Side アリア
原則として、仕事が増えると言うのは私にとっては歓迎すべき事態であると言えます。
ただしそれは建設的な仕事に限ることであって・・・例えば、工場事故の事後処理に関する話であるとかになると、歓迎とは逆の感情が芽生えることになります。
もちろん、私に仕事を選ぶ権利は無く、また逃げることも許されません。
何故なら私は、女王ですから。
「最終的に死者3名、重軽傷者19名の事故になった。面目ないとしか言えん、すまん」
「いえ、エヴァさんが無事で何よりでした」
エヴァさんが現場にいたために、比較的早く事故の状況が私の所まで上がってきました。
最悪の場合、数日経ってようやく私の耳に入る、と言うこともあり得ましたから。
それでは、遅いので。
エヴァさんがその場で事態の収拾に動いたからこそ、わずか一日で収束させることができたのです。
事故があったのは昨日のことですが・・・。
軍を展開して立ち入りを禁止すると共に、生存者の救出と事故原因の究明。
それから事故情報の公開に、被害者及びその家族への対応・・・こう言うのは、初動が大事なので。
「・・・最悪の場合、私が辞職して話を付けねばならんかもしれん」
「おや、それは良いことを聞いたような気が致しますねぇ」
こんな時でも調子を変えないクルトおじ様、この3人が、私の執務室で事故の対応を話し合っているのですが・・・。
エヴァさんが、工部尚書を辞職と言うのは。
「・・・まぁ、いつもなら大歓迎ですが、残念ながら今回はそこの吸血鬼がリストラされれば済むと言う問題ではありません、アリア様」
「リストラじゃない!」
「そうですね・・・」
今回、事故のあった工場は王国の工場ではありません。
旧世界連合と王国の合弁工場なのです、しかも権益の過半数が旧世界連合側にある工場。
しかも管理権は向こうで、警備権はこちらと言うややこしい工場で。
「・・・ちなみに、事故の原因は?」
「ああ、工部省(ウチ)の調査によると・・・」
「よると?」
「人為的なミス、だそうだ」
・・・ちなみに労働者は魔法世界人で、監督者は旧世界連合の職員なんです。
なので、責任問題が非常にややこしいんです。
心情的には、「こちらが悪かった、申し訳ない、被害者には十分な補償を我が国の責任で」と言いたい所なのですが・・・。
そう言う場合のことも双方の事業協定で定められてはいますが、どうなるか・・・。
「まぁ、とりあえずはそこの吸血鬼に30か月ほど棒給を返上させるとしまして・・・」
「・・・おい、それは2年以上タダ働きと言うことか?」
「後は、とりあえず被害者への一時金の手配その他を、我が国の責任の有無とは関わりなく進めておきましょう」
・・・まぁ、こっちの責任云々の話で被害者への救済が遅れるのが一番、不味いですからね。
後、事故原因の情報なども初期から開示して・・・はぁ。
死者、3人ですか・・・全員、こちらの人間ですけど。
内2人に、家族がいて・・・ああ、もう。
専制君主になりたがる連中の気が、知れませんよ。
代われるなら、代わって貰いたいくらいですよ。
Side クルト
いやはや、昨年のエリジウム侵攻戦以来の大型案件ですね。
ややこしさで言えば、それ以上です。
普通の工場事故であれば、より簡潔に事態を収拾することができたのですが。
「さて、どのような形で落とすのが妥当でしょうか・・・」
アリア様の執務室を辞した私は、廊下で待っていたヘレンさんを伴い自分の執務室に戻る所です。
最近は私の秘書的な位置を占めつつある茶色の髪の少女からいくつかの案件を記した書類を受け取り、それぞれに対して指示を与えます。
ふと、私の指示の一つ一つに素直に頷く少女に、私はかすかな興味を含んだ視線を向けます。
「どうですか、ヘレンさん。勉強は捗っておりますか?」
「は、はい、宰相閣下のおかげで・・・」
「それは良かった」
ヘレン・キルマノックさんは、今はまだ王立ネロォカスラプティース女学院所属の学生に過ぎませんが、来月の試験に合格し次第、正式に宰相府の職員として雇用する予定です。
彼女の学友でもあるドロシーさんも、いずれ宰相府所属の獣医として雇用することになるでしょう。
その他にも、オスティアの王立ネロォカスラプティース女学院、旧世界のメルディアナ魔法学校の出身者が定期的に我が国の官吏として供給される予定です。
特に現在の王室とメルディアナ魔法学校とは、少なからぬ縁がありますからね。
アリア様の父であるナギも、メルディアナ出身ですからね。
中退ですがね、本当に面倒な・・・。
・・・まぁ、今はアリカ様とナギは王国東部を訪問中ですがね。
王室としての初の訪問ですが、特に問題は無いでしょう。
「さて、今はとりあえず工場の方ですが・・・」
工部尚書(エヴァンジェリン)の首を切ると言うのは非常に魅力的ですが、今回は見送りましょう。
いえ、最終的にそうなると言う可能性は残しますが・・・さて、一概に良いとは言えませんね。
閣内から有力な親女王派の一人を失うと言う意味でもありますし。
・・・まぁ、それを抜きにしても、今回の事故の責任をどうするか、これ次第ですね。
我々と旧世界連合麻帆良のどちらが、より多くの責任を有しているのか、どうか。
打つ手を誤ると、女王アリアの治世において最初の総辞職、と言うことになりかねません。
それも面白くはありませんし・・・。
「・・・まぁ、我慢のしどころですね」
旧世界連合側との接触ができていない今、さて、どうしますか・・・。
旧世界連合首席大使であり麻帆良代表特使である天ヶ崎さんに連絡を取らないことには、何事も動きませんしね。
・・・そう言えば。
「ヘレンさん、貴女の友人に確か・・・」
「はい・・・?」
まぁ、チャンネルの全てを閉ざすことも無いでしょう。
・・・さて、どう片付けますか。
Side 千草
ほんまに、不味いことになったと思う。
これまでは、代表特使と言う立場もあったし・・・うちが宰相府に出向くんがほとんどやった。
でもうちが昨日の晩に麻帆良の長に事故のことを報告したら、「相手が来るまで公邸を出るな」って言う命令を受けてしもたわ。
ようするに、相手が責任を認めて謝罪に来るまで会うなってことやろ。
・・・責任、となると、かなり微妙や言うんわこっちにもわかっとる。
たぶん、王国側も対応に困っとる思うわ。
それでも事故の内容を公表して、一時金と被害者グループとの交渉を始めたんは素早い対応やと思う。
・・・責任、と言う最重要の問題は除いてやけど。
「・・・結果、こう言うことになるんわ、わかっとったけど・・・」
旧世界連合大使公邸の執務室の窓から外を見ると、何やプラカードを持った100人程の市民が座り込みをやっとるのが見えた。
単純にいえば、旧世界連合の対応への批判行動やね。
王国側に比べて、動きが遅い言うんが主な声やけど・・・まぁ、王国側の官庁前でも、似たようなことをやってる連中がおるらしい。
ウェスペルタティア労働党って言う政治団体が中心になって運動してるらしいけど・・・。
シャッ・・・とブラインドを下ろして、窓から視線を逸らす。
長が何を狙っているのか、読み切れへん所があるけど・・・たぶん、そう長い間だんまりを続けたりはせぇへんと思う。
一種の、駆け引きみたいなもんやろうから・・・。
「・・・まぁ、実際に石を投げられるんはうちらやから、大変やけどなぁ、カゲ・・・タ・・・」
・・・名前を。
名前を、呼びそうになって・・・軽く、笑ってしもたわ。
そうやった、今、ここには・・・あの人は、おらんのやったな。
仕事場では、大体いつも、おるから。
・・・病院の方は、大丈夫や思うけど。
うちはここから出れへんから、月詠に負担をかけることになってまうけど・・・。
・・・小太郎は、飯とか自分で何とかできとるかな。
どうしようもなく、会いたいわ。
小太郎と月詠に、そして・・・。
「・・・」
・・・ブラインドを閉じた窓を、見つめる。
その向こうには、今も新オスティアの市民が集まって、合弁工場事故に対する旧世界連合(うちら)の対応を批判しとる声が聞こえる。
労働者の保護がどうだの、事故の全容がどうだの。
・・・責任? 補償?
そんなん・・・。
・・・そんなん、うちが欲しいわ。
Side 月詠
千草おかぁさんが動けへんようになるのは、ちょっと予想外ですわ。
まぁ、別に構いませんけどー。
「ほな、カゲタロウはん、うち小太郎はんにお昼作りに行ってきますんでー」
「・・・」
返事は期待してまへんけど、そのまま寝といてくださいねー。
何や包帯だらけなカゲタロウはんを病室に放置するのはアレですけど、小太郎はんのお昼ご飯作ったらなあかんですからー。
あ、起きても良いですけど、うちがおる時にしてくださいねー。
千草おかぁさんに知らせたらなあきまへんので。
なんて考えながら、うちは窓から外へ出る。
千草おかぁさんには怒られるかもやけど、正面玄関から出るとマスコミに捕まるんです。
うちはええけど、記者を斬り殺したら不味いですやろ?
だってマスコミって、ウザいんですもん。
最近では、見ただけで斬り殺したく・・・おっとと・・・。
「こら―――っ、病院では跳ばないでください!」
「すんまへんですー」
カゲタロウはんの病室(3F)から跳び下りたら、どっかの廊下から顔を出した看護師さんに怒られました。
それを背中に聞きながら、うちは病院の敷地から外へ。
大きく跳んで民家の屋根の上に飛び乗った後は、そこから瞬動の連続。
「んー・・・?」
ほどなくして、大使館とは別の方向にあるうちの家に到着する。
するん、やけど・・・。
「・・・わーお・・・」
せやけど、家の前には・・・・・・たくさんの人間がワラワラおりました。
記者はんか、それとも普通の人間の集まりかは、わかりませんけど。
とにかく、十数人ほどの人間が、家の前に集まっとりました。
ビタッ、と屋根の上で立ち止まって、家の方を窺いますけど・・・。
・・・どうしましょうかね。
と言うか小太郎はん、家におらんのとちゃいますかね。
おるんやったら、追い散らすなり何なりしますやろ。
「・・・どないしましょか」
うーん、と考えこみます。
気付かれんようにうちに入ることはできますけど、炊事とかしたらバレますやろ。
・・・斬ったらあかんかなぁ・・・。
「クルックー☆」
・・・ふん?
不意に、うちの頭の上に何かが乗りましたー。
それは・・・。
「・・・クルックー?」
「お~・・・ルーブルはんー?」
そこにおったんは、小さな子竜でした。
うちの頭の上に乗ったまま首を伸ばして、うちの頬に顔を押し付けて来ますー。
学校の友達のペットで、滅多にその子から離れへんのですけど。
「・・・お?」
両手で頭の上から下ろすと、ルーブルの小さな足に何か・・・。
・・・手紙?
「・・・おろ?」
Side 小太郎
・・・行ったな。
病院の屋上から、月詠のねーちゃんが遠ざかるのを見送る。
何やシーツ干しに来たらしい看護師のねーちゃんとかが変な目で俺を見とるけど、そんなんはどうでもええわ。
ひょいっと、柵を乗り越えて、壁伝いに目的の病室まで行く。
月詠のねーちゃんが窓を開けっぱなしにしとるはずやけど・・・。
「こら―――っ、病院では降りない!」
「す、すんまへんっ」
看護師のねーちゃんに怒られながら、目的の病室に入る。
魔法世界の病院だけあって、そう言う所で慌てへんのは流石やけど・・・まぁ、下手すると警備員呼ばれてまうけどな。
で、俺が入った病室には、当たり前やけど目的の人間が寝とるわけで。
誰かって言うと、まぁ・・・カゲタロウはんのオッサンなわけやけど。
・・・別に、心配で来たわけやない。
俺は死んだってオッサンの心配はせぇへん、絶対や。
せやけど・・・。
「・・・何を勝手に死にかけとるんや、オッサン・・・」
何や上半身が包帯だらけで、ようわからん機械に繋がれて点滴受けて・・・。
顔色はそれほど悪ぅは無いようやけど、仮面が無いってのは、やっぱ変な気分やわ。
・・・千草のかぁちゃんは、どうしてか来ぉへんのやろな。
いや別に、行かへんなら行かへんで構わへんのやけど、千草のかぁちゃんなら寝ずの看病とかするんやろうなって、俺は心のどっかで思っとったから・・・。
・・・特にこのオッサン、たぶんやけど、千草のかぁちゃんを庇ってこうなったんやろ。
俺はその場におらへんかったし、実際に何がどうなったんかは、わからん。
わからんけど・・・たぶん、そうなんやろ。
せやから、普通に特使の仕事をしとるのが不思議でしょうがないんや。
月詠のねーちゃんは何か勘づいとるみたいやけど、それを言葉にしたりはせぇへんから、ますますわからへんねや。
どうして、千草のかぁちゃんは・・・。
・・・いや、別にカゲタロウのオッサンのことなんざどうでもええんやけどな。
「・・・あん?」
別に見舞いに来たわけやないから、ちょっと見たらすぐに帰るつもりやったんやけど・・・。
・・・気のせい・・・。
「・・・ぅ・・・」
・・・やなかった。
気のせいでも何でもなく、俺の目の前で寝とるカゲタロウのオッサンが。
・・・起きるんか!?
え、よりにもよって、俺しかおらん時にかいっ!?
どど、どうする・・・って、やることは一つしか無いな!
誰か・・・誰か来てくれや―――――っ!!
Side 千草
大使公邸の裏口から月詠がやってきたんは、夕方になってからやった。
表は未だに市民が抗議行動をやってたりするから、危ないしな・・・。
・・・この場合の「危ない」は、もちろん月詠自身の身の安全って意味もあるけど、外で月詠の邪魔をする連中の身の安全って意味もあるんえ。
本当なら来たらあかんねやけど、月詠は手紙を届けてくれたんよ。
何の手紙かって?
それはな・・・。
『ほぅ、クルト君からの親書ですか』
「親書っちゅうか・・・まぁ、非公式なモンですけど」
宰相府預かりの子竜が持って来たって言う手紙。
伝書鳩ならぬ伝書竜ってわけやけど、差出人はおそらくゲーデル宰相。
おそらくって言うのは、正式な署名が無かったからや。
でも宰相府の文書印は押されとったし、こっちの呪術調査では間違いなく公的な物や。
誰が書いたか、わからんだけで。
「内容自体も、今回の事故の収拾についての交渉を求めるモンで・・・詳しいことは何も。まぁ、手紙がどこでどうなってもええように作ってありますわ」
うちか月詠はんを加えた数人にしか開けへんように呪いがかけてあったし、内容を読むにもうちらしか知らんパスワードを2重に刻まんと読めへんようにはなってた。
とりあえずは、チャンネルを維持すると言うだけの意味しか無いんやろうとは思う。
内容も、一般的で普通のことしか書いて無かったしな。
まぁ、とにかくも向こう側からのアクションや。
月詠を別室に待たせて、麻帆良におる長を連絡を取っとる所やけど・・・。
「で、どうします? このまま手をこまねいとると、うちらが悪者になってまいますけど」
『別に今回のことが無くても、いずれは旧世界連合への反発は起こったでしょう』
「・・・ガス抜きが必要、ってことどすか?」
銀盆の中で、長を映した水面が揺れる。
・・・まぁ、魔法世界の連中は5年前までは旧世界のことを見下しとった風やから。
実際の所、王国を通じて旧世界連合の存在感が高まっとる面も、確かにある。
今回の工場なんかは、目に見える形でそれを証明しとるわけやしな。
「まぁ、ガス抜きも重要でしょうけど・・・」
『そうですね、我々としても王国側と必要以上に揉めるつもりはありません』
加えて言えば、簡単に譲歩すれば長の・・・詠春はんの基盤が揺らぐ。
ここ5年は安定しとるけど、過激な連中がおらんわけやない。
最近は日本国内で言えば京妖怪、国外で言えばアメリカの連中が煩いて聞くしな。
『・・・そうですね、一時的な物として。交渉とそれに伴う謝罪については・・・』
その時、うちの執務室の扉が開いた。
慌てて開かれたらしいそこからは、ここの職員が入って来た。
一瞬、月詠かと思ったけど・・・。
何や、今はうちが長と話しとるさかい、入ってくるなて・・・。
「中央病院から、カゲタロウ殿が意識を取り戻したとの連絡が・・・」
その報告がうちの耳に入るのと同時に、銀盆の向こうで、長が話を続けた。
『・・・意識不明の職員が、意識を取り戻してからとしましょう』
その言葉は、奇妙にうちの胸を響いた。
・・・カゲタロウはん・・・。
Side 月詠
カゲタロウはんが目ぇ覚ましはってから、一日が経ちました。
せやから、事故から二日後ですねー。
朝、長はんからの返書をルーブルはんにくっつけて飛ばしてから、うちは病院に来てカゲタロウはんのお世話をしてるんですけど・・・。
「もー、せやからうちがおる時に目ぇ覚ましてて、言いましたやんかー」
「・・・」
「あー、はいはい、無理して喋らんでもええですよー」
数日間は眠りっぱなしって話やったんやけど、一日で目ぇ覚ましはるなんて、化物ですなー。
まぁ、そうは言うても動けへんですから、うちが面倒を見るんですけど。
せやから、うちがおる間に目ぇ覚ましてて言いましたやんか。
無理でしょうけどー。
「はーい、手ぇ上げてくださいー」
傷に触れへんようにしながら、身体を拭いて上げます。
うーん、薬品の匂いで血の臭いが消えてしまうんで、ちょっと残念ですー。
まぁ、包帯を変えるついでに身体を拭いてるんですけど。
「・・・」
「あー、はいはい、お礼なんて良いですえ」
言葉は話せへんでも、目を見れば大体の意思疎通はできますえ。
札を貼って念話してもええですけど、キョンシーっぽくなりますし。
「まぁ、カゲタロウはんは良いとしても」
「・・・」
「小太郎はんは、何してはるんですかー?」
「・・・別に、何ってわけやないけど・・・」
どうしてかはわかりまへんけど、カゲタロウはんの病室に小太郎はんもおるんです。
てっきり、千草おかぁさんについて行くもんやと思っとりましたけど。
どう言う風の吹き回しですやろな。
昨日も、家におらんとここにおったって聞いとりますけど。
「どないかしたんですかー?」
「・・・別に・・・」
・・・むむむ、歯切れが悪いですねー。
まぁ、別に何でもええですけどー、何か思う所でもあったんでっしゃろ・・・おろ?
「・・・」
うちが包帯をぐーるぐーると巻いとると―――どうせ、後でプロの看護師さんが直しますけど―――カゲタロウはんが、うちをじーっと見つめておりましたわ。
照れますえ。
やなくて、ふんふん・・・ふん?
はいはい、小太郎はんと話したいんですねー。
えーと、ホワイトボードホワイトボード・・・。
「・・・小太郎はーん?」
「何やね、月詠のねーちゃん」
「カゲタロウはんが、何か話したいらしいですー」
うちの言葉に、小太郎はんがかなり微妙な顔をしました。
まぁ、ほな、こっからはうちがカゲタロウはんの代わりに筆談的なことをしますんでー。
Side 小太郎
「『小太郎殿は、私が気に入らないか?』」
たぶんカゲタロウのオッサンの言いたいこと何やろうけど、月詠のねーちゃんが持っとる小さなホワイトボードにはそんなことが書いてあった。
どうも月詠のねーちゃんが代筆と言うか、そんな感じらしいけど・・・。
「・・・気に入らへんって言うか・・・」
いや、気に入らへんのは気に入らへんのやけど。
正直な話、千草のかぁちゃんにはこんな仮面オヤジは似合わん思うし。
じゃあ誰ならええのかって言われてもアレやけど、まぁ、それはええやん・・・。
「・・・まぁ、気に入らへんねやけど」
カゲタロウのオッサンが目ぇ覚ましたんは昨日やけど、何やいろいろと大変やって話で、千草のかぁちゃんはまだオッサンに会ってへん。
そのことがどうも、納得がいかへんって言うか・・・。
オッサンが文句ひとつ言わへんのも、アレな気もするし・・・。
「えー・・・『小太郎殿には、好きな娘はいるのか?』」
「はぁっ!? ど、どう言う話の流れやねん!?」
「そう言う流れですねー。あ、ちなみにうちの好みのタイプは、斬られてくれる人ですー」
・・・いや、月詠のねーちゃんの趣味はともかくとしてや!
なん、何やね!?
好きな娘・・・はっ、そんな軟弱なもんが俺に―――――。
「『流石に、死ぬかと思った』」
「・・・・・・まぁ、そうやろな」
心臓と肺を繋ぐ血管がエラいことになったって聞いたからな。
どう治療したかはわからんけど、ヤバかったんはわかる。
「『千草殿に求婚しておいて、良かったと思った』」
「む・・・」
「『大戦の時はそうでも無かったが・・・今は、死ぬのがとても怖い』」
「・・・」
「『だからと言うわけでは無いが、小太郎殿も・・・何だったか、定期的に会っていると言う旧世界の・・・』ああ、夏美はんのことですねー、『そう、そのナツミと言う少女だ』、一般人ですけどー、『むぅ、それは確かに難しいかもしれんが』」
「俺を無視して、会話せんといてか?」
と言うか、月詠のねーちゃんは何でわざわざホワイトボードに書くんや?
つーか、夏美ねーちゃんのことはええやろ!?
「『こんな仕事をしていると、いつ死ぬかわからない』」
「いや、そらまぁ・・・そうやけど」
「『だから、そのナツミと言う娘のことについても、きちんとした方が良い』」
「いや、まぁ・・・それは・・・」
「『・・・だから私は、千草殿に求婚したことを後悔していない』」
・・・いや、まぁ、実際に死にかけたんやから、そうかもしれんけど。
と言うか、話の流れが掴めへんねやけど・・・熱とか、大丈夫か?
・・・いや、別に心配してへんけどな!
「『だからできれば、小太郎殿にも認めて欲しいと、思っていたのだが・・・』」
「・・・いや、認めるとか、そう言うことやなくて・・・」
いや、そら・・・何と言うか、ムカつくんやけど。
ムカつくって言うか、嫌って言うか・・・。
・・・千草のかぁちゃんが、結婚したら・・・。
結婚、してもうたら・・・。
「・・・そしたら、子供とか・・・できるかもしれんやん」
ほんまの理由は・・・ほんまに、ガキみたいな理由で。
単純に、それだけのことで。
俺や月詠のねーちゃんは、そら確かに、千草のかぁちゃんの子供(ガキ)かもしれんけど。
でも結局は、ただの拾われっ子で・・・ほんまの子供ができたら。
その時は、きっと・・・。
「・・・」
「・・・小太郎はん」
「・・・うっせ」
いや、別にええけどな!
もしもの時は、また一人に戻るだけのことやし?
大したことは・・・。
「『心配はいらない』」
「・・・何や、慰めか? はっ、そんなんいらんわ、ええか? 俺はなぁ・・・」
「『問題無い』」
じゃあ、何やねん。
そう思って顔を上げると、カゲタロウのオッサンが・・・。
「『そうだろう?』」
「・・・いや、そこで同意を求められてもやな」
つーか、誰に同意を求めてるんや・・・。
「・・・それは・・・」
その時、俺の言葉に答えたんは、カゲタロウのオッサン(の筆談をする月詠のねーちゃん)やなくて。
「・・・うちの同意を、求めとるんやろうな」
病室に入って来た・・・千草のかぁちゃんやった。
Side 千草
数日て聞いてたけど、一日で目ぇ覚ましたんか。
事故からは、二日。
・・・たった二日が、どうしてかやたらに長く感じた気がするえ・・・。
せやけど、うちはカゲタロウはんを見舞いに来たわけやないんや、まだ。
代表特使として、部下の見舞いに来ただけや。
それも、マスコミへのアピールの意味も兼ねて・・・他に入院しとる部下の所は、先に回ってきたえ。
せやからこれは・・・独り言や。
「・・・まぁ、うちには手のかかる可愛ぇ子供が、2人もおるんやけどな?」
一人は、最近になってようやく学校に馴染めてきたらしい、可愛ぇ女の子や。
刀を振り回すのは未だに治っとらんけど、それでも人斬りの気質は少しずつ薄れてきたと思う。
多少、思考が他人とズレとる所もあるけど、それでも良く気ぃ付く子やし、優しい娘や。
いずれはきっと、誰かええ人を見付けて、お嫁に行くんやろなぁ・・・って、密かに思っとる。
ちなみに、結婚式では泣く自信があるえ。
もう一人は、修行ばっかりしてて心配やけど、世界一カッコええ男の子や。
喧嘩っ早いんがタマに傷やけど、思いやりのある優しい子や。
まぁ・・・最近、少し甘えん坊かなって、密かに思うてる。
いずれは、うちよりも小太郎を大事に想うてくれる娘と、一緒になるんやろうなぁ。
・・・それが旧世界のあの子になるんかは、うちにはまだわからへんけど。
「やたらに手ぇかかるから、正直、疲れることもあったけど・・・」
けど、投げ出したいと思ったことは一度も無いえ。
あんまり面倒で、しんどくて、うんざりして、生意気なその面を張っ倒したろかと思うたことも一度や二度では無いけど・・・。
母親としての義務を放棄したいと思ったことだけは、無かったえ。
手放すつもりも、捨てる気も無かったえ。
それが誇らしかった。
それだけが、大して才能も能力も無いうちが、代表特使やら大使やらなんて言う大層な仕事をやり遂げる上での原動力やった。
子供らにええもん食べさせたかったし、ひもじい思いをさせたくなかった。
うちが親無しになって、苦労した分・・・できるだけのことをしたいて、必死になれた。
それだけは、凡人のうちでも他人に胸を張れることやった。
「これまでもそうやったし・・・これからもそうやと思う。でも、それを言葉以外の何かで証明することは、今のうちにはできひん」
せやから・・・。
「もし、許してもらえるなら・・・」
うちは、手のかかって、そんでもって可愛くて仕方が無い「2人の子供」・・・特に男の子の方を、意識して見つめて。
「許してもらえるのなら、それを証明する機会を・・・貰えへんやろか」
・・・そう、言うた。
Side アリア
結局、王国と旧世界連合の間で正式に交渉がもたれたのは事故から三日目です。
事故から三日目の午前中に予備交渉がもたれ、「双方に責任がある」と言う、何とも玉虫色で曖昧な妥協が成立し、午後に共同で会見を行うと言う段取りになりました。
「・・・以上のような流れですけど、よろしいですか?」
「ええ、それで結構どす」
宰相府の官僚が書いた会見で読み上げる草稿を確認しつつ、会見に使う大部屋に付属している小さな控え室で、私は千草さんと会見についての最後の確認を行っておりました。
とは言え、答えるべき言葉もすべきことも、すでに決められておりますが・・・。
負傷者、あるいは亡くなった方々の遺族に対する謝罪と補償方法。
補償金は王国と旧世界連合で折半。
工場の修復費用は王国持ちですが、その代わり旧世界連合は技術提携の深化を確約・・・。
・・・素直に哀悼の意を表せ無いあたり、後味は悪いですが。
「まぁ、慈善事業ではあらしませんからな」
千草さんの言葉は、簡潔で冷たい物でした。
とは言え彼女自身、補償を受ける側ですけど・・・。
カゲタロウさんは、どうにか快方に向かっているとか。
後遺症が残るかは、今後の治療経過次第とも聞きますが、とにかく命に別状は無いとのこと。
だからこそ、詠春さんも何とか妥協の方向に組織を動かせたのでしょうけど。
「そうそう、現場でも言いましたけど・・・マクダウェル尚書によろしくお伝えください、お世話になりましたんで」
「いえ・・・」
それと結局、エヴァさんは工部尚書の地位を辞職しておりません。
事故のあった合弁工場の責任者は、何名か首が飛びますけど。
下手を・・・打たなくとも、刑事裁判ですかね。
そのあたりのことについても、また交渉ですけど・・・。
ちなみに千草さんと私は、喪服を身に着けております。
喪服姿で会見に出る、と言うのは、あざとすぎるようにも思えますが・・・。
千草さんは和服ですが、私は洋装です。
千草さんは略式の黒い半喪服。
そして私は、大人しいデザインの黒のワンピースドレスです。
私の所有する衣装としては珍しいことに、レースやフリルはありません。
結婚指輪以外のアクセサリーは身に着けておりませんし・・・帽子の黒ヴェールくらいでしょうか。
「・・・では、参りましょうか」
「そうですな」
担当の職員が呼びに来た後、互いの顔を確認するように見つめあいます。
・・・頷きを交わし合って。
穿った言い方をすれば・・・。
遺族の罵倒を浴びに、私達は会見場に入りました。
Side 夏美
「夏美ちゃーん、携帯鳴ってるわよ~」
「あ、はーいっ!」
大学寮の自分の部屋。
大学の講義とアルバイトが終わった後、久しぶりにちづ姉と夕飯を一緒することにしたんだ。
前に一緒した時はちづ姉が作ってくれたから、今日は私が・・・って、思ってたんだけど。
・・・電話?
はて、相手は誰かなー・・・?
「はい、携帯」
「ありがと、ちづ姉」
一旦、料理の手を止めて、居間でちづ姉から携帯電話を受け取る。
ええっと、相手はー・・・・・・はれ?
小太郎君じゃん・・・?
「うふふ、じゃあ、私はキッチンでお鍋を見ているわね」
「いや、別に聞かれて困るとかじゃ無いんだけど・・・って言うか、何その顔」
「あらあら、うふふ」
「いやいや、意味わかんないから!」
口元に手を当てて、ちづ姉がススス・・・とキッチンに消えていく。
・・・いや、良いけどさ。
でもああ見えて、ちづ姉はもう保母さんの資格とか持ってるんだよね。
良いなぁ・・・私、そう言うの全然だし。
まぁ、仕方ないけどさ・・・。
「ごめん、すぐ行くから!」
「良いから良いから・・・それより、早く出た方がいいんじゃないかしら?」
「へ・・・わ、わわわっと・・・!」
さっきも言ったけど、電話の相手は小太郎君。
どうしたんだろ、約束して無い時に電話とか珍しい。
いつもはむしろ、私がかけて繋がらないとかの方が多いのに・・・。
・・・いや、別にそんな、しょっちゅうかけてるわけじゃないよ!?
たまに、そう、たまにだよ・・・!
「も・・・もしもし?」
少し緊張気味に電話に出ると、相手はもちろん、小太郎君で・・・。
・・・へ?
今、麻帆良に来てる・・・?
・・・本当に、珍しいね。
急に、どしたの・・・う、うん? 今から・・・?
「え、いや、そりゃあ、どうしてもって言うなら出るけど・・・え、ああ、うん・・・どうしても? それなら、まぁ・・・」
ちら、とキッチンの方を見ると、ちづ姉が私の方を覗きながら手をヒラヒラ振ってた。
行ってきて良いらしい。
「うん、まぁ・・・べ、別に良いけど」
・・・大事な、話?
むぅ、小太郎君のくせにそんな真面目な声なんて出しちゃって。
まぁ、どうせ喧嘩とかわけわかんない
「うん、うん・・・わかった、じゃあ・・・うん」
まぁ、期待せずに聞きに行こうかな。
小太郎君の、大事な話。
<おまけ?>
Side さよ
「すみません、わざわざ来て頂いたのに、大したおもてなしもできないばかりか・・・」
「いえ、構いません」
「そうそう、大丈夫だよー」
本当なら、私がお夕飯の支度をしなければいけないんですけど・・・。
今日に限って、私は座らせてもらっています。
理由は、普段は魔法世界にいる家族の一人が、麻帆良に来ているからです。
しかも、かなり気を遣ってもらっていて、何だか申し訳ないです。
今は畑に出ていていないけど、すーちゃんも最近ますます私に気を遣ってくれていて・・・。
「ありがとうございます、茶々丸さん」
「構いません、こう言う機会でも無いと、さよさんのお世話はできませんので・・・」
麻帆良にメンテナンスに来た茶々丸さんが、久しぶりにここに・・・エヴァさんのログハウスに泊まって行ってくれるんです。
それと、お客様はもう一人いて・・・。
「ほいほい、もーちっとだからねー」
田中さんの頭にパソコンを繋いで、物凄いスピードでキーボードを叩いているハカセさん。
5年・・・6年前の学園祭以来、ハカセさんも良くこの家に来てくれるんです。
旧3-Aメンバーでは、もしかしたら一番、付き合いが深いかもしれません。
真名さんは魔法世界だし、刹那さん達はもう来ないし・・・。
「・・・そういえばさ」
「はい?」
「5月の後半だっけ、それとも6月の前半だっけ? 予定日」
「ああ・・・はい、そうですね、その頃には・・・」
田中さんのメンテ作業に集中したまま、それともどこか気忙しげに、ハカセさんがそう言います。
最近では、私は畑に出ずに家で家事をするだけ・・・つまり一人の時間の方が多いんです。
なので、万が一の時のために・・・と、緊急連絡用の小さなボタンみたいなのを作ってくれたのは、ハカセさんです。
機械弄りとか研究とかだけじゃなくて、とても優しい人。
そんなハカセさんの言葉に・・・私は、すっかり大きくなっちゃったお腹を撫でます。
まだ、3ヶ月くらい先の話ですけど。
・・・2階には、エヴァさんとかが送ってくれた道具とか服とか人形とかが一杯だけど。
「マスターは、さよさんのことを非常に気にかけておいでで・・・予定日までには、晴明さんをこちらに戻すことも考えておられるそうです」
「あはは・・・そうですか」
お腹を撫でながら目を閉じると・・・初めて話をした時のエヴァさんの狼狽した顔が、思い出せます。
申し訳ないですけど、本当にうろたえた顔で・・・。
その記憶は、きっとずっと、忘れません。
・・・あと、3ヶ月と、少し。
もう少しで、私・・・アリア先生よりも、一足先に。
お母さんに、なります。
ウェスペルタティア王国宰相府広報部王室専門室・第4回広報
アーシェ:
はぁーいっ、アーシェです、皆様、こーんばーん・・・あれ?
あれ、ちゃんと撮れてるー・・・?
――――ザザザ――――
ちびアリア:
ぬふふふ・・・この放送は我々「ちびーず」がジャックしたですぅ!
ちびせつな:
あわわ、あわわわわ・・・。
ちびこのか:
震えるちびせっちゃん、可愛ぇなぁ。
ちびアリア:
こうでもしねーと、出番が無いですぅ! と言うか、何故に出番が無いですぅ!?
世の中、間違ってるですぅ! 皆、もっとちびアリアに優しくするですぅ!
ちびこのか:
うちらはあったえ、出番。
ちびアリア:
・・・へぅ?
ちびせつな:
一瞬だけですけど、ありましたー、台詞。
ちびアリア:
な、なんですとぉ!?
・・・は、背後からの一撃! 敵は前でなく後ろにいた的なオチですぅ!?
ちびこのか:
ですぅですぅばっかりやと、キャラが薄いんとちゃうん?
ちびせつな:
あわわ、ちびこのちゃん。
ちびアリア:
ち、違うですぅ、ちびアリアはキャラ薄く無いですぅ! むしろ、キャラが被ってるお前達のせいですぅ! お前達のせいでちびアリアの「ますこっとせんりゃく」が・・・!
ちびせつな:
あ・・・時間が。
ちびアリア:
な、なんと!? 仕方ねーです、じゃあここでお約束のかけ声ですぅ!
せーのっ。
ちび×3:
「「「次回も、ちぇ―――りお(ブツンッ)」」」
―――ザザザ―――
アーシェ:
・・・私の出番が!?
えーと、えーと・・・突然ですが皆さん!
水戸○門と暴れん○将軍だと、どっちが好みですかー?
私は暴れ○坊の方が好きです!
では!