・。

 

 

私人としても・・・そっちは、主にミッチェル関連ですけど。

ちら、と時計を目にしてみれば、いつもならフェイトが来ている時間。

でも、窓の外にフェイトの姿は見えません。

やっぱり・・・?

 

 

コン、コンッ。

 

 

窓の外ばかり見ていたら、扉がノックされました。

扉を開けると、そこには就寝前の紅茶なのか、ティーセットの乗ったカートを押した茶々丸さんと・・・。

 

 

「・・・エヴァさん?」

「お、おぅ・・・」

 

 

茶々丸さんの後ろで、何故か話しにくそうにしているエヴァさんがいました。

えっと、いつもはこんな時間には来ないはずなのですけど・・・。

 

 

「フェイトノヤローガナ」

「はい?」

 

 

フェイト?

茶々丸の頭の上に乗っているチャチャゼロさんが、ケケケと笑っています。

 

 

「フェイトさんが、今日は自分といるよりも、家族といる方が良いだろうとのことで」

「は、はぁ・・・」

「ま、まぁ、あの若造にしては殊勝な心がけだなっ」

 

 

・・・エヴァさん、どこか声が弾んでいますよ。

まぁ、考えてみればこの時間はフェイトと過ごすのが常で、エヴァさん達と過ごすのは本当に久しぶりですね・・・。

 

 

その意味では、今日の話の内容からしても、良い機会なのかもしれませんね。

けれど・・・。

 

 

「・・・あら?」

「邪魔するぞえー?」

 

 

私の横を、のそのそと灰銀色の狼が歩いて、寝室の真ん中で丸くなりました。

その背中には、晴明さん。

・・・これでスクナさんとさよさんがいれば、勢揃いですね。

田中さんは・・・。

 

 

「・・・お疲れ様です」

「任務デスノデ」

 

 

扉の前に立つターミネ○ター・・・田中Ⅱ世(セコーンド)は、無感動に私に答えました。

それに、私は少しだけ寂しい気持ちになります。

 

 

「う、うむ、何だか久しぶりにここに入るなっ」

「マスターはそうかもしれませんね・・・私は朝にここに入りますので」

「・・・今思ったんだが、お前、一番得してないか・・・?」

「何のことでしょう」

 

 

エヴァさん達の会話に、少し頬が緩むのを感じます。

でも・・・どうしてでしょう。

心のどこかで、別の気持ちが渦巻いています。

 

 

エヴァさん達が来てくれて、とても嬉しいです。

けれど・・・。

 

 

胸が、痛い・・・。

仕事か苺、欲しいな・・・。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

自分の寝室の窓辺に座り、いつものようにコーヒーを飲む。

いつものように・・・?

 

 

いや、違うな。

彼女がいない。

だけど、どうしてか会いに行く気分にはなれない。

今は、2人きりにならない方が良いと思う。

何故なら・・・。

 

 

「あの・・・フェイト様?」

「・・・・・・何だい、栞君」

「その~・・・あの、時間・・・過ぎてますけど・・・」

「そうだね、暦君」

「いや、そうだねって・・・」

 

 

栞君と暦君が、どこか気ぜわしげに僕を見ている。

けど、別に慌てることは無い。

特に約束をしているわけでも、行くとも来いとも言ったことは無いのだから。

 

 

「・・・今日は、吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)達と過ごすそうだから」

「へ、へぇ~、そうなんですか!」

「そう」

「へ・・・へぇ~・・・」

 

 

それでも暦君は、どこかソワソワとしている。

栞君も、落ち着かないようだった。

まぁ、いつもと違うことをすれば、そうなるのも仕方ないのかな。

 

 

「・・・コーヒー、頼めるかな」

「は、はい、すぐに・・・」

 

 

空になったマグカップを渡すと、栞君がパタパタと新しいコーヒーを淹れに行く。

残された暦君は、どこか緊張しているようだった。

僕はそんな暦君から視線を外して、窓の外を見る。

 

 

・・・アリアの寝室には、まだ明かりが灯っている。

はたして、どんな話をしているのだろうか。

テロリストのことか、新メセンブリーナのことか、それとも別のことか・・・。

その場にはいない僕には、想像するしかできない。

 

 

「・・・環君は、まだ竜舎かい」

「は、はいっ、どうも調子の悪い騎竜がいるとか・・・」

「調君は・・・」

「ぶ、舞踏会場の後片付けのシフトが・・・」

 

 

・・・舞踏会か。

掌には、まだ彼女に触れた感触が残っている。

脳裏には、彼女の慎ましやかな笑顔・・・。

・・・僕は、そっと目を閉じる。

 

 

「・・・焔君は」

「何だ、宿舎に誰もいないと思・・・って、何でフェイト様がここに!?」

「あ、ちょ、焔!」

 

 

焔君が来たのか、暦君が慌てたような声を上げているのが聞こえる。

目を閉じている僕には、姿を見ることはできない。

 

 

「・・・コーヒー、入りましたわ」

「・・・ありがとう」

 

 

仄かなコーヒーの香りを感じながら、僕は思った。

今は、2人きりにならない方が良いと思う。

何故なら・・・。

 

 

何故なら、2人きりになってしまえば。

僕は。

 

 

「・・・欲しいな」

「え、コーヒーがですか?」

「いや・・・」

 

 

これまで大切にしてきた物に、どうしようもなく。

何かを、してしまいそうで。

・・・この感情は、初めての物だった。

 

 

 

 

 

Side アイネ・アインフュールング・「エンテオフュシア」

 

エリジウム大陸グラニクス近郊・・・ケルベラス大樹林。

古代の遺跡の立ち並ぶその場所に、私達はいます。

特に隠そうとも思わない・・・じきに、諸外国は映像の大本がここから発信されていることに気付くでしょうから。

 

 

隠れてしまっては、意味がない。

諸外国に私達がどこを活動の拠点としているのか、知らせなくてはならないのですから。

誰が私達のパトロンなのか、わかりやすく教えて差し上げなくては。

 

 

「・・・始まったぞ、アイネ」

「それは違うでしょう、これからやっと、終わるのです・・・」

「揚げ足を取るな」

「うふふ・・・」

 

 

光の無い世界で隣からかけられる声に、私は答えます。

そう・・・ここから全てが終わるのです。

始まりなんて、いらない。

 

 

日に日に罅割れて行く身体、衰えて行く思考。

カプセルの恩恵を失った私達には、それほど時間は与えられていないのですから。

魔法的な処理を定期的に受けなければ、身体の形を保てない、脆弱な命。

 

 

「元々、鍵の機能を果たすためだけに造られた命・・・」

 

 

誰が造ってくださいと願ったと言うのですか。

誰が、生み出してほしいと祈ったと言うのですか。

いえ、それでも必要とされているのなら救いもあったかもしれません。

けれど魔法世界の危機が去り、私達が開くべき宮殿が失われ、魔法すら失われた世界・・・。

 

 

そこに私達の存在理由は、ありません。

不完全な能力しか持たない私達の存在意義は、ありません。

だから逃げた、処分される前に。

生きるために、せめて最後まで・・・全うしたかったから。

伝えたかったから。

 

 

「私達のオリジナルの血筋は・・・ウェスペルタティアの女王陛下は、どうでしたか?」

「傍にいた騎士に邪魔されて、どうにも」

「そうですか、ならば・・・やはり、直接、私の所に来て頂くしかありませんね・・・」

「ああ・・・オスティアに映像を流しに行った仲間も、結局は到達できなかった」

 

 

合同慰霊祭のタイミングで、隣の彼に女王に会いに行って貰いました。

そして今日、私の声明を流すための電子精霊発生装置を持った仲間を送り出したのですが・・・。

・・・到達できないなら、会いに来てもらうしかありませんね。

 

 

噂で聞いた、救世の女王・・・きっと、彼女なら。

彼女なら・・・世界のほとんどの人を、10の内の9を、救えるのでしょうね・・・。

 

 

「・・・誰も、殺していませんよね?」

「ああ・・・怪我人はいるが、誰も死んでいない」

「そう・・・なら、良いです・・・」

 

 

だから、最後に伝えたい。

世界に、彼女に。

・・・私達は、ここにいると。

切り捨てられた10の内の「Ⅰ」が、こうして生きているんだと。

 

 

「・・・しかし、どうやってエリジウム大陸にまで親征させる?」

「簡単です・・・彼女の逆鱗に、触れれば良い」

 

 

21人の仲間の内、11人が今日、死にました。

彼と私を除いて、あと8人。

その内の、6人にお願いして・・・。

 

 

「5年前の段階で、私達の脳に移植された情報によれば・・・彼女には大事な物がいくつもあるとか」

「それは?」

「それは・・・」

 

 

例えば、家族・・・親・・・友人・・・そして。

 

 

「・・・旧世界の・・・」

 

 

彼女の、生徒。

そうすれば、きっと・・・彼女は私達を殺しに来てくれる。

 

 

 

 

 

Side シオン

 

例のテロリストの声明が流れた翌朝も、私の生活は何一つ変わらない。

ヘレンと一緒に昼食のお弁当を作って、玄関前で抱擁を交わした後に、出勤。

 

 

国際情勢がどうなろうと、私の仕事は変わらない。

オスティア・ゲートポートの受付嬢の一人として、旧世界へ渡航する人間をチェックする。

一日に平均で、500人くらいかしらね・・・。

 

 

「よっす、一人頼むで!」

「あら・・・旧世界連合の」

「おう、久しぶりやな!」

 

 

旧世界連合認証のパスを提出してきた黒髪の少年は、私の顔を見ながら快活に笑った。

粗雑だけど不快では無い笑顔に、私も自然と笑みを浮かべる。

 

 

ピンピンと尖った黒髪に、黒を基調としたラフな格好をした彼の名前は、天ヶ崎小太郎。

ここ2年ほど、頻繁に旧世界と魔法世界を行き来している少年。

使っているパスも、そのためか少しヨレヨレ。

まぁ、どんな状態だろうと、私の端末で認証できれば問題は無いわ。

 

 

「・・・はい、問題ありません。今度の渡航期間は何日くらいの予定ですか?」

「せやなー、一週間くらいやな、またこっちに戻って来なあかんし」

「わかりました・・・では、この書類を無くさないでくださいね」

「あいよ」

 

 

本当なら、麻帆良側で旧世界連合の事務所に登録に行くよう勧めるのだけれど、その旧世界連合の認証が入っているパスを持っているのなら、必要無いわね。

 

 

「では、お気を付けて」

「おう、サンキュな姉ちゃん!」

 

 

・・・姉ちゃんと言われるほど、年齢は離れていないつもりなのだけど。

軽く眼鏡に触れた後、次の渡航者の応対に移る。

渡航者は、彼一人では無いのだから・・・私以外の受付嬢の所にも、列ができているのだから。

 

 

「次の方、どうぞ・・・何名で渡航予定ですか?」

「・・・4人で、お願いします」

 

 

・・・薄汚れたローブを着た渡航者が4人。

まぁ、別に珍しくも無いけど・・・一般用の渡航券を4枚受け取って、端末で確認する。

渡航先は麻帆良・・・期間は3日・・・発券番号・・・何、この番号。

こんな番号は・・・・・・偽造?

 

 

「・・・貴方」

「失礼」

 

 

フードに覆われた青い目と、視線が合う。

視線が合って、それで・・・。

 

 

 

・・・・・・あれ?

 

 

 

・・・私、何を言おうとしたのだったかしら・・・?

 

 

「・・・良いですか?」

「え、あ、はい、申し訳ありません。どうぞ、お気を付けて・・・」

 

 

持っていた渡航券を返して、私は首を傾げる。

おかしいわね、私ともあろう者が渡航券の処理くらいで手間取るなんて。

疲れてるのかしらね・・・?

 

 

私は、薄汚れたローブの4人組を何となく気にしつつも、次の渡航者のチェックに移った。

・・・今日も、密航者はいない。

 

 

良いことね。

 




エヴァンジェリン:
私だ、突然だが、どうすれば良いかわからん!
結婚の経験・・・無い。
そもそも、恋人ができた経験が、無い!
どうすれば、どうすればいいんだ・・・!
誰か、教えてくれ!
・・・と言うか、何故私はアリアと若造の仲を心配しているんだ!?
破局上等じゃないか!
いや、しかし・・・どうすれば!


ちなみに今回登場の「檻箱」はまーながるむ様提供だ、ありがとう。
まだ未完成と言う扱いだが、いつか完成すると思う。


エヴァンジェリン:
えー、と言うわけで。
第3部、旧世界編・・・行ってみよう。

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