魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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第2話「無理な物は無理」

Side アリア

 

「う~ん・・・」

 

 

私は、アリアドネーで自分にあてがわれた部屋の中で、頭を捻っておりました。

臨時講師と言えど、授業を持つ身。やることはたくさんあるのですが。

しかし今私が困っているのは、それとは別のことです。

 

 

魔法世界を崩壊から救うには、どうすれば良いか。

 

 

私は現在、それについて考えています。

千鶴さんに借りた火星儀を指先でクルクルと回しながら、頭を悩ませます。

 

 

「・・・魔法世界が崩壊する、原因は魔力の枯渇・・・」

 

 

それは、私の前世の「知識」から引き揚げた事実です。

クルトおじ様も、それらしきことを言っていましたしね。

 

 

「・・・しかし、にわかには信じられん話だな」

 

 

隣で難しそうな魔法書や論文をパラパラとめくりながら、エヴァさんが言いました。

『人造異界の存在限界・崩壊の不可避性について』(1908年)、『魔法理論における空間認識と生成の関連比較』(1921年)、『魔素・魔力の源泉と諸地域の地形について』(1924年)、『亜人種の祖先の正体見聞』(1930年)・・・。

 

 

「私もそれ程この魔法世界に詳しいわけでは無いが、本当に崩壊するのか? 現状ではとてもそうは見えんぞ。いや、別にお前を疑うわけでは無いが・・・」

「実は私も、それ程自信があるわけでは無いんです・・・知っている、と言うだけで」

「まぁ、魔力の枯渇など、見ただけではわからんからな。それなりの施設で長期間観測しなければ、論理的な根拠のある仮定は作り得ない」

「・・・ですよねぇ・・・」

 

 

私は確かに、前世の記憶から魔法世界の崩壊の可能性を「知って」いるのですが。

かといって、いつ、何故、どうやって崩壊するのかを「理解して」はいないのです。

知ると言うことと、理解すると言うことは、似ているようでまったく別の物ですから。

理解しなければ、対処法の構築もできない。

 

 

私はスタン爺様達の『永久石化』に関しては、知っているだけでなく理解もしています。

だからこそ解除の目処も立ち、その公式も算出できたわけです。

そしてもちろん、それも私一人の功績ではありませんが・・・。

 

 

「・・・この問題は、個人レベルではどうにもできそうに無いですよねぇ・・・」

 

 

実際、私がいくら頑張った所で、どうにもなりません。

エヴァさんの力を借りても、限界はやはりあります。

エヴァさん自身も言ったように、大規模で整備された施設を有する公的機関の力を借りなければ、「魔法世界が遠からず崩壊する」と言う事象それ自体を証明することもできないのです。

 

 

解答不能・・・とまでは言いませんが、何年時間をかけても無理です。

これは能力の問題では無くて、規模の問題です。

世界規模の問題を個人で解決できると思う程、私も思い上がってはいません。

・・・もし、何かしかの解答を有している存在が、あるとすれば。

 

 

脳裏に、白い髪の誰かが浮かびました。

・・・。

カチャ・・・左腕のブレスレットを、無意識に指先で撫でました。

 

 

今頃、どこで何をしているのでしょうね・・・。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「アリア?」

 

 

急に遠くを見るような目をしだしたアリアに、首を傾げる。

先ほどまで、魔法世界の崩壊回避について考えていたはずだが、今はどうも別のことを考えているようだ。

 

 

・・・魔法世界の崩壊回避か。

自分で言って、皮肉な気持ちになる。

600年前、私に賞金をかけて迫害したのは、この魔法世界の人間共なのだ。

その私が、そいつらを救うための算段を考えていると言うのだから、皮肉以外の何ものでも無いだろう。

そしてそれは、アリアも同じだと思っていた。

 

 

「・・・しかし、突然どうして、魔法世界を救う気になったんだ?」

「はい?」

「お前、本国や魔法使いが嫌いだっただろうに」

 

 

幼い頃の記憶から、アリアは魔法使いと言う生き物に嫌悪感を抱いていたはずだ。

英雄の娘、魔法の使えない体質。

本国の魔法至上主義者からすれば、これ程憎らしい存在はいないだろう。

 

 

今でこそアリアドネーで比較的安穏とした生活を送ってはいるが、麻帆良では一度ならず嫌な思いもしたはずだ。

そんなアリアが、魔法世界を救うために、力を貸してほしいと言って来た時は、意外だった。

同時に、どこか納得している自分もいたことに、私はまた驚いた物だが。

 

 

「生徒がいますので」

 

 

アリアの理由は、簡潔だった。

そしてそれを、やっぱりな、と思った。

ああ、こいつはこう言う奴だったと。

 

 

こいつは臨時だが講師、つまりは教師だ、生徒を守る義務がある。

少なくとも、アリア自身はそう考えている。

そしてそれ以上に、自分の生徒を気に入ったのだろう。だから守ろうとする。

自分を慕ってくれる誰かを、守ろうとする。

 

 

アリアは、そう言う奴だった。

それに、私も・・・。

 

 

「本音を言えば、魔法世界に生きる人々の大半は、生きようが死のうがどうでも良いです」

「・・・」

「でも私の生徒の大半は魔法世界人です。彼女らは一部を除いて旧世界に逃げることもできませんし・・・」

「・・・っ」

 

 

その時、気付いた。

それは、ぞっとするような考えだった。

 

 

アリアは、一度抱え込んだ人間を手放そうとはしない人間だ。

現に、ここに来て一月近く、アリアは自分の生徒とそれなりの関わりを持ち、死なせたくないと思う程度には考えるようになった。

つまり、ここに来たからアリアは魔法世界を救う気になった。

 

 

・・・アリアは、旧ウェスペルタティアの姫だと言う。

学園祭の時にアルが見せた幻の女が、アリアの実母だと言うのだから。

そして、新オスティア・・・クルト・ゲーデル。オスティアの難民・・・。

 

 

まさか・・・。

 

 

「エヴァさん?」

「・・・いや、そろそろ朝だ。授業の準備をした方が良いだろう」

「あ、そうですね・・・えーと、眠気覚ましの魔法薬はー・・・」

 

 

ガサゴソと薬棚を漁り始めたアリアを見て、気付かれないように苦笑する。

それは、先程までの自分の考えに対する苦笑だった。

 

 

考えすぎだ、この時の私は、それで自分を納得させた。

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

俺は、戦う以外に能の無い人間や。

それは、誰よりも俺が一番良く知っとる。

 

 

「そう言えば、小太郎はん。最近学校はどうですか~?」

「うん? んー・・・月詠のねーちゃんはどないなん?」

「いつも通りです~」

「俺も、いつも通りや」

 

 

千草ねーちゃんとの約束で、俺はメガロメセンブリアの公立学校に編入した。

月詠のねーちゃんも、女子校に編入。

試験とか何やかんやあったけど、千草ねーちゃんが面倒見てくれたおかげで何とかなった。

 

 

でも、同年代の奴と一緒に何かしたことも無いから、何話してええんかわからんし。

授業はつまらんし、と言うか俺ら魔法使えへんしな。

魔法が使えへんだけで、どうも妙な目で見られるし・・・。

・・・なんと言うか、いけすかん連中や。

千草ねーちゃんが学校に行かせたいらしいから、行っとるけど・・・。

 

 

「お~、大きいですね~」

 

 

月詠のねーちゃんの言葉に、俺も同意する。

今、俺らの目の前には、大きな翼と尻尾を持った悪魔みたいなんがおった。

両手に鎖がついとって、闘技場の隅に繋がれとる。

俺の5倍はでかいんちゃうかな?

 

 

今、俺と月詠のねーちゃんはメガロメセンブリアの闘技場におる。

この世界では、拳闘士とか言うのが一番手っ取り早く稼げる聞いたからな。

学生でも拳闘士やる奴は結構多いし、割と簡単になれるんや。

 

 

『あ――っと、個人登録の新人、小太郎・月詠コンビあぶなーいっ!』

 

 

ぐぉっ・・・と、でかい拳が振り下ろされてくる。

その次の瞬間には、俺と月詠のねーちゃんは瞬動でそいつの後ろに移動しとる。

同時に、攻撃もな。

 

 

「『二刀連撃・斬鉄閃』」

「『狗音爆砕撃』」

 

 

翼を斬り落とされ、頭を撃ち抜かれたその悪魔は、闘技場の床に崩れ落ちた。

実況のねーちゃんが何か騒いどるけど、それはどうでもええわ。

 

 

「千草はんは、お仕事上手くいって無いみたいですね~」

「せやな・・・何や、金が無いらしいな」

 

 

千草ねーちゃんは、何も言わんけどな。

ゲート言うんが壊れて、関西の本山と連絡が取れへんようになったのは俺らでもわかる。

この大会、勝てば100万や。しかも勝てば試合ごとにファイトマネーも入る。

つーても、千草ねーちゃんの仕事に口を出すわけやない。

そんなんやっても、千草ねーちゃんは喜ばへんのはわかっとる。

 

 

でも俺と月詠のねーちゃんの飯の量は変わらへんのに、千草ねーちゃんの飯の量は減っとるんや・・・。

部下の連中の給金を捻り出すために、自分の給料を削っとるのは、見とればわかる。

 

 

「自分の食い扶持くらいは、自分で稼がんとな」

「うちは、斬れれば何でもええですぅ」

「月詠のねーちゃんは、変わらへんなぁ・・・」

 

 

まぁ、それはそれでええけど。

それにしても・・・。

 

 

手紙送れへんようになって、夏美ねーちゃん、怒っとるかなぁ。

あ、時間の流れが違うんやったっけか?

 

 

 

 

 

Side ネカネ

 

はぁ、どうしましょう。

私のせいで、ネギが拳闘士に・・・それに、100万ドラクマの借金。

まさかゲートまで議員を追いかけて来たのが、ここまでの事態になるだなんて。

 

 

「はぁ・・・」

 

 

酒場の床磨きの手を一度止めて、溜息を吐く。

そ・・・と、首の首輪に手を触れる。本国に奴隷制度があることは知っていたけど・・・。

 

 

ゲートの爆発に巻き込まれて強制転移された私は、砂漠に一人、投げ出されていた。

そこからどうにか、近くの街までたどり着いたのだけど、そこで風土病にかかってしまって・・・。

朦朧とする意識の中、何かの書類にサインさせられたのは覚えてる。

そのおかげで、お薬も貰えたのだけど・・・。

 

 

「ネカネ、床掃除はもう良いから、厨房の食器洗いをやってもらえるかい!」

「は、はいっ!」

 

 

私に声をかけてきたのは、クママさん。

熊のぬいぐるみ・・・と言ったら失礼だけど、そんな風貌の人。

私よりも、背は大きいけれど。

ここの奴隷長(チーフ)をやっている人で、仕事には厳しいけれど、心優しい良い人よ。

 

 

「そろそろ昼飯時だからね、忙しくなるよ!」

「そ、そうですね」

 

 

最初、トサカさんと言う方にいびられていた私を助けてもくれた人。

ただ、そのトサカさんも悪い人では無いみたいなんだけど・・・。

 

 

「では、私は厨房に行きますね」

「ああ、頼むよ! あんたは働き者で助かるからねぇ!」

 

 

クママさんの言葉に笑いながら、私は床掃除に使っていた道具を片付けると、厨房へ通じる扉を・・・。

 

 

カランッ・・・コロンッ。

 

 

その時、軽やかな音を立てて、来客用の扉が開いた。

そこから現れたのは・・・。

 

 

「ごめんよ、まだ・・・って、何だ、エリザじゃないかい!」

「・・・ネギは、どこですか?」

「うん? また闘技場ではぐれたのかい? まだ帰ってきていないよ」

 

 

入ってきたのは、エリザさん(ネギが言うには偽名で、本当はエルザと言うらしいけど)だった。

長い黒髪の綺麗な女の人で、顔にまである刺青みたいな黒い紋様が無ければ、誰もが見惚れる女の人だと思う。

本当は、ネギと同い年くらいらしいけれど。

 

 

私は、話したこともないけど・・・ネギがお世話になったらしいから、お礼を言おうとは思ったんだけど。

けど、ネギ以外が話しかけても、めったに答えないから・・・。

今みたいに、ネギに関することを他人に聞いたりはするけれど・・・。

 

 

ネギを、そして私を助けようとしてくれている人に、こんなことを思ってはいけないのだけど。

私はあまり、この子が好きになれなかった。

いつだったかしら、いつかのアリアに、とても似ている気がして・・・。

どうしてそんなことを思うのか、私にもわからない・・・。

 

 

「・・・っ」

「エリザ!?」

 

 

カラ、カランッ!

 

 

その時、急に慌てた顔になって、エリザさんは外に飛び出して行った。

な、何かあったのかしら・・・?

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

これはいつものことだけど、エルザさんとはぐれた。

この街は治安、あんまり良くないから、一人で出歩くのは良くないんだけど。

相変わらず、エルザさんは試合が終わるたびにどこかへ行く。

 

 

「エルザさん、どこに行ったんだろ・・・」

 

 

休憩がてら、カフェで紅茶を頼んだ。

世界が違っても、紅茶があることには驚いたけど・・・。

 

 

・・・明日菜さんとのどかさんからは、まだ連絡は無い。

一応、闘技場の勝利者インタビューで、「一ヵ月後、オスティアで集合」って伝えてはいるんだけど。

オスティアの決勝トーナメントで100万ドラクマを手に入れなくちゃいけないし・・・。

ふと、自分の掌を見る。

 

 

・・・強くなりたい。

誰にも負けない力が、最強の力が欲しい。

何があっても、全てを守れるほどの強い力が。

父さんのようになれる、強い力が。

 

 

でも、今のままじゃダメだ。そんな気がする。

エルザさんと2人で、8回ほど闘技場で勝ったけど、強くなれてる実感がまるで無い。

何かが足りないんだ。

僕が強くなるために、必要な何かが・・・。

でもそれが何なのか、わからない。

 

 

「・・・僕に足りない物、僕に足りない物・・・?」

「必殺技、だな」

「そう、必殺技・・・へ?」

 

 

不意に、声をかけられた。

顔を上げると、いつの間にそこにいたのか、フードをかぶった男の人が向かいの席に座っていた。

フードから覗く顔には、褐色の肌に、いくつもの古傷が見える。

見るからに、鍛え抜かれた身体をしているけど・・・。

ここまで近付かれるまで、気が付かなかった。

 

 

「男なら必殺技の一つや二つ、持っているのが当然だ」

「あ、あなたは・・・?」

 

 

会ったことも無い人だけど、何だろう。

不思議な感じのする人だった。

 

 

「俺が教えてやらんでもないが、そうだな・・・」

「え・・・」

「必殺技一つにつき授業料50万ドラクマ、考案料20万ドラクマ、版権料10%頂こう」

「ええええええっ!?」

 

 

あ、悪徳商法!?

明らかに高いし!?

 

 

「な、何なんですか貴方は!? いきなりっ!」

「今は俺より、自分の頭の上を心配しな・・・有名人」

「な」

 

 

にがですか、と続けようとして、できなくなる。

なぜなら、その時には背後から飛来した黒い槍のような物が僕の頬を掠めていたから。

 

 

ドスッ・・・ギュギュッ!

 

 

僕の目の前のテーブルを綺麗に真っ二つにして、その槍は後ろに引っ込んで行った。

な、何が・・・反応、できなかった。

 

 

「おー、危なかったな。相手がその気だったら首がなくなってたぜ、今の」

 

 

え・・・?

 

 

 

 

 

Side ラカン

 

まさか、と思ってカゲちゃんについて来たんだが・・・。

やっぱこいつ、ナギじゃねぇ。

映像で見た時からわかっちゃいたが、魔力の感じとかちょい似てたからな。

 

 

となると、タカミチが連絡してきたナギのガキか。

あん? でもこいつ官憲に捕まったんじゃなかったっけか?

まぁ、本国の連中の作った法律とか、俺には関係無ねーけどな。

 

 

「だ、誰ですか!?」

「・・・お前の「強敵を待つ」と言う呼びかけに応じて参上した、ナギ・スプリングフィールド」

「・・・!」

「私はボスポラスのカゲタロウ。貴様に尋常の勝負を申し込む」

 

 

おお、おお。カゲちゃんも決めるねぇ。

大戦の時に着てた衣装まで引っ張り出して(道化の仮面に黒ずくめ)。

まぁ、昔ナギの野郎にボコられたのは本当だからな、ナギそっくりな奴を見て燃えてんだろ。

 

 

その後、何か言おうとしたナギ・・・いや、ネギを、カゲちゃんは問答無用で攻撃した。

カゲちゃん自身はその場から動いちゃいねぇが、カゲちゃんの操る影槍が、ネギを翻弄する。

とはいえ、こりゃあ戦いなんて呼べる代物じゃねぇな。

 

 

「んー、ヒヨっこにAAクラスは無理だったかぁ?」

 

 

尖塔や建物をスパスパ切り落とす程のカゲちゃんの攻撃に、ネギはついていくのがやっとって感じだ。

いや、カゲちゃんがついていかせてやってるんだな。

ネギの張る障壁は、カゲちゃんには何の効果もねぇ。

ついでにネギはカゲちゃんに近付くこともできねぇから、攻撃もできねぇ。

 

 

アルの野郎が修行つけてるって聞いたんだが、あれは、どうなんだ?

基本魔法の術式がそこそこ綺麗なことを除けば、経験も実力もあったもんじゃねぇ。

つまり、てんでなっちゃいねーってことだ。

才能はあんだろうが・・・あれでどうやって8連勝もしたんだぁ?

 

 

そうこう言ってる内に、ネギはカゲちゃんの攻撃でぐっさり・・・おお、ギリギリ魔力を集中させて軌道を逸らしやがったか。まーその後、建物に突っ込んじまったけどな。

戦いの歌(カントゥス・ベラークス)』、白兵戦の基本魔法だが。

流石に、それくらいは教えて貰ってるか・・・まぁ、こんなもんかな。

 

 

「仕方ねぇ、助け舟を出してやるか・・・20万くらいで・・・ん?」

 

 

カゲちゃんの攻撃で起こった煙が晴れた時、ネギの前に、妖しい雰囲気の女がいた。

女っつーか、年齢詐称薬使ってやがるが・・・。

とにかく、刺青した変な女だ。

 

 

ははぁ・・・流石はナギの息子。

女連れとは、やるねぇ。

 

 

 

 

 

Side カゲタロウ

 

「・・・何者」

「・・・」

 

 

問うてみるも、その女は答えなかった。

ただ、静かな血色の瞳で、私を見据えている。

その後ろには、私の影槍の一本をすんでの所でかわした体勢のままの、偽ナギ・・・ネギ、と言ったか?

ラカン殿が言うには、まだ10歳の子供だと聞くが。

 

 

まぁ、今は目の前の女の方が先決か。

黒髪赤目・・・全身に異常な紋様を刻んだ女。

 

 

「え・・・エルザさん!?」

「・・・エリザ」

「え、ああ、えっと・・・エリザさん、どうしてここに!?」

 

 

ふむ、エリザと言うのか。

エルザと言うのは、何か知らんが・・・。

 

 

「お前」

「うん? 私か?」

「お前はナギを傷つけました」

 

 

全身の紋様を明滅させながら、エリザとやらが私を指差した。

 

 

「お父様は言いました。ナギを守れと。私はナギを守らなければなりません。そのナギをお前は傷つけました。お父様が必要としているナギを傷つけました。だからお前はナギの敵です。つまりお前は私の敵です。よって、お前、お前は・・・」

「・・・?」

「お前は、お父様の敵だっ!!」

 

 

叫んで、エリザが動いた。

同時に私は、ぐんっ、と拳を握りこんで、周囲に滞空させていた影槍をエリザに向けて殺到させた。

それは彼女の背後の・・・ネギが背にしている塔を切り刻んで破壊した。

しかし、手応えは無い。どちらにも命中しなかったようだ。

 

 

50m程離れた位置に出現したエリザに、影槍を放つ。

しかしその悉くをかわしながら、エリザは私に急速に接近してきた。

いや、それは良いが、ネギはどこに消えた?

 

 

「ラスオーリオ・リーゼ・リ・リル・マギステル!」

「・・・」

炎の精霊(ウンデセクサーギンタ)59柱(スピリテゥス・イグニス)集い来たりて(コエウンテース)・・・」

「『百の影槍(ケントゥム・ランケアエ・ウンブラエ)』!!」

「『魔法の射手(サギタ・マギカ)・連弾(セリエス)・火の59矢(イグニス)』!」

 

 

私の放った影槍と、エリザの放った炎の矢がぶつかり合い、派手に散る。

その爆炎の中から、エリザが飛び出して来た。

 

 

「ラスオーリオ・リーゼ・リ・リル・マギステル――――」

 

 

口から赤い液体を流しながら、私の背後に回りこんだエリザ。

しかし、何かが軋むような音と共に、ガクンッとエリザの膝が崩れ落ちた。

それでも、魔法の構成は崩れない。私はそこに・・・。

 

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!」

「ぬ!?」

 

 

反対側から、規定外の膨大な魔力!

振り向けば、そこに拳を振り上げたネギの姿が・・・。

 

 

 

 

 

Side さよ

 

アリア先生のお父さんが魔法世界を救った英雄だって話は、聞いたことがある。

でも歴史の授業できちんと聞いたのは、初めてだった。

 

 

20年前、魔法世界を二分する(連合と帝国)大きな戦争があった。

そしてその戦争は、「完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)」と言う悪の秘密結社の陰謀だった。

それを止めて、しかも世界を救ったのがアリア先生のお父さん。

ナギ・スプリングフィールド・・・紅き翼(アラルブラ)

 

 

「・・・何だか、歴史って言うよりお伽噺みたい」

 

 

まぁ、国とか戦争とか、そう言う難しいことはわからないけど。

60年前、私が生まれた時も・・・まぁ、今は関係ないよね。

 

 

とにかく、アリア先生のお父さんは、この世界では英雄扱いされてるってわかった。

でも・・・。

 

 

「なーに見てるのっ!」

「ひゃわっ!? コレットさんっ、図書館では静かにっ!」

「おおっ、ゴメンゴメン! で、何々・・・おお、ナギのこと調べてたの!? だったら聞いてくればいーのにー!」

「へ・・・?」

 

 

コレットさんは、ナギさんの大のファンらしいです。

ナギグッズ(時計とかフィギュアとか抱き枕とかマグカップとか)を色々と見せてくれた後、極めつけにファンクラブの会員証を見せてくれました。

・・・英雄と言うより、アイドル・・・?

 

 

「そうそう、最近話題なのがコレ!」

「え、何ですか・・・録画?」

『明日菜さーん、のどかさーん、見てますかー!?』

 

 

ピシリ。

その録画を見せられた時、私は固まってしまいました。

 

 

『一ヵ月後、オスティアで開かれる大会で会いましょーっ!』

「・・・何ですか、コレ」

「グラニクスって街の拳闘士でね、ナギのソックリさんなんだよ!」

「へー・・・」

 

 

コレットさんには悪いけど、私は急速に冷めて行きました。

だって、コレ・・・ネギ先生じゃないですか。

逮捕されたんじゃ・・・?

 

 

「・・・そういえば、コレットさんはオスティア祭に行くんですか?」

「オスティア祭?」

 

 

ナギさんの話から、話題を転換します。

オスティア祭については、さっきの歴史の授業でも先生が言っていました。

戦後20年を記念する大きなお祭りで、私は魔法世界への留学の一環として、アリア先生達にくっついて行く予定なんですけど・・・。

 

 

「うーん、でも私寮生だからなー。そりゃ生ナギは見たいしオスティア観光にも興味あるけど・・・」

「ああ、そっかー・・・」

「・・・何やら、面白そうな話をしていますね」

 

 

その時、私達の傍に、「本のオバケ」が現れました。

いや、別にオバケでも何でもなくて、単に顔が見えなくなるくらい本を抱えている誰か。

声からして・・・アリア先生?

『人造異界の存在限界・崩壊の不可避性について』、『魔法理論における空間認識と生成の関連比較』、『魔素・魔力の源泉と諸地域の地形について』、『亜人種の祖先の正体見聞』・・・背表紙の名前は、私には全然わからない物ばかりで。

 

 

「あ、持ちますっ」

「いえいえ、大丈夫ですよ。それより・・・」

 

 

アリア先生は、指先に持った紙を、プルプル震えながら差し出してきました。

えっと・・・「オスティア記念式典警備任務」?

 

 

「今、掲示板に張りに行く所だったのですけど・・・各学年から2人、オスティア祭の警備要員を募集しています。コレットさんもどうですか?」

「おおっ・・・これはまさに渡りに船! 選抜されたらお菓子食べ放題、しかも生ナギに会えたり・・・!」

「生ナギ?」

 

 

生ナギ(ネギ先生)はともかく。

 

 

「じゃあ、コレットさんも一緒に行けるかもしれないんですねっ」

「むむむ、志願してみよっかなー」

「ふふん、はたしてそんな簡単に行くのでしょうか!」

「何奴!?」

 

 

私達が振り向いた時(アリア先生は振り向いても見えないけど)、そこには褐色の肌に金髪のツインテールの女の子と、寡黙そうな、黒髪おかっぱな女の子がいました。

 

 

「委員長!?」

 

 

エミリィ・セブンシープさんと、ベアトリクス・モンローさん。

私達3-Cの、委員長さんと書記がそこにいました。

 

 

 

 

 

 

Side コレット

 

「貴女のような落ちこぼれが、このような名誉ある任務に選ばれるとお思いですか! 甘いですね!」

「うげ・・・や、やっぱ委員長も志願するの?」

「当・然・です! 生ナギに会うのは私!」

 

 

むむむ、委員長め~。

・・・うん? 生ナギ?

委員長は、キランッ、と光る一枚のカードを取り出した。

ナギがプリントされてるそのカードは、しかもその番号は!?

 

 

「か、会員番号、78ィッ!? そんにゃばにゃな!?」

「それって、凄いんですか?」

「ふ・・・そんなことも知らないとは、モグリですね!」

 

 

ビシィッ、と「本のオバケ」を指差す委員長。

実際、二桁ナンバーなんてそうはいないよ。

サヨが、何かアワアワしてるけど・・・。

 

 

「今まで黙っていましたが、ナギ様のファンと言うならば私こそが真のファン! 親の代からのファンです」

「はぁ、それはそれは・・・」

「そんなわけで、オスティア警備任務の枠は、私が頂きます!」

「わ、私だって負けないよ!」

「ふ・・・貴女のような落ちこぼれが、私に勝てるつもり?」

 

 

余裕シャクシャクって感じで、委員長は私を見下した目で見る。

くぅ、でも確かに委員長は凄いし、私は成績最下位だけど~。

 

 

「お嬢様、そろそろ・・・」

「ん? ああ、もうこんな時間。それじゃ、オスティア警備任務は私が頂きますから」

 

 

諦めなさいな、と言い残して、委員長は去った。

く、くぅ――――っ、委員長めぇ!

 

 

「・・・でも委員長、アレで実力は凄いからな~、勝てないよ~・・・」

「だ、大丈夫だよコレットさんっ」

「うう、サヨ~」

「コレットさんにだって、委員長さんに負けない良い所、いっぱいあります! わ、私も手伝うし!」

「そう言ってくれるのは、嬉しいんだけどね」

 

 

でも実際、実力差がありすぎるよ。

選抜試験の週末までに、どうにかできるとはとても・・・。

 

 

「まぁ、成績で言えば不可能でしょうね」

「あ、アリア先生!?」

 

 

「本のオバケ」・・・もとい、アリア先生は、持っていた本の山を手近な机の上に置くと、ふぅ、と息を吐いた。

うう、はっきり言うなぁ。

サヨが慌てたように、アリア先生の名前を呼ぶ。

 

 

「ですが、成績表で警備任務に就く生徒を選抜しない以上、必要なのは別の要素です」

「へ・・・?」

「究極的なことを言えば、委員長さんに勝つ必要すら、無いわけです。重要なのは『選抜される』ことなのですから」

「え、えーっと?」

「わかりませんか?」

 

 

真っ直ぐに、私を見つめるアリア先生。

 

 

「魔法を扱う力の優劣や、秀でた才能などで全てが決まるわけではありません。それで全てが決まるなら誰も何も、私だって苦労しません」

「・・・10歳で教師やってる天才児に言われてもなー・・・」

「でも、貴女が私に劣っているわけじゃあ、無いでしょう? 私は父親・・・ナギ・スプリングフィールドについて、貴女ほど知りません」

 

 

初めて聞いた時は、ビックリしたけどね。

でも不思議と、アリア先生を可哀想だとは、思わないんだよね。

どうしてかな・・・?

 

 

ちら、と、サヨを見る。

サヨは不思議そうな顔をしながら、微笑んだ。

 

 

「それに・・・」

 

 

こほん、とアリア先生は咳払いをした。

何だか、ちょっぴり胸を張って、自慢しているようにも見える。

10歳っぽくて、可愛かった。

 

 

アリア先生は、にっこりと笑って、言った。

 

 

「少しばかり成績面で難しい生徒と一緒に頑張ることには、いささか自信があります」

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

バターをクリーム状になるまで練り、粉砂糖を加えます。

さらに卵を適量加え、アーモンドパウダーを混ぜていきます。

薄力粉は3回に分けて投入、この間は非常に気を遣います。

できた生地をめん棒で2~3cmの厚さにならし、冷蔵庫の中で数時間休ませます。

 

 

「休ませた生地が、こちらだぞ!」

「ありがとうございます、スクナさん」

 

 

その後、生地を叩きながらゆっくりと伸ばし、あらかじめとっておいた型に敷いていきます。

この際、はみ出した生地を親指を型の隅の底に当てながら行うと、形良く仕上がります。

余分な生地を取り、底面の生地に小さな穴をあけ、再び冷蔵庫で一時間。

 

 

「一時間休ませたのが、こちらだぞ!」

「ありがとうございます、スクナさん」

 

 

その後160℃程度に温めたオーブンに複数回入れ、焼き加減に注意しつつ焼き、しかる後に冷まします。

 

 

「フラン生地はできてるぞー!」

「はい(ジー)・・・素晴らしい出来です、スクナさん」

 

 

フラン生地は、牛乳と卵黄、グラニュー糖、強力粉をそれぞれ適量混ぜ、それを中火で煮た物です。

バターを2、3等分に切って加え、ボウルに移して粗熱をとり、生クリームを加えて完成です。

 

 

「仕上げに入りましょう」

「あいあいさーっ、だぞ!」

 

 

天板に生地を乗せ、フラン生地を流し込み、表面をならします。

苺ジャムをべらで均一に、しかしたっぷりとつけます。

そしてこれが最重要、大粒の苺を丁寧に洗って水気をとり、ヘタを切り取ります。

表面に丁寧に、しかし大胆に苺を乗せ、茶こしで粉砂糖をまぶしていきます。

 

 

「苺のタルト」の、完成です。

最後に、スクナさんと一緒に念を入れます。

思い浮かべるのは、あの人の笑顔。

 

 

・・・。

 

 

「・・・完成です」

「うむ」

 

 

審査員の初老の男性教諭に、取り分けたタルトをお皿に乗せて、渡します。

ゆっくりと、口に運ばれるタルト。

待つこと、数秒。

 

 

クワッ! と目を見開く審査員の男性教諭。

彼は力強くビシィッ、と私達を指差すと。

 

 

「勝者、絡繰茶々丸・スクナペア!!」

「「ありがとうございます(だぞ)」」

「バ・・・バカにゃっ!?」

 

 

周囲がドヨめく中、対戦相手のペア(猫族の亜人ペア、可愛らしいです)が審査員の判定に意義を申し立てました。

 

 

「ボクらの『アプリコットと抹茶のミルフィーユ』が、そんなただのタルトに負けるにゃんて・・・!」

「認められないのにゃ!」

「たぁしかに! 貴様らのミルフィーユは美味かった。素材はどれも最高級、手際も手順も寸分の狂いも無く、完璧だった・・・だが! 貴様らの菓子には足りない物がある・・・!」

「「た、足りにゃい物!?」」

「愛だ!!」

「「!?」」

 

 

はっきり言われると、照れます。

 

 

「食材への愛・・・そして何より、食べてもらう相手への愛が、このタルトには十二分に込められているのだ!! 貴様らは試験を突破するのに必死で、それを忘れてしまった・・・!」

「「が、がーん、だにゃ」」

「味は貴様らの勝ちかもしれん。しかし私は、彼女らの愛情のこもったこのタルトをこそ、選びたい・・・」

 

 

私達が使用した食材・素材は、小麦粉から卵、バターに至るまで、全てスクナさんの作物でできています。

最近、畜産も始めたスクナさん。

別荘の農場は、今頃私の妹達や弟達が運営しているはずですが・・・。

 

 

加えて、相手への愛情は海よりも深く。

・・・ガイノイドの私が抱く、愛情。思えば・・・思えば?

 

 

「よって! オスティア菓子博への出場権は、絡繰茶々丸・スクナペアに与える!」

 

 

マスター、アリア先生。

何だかよくわかりませんが、私達はオスティア祭に行けるようです。

 

 

 

 

 

Side 暦

 

あのアーニャとか言う女の子がここに来てから、随分経った。

でもフェイト様は今も変わらず、寛大な処置を施している。

具体的には・・・。

 

 

「な、何もフェイト様がお食事を運ばなくともっ・・・!」

「どうして?」

「ど、どうしてって、それは、えとっ」

 

 

ガラガラとカートを押して歩くフェイト様に、どう説明した物かと頭を抱える。

わ、私だってフェイト様にお世話されてみたいのに・・・!

 

 

「暦、嫉妬?」

「バッ、ち、違うわよ環!」

「そう」

「あ、ふぇ、フェイト様ぁ~・・・」

 

 

あっさりと頷いて、先に歩いて行ってしまわれるフェイト様。

も、もう少し、言葉の裏を読んでほしい・・・!

でもフェイト様に不満を言うわけにもいかないから、隣で「私、悪くないもん」と目で語っている環を睨む。でも問題は解決しない。

 

 

ちなみに、調と栞はここにはいない。

調は、「あの小娘には近付きたくありません」って言ってた。

栞は、<黄昏の姫御子>奪取の準備に忙しい。

それで、焔は・・・。

 

 

ドォンッ!

突然、廊下の先の部屋が爆発した!

 

 

あれは、捕虜の部屋!

 

 

「ま、待ってくれ小娘、いやア、アーニャ、落ち着け!」

「るさいわね! いい加減私をここから出しなさいよ!」

「聞き分けの無いことを言わないでくれ、その、困る!」

「困ればいーじゃない!」

 

 

炎を纏った赤い髪の女の子・・・アーニャと、メイド服を着た焔が部屋から飛び出してきた。

ちなみに、私達も全員メイド服。

完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)」構成員の制服以外では、フェイト様が私達に支給した唯一の服。

・・・一時期、フェイト様の性癖について環達と本気で議論したことがあるのは、内緒。

 

 

アーニャは炎を纏わせた拳や蹴りで焔に攻撃し、焔も能力でアーニャの近くの空間を爆発させてるけど、それは牽制以上の意味を持たない。

直撃させないのは、フェイト様の命令もあるんだろうけど・・・。

それにしても、何で焔はあの子を気にかけるの?

 

 

「やれやれ・・・」

 

 

フェイト様が肩をすくめるような動作をする。

次の瞬間、フェイト様はアーニャの傍に瞬動で移動していた。

 

 

振り上げられたアーニャの拳に手を添えて、その動きを抑える。

フェイト様に気付いたアーニャが、たぶん反射だろう、もう片方の拳をフェイト様に放った。

パァンッ・・・乾いた音を立ててフェイト様がその拳を受け止め、手を握り締めた。

 

 

「な・・・あ、あんた」

「随分とお転婆なんだね、キミは」

「・・・っ」

 

 

キッ・・・とフェイト様を睨みつつも。

何故かアーニャの顔はほんのりと、赤く染まっていた。

・・・フェイト様、顔近くないですか?

と言うか、あ、あれぇ・・・?

 

 

「・・・フェイト様って・・・」

「言わないで、環・・・」

 

 

ひ、ひょっとして私、とんでもないことしちゃった、かも・・・?

 

 

 

 

 

Side オストラ伯クリストフ

 

ひゅー、ひゅー・・・。

自分の身体から出ている呼吸音を、これ程わずらわしく思うことがあろうとは。

 

 

「ごふっ、ぐふっ・・・」

「伯爵・・・っ」

「良いっ・・・」

 

 

言葉を紡ぐだけのことに、これ程の力がいるとは。

私も、老いた。

正直な話、これ以上実務に耐え得るとは思えない。

 

 

だが、問題がある。

私には、後継者がいない。

後を任せることのできる人材がいないのだ。

今私が死ねば、我が領地は連合との信託統治協定に基づき、メガロメセンブリアの直轄地となってしまう。

 

 

我が領地の難民キャンプで過ごしている、奴隷になることもできずに難民生活を強いられている民が、10万余。

20年もの難民生活で心身ともに疲弊した彼らが、メガロメセンブリアの市民権を得られるとは思えない。

また、行き場を求めて流れる者もおろう・・・。

 

 

新オスティアができたと言っても、崩落を免れたわずかな浮き島を使用しているに過ぎず、難民全てを受け入れられるわけでは無い。

我が領地以外にも、難民の扱いに困っておる領主は多いのだから・・・。

 

 

「・・・ふぅ・・・」

 

 

発作が止まり、汗ばむ身体を寝台に横たえる。

この領地を治めるようになってから、幾十年・・・。

 

 

『民を、頼むぞ』

 

 

あの日、メガロメセンブリ元老院に難民の保護と援助を訴えたアリカ様は、その元老院によって捕らわれた。18年前、処刑されたと発表された時には、胸が張り裂けるかと思うた。

だが、当時の私には、どうすることもできなんだ・・・。

せめて、アリカ陛下の最後の勅命を守ろうと、これまで難民を庇って来たが・・・。

 

 

「時間が、無い・・・」

「伯爵閣下・・・」

「・・・ここに、連れてきてくれ、頼む」

 

 

事の真偽は定かでは無いし、また本人の意思も、そもそも難民の現状を知っているのかさえわからぬが。

だが、もはや頼るものが、縋れるものが、無い。

これで、無理なら・・・。

 

 

「アリカ陛下のご息女を・・・ここへ」

 

 

10歳の娘に、私は大変なものを押し付けようとしている。

この罪悪、私は地獄に堕ちるだろうな・・・。

 

 

「・・・頼むぞ・・・ジョリィ・・・」

「・・・御意(イエス・)我が領主(マイロード)

 

 

私の傍らで黒髪の騎士が、礼をしていた。

 

 

「我が命に、代えましても」

 

 

その瞳に、決意の色を浮かべて。

 




茶々丸:
茶々丸です。ようこそいらっしゃいました(ぺこり)。
ネギ先生の方は、ほぼ原作の流れに沿っているようにも感じます。
しかし、はたして・・・。
転じてアリア先生ですが、どうもオスティア行きの準備を整え始めたようです。
そして、何か妖しい動きも・・・目が離せません(ジー)。


茶々丸:
次回は、原作で言う箒レースです。
そして、私達は安穏とした生活に慣れた代償を払うことになります・・・。
それでは、私はアリア先生に苺のタルトを食べさせて差し上げなければなりませんので・・・。
これで、失礼致します(ペコリ)。

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