魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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次々回以降は、アフターストーリー(第4部)の後半になります。
これまでと異なり、ストーリー固定化の予定です。

今回の話から、リード様、スコーピオン様、霊華@アカガミ様、司書様のご提案部分が入るかと思われます。
では、どうぞ。


アフターストーリー第17話「麻帆良の奇跡・前編」

Side 和泉亜子

 

ふぅ――・・・と、うちは大きく息を吐く。

愛用のベースを抱きかかえるようにしながら、楽屋の中で一人、集中する。

いつからかは忘れたけど、これがうちのスタイルになった。

 

 

子供の頃から変わらへん、自分に自信が無いから、こうやっていちいち心の準備がいるんや。

何度も何度も深呼吸して、心臓の鼓動を落ち着けようって努力する。

そうじゃないと、ステージに立てへんから。

色素の薄い髪も瞳も、背中の・・・も、まだ、怖いから。

部屋の中で一人、何度も深呼吸するんや。

 

 

「・・・亜子! 時間だよ!」

「あ、うん!」

 

 

楽屋の扉が開いて、バンド仲間の釘宮がうちを迎えに来てくれた。

これも、デビューから続いてることや。

釘宮がいなかったら、きっとうちはここにいないと思う。

 

 

「お♪ 来た来たニャー?」

「それじゃ、今夜も一発、ブチかましてあげましょーか!」

 

 

楽屋の外には、他の2人・・・柿崎と桜子がおった。

柿崎はギターを持ってて、桜子はドラムのスティックをカチカチ鳴らしてる。

うちの他の3人は、うちよりもずっと早く心の準備とかできるから、羨ましいわ・・・。

 

 

この間、彼氏と別れてから髪が短くなった柿崎。

逆にセミロングになった釘宮、三つ編みの桜子。

着てる服はライブ衣装、お揃いやけどデザインが微妙に違う。

皆、昔よりずっと大人やけど・・・変わってへん部分も、あると思う。

・・・テンションとか。

 

 

『皆―――っ、おっまたせ―――――っ!!』

 

 

・・・ステージの上、始まりを告げる桜子の声。

熱いスポットライト、満員のお客さん、甲高い声援・・・。

全部に、圧倒される。

 

 

熱気と、ボリューム。

凡人のうちには、本当にキツいわ。

主に、精神的な意味で。

でも・・・皆と一緒やから、精一杯やれる。

 

 

『そいじゃまー、挨拶代わりにまずは一曲目!』

 

 

ワアァッ・・・と、桜子の声に物凄い音量の声が返ってくる。

その間に、うちは観客席を見渡してみた。

その中には、うちらの今の友達とか、ファンクラブの人とかがおるんやけど。

 

 

・・・一番、最前列の席だけは、いつも空けてあるんや。

これは、ずっと前からやっとることなんやけど。

一度も、来てくれたことは無い。

でも、当たり前や。

チケットの送り先、わからへんもん・・・。

たまに、ファンレターに混じって応援のお手紙があるくらい・・・。

 

 

『・・・いっくよ――――っ!!』

 

 

桜子の声に、釘宮達と目を合わせて、頷き合う。

すぅ・・・と、大きく息を吸って、手を上げて・・・。

・・・っ!

 

 

―――――スタート!

 

 

 

 

 

Side 長谷川千雨

 

『・・・昨夜、日本武道館で行われた「でこぴんロケット」のライブイベントには、チケットを入手した1万人以上のファンが駆けつけ、大変盛況の内に・・・』

「・・・あがっ?」

 

 

ガタンッ、と何かが―――後で見たら、目覚まし時計だった―――落ちた音で、私は目を覚ました。

んー・・・?

ガリガリと頭を掻きつつ、私は突っ伏していたらしい机から顔を上げた。

 

 

「・・・いっけね、机で寝ちまったか・・・」

『まいますたー、おそよーございます!』

『『もう、10時だよー?』』

「あん・・・?」

 

 

つけっぱなしだったパソコン画面からのミク達の指摘に画面隅の時計を見れば、確かに午前10時4分。

・・・まぁ、たまにはこんな日もあんだろ。

日曜日だしな。

 

 

「いーだろ別に、就職も決まったし・・・後は悠々自適の学生ライフの残りをエンジョイすりゃ良いんだからよ」

『ダメ人間ですねー』

「切るぞ」

『ごめんなさい』

 

 

ちなみに、私の就職先は中堅どころのIT企業だ。

就職難のこのご時世、内定があるだけでも有り難く思わねーとな。

・・・まぁ、どこかのぼかろのせいで、私の資産は「大学生? ナマ言ってんじゃねーよwww」レベルにまでなっちまってるわけだが・・・。

・・・油田の権利とか、どうすりゃ良いんだよ。

 

 

『石油王になっちゃえば良いじゃない、ゆ~♪』

「死ね!」

『あ、ガス田の方が良かったです?』

「そうじゃねぇよ! ・・・って、テレビもつけっぱなしだったか・・・」

 

 

・・・何か、ワイドショーで中高の同級生が映ってるわけだが。

旧3-A組は、いろんな所で目立ってやがるからな。

和泉とかは、特にアレだけどよ・・・まさか「でこぴんロケット」がメジャーデビューするとは思ってなかったしなぁ・・・。

 

 

『・・・それでは次の話題です。今夏に行われる水泳の世界選手権に向けて強化合宿に入っている女子200m背泳ぎ代表の大河内アキラ選手は、大会に向けた意気込みを・・・』

 

 

・・・ま、皆がんばってるってことだろ。

私は、普通に生きていければそれでいーけどな。

 

 

『あ、まいますたー、卒業論文完成しましたよー』

「勝手に書くなよ!?」

『まいますたーのお役に立ちたくて・・・』

「そ、そうか・・・ちなみに、何について書いたんだ?」

『今後のコスプレ市場の成長可能性について』

「マジで死ね!!」

 

 

なんつーもん書いてんだよ、そんなもんゼミの教授に出せるわけねーだろが!?

外では堅物真面目キャラで通ってるんだよ私は、畜生!

 

 

 

 

 

Side ハカセ

 

「・・・ほいっと、直ったよー」

 

――ありがとうございます、ハカセさん――

 

「良いよ、ここのシステム作ったの、元々は私だしね」

 

 

四葉さんのお店の屋根から梯子を伝って降りて、私は下で見守ってた四葉さんの傍に降りました。

四葉さんのお店、「超包子」は・・・もう、屋台じゃない。

麻帆良各所に固定の店舗を持った、普通のお店になってます。

管理者はもちろん、四葉さん。

 

 

ちなみに私が今いるのは「超包子」第一号店、屋根に取り付けたソーラーパネルの調子がおかしかったから、直してみました。

んー、午前11時、お昼ご飯前に直せて良かった。

 

 

――お礼に、お昼ご飯を食べて行ってくださいね――

 

「お、本当? 悪いねー」

 

――いえ――

 

 

相も変わらず独特な話し方の四葉さん、でも今、麻帆良で一番注目されてる若手料理人なんだよ?

・・・まぁ、キャラクターも手伝ってるんでしょうけど。

お店を構えても、基本は早い、安い、旨いだから、客層は学生が多いですし。

 

 

「あっ、四葉さん!」

 

――いらっしゃいませ――

 

「お、俺と付き合ってください!」

 

――(ニコッ)――

 

 

・・・たまに、距離感を勘違いする男子もいるみたいだけどねー。

四葉さん、大人になってからまた可愛くなったし。

まぁ、私は研究が恋人だし、でも最近はあんまり面白いこと無いんですよねー。

新開発より整備・改良・量産の方が多いし、麻帆良は平和そのものですし。

 

 

お店の内装は、屋台時代とさほど変わらない。

調理場が見えるカウンター席と、いくつかのテーブル席、後は外にもテーブルがある。

良くある中華料理店って感じです。

・・・その時、カランカランッと、お店の扉が開く音がいた。

カウンター席に座ってる私からは、誰が入ってきたのかはわかります。

 

 

――いらっしゃいませ・・・あ、相坂さん――

 

「こんにちは、四葉さん。昨日の出前のお皿、返しに来ました」

 

――動いて大丈夫なんですか? 後でこちらから取りに行きますのに――

 

「大丈夫です、何だか今日は、動いてみたくて」

 

 

入店してきたのは、同級生の相坂さん。

最近は移動するのも大変らしくて、今は車椅子に乗ってる。

私が作った、片手で操縦できる超万能全自動車椅子「紀子ちゃん(N-0-rik00)」。

 

 

相坂さんは顔の造りとかが少し丸みを帯びて、前より優しい印象を受けます。

色素の薄い長い髪に赤い瞳、淡い色合いのマタニティワンピースを着てる。

 

 

「やっほー、相坂さん」

「あ・・・こんにちは、ハカセさん」

 

 

挨拶すると、相坂さんはにっこりと微笑んでくれた。

 

 

 

 

 

Side さよ

 

5月最後の日曜日、のんびりとお散歩してみます。

何だか今日は、とても動きたい気分なんです。

ここ数日は、むしろ動くのが億劫だったんですけど・・・。

 

 

「まぁ、家に籠ってるのも飽きるもんねぇ」

「あはは・・・そうかもですね」

 

 

ガラガラと・・・世界樹広場を、車椅子で進んでいます。

ハカセさんが作ってくれたこの車椅子は、いろいろと機能がついていてとても便利なんです。

・・・ただ私自身が機械に疎いので、使い方がマスターできてないんですけど。

 

 

せっかくだからと、お昼はハカセさんとご一緒しました。

すーちゃんは、畑でお弁当だと思うし・・・。

それで、その後は四葉さんのお店を出て、一緒にお散歩です。

片手で車椅子を操作しながら、ハカセさんの隣をゆったり進みます。

 

 

「5月にしては、今日って結構暑いよねー」

「ですね、おかげで昨日までは動くのが億劫だったんですけど・・・どうしてか、今日は妙に動きたくて」

「ふーん、でも無理はしないでね」

「はい」

 

 

中学生の頃は、ハカセさんとはあまり親しくは無かったんですけど・・・。

こちらで過ごすようになってからは、とても仲良くして頂いています。

こんな車椅子や、妊婦用の運動器具とかも頂いてしまって・・・本当に有り難いです。

お礼に渡せるものが、畑の野菜とかで・・・。

 

 

「そういえばさ、アリア先生も子供、できたんだって?」

「はい」

 

 

ハカセさんの言葉に、自然、声が弾みます。

先日、魔法世界からアリア先生のお手紙が来て・・・知りました。

一緒にお母さんになれるの、とても嬉しいです。

・・・実は、エヴァさんや茶々丸さんのお手紙とかですでに知ってたんですけど。

でも、心を込めてお祝いのお手紙を送りました。

届いたかなぁ・・・。

 

 

「生命(せいめい)かぁ・・・」

「呼んだかの?」

「うひゃあっ!?」

 

 

感慨深そうに呟いたハカセさんに反応したのは、車椅子の座席の下の籠の中にいた、晴明さんです。

銀色の髪のビスクドールが、ひょっこりと顔を出しています。

・・・先月くらいから、私を心配してついてくれているんですけど。

 

 

「晴明さん、人目が・・・」

「大丈夫じゃ、これ以上は動かん。車椅子に結界をつけておるでな」

 

 

いつの間にか、変な機能が追加されていました。

・・・ふぅ。

 

 

少し息を吐いて、片手でお腹をポンポント軽く叩きました。

すると・・・お腹の中で、何かがモゾモゾと動くのがわかるような気がします。

何かって言うか、私の赤ちゃんなんですけど。

予定日が近付いて、「いつでも」な状態になって・・・改めて思うんです。

ああ・・・私の中に、別の命があるんだなぁ・・・って。

 

 

「・・・むむむ? あれは・・・」

「はい?」

 

 

ふと、ハカセさんが足を止めました。

合わせて、私も止まります。

ハカセさんの視線の先には、世界樹広場の中の・・・それも、良く待ち合わせとかに使う広場があって。

そこに・・・。

 

 

「あれ・・・瀬流彦先生?」

「だね」

 

 

何か、妙に緊張した様子の瀬流彦先生が、直立不動な感じで立っていました。

・・・何、してるんだろ、こんな所で。

声をかけようか迷ったけど・・・誰かと待ち合わせかもしれませんし。

 

 

・・・?

 

 

行きましょうか、とハカセさんに声をかけようとして、ふと何かが気になりました。

でも、それが何かは、わからなくて・・・。

ただ、何となく動いていたいと言う気持ちがあって。

他には・・・周りには、世界樹くらいしか見えなくて。

・・・まぁ、良いかな。

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

「あ、あ~・・・や、やぁ、良い天気だネ! ・・・い、いや、何か発音が変だな・・・ぜ、全然待ってないヨ、今来た所サ! ・・・いやいやいや・・・」

 

 

い、いけない、シミュレーションのつもりがどんどん方向性を見失っているじゃないか・・・!

しかも一人でブツブツ呟いているもんだから、通行人が酷く微妙な顔で僕のことを見てきた。

不味い、非常に不味いね・・・!

 

 

ば、場所変える?

いや、でも待ち合わせ場所ここだしねぇ・・・。

 

 

「・・・ん、んんっ!」

 

 

咳払いをすることで、通行人を追い払うことに成功した。

何故か、勝った気分になった。

でも、勘違いだと思った。

 

 

・・・ちなみに、僕が何をしてるのかって?

え、いやぁ・・・はは、まぁ、なんと言うか

・・・彼女(こいびと)と、待ち合わせ的な?

 

 

「恋人って言うか、婚約者なんだけどね!」

 

 

口に出して言ってみると、想像以上に恥ずかしかった。

いや、でも何となく、無意味に宣言したくなる時って、あるでしょ?

元々は、新田先生の紹介で会った女子高生だったんだけど・・・あ、今は大学生だよ?

いやぁ・・・最初は普通だったんだけど、これがまた、複雑な諸事情があってね・・・婚約までが大変だったんだから。

 

 

一般人の子かと思ってたら・・・実は元西の陰陽師!

しかも、西では結構な家の子で・・・いろいろ事情があって、実家から出奔した子。

詠春さんの所ほどじゃないけど、うん、いろいろあったんだよ。

 

 

「・・・3回くらい、死にそうになったしねぇ」

 

 

あの時ほど、新田先生は知っててワザとやってるんじゃないかって思ったことは無いよ。

途中で相談したら、「キミにしかできないことをしなさい、瀬流彦君」とか意味深なこと言ってたし。

でも一応は一般人のはずだから、確認できないし・・・。

・・・でもやっぱり、実は全部知ってるんじゃないかなぁって、思う時がある。

ネギ君やアリア君の時だって、何だかんだでいろいろ黙認してたわけだし・・・。

 

 

「・・・んせ?」

「うーん・・・」

 

 

やっぱり怪しいよねぇ、新田先生。

今度聞いてみようかな・・・でも、藪蛇は不味いしなぁ。

 

 

「せんせ?」

「うーむむむ・・・」

「・・・・・・せーんせ!」

「は、はいっ!?」

 

 

近くで呼ばれて、反射的に気をつけの体勢で返事をする。

・・・これも、職業病って言うのかな・・・じゃなくて!

慌てて振り向くと、そこには待ち人がいたわけで・・・。

 

 

「あ・・・ご、ごめん! えっとその、考え事してて・・・」

「お待たせしてしまいましたか?」

「い、いやいや全然! 今来た所だから!」

「そうですか、良かった」

 

 

深く追求されなくて、ほっとした。

・・・僕のことを「せんせ」と呼ぶこの子は、土御門 明楽さん。

艶やかな長い黒髪で、前髪は軽く何本かのピンで、それと後ろ髪はバレッタで留めてる。

薄藍がかった黒の瞳に右目の下に泣きぼくろ、黒の銀のシャープなデザインの眼鏡をかけてる。

女性にしては身長は高めだけど、身体つきは細い・・・と、思う。

いや、ジロジロ見るのって失礼だし・・・。

 

 

服装は薄手の淡いグレーのカーディガンにシンプルな白のシャツと、膝より少し長めのスカートに黒のストッキング、それと踵の低いシンプルなデザインのパンプス。

手にはハンドバックを持っていて、バッグを持つ手に誕生石(アメシスト)のついたシンプルな指輪と、左手の薬指に銀の婚約指輪。

一言で言うと・・・凄く、可愛いと思う。

 

 

「・・・何か?」

「え、いやいやいや、何でも無いよ!?」

「そうですか・・・新しい眼鏡を買いに行くのに付き合せてしまって、面倒なら・・・」

「ま、まさかぁ!? 迷惑だなんてそんな・・・うん! じゃあ、行こうか、うん!」

 

 

何たって、僕は麻帆良で一番眼鏡に詳しいからさ!

ガンドルフィーニ先生も刀子先生も詠春さんも皆、眼鏡だからね、うん。

 

 

「・・・はい」

 

 

小さな声が聞こえたかと思うと、僕の二歩半後ろを彼女がついてくる気配が。

何だか、背中がくすぐったいや・・・。

 

 

 

 

 

Side 詠春

 

「いやはや、なんとも平和ですねぇ」

「・・・そうですね、アル」

 

 

図書館島地下にある、アルの隠れ家。

・・・まぁ、別にもう隠れる必要は無いのですが。

それでもどう言うわけか、アルはここから出ようとしない。

本人は、気に入ってるからだと言っているが・・・。

 

 

「詠春、私のことはクウネル・サンダースと呼んでくださいとアレほど」

「今さら、貴方のことをアル以外の名で呼べと言われても・・・」

「・・・ナギとラカンも、さっぱり呼んでくれないんですよねー・・・」

「あはは・・・」

 

 

カチャッ、とティーカップを置いて、軽く笑う。

この5年で、私はますます老け込んだと思う、白髪も増えましたし。

だが、アルは何も変わらない。

造物主(ライフメイカー)の封印を10年留めていた影響で、今ではほとんど力を失ってしまったと言う、それ以外は。

 

 

図書館島の地下で、隠居しているのも変わらない。

一応、オスティアとのゲートの管理人と言うことにはなっていますが・・・それは、そうした肩書きでも無いとここに置くわけにはいかないからです。

つまり、私の都合だ・・・。

 

 

「ところで詠春、最近、娘さんとはどうですか?」

「ああ、先日、手紙を貰いましたよ」

「おや、仕送り以外にも関係を持てたんですね」

「ええ、おかげさまで」

 

 

まぁ、それでも近況報告程度の物で、しかも差出人は刹那君ですが。

どうも・・・私に気を遣って、自分と木乃香のことを伝えてくれているようです。

良い子ですね、本当に・・・。

 

 

・・・ただどうも、余り平穏平和な話ばかりでなかったことは、気がかりですが。

旧関西絡みは別にしても、土地の妖怪同士の勢力争いに巻き込まれたり、同じアパートの子供を取り返しに北海道の孤島に乗り込んだりとか。

・・・どんな生活をしているのでしょう、木乃香と刹那君。

 

 

「貴方ほどじゃないでしょう、詠春」

「そんなことは・・・」

 

 

アルに指摘されて、ふと考え込みます。

・・・四国妖怪と戦ったり、旧世界連合を取り纏めたり、魔法世界のクルト君と交渉してみたり、麻帆良を襲った謎のハッカーに頭を悩まされたり、挙句の果てには京都の本山で伝説の大妖怪と相見えたり・・・。

 

 

「・・・アル」

「はい?」

「・・・平和ですね」

「ねぇ」

 

 

大惨事も大事件も無く。

珍しいことにここ数ヶ月は、麻帆良は平和その物です。

できれば・・・もうしばらくは、続いてほしい物ですね。

 

 

 

 

 

Side さよ

 

あの後、世界樹広場近くのカフェでハカセさんとお茶をしながら、時間を潰しました。

ハカセさんは、生命と言う物を最近、良く考えるんだそうです。

茶々丸さんや田中さん、魔法の力を込めたロボットが「魂」を持つ点に、着目しているとか。

 

 

ある意味で、最近は私も命について考えることが多くなりました。

お腹の中に、実際に新しい命を抱えているからかもしれません。

とても重くて・・・温かいんです。

大変なことも、たくさんありますけど・・・。

 

 

「ハカセさんは、そのまま大学の研究室に残るんですか?」

「え、うん、そうなると思うよ。連盟・・・詠春さんとの契約もあるしね」

「そうですか・・・じゃあ、これからも、ご近所さんですね」

「だね」

 

 

正確には、ご近所さんでも何でも無いですけど。

でも、これからも仲良くして貰えるなら、嬉しいです。

そんな感じで、午後はハカセさんと過ごしていました。

臨月に入ってからは、ほとんど外に出ない生活だったんですけど。

でも、今日は何でか、外に出たくて・・・。

 

 

 

 

    『・・・・・・ま・・・・・・』

 

 

 

 

・・・?

今、何か・・・?

 

 

気のせいかな・・・と、あたりを見渡してみるけど・・・。

広場を行きかう通行人くらいしか、いないし。

気のせい・・・。

 

 

「・・・あれ?」

「ん? どうしたの?」

 

 

不意に、世界樹が目に留まりました。

麻帆良の大半から見える巨木ですし、ここは世界樹広場ですし・・・。

・・・その、世界樹が。

 

 

「・・・発光してる?」

「え?」

 

 

私の声に驚いて、ハカセさんが世界樹を仰ぎ見ました。

 

 

「・・・してないと、思うけど」

 

 

でも、ハカセさんの目にはいつも通りに映ってるみたい。

私の目には、かすかに世界樹が光っているように見えるんですけど・・・。

・・・気のせい?

 

 

 

 

    『・・・・・・マ・・・・・・』

 

 

 

 

・・・っ。

また、また何か、聞こえたような・・・。

 

 

「・・・何じゃ・・・?」

 

 

車椅子の籠の中から、晴明さんの訝しげな声が聞こえた。

晴明さんは、感じてるんだ。

私が、それを確認しようとしたタイミングで・・・。

 

 

「さーちゃーんっ!!」

 

 

その時、広場の向こうからすーちゃんがやってきました。

畑仕事が終わったのか、私を探しに来たのか・・・長い白髪を靡かせて、涼しげな色の和服姿で。

周りの人が好奇の目で見てるけど、一顧だにせずに。

 

 

「すーちゃん・・・」

「探したぞ、なかなか帰ってこないし・・・あんまり、外に出ちゃダメだぞ!」

「ごめん・・・」

「良いぞ、僕(スクナ)は怒ってない」

 

 

プルプルと首を振りながら、すーちゃんが笑う。

それを見て、私は口元が綻ぶのを感じました。

 

 

「それじゃ、私はこれで失礼しようかな。邪魔しちゃ悪いしね」

「あ・・・じゃあ、お会計・・・」

 

 

しましょうか、と、言おうとした。

まさに、その時。

 

 

 

 

    『・・・・・・ママ・・・・・・』

 

 

 

 

急に、身体が。

ズンッ・・・と、何か、重たい何かが、お腹が。

 

 

 

 

    『・・・ママ・・・!』

 

 

 

 

からだ、が・・・・・・!

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

いやー、うん、何と言うかアレだね。

・・・幸せだなぁ。

 

 

「ありがとうございます、せんせ。お休みの日に」

「え? いやいや、むしろお休みの日だからこそ、明楽さんと一緒にいるって言うか・・・・・・あ、いやっ、別にこれくらい、いつでも付き合うよ!?」

 

 

うん、いや本当、毎日だって付き合うよ!?

むしろ、僕が付き合ってほしいくらいだよ!

 

 

「・・・って、もう付き合ってはいるんだけどね!」

「せんせ?」

「あ、ごめん、こっちの話」

「こっち?」

「うん、こっち」

 

 

・・・何を意味不明な会話を展開させているんだろう、僕は。

いや、うん、こう言う時は年上の僕がリードしないとだよね、うん。

もう何年も付き合ってるんだし―――誓って清い関係だよ! 彼女の両親に釘を刺されててさ・・・いや、それが無くても不埒なことはしないよ!?―――、いつまでも付き合いたてのアワアワ状態から抜け出せないんじゃ、明楽さんも愛想尽かしちゃうよね・・・。

 

 

「クス・・・変なせんせ」

「そ・・・そう、あはは」

「うふふ・・・」

 

 

かぁわいぃーなぁもぉ―――――――っ!

細くなる目とか、そして口元を押さえる細い手とか。

うん、もう・・・どうでも良いよね、いろいろと。

 

 

「いや、それにしてもたくさん眼鏡を試着したよね」

「結局、前のと同じデザインで注文したんですけど」

「うん、良いんじゃないかな」

「でも、たまには違う物を着けてみたくもなります」

「うん、良いんじゃないかな」

「・・・三つ目用の眼鏡とか」

「うん、良いんじゃないかな」

「・・・せんせは、何でも良いんですね」

「え・・・あ、いや、違うよ? 明楽さんなら何でも似合うよねって話で・・・」

「あ、ありがとうございます」

 

 

可愛いなぁ・・・本当に本当に可愛いなぁ。

口に出しては言わないけど、恥ずかしいから。

あと、大人だしね僕。

 

 

・・・そんな会話をしてたら、いつの間にか待ち合わせ場所近くに戻って来てた。

つまり、世界樹広場。

えーと・・・。

 

 

「えっと、ちょっと休憩しようか?」

「休憩?」

「うん、お茶とか・・・」

 

 

それ以外の意図は無いです。

・・・本当だよ?

 

 

と、とにかく、明楽さんも良いって言うから、カフェでも行こうか。

確かこの近くに、割とお洒落な若い子向けのカフェが・・・。

・・・おや?

 

 

「何だろう、人だかりが・・・」

 

 

目的のカフェはすぐに見つかったんだけど、外のテーブルの一隅に人が集まっていた。

何かあったのかな?

・・・うん? あそこにいるのって、もしかして・・・。

 

 

「あ、明楽さん!?」

 

 

突然、明楽さんが駆け出した。

いつも僕の後ろにいるから、かなり珍しい・・・じゃなくて。

僕も、すぐに後を追う。

周りの人に謝りながら、それほどでも無い人だかりを抜けて・・・って。

 

 

「あ、相坂君!?」

「あ・・・瀬流彦先生!」

「ハカセ君!?」

 

 

そこにいたのは、相坂君とハカセ君だった。

あとそれと・・・スクナ君じゃないか!

 

 

「さーちゃん・・・さーちゃん!」

「大丈夫ですか!? 何があったんですか!?」

「さーちゃんが急に・・・って、お前誰だ?」

 

 

白髪の和装少年(スクナくん)が抱き止めているのは、相坂君だった。

相坂君は顔色が真っ白で・・・スクナ君がいなければ、そのまま地面に倒れこんでるんじゃ無いかってくらいだ。

明楽さんは、これを見つけたから・・・。

 

 

「救急車は呼びましたか!?」

「え、えー、はい!」

 

 

明楽さんに気圧されながら、ハカセ君が答える。

え、ええと、相坂君は確か今・・・。

 

 

「あ、相坂君、大丈夫かい!?」

「・・・る、彦、せん、せ・・・」

 

 

息も絶え絶えな感じで、相坂君が蚊の鳴くような声で答えた。

顔色がかなり悪いんだけど・・・え、大丈夫!?

予定日とか、近いんじゃなかったっけ?

 

 

「・・・産まれるぞ」

「へ?」

「もう、産まれる。命の脈動を感じる、凄いぞ・・・!」

「え、ちょ、えええええぇぇぇぇっ!?」

「せんせ、落ち着いて!」

「はい!」

 

 

明楽さんに落ち着くように言われるけど、かなりてんぱってる。

だって、スクナ君の言ってることが本当なら、悠長なことしてらんないじゃないか・・・!

・・・子供が、産まれるんだよ!?

 

 

ど、どうしようどうするどうしたらどうすれば!?

こ、こう言う時、男はどうしてれば良いのやら・・・!

 

 

「ぐ・・・う~・・・!」

 

 

相坂君、本気で痛そうって言うか、苦しそうだ。

 

 

「・・・こ、声が・・・!」

「え?」

「あ、赤ちゃんの・・・?」

「へ?」

 

 

ズン・・・ッ。

 

 

相坂君が何を言ってるのか、わからなかったけど。

それを確認する前に・・・。

 

 

ズ、ズン・・・ッ!

 

 

大地が・・・麻帆良が、揺れた。

 

 

 

 

 

Side 長谷川千雨

 

・・・いきなりだったから、受け身が取れなかったぜ。

と言うか、電化製品だらけだからマジでヤバいんだが、私の部屋(大学寮)の場合・・・。

 

 

『私達も、リアルにヤバかったです・・・』

「停電したら役立たずだもんな、お前ら・・・」

 

 

何とか無事だったノートパソコンの画面の中で、緑のツインテール娘が冷や汗をかいてやがった。

いや、前に一回あったんだけど、停電したら出てこれないんだよ、コイツら。

携帯の電池切れたりしたら、もう手段が無いんだもんな。

・・・やたら静かなんだよな。

 

 

「しっかし・・・地震か?」

『んー・・・速報とかは無いですねー』

 

 

地震にしては、短かったような気もするが。

今日も今日とて、一日中ネットサーフィンやらぼかろの歌作りやらホームページの更新やらやってたんだが、突然揺れやがってな。

でも地震速報もねーって、どう言うこった?

 

 

「あーあー、もう。棚の中身がグチャグチャじゃねーか。割れてねーよな・・・コップとか」

『リアルは嫌ですねー』

「どこかの廃人みてーなこと言ってんじゃねーよ」

 

 

私はちゃんと、リアルを生きてるんだっての。

・・・あ、でも今日、外に出てねーな私・・・。

大学以外はあんま外出ねーし、人付き合いとかもあんまり・・・。

・・・い、いや、大丈夫だ、うん。

 

 

『まいますたー!』

「あ?」

 

 

画面の中から、ミクが叫んだ。

今度は何だと思った・・・次の瞬間。

 

 

   ズンッ

 

 

また、揺れやがった。

それも今度は一回じゃなくて、連続っつーか・・・。

本気で、地震だった。

 

 

家具がガタガタ揺れて・・・や、やべっ、これマジでやべーって・・・!

こ、コンセント、コンセント抜いた方が良いのかコレ、ブレーカーとかよ!?

 

 

『切らないでください―――っ!』

「主人の命を優先しろよ!?」

『あっ、ついにまいますたーとしての自覚が!』

「うっせぇ!」

 

 

いや、冗談抜きでヤバッ・・・!

・・・ガシャンッ、パリンッ、と音を立てて、棚から物が落ちる。

て、テレビ落ちるテレビ・・・!

 

 

『まいますたー!』

「何だよ!?」

『これ、地震じゃないです!』

「ああ!?」

 

 

現に、めちゃくちゃ揺れてんじゃねーか!

そう思ってミクの方を見れば、画面には麻帆良の断面図。

そして、何かを表してるんだか知らねーが、赤い滲みみてーなのが下から・・・。

 

 

「地面の下から・・・何か来る!? ミク!」

『計算中・・・・・・・・・・・』

 

 

ブゥンッ、と、画面が数秒だけ切り替わる。

だけど、すぐにまた緑の髪のツインテール娘が画面に映る。

で、結論を言うわけなんだが。

 

 

『・・・世界樹です、まいますたー!』

「・・・は?」

 

 

世界樹がどうしたってんだよ。

まーた、「そっち」の話じゃねーだろうな・・・。

 

 

 

 

 

Side 晴明

 

「ぬ、ぬおぉ・・・?」

 

 

軽く呻きながら、我はプラプラと空中で揺れておる。

どうも服の一部が、車椅子に引っかかってくれたらしいのぅ。

人目がある故、動けぬのじゃが・・・いやはや。

 

 

まさか、地面が割れるとは思わなんだ。

 

 

・・・いや、正確には割れたわけでは無いの。

地面から、巨大な木の根が隆起してきただけじゃ。

・・・いや、それも十分にアレじゃな。

向こう側(まほうせかい)に慣れると、感覚が麻痺して敵わんな。

さて、それはそれとしてどうした物かの。

 

 

「さーちゃん!」

 

 

カフェ前の道に沿うようにして、数メートルはある巨大な木の根が露出しておる。

この街の下には、世界樹と言う巨大な霊木の根が張り巡らされておるのは知っておったが。

しかし、それが突然、地上部に出てくるとは・・・。

それも我が引っかかっておる5メートル程の位置から見ただけでも、ここ以外の場所でも同じような現象が起こっておるようじゃ。

 

 

リョウメンスクナが店が壊れこそしなかった物のテーブルなどが散乱しておる店から・・・地面から、さよ殿の名を呼んでおる。

そして、一方のさよ殿はと言えば・・・。

 

 

「・・・すーちゃ・・・っ・・・」

 

 

細い木の根で編まれた牢のような物に、閉じ込められておった。

我がおる位置よりも、遥かに高い・・・地上10メートルくらいの位置におる。

逃れようにも、どうも陣痛が始まっておるらしく、動きが緩慢じゃ。

ま、不味いのぅ・・・それにしても、先程から強い気の脈動を感じる。

心臓の鼓動のようにも聞こえるそれは、どこから聞こえてくるのか・・・。

 

 

ギシッ・・・ビシィッ!

 

 

その時、何か固い物がひび割れる音が響いた。

かと思えば、ズズ、ズ・・・と、地面のコンクリートを破って地上に飛び出してきておった木の根が、今度はゆっくりと、しかし確実に地面の中に戻りつつある。

・・・我も一緒か、まぁ、良いがな。

さよ殿の傍を離れるわけにも、いかんしの。

 

 

「さーちゃ「きゃあああっ」・・・危ないぞ!」

 

 

当然、リョウメンスクナはさよ殿を助けようとするが・・・木の根が戻る際、今度こそ地面が割れた。

大半の者はすでに離れておったが、店の中から様子を見に来たらしい女店員が、足を取られた。

最終的に、幅4メートルほどの隙間ができ、本来ならば世界樹の根で埋まっておるはずの空間に落ちかけてしまった・・・底が、見えんのじゃが。

リョウメンスクナが、それを反射的に助けてしまった。

女店員の身体を持ち上げ、後退する。

 

 

その代わり、さよ殿を救うタイミングを逸してしまった。

・・・まぁ、仕方が無いの。

 

 

「・・・さーちゃん!」

「すー・・・ぅ・・・!」

 

 

腹を抱えて蹲るばかりのさよ殿は、どうにもできん。

そのまま、地下深く・・・世界樹の懐の中へ。

ちなみに、付録で我も落ちるわけじゃが・・・。

 

 

「晴明様!」

 

 

落ちる刹那・・・誰かが、人形の我の手を掴んだ。

この状況下で人形の我を救おうとするのは・・・陰陽師しかおらぬな!

 

 

「た・・・戯け! 何をしておるか!?」

「も、申し訳ありませ・・・!」

 

 

我が普段から発しておる気のせいで、陰陽師には我が誰かわかってしまう。

故に見捨てることができなんだか・・・土御門の娘!

 

 

「あ・・・っ」

 

 

我を掴む土御門の娘の右腕に、触手のような細い木の根が絡みついた。

まずっ・・・!

 

 

「――――明楽さんっっ!!」

 

 

さらに、地面の下へ沈みかける娘の左手を掴んだのは・・・瀬流彦とか言う教師。

最初は、ガッチリと手を掴み合った。

数秒後には、指先を絡め合うような形になった。

数十秒後には、引っかかっておった指先が・・・。

 

 

「・・・っ・・・せん、せ・・・っ」

「・・・うぅぁあああぁっ!」

 

 

 

 

 

―――――離れた。

 

 

 

 

 

Side 詠春

 

「こ、これは・・・!?」

 

 

ただならぬ気配を感じて、図書館島の敷地内から外に出ましたが・・・。

都市側へ通じる橋が半ば崩れているのですが、湖の底から突き出しているアレは、もしや。

 

 

「世界樹の根・・・のようですね」

「アル! 出てこれるのか・・・?」

「ええ、どうも調子が良いようでして」

 

 

私の傍らに姿を現したのは、先程まで私とお茶をしていた黒髪の司書、アルビレオ・イマ。

しかし、世界樹の根が地下から隆起してくるなど聞いたことがありません。

そもそも、世界樹は眠っているはずではなかったか。

 

 

「外から、何かしかの力が加えられれば別でしょうね」

「外部から・・・?」

 

 

世界樹に影響を与えるような・・・それも、アルが外で実体化できるまでに魔力が満ちるような。

そこまでの大きな力が、存在するでしょうか?

そんなことは、6年前の戦い以来で・・・。

 

 

「貴方が通ってきた直通エレベーター、今は軸が歪んで使用不能です。運が良かったですね」

「エレベーター・・・いけない!」

 

 

世界樹の隆起が、麻帆良にどんな影響を与えたのかわかりません。

そこですぐに、日本統一連盟の危機管理センターに通信を繋ぎました。

今日の当直は明石教授のはず・・・。

 

 

『詠春さんですか! 良かった繋がった・・・!』

「明石教授! 状況はどうなっていますか!?」

『不明です! 麻帆良の電子精霊群の即時調査では・・・世界樹の隆起は世界樹広場を中心に半径1キロ以内で起こっているようです!』

「ええ、それはこちらでも見えていますが・・・」

 

 

被害状況を確認してみると、住居損壊が2件、事故が10件、死者重傷者無しの軽傷者20名以下と言う把握になっているそうです。

・・・範囲が限定された分、被害が少なくて済んだようですが。

 

 

しかし、どうして麻帆良全体で無く、世界樹広場を中心とした一部地域に限定されているのか。

・・・まぁ、ここで考えても仕方が無いことですね。

とにかく、麻帆良の緊急指揮所へ向かいましょう。

私がいないと、旧関東はともかく旧関西が動けない・・・。

 

 

「ただちに、動ける人材を招集してください。それと麻帆良市長に、住民の避難対策を・・・端的に言って」

 

 

当面の指示を出しながら、私は身体を強張らせています。

端的に言って、そう、これは・・・。

 

 

「・・・どうやら、休息の時間は終わってしまったようです」

 

 

これは、麻帆良の危機です。

 

 

 

 

 

Side さよ

 

痛い、痛い、痛い、痛い痛い痛い、いた、ぃ・・・!

ジンジンと言うか・・・それどころじゃない痛みが断続的に、しかも延々と続きます。

お腹だけが痛いんだとばかり思ってたけど、何か、頭も痛いような・・・。

 

 

・・・とか何とか、考えてる場合じゃ、無いぃ・・・!

ギッ・・・と歯を噛み締めながら、痛みに耐えます。

・・・・・・3秒でギブアップ、耐えられない!

こ、こんな痛いなんて、動けなくなるくらい痛い・・・!

言うなれば、骨と肉の間に指を突っ込んでグリッてする感じでしょうか・・・!

 

 

「・・・っ、はっ・・・ぁ、ぐっ・・・っ」

 

 

お腹―――正確には、お腹の下あたり―――が、痛い。

痛いとか痛くないとかじゃなくて、割れそうです。

中から裂かれそう、で・・・!

 

 

しかも最悪なのは、私が置かれている状況です。

病院じゃなくて、地下です。

しかも、一人です。

・・・とんでも無く、どうしようもありません。

 

 

「・・・ぁ、ぁ・・・れ、かぁ・・・!」

 

 

絶望感、こう言うのをそう呼ぶのでしょうか。

呼んでも、誰も来てくれません。

薄暗い、木の根に囲まれたどこかで・・・一人、痛みに耐えるしか。

 

 

「・・・すーちゃ・・・っ・・・」

 

 

呼んでも、来ない。

目の前が、真っ暗になりそうで・・・。

・・・でも。

 

 

「・・・じょぶ、大丈夫だから・・・っ、ね・・・?」

 

 

それでも、何とか諦めないで頑張れています。

狭い空間をズルズルと動いて、できるだけ身体を楽な体勢にして、太い木の根に背中を預けます。

はっ・・・と息を吐きながら、サワサワと・・・お腹を撫でます。

 

 

どうしてかって言うと、私の不安が移ると良くないから。

だって・・・。

 

 

『・・・ママ、ママ・・・』

 

 

・・・声が、聞こえるんです。

私の中から、たぶん、お腹の中から。

グ、ググ・・・と圧迫感が増すにつれて、はっきりと聞こえるようになってきた、声。

 

 

赤ちゃんの、声。

 

 

何で聞こえるのか、全然、わからないけど・・・確信があるんです。

これは、私の赤ちゃんの声だって。

とても不安そうで、泣いちゃいそうな、可愛い声・・・。

この声が、聞こえる限りは。

 

 

『・・・ママ、ママ・・・』

「大丈夫、大丈夫だよ・・・」

 

 

この子を、ちゃんと、産んであげるまでは。

声が、聞こえる限りは。

 

 

頑張れ、る・・・。

でも、できれば・・・・・・はやく、きて・・・。

すー・・・ちゃ・・・。




刹那:
刹那です、お久しぶりです。
今回は魔法世界のお話では無いので、広報をお休みだそうです。
なので、今回と次回は旧来の形態になります。
えーと、私とこのちゃんの話は、大したことが無いので・・・今話ですね。
今回は、さよさんのしゅ・・・出産、と・・・瀬流彦先生の、2つの話が主軸に置かれるそうです。
それに、千雨さんも絡むようで・・・複雑化しそうですね。


今回登場の新キャラクターですが。
土御門 明楽:リード様提案。
ありがとうございます。


刹那:
さて、次回ですが・・・。
次回は、救出・収束編です。
誰が誰を救い、何を収束させるのか。
では、またどこかで・・・。

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