魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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アフターストーリー第13話「帝国物語・後編」

Side テオドラ

 

帝都守護聖獣を象った4対の像に、花を添えて祈る。

備える順と花の位置は、帝都を守る結界の力の循環を示す物じゃ。

一つ一つの像に、しきたりに則った祝詞を捧げる・・・。

 

 

「・・・我が帝国と・・・ジャックをお守りくださるように・・・」

 

 

帝国の安寧と、ジャックの幸福を聖獣に願う。

・・・まー、ジャックは聖獣と伍する程の強さを持っておるわけじゃが。

ぶっちゃけ、ジャックについては祈らなくとも良いのでは無いかとも思うが。

・・・祈りたいと願うこと自体は、別に悪いことではあるまい。

加えて、ジャックのために祈れること自体に幸福を感じるのじゃからして・・・うん。

 

 

「・・・さて、そろそろ行くかの」

 

 

銀製品で埋め尽くされたこの月の間は、我が帝国の豊かさを示す物でもある。

置物、甲冑、調度品・・・全てが銀製じゃ、それも当然、帝国産の銀じゃ。

・・・おっと、いかんいかん。

妾が早く来いと言った手前、ジャックより遅くなるわけにはいかんしの・・・。

 

 

「・・・ふふっ」

 

 

別れ際のジャックの顔を思い浮かべただけで、笑みがこぼれる。

自然、下の部屋へと向かう足取りも軽くなると言う物で・・・。

 

 

背後で、何か固い物で同士がぶつかり合う音が響いた。

 

 

金属が火花を散らすような、そんな音で・・・。

妾が動いた一瞬で、打ち込まれた物じゃった。

そしてそれを正確に洞察し得たのは、妾が反射的に背後を振り向いたからで。

だからこそ、そのまま妾めがけて振り上げられた銀の剣を・・・。

 

 

「ぬおっ!?」

 

 

急に動いたので、長くて・・・しかも重い婚礼衣装の裾に踵を引っ掛けてしまって、妾はその場で尻餅をついてしまった。

そしてそのおかげで、妾は凶刃から逃れることができた。

 

 

「な、な・・・何じゃ、主らは!?」

 

 

月の間に飾られておった銀製の甲冑が、ギギギ・・・と音を立てながら動いておった。

旧式の動甲冑で、今では観賞用にしかならぬが。

実際に動くと、これがなかなか優秀で・・・って、そうでは無く!

 

 

重い衣装に舌打ちしたい心境になりながらも、床を這い回るようにして凶刃から逃れる。

妾も一応、それなりに鍛えてはおるが・・・相手は動甲冑、こちらは丸腰では。

しかも一体ではなく、八体・・・部屋に飾られておった銀の甲冑全部が、動いておる。

中の人間の顔は、甲冑で見えんが・・・。

 

 

「り、慮外者―――――っ!!」

 

 

這い回る・・・と言うより、ほとんど転がるように逃げ回る。

調度品を引き倒し、物を掴んでは投げ、下へと続く階段を目指して逃げる。

せめて、まともな武器さえあれば・・・!

 

 

「が―――!?」

 

 

階段側にいた動甲冑に、横腹を蹴られた。

亜人のそれとは比べ物にならぬ力が、妾の身体にかかる。

床に激しく身体を打ち据えられた後、調度品を壊しながら、壁に激突する。

肺が引き攣り、身体を丸めて咳き込む。

・・・服が厚いのが、少しは役に立ったかの。

 

 

そ、それはそれとして・・・逃げねば・・・壁に手をついて、痛みに悲鳴を上げる身体に鞭打って、足を引き摺りながら動く。

しかし、そのような緩慢な動作では、逃れられるはずも無く・・・。

ぐっ・・・と、衣装の裾を踏まれて、動きを止められた。

 

 

「・・・っ・・・!」

 

 

皇帝と言う立場上、暗殺の危険はどこにでも転がっておる。

だから、いつ何時、命を落とそうとも・・・恨みはすまいと心に決めておった。

じゃが・・・。

 

 

今日・・・今夜だけはと、心のどこかで思ってもおった。

 

 

ジャックと結ばれる、この日だけはと。

心の、どこかで・・・。

 

 

「・・・っく・・・!」

 

 

目前で銀の剣が閃く中、妾が最後に思ったことは。

 

 

「・・・じゃっく・・・!」

 

 

やはり、あの男のことで。

そして妾があの男のことを考えた、刹那。

 

 

 

壁が爆発して、目前の動甲冑が、吹き飛ばされた。

 

 

 

身体の上に圧し掛かっていた圧力が消えて、呼吸が自由になる。

激しく咳き込む私の身体を、壁の向こうから現れた太い腕が、やや乱雑に掴み上げた・・・。

 

 

 

 

 

Side ラカン

 

『つーかあのオッサン、剣が刺さんねーんだけどマジで』

・・・っつーのが、俺の異名の一つだ。

んで、一番に疑われる異名でもあるわけだが。

 

 

「なっ・・・剣が刺さらない!?」

「あの噂は、本当だったのか!?」

 

 

だから大体、初対面の刺客ってか相手は、まずその確認から入るわけだ。

黄金の動甲冑を着たその連中は、折れた剣をその場に投げ捨てながら動揺してやがる。

んー、何だ、別に試練とか儀式とか、そう言うもんじゃねぇってことだな、なら。

 

 

「・・・いってー・・・なぁオラァッ!!」

「ぶゲろべっ!?」

 

 

背後に立ってた奴の身体の真ん中あたりに、右の拳をかるーく入れてやる。

すると、旧式の動甲冑は簡単に砕けて・・・中身の腹に俺の拳を届かせちまう。

あんまり脆いんで、こっちがビビるぜ。

甲冑の破片を撒き散らしながら、そいつは部屋の壁と天井を3往復した後、地面にめり込んで止まった。

 

 

「ひ、ひるむなっ、相手は丸腰だ!」

「「「お、おう!」」」

「あー、何だお前ら? 知らねーのか?」

 

 

まぁ、自分で言うのも何だが、俺を知ってる奴で俺を襲おうとする奴なんていねーしな、ほとんど。

いるとしたら、バカか死にたがりかだ。

俺は、ゴキバキと拳を鳴らしながら、言った。

 

 

「俺は、素手のが強ぇぜ? つーか、お前らよぉ・・・」

 

 

じーっと、7人の甲冑野郎共を見つめる。

あー・・・ひーふーみーの・・・っと。

 

 

「俺に挑むにしちゃあ・・・人数が11億9999万9992人ほど足りねぇんじゃねーか?」

「か、かかれぇっ!」

 

 

俺の挑発に乗ったわけじゃねーだろうが、3人ほど同時に飛び掛ってきやがった。

右拳の甲で一人を殴り払って、左拳で一人を殴り飛ばして、右足で一人を踏み抜いた。

・・・よえー・・・。

 

 

「鍛え方、足りねーなぁ」

「く・・・ひるむな! 先の大戦で同胞を大量に殺戮した男だぞ!」

「帝国臣民の敵め!」

 

 

・・・まー、確かに大戦の時、俺は帝国の敵だったけどよ。

戦場で対等の条件でやりあった結果だ、ごちゃごちゃ言われる筋合いはねーよ。

 

 

「くっ・・・強がっていられるのも、今の内だ! 我々に構っている間に・・・!」

じゃじゃ馬(テオ)を殺(や)るってか? 良く話しだなオイ」

 

 

つっても、放っておくわけにもいかねーしな。

あー・・・目を凝らして、両側の部屋の壁を見る。

造りと厚みと経験と勘・・・ぶっちゃけ、壁向こうの気配を読んでるわけだが。

あー・・・このへんだな、たぶん。

 

 

「らぅぁかぁん~~~」

「な、何をす」

「いぃん・・・ぱくとぉっっ!!」

 

 

甲冑野郎共は無視、練りこんだ気の拳を石造りの壁に叩き込む。

収束・ラカンインパクト(今、命名)。

壁に大きな―――指向性を持たせた気の拳で―――穴が開く。

 

 

破片も塵になって消えるから、瓦礫とかもねーんだぜ。

むしろ・・・砂?

まぁ、爆発的な物はあるけどな。

おお、案外離れてたんだな、下と上で繋がってるから、そこまで離れてるとは思わなかったんだけどよ。

ま、10mくれぇの石の壁なんざ、あって無いようなもんだろ。

 

 

「おーおー、こっちにもゾロゾロと・・・やっぱ人数足りてねーんじゃねーか、ん?」

「き、貴様っ・・・!」

 

 

俺と言う人間をわかってねー連中だな。

もう少し、マシな戦力を送ってこいよ。

 

 

「・・・ジャック・・・」

「んー? 何だ、じゃじゃ馬」

「・・・戯け(ばか)

 

 

どうやら、間一髪(ナイスタイミング)だったみてーじゃねーか。

俺はじゃじゃ馬(テオ)の身体を片手で抱え上げると、ニッ・・・と笑った。

さて、と・・・片付けますかね。

 

 

   ◆  ◆  ◆

 

 

ヨアネス・ツィミスケス率いる帝国陸軍第152師団は、理由すら知らされないまま、夜陰に紛れて帝都の各所に移動していた。

彼らの他にも、第234師団、第316師団と言った2線級だが膨大な兵力が、帝都周辺に展開しているのである。

 

 

帝国軍では、師団の数字はそのまま装備・錬度を表している。

50番台までの師団は現役兵のみで構成され装備も充実しているが、それ以降は兵の錬度、装備の質が落ちるのである。

それでも、兵力は兵力であるし、亜人の身体能力を侮ることはできない。

 

 

「先に送り込んでいた部隊からは、連絡が無いのか」

「は、未だに」

「まったく・・・軍事貴族お抱えの暗殺班も、存外頼りにならんな・・・」

 

 

ヨアネス・ツィミスケスが反皇帝派に組しているのには、いくつかの理由がある。

第一に、年長者を差し置いて帝位に就いた現皇帝への倫理的な反発。

第二に、帝国南方辺境のメレア民族出身者としての民族主義的な反発。

第三に、外国勢力を排除したいと言う、国家政策上の反発。

そうした様々な理由から、彼は第二皇女ゾエを担ぎ上げてのクーデターに参加したのである。

とは言え、皇帝に弓引く行為に部下の全てがついてくると思うほど楽観的でも無かったので、部下には配置換えとしか説明していないが・・・。

 

 

「見えてきたな・・・」

 

 

祝賀気分で賑わう市街地を避けつつ彼らが接近しているのは、第二円環(セカンドサークル)の高級ホテル街である。

そこには、各国からの招待客が宿泊するホテルが多数あるのである。

たとえば、ウェスペルタティア女王が宿泊する高級ホテル「テオファノ」など・・・。

 

 

その時、彼の率いる直属の大隊の中ほどから、白い煙のような物が噴き出した。

 

 

そして同じような煙が、部隊の各所から噴き出し始めたのである。

集団が動きにくい細い裏道を通っていたことが災いして、それはみるみる内に部隊全体を覆いつくした。

 

 

「こ、これは・・・!」

 

 

そして、師団長であるヨアネス・ツィミスケスはそれが何か知っていたが、それを伝える前に。

ヨアネス・ツィミスケスの声は、煙の中に消えて言った・・・。

 

 

   ◆  ◆  ◆

 

 

Side クワン・シン(第8親衛騎兵師団長)

 

「全て捕らえなさい、皇帝陛下に対する叛逆者です」

 

 

風下で起こっている惨状―――深い睡眠効果を持つ煙幕兵器に襲われる相手の兵―――を見つめながら、私は配下の騎兵を動かしていました。

いくつもの大隊、中隊が私の指示で、帝都の夜陰に紛れて動きます。

 

 

私が指揮しているのは、帝国軍最精鋭の第8親衛騎兵師団長。

敵・・・敵! 敵は同じ帝国軍の第152師団、ヨアネス・ツィミスケス将軍。

彼の指揮下にある直属の大隊でした。

帝国軍同士が相討つのは、もう慣れてしまいました。

 

 

私の任務は、各国の賓客が宿泊しているホテルを守ること。

その分、皇帝陛下周辺の防御力が落ちているのですが・・・。

まぁ、何とかするでしょう。

あの、ジャック・ラカンがいることですし・・・。

 

 

「む・・・」

 

 

その時、煙の中からいくつかの部隊が抜け出し、撤退していくのが見えました。

私も亜人ですから、人族よりもはるかに優れた視力を持っているのですよ。

逃れた部隊の中に、ヨアネス・ツィミスケス将軍らしき人影―――黄色い毛の虎族―――がいるのを見つけて、部下に追撃を指示します。

 

 

「他の部隊はどうなっていますか」

「は、親衛軍内部の反逆者は、士官を中心に第4、第9師団に多かったようです。すでに、第1親衛装甲師団のライザー殿の指揮で捕縛が進んでいるとか」

「そうですか・・・」

 

 

皇帝を守るべき親衛軍の将校にすら、皇帝への叛乱に加担する者がいる。

そして今回の叛乱は、これまでの大貴族が単独で起こすような叛乱とは質的に異なる物でしょう・・・そう、私は洞察します。

 

 

とは言え、帝都での叛乱は抑えられます。

第152師団以外の部隊も叛乱に加担しているようですが・・・要所は、皇帝派の親衛軍が押さえているため、動揺せずに鎮圧できるはずです。

でも・・・。

 

 

「・・・たぶん、辺境でも同時に・・・」

「は、師団長、何か?」

「いえ、何でもありません」

 

 

そこまでは、私にはどうすることもできません。

・・・そして幸いなことに、帝都の叛乱軍は重火器を持ち出していないようなのです。

市街地を中心にお祭り騒ぎを続けている市民に危害を加えることを恐れたのか―――まぁ、クーデター後の新政権を支持してもらう意味もあったにしろ―――民衆に武器を向けるようなことは、していません。

 

 

やろうと思えば、市民を盾に政権を奪うこともできたでしょうに。

私なら、迷わずそうします。

とにもかくにも・・・叛乱軍は、人気のない場所や事前に規制されていた自然公園や広場、空港や帝都外延部の平原に兵を集結させ、運用しているようなのです。

あくまでも、市民を傷付けないスタンスを取る・・・。

 

 

「師団長、叛徒共が第二円環(セカンドサークル)の財務大臣私邸、第三円環(サードサークル)の警察庁及び軍務大臣別邸を占拠したとの報告が・・・第152師団の一部の兵士だそうです」

「国営放送局の一部が、第234師団の兵士に占拠されたそうです!」

「帝都外延部の重武装パトロール中隊が、所属不明の大部隊と交戦状態に入りました!」

「わかりました、すぐに対処します」

 

 

とは言え、政府・軍関係者に対しては容赦が無いようです。

そしてこの後、私は帝都中で行われているだろう叛乱計画の鎮定に奔走することになります。

第一、第二円環の主要部の大半は押さえていた物の、広い帝都中で行われている局地戦のいくつかで、味方が苦戦することもあったためです。

そし私を始めとする軍人にできることは、目前の物を対処療法的に処理することだけであり・・・。

 

 

根本の問題を解決できるかどうかは、私達が信じた皇帝(テオドラ)陛下次第であったのですから。

私達はただ、皇帝陛下が帝国をまとめ上げるのを期待することしかできません。

夜が明けるのは、まだしばらく先で・・・。

夜は、長いのですから。

 

 

 

 

 

Side エヴドキア(ヘラス帝国元第一皇女)

 

「・・・慮外者・・・」

 

 

太陽と月の間の下、星の間の奥・・・聖獣の間。

正四角形の形をしている部屋の四方には、巨大な帝都守護聖獣の像があります。

像のそれぞれが聖獣と繋がっていて、4色の炎がそれぞれの像に纏われています。

どうやら、テオとラカン氏はきちんと手順を踏んだようですね。

 

 

翌朝に、ここで2人に再び婚姻の宣誓をさせるのが私の仕事。

それで、2人は正式に夫婦となるのです。

ですが・・・。

 

 

「・・・ここを・・・神聖なる場所と・・・心得ているのですか・・・」

「失礼は承知の上でございます、皇女殿下」

「・・・私は・・・すでに皇女では・・・ありません・・・」

 

 

面倒な政争に巻き込まれるのが億劫でしたので、政治的地位の全てを放棄しました。

毎日、聖都と聖獣に祈りを捧げ、帝国臣民の安寧を願うのみの生活を望んでいるのですが。

生まれと言うのは、自分ではどうにもできないことですね・・・。

 

 

「私共が望んでおりますのは、殿下に状況の変化をご理解いただくことであります」

「・・・変化・・・」

「はい、僭越ながら私共が殿下を黄泉の国へとご案内させていただきます」

 

 

私の目の前には、神官服を着た複数の男性がおります。

どうやら、私に死んでほしいようです。

テオにも手が伸びているとかで・・・テオと私が死ねば、残るはゾエ一人。

どうやら、(ゾエ)は担がれてしまったようですね。

 

 

でも、そんなことはどうでも良いのです。

 

 

問題は、彼らが神官を害し、しかも神聖な場所を土足で汚していることです。

神聖なる、聖獣を祭る場所を汚す。

帝国人、失格です。

 

 

「・・・慮外者・・・」

「・・・では、失礼致します」

 

 

スラ・・・とナイフを懐から抜いて―――ここは武器禁制―――偽神官が、私に一歩近付きます。

その、次の瞬間。

 

 

「ぶぺらべっ!?」

 

 

その偽神官の上に、大きな黄金の甲冑が降ってきました。

かなり重そうで・・・偽神官は豚が潰されたような声を立てて見えなくなります。

・・・今度は・・・何でしょう。

 

 

「取り込み中しっつれーい」

 

 

私が首を傾げていると、背後から太い腕に抱きかかえられました。

左腕と思わしき物に腰掛けるような形で抱えられた私は、期せずしてテオを向かい合うような形になります。

テオはどうやら、右腕で抱えられているようです。

女性とは言え、成人女性を2人、それぞれ片手で抱えられるとは・・・。

 

 

「姉上、ご無事ですか!」

「・・・テオ・・・?」

 

 

所々衣装が裂けているテオは、私を心配してくれました。

私は顔を上げると・・・。

 

 

「・・・聖獣に仕える女性は・・・男性に触れられてはならない・・・掟なのですが・・・」

「げ、マジでか」

 

 

ラカン氏が、文字通り「げ」と言うような顔をしておりました。

何やら、テオが言い訳をしておりますが・・・。

 

 

「き、貴様は・・・せ、千の刃の・・・!」

「じ、じじじじ、ジャック・ラカ―――ンッ!?」

「何故ここに、上の連中はどうした!?」

「ふんっ、あんな雑魚共はすでに片付けたわっ!!」

 

 

何故か、テオが自慢しておりますが。

 

 

「何と・・・それでは仕方が無い、我々の手で・・・!」

「帝国の未来のために!」

「ん~良いね良いねぇ、良い感じに3流だぜ、お前ら」

 

 

ラカン氏は愉快そうに笑うと、太陽のように朗らかな笑顔を私に向けてきました。

・・・ぁ・・・。

 

 

「義姉貴(あねき)、悪ぃな」

「・・・はい・・・?」

「上の階、かなり壊しちまったぜ」

「・・・そうですか・・・」

「す、すまぬ姉上、やむにやまれずと言うか、加減と言うか・・・」

 

 

どれくらいの被害なのでしょうか・・・。

せめて、原型は留めておいてほしいのですが・・・。

 

 

「ま、そんなわけで上では過ごせそうにねーしよ、最後の儀式ってのをやっちまってくれよ」

「・・・儀式を・・・ですか・・・」

 

 

ラカン氏が後ろを振り向くと、上の階から黄金と銀の甲冑が何人か降りてきていました。

生き残りか、亜人の身体能力に物を言わせて復活したのか・・・。

 

 

「おう、手っ取り早く頼むぜ」

「・・・・・・・・・」

「・・・姉上?」

「・・・わかりました・・・」

 

 

ラカン氏の笑顔から顔を逸らして、私はテオを見ました。

身体の安定を得るために、ラカン氏の腕に指先を添えて・・・。

 

 

「・・・では・・・新たな皇帝夫婦に・・・聖獣の代理として・・・問います・・・」

 

 

最後の誓約の儀式を、執り行います。

 

 

 

 

 

Side テオドラ

 

姉上の声は、とても不思議な声なのじゃ。

とてもか細く、小さい声なのに・・・どう言うわけか、耳に届く。

今も・・・。

 

 

「・・・貴女がた夫婦は・・・」

 

 

ジャックが瞬動で移動し、風を切る音に混じって届く姉上の声。

妾と姉上はジャックの逞しい腕に守られて、刺客の手など届く様子も無い。

・・・と言うか、成人女性2人を抱えて何故、誰よりも速く動けるのじゃろう?

 

 

「気合いに決まってんだろ、全ては気合いで何とかなる」

 

 

世の中、気合いで何とかなったら皇帝はいらん。

まぁ、コイツはバグじゃし、世界が間違って生み出してしまった感があるしの。

そして妾は、その間違いに感謝しておる。

妾をジャックに出会わせてくれた、世界の間違いに。

 

 

「・・・良き時も悪き時も・・・」

 

 

そしてそのような中でも、朗々と響く姉上の声。

唱えているのは、婚礼の儀でも誓った、誓約の言葉。

 

 

「・・・病める時も健やかなる時も・・・」

 

 

ジャックがしゃがみ、頭上を銀の棍棒が通り過ぎる。

それをやり過ごした後、ジャックは視線を向けるだけで相手を吹き飛ばした。

・・・羅漢・眼力波(今、妾が命名)。

たぶん、気を目からビーム的な技じゃと思う。

 

 

「・・・共に歩み、他の者に依らず・・・」

 

 

今度は飛び出し、目前の偽神官共に連続で蹴りを加える。

一度のジャンプで、どれだけの蹴りを放てば気が済むのじゃろうか。

・・・羅漢・旋風脚(今・妾が命名)。

滞空時間の長さと高速かつ連続で放つ蹴りが特徴じゃ。

 

 

偽神官達の悲鳴と、部屋が破壊されていく音が連続で響く。

それも「ドゴン」とか「ガズン」とか、やたらに豪快な音が。

その度に姉上のこめかみに青筋が浮かぶのが見えるのじゃが・・・。

 

 

「・・・死が二人を・・・分かつ時まで・・・」

「はっはぁ―――っ、オラオラどうしたぁっ!!」

 

 

姉上の声に被せるようにジャックがでかい声でがなると、姉上の額に青筋が浮かぶのが見えた。

ですが姉上、それは仕方が無いのでは・・・。

 

 

ギィンッ・・・と音が響き、ジャックの背中に当たったナイフが根元から折れた。

・・・いったい、どんな身体の構造をしておるのじゃろうか。

やはり、気合いか・・・?

 

 

「な、何で刺さらないんだ!?」

「気合いに決まってんだ・・・ろぉっ!!」

 

 

ゴンッ、と音を立てて、後ろの偽神官が床石の下に消えた。

そしてやはり、気合いじゃった。

 

 

「・・・誠実な愛を誓い・・・互いを想い・・・互いのみに添うことを・・・」

 

 

ズンッ・・・と、ラカンの足元が振動し、何かの波動が周囲に拡散した。

それによって、周囲の刺客達が部屋の調度品やら何やらごと壁にめり込んだ。

・・・とっさに、技の名前が思いつかなんだ。

 

 

「・・・聖獣の守護の下・・・誓えますか・・・?」

 

 

刺客が全滅するのと同時に、姉上の言葉も終わる。

そして。

 

 

「誓うぜ」

 

 

ジャックが、凄く強い目で・・・妾を。

それは、とても・・・うむ、腰に来る視線で。

直後に重ねた唇は、戦いの余韻のためか、とても熱く・・・深かった。

 

 

「・・・二人は・・・聖獣の守護の下・・・夫婦として・・・認められ、ました・・・」

 

 

普段は淡々としている姉上の声が、どこか揺れていた。

そして、部屋中に聖獣の魔力が満ちる・・・。

 

 

 

 

 

Side テオドシウス(ウェスペルタティア外務尚書)

 

ヘラスの皇帝夫妻が籠ったのに合わせて、女王陛下と夫君殿下も部屋へと戻った。

セラス総長やリカード氏、千草大使など、各国のトップも部屋へと戻り、残っているのは閣僚級と大使級、帝国の財界人などだ。

それ自体はまぁ、帝国のしきたりと各国の序列に従った退席順だと言うだけだ。

だけど・・・。

 

 

「・・・軍人が、見当たらないな・・・」

 

 

宴の途中までは儀礼用の軍服を着た高級士官がゾロゾロいたんだけど、今はどう言うわけかほとんど見当たらない。

皇帝夫妻が退席したあたりから、徐々に見えなくなったのだけど・・・。

そのくせ、軽武装の兵士が宴席の壁際にズラリと並べられている。

あの襟章は、帝国親衛軍の物だったと記憶しているけど。

 

 

「・・・何か、あったのかな」

 

 

葡萄酒(ワイン)のグラスを掌で弄びながら、私はそんなことを考える。

通常の軍人が動員されるような、何かが・・・。

 

 

「お楽しみ頂けておりますか」

 

 

深夜だし、そろそろ私も退席・・・と考えていた時、不意に声をかけられた。

重厚な、何となく腰に響くテノールボイスの持ち主は、宴の初期に私の方を見つめていた・・・。

・・・確か、シュヴェーアト大公ベネディクト。

褐色の肌に金の髪、淡い糖蜜色の瞳。目鼻立ちのはっきりした精悍な容貌。

 

 

どうして声をかけられたのかはさっぱりだけど、さりとて無視もできない。

私が立ち上がって答礼すると、相手は私の手をとって手の甲に口付けてきた。

うーん、元帥(リュケスティス)みたいな奴だな・・・。

 

 

「お初にお目にかかります、ウェスペルタティア王国外務尚書、テオドシウス・エリザベータ・フォン・グリルパルツァーです」

「・・・ベネディクト・ユストゥス・シュヴェーアト、一応、帝国政府からは大公と呼ばれております」

 

 

・・・あれ、初めましてって言ったあたりから機嫌が悪くなったかな。

えーと・・・シュヴェーアトと言う部族を良く知らないから。

 

 

「・・・美しい・・・」

「え? ああ・・・美しい式典でしたね」

 

 

文化の違いには戸惑いも覚えるけれど、確かに綺麗な式典だった。

 

 

「お料理も、豪勢で・・・普段から、帝国の方はあの量を?」

「いえ、ああ言うのは中央だけですよ」

「はぁ・・・」

「中央の水は・・・合いませんから」

 

 

・・・まぁ、地方によって食文化も違うのかな。

多民族国家だからね、最近は王国も外国人労働者が増えてきたけど。

 

 

「えー・・・殿下の領地は、どのような土地なのですか?」

「北の山奥の・・・水が綺麗な土地です。琥珀やラピスラズリなどを産出しますので、それで細々と生計を立てているのですよ。もしよろしければ、いつでもお越しください」

「ありがとうございます」

 

 

・・・周囲の様子を窺うのを、やんわりと阻止された気分だけど。

まぁ、でも・・・帝国の地方領主とコネクションを持つのは悪いことじゃない。

帝国中央政府の屋台骨が怪しい、この時期ならなおさらね。

大っぴらに言葉にはできないけれど。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

「・・・静かになってきたね」

 

 

空が白み初めてきた時間帯になって、街は静けさを取り戻し始めていた。

高級ホテル「テオファノ」の僕とアリアの部屋のテラスから、僕は帝都ヘラスの様子を窺っていた。

一晩、ここに立って見下ろしていたのだけど・・・。

 

 

・・・皇帝の結婚を祝う市民で溢れ返る市街地とは別に、もう一つのお祭り会場が設定されていたようだ。

市街地から離れた場所や、高級住宅街の一部で煙や火が出ていたようだよ。

少なくとも、お祝いの行事では無いと思う。

誰と誰の揉め事かは知らないけど、一般市民に危害を加えないように戦場を設定していたようだね。

 

 

「近くまでは・・・来たようだけど」

 

 

僕やアリアのいるホテル街には、王国関係者で貸し切られているこの「テオファノ」を含めて、7つの高級ホテルがある。

そしてそのそれぞれに、各国の代表を始めとする招待客の多くが宿泊している。

だから、狙うにしろ守るにしろ、重要な場所だったろう。

 

 

「・・・まぁ、来たとしてもアリアまでは到達できなかったろうけどね」

 

 

そんな結論を出して、僕は外の風景に背を向けて、部屋の中に入った。

微細な装飾の入った調度品が並んだスイートルームのリビングを素通りして、寝室へ。

カーテン越しに日の光が入るその部屋は、うっすらと明るい。

 

 

そして白を基調とした寝室の真ん中には、ダブルサイズの白いベッドが置かれている。

そしてその中央には・・・。

 

 

「・・・アリア」

 

 

そこには胸の下あたりまでシーツで覆ったアリアが、薄い胸を緩やかに上下させながら、静かな眠りについている。

淡い色合いのネグリジェを着ていて・・・昨夜は、式典から帰った直後、すぐに眠ってしまった。

気のせいでなければ、額にうっすらと汗が滲んでいるようにも見える。

 

 

・・・ここの所、アリアは体調が芳しくないようだった。

それも、先週あたりから徐々に。

それでも、アリアは休養しようとはしない。

それはおそらく、病気だと認められてしまうことが嫌なのだろうと思う。

 

 

「・・・ただの過労にしては、長いし浅い・・・」

 

 

アリアは過去にも、過労で何度か高熱を出したことがある。

けれどその時は数日で落ちついたし、長続きはしなかった。

けれど今回は、わずかな微熱がずっと続いている。

 

 

表面上は問題無いように見せているから、大多数の人間は気付かない。

だからこそ、より深刻で・・・茶々丸などが気にかけるのだろうけれど。

僕としても、アリア自身が望まないことはしたくない。

けれど・・・アリアが望まなくともアリアのためにしなければならないことも、あるのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

Side テオドラ

 

「それでは、またお会いしましょう」

「うむ、是非に」

 

 

結婚式の次の日の昼食後、妾はヘラス第一国際空港でウェスペルタティアのアリア陛下らを見送りに来ておった。

すでに他の参加者は午前中に空路・陸路からそれぞれ帰参し、昼食を共にしつつ非公式会談を行ったアリア陛下らが、最後に残った客なのじゃ。

後は元々、帝都に住んでおる者達だけじゃ。

 

 

アリア陛下らと握手を交わし、別れの言葉を告げあった後・・・アリア陛下の船と護衛の小艦隊が空港から飛び立って行った。

国境までは、帝国北方艦隊の艦船が護衛(エスコート)することになっておる・・・。

 

 

「・・・ふむ」

「どうしたよ?」

「いや・・・たぶん、気のせいであろう」

 

 

ジャックの訝しげな声に、妾はそう答えた。

昼食の席上、アリア陛下はあまり食が進まないようにも見えた。

とは言え、自分の分はきっちりと平らげていた故・・・会話に集中していただけやもしれぬな。

 

 

「それより、次の予定じゃ。帝都中に妾達が夫婦となったことを知らせねばならん。ここから6時間はパレードじゃぞ」

「うぇ~・・・マジか」

「マジじゃ。せいぜい笑顔で手を振れ」

 

 

まぁ、様式と言う物じゃ、仕方があるまい。

それにジャックのことじゃ、たぶん、できるじゃろ。

じゃが・・・パレードどころでは無いことも、進行しておるのじゃがな。

 

 

昨夜、クーデターの主な首謀者を取り逃してしまった。

 

 

朝、妾が「奥の院」から出てきた時には、帝都での戦闘は全て終わってしまっておった。

もっと早く出たかったのじゃが、姉上が「しきたりです」と言って出してくれなんだ・・・。

クーデター側が市民を敵に回すのを恐れて、極めて迂遠な計画を練っておったおかげで・・・要所を押さえておったクワン率いる親衛軍のおかげで、帝都の叛乱は今朝方にはほぼ鎮定された。

クーデター側が市民に隠れて行動し、かつこちら側の手で速やかに鎮圧できたおかげで、市民にはまだクーデター騒ぎは気付かれておらぬ。

 

 

「それ故に、妾達は予定通りに行動する必要があるのじゃ」

 

 

ここで当初の予定を狂わせれば、「何かあった」ことを認めてしまうことになる。

クーデターの首謀者の一人、ヨアネス・ツィミスケス将軍は昨夜の戦闘で戦死したと聞く。

じゃが、他の者は昨夜の内に帝都から消えてしまったのじゃ。

 

 

・・・二番目の姉上も、同時に姿を消してしまった。

まさかとは思うが、結婚式に参列してくれなかったことを考えると・・・。

 

 

「いずれにせよ、妾は立ち止まることを許されぬ」

 

 

情報部によれば帝国の南の辺境、メレア地方で不穏の気配があると言う。

その他にも、帝国からの自立・独立を目指す動きが各地で活発化しつつある。

帝国の統一を保ち、父上から受け継いだこの国の民を守る。

それが、妾に課せられた責務じゃ。

 

 

じゃが、一人では無理じゃ。

多くの者に力を借りて・・・妾は、帝国をより豊かな国にするつもりじゃ。

そして、妾に力を貸してくれるべき第一の相手は・・・。

 

 

「妾に力を貸してたもれ、ジャック」

「ああ? 面倒くせーなオイ」

「ジャック?」

「・・・へーいへい、女帝さま~っと」

 

 

まったく、頼りになるのかならんのか・・・。

妾の夫は、大層な気分屋じゃからな。

では・・・。

 

 

「行くぞ、ジャック」

「おーう」

 

 

妾達の結婚を祝福してくれる、帝国臣民の中へ。

妾とジャックの帝国を、守るために。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

帝国での旅程を終えたと言っても、アリアさんの外国訪問の全てが終わったわけではありません。

実はこの後、王国・帝国国境のサバ地域とパルティア・アキダリアに立ち寄る予定なのです。

アリアさんは普段から軽々と外国訪問ができる立場ではありませんので、一度に数ヶ国・地域を回ることで友好親善を深めると言うのは、自然な発想とも言えます。

 

 

サバ地域は帝国領ですが、ウェスペルタティア資本の進出が進んでいる地域です。

国外では最大のウェスペルタティア人コミュニティが作られているため、アリアさんは合弁工場の視察と同時に、コミュニティの労働者やその家族を慰問するために訪問されるのです。

 

 

「艦体、安定軌道に達したっス」

「ご苦労様です・・・私は私室で少し休みます。何かあれば呼ぶように」

「「「仰せのままに(イエス・ユア・)女王陛下(マジェスティ)」」」

 

 

アリアさんはお気に入りの京扇子を開いたままオルセン少佐ら艦橋のスタッフにそう告げると、ゆっくりとした動作で指揮シートから身を起こしました。

そのまま扇子でどこか顔を隠すようにしつつ・・・夫であるフェイトさんや私を含めた侍従を引き連れて、『ブリュンヒルデ』内の私室へ戻りました。

・・・心拍数が、若干上昇しているように見受けられます。

 

 

「・・・茶々丸さん」

「はい・・・?」

 

 

途中、京扇子で顔を隠したアリアさんが小さな声で話しかけて参りました。

自然、私も声を小さくして返事をします。

 

 

「・・・お化粧を直してきますので・・・」

「・・・かしこまりました」

 

 

船内のアリアさんの私室・寝室・衣裳部屋の隣には、女王専用の化粧室があります。

化粧室と言うのは、扱いが難しく・・・侍従と言えどご一緒はできません。

・・・心拍数に変化があったのは、フェイトさんの傍だからでしょうか。

 

 

「私は少し寄る所がありますので、フェイトは先に部屋に戻っていてください。暦さん達はコーヒー、茶々丸さんは紅茶の用意を」

 

 

そう言って、アリアさんはやはりゆっくりとした足取りで私達から離れます。

その後ろ姿について行くのは、ガションガションと歩く田中さんです。

外においてはともかく、船内においては田中さんは常にアリアさんの傍におります。

まぁ、そうでなくとも『ブリュンヒルデ』内の警備体制は厳重ですが・・・。

 

 

「・・・茶々丸」

 

 

その時、フェイトさんが私に話しかけて参りました。

 

 

「はい、何でしょうか」

「・・・話があるのだけど」

 

 

・・・話、ですか。

いったい、どのような・・・と思う反面。

内容がわかっているような気も、致しました。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

・・・我慢、できませんでした。

ザー・・・と蛇口から水が流れて行く様を見つめながら、そんなことを考えてしまいました。

蛇口を締めることもせず、そのまま、流れるに任せます・・・。

 

 

「・・・ふ、ぅ・・・」

 

 

汚れてしまった口元を備え付けの白いタオルで拭うと、私は顔を上げて、化粧台の上部に設置されている鏡を見ました。

・・・いつもより白みを帯びた顔に、どこか不安そうな、弱々しい表情が張り付いています。

 

 

口元にタオルを当てたまま、視線を下に戻せば・・・大半は水で流れてしまいましたが、テオドラ陛下との昼食会で頂いたお料理の一部が、化粧台の隅にこびり付いているのが確認できました。

・・・言っておきますが、別に隠して持ってきて捨てたわけじゃありませんよ・・・。

・・・あ、ダメです、冗談を言っている気力も無いかも・・・。

 

 

「・・・気持ち、悪・・・ぃ・・・」

 

 

昼食で食べた物を戻してしまった後だと言うのに、まだ気分悪いのですけど・・・。

こう言うのって、出してしまえば楽になる物ではなかったのですか。

以前は、そんな感じだったんですけど・・・あ、茶々丸さんが水を飲ませてくれたんでしたっけ。

でも今は、水も欲しく無い気分です。

 

 

「・・・ぁ・・・」

 

 

何とも言えない脱力感に襲われて、立っているのが辛くなります。

大理石の化粧台に両手をついて、身体から力が抜けるのに任せるように・・・ズルズルと、化粧室の床に膝をついてしまいました。

あ・・・薄桃色のドレスが、汚れてしまうかも・・・なんてことを、ふと考えます。

 

 

ヒタリ・・・と、冷たい大理石の化粧台に額をくっつけていると、少し気持ちが良いです。

ふぅ・・・まいってしまいますよ、これは。

どうしちゃったんでしょう、私の身体・・・。

 

 

「・・・まだ、お仕事が・・・あるのに・・・」

 

 

お仕事は、大事です。

私にしかできないことがあって、皆が私を頼ってくれているのですから・・・。

・・・私が、皆のお役に立たないと・・・。

そうでないと・・・意味が無いから・・・。

 

 

「・・・ぃ、かなく、ちゃ・・・」

 

 

あまり長くここにいると、不審に思われます。

扉の向こうの田中さんは、私が許さない限り誰かに何かを言ったりはしないとは言え・・・。

・・・立たないと。

 

 

ちゃんと立って、何でもない顔をして部屋に行かないと。

行って、お茶を飲んで、少し休んで・・・それから。

それから・・・。

・・・皆に心配をかけないように、笑顔でいないと・・・。




ウェスペルタティア王国宰相府広報部王室専門室・第13回広報:

アーシェ:
はいっ、皆さんこんばんわ!
今回は茶々丸室長も招いての後書きコーナーですよー!

茶々丸:
お久しぶりです、皆様、ようこそいらっしゃいました(ぺこり)。

アーシェ:
いやー、帝国ウェディング編も何とか終了。
でも大変なのはこれからですよねー。
と言うわけで、今回ご紹介する読者投稿キャラクターは、こちらぁ!


セレーナ・ブレシリア
30代前半の美人女医、栗色のショートボブ、やや垂れ目の青い瞳。
魔法世界人で、人族。

のんびりした性格で、現在は国立オストラ病院の院長を務める。
王室関係者の診察をすることも許されており、女王アリアが過労で発熱した際、何度か王都に呼ばれている。
密かに、女性の体型について女王アリアと盟友関係を築いているとも。
なお、本人は否定している(「陛下は立派なスタイルでおられますので」)。


アーシェ:
最近は、オストラ中を歩いて病人を診て回ってるんだって!

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