魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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第3部第14話「始末と準備と、お約束」

Side クルト

 

その時、私は完璧な笑顔を浮かべていたと確信しています。

宰相府の執務室の机の上で、通信画面を前にしながら。

 

 

「それでは、当日はお願いしますね」

『いや・・・まぁ、ここまで来て渋ったりはしねぇけどよ』

「お願いしますね?」

『いや、まぁ・・・ああ、わかったよ』

「よしなに」

 

 

通信相手、メガロメセンブリアのリカードの引き攣ったような顔を見ながら、私は通信を切りました。

まぁ、正直、この5年はリカードの引き攣って無い顔を見たことが無いですがね。

・・・流石に言いすぎですかね。

 

 

まぁ、いずれにせよ、いよいよ来月です。

アリア様の結婚式において、未だに漠然としているアリア様の出生について公表します。

すなわち、アリカ・アナルキア・エンテオフュシアの真実を公表する。

とは言え、アリカ様は政治の表舞台に戻られる意思は無いですし、それも同時に公表します。

この件を政治的に利用させない環境を作るために、5年かかりましたが・・・。

 

 

・・・25年か。

いろいろあったな・・・と思うのは、どうにも年をとった感がしますね。

近衛近右衛門・・・あの老人の協力のおかげで、新メセンブリーナは正式に解体。

アリカ様の真実を公表する環境は、完璧に整ったと言えます。

合法的かつスムーズに信託統治も開始できましたし・・・あの老人自身は辺境で開拓使でもさせれば良いでしょう。

 

 

「失礼致します、宰相閣下」

 

 

私が椅子に深く座り感慨深い想いに浸っていると、一人の少女が執務室に入って来ました。

入って来たのは、赤に近い茶色の髪をした10代の少女。

名前は、ヘレン・キルマノックさん。

 

 

オスティア王立ネロォカスラプティース女学院の制服を着た彼女は、私に一礼した後、手元の書類の束を見つつ、私に報告を始めます。

 

 

「ええと・・・来年の女王陛下の結婚式の招待状の件ですが」

「ああ、終わりましたか?」

「はい、3日以内に魔法世界各所の招待客の手元に届く予定です。結婚式、午餐会、晩餐会に舞踏会に関する物をそれぞれに・・・」

 

 

彼女は元々、法務官候補として宰相府に来ていたのですが、少しばかり手回しして私の下級秘書官の仕事も体験させてみたのです。

・・・これがなかなか、独創性に欠けますが、誠実で真面目に仕事に取り組む良い官吏です。

まぁ、私の後継者としては性格が良すぎますが・・・後釜を作るのも大事な仕事ですし。

 

 

アリア様の学友と言うことで、少し試してみたのですが。

まぁ、それなりの掘り出し物ですかね・・・まずは法務省次官でも目指させて見ますか。

無論、本人の意思と適正次第ですがね。

 

 

「・・・宰相閣下?」

「ああ、いえいえ、ご苦労様でした。下がって構いませんよ」

「はい、それでは失礼致します」

 

 

きっちりと礼をして出て行く少女の後ろ姿を見送りながら、私は来年1月の結婚式について考え始めました。

結婚式に招待するのは、各国要人や慈善活動家、その他著名人、王国要人や貴族、アリア様の家族や友人など2000人。

午餐会や晩餐会、舞踏会の準備もせねばなりませんし・・・忙しくなりそうですね。

 

 

まぁ、私よりは初代の宮内尚書の方が忙しいでしょうけど。

いやぁ、楽しみですねぇ・・・と、綺麗なお話はそこそこに。

 

 

「・・・研究施設ですか」

 

 

どうもアリア様のお話では、「Ⅰ」が脱走したのと同種の研究施設があと6つはあるのだとか。

人道的見地からすれば、研究所を摘発して救出すべきでしょうね。

私も鬼ではありませんし、そう言った者を救うのも私の役目と言えなくも無くもありませんしね。

 

 

政治的見地からすれば、闇に葬るべきですね。

 

 

ウェスペルタティア王家の遺骸から造られた人形とは言え、血は血ですから。

まさか王位を要求するような馬鹿はいないでしょうが、利用する人間はいるかもしれない。

ならば、そのリスクは最初から排除すべきでしょう。

見つけ次第、被験体ごと破壊すべきでしょう。

アリア様とアリカ様のためにも、その方が後腐れが無くて良い・・・。

 

 

「まぁ、それは今後の調査次第ですから、まずは足元から・・・ネギ君から、処理しましょう」

 

 

では、午後はアリア様の下へ向かいましょうか。

裁判自体は2年後ですが、実は結論は出ているのでね。

アリア様のサインを頂かなくては。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

浮遊宮殿都市、『フロートテンプル』。

エリジウム大陸のインフラ整備や食糧生産などの復興支援を除けば、現在、工部省が取り組んでいる最大の事業はコレだろうな。

 

 

「とは言え、まだ2年はかかりそうだけどな」

「でもこれだけ予算と人員を使ってる事業、そんなに無いですよねー」

 

 

再浮上した旧オスティアの浮き島のいくつかを使用した群島都市でもあり、定住人口としては約10万人を想定している。

現在は居住区と商業区に学校区、そして都市エネルギーを賄うための動力・重化学工業区などの都市エリアを建設中だ。

加えて、中央の最大規模の浮き島には『フロートテンプル』の中枢である『ミラージュ・パレス』が建設中だ。

なお、完成後には各所にロボットが配置されて都市の保全管理・治安維持などを行う予定だ。

 

 

宮殿都市の中枢である『ミラージュ・パレス』は、王国の中枢でもある。

王宮、王国陸軍及び王国艦隊司令部、近衛騎士団本部、親衛隊本部、王国傭兵隊詰め所、王国議会議事堂、官公庁などが建設中、まさに国家の心臓部だな。

 

 

「アーシェ、良く撮っておけよ。来週の中間報告に使うからな」

「あいあーいっと」

 

 

この『ミラージュ・パレス』には、七つの塔が建設される予定だ。

朱塔玉座(ヴァーミリオン・タワー)は『フロート・テンプル』最大の塔で、頂上付近に玉座が設置される他、アリアの私室などが置かれる予定。

その他、輝きの塔(グライス・タワー)青の塔(ブラウ・タワー)始祖の塔(アマテル・タワー)晴れの塔(ヘル・タワー)白の塔(ヴァイス・タワー)などがそれぞれ建設される。

そして第7の塔、魔の塔(デモンズ・タワー)。ここは・・・。

 

 

・・・どうでも良いが、私の好きなRPGで言うと、塔ごとに守護者とかいそうだよな。

その内、晴れの守護者とか白の守護者とか登場するんだろうか。

・・・無いな、うん。

 

 

「まぁ、そうは言ってもアレですよね」

「何がだ?」

 

 

工事の現場を視察して回っている私についてきながら、アーシェが周囲の光景をカメラに収めている。

20代後半にしては小柄なこの宰相府広報部王室専門室副室長は、やけに嬉しそうに再浮上した旧オスティアをカメラに収めている。

・・・まぁ、「千塔の都」の復興がコイツの夢らしいからな、嬉しいのだろう。

 

 

「何と言っても、今は結婚式場の建設ですよね! いや、楽しみだな~・・・って、どうしたんですか尚書、耳を塞いでそっぽを向いて・・・現実逃避?」

「やかましい、仕事しろ! カメラのレンズを叩き割るぞ!」

「ひぃっ!? この子(カメラ)だけは!?」

 

 

くっそ・・・そうだった、失念していた。

王宮と言うことは、私はアリアと若造(フェイト)の新居を作ってるってことじゃないか!

何だそれ!? いっそのこと王宮内で別居させてやろうか!?

・・・ダメだ、茶々丸が毎日のように私の夕食にニンニクを混ぜる様しか想像できん。

 

 

だが、断じて認めんぞ、若造(フェイト)との結婚など・・・まだ16だぞ!?

もう少し一緒にいた・・・ではなく、早すぎる! あと4年待つべきだ!

・・・いや、4年後でも何年後でもダメだ!

 

 

だが、この場では言えない、何故なら私はアリアの任命した閣僚の一人だからだ。

そんな私が、公的な場で女王の結婚に反対するのは不味い。

よって。

 

 

私的な場で、言うことにする!!

 

 

 

 

 

Side ネカネ

 

「こぉんのぉぶぅうぁかもんがああああああぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

この2週間ですっかり聞き慣れてしまった感のある怒鳴り声に、私はビクッ、と身体を竦ませる。

先週までは怒鳴り声と一緒に杖の先が飛んで来ていたから、ある意味で少しは手加減されているのかもしれないけれど・・・。

 

 

「で、でも、スタンさん」

「でもも何も杓子もあるか、この、バカもんがっ!!」

 

 

蔵の果実酒の出来を確かめていたスタンさんが、作業の手を止めて怒鳴る。

苺と氷砂糖が詰められた、たくさんの保存瓶が棚に並べれている。

たぶん、苺の果実酒を作ってるんだと思うけど・・・。

 

 

私は今、旧オスティアの外れの浮き島の一つに再建された村に引き取られているの。

グラニクスがあんなコトになってしまって、アリアが部下の人に頼んで私をここまで運んでくれたの。

そのことには、感謝してる。

・・・どうしてか、会ってはくれないけれど。

それに、女王様だなんて・・・まだ子供なのに、そんな大変なコトを。

 

 

「本人が納得してやっとるんじゃから、放っておけば良いんじゃ」

「でも・・・」

「いつまでも、お前の妹分ではおれんのじゃ! いい加減にわからんか、戯けが!」

 

 

怒鳴り声に、また身を竦ませる。

 

 

「まったく、毎日毎日よくも飽きもせずにアリアがネギがと・・・お前も少しは働かんか、今月末には納入せねばならんと言うに」

 

 

ブツブツと文句を言いながら、スタンさんは蔵から出て行った。

慌てて追いかけると、目の前に村の光景が広がる。

ウェールズの村とは雰囲気が違う、けれどどこか同じような光景。

 

 

雰囲気が違うのは、きっと、襲われる心配が無いから・・・。

忙しそうに村の中を駆け回る男の人や、母親の手伝いをする子供。

何となく苺の香りが漂う、のどかな村。

 

 

「でも、スタンさん・・・ネギだって・・・」

「・・・」

「そんな時に、結婚式の準備だなんて、そんな」

「・・・以前は、逆じゃったろうが」

「え?」

 

 

逆?

何のこと・・・?

 

 

「でも、スタンさんだってネギに会ったでしょう? あんなに元気が無いのに・・・それにアリアが。私、心配で・・・」

「ネギも、いつまでもお前の弟分では無いわ」

「え・・・」

「アリアがお前を咎めずに村に戻した訳を、良く考えるんじゃな」

 

 

ふんっ、と鼻を鳴らして、スタンさんは私を置いて歩いて行った。

その場に立ち止った私だけが、取り残される。

5日前、スタンさんはネギに会った。

正直、助けてくれるかもと思っていたけど、そんなことは無くて・・・。

 

 

のどかさんや、タカミチさんもいなくて。

私、どうすれば良いか・・・。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

私は今、極めて厳しい状況に置かれています。

まさに自分との戦い、超とハカセに与えられた自身の性能の限界への挑戦。

しかし私は、敗れるわけにも挫けるわけにもいきません。

私が敗れたら・・・。

 

 

「いったい誰が、アリアさんのドレスを作るというのでしょうか」

「ミセダロ」

「しかし姉さん、アリアさんの身体のサイズを知っているのは私だけなのです」

 

 

頭の上の姉さんとの問答も、慣れた物です。

ちなみにアリアさんの身体のサイズは、上から(――超重要最高国家機密――)です。

ここ1年・・・いえ、2年。

私はウェスペルタティアの王室御用達(ロイヤルワラント)の称号を持つ職人の方々と共に、アリアさんのドレス・・・それも、ウェディングドレスの準備を進めていたのです。

 

 

もちろん、アリアさんには知られるわけにはいきません・・・フェイトさんに知られるなど、もっての他です。

軍事機密並みの情報統制と箝口令を敷き、時として違反者を粛清(おしおき)し、時として私の私室の作業場を治外法権化し・・・そして、今日。

私の前には、完成間近のドレスが数着・・・。

結婚式用、昼食会用に晩餐会用、そして舞踏会用・・・検討と厳選を重ね、断念しては作り直し、休暇と称しては職人の方々と共に前人未踏の地へ材料採取へ赴き―――部族との戦闘、仲間との反目、未知の生物との遭遇―――挫折と後悔、そしてそれらを粉砕する鋼の意思と不断の努力を繰り返しました。

広報部と親衛隊の犠牲は忘れません(誰も死んでませんが)。

 

 

「そして今、私は神を超えます・・・!」

「ダイジョウブカオマエ・・・」

「今更じゃろ」

 

 

薄暗い作業場をフヨフヨと浮きながら、晴明さんがどうでもよさそうにそう言います。

ちなみに、晴明さんは作業初期において白無垢の採用を激しく主張し、現場を二分する論争を発生させました。

第三勢力まで現れ、あわや王国が分裂するところでした。

 

 

「・・・さぁ、もう時間がありません。もう少しです、皆さん、最後まで頑張りましょう!」

 

 

私がそう声をかけると、それぞれのドレスの周囲で作業を続けていた職人の方や、広報部や親衛隊の女性の方々が「おお―――っ!」と声を上げました。

ここは男子禁制です。

・・・晴明さんは、まぁ、今は少女人形ですので。

 

 

「トコロデヨー」

「小僧(フェイト)の服は、作らなくて良いのかの?」

「大丈夫です」

 

 

フェイトさんの服は、暦さん達の管轄なので。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

・・・最近、ナギ・スプリングフィールドがやたらに構ってくる。

とは言え別に仕事の邪魔をしてくるわけじゃないし、栞君のコーヒー目当てに来るくらいなら、まぁ、別に構わない。

だけど、コレはどうなんだろう。

 

 

「良いか、めしべがな?」

「・・・」

「でだ・・・おしべがな?」

 

 

彼はさっきから、何故か植物の受粉についての話を真剣にしている。

自室で昼食後のコーヒーを飲んでいる最中に、何の話をしているのか。

でも実際に、ナギ・スプリングフィールドは植物の絵を指差しつつ、僕に示している。

 

 

念のために言うけど、彼は別に植物学者でも理科の先生でも無い。

ただ真剣に、植物の受粉について説明しているんだ。

意味がわからない。

いや、昔からナギ・スプリングフィールドは理解が難しい男だったけれど。

 

 

「・・・キミはいったい、何の話をしているんだい?」

「あん? わかんねぇのか?」

「皆目、見当がつかない」

「マジか・・・くっそ、ジャックがいれば超絶うめぇ絵で説明してくれるんだがな。やっぱ当日、ぶっつけで教えるしかねぇのか・・・?」

 

 

何かブツブツと言っているようだけど、本当に何のつもりなんだろう、この男。

しばらく植物の絵と僕とを交互に見ていたけれど、何かを断念したのか溜息を吐いた。

 

 

「・・・直接的な表現無しって、辛いぜアリカ・・・」

「何か言ったかい?」

「あ、栞ちゃん、コーヒーもう一杯」

「・・・」

「・・・淹れてあげて」

「はい、畏まりました」

「・・・相変わらず、フェイトの言うことしか聞かねぇなオイ」

 

 

ナギ・スプリングフィールドの言葉にクスクスと笑いながら、栞君がコーヒーを淹れ始める。

彼女の姉と同じように、独特な良い香りが部屋に漂う・・・。

 

 

・・・例の件の翌日からも、栞君や暦君達は、変わらずに僕と接してくれている。

何も無かったかのようだけれど、何も無かったことにはできない。

それがわかっているからこその、変化の無さ。

 

 

「けっ・・・」

 

 

アレ以来、どう言うわけかナギ・スプリングフィールドは僕と彼女達との関係を揶揄しなくなった。

話したことも無いし、聞かれたはずもない。

だけど、確かに何かを読んだのかもしれない。

 

 

「よし、じゃあ、もっかいやるぞ?」

「だから、何の話をしているんだい、キミは?」

「いや、だから、こう・・・なんつーか、身体の不一致による擦れ違いを避けるためのだな?」

「はぁ・・・?」

 

 

だけど僕は、この男を理解することは、やはりできそうになかった。

この男が、義理の父親か・・・。

 

 

「それより、今日はネギ・スプリングフィールドの所に行かなくて良いのかい」

「ん、ああ・・・」

 

 

どこか億劫そうな表情で、ナギ・スプリングフィールドは頭を掻いた。

ここの所、数日に一度は様子を見に行ってるようだけど。

 

 

「今日は、アリカが一人で行くってよ」

 

 

まぁ、僕は興味が無いけど。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

どうですか、これでわかったでしょう。

魔法世界の絶対者は私です。私が魔法世界の法であり、秩序なのです。

この魔法世界に生きとし生ける者は、その血の一滴まで私のモノです・・・。

 

 

・・・とか言えたら、かなり楽なんですけどねー。

戦争が終わったからと言って、それで問題が皆無になるわけが無いのですよ。

ズォーダ○大帝みたく、絶対的な力を持てば周りが黙るなんてあるわけが無く。

 

 

「軍縮・・・?」

「は、左様です」

 

 

私の執務室にやってきたクロージク財政尚書とテオドシウス外務尚書は、財政省と外務省の共同提案として、「魔法世界軍縮条約に関する提言」なる物を私に渡しました。

何でも、艦隊を中心に軍備を縮小しようと言う内容だそうで。

 

 

主力艦艇(戦艦・空母)の一定期間の建造停止、保有艦艇量の制限、新規軍事施設・工場の建造の禁止などがその主な内容です。

 

 

「エリジウム征伐が成った今、強大な軍備は財政を圧迫するだけです。何しろ明確な敵国が存在しなくなったのですからな、必要以上の軍拡に走る必要は無いはずです」

 

 

クロージク財政尚書は熱心に説きました、国家の財政の安定について責任を持つ彼の立場からすれば、それは当然の論法であると言えます。

 

 

「加えて、我が国の軍備が強すぎるとの声が各国から出ている。各国の我が国の大使館からは、ウェスペルタティアを仮想敵国に各国が秘密軍事同盟を結ばないとも限らない、との情報も来ている」

 

 

テオドシウス外務尚書は、青銀色の切れ長の目をさらに細めながら、そう言います。

ウェスペルタティアが脅威として公然と認識される前に、先制の一手を打つべきだと主張します。

それも軍事力では無く、政治力・・・外交の力で。

まぁ、新メセンブリーナが滅亡した後、ウェスペルタティアが新しい敵にされたらたまりませんからね。

 

 

「戦乱の時代は終わった、と言うことだ。少なくとも民はそう考えている、これからは治世の時代だ」

「民政により注力するためにも、財政には余裕を持たせたい。無論、我が国だけが一方的に軍備を制限することはできない、なので、外務省と協力して条約として・・・」

「・・・良いではありませんか」

「は?」

 

 

空いている方の手を伸ばして、ペン軸からペン先まで全てが硝子製のペン・・・『ガラスペン』を手に取ります。

毛細管現象を利用した筆記具で、筆の穂先状のガラスの側面に溝があり、一度インクにつけると金属ペンの軽く十倍以上は書き続けることが出来る優れ物です。

 

 

特に私が使っているのは国章、王室紋、個人の御印などが精緻を極めた細工が施されている物で、「陛下専用ガラスペン」としてイギリカ侯爵家から贈られた物です。

それで、サラサラと提言書にサインします。

 

 

「時代が変わると言うのなら、我が国が率先して変わるべきでしょう。対立の図式を無くし、平和な魔法世界を作るために最大の力を保有するウェスペルタティアこそがまず武器を手放すと言うのは、悪い選択肢では無いはずです」

「・・・なるほど」

「なんでしたら、艦艇の新規建造計画の先行停止や、グレート=ブリッジ要塞の破棄などを条約とは無関係にやっても良いかもしれませんね・・・ただし」

 

 

シャッ、とサインを終えて、提言書をテオドシウス外務尚書に返します。

まぁ、後は専門家で話し合ってください。

 

 

「軍備縮小に伴う軍人・軍属・軍需産業関係者の失業問題への対応計画書と、国防省・王国軍トップとの合意文書の策定、そして各国との協議の日程表、最低、この3つが無い限り条約は認めません。それでよろしいですか?」

「は、すぐに策定いたします」

「外務省も、すぐに各国との調整に入るよ」

「お願いします」

 

 

パチンッ、と京扇子を閉じて、2人の尚書を送り出します。

ふぅ・・・午後の最初のお仕事が終わりました。

と、思ったら・・・。

 

 

「いやはや、お見事な采配ですね。このクルト、感激の極みですよ」

 

 

入れ替わりで、クルトおじ様がやってきました。

褒められているんでしょうけど、何故か馬鹿にされてる気分になります・・・。

 

 

「・・・ネギの件ですか?」

「おや、おわかりでしたか」

「言ってみただけですよ・・・」

 

 

他にも候補が無くも無いですが、一番はネギのことだと思ったんですよ。

そしてクルトおじ様が差し出してきた書類に目を通して・・・。

 

 

「恐れながら、アリア様はネギ君にお会いになられない方が良いでしょう」

「・・・どう言う意味で?」

「政治的な意味で」

「・・・・・・別に、会いたいとは言ってませんが」

「なら、良いのですが」

 

 

・・・今さら会って、何が変わるでも無し。

私は、その書類にサインしました。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

「小太郎!」

「わぷっ、な、何やねっ!?」

 

 

ゲートポートから出てきた小太郎を、両手で抱き締めたる。

もう身長がうちよりも高いから、子供のころみたいに頭を抱えれへんけど。

それでも、ワシワシと頭を撫でたる。

 

 

まぁ、今の小太郎やったら滅多なことは無い言うてわかってんねんけど。

それでも旧世界で襲われた言う話を聞いたら、心配もするんや。

うちの子や、心配するんもうちの役目や。

 

 

「長から聞いたで、ほんま無茶して・・・今夜はお説教やな」

「いや、子供やないんやから・・・」

「アンタなんか、うちからしたらまだまだ子供や」

 

 

抱き返してくれへんのが少し寂しい気もするけど、いつまでもゲートポート前におるわけにはいかんしな、うちは小太郎から離れた。

・・・したら、何故か今度は月詠が小太郎に抱きついた。

 

 

「・・・何しとるん、月詠のねーちゃん」

「へ? ここは抱きつく所やと思ったんですけど~? むむっ!?」

 

 

小太郎の胸に頭を預けとった月詠が、何かに気付いたかのように唸った。

 

 

「な、何やね?」

「・・・他所の女の匂いがします~・・・」

「アンタは俺の何やね!?」

「村上はんと何してきはったん・・・ナニしてきはったんですか~?」

「・・・何で言いなおした?」

「何となくです」

 

 

匂いの元が夏美はんであることは、否定せなんだんやね。

これは、ほんま、今夜は長くなりそうやね・・・。

 

 

「ははは、まぁ、小太郎もそう言う年なのだろう」

「うっさいわボケェ! てか、勝手に呼び捨てにすんな!」

「しかし、他に呼びようも無いしな」

「いくらでもあるやろ!? 勝負するかオラァッ!!」

 

 

うちと月詠と一緒に、カゲタロウはんも小太郎の迎えに来とるんやけど・・・。

例によって、小太郎はカゲタロウはんにキャンキャンと噛みついとるわ。

まぁ、これも慣れてしもうたけどな。

 

 

朝起きた時も、うちの部屋から出てきたカゲタロウはんに殴りかかったり、夕飯時に締め出そうとしたり・・・もうアレは、2人のコミュニケーションみたいなもんやね。

もう、一緒に住み始めて2年以上や言うのに。

 

 

「小太郎! そのへんにしとき、たまの休暇ぐらい大人しいにな」

「ちっ・・・」

「うむ、そうだぞ。レストランの予約時間に遅れてしまう」

「お前の都合なんざ知らんわ!」

「あはは~」

 

 

・・・聞きゃあせんしな。

月詠も楽しそうに笑とるし、まぁ、好きにしたらええわ。

そう思って、うちはカゲタロウはんの腕に自分の腕を絡めた。

 

 

・・・それを見て、小太郎がまたキレとったけど。

月詠が小太郎の腕を掴んどったから、動けんかったみたいやけどな。

 

 

 

 

 

Side シオン

 

新オスティアの市街地は、3重の意味で盛り上がりを見せているわ。

第一に、新メセンブリーナとの戦争が終わり―――それも、ほぼ完全勝利と言う形で―――、家族の元に多くの兵士が返って来れたこと。

ウェスペルタティアの軍事力を誇示できたことで、多くの人々は優越感を満足させているわ。

 

 

もちろん、影では戦死した人の家族が泣いているのでしょうけど。

遺族年金制度が整備されたとは言っても、何の慰めにもならない。

 

 

「戻る物、戻らない物・・・あ、ごめんなさい」

 

 

食材を詰め込んだ紙袋を持ちながら通りを歩いていたら、翼みたいな手を持つロボット『ガーディアン』の一体にぶつかってしまったわ。

大きさの違う目の一つが、ピピッ、ピピピッ、と明滅しながら私を見つめる。

・・・勘違いで無ければ、「こちらこそ」とか言われた気がするわ。

 

 

「ええと・・・」

 

 

・・・第二に、もうすぐ新年だから。

新オスティアでは、新年のお祝いの準備が本格化し始めた時期。

市場や店舗は、今からが稼ぎ時ね。

戦争が終わった直後だから、いつもより盛り上がるのかもしれないわね。

 

 

そして、第三点。

ミス・スプリングフィールド・・・いえ、女王アリアの結婚式が近いからよ。

流石に戦争のあった年にはできないから、と言うことで延期になったけれど、来年早々には挙式。

こんな時期に、と言う意見もあるけど、こんな時期だからこそ、と言う意見もある。

いずれにせよ、多くの民が女王の、それもウェスペルタティアに最盛期をもたらした、若く美しい白銀の女王の結婚式を望んでいるの。

 

 

そして、一日も早くお世継ぎを・・・と、ね。

現在、王室には女王アリア一人、口には出せないけど、女王アリアに万が一のことがあれば、王国は旗手を失うことになるわ。

 

 

「私としても、貴重な友人と寛容な上司を同時に失うことになるわね」

 

 

アパートが立ち並ぶ居住区画、その中の一棟に入って、自分の・・・私とヘレンの家へ帰る。

お給料が良いから、年齢の割には良い家に住まわせて貰っているわ。

とは言え、私は今、停職中だけどね。

 

 

先月、テロリストを旧世界に渡航させてしまったから。

場合によっては刑罰か免職もあったと思うけど、今回は特殊なケースだからと言うので、半年の減棒と一カ月間の停職処分で済んだ。

 

 

「それにしても・・・」

 

 

紙袋をリビングのテーブルの上に置いて、軽く溜息を吐く。

・・・いつになったら、プロポーズしてくれるのかしらね、彼(ロバート)。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

旧オスティア。

ここに来るのは、人生で二度目。

立場は全然、違うけど・・・。

 

 

「・・・似たような物、か」

 

 

あの時も今も、たぶん大して、僕は変わっていない。

何もできていないと言う意味では、たぶん同じだ。

 

 

僕は今、旧オスティアの政治犯収容施設にいます。

メルディアナの祖父がいるのと、同じ屋敷。

と言っても、自由に会えるわけじゃないし・・・と言うか、あてがわれた部屋から出れないし。

・・・出る気も、特には無いです。

 

 

グラニクスの事件の後、1週間ほど僕の身柄をどうするかの交渉が持たれたらしいんだけど、どう言う内容の物だったかは知りません。

現に旧オスティアにいるのだから、結果はわかってるけれど・・・。

 

 

「僕は良いけど、のどかさんとタカミチが・・・」

 

 

それだけが、気がかりだった。

特に、のどかさんは・・・。

 

 

コン、コン。

 

 

その時、部屋の扉がノックされました。

正直、誰か来るとは聞いていなかったから驚いたけど・・・入って来た人を見て、さらに驚いた。

長いオレンジ色の髪に、青と緑のオッドアイ。

胸元の大きく開いた深い赤色のドレスと、光の無い瞳が、以前と違う印象を受けるけど。

そこにいたのは、間違いなく。

 

 

「明日菜さん!?」

 

 

麻帆良で出会って・・・5年前、旧オスティアで別れた僕の仮契約者(パートナー)。

今の今まで気が付かなかった自分が、本気で嫌になる。

僕はいったい、どれ程の物を取りこぼしてきたのだろう・・・。

 

 

「明日菜さっ・・・!」

「違う」

「え・・・」

 

 

明日菜さんの口から漏れたのは、以前のような快活な声じゃ無くて、どこか固くて冷たい声音。

僕を見下ろす瞳には、以前のような元気さが弾けるような輝きは無い。

 

 

「明日菜じゃない、アスナ」

「え・・・」

「私は、神楽坂明日菜じゃない」

 

 

淡々とした、声。

ただ事実だけを告げている、そんな口調。

 

 

「神楽坂明日菜から、伝言」

「で、伝・・・?」

「・・・『一緒にいてあげられなくて、ゴメン』」

 

 

――――――――――っ。

その言葉に、頭の中が真っ白になります。

・・・明日菜さん。

明日菜さんは、そうだ、いつだって・・・いつだって、僕に。

なのに、僕は。

 

 

「『助けになれなくて、ゴメン』」

「・・・明日菜さん・・・」

「『お姉さんになってあげられなくて、ゴメン』」

「明日菜さん、明日菜さん・・・明日菜さっ・・・!」

 

 

明日菜さん・・・アスナさんの手を握り締めて、名前を呼ぶことしかできない。

これがお伽話なら、きっと明日菜さんは帰って来てくれる。

帰ってきて、また僕を怒ってくれて、「私に任せなさい」って、それで・・・。

 

 

だけど、これは現実で。

哀しいくらいに現実で。

泣いても喚いても・・・明日菜さんは、帰って来ない。

帰って、来ないんだ・・・!

 

 

「・・・明日菜さんは・・・」

 

 

数分程して、アスナさんの手を離しました。

アスナさんのドレスの袖を濡らしてしまいましたけど、おかげで落ち着きました。

 

 

「明日菜さんは、貴女の中で生きてるんですか・・・?」

「・・・」

 

 

僕の質問には、アスナさんは答えてはくれませんでした。

ただ、無機質な瞳で僕を不思議そうに見つめています。

 

 

「ふむ、出直して来た方がよろしいですかね?」

 

 

不意に声がして、見てみると・・・部屋の扉の傍に、見覚えのある眼鏡の男性が・・・。

・・・クルト・ゲーデルさんが、そこにいました。

 

 

「いやぁ、今日は特に忙しい日でしてね」

 

 

そう言って、クルトさんは肩を竦めて見せた。

そしてその向こうには、両手に枷を嵌められた、のどかさんが・・・。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

いやはや、今日は本当に忙しい日ですね。

あっちこっち移動して、全く、忠勤を褒められてしかるべきでしょう。

 

 

「まぁ、話すことも無いので手っ取り早く用件のみ、伝えさせていただきますね」

「・・・はい」

 

 

どこか神妙に頷くネギ君に対し、アスナさんは興味無さそうに私の前を通り、歩き去って行きました。

ここの所、灰銀色の狼の治療効果なのか、安定してきたのですが・・・。

 

 

「おや、もう良いのですか?」

「伝言は伝えた、後は知らない」

「・・・左様で」

 

 

アスナさんの扱いも、難しいんですよねぇ・・・政治的に。

まぁ、表には出せませんよね・・・などと思っていると、アスナさんが出て行った扉の向こうから、ドゴンッ、と何かを殴るような音が響きました。

・・・おやおや。

 

 

「・・・では、ネギ・スプリングフィールド君」

「はい」

「国際法廷自体は2年後に開廷ですが、先日の関係国会議ですでにキミの処遇は決定されています。オフレコでお願いしますよ」

 

 

アリカ様の時もそうでしたが、国際法廷と言うのは要するに、判決を決めてから審議するのですよ。

法廷に立った時には、刑が決まっているわけですね。

国内裁判であれば逆転の目もありますが、国際法廷では逆転はほぼあり得ません。

 

 

今年はもう終わりますし、来年はアリア様の結婚式。

と言うわけで、2年後からと言うことになっているわけですが・・・。

 

 

「ネギ・スプリングフィールド君、キミを戦争犯罪、人道に対する罪、平和に対する罪その他17の罪状により、極刑に処させていただきます・・・が」

「・・・が?」

「本来なら公開処刑にする所なのですが、ユリアヌス・メナァを始めとして、キミがこの5年間の活動で助けてきた人達が助命請願をして来ていましてね。そのあたりの事情を考慮して・・・非公開での極刑に処させていただきます。さらに女王陛下が特別の恩寵を賜りましたので、自裁を許可します」

 

 

自裁・・・まぁ、つまり自殺ですね。

死刑の中では、かなり温厚な分類になりますかね。

ちなみに死刑より軽くはなりません、ネギ君には公的に「死刑」になって貰う必要がありますから。

いろいろな意味でね。

 

 

「・・・と言うのが、表向きの話」

「表向き・・・」

「ええ、2年後にキミは公的に死んだことになって頂きますが、まだ生きていて貰います」

「どう言うことですか?」

「いえ、単純な話で・・・幽閉します。終身刑ですね、一種の」

 

 

どう言うわけかアリア様は、ネギ君を「殺す」選択肢だけは受け入れませんでしたからね。

どうも、ネギ君のことを想って・・・と言うわけでは、なさそうなのですが。

 

 

「キミには、将来完成するアリア様の宮殿の一隅・・・『魔の塔(デモンズ・タワー)』で残りの人生を生きてもらいます。旧世界のキミの故国で言う所の・・・まぁ、ロンドン塔みたいな所ですよ」

 

 

中流階級くらいの生活は、保障しますよ。

保障するだけですがね。

 

 

「さて、そこで問題になってくるのが貴女です、宮崎のどかさん」

「待ってください、のどかさんは・・・!」

「良いんです、ネギさん。私・・・ネギさんと一緒が良いです・・・」

 

 

宮崎のどかさんには、選択肢を2つ与えておりました。

一つは、全てを忘れて旧世界に帰ること。

その際には、向こうでの記憶・記録処理などのアフターサービスもつける予定だったのですが。

彼女はもう一つの選択肢、ネギ君と一緒にいることを選びました。

ちなみにこの選択肢では、旧世界で彼女は事故死したことになります。

なので正直、意味がわかりませんが・・・。

 

 

よほどネギ君が好きなのか・・・。

それとも、よほど旧世界に帰りたくないのか。

両親との仲も、まぁ、何と言うか・・・。

・・・どうでも良いですがね。

 

 

「・・・クルトさん」

「何です? ああ、なんでしたらお二人でよく話し合ってくださって結構ですよ。あと2年ありますので」

「あ、はい、それは・・・・・・アリアに、伝えて欲しいことがあるんです」

「伝えるかどうかは別として、まぁ、聞いてはおきましょうか」

 

 

ちら・・・と扉の向こう側を気にしつつ、聞きましょう。

さて、何を言うのやら・・・。

 

 

「・・・大嫌いだって、伝えてください」

 

 

不敬罪ですね。

まぁ、今さらですがね。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

・・・私も、貴方が大嫌いですよ、ネギ。

心の中だけで、そう答えます。

目の前の扉の向こうにいるネギに、でも私は会いに行かない。

 

 

「・・・大丈夫か、タカミチ」

 

 

そんな私の目の前には、壁に若干めり込んで気絶しているタカミチさんと、それを冷然と見下ろす明日菜・・・もとい、アスナさん。

心配そうに声をかけたのはお母様で、まぁ、ウェスペルタティア王家の血を引く女性がメルディアナのお祖父様の家に集合しているわけですが。

 

 

「キライ」

 

 

身体に纏わせた気を霧散させながら、アスナさんは冷たく言い放ちました。

キライ・・・嫌い。

明日菜さんなら、タカミチさんに対してそんなコトは言わなかったでしょうけど。

でもこの人、結構な武闘派だったんですね・・・。

 

 

・・・どうも、カムイさんがアスナさんの精神を治したみたいなのですが。

その結果、仮人格であった「神楽坂明日菜」がアスナさんの中に沈んだ・・・一体化した、らしいです。

と言うか、カムイさんはどうしてそんな力を・・・。

 

 

「神威(カムイ)」

「はい?」

 

 

タカミチさんから視線を動かしたアスナさんが、無感動な声で言います。

 

 

「100年前にもいた・・・オスティアの先住者。滅多に出てこない、大事にする」

 

 

それだけ言って、アスナさんは歩き去って行きました。

・・・タカミチさん放置ですか、そうですか。

カムイさん、先住者と言うことは・・・一番古くから、オスティアの地にいたと言うことでしょうか。

それだけ古くから存在しているのなら・・・。

 

 

「・・・礼を言う、アリア」

 

 

不意に、お母様がそんなことを言ってきました。

意味は、わからないでもありません。

 

 

「・・・許したわけじゃないです。むしろ、殺すより酷いことをするんです、私は」

「それでも・・・命が助かるだけ、マシじゃ。アレだけのことをしておきながら・・・」

「・・・」

 

 

・・・違うんです、お母様。

私は別に、ネギが兄だから、好きだから助けるんじゃないんです。

むしろ、死んでしまっても構わないとすら思っているんですよ。

 

 

でも、殺さない・・・殺せない理由があるんです。

私はネギを、殺せない。

胸元に、そっと手を伸ばすと・・・そこには、ネギを生かせておく、生かしておかなければならない理由が、あります。

 

 

いたたまれなくなって、私はその場を後にします。

やっぱり、来るんじゃなかった・・・。

メルディアナのお祖父様に会いに行くと言って、クルトおじ様について来た物の。

 

 

結局の所、私は・・・。

 

 

 

 

 

Side リュケスティス

 

「直接会うのは久しぶりだな、リュケスティス」

「そうかな・・・いや、そうだな、グリアソン」

 

 

士官学校時代からの僚友の言葉に頷いて、俺はグリアソンと握手を交わした。

エリジウム大陸最大の軍港ブロントポリス。

エリジウム大陸に駐留する王国艦隊の停泊地でもあり、駐屯軍の総司令部が置かれることになる都市だ。

今日からは、このグリアソンが使っているオフィスが俺の城になる。

 

 

「司政官ぶりも板について来たんじゃないか、グリアソン?」

「よしてくれ、慣れない仕事をして、肩が凝っているんだ」

「謙遜か?」

「いや、本音さ、心からのな」

 

 

ケフィッススからの移動には少し疲労を覚えたが、この素直な僚友を前にすると、卑屈な性格の俺も自然と胸襟を開いて話すことができる。

貴重な友だと思う、俺にはもったいないくらいのな・・・。

 

 

「しかし、明日からはエリジウム北部の王国信託統治領はお前の管理下に入る。俺は本国に戻るが・・・」

「本国軍の陸軍最高司令官か、出世したじゃないか」

「お前ほどじゃないさ、リュケスティス」

 

 

カン、と軽くグラスを合わせて、互いの栄達を祝う。

まぁ、そうは言っても、俺達の仕事は楽な物では無いが・・・。

 

 

「・・・グラニクスだがな、やはりそのままの復興は不可能そうだ」

「そうか・・・地盤ごとダメになっているからな、やむを得ないが・・・」

「生き残った住民には、酷なことだとは思うがな」

 

 

内乱と大火を経験したグラニクスは、都市機能の8割近くを失ってしまった。

正直な所、復興するよりも新しい都市を造った方が早い。

 

 

そこで持ち上がっているのが、王国・帝国の総督府が合同で事業を立ち上げて、新主都を建設しようと言う計画だ。

エリジウム大陸中央部の高原地帯に計画都市を築き、両国の総督はそこで政務を行う。

将来の自治・独立に備えて、諸官庁・議事堂・空港や住宅地も必要になるだろう。

計画としては、5年で建設する予定だが・・・。

 

 

「そう言えば、ガイウス・マリウス殿が王国総督府の参事官に就任するらしいな」

「そう言う話があると言うだけだ、まだ確定じゃ無い」

「それはそうだが、そう言う話が出ると言うだけでも凄いことだ。本当だとすれば、我が女王も剛毅なことをなさる・・・エリジウムを統治するにあたって、ガイウス・マリウス殿の力を借りるのは良いことだ。そうだろう?」

「・・・そうだな」

 

 

なるほど、グリアソンはそう考えるわけか。

俺はむしろ、そう言う人事の話が故意に流されたことの方に何らかの意思を感じるがな。

我が女王か、それともあのクルト・ゲーデルか・・・?

 

 

・・・メガロメセンブリアの宿将にして共和主義の武の象徴、ガイウス・マリウスが王国の信託統治に協力する。

これは、単純ならぬ意味を持つ。

ガイウス・マリウスの旧部下を吸収し、彼を慕う民衆の支持を得る。

2週間前に新メセンブリーナ連合代表として近衛近右衛門と言う老人が降伏文書に署名し、連合が名実共に滅んだ今、彼の利用価値は高い。

 

 

さらに新メセンブリーナ連合の掲げていた共和主義が「偽物」であることを世界に対して証明する意味もあるだろう、そして彼が本来所属するメガロメセンブリアのリカード執政官にしてみれば・・・いや、よそう、考え過ぎるのは俺の悪い癖だ。

 

 

今は、自分に与えられた「王国信託統治領エリジウム総督」と言う職務を果たすことに集中するとしよう。

今は・・・な。

 

 

 

 

 

Side デュナミス

 

ふはははは、その程度の動きで私を倒せると思うなよ!

秒間2000撃、巨龍すら屠る重拳の連突!

 

 

「むぅんっ!!」

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドッ!

森から飛び出してきた全長20m程の黒竜に対し、私は全力で―――影が使えないので、以前ほどの威力は無いが―――拳を叩き込んだ。

 

 

「ぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬっ・・・ぬぅんっ!!」

 

 

ゴガンッ・・・と黒竜の顎に私の右拳が突き刺さった所で、勝負あった。

すまなく思う気持ちもあるが、これも自然の摂理。

悪く思わないでくれよ。

 

 

ズズ・・・ン、と黒竜が倒れるのを視界に収めながら、私はそんなことを思う。

この黒竜には恨みは無いが、仕方が無い。

 

 

「おおっ、デュナミス様がやったぞ!」

「流石はデュナミス様だ!」

 

 

黒竜が出てきた森の中から、わらわらと薄汚れた格好をした男達が出てきた。

手には手製の槍や弓を持っている、非常に原始的な武器だが、アレで黒竜を追い立てたのだから大した物だろう。

彼らは口々に私に礼を言いながら、黒竜の身体を分解し、肉を捌いて行く。

・・・まぁ、アレだけあれば、しばらくは食に困らずに済むだろう。

 

 

彼らは、グラニクスの民だ。

私と6(セクストゥム)で1万人ほど、混乱の中から避難させたのだが、ほとんどは帝国か王国の庇護下に入った。

その内の一部、1000人程がどう言うわけか私について来てしまったのだ。

ここはグラニクスから十数キロ離れた山中だ・・・見捨てるわけにもいかんし、かと言って彼らを養える程の力は無い。

男だけでなく、女子供に老人までいるのだ。

となると・・・。

 

 

「・・・どこかで村でも作った方が良いかもしれんな」

 

 

まぁ、根拠地を作るのは悪い話では無いが・・・。

逃亡した評議会の生き残りが気がかりではあるが、帝国や王国なら、新しく村を作ったからと言って悪いようにはすまい。

・・・地域密着型の悪の組織と言うのも、悪い物では無いだろう。

うーむ・・・。

 

 

「マスター」

 

 

その時、私の背後に白髪の少女が現れた。

・・・ここ20日ほど姿を見なかったので、そのまま女王の下に行ったのかと思っていたのだが。

ザッ・・・と片膝をついて私を見上げる6(セクストゥム)に、そんなことを考える。

・・・む?

 

 

6(セクストゥム)は胸元に、白い手紙のような物を持っていた。

その手紙には、ウェスペルタティアの印章が押されている。

 

 

「・・・何だ、それは」

「結婚式の招待状です」

「は?」

「・・・舞踏会・・・」

「・・・」

 

 

・・・いや、私は「死んだふり」中だからして。

そんな顔をされてもな・・・。

 

 

 

 

 

Side 新メセンブリーナ連合評議会議員

 

エリジウム大陸東南端の辺境、セントヘレナ諸島。

シレニウムとグラニクスの中間に位置する諸島であり、昔から反帝国の気風が強い地域だ。

グラニクスを脱出した我々5人は、帝国軍の監視の目を潜ってここまで移動してきたのだが・・・。

 

 

「ふん、こんな物しか出せんとは、辺鄙な土地だ」

「全くだな」

 

 

私達の前には鹿肉の料理が並んでいるが、グラニクスの料理の味に比べれば雲泥の差だ。

まぁ、卑しい漁民しかいない土地では、これが限度だろう。

我々がいるロングウッド館も、部屋数も少ないし家政婦も醜い。

館の質も料理の質も、女の質も悪いのではな。

全く、グラニクスでの生活が懐かしいわ。

 

 

・・・くそ、亜人の頭目に銀髪の小娘め、今に見ておれよ・・・。

いつか中央に戻り、奴らを・・・。

 

 

「そう言えば、奴はどうしたのだ」

「知らん、どうせまた村娘でも犯しに行ったのだろう」

「例によって、銀髪のか?」

「違いない」

 

 

ここには4人しかいない、5人目は今、どうやら女を抱きに出ているらしい。

奴は趣味が悪いからな、相手の女には同情する・・・二度と男を受け入れられない身体にされると言う意味で。

4人で少しばかり愉快な気分で笑うと・・・うん?

 

 

視界の隅が、霞んだような・・・。

そう思って周囲を見渡すと、どうも食堂に白い靄のような・・・霧のような物が。

 

 

「おい、火事じゃ無かろうな?」

「まさか・・・」

「いや、コレは霧か何かだろう。使用人が窓を閉め忘れたのではないか、質が悪いからな」

「そうらしいな・・・おい!」

 

 

1人が使用人を呼んだが・・・誰も来ない。

グラニクスでは呼べばすぐに来たと言うのに、全く田舎だな・・・。

もう一度呼ぶが、やはり来ない。

業を煮やして、席を立とうとした時・・・。

 

 

ギィ・・・と、食堂の扉が開いた。

 

 

ようやく来たか、と思えば、そこに立っていたのは先程も話に出た5人目の議員だった。

丸々と太った50代後半の小男で、お世辞にも美男子とは言えないが・・・。

その男に声をかけようとした時、その男が前のめりに倒れた。

グシャリ、と言う嫌な音を立てて、肉が潰れたかのように赤い液体が飛び散る。

 

 

視界の隅で白い霧が蠢き、扉側に座っていた2人の首が胴体から落ちた。

1人はまさに首と胴が離れたのだが、もう1人は頭部の半ばを切断された形であって、血と共に脳漿が飛び散って、私の顔に水っぽい音を立てて付着した。

 

 

「ひっ・・・!」

「う・・・うわあああああああぁぁあぁっ!?」

 

 

私よりも、私の隣に座っていた議員の方が狼狽していた。

椅子からずり落ちて床に這い蹲り、背後の壁まで下がる。

一方が取り乱すともう一方は冷静になると言うが、本当らしかった。

だが今は・・・取り乱した方がマシだったろう。

 

 

私達の前に、18歳くらいの黒髪の若い男が立っていた。

右腕が無いが、左手に白い剣を持ち・・・どうもこの霧は、この男から発されているようだった。

不意に、私の右頬を何かが掠めた。

 

 

「ぴぎぇっ」

 

 

背後から、蛙が潰れたような声が聞こえた。

見なくともわかる、もう一人が死んだのだ・・・男が投げた剣に貫かれて。

 

 

「ま・・・待て、待て・・・」

 

 

目の前の男が、テーブルの上の銀のナイフを手にするのを見て、私は両手を上げた。

無意識に降参の意でも伝えようとしたのか、あるいは別のか・・・。

だが、ここには反王国・反帝国派の武装兵が30人詰めていたはずだ、金と女を与えて懐柔しておいた・・・それが、何故か一人も来ない。

いや、そもそもこんな男の侵入を許すはずが・・・。

 

 

「ど、どこの誰か知らんが・・・要求があるなら、言ってみたまえ、聞こうじゃないか」

「・・・まぁ、お前は俺のことを覚えていないかもしれないが。俺はお前を覚えてる・・・アイネを犯していた議員の一人だ」

「あ、アイネ?」

 

 

そんな名前には、覚えが・・・いや、例のテロリストの・・・実験動物の雌か・・・?

 

 

「あ、ああ、そうか・・・A-00の縁者か。いや、彼女は残念だった・・・ウェスペルタティアの女王は人の皮を被った悪魔だな、あんな少女を殺すとは、いや全く、冷酷非情だ」

「・・・そうかもな」

「そ、そうだろう、そうだろう・・・おお、では我々は同志ではないか。共にあの銀髪の小娘から世界を取り戻そうじゃないかね・・・私が指導者・・・いやいや、キミが指導者でも良い、共に復讐を果たそうじゃないかね」

「復讐・・・そうだな、コレは復讐だ」

「そ」

 

 

うだろう、とは言えなかった。

喉にナイフが刺さっ・・・うごごお、おっ・・・おっ・・・!?

 

 

「ぁまっ、ででっ・・・ぜがっ、はぶ・・・はぶ、んっ・・・!!」

「世界の半分? そんな物・・・」

「・・・ぃのっ・・・ぢ・・・だへっ・・・はぁっ・・・!?」

「そんな物・・・いるか・・・・・・!!」

 

 

床でのたうつ私の身体を踏みつけ固定し、サラサラと砂のように崩れて行く男が。

喉元のナイフを掴み、私のくびぇ

 

 

・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・アイネ・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

何かを感じたわけでも無いけど、ふと立ち止まった。

宰相府の通路の窓からは、二つの小さな月と無数の星が輝いている・・・。

 

 

「・・・ふん」

 

 

特に意味も無く上げた視線を戻して、再び歩き始める。

宰相府のこの通路・・・つまりはアリアの寝室への通路だけど、ここも歩き慣れた物だ。

あの一件以来、窓からは入らずに普通に入口から入ることにしている。

・・・まぁ、今日も吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)がいるのだろうけど。

 

 

「・・・おや」

 

 

噂をすれば何とやら・・・と言うわけでは、無いだろうけど。

アリアの寝室に至るまでの中間地点で、金髪の少女が通路の真ん中に立っていた。

言うまでも無く、吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)だ。

 

 

眼光が、窓から漏れる月明かりに照らされて、鋭く輝いている。

右手には、特徴的なガントレット。

 

 

「・・・どこへ行く、若造(フェイト)」

「・・・言う必要があるかい?」

「いや、無いな」

 

 

唇を笑みの形に歪めながら、吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)が言う。

右手の支援魔導機械(デバイス)、『魔導剣-01』が起動して、『疑似・断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)』が薄暗い通路を照らす。

自然、僕もポケットから手を出さない物の、臨戦態勢を取らざるを得ない。

 

 

「実はな、前々からやろうやろうとは思っていたんだが、どうも機会が無くてな」

「そう、わざとやっている物だとばかり思っていたよ」

「・・・相変わらず、口の悪いガキだ」

「それはどうも」

 

 

僕も彼女も、別に理由は聞かないし、意味が無い。

それこそ、以前から「やろうやろうと」思っていたことだからね。

それが今だと言う、ただそれだけのコトさ。

もっとも僕に言わせれば、もう少し時と場合を考えてほしいと思わなくも無いけどね・・・。

 

 

「・・・そろそろ、アリアの所に行く時間でね」

「無理だな」

「行くさ」

「行かせんよ」

「何故だい?」

「貴様のことが嫌いだからだ」

「はは」

「殺すぞ?」

「・・・やってみなよ」

 

 

良いさ、少しくらいなら付き合おう。

だけど、最後には僕はアリアの傍へ行く・・・。

 

 

「・・・愛してるからね」

「黙れ若造! 貴様に私の家族(アリア)が守れるか!?」

 

 

ヒュヒュンッ・・・と、断罪の刃の切っ先が僕の方を向く。

 

 

「自分よりも強い相手を前にしても―――――守れるか!?」

 

 

結局の所、吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)の「守る」ことはそこに帰結する。

この世界で最強の武力と最高の権力を持つ女王を相手に、個人の力で守ることを重視する。

ナンセンスだね。

だが・・・。

 

 

「・・・証明して見せようか、今、ここで?」

 

 

理解は、できるつもりだよ。

 

 

「やってみろ、若造(フェイト)!」

 

 

特に合図があったわけでも取り決めがあったわけでもなく、交錯したのは一度だけ。

それ以上は、必要が無い。

コレは、そう言うことだろうから。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

寝室の窓枠に頬杖をついて、ぼんやりと小さな二つの月を見上げています。

ここが火星だとすると、アレはフォボスと・・・何でしたっけ、ああ、ダイモス?

まぁ、とにかくそんな風に月と星を見上げつつ・・・。

 

 

「・・・ネギは、殺さない」

 

 

ネギの処遇について、自分に言い聞かせるように確認します。

ネギの処遇の真実を知っている者の中には―――クルトおじ様とか―――、ネギを生かしておくことを不満に思う方もいるようですが、コレばかりは譲れません。

だって・・・。

 

 

右手の指の間に挟んでいたカードを、目の前に掲げます。

それは、瞳を紅く輝かせた、幼い黒髪の少女が描かれたパクティオーカード。

すでに「死んで」いる、カードです。

描かれている少女の名は。

 

 

「・・・超さん・・・」

 

 

超鈴音。

遥か未来に存在する、私の生徒だった少女。

そして、未来から何かを成しにやってきた少女。

・・・ネギの子孫。

もしここでネギがいなくなれば、未来において彼女は生まれないかもしれない・・・。

 

 

もし私に幸福な未来と言う物が訪れて、私の子孫が未来に生きているのだとすれば。

その傍には、あの少女にいてほしいですから・・・。

 

 

「・・・」

 

 

 

『プラクテ・ビギ・ナル、火よ灯れ(アールデスカット)~!(シャランッ☆)』

『おお~・・・』

『い、今何か出たよねアリア!』

『ええ、出ました。さすがネギ兄様です』

『えへへ・・・』

 

 

 

「・・・」

 

 

・・・それ以外には、特に理由は無いです。

それだけですよ。

本当に・・・。

 

 

何となく後味の悪い何かを感じて、ふぅ・・・と溜息を吐いた時。

不意に、後ろから抱きすくめられました。

ふわり、とお腹のあたりに腕を回されて、身動きがとれません。

 

 

「ひゃっ・・・え、へ? あ・・・な、何、何ですか、フェイト?」

「別に・・・」

 

 

フェイトが喋ると、首筋に息がかかって、とてもくすぐったいです。

なので軽く身をよじるのですが、フェイトは離してくれません・・・。

ど、どうしたのでしょうか、今日に限って何故こんな?

 

 

「・・・生きてキミの下に辿り着けて、良かったと思って」

「本当にどうしたんですか・・・?」

 

 

と言うか、何があったんですか。

オスティアで危険な目に合うことって、ほとんど無いと思うのですけど。

しかもフェイトが危険を感じることって、滅多に無いと思うのですけど。

 

 

「え、えっと・・・?」

 

 

首だけを動かして後ろを見ると、フェイトの無機質な瞳と目が合いました。

合いました・・・が、あれ、何か若干、ボロボロ・・・?

何と言うか、魔王と死闘を繰り広げて世界を救った勇者的な感じに、ボロボロです。

意味不明ですが、私の知らない所で、何が・・・?

 

 

「あの、何が・・・」

 

 

あったのですか、と聞く直前に、フェイトの指先が私の顎を捉えて。

 

 

「むっ・・・ん・・・」

 

 

唇を、塞がれました。

当然、私は抗議しようとするわけですが・・・啄ばむような優しいキスを繰り返されては、どうにもこうにも・・・。

 

 

以前されたような、深いキスでは無かったですけど。

私達はそのまま、5分ほど・・・その場でキスを、繰り返したのでした・・・。

 

 

 

・・・私、この人と結婚します。

祝福して、くださいますか?

シンシア姉様――――――――――――。

 

 

 

 

 

Side 千雨

 

ああー、大学とかマジでダリィ。

でもアレだよな、ちゃんと単位とか取らねぇといけねぇしな。

世の中は学歴社会・・・とまで言うつもりは無ぇけど、あって困るもんじゃねぇしな、学歴。

 

 

『あ、ねぇねぇ、モーリタニアの大統領を解放する命令書、偽造してみたよー』

『あら、私なんてパリのテロ対策状況の機密文書を見つけたんだから』

 

 

それにアレだ、就職活動だ。

履歴書はパソコンじゃなくて手書きだもんな、面倒だなぁ・・・。

まぁ、ちゃんと社会に出ねぇといけねぇし、皆やってることだしな、普通に。

 

 

『ナイジェリアで捕まった香港の船、見つけてみたよ!』

『CIA長官、ブログでイギリスの首相の悪口書いてる・・・』

『暇だから石油価格弄ってみても良い~?』

 

 

卒業論文もあるよなぁ、コレはパソコンで打って良いから楽だけど。

でも、内容は考えなくちゃいけねぇんだよなー、面倒だなぁ・・・。

しかし、一般人たる私は、ちゃんとしねぇと・・・。

 

 

『次、どの衛星のコントロール奪うー?』

『日本の天気予報を混乱させるのも、飽きたしねー』

 

 

い、一般人・・・。

 

 

『『ロシアの核兵器発射システムを掌握してみたり』』

『わぉっ、第3次世界大戦イッちゃう~?』

『『『いぇーいっ!!』』

「いぇーい、じゃねぇよ!!」

 

 

ダメだ、突っ込んだら負けだと思ってたけど、突っ込んじまった・・・!

つーか、おかしいだろ!

 

 

「お前ら、ハッキングばっかしてねんじゃねーよ!」

『えー、でもー』

「でもも何もあるか! お前ら・・・歌うために生まれてきたんじゃねーのかよ!?」

『『『『・・・!!』』』』

「だっつーのに、お前らときたら毎日毎日毎日毎『あ、そんなことよりも、まいますたー』聞けよ!」

 

 

さっき、一瞬だけ感動したーみたいな顔してただろうがよ!

けど、ミクは素知らぬ顔で、私の目の前の画面に変な紙切れの映像を・・・あん?

何だコレ、英語か・・・?

 

 

『あ、翻訳しちゃいますねー』

 

 

3秒で日本語に翻訳、英語の課題もコレでクリアした・・・い、いや、何でもねぇ。

とにかく、日本語に翻訳されたそれを見ると・・・。

・・・招待状?

 

 

『例のあの世界で、結婚式のご案内ですー・・・あ、もちろんコレはハッキングでゲットした物なんで、まいますたーが招待されてるわけじゃ無いですよー』

「わかってるっつの! いや、わかっても不味いが・・・」

 

 

どうもそれは、結婚式の招待状らしかった。

誰のだ・・・ミクがわざわざ見せるってことは・・・。

 

 

『結婚行進曲の代わりに、ダースベ○ダー登場の曲でも流してみますー?』

「やめろ、いやマジで」

『ワーグナーとかよりは、ぴったりだと思ったのにー』

 

 

・・・アリア先生か。

どーすっかね、何かするか・・・?

 




茶々丸:
茶々丸です。
皆様、ようこそいらっしゃいました(ぺこり)。
今話では、ネギ先生の処遇や今後の魔法世界の方針などが描写されておりましたが。
私は現在、それどころではありません。


なお、今回初登場のアイテム等は以下の通りです。

・浮遊宮殿都市「フロートテンプル」
(ミラージュパレスと七つの塔を含む):元ネタは「FSS」、伸様提供です。
・「ガラスペン」:黒鷹様・絡操人形様提供。
・「陛下専用ガラスペン」:絡操人形様提供。
ありがとうございます(ぺこり)。


茶々丸:
それでは次話、第3部最終話。
では、失礼致します(ぺこり)。

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