魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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*お読みになる前に
今話では、ヘラス帝国に関するオリジナル設定・オリジナルキャラクターが多数登場します。
オリジナル設定が苦手な方は、ご注意ください。
神駆様提案の内容を含みます。

いざ帝国編を書こうとした際、ラカンさんとテオドラさん以外に帝国人を知らないことにびっくりしました。
・・・あ、ココネさんがおりましたね。


アフターストーリー第11話「帝国物語・前編」

Side 茶々丸

 

・・・36.9度、やや高めです。

アリアさんのお着替えをお手伝いしながら、私は密かにアリアさんの体調をチェック致します。

本当であれば、アリアさんの了解をとってからに行う方が効率的なのですが・・・。

 

 

「・・・終わりました、アリアさん」

「ありがとうございます、茶々丸さん」

 

 

テオドラ陛下の婚礼に出席するための衣装に身を包んだアリアさんが、ふわりと微笑みます。

頬がかすかに赤らんでおり、それは一見、アリアさんの可憐さと肌の白さを強調しているようにも見えますが・・・どうにも、心配です。

特に致命的な不調を訴えられるわけでもございませんので、密かに様子を窺うしかありません。

何しろアリアさんは意外に頑固と言うか、強情な所がおありですから・・・。

 

 

病人扱いするな、触れるなと言われてしまえば、連れてきた侍医団はアリアさんを診察することもできません。

私やマスターと言う特殊なケースですら、表立っては何もできません。

アリアさんは専制君主であり・・・その意思を曲げられる者は存在しないのですから。

 

 

「窓を開けてください」

「はい、女王陛下」

 

 

身だしなみをすっかり整えたアリアさんは衣裳部屋を兼ねる寝室から隣の部屋へ移ると、窓を開けるように侍女のユリアさんに頼みました。

水色の髪の侍女が部屋の窓を開けると、オスティアとは異なる空気が部屋に流れます。

 

 

群青色を基調とした儀礼用のドレスに身を包んだアリアさんが、オスティアのそれよりも強い日差しを浴びて、かすかに眼を細められます。

心地良さそうなその姿からは、身体の不調など感じられませんが・・・。

身体のラインに合わせるように作られた群青色のドレスの素材は絹(シルク)で、唯一ふわりと広がっているスカートには、所々レースやフリルで装飾が施されています。

その他、結婚指輪を含むオスティアの宝飾店「シュトラウス」のアクセサリーを数点。

 

 

「・・・ここが、帝都ヘラス・・・」

 

 

窓の外には、ヘラス帝国の首都の光景が広がっておりました。

帝都ヘラスの高級ホテル「テオファノ」に到着したのは昨日の夜でしたので、明るい内に見るのは、今回の旅程では初めてのことになります。

20階建ての高層ホテルの最上階から見えるのは、巨大な橋の向こうに見えるヘラス宮殿です。

丸みを帯びた独特な尖塔がいくつか見えますが、あれはほんの一部に過ぎません。

新オスティアの宰相府(離宮)の数倍の大きさを誇る建造物で、今頃は婚礼の儀式の準備で大忙しのはずです。

 

 

橋によって繋がる大地と大地の間には大きな滝があり、これは帝都ヘラスの豊かな水源による物です。

帝都ヘラスは円環(サークル)状に広がるいくつもの大地で構成される特異な都市で、7つの円環大地(サークル)が千に及ぶ橋で繋がった大都市です。

円環大地(サークル)はそれぞれ身分に応じて居住者が変わり、私達がいるのは富裕層の多い第二円環(セカンドサークル)、外側に行くほど住民の所得が下がる傾向にあるそうです。

オスティアに勝るとも劣らぬ歴史を持ち、定住人口だけで1500万人、軍港を含めて4つの空港があり、また帝都を中心に帝国の9つの主要街道が放射状に広がっているので、経済の中心地でもあります。

そのため普段なら空には絶えず飛行鯨の姿があるのですが・・・流石に今日は見当たりません。

 

 

「失礼致します、女王陛下・・・夫君殿下がお待ちです」

「わかりました、すぐに参ります」

 

 

暦さんやユリアさんと同じく、拘束を解かれ元の任務に戻った親衛隊副長、知紅さんの声に答えて、アリアさんは部屋の外へ向かいました。

知紅さんは、今回の旅程におけるアリアさんの護衛の責任者でもあります。

 

 

さりとて、流石に本日の主役はアリアさんとフェイトさんではございません。

本日の主役は・・・。

 

 

 

 

 

Side テオドラ

 

化粧を終え、着替えを終えてしまえば、妾にはやることは残っておらぬ。

婚礼の儀式の細部は姉上・・・総大主教であるエヴドキア第一皇女が執り行ってくださる。

儀式の順序については、妾もジャックも嫌と言うほど覚えさせられた。

・・・あんまりキツく教えられるので、帝位継承のことを恨まれているのかとすら思ったが。

 

 

まぁ、ジャックが意外とあっさりと覚えてしまったのには、驚きつつも納得したがの。

ジャック・・・ジャックと出会ったのは、妾がまだほんの子供だった時じゃな。

年齢差は縮まらぬが、じゃが、妾も大人の女になった。

今日という日を、心待ちにしておった。

じゃが、何故じゃろうな、昔が懐かしいのじゃ。

ジャックと結ばれることだけを無邪気に夢見ておった、昔の自分が・・・。

 

 

「クワン・シンよ」

「はい、皇帝陛下」

 

 

帝国の婚礼の作法に則り、妾はジャックが迎えに来るまでは寝室におらねばならぬ。

そして夫となる男以外に姿を見せてはならぬ故、必然、妾の周囲におるのは女性のみに限る。

その中でも特に若い女性―――少女にすら見える―――黒く長い髪を結い上げ、皇帝親衛軍の軍服を着た有角族の将校が、妾の前に跪いておる。

 

 

ヘラス帝国陸軍将校の中では若年じゃが、長く国境守備に就いておった軍人じゃ。

6年前までは、連合の指示で国境警備をしておった王国のリュケスティス元帥と国境を挟んで睨み合っておったとか・・・あとクワン直属の部隊は全て女子で、娘子軍との異名を取っておる。

現在はその娘子軍をも含めた第8親衛騎兵師団の師団長であり・・・妾の身辺を警護しておる。

当然、この婚礼の儀でも妾を守る役目に就くはずじゃが・・・。

 

 

「そなたなら言わずともわかっておろうが・・・今日の婚儀において、第一に守らねばならぬ者は、誰じゃと思う?」

「そうですね・・・」

 

 

クワンはわずかに妾を見上げた後、特に時間をかけずに返答した。

 

 

「ウェスペルタティアの女王陛下かと」

「・・・そうじゃ」

 

 

クワンには、妾よりもアリア陛下を優先して守るよう命令しておる。

最悪、妾の傍にはジャックがおる。

姉上2人はある理由で狙われる可能性が低く、他の貴族や有力者は倒れても最悪、反乱が一つ増えるだけで済ませられる・・・それもアレじゃが。

アリアドネー、メガロメセンブリアなどの諸国と問題を構えても、それもどうにかできる。

 

 

じゃが、ウェスペルタティアとの間にだけは問題を起こしてはならぬ!

 

 

今回の婚儀はもちろん、ジャックと結ばれる私の幸福を意味する。

そして帝国の統一を保つために、帝室の権威を知らしめるためでもある。

つまりそうせねば帝権の下に統一を維持できぬ・・・端的に申せば分裂しかけておると言うことじゃ。

特に軍部が危うい・・・ウェスペルタティアに融和的な穏健派は妾についてくれておるが。

過激派が・・・。

 

 

「ウェスペルタティアとの戦争だけは、何があっても回避せねばならぬ・・・頼むぞ、クワン」

「御意、ウェスペルタティア女王一行に私の部隊を回しましょう・・・ですが」

「大丈夫じゃ、妾にはジャックがおる・・・それに、妾に万一のことがあっても・・・」

 

 

・・・アリア陛下自身にはアーウェルンクスを含む強大な護衛がついておろうが。

じゃが、他の者に危害が及んでも戦争は避けられぬかもしれぬ。

戦争は回避できても、王国は技術供与を止め、帝国は資源供給を止めると言う経済戦争になりかねん。

そんなことになれば・・・。

 

 

・・・本当に、ただジャックとの婚姻を夢見ておれば良かった時期が懐かしい。

父上、妾は弱い娘です・・・父上の遺してくだされた国を守ることすら、難しいほどに・・・。

 

 

「おぃ―――っス、元気かじゃじゃ馬姫!」

 

 

その時、どーんっ、と寝室の扉が開かれた。

そこには・・・。

 

 

 

 

 

Side ラカン

 

「ラカン殿・・・ラカン殿!」

「ぁんだよ、うるせぇなぁ」

 

 

堅苦しい儀礼用の衣装に着替え終わった後―――ヘラス帝国の民族衣装なんだが、これがおっそろしくダセェ―――慣習とか何だか知らねぇが、花嫁を寝室まで迎えに行かなくちゃならねぇんだと。

で、それでズカズカと人払いの済んだ宮殿最奥部の廊下を歩いてたんだがよ。

 

 

「いや、うるせぇでは無く、護衛を置いて行かないでください!」

 

 

で、そんな俺に纏わりついてくるコイツは・・・あー・・・。

・・・誰だっけ?

 

 

「ライザー・J・ルーグです! と言うか、もう5年の付き合いでしょ!?」

「冗談だよ、冗談・・・相変わらず面白くねぇなぁ、お前」

「いや・・・だから、護衛を置いていかないでくださいよ!?」

 

 

コイツも人間換算だと結構な年のはずだが、俺からすりゃまだまだ小僧だ。

そこそこ腕は立つが、第1親衛装甲師団を前の団長から引き継いで半年、真面目すぎてアレだ。

だから、アレだ。

あー・・・。

 

 

「お前、俺様に護衛とかいると思うか?」

「・・・相変わらず、嫌味なまでの自信ですね・・・」

「で、どうよ?」

「・・・いらないんじゃ無いですかね?」

「だろ? てーわけで、じゃなっ!」

「あ、ちょっ・・・えええぇぇっ!?」

 

 

どきゅんっ、とその場からかっ消える俺。

ライザーの小僧も追いかけてこようとするが、無理。

俺に追いつける奴なんて、そうはいねぇ。

 

 

だからまぁ、俺以外の他の連中の護衛に回ってな、ライザー。

自分以外に護衛を振り分けてそうな、じゃじゃ馬姫(テオドラ)とかな。

もう姫じゃねーけど。

 

 

「・・・っとにガキだかんな、あのじゃじゃ馬・・・」

 

 

自分から結婚結婚って騒いでたくせによ、いざ結婚式が近付いてきやがると暗ぇ顔しやがってよ。

どーせ、自分がこの国をどうにかしねーと、とか思ってんだろーけどな。

なんつっても、ナギの嫁さんのダチだかんな。

似た者同士ってんで、頭が良いくせに要領が悪いわけだ。

うん、バカなんだな、多分。

 

 

そうこうしてる内に、もう何度も何度も来すぎて面白みの欠片もねーが、アイツの寝室についた。

兵士や侍従のねーちゃん達に適当に挨拶しつつ、俺は。

 

 

「おぃ―――っス、元気かじゃじゃ馬姫!」

「結婚式当日くらい、しんみりと呼べんのか戯け!!」

 

 

いや、だってお前。

お前が暗いなら、俺がその分明るくしねーと、アレだ。

バランスが悪いだろーが。

 

 

「おー・・・綺麗になっちまって」

「な、ななっ・・・た、戯けっ」

 

 

まったく・・・先が思いやられるぜ、この女帝さんはよ。

昔と何にも変わっちゃいねぇ。

手がかかって、仕方ねーわ。

祝いの日に、何を暗い顔してんだか・・・。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

帝国の婚礼の儀を見るのは、実は初めてじゃない。

もっとも僕が見たことがあるのは民間の物で、今回の婚礼とはスケールからして違うけどね。

何と言っても、帝室の婚礼だからね。

 

 

「帝国の結婚式は、床に座るんですね・・・」

 

 

僕の隣で、アリアが物珍しげに呟いている。

僕達がいるヘラス帝国宮殿に隣接する大聖堂―――アギア・ソビアー大聖堂、古代の言語で「聖なる叡智」を意味する―――は、まさに婚礼の儀式に相応しい威厳を持っていると言える。

丸みを帯びた巨大な天蓋にはヘラス帝国の歴史を表すモザイク画があり、石造りの床には赤を基調とした厚い絨毯が幾重にも敷かれている。

椅子に座る王国と違い、帝国では絨毯の上に座るのが慣習だ。

 

 

新郎新婦が通る真紅の絨毯のすぐ傍に客人用の絨毯が敷き詰められていて、身分ごとに色や模様が異なる。

順番としては新郎新婦が結婚を宣誓する祭壇から見て、各国の王族・首脳、帝国の王族・貴族・首脳、その他の賓客・・・と言った順番だ、人数はざっと2000人と言った所かな。

僕達がいるのは貴賓席(ロイヤル・ボックス)と言うわけで・・・最前列。

隣り合って座るアリアのドレスは巧みにデザインされていて、座るとスカートがふわりと広がって、一輪の花が咲いたかのようだ。

 

 

「様式は違いますけど、オスティアの聖堂とどこか似ていますね」

「まぁ、源流は同じだからね」

 

 

帝国人の中で、オスティアは特別な意味を持っているからね。

歴代皇帝はオスティアに都を遷すことを夢見て、幾度となく北伐を行った。

王国と帝国の関係史において、最も多く登場するのは「戦争」と言う一語だからね。

 

 

「祭壇の方で祭祀の役目を務められているのは、テオドラ陛下の姉君様・・・エヴドキア皇女殿下ですね」

「・・・帝国では、長子が寺院に入って宗教的権威を身に着けるのが慣習だからね」

 

 

僕達の割と近い位置には、階段によって数段上に設けられた石造りの祭壇がある。

そこには神官らしき赤い装束を着たヘラス族の若い少女が数人、そして床に届きそうな程の長い金色の髪の女性がいる。

ゆったりとした丈の長い白い衣装に、最高位の神官であることを示す袖の無い赤い上着・・・。

顔立ちは、テオドラ陛下を少し成長させたくらいだろうか、でも少し小柄だ。

 

 

ヘラス帝国第一皇女にして総大主教・・・帝国の宗教的指導者。

本来であれば、彼女が帝位に就くのが筋だったのだろうけど。

まぁ、そのあたりは帝国の内政問題だからね。

 

 

「ふぅ・・・な、何ですか?」

「別に・・・」

 

 

息を吐くアリアの横顔を、じっと見ていると、アリアが顔を赤らめながら微笑んだ。

照れているだけなら、可愛いで済むのだけど。

茶々丸や暦君達はここには入れないから、僕が傍で気を付けないとね・・・。

 

 

 

 

 

Side テオドシウス(ウェスペルタティア外務尚書)

 

・・・女王陛下達とは、席が離れてしまったな・・・。

まぁ、王族と閣僚では席が違うのも仕方が無いか。

そんな私は、式典会場のかなり後ろの方にいる。

心なし、絨毯も王族に比べれば簡素な模様になっている気がする。

流石は、身分社会の帝国と言った所か。

 

 

それでも、他の国の閣僚の中では最前列だけど。

アキダリアなどは首相が未だに決まっていないから、代理が最後列にいるしね。

まぁ、良い・・・私は私の仕事をするとしよう。

 

 

「参列してる人間の質と顔ぶれで、大体の国力がわかると言うけど・・・」

 

 

女王陛下の結婚式には、王国だけでなく世界中の有力者が集まった物だけど。

・・・人数の規模は同等だけど、顔ぶれを見るに参列者が選ばれている気もする。

さて、これをどう考えるべきかな・・・。

分裂してると見るべきか、それとも逆か。

・・・昨年の後半からは、内紛や叛乱騒ぎも収まっているようだけど。

 

 

「皇帝補佐のコルネリアや駐オスティア大使のソネットは、やり手だけどね」

 

 

王国と帝国の関係は、まぁ、一応は準同盟関係にある。

先日、私が帝国を訪問した際に調印された「安全保障関係に関するウェスペルタティア・ヘラス共同宣言」によって、両国の友好関係はさらに一歩進んだ。

半年に一度、外務・国防当局の次官級による「2+2」対話が行われるようになったし、軍事情報包括保護協定(ジーソミア)・物品役務相互提供協定(アクサ)・企業活動保護のための投資協定なども締結されている。

外見上は、確かに友好関係が深まっているように見えるけど。

 

 

・・・だけど先日、私が訪問したその日に、外国勢力の排除を訴える反政府武装勢力のテロで、帝都の士官学校が爆破された。

毎週火曜日には、ウェスペルタティア大使館の前で抗議デモがあるし。

王国・帝国国境のサバ地域でしかウェスペルタティア資本は進出できない上、効率の悪い帝国企業との合弁を強制されているし・・・第一、帝国は資源・軍需産業以外は基盤が脆弱で、合弁すると利益率が下がる傾向にある。

それに帝国政府は国内資源の生産管理も始めていて、輸入に影響がでているし・・・。

・・・とどのつまり、問題の方が多い。

友好関係を結んでいるのは帝国の中央政府とだけで、他は・・・。

 

 

「・・・ん・・・?」

 

 

不意に視線を感じて―――本国に置いてきたマリアかと思った―――視線を巡らす。

その先には、帝国の皇族達の中で特に目立つ風貌の長身の男。

あれは誰かな、初めて見る気がするけど・・・。

 

 

20代後半くらいに見える男で、褐色の肌に、一房だけ三つ編みの金髪。

絨毯にゆったりと腰掛けながら、切れ長で銀にも見える淡い糖蜜色の瞳を、真っ直ぐ私に向けている。

怜悧さと精悍さを併せ持った、琥珀色の民族衣装を纏った美丈夫。

私と目が合うと、視線を逸らされた・・・何なんだ。

 

 

「もし・・・」

「はい、何か御用でしょうか」

 

 

傍で控えている帝国の侍女に声をかけて、あの御仁について聞いてみる。

ペプロス―――両肩だけを留めた袖の無い民族衣装―――を身に纏ったヘラス族の侍女は、ああ、と頷いて教えてくれた。

 

 

「あのお方は、シュヴェーアト大公殿下ですわ」

「シュヴェーアト・・・?」

「シュヴェーアト部族のベネディクト殿下・・・皇帝陛下の遠縁に当たるお方です」

「そう・・・」

 

 

シュヴェーアトの、ベネディクト・・・。

どうしてか、少し、気になった。

その時、オスティアのそれとは異なる音楽が、流れ始めた。

 

 

 

 

 

Side セラス

 

戦乱と混乱が続いた昨年までとは違って、今年は本当にめでたいことが続くわね。

1月にはウェスペルタティアで、そして5月にはここヘラスで。

壮麗な結婚式が執り行われたのだもの。

もっとも、厳密にはまだテオドラ陛下とジャック・ラカンの婚儀はこれからだけど。

 

 

いずれにせよ、今年に入って行われた2つのロイヤルウェディングは、私のかけがえの無い戦友が幸福を手にしているわ。

問題は確かに多くあるけれど、そればかりに目を向けては何も始まらない。

喜ぶべきときには、喜ぶべきだわ。

 

 

「・・・これより・・・祭儀を・・・執り行います・・・」

 

 

か細い、だけど何故か確かに耳に届く声で、儀式を執り行うエヴドキア皇女殿下が結婚式の開始を宣言したわ。

テオドラ陛下とはまたタイプの違う、大人しい・・・テオドラ陛下の即位の直後、自らは帝位継承権を永久に放棄すると宣言して世俗を離れた・・・そんな方よ。

ヘラス族としては、まだ若い部類に入るはずだけれど。

 

 

「・・・奏でよ・・・」

 

 

エヴドキア皇女殿下の声に従い、どこからともなく緩やかかつ荘厳な音楽が流れ始める。

オスティアの交響楽団とは違う、どこかエキゾチックな音楽。

そして。

 

 

・・・おぉ・・・

 

 

広場が静かにざわめき―――矛盾するけれど―――広間の最後方、長い紅の絨毯の向こう側を見る。

そこに、花婿を伴った花嫁がやってきたわ。

・・・ジャック・ラカンを花婿と言うのは、どうしてか抵抗があるけど。

全員が立ち上がり、2人を迎える。

 

 

「・・・お2方・・・こちらへ・・・」

 

 

エヴドキア皇女殿下の言葉を受けて、2人が中央の赤い絨毯を歩く。

帝国の作法に則り、心持ち花嫁が先行する。

帝国では結婚の儀式は全て花嫁の家で行われるの、花嫁主導の結婚式なのよ。

相手の男性がどこの出身でも、花嫁の家の慣習に従うよう求められるわ。

 

 

テオドラ陛下の花嫁衣裳は、ウェスペルタティアのアリア女王とはまるで赴きが異なる物だった。

赤い・・・鮮やかな赤色の毛織物で構成された衣装。

複雑な紋様を編み込まれた薄いワンピースのような衣装の上に、前が胸元まで覆う特殊な意匠の上着、腰の留め布には蛇、長い髪を収める帽子には鳥のような物が象られていて・・・。

皇族だけが身に着けることを許されると言う、赤い宝石を埋め込んだ装身具を身体中に身に着けているわ。

首飾り、耳飾り、胸飾り、帽子や腰の留め布、衣服その物に至るまで全て。

 

 

そのエキゾチックな衣装の極めつけは、厚めの生地でできたベール。

ウェスペルタティアのそれとは異なり、花嫁の顔を透かして見る物では無いの。

幾重にも紋様が刻まれた刺繍布(スザニ)のようなベールで、花嫁の身体のほとんど全てを覆っているわ。

アレは聞く所によれば、ヘラス帝室に代々伝わる物で・・・皇族の娘が結婚する度に、一つずつ模様が増えて行くんだそうよ。

 

 

一方でジャック・ラカンの方も、赤を基調とした帝国の民族衣装を着ているわね。

花嫁に比べると・・・少々、逞しすぎるようだけど。

後ろに引き摺るほど長い毛織のローブに、二重巻きにした腰布、半円形の帽子。

花嫁ほどじゃないけれど、やはり赤い宝石のついた特殊な装身具を身に着けているわ。

 

 

「・・・テオドラ・バシレイア・ヘラス・デ・ヴェスペリスジミア・・・」

 

 

2人がゆっくりと階段を上り終えて・・・エヴドキア皇女殿下の前に並ぶ。

いよいよ、宣誓ね。

2人とも、本当におめでとう・・・。

 

 

 

 

 

Side テオドラ

 

姉上が私達の名前を順番に確認した後、帝国に伝わる聖典の婚姻に関する部分を読み上げて行き、その間に様々なことが確認されていく。

帝国の婚姻では、最後の数個を除けばこうした確認作業が主体じゃ。

・・・と言うか、衣装が重いのであまり動けぬのしの。

 

 

新郎新婦のこれまでの出生と現在に至るまで、婚姻相手の確認、離婚金(メヘリエ)の確認。

・・・離婚金(メヘリエ)とは、読んで字の如くじゃ。

離婚した時に夫が妻に支払わねばならぬ金額を事前に決めるのが、帝国式じゃ。

合理的じゃが、結婚の時に離縁の可能性に言及するあたり、夢が無いのは確かじゃ。

まぁ、そもそも女が計画を立て、男が金を払うのが帝国の慣習じゃしの。

 

 

「・・・ぁ・・・」

 

 

ふと気が付けば、と言うより当然のことじゃが、妾は皆の視線に気付いた。

皆、妾を見ておる。

当然のことじゃ、妾は皇帝であり、花嫁なのじゃから。

見られるのは、当然のこと、責務ですらある。

じゃが、その視線の中には・・・けして好意的で無い者も混じっておる。

むしろ、かすかな黒い視線すら感じる。

 

 

・・・自信が、無い・・・。

 

 

何の自信が無いかも、妾にはわからぬが・・・。

祝福される自信やもしれぬし、認められる自信やもしれぬ、他の何かやもしれぬ。

とにかく、妾には自信が無い。

叛乱と暴動が相次いだこの5年、妾は・・・皇帝としての妾は。

 

 

「・・・テオドラ・バシレイア・ヘラス・デ・ヴェスペリスジミア・・・」

「・・・」

 

 

聖典の読み上げを終えた姉上が、静かな面持ちで妾を見つめておった。

妾よりも10程も年上じゃが、身長は妾よりも小さい。

小さな一の姉上(ちょうじょ)が、翡翠色の瞳で妾のことを見つめておる。

 

 

その瞳に、どうしても怯んでしまう自分がおる。

帝位継承を辞した時の姉上も、同じ目をしておった。

妾に・・・お前にできるのか、と言う目。

問いかけてくるような眼差し。

子供の頃から、ずっと。

 

 

「貴女は・・・ジャック・ラカンを夫とし・・・良き時も悪き時も・・・病める時も健やかなる時も・・・共に歩み、他の者に依らず・・・死が二人を分かつまで・・・愛を誓い・・・夫を想い・・・夫のみに添うことを・・・誓いますか・・・?」

 

 

か細くも耳に残る、不思議な喋り方。

しかし、妾は答えぬ。

1度目は答えぬのが、しきたりじゃ。

 

 

「・・・誓いますか・・・?」

 

 

誓うか、誓わぬか。

形式に過ぎない、嫌なら式など挙げぬ、そもそもこれは妾が望んだこと。

・・・そう、妾が望んだこと。

ジャックは、冗談っぽく言い訳しながら逃げ回っておったが・・・アレは、本気じゃったのではなかろうか。

 

 

そう考えてしまった瞬間、妾は恐ろしくなってしまった。

 

 

愛されておらぬとは言わぬ、すでに何度も肌を重ねたのじゃ・・・じゃが、それは妾の見方であって、ジャックにしてみればどうなのじゃろう。

抱いた女と必ず結婚せねばならぬ・・・と言う理由では無いじゃろ。

愛されてはいたやもしれぬ、じゃが、愛され続けることができるじゃろうか?

結局、妾がゴリ押ししただけでは、なかろうか・・・?

 

 

「・・・誓いますか?」

 

 

3度目の問いかけ、今度は答えねばならぬ。

答えようとして・・・声が出ぬことに気付き、戦慄が、妾を襲った。

涙が出そうな目で、姉上の翡翠色の目と見つめ合う。

少しの間、沈黙が続き・・・つい、と、姉上が視線を妾の横へと動かす。

誘われるように、そちらへと視線を動かすと・・・。

 

 

ジャックが、物凄く珍妙な顔で妾を見ておった。

 

 

・・・何と言うか、言葉にし難い顔じゃった。

な、何じゃ・・・何か言いたいのか知らんが、さっぱりわからん。

次々と表情を入れ替えてくれるわけじゃが・・・最終的に、ニカッ、と笑いおった。

・・・・・・その笑みを見て、妾は溜息を吐いてしもうた。

 

 

「・・・戯け(ばか)・・・」

 

 

誰にも聞こえぬよう、口の中でだけ呟く。

ジャックの耳くらいになら、届いておろうが。

・・・妾は、顔を上げて。

 

 

 

 

 

Side リカード

 

はい(バレ)

 

 

古代の言語ででテオドラが返答した後、ラカンの野郎にも同じ問答があったわけだが、嫁と違って野郎はあっさりイエス。

祭祀役の第一皇女(エヴドキア)はどこか満足そうに頷いて、指輪交換を指示した。

帝国産の銀でできたリングを交換して・・・ラカンの指輪、ゴツい気がするなオイ。

 

 

てーか、あのラカンが結婚だもんな!

無理してスケジュール空けてでも来た甲斐があったぜ・・・いや、まさか大戦の時にはマジでオッサンとガキだった奴らが、どうしてなかなか似合いじゃねぇの。

・・・いや、やっぱラカンが家庭を持つとかイメージに合わねぇ、正直無理だ。

後で誰も見ていない所で冷やかしてやろうと思う、戦友として。

まぁ、それで照れるような可愛い野郎じゃねーだろうがな。

 

 

「・・・2人は・・・夫婦として・・・我らが始祖に・・・認められました・・・」

 

 

第一皇女(エヴドキア)が祝福すると、周りにいた若い神官のお嬢ちゃん達がラカンとテオドラの2人の周りに花弁を降らせた(フラワーシャワー)

白と桃色の花弁が魔力の風に煽られて、会場の中に広がるみてーだ。

 

 

俺も詳しくはねーけど、花の香りでまわりを清め、新郎新婦の幸せを妬む悪魔から守る、という意味が込められていると言われてるらしい。

・・・いや、ラカン相手じゃ悪魔の方が逃げ出しそうだけどな。

てーか、ジャック・ラカンを手に入れたってだけで・・・帝国の戦力は半端無く強化されてるしな。

その意味では、ナギやアーウェルンクスのいるウェスペルタティアもアレだ。

アリアドネーは、人員の平均的能力値(アベレージ)で他を圧倒してるしな。

・・・うん、何もねーのウチだけだわ。

 

 

「・・・それでは・・・次に・・・」

 

 

帝国の結婚式では、式典会場がそのまま披露宴の会場になる。

膳を運んで朝・昼・晩の3食を兼ねる宴が始まることになってる。

夕食を終えた頃に、新郎新婦はまた別の儀式があるらしいが・・・。

・・・と、その前にと・・・ウェディングケーキの登場だ。

 

 

直径50センチくらいで、高さも20センチ以上あるでけぇケーキだ。

白いクリームで覆われ、レースのようにピンクの縁取りがされていて、ケーキのてっぺんには2人の名と祝いの言葉が書かれている。

でだ、ここからは嬉し恥ずかしのケーキカット・・・。

 

 

ジャキンッ!

 

 

・・・かと思ったんだが、テオドラの手ごとナイフ持ったラカンの野郎が、ケーキを物の見事に分割しやがった。

・・・いや、ケーキカットってそう言う物じゃ無いだろ。

もうちょっとこう、ウェスペルタティアのアリア嬢みたいに、微笑ましさを見せるべき所だろ。

 

 

「おぉ――っと、やり過ぎたかぁ?」

「た、戯けっ・・・!」

 

 

・・・まー、ラカンらしくていーけどよ。

ま、おめでとさん。

ナギとアリカがいねぇのが、ちょいと残念だけどよ。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

結婚式場と披露宴会場が同じと言うのは、経済的ですね!

私達の時は、お客様にかける移動負担がなかなかでしたから・・・ねぇ、フェイト?

 

 

「・・・その着眼点は、独特だと思うよ」

「そうですか?」

「うん」

 

 

ズバリ断言されてしまいました、リアルに傷つきます。

・・・それにしても、素敵な儀式でしたねぇ。

婚儀を2時間ほどで終えて後はひたすら宴と言うのは、帝国らしいと言うか何と言うか。

 

 

「帝国人のイメージを、ジャック・ラカンで固定しない方が良いと思うよ」

「・・・いえ、だって、強烈さではトップクラスじゃないですか」

「存在感と言う意味ではね」

 

 

まぁ、ラカンさんやテオドラ陛下以外の帝国人の方は、私的には良く知りませんので。

・・・いえ、言いたかったのはそう言うことでは無く。

 

 

「・・・私達の式を、思い出しちゃいますね」

「様式が違うけど」

「そう言うことじゃ無くて・・・」

 

 

もう、こう言う所は変わらないんですから。

私が言いたいのは、そう言うことじゃ無くて・・・。

・・・と言う所で、帝国の侍女の方々がたくさんの料理を乗せた大皿をいくつも運んで来ました。

口を閉ざして、会話を止めます。

一つの絨毯につき一つ、つまり一組に一つの割合で料理が用意されているようですね。

 

 

まずお茶(チャイ)と歪な形の角砂糖の入った小瓶が目の前に置かれ、そこからナン(パン)、肉料理に小麦・コメ料理、野菜、果物にお菓子などがどんどん並べられていきます。

どうやらコース料理では無く、ドカドカと豪快に出されるようですね。

ふむふむ、国が変われば食文化もまた変わるものですねぇ・・・。

 

 

「それでは、心行くまでお楽しみくださいませ」

「ありがとう」

 

 

女王の立場で侍女の方にお礼を言って、宴の正式な開始を待ちます。

見れば、祭壇のあった場所に皇帝夫妻用の物らしき絨毯がいくつか敷かれて、そこにテオドラ陛下とラカンさんが腰掛けます。

2人の後ろに大きな白いクッションが置かれるのとほぼ同時に、私達や他のお客様達にも同じようなクッションが用意されます。

私とフェイトが一緒に座ってもまだ余るような、大きなクッションです。

フワフワしますが、材質は何でしょうね・・・?

 

 

「・・・アリア、ヘラス族のお茶の飲み方はわかるかい?」

「あ、はい・・・ええと、角砂糖を口に含んでから飲むんですよね?」

「そう、口の中で角砂糖を転がしながら・・・」

 

 

帝国では、宴の前にお茶(チャイ)を飲むのが慣習ですから。

ん~・・・でも、あんまり甘かったり苦かったりは・・・と言う気分ですね。

・・・あっさりめのが、食べたい気分です。

 

 

ふぅ・・・今日も若干、身体がダルめです。

まぁ、お仕事には支障ありませんので、良いですが・・・風邪にしては、長い気もします。

ゆったりしていれば、問題無いですかね。

フェイトや茶々丸さんには、心配をかけないように気を付けないと・・・。

 

 

 

 

 

Side テオドラ

 

「それではどうか、存分に宴を楽しんで頂けますように・・・乾杯!」

「「「乾杯!」」」

「ヘラス帝国に栄光あれ!」

「皇帝ご夫妻に幸いあれ!!」

 

 

妾の挨拶の言葉の後、乾杯の音頭に対していくつかの声が唱和した。

最初のお茶(チャイ)以外は、客が希望すればボルクス産の葡萄酒(ワイン)なども饗する。

そしてその声を覆うように楽隊が帝国の音楽を奏で始め、宴が始まる。

周囲を見渡せば、すぐ近くの席にアリア女王やリカード、セラス達がおる、後で挨拶に伺わねばなるまい。

 

 

そして宴が始まってすぐに、ヘラス族の者を中心に広間の中心に出て踊り始める。

それは帝国に伝わる婚礼の踊りでもあり、各々が音楽に合わせて好きに踊れば良いのじゃ。

帝国の宴では、皆が交代で踊りを絶やさぬようにするのが、ならわしじゃ。

永劫に続く宴の踊りは、帝国の永遠の繁栄と安寧を祈る意味もあるのじゃ。

当然、後ほど妾もジャックと踊らねばならぬ、しきたりじゃからな。

 

 

「まったく、戯けめが・・・また恥をかかされる所じゃったぞ」

「あ~ん? 宴なんだからアレくらいでちょうど良いだろ、おめーは肩肘張りすぎなんだっつーの。そんなんだと皺が増えるぜ?」

「しっ・・・無いわ! 人間換算でまだ20歳じゃ「いーから」ぞ・・・?」

「楽しめよ、テオ」

 

 

ニカッ、といつものようにアルカイックな笑みを浮かべるジャック。

・・・何じゃろなぁ、こやつを見ておると、悩んでおる自分がバカらしく思えてくるんじゃが。

ああ・・・最初の時からこうじゃったな。

 

 

皇女としての価値観しか持たなんだ幼い頃の妾にとっては、自由と言う言葉が霞んでしまう程に自由であったジャックの存在が・・・眩しかった。

奴隷拳闘士から這い上がったジャックにとって、「自由」と言うのは特別な意味を持つのやもしれんな・・・。

だからこそ、妾のアプローチも長く無視されたのやもしれぬ・・・。

・・・この際、妾の魅力が足りなんだのではと言う可能性は無視することにする。

 

 

「・・・戯け(バカ)

 

 

結局の所、妾はそうとしか言えなんだ。

ただ・・・悩んでばかりでなく、今の幸福をも噛み締められるように。

 

 

「おぅ」

 

 

隣でバカを晒しているだけにも見える男が、気をかけてくれなくとも良いように。

せめて、それくらいには・・・なりたいと思えるから。

昔のように無邪気に喜ぶのでは無く、今度は・・・もっと。

別の形でこの男と結ばれた幸福を、感じられるように・・・。

 

 

父上・・・どうか。

我が帝国と、娘の行く末を・・・お守りください。

 

 

 

 

 

    ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

・・・ヘラス帝国帝都ヘラス、その都市構造から「円環の都」と言われる都市の中枢、ヘラス宮殿。

行政府も兼ねるその巨大な建造物はヘラス帝国の中枢であり、まさに皇帝のお膝元であるはずの場所。

しかし・・・その宮殿全体を掌握するのは、時の皇帝であっても困難を極める。

 

 

「サムイル長官・・・とうとうテオドラめがジャック・ラカンなる裏切り者と華燭の典を執り行いましたぞ」

「うむ・・・ヨアネス将軍・・・」

 

 

事実として皇帝の結婚式の最中にあっても、宮殿の一部では別の集会が行われていた。

いずれも招待されなかったか、招待されても断った者達で構成された集会。

どう控えめに見ても、現在の皇帝に対して好意的な会合であるとは言えない。

 

 

帝都長官(市長のような役職)サムイル・オフリーダ、帝国陸軍第152師団長ヨアネス・ツィミスケス・軍事貴族バルダス・フォカス、バルダス・スクレロス・・・その他、10数名の顔ぶれが、そこに集っていた。

薄暗い部屋の中で、それまでの帝国の歴史と同じように・・・反皇帝派は蠢く。

いつの時代も・・・そして、今も・・・。

 

 

 

 

「このまま儀式を終了させてはならぬ・・・!」

 

「うむ、テオドラは今宵、ジャック・ラカンなる者と非武装で神殿にこもる・・・」

 

「エヴドキア殿下のことは仕方が無いが、我らにはゾエ第二皇女殿下がおられる・・・」

 

「我らはメレア民族、ヘラス族の単独支配にはもう我慢がならぬ・・・」

 

「テオドラ側の有能な部隊は新領土の治安維持に忙しい、親衛軍も一枚岩では・・・」

 

「だが、北の民はどうする・・・」

 

「ウェスペルタティアなど恐れるに足りぬ、技術差は兵力で補えば良い・・・」

 

「いや、それより首尾良く女王の首を挙げれば、北の民(ウェスペルタティア)はテオドラに対し好意的ではおられまい・・・」

 

彼奴ら(ウェスペルタティア)が怒涛の如く攻め寄せてくれば、中央は混乱する・・・」

 

「その時こそ、我らが起つ時ぞ・・・」

 

「北の富と我らが聖地オスティアを、民の手に取り戻すのだ・・・」

 

 

 

 

宴の賑わいに混ざることなく、会合は続く・・・。

皇帝の婚姻に湧く帝都ヘラスの中で、異質な熱気を放ちながら、彼らは言う。

 

 

 

 

「ヘラスに繁栄を・・・」

 

「「「ヘラスに繁栄を」」」

 

「ウェスペルタティアに滅びを・・・・」

 

「「「ウェスペルタティアに滅びを」」」

 

 

 

「「「「「テオドラに、破滅を」」」」」

 

 

 

偉大なるヘラス帝国に、栄光あれ―――――・・・。

唱和する声が、帝都の片隅に響き渡る・・・。

 




新登場キャラ・設定:
ベネディクト・ユストゥス・シュヴェーアト:リード様提案。
クワン・シン:伸様提案。
ライザー・J・ルーグ:スコーピオン様提案。

ウェディング衣装:黒鷹様提案(元ネタ:乙嫁語り)。
フラワーシャワー:ライアー様提案。
ボルクス村:スモーク様提案。
ワイン:スモーク様、ライアー様提案。
「ヘラスに繁栄を、ウェスペルタティアに滅びを、テオドラに、破滅を」:
伸様提案。
ご協力、ありがとうございます。

ウェスペルタティア王国宰相府広報部王室専門室・第11回広報:

アーシェ:
はい、広報部のアーシェです!
今日は帝国のロイヤルウェディングの現場に来ています。
・・・私もついてきてるんですよ!
ほら、画面の端に・・・! 画面って何さ。

さて、今日は今回の最重要キャラをご紹介しましょう。
オリジナルですので、ご注意くださいね。

エヴドキア・バシレイア・ヘラス:
年齢:ヘラス族であることを考慮しましょう。
性別:女 種族:ヘラス族
身体特徴:
床まで届く金の髪、ストレートと言うより軽く広がるイメージ。
翡翠色の瞳に、顔立ちはテオドラと似た容貌(どちらも母親似)。
妹であるテオドラより頭一つ分背が低く、一見すると姉妹が逆転する印象を受ける。

略歴:
ヘラス帝国の第一皇女として帝都ヘラスに生を受ける。第一子であるため、宗教的権威を身に着けるために教会に入る。これは長子が帝位を継ぐまで世俗から離れられるように配慮された結果である。そのため先の大戦の時などは表立った活動は控え、自主的に態度を表明することは無く、政治的な傷を作ることも無かった。逆に帝国内では慈善活動などに関わることが多かったためか、一般市民には好意的な印象を持たれている様子。
しかし先のクーデターの際にはクーデター側に捕らえられるなど、世俗の事情に巻き込まれることもある。妹であるテオドラが帝位を名乗った際にはこれをいち早く認め、自身は帝位継承権を放棄した。その証として、自身の名から個人名と出身を除く部分を削って見せている。
現在は、聖地オスティアと帝都守護聖獣に祈りを捧げる毎日を過ごしている。


・・・ふーむ、第一皇女さまのプロフィールでした。
でも今は、正式には第一皇女の身分を放棄しているんだそうですけど、総大主教猊下と言うのもアレですしねー。

では、今回はここまでです。
次回も、帝国編が続きます。
ではっ。

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