魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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伸様・月兎様・伊織様・スモーク様提案の内容を含みます。
では、どうぞ。



アフターストーリー第7話「エヴァンジェリンの幸福」

Side リュケスティス

 

「それでどうだい、最近のエリジウムは」

「ん・・・?」

 

 

俺が食後のワインの香りを楽しんでいると、目の前の女がそう声をかけてきた。

場所はエリジウム大陸北部ケフィッスス、総督府の食堂。

元々は旧連合の国営高級ホテル「ケーバラ」であり、食堂とはつまり展望レストランだ。

俺はそこで、本国から来た政府要人と夕食を共にしているわけだ。

 

 

背中の大きく開いた扇情的なドレスを事もなげに着こなしてしまうこの女は、テオドシウス・エリザベータ・フォン・グリルパルツァー。

王国貴族であり、女王の信任厚い外務尚書であり、半妖精(ハーフ・エルフ)。

ついでに言えば、俺としたことがある事情から愛称で呼び合う仲になってしまった女でもある。

 

 

「どうと言われても困るが・・・まぁ、何とかやっているさ」

 

 

事実として、概ね総督府の統治は王国信託統治領―――エリジウム大陸北部―――全体に行き渡り、大きな事件も無く半年が経過し、4月になった。

エリジウム戦役直後は、北部だけで10万人の難民とその5倍の失業者を出した。

 

 

しかし半年経った今、難民は多くが故郷に戻り―――皮肉なことに、オスティア難民の経験が生きた―――大規模な難民問題は多くが収束しつつある。

失業問題については接収したメセンブリーナの評議会議員の資産(帝国側と折半)7億ドラクマを元手に、公共事業を行った。

新グラニクス建設事業、エリジウム北部を縦断する8000キロの鉄道・街道の整備事業、食糧増産のためのセブレイニアでの農業事業・・・経済制裁と戦争によって荒廃したエリジウムでは、数え上げればキリが無い程の大小の事業が存在する。

資金と人手は、むしろいくらあっても足りないくらいなのだ。

 

 

「最初は月に10度はあったデモやストライキも、先月には2件まで減っている」

「流石だね、総督殿」

「そうでもないさ・・・たまにマリアとか言うお前の友人から、ヘンテコな手紙を貰うがな」

「う・・・」

 

 

悪魔で愉快犯な友人の名を出されては、怜悧な外務尚書殿も困ると見える。

まぁ、奴からの手紙は読まずに燃やして捨てているが、それは別に言う必要は無いな。

 

 

「そちらはどうなのだ、最近」

「ん・・・私か。私は・・・最近は、アキダリア問題にかかりきりだな」

「ほぅ、アキダリア」

「ああ」

 

 

それ以上のことは言わなかったが―――むしろ言われれば、機密保持の点から問題があるが―――大体の事情は、外務省関係者で無くとも新聞を読んでいればわかる。

俺は俺で、自前の耳を持っていることだしな。

 

 

・・・アキダリア問題は、アル・ジャミーラを首都とするアキダリア共和国とその隣国、パルティア連邦との紛争だ。

パルティア北部の小さな島々を巡る領土紛争でもある。

良くある話で、パルティア領内のアキダリア人が多く住む地域がアキダリアへの帰属変更を求めており、それを武力弾圧したパルティア政府に対してアキダリアが反発している・・・と言う物だ。

先月に入って2度、国境警備艦隊同士の砲撃戦に発展している。

 

 

「一時期は、沈静化したんだがな」

「ああ・・・」

 

 

今年の1月に王国の仲介で両国の首相がオスティアで会談して、停戦と国境画定交渉の開始が合意された。

その後1ヶ月ほどは、沈静化したのだが。

停戦に合意した2人の首相が国内の反発を抑えきれずに辞任して、白紙に戻ってしまった。

 

 

「・・・そう言えば、本国で面白い噂を聞いたよ」

「ほぅ」

「ああ、確かキミとも親しいグリアソン元帥に関する噂なのだけど・・・」

 

 

空気を変えようと思ったのか、エリザが別の話題を振ってきた。

だがそれにしても、グリアソン・・・?

 

 

「どんな噂だ?」

「何でも、グリアソン元帥がね?」

「ああ」

「あのマクダウェル尚書と、結婚するらしい」

 

 

・・・・・・何と言うか。

明日、エリジウム域内の物価が10倍に高騰したとしても、今ほど驚かないだろうよ。

それは、そんな話だった。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

言われの無いことで責められた時、どうすべきか。

これはなかなか、深い問いでは無いでしょうか。

 

 

「どぅうおおぉぉいうぅことだゲ――デルゥ―――――ッッ!!」

 

 

アリア様への朝の謁見と閣議を終えた私は、いつものように執務室に戻りました。

その直後、と言うかほとんど同時に吸血鬼(エヴァンジェリン)が私の所にやってきて、机を叩きながら怒鳴り散らしました。

 

 

・・・どう言うことだと、言われましても。

はて、どれがバレたのでしょう。

アレでしょうか、それともアレでしたか・・・。

 

 

「貴様だ! この国で起こる奇怪な出来事や不快な事件は大体がお前が原因だ!!」

「・・・話が見えないのですがね」

「しらばっくれるなあぁ――――――っ! イライラするわっ!!」

「・・・イライラされましても」

 

 

いよいよ殺気をぶつけられる段階になっても、私はさっぱりでした。

私が目の前の吸血鬼に話していない後ろ暗いことは、実の所かなりあるのですが。

そのどれについてバレたのかがわからない限り、何とも返答のしようがありません。

 

 

「・・・まぁ、とりあえずは何をそんなに怒っているのか、聞かせて貰えませんかね」

「そぉか・・・あくまでシラを切ると言うなら私にも考えがあるぞ」

「貴女程度の浅い考えなど興味はありませんが、まぁ、事情を話してみてくださいよ」

「八つ裂かれたいのか、貴様?」

「クビにしてやりましょうか、貴女?」

 

 

鼻先が触れ合う程の距離で睨み合う私と吸血鬼。

・・・数秒程して、離れました。

吸血鬼は傲然と腕を組み、頬をヒクつかせながら・・・。

 

 

 

「何で私とグリアソンが結婚することになっているんだ!?」

 

 

 

そう、言いました。

そして私は、聞いたわけですが・・・。

 

 

「・・・は?」

「は? じゃない!! さぁ、どう言うことか説明してもらおうか・・・!?」

 

 

・・・私の人生において、これ程まで明確な意思を持って使用した「は?」は、ちょっと記憶にありませんねぇ。

どうしましょう・・・ウェスペルタティア王国の陰謀は全部私のせいだと言われたこともある私が。

 

 

まったく、全然、これっぽっちも何の話かわからないだなんて。

 

 

私としたことが、本当に何の話かさっぱりですよ。

吸血鬼と、グリアソン元帥が、結婚?

・・・は?

 

 

「正確には、見合いすることになってるらしいが・・・」

「見合い・・・ですか」

「そうだ! さぁ、吐け! キリキリ吐け、さもないとぉ・・・本気で殺す!!」

「はぁ・・・」

「何だそのアホ面は!? これ以上シラを切ろうったってそうはいかんぞ!! さぁ、知ってることをキリキリ吐け! とにかく吐け! 今すぐ吐け!! ・・・・・・・・・知ってる、よな?」

 

 

・・・私が心の底から「は?」状態なので、吸血鬼も不安になったのか、最後には自信を失いかけていたようです。

 

 

「あの・・・さっぱり、話が見えないのですが・・・」

「え・・・お前じゃ、無い?」

「おそらく・・・」

「・・・だ、騙されんぞ! お前が知らない陰謀があるはずが無いんだ!」

「いや・・・高く評価して頂いて恐縮ですが・・・」

「・・・知らないのか?」

「残念ながら・・・」

「・・・ホントに?」

「はぁ」

「・・・少しも?」

「さっぱり」

「「・・・」」

 

 

・・・何でしょう、この空気。

 

 

「・・・とりあえず、詳しく話を聞かせて頂けますか」

「・・・うん」

 

 

妙に素直に、吸血鬼が頷きました。

ただ残念ながら、私はアリカ様とアリア様以外にはときめきませんので。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

「・・・あ、マスター。おはようございま」

「こぉんのボケロボォ―――――――ッッ!!」

「す・・・って、え、ちょ、マスター・・・ああっ、いけませんそんなに巻かれてはあぁあぁあぁぁぁあ」

 

 

アリアさんのためにお紅茶を淹れようとした時、マスターが私の部屋に乱入してまいりました。

そして即座にネジを奪い取り、私を押し倒して馬乗りになると、頭をわし掴みにして無理矢理に突っ込み、乱暴に蹂躙し始めました。

大量の魔力が私の中を無遠慮に駆け巡り、私はもう、もう・・・!

 

 

「噂を辿ってみれば何てことは無い、大本はお前か―――――――っ!!」

「ますっ、ますたっ、巻かない・・・そんな乱暴に巻かれたらっ、はぁああうううぅぅ・・・っっ!?」

 

 

何度かショートと再起動を繰り返し、前後不覚にされてしまった私は立つこともままならず、マスターの良いようにされてしまいました・・・。

 

 

「ます、ますたぁ・・・もう、もう、お許しを・・・」

「よーし、最初からそう言えば良いんだ」

 

 

最初からも何も、話をする前に実力行使されてしまったのですが。

 

 

「・・・それで、ご用件は何でしょう。そしてできればネジから手を離しぁうんっ!?」

「聞きたいことは他でも無い、お前が各方面に働きかけたと言う私とグリアソンの見合い話についてだ」

「・・・ああ、そのお話なら確かに私がセッティングさせて頂きました・・・ひぅっ!?」

「私は今、家族の酷い裏切りにあって傷心中なんだ。だからうっかりと手が滑ってしまうかもしれんが、寛大な心で許せ。ちなみに、私は許さん」

「ま、マスター・・・お、お待ちを、そ、そんなに強くされたら私――――――!?」

 

 

さらに30分ほど責め抜かれて、ようやく解放されました・・・。

正直、回線がいくつか飛びましたが・・・。

・・・ええと、何のお話でしたか・・・。

 

 

「見合いの話だ」

「ああ、はい、その話ですが、元々はマスターにも原因があることなのです」

「原因?」

 

 

マスターはもの凄く訝しげな表情を浮かべましたが、私が何故お見合いをセッティングしたかについてはわかりかねているようです。

しかしこれは間違いなく、マスターの過失も含まれているのです。

 

 

「・・・週に6回、内4回です」

「は?」

「アリアさんとフェイトさんの夜の性か・・・生活において良い雰囲気になるのは、平均して週に6回。そしてマスターは平均してその内の4回を妨害しております」

「はぁっ!?」

 

 

先日、アリアさんから相談されたのです。

最近、マスターが良く寝室に足を運ぶ・・・と。

マスターがどうにも嫉妬心豊かなのか、以前にも増してフェイトさんに絡んでいるのです。

結果として、新婚夫婦の夜を邪魔することに・・・。

端的に言えば、お邪魔虫なのです。

 

 

「・・・いや、それはだな、お前・・・」

「そこで私は考えました、いっそマスターも結婚してしまえばいいのでは無いかと」

「そこは待て」

「しかし残念ながら、マスターの夫になれるような人材はなかなかおらず・・・」

「いてたまるか!」

 

 

さよさんもアリアさんも家庭を持たれましたので、マスターもいかがかと。

・・・まぁ、正直それほどの熱意をもって実現させようとは思いませんでしたが。

大方、私が何気なく呟いているのを誰かが聞いて、噂が広がって事実に近い所にまで昇華されたのでは無いかと。

 

 

「・・・まぁ、相手が誰かまでは私も存じませんでしたが」

「何で、ナギじゃなくてグリアソンなんだ・・・?」

 

 

ナギさんは妻子持ちです、マスター。

ですが、どれほど真実に近かろうと噂です。

75日ほど放っておけば、自然と消えるかと・・・。

 

 

「消えるわけ無いだろうが!!」

 

 

ですよね。

 

 

 

 

 

Side グリアソン

 

俺は今、極めて機嫌が悪い。

俺は自分が公明正大な人間であると思い上がったことは無いが、常に公明正大であろうとしている人間だと信じている。

 

 

そんな俺にとって嫌いな物が4つある。

不正、虚偽、不条理な暴力・・・そして中傷だ。

特に、妙な噂を信じて他者の名誉を傷つけるがごとき言動は、俺は憎んですらいる。

そのような行為は、この世から消えて無くなってしまえば良いのだ。

 

 

「元帥閣下、おめでとうございます!」

 

 

・・・新オスティア郊外での陸軍の演習を視察が終わった後、配下の若い士官がそんな声をかけてきた。

今日で何人目かわからんが、この後に言われることはわかっている。

 

 

「何でも、マクダウェル工部尚書とご結婚なされるそうで!」

「・・・貴様もか」

「は?」

「貴様もそんな根も葉も無い噂を信じて、俺ばかりでなくマクダウェル殿の名誉を傷つけるか!!」

「は・・・は!?」

 

 

どいつもこいつも、くだらん噂に振り回されるとは。

俺はともかく、マクダウェル殿の名誉を傷つけることは許さん。

そもそも、俺とマクダウェル殿が結婚だの見合いだの・・・。

 

 

・・・極めて光栄だ。

だが俺は、それでマクダウェル殿が傷つくのであれば、断固としてそれを否定せねばならない。

 

 

「まったく・・・どいつもこいつも」

 

 

演習場から新オスティアへ戻るべく歩きつつも、俺の苛立ちは募るばかりだ。

どこの誰が広めた噂か知らんが、俺の考えつく限り最悪の噂だ。

婦女子の名誉に傷を付けるような輩は、許してはおけん。

 

 

しかしだからと言って、噂を根こそぎ撲滅するようなこともできん。

現実的では無いし、何よりもくだらん。

 

 

「マクダウェル殿に迷惑がかかっていなければ良いのだが・・・」

 

 

ただ、それだけが気がかりだ。

俺の名誉など究極的にはどうでも良いが、あの方に浮き名など似合わない。

リュケスティスくらい名を馳せていれば、今さら一つくらい増えても良いのだろうか。

・・・いや、それはそれで問題だが。

いつかアイツも、温かな家庭を持ってほしいものだ。

 

 

「・・・元帥閣下!」

 

 

軍用車両に乗り込もうとしたその時、一人の士官が駆けて来た。

通信士官の中佐で、彼は俺に敬礼した後、報告してくる。

 

 

「宮内省から通信が入っております」

「宮内省? 国防省では無くか」

「はっ」

 

 

・・・少々、不思議に思ったが。

通信と言うなら、聞く義務が俺にはある。

 

 

「宮内尚書ドミニコ・アンバーサより、女王陛下のお召しである、すぐに参内願いたいとのことです!」

「女王陛下が・・・? 何事が危急の事態でも生じたのか」

「いえ、ただ参内せよとのことです」

「ふん・・・?」

 

 

ますますもって不思議だが、しかし女王陛下のお召しとあらば何よりも優先して赴かねばならん。

俺は通信士官に了解の旨を返信するように命じた後、新オスティアへの帰還を急ぐことにした。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「見合いをしろだとぉっ!?」

「ええ」

「お前、朝はそんなことは言わなかっただろうが!!」

 

 

私と一緒に昼食の席についているのは、フェイト、エヴァさん、クルトおじ様ともう一人。

給仕は茶々丸さん。

女王、夫君、工部尚書に宰相、王室女官長。

場合によっては、御前会議が開けるメンバーですね。

 

 

ちなみに何を話しているかと言うと、エヴァさんのお見合い問題です。

正直、私としても不用意に相談してしまったことを後悔し始めています。

 

 

「私も今では反省しております、マスター」

「本当にごめんなさい・・・」

「いや、アリアはこの際だから良い・・・茶々丸は後で仕置き続行だ」

 

 

だって・・・直前に部屋に入られたらどうすれば良いのかわからなくて・・・。

何の直前かは、まぁ、羞恥心の範囲内と言うことで。

 

 

「・・・まぁ、私としても今朝の段階ではどうでも良いことだと思ったんですが・・・」

「私にとってはどうでも良く無いぞ!」

「正直、ただの噂なら放っておいたのですが・・・」

 

 

非常に珍しいことに、クルトおじ様も困ったような顔をしておりました。

クルトおじ様が状況に流されていると言うのは、非常に珍しいですね。

そんなクルトおじ様の視線の先に、最後の一人。

 

 

「・・・うちも、旧世界側から聞いた時は本気でビビったんですけど・・・」

 

 

千草さんです。

昼食前の私の最後の面会者で、合弁事業の今後の展開や物的・人的交流に拡大について話した後、エヴァさんの噂について確認されて、本気でビックリしました・・・。

ど、どう言うわけで旧世界に・・・?

 

 

「うちも詳しくは無いんどすけどな、どうも・・・まほネットに情報が流れとるらしいんどす。エヴァンジェリンはんと元帥はんが見合いするんは、もう既成事実になっとるらしいんどす」

「なんでだ!?」

「いや、うちに聞かれても・・・」

 

 

千草さん自身もそこまではわからないのか、困惑した表情を浮かべておりました。

 

 

「長は、エヴァンジェリンはんにはとても世話になったから言うて・・・もしよければ、見合いの席は旧世界連合の旧関西呪術協会で用意すると言っとります」

「詠春が何で、私の見合いの会場を用意するんだ・・・?」

「そうですね、これはあくまでも王国側の問題ですので」

 

 

キラッ・・・と眼鏡を輝かせて、クルトおじ様が会話に入りました。

どこか、調子を取り戻してきた様子です。

 

 

「しかし、ここまで話が大きくなってしまった以上、見合いをしないわけにはいきません。まぁ、幸い個人的な話ですので・・・内密に見合いしたと言う事実を作るだけにしましょう」

「まぁ・・・うちらは別に構わへんけど」

「いや、う・・・マジ、か・・・?」

 

 

疲れたように項垂れるエヴァさんの様子に、私は溜息を吐きます。

どうしてこんな・・・ネットって怖いですね。

それにしたって、どうしてこんな急速にネットで噂が・・・。

 

 

「・・・」

 

 

・・・そう言えば、今日のフェイトはいつにも増して無口ですね。

昨夜も邪魔されましたから、実は事態が進むのを静観しているのではないでしょうか。

 

 

「陛下、グリアソン元帥閣下がお見えになりました」

「・・・わかりました。謁見室に通しておいてください」

「は・・・」

 

 

知紅さんがグリアソン元帥の来訪を告げましたので、カップを置いて席を立ちます。

・・・さて、どう説明しましょうか・・・。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

・・・2日後の夕方、私の抵抗も空しくグリアソンとのお見合いが敢行されてしまった。

実力行使以外では、私は実はかなり無力だ。

女王の名で布告が出されて、宰相府が間に立ってしまうとどうにもならん。

 

 

私はアリアの閣僚の一人だが、それは魔導学者あるいは技術官僚(テクノクラート)としての私が重用されているのであって、政治的センスを買われてのことでは無い。

 

 

「・・・とても良くお似合いです、マスター」

 

 

私に見合い用の振袖を着付けていた茶々丸が、満足気に頷いている。

見合いならコレと言われたが・・・私は黒地に金と淡い赤の柄が豪奢さと清潔さがバランスよく配された着物を着ている。

髪はまとめられて、色は黒で所々に金色で星が描かれている簪「夜空」が私を彩っている。

 

 

・・・うん、もう、アレだ、どこからどう見ても見合いだ。

私の人生が始まって600年。

見合いは、初めてだな・・・。

 

 

「何か思う所もあるでしょうが、そのようなお顔をされていてはお相手の殿方に失礼ですよ?」

「・・・言っておくがな、私もグリアソンも噂に乗せられてやってるんだ。3分で終わらせるぞ、こんなくだらんイベント」

「一応、国家事業としての見合いなので、結婚式とまでは言わないでしょうが・・・結構な長さになるかと思われます」

 

 

見合いで公的身分が出てくるのか!

出てくるのだろうな、立場上。

くっそ・・・ほぼ身内だけの見合いだが、実にくだらん・・・。

 

 

私が結婚などするはずが無いだろうに、いや、そもそも。

・・・できるわけが無い!

 

 

「まぁ、そんな毛嫌いせずに・・・そんなに悪い物でも無いですし」

「いつからそんな恋愛至上主義者のような発言をするようになった、茶々丸」

「別に、そのようなつもりはございませんが・・・」

 

 

噂の大本を作った本人が、何を言っているのか・・・。

確かに私は、アリアとフェイトの間に割って入ることが多かったかもしれん。

だがそれは規律と節度のためであって、けして嫉妬とかでは無い!

 

 

「そんなことを言っていては、いつまでたってもお孫さんができませんよ、マスター」

「誰が誰の孫だ、ボケロボ!」

 

 

いや、確かにアリアは娘のような存在ではあるが、それは何か違うだろう。

くっそ、やはり頭がおかしくなってるんじゃないかこのロボ・・・。

 

 

「それにしても、グリアソンには迷惑をかけるな・・・」

 

 

いや、私のせいでは無いが、私の従者が原因で流れた噂だしな。

まったく、グリアソンに恋人でもいたらどうするつもりだ・・・。

 

 

大体、私はまだナギを諦めていないぞ!

今は無理かもしれんが、いずれ私のモノにしてくれる。

そうすれば、事実上アリアの母にもなれると言うわけだ。

うむ、悪く無い・・・悪く無いな!

と言うわけで、今回の見合いは破談で決定だ。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

ああー・・・面倒ですね。

ただでさえ仕事が多いんですから、面倒ごとを起こさないでくれませんかね。

成功しようとすまいと、私にはあんまり利益がありませんし。

 

 

「ははは、いやめでたいですね」

「・・・おじ様、棒読み過ぎます・・・」

 

 

旧世界連合の大使公邸の応接室、そこが見合いの場に急遽セッティングされました。

一応、非公式と言うことで・・・この場にいるのはアリア様、アーウェルンクス、アリカ様、ナギに私、絡繰さんだけです。

完全に少人数の身内だけで行われております。

あとは・・・まぁ、当然。

 

 

「マ、マママ、マクダウェル殿・・・」

「・・・何だ」

「ご、ごごご、ご趣味は・・・?」

「・・・家族サービス」

 

 

ガッチガチに固まって周囲が見えていないグリアソン元帥と、やけに無愛想な吸血鬼。

以上が、このお見合いの参加者なのですが・・・。

・・・私がここまでやる気が出ないのは、生まれて初めてかもしれませんねぇ。

 

 

本当なら、この事態を逆用して利益を得ようとするのですが。

どうも、この件に関してはやる気が出ません。

仕方が無いので、アリア様の可憐さとアリカ様の美貌を堪能しておくとしましょうか。

明日の活力に致しましょう。

 

 

「はい、ではまぁ・・・とりあえず、乾杯しましょう」

「そうですね・・・では、乾杯」

 

 

絡繰さんが運んできた夕食を前に、食前酒で乾杯します。

アリア様の音頭に合わせて、グラスを掲げて・・・夕食後に、吸血鬼と元帥が2人きりになる時間が用意されております。

・・・まぁ、破断でしょうねぇ・・・。

・・・やる気、出ませんねぇ。

何か、私のやる気を刺激してくれるイベントはありませんかねぇ。

 

 

「・・・む、この飲み物は美味じゃの」

「え、どれですか・・・ああ、これは私、知ってます」

 

 

夕食の最中に饗されたお酒の一つに、アリア様が興味を持たれたようです。

はて、アリア様はお酒に弱かったはずですが・・・。

 

 

「これは、フェイトが結婚式の夜に私に飲ませてくれた物なんです。ね、フェイト?」

「え・・・」

「ほぅ、婿殿がのぅ」

「はい、お母様。確か・・・エキュルラット・サンティユモン・・・でしたっけ。私、これだけは飲めるんです」

「いや、それは・・・」

 

 

アーウェウルンクスが手を伸ばして何か言いたげにしておりましたが、アリア様はアリカ様から受け取ったグラスに口を付けました。

そのまま、グラスの半分ほどを満たしていた赤い液体を、二息ほどで飲み干してしまわれました。

 

 

「それは・・・ルージュ・エトワール・・・」

 

 

止め損ねたアーウェルンクスが、そのお酒の銘柄を告げます。

ルージュ・エトワール・・・別名「赤い星」。

アルコール度数、まさかの50%です。

次の瞬間、アリア様はドタッ・・・とテーブルに突っ伏されました。

 

 

「・・・アリア」

「あ、アリア!? ど、どどどうした、しっかりせぬか・・・!?」

「アリアさんは、お酒にとても弱いのです。そして酔われると・・・」

「ん~・・・?」

 

 

アリア様はまるで眠っているがごとき動作で身を起こすと、ユラユラと頭を揺らしておられました。

これはいけません・・・と、私が席を立ってお傍に近付いた、その時。

 

 

「お・じ・さ・ま♡」

 

 

衝撃―――――。

 

 

 

 

 

Side アリカ

 

アリアが酒に弱いと言う話は、本人からも周囲からも聞いておった。

だがこれだけは飲めると言うので、不思議に思いつつもグラスに注いでやったのじゃが・・・。

・・・酔うとどうなるか、と言う話は聞いたことが無かった。

 

 

「あのねクルトおじ様、私・・・24時間、働きたいんです」

「い、いや、それはちょっと流石にどうかと・・・」

「・・・私のこと、お嫌いですか・・・?」

「い、いや、そのようなことは決して・・・け、けけ、決して・・・!」

 

 

顔を赤くしたアリアが、クルトに文字通り絡んでおる。

か、絡み上戸なのか・・・?

 

 

「いえ、甘え上戸です」

「甘え上戸!?」

「はい、アリアさんはお酒を飲むと甘え上戸になり、ひたすらにお仕事をねだり始めます。そして酔ったアリアさんに絡まれてお仕事を渡さない人間はおりません。かの新田先生でさえ、陥落寸前まで行かれました」

「に、新田?」

 

 

それが誰かは知らぬが、絡み方が意味不明じゃ。

そ、そんなに仕事がしたいのかの・・・いや、良い事には違いないのじゃが。

だとしても24時間と言うのは、流石に無理じゃろ。

 

 

その時、ドシャッ・・・と誰かが倒れる音が響いた。

誰かと思えば、クルトじゃった。

 

 

「ど、どうしたのじゃ、大丈夫かクルト!?」

「もう、ゴールしても、良いですかね・・・がくり」

「く、クルト―――――ッ!?」

 

 

ゴールも何も、「がくり」すら口で喋っておるでは無いか!

と言うか、何がどうなって・・・。

 

 

ぽふんっ。

 

 

その時、背中に何やら温かい物が。

何かと思えば・・・アリアが、私の背中に・・・。

 

 

「お母様ぁ~♪」

「こ、これ!」

 

 

このような場所で、この娘は・・・酔っておるにしても度が過ぎると言う物。

手がつけられぬ娘じゃ・・・ええいっ。

 

 

「しっかりせぬか、アリア!」

「お母様」

「な、何じゃ?」

「・・・好きです」

 

 

アリアを背中から引き剥がして肩を掴むと、今度は正面から抱きつかれてしまった。

そのまま、私の胸に顔を埋めてくる。

娘のその様子に何ともムズムズする、不思議な感覚に捉われて・・・いやいや。

 

 

「こ、これ・・・」

「ふかふかします・・・」

「む、む・・・」

 

 

16とは言え、そして結婚したとは言え、娘は娘。

幼い頃に放っておいたと言う負い目を感じぬはずも無いし・・・。

しかし、この子はもう女王じゃし・・・。

ぬ、ぬぅ・・・。

 

 

「・・・お仕事、ください?」

「結局それか!」

 

 

何をどうしたら、こんなに仕事仕事言う娘に育つのか!

と言うか、瞳を潤ませながら言うべきことではなかろうが。

ど、どうすれば良いのじゃ、この娘。

 

 

 

 

 

Side ナギ

 

・・・まぁ、身内しかいねーし、好きにしたら良いと思うけどよ。

さんざん騒いだ挙句、アリアは寝ちまうし、んでもって茶々丸とうちの嫁さんに寝室に運ばれていくし。

ちなみにアレだぜ、エヴァとグリアソンの旦那がは騒ぎの間に別の部屋に行ったぜ。

 

 

まぁ、後は若い奴ら同士で・・・と言うわけだな。

・・・正直、若いとは言えないけど。

つーか、600歳だしな、エヴァとか。

 

 

「おーぅ、どうした、今日は随分と飲むじゃねーか」

「・・・別に」

 

 

まぁ、今の俺はフェイトの相手で一杯一杯なんだがな。

意外とコイツ、イケる口なんだぜ?

だけど酔ってんだか酔って無いんだか、見分けがつかねぇんだよなぁ・・・。

 

 

とはいえ、こいつがワイン10本も空けるなんてのは珍しいな。

いつもは慎ましく1本で終わるのによ。

誰もいなくなった応接間で、フェイトと2人、酒を飲んでる。

悪くねぇな。

 

 

「・・・嵐のようであったな・・・」

「おぅ、お疲れさん」

 

 

その時、うちの嫁さんが戻ってきた。

疲れ切った様子で、俺の横の椅子に座る。

 

 

「飲むか?」

「・・・そうじゃの、頂こう」

 

 

アリカにもグラスを渡して、ワインを注ぐ。

それにしても、本当に飲むな、今日のフェイトは。

アリカが1杯飲む間に、3杯は空けてるぜ。

早ぇなぁ・・・。

 

 

フェイトは初めて出会った時から無表情だったけどよ、最近はちょっと違う種類の無表情だかんなぁ。

表情のある無表情・・・みたいな感じっつーの?

さーて、何か気に入らないことでもあったのかね?

 

 

「どうしたどうしたぁ、何だ、夫婦喧嘩か?」

「・・・別に」

「まぁ、確かに今日は婿殿は、やけに静かであったな」

「・・・別に」

 

 

別に、しか言わねぇし。

まぁ、良いけどよ・・・。

それに大体、こいつらの夫婦喧嘩ってアレだ、ウザいしな。

前に「どっちの方が素敵か」で延々と口論してやがったからな・・・。

 

 

ちなみに、俺も嫁さんで口論に参加しといたぜ。

後でアリカに殴られたけどな。

 

 

いやしかし、フェイトと最初に会ったのは、もう17年も前か。

いろいろあったけどよ、まさかこんな関係になるとは思わなかったな。

・・・いや、流石の俺もアーウェルンクスが娘と結婚するとか考えつかねぇって。

アリカの奴はガキの時に構えなかった分、あれやこれやと心配ばっかしてるみてーだし・・・。

アリアにしろネギにしろ・・・な。

 

 

「・・・もう一本、貰えるかな」

「お♪ 本当に行くねぇ」

「・・・別に」

 

 

・・・それにしても、ホントに不機嫌そうだな、こいつ。

何か、気に入らねぇことでもあったのか・・・?

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「まったく・・・見合いしたと言う事実だけが必要とは言え、随分と適当な扱いだったな」

「う、うむ・・・」

 

 

別室と言えば聞こえは良いが、半分外に面したテラスのような場所に放り出されてしまった。

しかも、グリアソンと2人で。

正直、そこまで親しいわけじゃないから、何を話せば良いのかもわからん。

それでなくとも、軍服姿のグリアソンがやたらに固い。

話題を振っても、明瞭な答えが返ってこん。

・・・いや、そもそも私がグリアソンに気を遣ってやらねばならん理由は、あんまり無いのだが。

 

 

「マ、マクダウェル殿」

「あん?」

「ほ、ほほ、星が綺麗だな」

「・・・曇ってるが」

 

 

残念ながら、今夜は曇りだ。

星はおろか、月も見えんぞ。

 

 

「う、うむ、曇りだな。美しい雲だ」

「・・・まぁ、人それぞれだとは思うが」

 

 

いったい、こいつは何を言いたいのだろうな。

雲を美しいと言う奴は、珍しいと思うが。

まぁ、私から話題を振るか。

 

 

「それにしても、今日は迷惑をかけたな」

「い、いや、そんなことは・・・」

「お前、恋人はいるのか? 好きな女は? だとしたら、妙な噂を作ってしまうな」

「いや、そんなことは無い!」

「そ、そうか」

 

 

最後だけやけに反応されたが、まぁ、いないなら良いか。

まぁ、浮き名の一つや二つ御しきれなくては、男が廃るというものだろう。

 

 

「ま、マクダウェル殿こそ・・・その、想い人や恋人などは」

「うん? ・・・フフ、おらんよ。そもそもな、グリアソン、私には人生の伴侶を定めて幸福に生きるようなことはできんよ」

「そんなことは・・・無いと思うが」

 

 

・・・お前は優しいな、グリアソン。

だが、私は誰かと愛を育むことを当然のように要求する権利を、すでに失っているのさ。

この600年で、私がしてきたことを考えればな。

 

 

それでなくても、不老不死のこの身体。

いつかも言ったが、私は「こんな身体(ナリ)」だから。

「こんな身体(ナリ)」。

この言葉に込められた意味を知るのは、私だけだ。

受けた物を返せない身体。

 

 

だから私は、ナギへ(かなわない)想いを言い募り続けるのさ。

ナギが私に靡かないことなど、とっくの昔にわかってる。

仮に靡いたとしても、それはナギとアリカの仲を裂くことに他ならない。

アリアの両親を、引き裂くことに他ならない。

そんなことは、できない。

だからナギも、何も言わない。

アリカも・・・。

 

 

「マクダウェル殿!」

「・・・っ、な、何だ!?」

 

 

私の顔をじっと見つめていたグリアソンが、急に大きな声を出しおった。

な、何だ、本当に今日のコイツは意味不明だな。

 

 

「マクダウェル殿・・・いや、エヴァンジェリン!」

「・・・・・・まぁ、何だ」

「だから、その・・・」

 

 

勝手に人のファーストネームを呼ばれたのはアレだが、今日は迷惑をかけたことだし、許してやることにした。

・・・それから・・・。

 

 

「俺と―――――」

 

 

胸に手を当てて、何かを訴えかけるグリアソン。

それは・・・。

グリアソンの「その言葉」を聞いた私は――――――。

 

 

 

 

 

Side リュケスティス

 

その日の俺の夕食後の最後の仕事は、エリジウム大陸北部の農工業の生産見通しについての報告を民政部門の官僚から受けることだった。

俺は総督就任と同時に自分の権限を軍事と民政に分け、それぞれに補佐を置いた。

ちなみに、軍事補佐の高等参事官はあのガイウス・マリウス提督だ。

 

 

エリジウム大陸北部は元々、豊かな農業生産と鉱物資源に恵まれた豊かな土地だ。

ちなみに南部は工業生産が高い土地だ。

我が女王のエリジウム侵攻以前の経済制裁でかなりのダメージを受けたとは言え、この半年で社会インフラの復旧に努めた結果、回復の兆しを見せ始めている。

 

 

「まず、エリジウム北部の人口はおよそ7000万人、その内のおよそ3800万人が労働力人口であり・・・」

「穀物と肉類の最低価格統制法によって、インフレは収束の兆しに・・・」

 

 

文官達の報告に頷きながら、俺は同時に思考を進めてもいる。

・・・エリジウム北部の1年の穀物生産量は、ピーク時で小麦3000万トンを中心に7600万トン。

漁業資源も豊かであり、畜産業も盛んで自給率は極めて高い。

現在はダメージからの回復期であるから、ピーク時の6割程度の生産に落ち着いているようだ。

 

 

そして何より重要なのが、72種類の豊かな鉱物資源を背景とする鉱業だ。

農業もそうだが、鉱業の面では本国の数十倍の産出量を誇っている。

旧連合統治時代のピーク時には、例えば鉄は1年でおよそ2億5000万トンを生産していた。

ちなみに我がウェスペルタティアは1270万トンで、差は歴然としている。

他にも、魔法世界最大の資源国である帝国ですら生産できない希少金属も多数産出するのが、ここエリジウムだ。

つまり、俺の管轄領域は本国の我が女王をはるかに上回る生産力を有している・・・。

 

 

「・・・総督閣下?」

「・・・ああ、ご苦労だった。下がってよろしい」

「はぁ・・・」

 

 

訝しげな顔をする文官達を下がらせた後、俺は椅子に深く座りなおした。

・・・やれやれ、どうもくだらんことに考えが及んでいたようだ。

総督執務室の壁に視線を向ければ、そこには我が国の国旗と我が女王の軍旗の間に、我が女王の肖像画がかけられている。

 

 

宝石の散りばめられた王冠と黄金の剣、そしてサファイヤとラピスラズリで装飾された金の王錫。

王権の象徴を身に着けた我が女王の肖像画。

我が女王は自分の石像や銅像を作ることを固く禁じる一方で、肖像画については自由にさせている。

奇妙な拘りを持っているようだが、それは別に嫌では無かった。

ただ・・・。

 

 

『総督閣下、お休みの所、失礼いたします。グリアソン元帥からプライベート通信です』

「・・・繋げ」

『はっ』

 

 

・・・プライベート通信だと?

確か昨日もかけてきていなかったか、『リュケスティス、俺はどうすれば良い!?』とか意味不明なことを言っていたが・・・。

そして今日も、どうやら意味不明なことを聞かされるようだった。

 

 

「何だ、グリアソン・・・何、ダメだった? そんなことを俺に言ってどうする・・・」

 

 

ふと、壁にかけられた我が女王の肖像画をもう一度見る。

・・・我が女王は、今頃何をしているのかな。

少なくとも、傷心の友人を慰めたりはしていないだろう。

今頃、あの白髪のご夫君と睦んででもいるのかな・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「・・・頭、痛いです・・・」

「今度からは、お飲みになる前に確認してください」

「すみません・・・」

 

 

かすかな苺の香りが漂う寝室で―――苺のアロマキャンドル―――私は、ベッドの上で茶々丸さんに膝枕されておりました。

どうやら酔っていたようで、目が覚めた時はやたらに頭が痛かったです・・・。

今は痛み止めの魔法薬のおかげで、ほぼ治ってきました。

 

 

「うーん、今回はごめんなさい、茶々丸さん・・・」

「いえ、私は問題ありません。ですが・・・」

「・・・はい、エヴァさんには、やっぱり自分でちゃんと言わないと、ですね」

 

 

夜、急に寝室を訪れるのはやめてほしいと、ちゃんと言いましょう。

少なくとも、事前に行くと連絡があれば問題も減ると思いますし。

明日、ちゃんと謝らないと・・・エヴァさんに。

それから・・・。

 

 

「・・・起きてたの」

「あ、フェイト・・・」

「それでは、私はこれで・・・お休みなさいませ」

 

 

しばらくして、フェイトが寝室にやってきました。

ただ、エヴァさんのお見合いの時に着ていた白いスーツのままです。

着替えに行っていないのでしょうか・・・?

 

 

フェイトを見た茶々丸さんが私から離れて、寝室から出て行きます。

私は軽く頭を振りながら、ベッドの上に座ったまま、フェイトを見つめます。

・・・?

あれ、何か、様子が・・・。

 

 

「・・・フェイト?」

 

 

ゆっくりとした足取りは、いつも通りですけど。

でも、やっぱりどこか違う気もします。

はて、どうしたので、しょ・・・っ?

 

 

    ギシッ

 

 

ベッドの、軋む音。

・・・へ?

ぽすっ、と私の頭が枕の上に倒れて・・・と言うか、はぇ?

どうして私、フェイトに・・・?

 

 

「・・・気分は?」

「え、えっと・・・お騒がせ、しました?」

「別に、それは構わない」

 

 

・・・お酒の、匂い?

えと、フェイト・・・怒って、ます?

な、何で・・・?

 

 

「あ、あの、私・・・皆に、迷惑を・・・」

「・・・クルト・ゲーデルと先代のアリカ女王には、かけたかもしれないね」

「あ、そ、そうですか・・・おじ様と、お母様に。それは明日、ちゃんと・・・」

「・・・僕には、来なかったけどね」

「へ・・・?」

 

 

軽くベッドを軋ませながら、フェイトの右手が私の顔のすぐ横に。

そして左手は・・・シュッ、と音を立てながらネクタイを解いています。

え、あの・・・え?

 

 

「僕の所には・・・来なかったね」

「・・・あの、何の話・・・?」

「わからない?」

 

 

何を言われているのかわからなくて、小さく頷きます。

するとフェイトの右手が私の頬に触れて、指先でゆっくりと頬を撫でました。

触り方が、何とも、その・・・ゾクリと、します。

 

 

「僕の所には、来なかった」

「あ・・・う、その・・・ごめんなさ、い?」

「・・・何を、謝っているの・・・?」

 

 

そ、そんなことを言われましても。

正直、覚えていないと言うか、何と言うか・・・。

こ、こう言う時に限って、エヴァさんは来てくれませんし。

あ、あ・・・ちょ、だめ・・・!

 

 

「・・・そう。なら・・・わかるまで」

「・・・ぁ・・・っ」

「・・・仕方が、無いね」

 

 

 

――――ギシッ――――

 

 

 

その夜は結局、最後まで、どうしてフェイトが怒っているのか、わかりませんでした・・・。

・・・今までで一番・・・激しかった、です。

 




新登場アイテム:
ルージュ・エトワール:黒鷹様提供。
夜桜・苺アロマ:スモーク様。
王錫:リード様。


ウェスペルタティア王国宰相府広報部王室専門室・第7回広報

アーシェ:
はい、アーシェです!
うーん、おっかしぃですねぇ・・・最後、結局、陛下達の話になったような。
そろそろですかねー。
・・・あ、それで今日のお客様なんですけど。

ミク:
ひゃっほ―――っ、みんな、元気――――!
・・・じゃなくても良いですよっ。

アーシェ:
・・・この画面の中にいるのが、そうなんですけど・・・。

ミク:
くふふふふふ、適当に噂を広めてみたですが、なかなか面白いでーすねー?

アーシェ:
・・・私としても、初体験。

ミク:
私達の話もまだできてませんし、マスターも最近はあまり構ってくれませんし・・・。

アーシェ:
・・・ある意味、究極の広報手段なのかなぁ・・・?

ミク:
・・・じゃっ、私はこれから世界を救いに行かないといけないんでー。

アーシェ:
いや、どんな世界を救いに行くのさ・・・あ、今回のベストショットは・・・うーん・・・。

「元帥に返事を返す、マクダウェル尚書」

・・・しんみりですねー・・・。

ミク:
私達のおかげですねっ。

アーシェ:
帰れ!

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