魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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なお、今話は伸様提案です。
また、暴れん○将軍・水戸黄○的な要素がございます。
では、どうぞ。


アフターストーリー第5話「暴れん○女王・前編」

Side フェイト

 

結婚式から1ヶ月半、新婚旅行から戻って1ヶ月。

その日の朝も例によって例の如く、僕は隣で眠る―――僕は寝ていないけれど―――アリアを起こす所から自分の仕事をスタートさせる。

 

 

以前は茶々丸の仕事だったけれど、今ではアリアを起こすのは僕の仕事になっている。

これは効率の問題で、特に交渉があったわけじゃない。

毎夜毎朝、アリアと同じベッドで過ごしている僕が起こすのが正しい選択だろう。

毎朝、6時ちょうどにアリアを起こす。

 

 

「アリア、アリア・・・朝だよ、起きて」

「・・・むぅ~・・・?」

 

 

いつもはそれ程の抵抗を受けないのだけど、稀に手強い時がある。

そういう時は・・・。

 

 

「アリア、アリア・・・仕事の時間だよ」

「・・・しごと・・・」

 

 

むくり、と上半身を起こして、右手で何かを押す仕草を始めるアリア。

左手でシーツを持って胸から下を隠しているあたり、慣れを感じるね。

・・・ちなみに僕はガウンを着ているよ、一応ね。

 

 

「・・・はえ? しょるいは・・・?」

 

 

ハンコを押す仕草からサインの仕草に変わったあたりで、アリアはようやく意識を覚醒させたらしい。

時間にして5分、これは結婚して気付いたことだけど、寝起きのアリアはかなり弱い。

特に、睡眠時間を削って致した翌朝とかは。

 

 

「おはよう、アリア」

「・・・おはようございましゅ、フェイト・・・」

 

 

未だにゆらゆらと揺れるアリアの顔を手で支えながら、僕はアリアの両頬におはようのキスをする。

そして眠たげに眼を細めながらも小さく微笑む彼女を、しっかりと抱き締める。

そうして5分ほど髪を撫でていると・・・。

 

 

「・・・おはようございます、フェイト」

「うん、おはよう、アリア」

 

 

今度こそ目が覚めたらしい彼女に、僕はもう一度おはようのキスをする。

次は頬では無くて唇に、そして少しだけ長く。

新婚旅行以来、寝室の外ではこう言うことはできないので、寝室の中では可能な限りしよう・・・との暗黙の了解が完成したのも、この一カ月の成果ではあるね。

 

 

それからは、スケジュールに定められた通りの行動をすることになる。

ベッド脇に置いてある鈴を鳴らして、茶々丸を始めとする使用人を呼んで、アリアは着替えを始める。

今朝はアリアが服を着ていないから、着替えの前に僕は寝室の外へ出る。

それから僕も自分の衣裳部屋で暦君達の補助を受けながら、身支度をするわけだけど。

まぁ、それほど補助が必要とも思わないけど、それが暦君達の仕事だからね。

 

 

「フェイト様、本日のお召し物はこちらでよろしいでしょうか?」

「任せるよ」

「畏まりました」

 

 

朝食の後には、アリアは執務室で政務に就くことになるけど。

一方で僕には、<女王の夫君>と言う称号以外には特に公的な役職は無い。

端的に言えば、僕は女王アリアの夫であると言うこと以外は、法的には女王の臣下であり帰化外国人に過ぎないと言う、微妙な立場に置かれているわけだね。

 

 

だから僕の仕事と言えば、アリアの執務室に新たに供えられた僕の執務机の前に座って、アリアの個人秘書的な仕事をする以外には無い。

毎朝アリアの前に積まれる事になる書類を整理し、アリアが目を通す前の書類を読んでおき、アリアに尋ねられれば2人きりの時に限って自分の見解を述べる。

それからアリアが誰かと会談している時にはその議事録を残し、アリアが読まないような新聞や本を読んでアリアが読むべきと判断した箇所に線を引き、やはり誰もいない時に限ってアリアにそれを示す。

・・・それくらいかな、後はアリアの公務について外出するくらいかな。

 

 

 

「・・・ご馳走様でした」

「・・・ご馳走様」

 

 

昼食と夕食は誰か客人がいることが多いけれど、朝食だけは僕とアリアの2人きりでとることにしている。

きっちりとデザートの苺も食した後、アリアと10分程お喋りをする。

内容は、特に大した物じゃない。

 

 

「・・・さて、じゃあ今日は奮発して12時間(はんにち)は仕事しましょうか!」

 

 

奮発の使用法を間違えていると指摘するべきかどうか僕が悩んでいる間に、アリアは食堂の扉を使用人に開かせている。

そして今日も、アリアの仕事が始まる―――――。

 

 

「残念、ここは宰相府ですよ、アリア様」

 

 

―――――はずだった。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

「まさか、自分の宰相に仮とは言え王宮から追い出されるとは思いませんでした」

 

 

アリアさんは、とても憤慨しておられる様子でした。

何に対する憤慨かと言うと、宰相府から追い出されたことに対する憤慨です。

 

 

「これって宮廷クーデターだと思うんですけど、どう思います?」

「我の時代には、珍しくも無かったからのぅ」

 

 

プリプリと怒っておられる様子のアリアさんに、晴明さんはのんびりと返事をします。

宮廷クーデターが珍しくも無いと言うのは、逆の意味で凄いですが・・・。

 

 

現在、我々がいるのは、新オスティアの市街地エリアの外れにある小さなカフェです。

人気の少ない―――ぶっちゃけてしまえば、寂れた―――商店街のカフェでお茶をしている所です。

アリアさんと私、晴明さんの他には・・・。

 

 

「ケケケ、ウマイカ?」

「・・・微妙だね」

「コーヒー豆ヲ、解析中デス」

 

 

コーヒーを飲むフェイトさんと、それを囲んでいる姉さんと弟です。

このメンバーで、新オスティアの市街地を当ても無く歩いていたのですが、そもそもの原因はクルト宰相です。

端的に説明をすれば、「本日は大きな案件が無いので、終日市内を視察してはいかがでしょう?」とのクルト宰相の計らいで、ていよく休暇を与えられたと言うわけです。

市井の生活を知るのも、大事な政務とか何とか申されて、アリアさんも渋々納得されました。

 

 

しかしお祭り期間中でも無いので、主だった所は午前中で回れてしまいました。

ちなみに、今日のアリアさんはいつもとは異なる服装です。

と言うか、いつものように女王・お姫様然とした格好でアリアさんが外を歩くと非常に面倒なことになりますので。

今日は大きめの帽子の中に髪を隠して、それに合わせてジャケットとパンツをお召しになられています。

 

 

「新婚旅行でちょっとハメを外し過ぎたかなと反省して、仕事に精励してきたと言うのにこの仕打ち・・・」

 

 

アリアさんは物憂げに溜息を吐いておられますが、その結果として2週間14時間労働はどうかと思います。

クルト宰相で無くとも、極端な方だと思われるかと思いますが。

ただでさえ、夜のお時間も伸びる傾向にありますのに・・・。

 

 

「クルト宰相も、アリアさんのお身体を気にかけておられるのでしょう」

「いーえ、違います! コレはきっとアレです、宮廷革命です! きっと私をおじ様好みのお飾りのお人形さんにするつもりなんです!」

「気持ちはわかるけどね」

 

 

フェイトさんが小声で凄い事を申されました。

それが聞こえているのかいないのか、アリアさんは小さな手を強く握りこんで。

 

 

「きっと今頃、クルトおじ様ってば楽しくお仕事をしながら・・・」

 

 

アリアさんの憤慨は、注文した苺パフェをカフェの店員さんが持ってくるまで続きました・・・。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

現在、我が国は政治的に中休み的な状態におかれております。

内政的には、来年始めに行われる初の貴族院議会の召集とそれに伴う地方議会召集のための統一地方選挙法案が成立し、先の工場事故の被害者に対する救済法案や工場法の公布が成され、大きな案件は処理されています。

後は、スケジュールに記載されている会談・訪問をつつがなく行うくらいです。

 

 

そして外交的には、帝国・アリアドネーをテオドシウス外務尚書が訪問しているので、彼女の帰還待ち。

同時に「イヴィオン」加盟国やメガロメセンブリアなどを外務省、経済産業省の次官達が歴訪中です。

経済協定と軍縮会議についての話し合いも、今年中にはまとまるでしょう。

と言うわけで、概ね外交の状況も落ち着いております。

 

 

「やはり、現在の夫君の能力と功績は、女王陛下の共同統治者にふさわしいのでは無いか?」

「いや、統治権は国主お一人に集中させるべきだろう」

 

 

大きな案件は、現在、ありません。

しかし、重要な案件は存在します。

しかも、できればアリア様に参加していただきたくない類の案件。

有体に言えば・・・。

 

 

女王の夫君(フェイト)に、どれだけの政治的な権力を与えるか」

 

 

と、言う議論ですね。

ひいては国王の配偶者にどれだけの政治的権利を与えるか、与えないのか、と言う議論です。

宰相府の会議室の一室で、宰相府・宮内省・法務省の三省の代表者が集まって、議論が行われています。

 

 

全体的な議論の方向性としては、女王の夫君(こくおうのはいぐうしゃ)に対しては一切の公的身分を与えない、と言うことでまとまりつつあります。

ペシレイウス公爵と言う身分を有してはいても、彼は貴族院議員になる資格を有しておりません。

これは、アリカ様やナギについても同じです。

王室の所有する権力は、全て女王の手に帰しているべきである、と言うのが議論の大勢です。

 

 

「現在の夫君の能力と功績は、女王陛下の共同統治者として不相応では無いが・・・」

 

 

ドミニコ・アンバーサ宮内尚書の言葉に、一同が頷きます。

あのアーウェルンクスは、戦闘においては一流であり、組織の運営の面においてもそれなりの才覚を有しております。

充分、政治的な役割を演じることもできるでしょうが。

しかしいずれ、いえ、もしかしたらすでに・・・。

彼は内閣や議会を超越した無限の影響力を、アリア様に対して行使できる立場に立っているのですから。

それに法的根拠を与えることは、危険を通り越して破滅的ですらあります。

 

 

「女王陛下の夫君には、内閣・議会から当面、公的な役職や称号を与えないこととする」

 

 

盲目の大司教の言葉によって、その場の議論は決着しました。

・・・私があのアーウェルンクスをアリア様の夫として支持したのは、もちろんアリア様のお気持ちを汲んでのことですが。

当然、それだけが理由ではありません。

 

 

政治的野心の無さ、アリア様の役に立とうとする意思。

この2つが両立し、かつ外戚が国政を掌握する可能性が皆無だったからです。

彼ほど「無害な実力者」は、他におりませんでした。

政治はアリア様の領分であって、アリア様以外が政治を職分にしてはいけないのですから。

 

 

私が彼に期待するのは、極めて「非公式な権力」を握ることですし。

そして彼が果たすべき役割は、飾らずに言えばベッドの中に限定されますから。

 

 

「とはいえ、夫君が何の仕事もなさらないのは不味いのでは・・・」

「何か、名誉職的な仕事をして頂いては・・・」

 

 

問題は、アリア様の反応ですね。

はたして、愛しい夫が爪弾きにされるような状況を認めて頂けるかどうか。

しかし、私としては・・・。

 

 

・・・以前と異なり、アリア様の味方が十分に増えた現状では。

アリア様の「家族」が権力機構の中心にいると言うのは、好ましく無いのですがね。

筆頭は、あの吸血鬼ですが。

そこに甘えが生まれてしまうのであれば、なおさら。

君主が臣下に甘えることなど、あってはならないのですから。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

今頃、私をのけ物にしてお仕事を楽しんでるに違いないです、クルトおじ様は。

きっと、碇ゲン○ウ的な体勢で眼鏡をキラッ、と煌めかせているのですよ。

まぁ、私がいない間に話すことと言えば、さて・・・。

 

 

「お待たせしましたー、苺パフェのお客様―っ」

「はい、私です!」

 

 

しゅばっと手を上げて、苺パフェをお盆に乗せてやってきたウェイトレスさんにアピール。

ウェイトレスさんは私と同い年くらいの女性で、ポニーテールにした長い茶髪が印象的です。

桃色のウェイトレス衣装が、眩しいですね。

まぁ、今はとにかく苺パフェですよねっ。

市街地の中心地だと、お忍びでもバレちゃいますからね、こう言う穴場的なお店の方が良いのです。

 

 

「はーいはいっ、ここで「邪魔するよ、レティちゃあん」「ダブリン・・・!」・・・すよ?」

 

 

ウェイトレスさんが、私を目前にして、歩みを止めました。

お盆の上には、未だに私の苺パフェが乗っています。

繰り返しますが、私の苺パフェですよ。

 

 

「何しに来たの!?」

「何しに来たとはひでぇなぁ、レティちゃあん。俺とお前の仲だろ?」

「今は、営業中よ! 邪魔するなら帰って頂戴!」

 

 

ウェイトレスさんが、何やらやたらにとんがったサングラスと毒々しい色のスーツを着た若い男の方と話し始めました。

男の方は一人では無く、後ろに何人か取り巻き的な人達が。

 

 

・・・いえ、あの、お知り合いですか?

いや、まぁ・・・限りなくどうでも良いんですけど、とりあえずその苺パフェを私に・・・。

ええ、まずは可及的速やかにその苺パフェを私に。

・・・聞こえてます?

 

 

「つれないねぇ・・・でも俺達もさ、仕事で来てるんだよ、わかるだろ?」

「・・・っ」

「利子が積もり積もって溜まりに溜まった借金、今日こそ払ってもらいたいんだがねぇ」

 

 

いえ、複雑な事情があるのはわかりましたので、苺パフェを・・・。

 

 

「期日はとっくのとっくに過ぎてるんだぜ? 返せないなら、担保になってるこの店と土地を頂くしかねぇなぁ」

「・・・ダメよ!」

「じゃあ、金を払ってもらおうか?」

「・・・」

「なら、店の権利書を出しな」

 

 

い、苺パフェ・・・。

 

 

「俺が紳士的に話している間に、渡した方が良いと思うぜ、なぁ・・・?」

 

 

男の方が背後の取り巻きに視線を向けると、取り巻きの男の方々が下卑た笑みを浮かべて、カフェのテーブルや看板を壊し始めます。

蹴り飛ばされた椅子が倒れ、ガラスの割れる音が響きます・・・。

 

 

「・・・やめて!」

 

 

それを見て、ウェイトレスさんが止めに入ろうとします。

しかし、目の前の男の方に腕を取られて、止められてしまいます。

涙すら浮かべてウェイトレスさんが男の方を睨みますが、効果はありません。

 

 

「・・・離して!」

「店と土地だけじゃ足りねぇよなぁ、レティちゃんには、俺達の店で働いて貰おうかなぁ・・・まぁ、旦那に引き渡す前に俺達が味見しても・・・」

「嫌よ、離して! 誰かぁっ!」

「誰も助けねぇよ、俺達にはパーマストの旦那がついてんだぜ?」

 

 

で、ですから、何故に私達の目の前でドラマが展開?

揉み合う2人、ウェイトレスさんが身体を捻った際、お盆が手から落ちます。

つまり、私の苺パフェも。

い、苺パフェが、地面に落ち・・・。

・・・苺が!?

 

 

「・・・あああああああああああああああああああああああっっ!?」

 

 

ベシャリ。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

苺パフェが地面に落ちた時、アリアはまるで国が滅びでもしたかのような悲痛な表情を浮かべていた。

僕としては、それで十分だったんだけど・・・。

 

 

「お、覚えてやがれ~!」

 

 

・・・どこかで聞いたような捨て台詞を残して、すっかりボロボロになったチンピラ達が走り去っていく。

来た時と同様、何の感慨も湧かない退場の仕方だった。

まぁ、どうでも良いけどね。

深く帽子をかぶり直して、肩についた埃を手で払う。

 

 

一方で、隅の方で田中が茶々丸に叱られていた。

チンピラ達に対して、やたらにゴツイ装備を使おうとしたかららしい。

・・・何をしようとしたのだろう。

ちなみにチャチャゼロと晴明は、すでに人形の振りをしているよ。

・・・いや、元々人形だったか。

 

 

「この度は、娘の危機を救って頂いて・・・」

「あ、ありがとうございました」

 

 

しばらくすると、あのチンピラ達と何やら揉めていたウェイトレスと、父親で店主らしい男が出て来た。

ただし店主の男の方は、どうも身体の具合が悪いのか、顔色が悪いけど。

 

 

「まったく・・・冗談じゃありませんよ、信じられないです」

 

 

苺を粗末に扱われたことが本当に気に入らないのか、アリアは機嫌が悪そうだった。

ただそれも、目の前に新しい苺パフェが持って来られると一転、笑顔へと変わった。

付け合わせの苺味のお菓子、苺味のアイスクリームと、そして苺。

片手を頬に当てながらニコニコと苺パフェを食べて行く様からは、苺の花がアリアの背景に咲いているのを幻視できる程だった。

 

 

僕は僕でコーヒーのお代わりを飲みつつ―――栞君やその姉の腕前には程遠いけれど―――そんなアリアをただ見ていた。

そして僕が一杯のコーヒーを飲む終わる頃には、アリアは三つ目の苺パフェを食べている所だった。

・・・お腹、冷えるよ。

 

 

「それにしても、いったいどうして、あんな人達が? 差し支えなければ、事情をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

 

苺パフェ一つ、では無く三つで、随分と発言に落差ができていた。

君主としては危ないとも思うけど、今の所アリアに賄賂として苺を持ってきた者はいない。

山吹色のお菓子とやらを持ってきた人間はいるけど、そう言う連中は今は獄の中だ。

アリア曰く、「連中は物の価値をわかっていない」―――。

 

 

「まぁ、大したお力にはなれないかもしれませんが・・・」

 

 

苺味のアイスクリームを乗せたスプーンを口に咥えたまま、アリアは視線を余所へ向ける。

そしてその先には、僕達について来ていた近衛がいる。

彼女達の何人かは、アリアの意を受けてその場から消えた。

 

 

・・・やれやれ。

新しい仕事を、見つけてしまったらしいね。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

カフェの店主の方のお名前は、クラークさん。

そしてウェイトレスは、レティさんと言うお名前だそうです。

奥様は2年前の事故で他界され、その際に受けた怪我が元で、クラークさんは身体を悪くしているのだとか。

 

 

「それ以来、こいつには苦労をかけ通しで・・・」

「もう、お父さん、それは言わない約束でしょ?」

「ああ、そうだったな・・・」

 

 

何ともお約束の会話をしつつ、軽い咳を繰り返しながら、クラークさんは事情を説明してくれました。

それによると、どうやらこの近辺には再開発計画があるそうなのです。

新オスティアはここ5年、未曾有の好景気に恵まれており、それは新オスティアの市街地外縁に位置するこの商店街も例外ではなく、3年前までは多くの人々で賑わっていたとか。

 

 

「それがある時から急に客足が途絶えて・・・いつの間にか、この商店街を潰してショッピングモールを作ろうと言う話が立ちあがったんです・・・」

 

 

その再開発計画・・・大型ショッピングモールを建てる計画を進めているのが、パーマストと言う大商人だとか。

・・・私のデータベースから注視した情報では、おそらくはマグリード・パーマスト氏と推定されます。

ここ数年で急激に財を成した新興の大商人の一人で、強引な手腕で各所の店舗や権利を買っては値を吊り上げて転売し、それで儲けを得ていると言う噂。

 

 

「最初は、穏やかな話し合いが続いていたんですが・・・2年程前から急に強引になって。立ち退きに応じない店にゴロツキを送り込んで追い出しにかかったり、営業妨害をしたりで・・・」

 

 

今ではクラークさんの経営するカフェを含めて、数軒が残るばかり。

立ち退きに応じても土地や店を安値で買い叩かれるため、路頭に迷う人もいるのだとか。

アリアさんのお膝元とも言える新オスティアで、そんなことが・・・しかし。

 

 

「・・・官憲に訴えたりは、しなかったのですか?」

 

 

ポツリと、アリアさんはそう言いました。

実際、ここ5年で警察機構などはかなり整備されたはずなのですが・・・。

 

 

「官憲なんて!」

 

 

吐き捨てるように、レティさんは返しました。

聞けば、この近辺の警察を統括する社会秩序省の高官は、パーマスト氏の強引な商売にも目を瞑っているのだとか。

レティさんの憶測でしかありませんが、賄賂を取っているとか・・・。

・・・この段になると、アリアさんは苺パフェを食べる手を止めておりました。

 

 

他の地区の官憲に訴えようとしても、先ほどのようなゴロツキ達に邪魔をされてしまうのだとか。

しかも、クラークさんが店の経営や自分の怪我の治療のために正規の銀行から借りたはずのお金も、いつの間にかパーマスト氏傘下の高利貸しからの借金に変わっていて、客足が減る中、利子の返済もできなくなり・・・。

現在のような状態に、なったのだとか。

 

 

「正直な所、こいつに迷惑をかけ続けるくらいなら、店を手放すのも・・・」

「何を言うのよ、お父さん!」

 

 

どうも、クラークさんは弱気になっているようですね。

一方でレティさんは・・・。

 

 

「あんな連中に負けて店を閉めるなんて、お母さんに何て言えば良いのよ! それにこのお店には、お母さんとの思い出だってあるじゃない・・・」

「レティ・・・そうだな、ルイーザと俺達の店だものな、うん・・・」

 

 

そんな2人の様子を、アリアさんは。

 

 

「・・・」

 

 

スプーンを咥えたまま、じっと見つめていました。

 

 

 

 

 

Side 5(クゥィントゥム)

 

正直な所、非効率的であると言うしかない。

何のことかと言えば、現在、女王の身辺を守る武力集団のことだね。

 

 

現在、女王陛下(あねうえ)の身辺を守る武力集団は3つある。

僕が龍宮真名と共に所属している王国傭兵隊。

シャオリーが統率し王室を守る近衛騎士団。

そして、女王陛下(あねうえ)個人に忠誠を誓う親衛隊。

この3つの武力集団の職責は、実はかなりの部分で重なっていてね・・・例えば。

 

 

「近衛と親衛隊の連中も、すぐ傍にいるのだわぁ」

「うむ、いつものことだな」

 

 

市街地の郊外へと逃げて行くチンピラ達を密かに追いかける中、僕の両側からそんな話し声が聞こえる。

まぁ、女王陛下(あねうえ)の意を受けてあのチンピラ達を追っているのだけど。

捕らえずに泳がせているのは、バックにいる存在を確認するためだ。

 

 

建物の屋根から屋根へと飛び移る僕の両側には、同じく王国傭兵隊に所属する2人の女がいる。

暗器を満載した浅葱色の着物を着たアカツキ・ルルヴィアと、油断するとすぐに自爆しようとするレヴィ・ギャラガーの2人だ。

気配の消し方は、流石と言うべきだけど。

近衛はともかく、親衛隊と傭兵隊は騎士には向かない性格の者が多くてね。

 

 

「・・・どこまで行くのかな」

 

 

チンピラ達はすでに市街地から出て、住居の少ない地域へ向かっているのだけど。

・・・まぁ、王室直属の3部隊が動いている以上、見失うようなことは無いだろうけど。

何しろ、職責が重なる分、競合意識が激しくてね。

それが功を奏する時もあるけれど、効率は悪いね。

 

 

せめて何か、もっと大きな組織にひとまとめにしてくれれば、この効率の悪さも何とかなるのだろうけど。

3つを合わせて、大きな騎士団でも作ってくれるよう奏上してみるのも良いかもしれない。

ただ僕は、女王の夫君である3(テルティウム)の弟と言う立場だからね。

龍宮真名あたりがやるべきなのだろうけど・・・彼女はそこまでやる気を刺激されてはいないだろうね。

何しろ、給料以上の仕事はしないのが龍宮真名の信条らしいからね。

 

 

「あ、あれは・・・?」

「屋敷なのだわぁ」

 

 

新オスティアの市街地郊外には、小さな森がある。

富豪の私有地が多い場所でもあるのだけど・・・その内の一つに、女王陛下(あねうえ)がいるカフェで揉め事を起こしたチンピラ達が入って行った。

あれは・・・。

 

 

「大商人マグリード・パーマスト氏の屋敷だな」

「・・・良く知っているね」

「忍だからなっ」

 

 

浅葱色の着物の傭兵が自慢気に答えるのを聞きつつ、僕は視線をチンピラ達が入って行った石造りの屋敷に向けた。

あたりを探れば、近衛や親衛隊の人間も辿り着いているようだった。

 

 

・・・面倒だね、いろいろと。

 

 

 

 ◆  ◆

 

 

 

商店街のカフェにいつものように嫌がらせに行ったゴロツキ達は、しかしいつもとは異なりほうほうのていで雇い主の所に戻らざるを得なかった。

いつものように標的の商店を襲い、盗みや暴行を欲しいままにできるはずであったのに、今日に限って邪魔が入ったのである。

 

 

ゴロツキのリーダー格、毒々しい色のスーツを着たダブリンと言う名前の若者は、雇い主の屋敷の離れの庭先に出ると、身に着けていたサングラスを外した。

・・・意外と、つぶらな瞳の若者だった。

 

 

「旦那、旦那・・・パーマストの旦那!」

『・・・何だ、騒々しい・・・』

 

 

鬱陶しげな声が中から漏れたかと思うと、庭に面した窓の一つがかすかに開いた。

明らかに肥満しきっているとわかる手が窓を押し開き、カーテンの隙間から脂ぎった顔が覗く。

手にはジャラジャラと指輪が嵌められており、その内の一つでも売れば、一人の人間が数年間は働かずに食っていけるほどの価値を有しているのは明白だった。

 

 

『・・・なぁにぃ、こんな時にお客さんなのぉ・・・?』

『何、また土地が手に入ったと部下が報告に来たのだろう。後で新しい宝石を買ってやるから、待っていなさい』

『本当ぉ? 嬉しい!』

 

 

媚びるような女の声―――それも、一人では無い―――が漏れ聞こえる中、ダブリンは冷や汗をかいていた。

何故なら彼は、失敗の報告に来たのだから・・・。

 

 

『それで、何だ? ルイーザの店に行ったのだろう?』

「へ、へぇ・・・それが・・・」

 

 

とはいえ、まさか嘘を吐くこともできない。

ダブリンは、思わぬ邪魔が入ったために失敗したことを、婉曲に、脚色しつつ、しかし確実に伝えた。

それに対して、彼の雇い主は・・・。

 

 

「失敗しただと!? この役立たずが!!」

 

 

今度は窓を完全に開けて、パーマストはダブリンを怒鳴りつけた。

裸の上半身を外気に晒し、肥満しきった中年の身体を惜しげも無く晒している。

でっぷりとした腹には油が溜まり、胸や腕には濃い色の毛が渦巻いている。

どこからが首かわからないような首周りには、豪奢な黄金の首飾りを身に着けているが、半分ほど肉に埋まっている様にも見える。

 

 

威厳など欠片も見えないが、それでもダブリン達はその場に跪いて許しを請うた。

彼らが好き勝手できるのはパーマストの後援があってこそだと言うことを、若者達は良く心得ていたのである。

パーマストは将来、その財によって議員の身分をも買い取るはずだったのだから・・・。

怒鳴った直後、パーマストが表情に後悔の色を浮かべたのは、ダブリン達に狭量な所を見せたのを後悔したから―――では、無かった。

 

 

「おぅおぅ、お前達を怒鳴ったのではないぞ」

 

 

実際、彼が猫なで声で宥めたのは後ろの女達であって、目の前の若者達では無かった。

だがとにかくも、パーマストは自分の怒気を収めた・・・。

 

 

「・・・で、その邪魔者とは何者なのだ?」

「さ、さぁ、それが初めて見る連中で・・・」

「それすらもわからんのか、役立たずな上に能無しめが」

 

 

パーマストの言葉に、ダブリンはとにかく平身低頭するしか無かった。

だがダブリンから邪魔者とやらの容貌を聞きだしたパーマストは、かすかに記憶を刺激されたようであったが・・・。

 

 

『ぱぱぁ、まぁだぁ?』

「おぅおぅ、すぐに行くぞ」

 

 

自分を呼ぶ若い女達の声に、その作業を中断してしまった。

 

 

「とにかく、お前達は控えておれ。こうなればあの店のことは、私からヴェンツェル様にお願いしておく・・・」

『ぱぁぱぁ~』

「おぅおぅ、可愛い奴らめ・・・」

 

 

若者達に威厳を見せようとして失敗したパーマストは、実にだらしのないニヤケ顔で窓を閉めた。

ダブリン達は立ち上がると、首と肩を同時に竦め合った・・・。

 

 

 

 ◆  ◆

 

 

 

Side アリア

 

「今日は本当にありがとう、良ければまた来てね」

「はい、ご馳走様でした」

 

 

レティさん達の特殊な事情を窺った後、5杯目の苺パフェを平らげて、私達はカフェを後にしました。

なかなか美味でしたので、また来るのはやぶさかではありません。

ありませんが・・・。

 

 

「・・・こうして見ると、本当に活気の無い商店街ですね」

「開店率は20%を切っているかと思われます」

 

 

茶々丸さんの言うように、そもそも開いている店が少ないですね。

レティさんのカフェは商店街の北側の端にあったので気が付きませんでしたが、こうして南側に抜けながら見てみると、確かに潰れたり無くなったりしたお店が多いですね。

 

 

新オスティアの他の場所では、あまり見ないレベルの活気の無さですね。

・・・いわゆる、シャッター街的な。

 

 

「まぁ、それ自体は私が直接関与する問題でもありませんが・・・」

 

 

経済活動の結果そのものについては、私は関与しないことにしておりますから。

まぁ、それ以外の面については考えるべき点もあるようですがね。

そんなことを考えながら頭にチャチャゼロさんを乗せて、同じく頭に晴明さんを乗せているフェイトと並んで歩いています。

 

 

「ことが社会秩序省・・・官僚の不正に繋がっていると言うのであれば、それは私の仕事です」

「ケケケ・・・ダマサレテンジャネーノ」

 

 

もちろん、レティさん達の主張が正しいのかどうかは現時点ではわかりませんけれど。

賄賂云々の話は、現時点ではただ、そう言う話があると言うだけの話です。

噂だけを根拠に何かをできる程、王国の法の目は粗くありませんので。

しかしゴロツキが店舗を襲っているのは事実、それは犯罪です。

 

 

「我の時代には、あれくらい可愛い物じゃったがのぅ」

「新旧王国法ニ抵触シテイマス」

「現在では、普通に犯罪なのです、晴明さん」

 

 

この国において、法律の遵守と結果に対して最終的な責任を持つのは女王(わたし)です。

要するにこの国で犯罪を犯すことは、法案の施行の際にそれにサインする女王(わたし)に対する挑戦です。

 

 

「フェイト」

「うん」

 

 

フェイトがどこからともなく取り出して私に手渡したのは、苺の花が描かれた京扇子。

帽子を脱いで、髪を解いて。

パンッ・・・と絹でできた扇面を広げ、口元を隠します。

そして私は、商店街を抜けた後、後ろを振り向いて・・・さて。

 

 

「たまには、外を歩いてみる物ですね」

 

 

宰相府に帰って、仕事を始めるとしましょうか。

結局の所、公務を見つけてしまえば、私はそれを何より優先しなければならないのですから。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

夕刻になり、アリア様がお戻りになりました。

そして私室に戻るのでは無く、何やら執務室におこもりになられました。

・・・嫌な予感しか、致しません。

まぁ、得てして嫌な予感と言うのは私の味方をしてくれる物なのですがね。

 

 

と、<女王の夫君>に関する我が内閣の統一見解・・・とは別の法案の書類をアリア様に手渡した私は、そう考えておりました。

その法案は、「摂政法案」と名付けられた王室典範の附属法に分類される物です。

<女王の夫君>の王室内の序列と権限に関しては細部の検討が未だ必要なので、先にこちらを。

要するに、アリア様が未成年の後継者(こども)を残して崩御された場合―――おそらくは、私の方が先に死ぬと思いますが―――<女王の夫君>をお世継ぎの王子なり王女なりが成人するまで、摂政に任命すると言う法案です。

まぁ、お世継ぎがお生まれになるのが前提条件ですがね。

 

 

「・・・これは内閣の総意ですか、クルト宰相?」

「末尾のサインの通りです、アリア様」

 

 

そこには王国宰相・宮内尚書・法務尚書の連名での署名が入っており、アリア様は私に意味ありげな視線を向けた後、自分よりも扉に近い位置に執務机を置いている夫君(フェイト)を見てから、法案にサインされました。

宮内省が扱いに苦慮している夫君は特に気にした風も無く、アリア様のために書類整理をしておりました。

アリア様は王室紋が刻まれた専用のガラスペンのペン先を滑らせて、法案に成立の許可を与えます。

たとえ憲法によって権力に枠が嵌められようと、この様式は変わらないでしょう。

女王のサインがあって初めて、法律が成立すると言う様式は。

 

 

その他、いくつかの法案にサインを頂き―――先の工場事故の検証委員会の設立法案や新王宮の追加補正予算案など―――、私はアリア様の執務室を辞しました。

その際、アリア様が私を呼び止められました。

 

 

「クルト宰相、今日は夕食を共に致しましょう」

「有り難き幸せにございます」

 

 

心の中でタップダンスを踊りながら、現実の私は紳士的に礼をしました。

これはきっと先日、旧世界から王国へ輸入する農産物(苺)にかかる関税に関する紛争を妥結させた功績への褒美に違いありません。

ひゃっほう。

 

 

そしてそれとは別に、別の思考も巡らせます。

はたして何故、このタイミングで私と夕食を共にするのか。

その意図を推し量らなければなりません。

 

 

「それと申し訳ありませんが、社会秩序尚書を呼んでくださいますか?」

「こちらに・・・でございますか?」

「はい。王国宰相を使いのように扱って、申し訳ありませんが」

「滅相もございません、私は女王陛下の僕でございますれば・・・して、何か懸念でもおありでしょうか」

「いえ、ただ新オスティアの警察機構について確認したいことがあるだけです。今日は宰相の心遣いのおかげで市井の生活を見ることができましたので、気になってしまって」

「・・・左様でございますか」

 

 

それはそれは、素晴らしいことでございますね。

警察機構・・・なるほどなるほど。

さて、どの件がアリア様のお耳に届いたのでしょうね・・・。

 

 

私自身が関わっている件は皆無ですが。

しかしアリア様の意図を推し量るのが、王国宰相たる私の役目ですから。

 

 

 

 

 

Side レティ

 

天国のお母さん、今日は不思議なお客さんが来たの。

どこかで見た気もするんだけど、あんなに苺パフェを食べる人には覚えが無いし・・・。

 

 

まぁ、とにかく初めて会う人達だったし、久しぶりのちゃんとしたお客さんだったの。

お金もきちんと払ってくれたし、しかもダブリン達を追い払ってもくれたのよ。

正直、あの人達がダブリン達から仕返しされないかだけが心配だけど・・・。

でも、お父さんの考えたスイーツを褒めてくれて、嬉しかった。

お父さんのスイーツは、世界一なんだから!

 

 

「はい、お父さん、今日の帳簿」

「・・・いつもすまねぇなぁ」

「もう、だからそれは、言わない約束でしょ?」

 

 

2年前から、お父さんは謝ってばかり。

お母さんが死んだ時は、それは悲しかったけど・・・お父さんがいてくれたから、寂しく無かったもの。

お店を締めて―――私一人だから、結構大変だけど―――夜、咳き込むお父さんの背中を撫でながら、それでも私は笑顔だった。

今日は本当に、良い日だったから。

 

 

お母さんが生きていたら、とか思わないわけじゃないけど。

でも、あの交通事故で一番悲しくて辛い目にあってるのは、お父さんのはずだもの。

その時の怪我が元で循環器官に疾病を抱えた後も、ちゃんと私を支えてくれているもの。

 

 

「お父さん、早く元気になってね。それまでは、私が頑張るから」

「そうだなぁ、お前が嫁に行くまでは、何とかなぁ・・・」

「もう、またそんなこと言って!」

 

 

相手もいないのに、お嫁さんとか結婚とか。

私、まだ16だよ?

 

 

「しかし、お前、女王陛下だって16でご成婚されたじゃないか」

「そうだけど、でも私はまだ予定は無いもの。お父さんと一緒にいるんだから」

 

 

女王陛下のご成婚・・・か。

確かに、凄い結婚式だったなとは思うし、良い女王様なのかもしれないけど。

でも、だからどうなのって感じ・・・。

 

 

政治とか、私から凄く遠いからわからないし、それに・・・。

・・・それに、ダブリン達みたいな連中を放置してるような人じゃない。

あの女王様自身は良い人でも、結局はダブリン達と組んでるような官憲をどうにもできない人じゃない。

恨んでるとかじゃないけど、でも女王様が私達の生活をどうにかしてくれるわけじゃないもの。

だから・・・。

 

 

ガン、ガンガン!

 

 

ビクッ・・・と、身体が震えた。

お父さんのカフェは1階部分にあって、2階は私達父娘の生活空間になってる。

でも今、1階の・・・下ろしたシャッターを誰かが叩いた。

いったい、こんな時間に誰なんだろう・・・。

 

 

「夜分遅くに申し訳ありません、警察の者なんですけれども――――」

 

 

警察、ダブリン達のような借金取りじゃないことに、ホッと胸を撫で下ろす。

でも・・・別の不安が、私を苛んだ。

警察って・・・こんな時間に、来るものだったかな―――――?

 




ウェスペルタティア王国宰相府広報部王室専門室・第5回広報

アーシェ:
はーいっ、出番を取り戻しましたアーシェです!
今回のお客様は、な、なななんとぉ――っ!?
私のお給料の出所! 王国の暗部! クルト宰相でーすっ(ばばーんっ)!

クルト:
ははは、どうもどうも・・・アーシェさんの生活レベルを掌握している私です。

アーシェ:
いやぁ~、今話でも怪しさ大爆発でしたね! ところで最近、若い女の子を執務室で囲っていると言う噂が宰相府で持ち上がってるんですけど!

クルト:
政治家はノーコメントしか言わないんですよ、知っていましたか?

アーシェ:
実はいろんな人から嫌われてるって話もあるんですけど!

クルト:
アリカ様とアリア様以外の感情は、この際どうでも良いですねぇ。

アーシェ:
ブレない所が素敵との声もあるんですが!

クルト:
アリカ様とアリア様(以下同文)。

アーシェ:
本当にブレませんね!

クルト:
忠誠心の賜物です。

アーシェ:
それだけじゃない気も・・・そして、今回のベストショットはぁ・・・(ごそごそ)・・・。

クルト:
夕食時に出てきた苺のケーキを食すアリア様です。

アーシェ:
私の台詞が!?
出番に続いて台詞をとられるの!?

クルト:
見てください皆さん、これは表情を緩められているわけではなく、様々な思考が電撃的に脳内を駆け抜けた結果なのです。
私が立案し私が調達の指示を出し私が納入の書類にサインし私が―――(中略)―――した結果なのです。
すなわちこの刹那のアリア様の地の表情と仕草はまさに若かりし頃のアリカ様の怜悧さと並ぶ、ああいえアリカ様は現在も若さと美しさと可憐さを維持されておりそれもまた私の忠誠心を刺激してやまないことこの上なく―――。

アーシェ:
本気すぎて引くし!

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