魔法世界興国物語~白き髪のアリア~   作:竜華零

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アフターストーリー第32話「京都異変」

Side 千草

 

旧世界の日本とかが例外的とは言え、こっちの世界もなかなかに物騒になってしもうたなぁ。

北の連合は完全に消滅して、代わりにウェスペルタティアを中心とする同君連合ができた。

かと思えば、南の帝国も分裂した。

 

 

うちらがおる新オスティアには混乱は見られへんけど、女王を狙う暗殺(テロ)の脅威は消えへん。

その女王である所のアリアはんがエリジウムから戻って来てから、1週間。

フェイトはんらは未だに行方不明、帝国の混乱は収拾する兆しがあるとは言え継続中。

おまけに最近の王国政府は選挙結果を笠に着てるんかは知らんけど、露骨に勢力拡大中やし。

 

 

「ほんま、最近は物騒になってしもうたねぇ」

「他人事かいな」

 

 

冷静に突っ込みを入れて来たんは小太郎、ほっぺのご飯粒を取ったりたくてウズウズするわ。

お茶碗片手に米(王国産コシヒ○リ)をかき込んどる所やから、どうせ意味無いけどな。

 

 

「アンタも気ぃつけてや。最近、またぞろ旧世界人(ウェテレース)排斥の空気になってきたからな」

「またかい、定期的に来るけどな」

 

 

最近は旧世界連合出資の企業も増えて来たから、魔法世界の企業との競合が激しくなってきとるから。

どっちも魔法世界人を雇用しとる企業やから、本質に差は無いんやけどなぁ。

たまに、魔法世界人の心無い連中が「旧世界人(ウェテレース)は帰れ」的な運動をするんよ。

旧世界連合大使館は、魔法世界での旧世界人(ウェテレース)の利益を保護するのが仕事やから。

その分、やっかみも多いんよ。

 

 

「月詠もやで、女の子なんやから気ぃ付けんと」

「うい~・・・でも最近、おかぁさんはうちがどんだけ強いか忘れとる気がしますえ」

「あんたも、まだ怪我治りきってないんやから」

「・・・うむ」

 

 

味噌汁片手にほんわかしとる月詠と、食事中に新聞を読むのをちっともやめてくれへんカゲタロウはん。

ほんで、お櫃の前でしゃもじ持っとるうち。

まぁ、いつもの朝の光景やけど。

 

 

「そう言えば、かぁちゃんは今日はえらいゆっくりやねんな?」

「うん? ああ、それがなぁ・・・」

 

 

小太郎からお茶碗を受け取って、3杯目のおかわりをしたりながら困った声でうちは答える。

ほんまなら、長経由でいろいろと言ってきて忙しいんやけどな。

 

 

「今、どうも向こうの方がゴタついてるらしくてなぁ」

 

 

なんでも、晴明様に縁のある日本各地の社やら結界やらが、軒並みおかしくなっとるらしくてな。

京都の晴明神社なんか、壊滅状態やて聞いとるんやけど・・・。

・・・何ぞ、あったんかなぁ?

 

 

 

 

 

Side 綾瀬夕映

 

『京都~、京都~、お降りの方はお忘れ物の無いように・・・』

 

 

ウトウトしてたですが、車内アナウンスで何とか起きれたです。

慌てて窓の外を見て、アナウンスが正しいことを確認。

それから、隣で眠りこけているハルナを起こしたです。

 

 

「・・・はっ、ハルナ、着いたです!」

「・・・もうちょっと寝かせてよ~、締切がマジでヤバくて・・・」

「出ちゃうですから!」

 

 

何とか新幹線が発射する前に、ハルナと荷物を車外に連れ出すことに成功したです。

えーと、お土産も無事でした。

東京ばな○、定番です。

 

 

「あっ・・・ぶな! うっかりと日本橋に行っちゃう所だったわ!」

「ハルナが起きないから・・・」

「あはは、メンゴメンゴ。でもマジで担当が厳しくってさ~」

「その話はもう20回は聞いたです・・・」

 

 

などと言う会話をしつつ、私とハルナはそれぞれの荷物を持ち直したです。

とは言え、1泊だけですから大した荷物では無いです。

 

 

「いやぁ~、京都! 中学の修学旅行以来じゃ無い? 高校はハワイだったし」

「そう、ですね・・・」

 

 

ここは、京都です。

中学生の時に修学旅行で来て以来の・・・。

 

 

「・・・あんまり、覚えて無いです」

「あはは、だよねだよね? 私もほとんど忘れててさ。まぁ、子供の頃の記憶なんてそんな物だよね」

「はぁ・・・」

 

 

・・・まぁ、ある程度なら忘れても仕方が無いですが。

でも私の場合、どうも・・・違うような気がするです。

所々、すっぽりと抜き取られてしまったような。

我ながら、アホなことを言ってるような気がするですが。

 

 

それに今回は、旅行に来たわけでは無いです。

今日は、同窓会に参加するために来たです。

発起人は、朝倉さんだと聞いてるですが・・・中学卒業から数年、同窓会には良い時期かもしれませんですね。

 

 

「皆、元気かなぁ~。のどかも来れば良いのにね」

「・・・そうですね」

 

 

のどかは、来ない。

とても残念に思う反面、どこか納得している自分がいるのは何故でしょう・・・。

結局、私はイギリスにものどかの実家にも行けずじまいで。

のどかのことは、相変わらず何もわからなくて・・・。

 

 

「・・・あ、アレってひょっとして?」

 

 

その時、ハルナが何かに気付いたように足を止めたです。

ハルナの視線を追うと、同じ新幹線だったのか・・・見覚えのある、正確には見覚えのある顔を若干成長させたような顔が2つ。

どちらも長い黒髪の、かなりの美人さんで・・・。

1人はおっとり笑顔、もう1人は凛とした表情の、あの人達は。

 

 

「木乃香! 刹那さ――んっ!」

 

 

ハルナの声に、2人はこちらを見て・・・。

小さく、微笑んだです。

 

 

 

 

 

Side 千雨

 

・・・ついに、来ちまったぜ。

時刻は14時55分、同窓会の開始時間まであと5分だ。

場所は、京都駅近くのちょっと洒落たお食事処。

 

 

年末とは言え、特にやることもねーし・・・まぁ、良いかなーとか思ったのが運の尽き。

雪広・・・いいんちょの家の店だってんで、タダで飲み食いできるって聞いたし。

あと、新幹線代も出るって話だったし・・・。

・・・いや、別に必死で理論武装してるわけじゃねぇよ!?

 

 

「こちらどす」

「うむ、どーもかたじけないアル・・・お?」

 

 

げ、誰か来やがっ・・・と思って、振り向いた瞬間。

やたらにでけぇ褐色の肌の女に、私は抱き締められた。

お、おおおぉぉおおぉ!?

 

 

「ちょ、おまっ・・・誰だてめコラッ!?」

「ひっさしぶりアルね~長谷川! 私よ私!」

「うっせ離せこのっ・・・って、お前・・・・・・古菲か?」

「うむ!」

 

 

えーと・・・10年ぶりくらいに、なるのか?

そこにいたのは、古菲・・・らしかった。

倍ぐらいに伸びたんじゃねーかってくらいの身長に、腰まで伸びた髪に活力に溢れた緑の瞳。

 

 

「あの、お客様・・・」

「あ、すいませんアル」

「見ろ、怒られたじゃねーか、相変わらずハズい奴だな、てめーは」

「うむうむ、長谷川もHPでは随分と・・・」

 

 

バカな、古菲がネットを扱えるようになっただと!?

・・・なんてバカなことを考えてる間に、古菲がさっさと同窓会の会場の部屋の扉を開けた。

そこには・・・。

 

 

「おおっ、古ではござらぬか? 久しぶりでござるな~」

「え? ・・・うおっ、でか!?」

「私達に対する挑戦と見た―――!」

 

 

麻帆良大学の名物、さんぽ部3人衆の長瀬と鳴滝姉妹。

鳴滝姉妹は、大学生のはずだが中学生にしか見えねぇ・・・。

 

 

「まったく、相変わらず騒がしい人達ですわね。もう大人ですのよ?」

 

―――楽しくて、良いですよ―――

 

 

そしてこれまた麻帆良大学の名物・・・最近は会社経営してるらしい、いいんちょこと雪広。

それと、麻帆良中の男のハートを撃ち抜いてると(ネットで)噂の四葉。

 

 

「『でこぴんロケット』とプロスポーツ組は流石に無理だったね~」

「皆、すっかり有名人だもんね~」

「うふふ、夏美ちゃんも番犬がついてるって有名よ?」

「・・・な、何言ってるんだよ・・・」

 

 

麻帆良スポーツに入社が決まったらしい朝倉と、保母になるらしい那波、普通な村上。

でも、村上の「普通」もかなり危なそうなんだよな・・・私的に。

 

 

ちなみに『でこぴんロケット』はメジャーデビューしたガールズバンドで、和泉、釘宮、柿崎、椎名の4人のこったな。

で、プロスポーツ組はアレだ、アメリカ留学中のバスケットの明石、水泳日本代表の大河内、新体操選手の佐々木のこと・・・本当に才能の塊みたいな連中だなオイ。

あと来てねーのは・・・向こう側の奴らか。

 

 

「あ、千雨ちゃんや」

「ごぶさたしてるです」

 

 

・・・で、最後に。

私や古菲のすぐ後に来た奴らなんだが・・・早乙女と綾瀬、近衛と桜咲。

確か早乙女は、漫画家になったんだったか。

 

 

えー・・・何て漫画だったかな、週刊誌に連載してる・・・。

・・・魔法先生○○○だったかな、実は記憶とかあるんじゃねーかコイツ。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

・・・晴明神社。

大陰陽師安倍晴明を祀る神社であり、京都の観光名所の一つ。

しかし裏の姿は、大陰陽師安倍晴明の神格化した魂の社。

 

 

京都を邪な存在から守護する重要な結界を構成する一部でもあり、日本統一連盟・・・特に旧関西呪術協会が管理する重要拠点の一つでもある。

しかし数週間前、突如としてこの場所の霊場に歪みが生じたのである。

原因は不明だが、何か強力で邪悪な力に侵されたことは明白だった。

そのために現在は閉鎖され、一般観光客は入れないことになっている。

 

 

「お・・・おい、何か変じゃないか?」

「晴明井の水が・・・!」

 

 

晴明神社には晴明井と呼ばれる井戸があり、これは安倍晴明の霊力に寄って無限に水が湧き出る物なのであるが・・・今、この井戸からは血のように赤い液体が溢れている。

結界の修復に当たっている陰陽師や、謎の爆発により吹き飛んだ境内を修復している旧関西呪術協会の人員が、怯えたような表情を見せている。

 

 

さらに・・・神社の最奥、安倍晴明の神格化した魂が収められている場所では・・・。

明らかに神では無い気配が、増大していた。

そしてそれは、次第に神社全体を覆うように広がって行く。

まるで、何かに反応するかのように。

 

 

「な・・・何だ、何だ!?」

「わからん、だが、このままでは市内にまで・・・!」

「な・・・何か来るぞ!」

 

 

霧のような気配を漂わせた、それは。

それは・・・。

 

 

―――――神だった。

 

 

 

 

 

Side 楓

 

ん~、中学生時代の仲間と会うのは久しぶりでござったが、良く考えてみると大半は麻帆良にいるのでござるな。

それで何故、京都なのか・・・・・・ん~、まぁ、良いでござるか。

 

 

麻帆良の店では新鮮味も無いでござるし、一部の都合もあったようでござるしな。

例えば、ガイドの仕事で古が関西にいる時に合わせたわけでござるし・・・最近は中国からの観光客が増える一方だとか。

・・・と言う話を、観光学の准教授が言っていたような気がするでござる。

 

 

「ぃよーしっ、もう一件行くよもう一件!」

「二次会ヒャッホ―――ッ!」

「おほほほ、では次はうちの系列の大人なバーにでも・・・・・・大丈夫ですわよね?」

「「ウチら、もうハタチ過ぎてるっつーの!」」

 

 

なはは、風香殿と史伽殿は元気でござるなぁ。

いいんちょ―――正確には「元」―――殿も、相変わらずのようでござるし。

まぁ、男の趣味は変わっていないらしいでござるが。

京都の往来で騒いでいると、どうにも昔が懐かしいでござるし・・・。

 

 

「それで、古はガイドの仕事はどうでござるか?」

「うむ! 先月は五○峰に2人連れて行ったアル!」

「マジでござるか」

「基本的に、秘境巡りは私の担当アルから・・・たまに熊とか大熊猫(パンダ)とか倒すアル」

 

 

国民的愛玩動物を・・・マジでござるか。

 

 

「現地人からすると、結構な猛獣アルよ?」

「ふむふむ、なるほど」

「楓は、ここ何年かは何をしていたアルか?」

「む? ふーむ、そうでござるなぁ」

 

 

史伽殿や風香殿とさんぽ部の活動をしたり、散歩の最中に妙な気配を匂わせる和装の青年に畑の作物を貰ったり、のんびりと学生生活をエンジョイしつつ修業の日々を送ったり・・・。

・・・まぁ、概ね満足な毎日でござったな。

 

 

「修業相手がいないのが、悩み所ではござるが」

「それは私も同じアル」

 

 

ん~、しかし探せば意外と・・・ふん?

ふと立ち止まって、キョロキョロとあたりを見渡す。

どうも古も何かを感じたのか・・・立ち止まっている。

しかし他のメンバーは特に何も・・・。

 

 

「・・・楓」

「刹那?」

 

 

その時、刹那が私達に近付いてきたでござる。

シャープなデザインの今風の衣服に身を包んだ刹那は、中学生の頃とは雰囲気が違うでござるな。

胸元にシルバーアクセなど下げて。

刹那は少し離れた位置の木乃香殿を示しつつ・・・。

 

 

「私とこのちゃんは、少し抜ける」

「む? 何か急用でござるか?」

「コンビニだ」

 

 

そう言って、刹那はくるりと背を向けたでござる。

それから、木乃香殿と・・・。

 

 

「わ・・・私も行くですっ!」

「おろ? 夕映殿?」

 

 

ぱたぱたと、夕映殿が刹那と木乃香殿の後を追った。

ん~・・・私がポリポリと頭を掻いていると、隣にいた古までもが。

 

 

「追いかけるアル! 夕映のことは任せるアルよ!」

「あ、古・・・・・・刹那と木乃香殿は放置宣言でござるか?」

 

 

あれよあれよと言う間に、4人も抜けたでござる。

まぁ、店の場所は知ってるでござ・・・知ってるでござるか?

後で携帯でどうとでもなるでござるか・・・と、思ったら。

 

 

「ああ? どうしたんだよアイツら」

「おお、長谷川殿」

 

 

相変わらず皆から数歩離れた位置にいた長谷川殿に、声をかけられたでござる。

うーむ、実は長谷川殿とのツーショットは学生時代でも無かった珍しい事態なのでは・・・。

 

 

 

 

 

Side 夕映

 

どうして追いかける気になったかは、わからないです。

でも、追いかければ「何か」がわかる気がしたです。

・・・「何」が? わからないです、でも。

 

 

ずっと求めていた「何か」・・・欠けていた、欠落している、本来なら私の中にあるべき「何か」。

あの2人を・・・木乃香さん達を追いかければ、「何か」。

「何か」が、どうにか、なるんじゃ無いかって・・・。

 

 

「・・・あ、れ?」

 

 

角を何度か曲がっている内に、見失ったです。

おかしいですね・・・確かこっちに・・・これは、完全に見失ったですか。

肩を落として、溜息を吐くです。

 

 

・・・仕方が無いです、戻るですか・・・いや、もう少し探してみるです。

何やら霧も出て来たようですが、ここまで来て。

知りたい、「何か」を。

もしかしたら、のどかのこととも関係が・・・。

 

 

「何してるアルか?」

「わひゃあっ!?」

 

 

いきなり後ろから肩を叩かれて、驚いたです。

慌てて振り向いてみれば、今や私よりも頭一つ大きい古菲さんが・・・って、古菲さん?

 

 

「ど、どうしてここに」

「どうしても何も・・・追いかけて来たアルよ」

「あ・・・木乃香さん達をですか」

「いや、むしろ夕映を」

 

 

わ、私ですか。

いや、私は木乃香さん達を追いかけて来たわけですが。

 

 

「・・・で、ここはどこアルか?」

「いや、どこも何も・・・え?」

 

 

霧・・・霧、深すぎです!?

京都市内で何故にこのような、目の前すら見えるか怪しい霧が出るですか。

関西では、霧がデフォですか・・・?

私は京都の飲食店街にいたはずなのに、周りには人っ子一人いません。

いえ、古菲さんがおりますですが。

 

 

「・・・何で、いるんですか・・・」

 

 

溜息と同時に漏れたような声が、聞こえたです。

振り向いてみれば、そこには私が探していた2人がいたです。

 

 

「やっほーやな、夕映」

 

 

木乃香さんが、ヒラヒラと手を振っていました。

呆れているのは桜咲さんだけで、こちらは相変わらずの謎な笑顔ですね。

と言うか、何でも何も・・・。

 

 

「なーなー、くーへ、コンビニってどこかなぁ?」

「いやぁ、私もさっぱりアルよ。清水寺周辺ならわかるアルが」

 

 

そして、ズレた会話を展開したです。

木乃香さんは無理そうなので、桜咲さんに声を・・・。

 

 

携帯電話の着信音。

 

 

古菲さんの携帯電話でした。

相手は・・・。

 

 

「おおっ、楓アルかー?」

「何で、通じるんですか・・・」

「ふむふむ、ふむふむー? ・・・ほぅほぅ、わかったアル」

 

 

いくつかの会話を経たらしい古菲さんは、あっさりとその携帯を桜咲さんに差し出したです。

どう言うわけか携帯が通じたことを不思議に思っていたらしい―――何故かはわかりませんが―――桜咲さんは、首を傾げながらも受け取りました。

それから・・・。

 

 

 

 

 

Side 古菲

 

いやはやはやはや・・・何とも、苦しい事態アル。

ここまで苦しいのは、瀬流彦先生の婚約を知った時以来。

まぁ、アレは別の種類の苦しさアルが。

 

 

「ああ、うん、こっちで良いんだな・・・・・・楓?」

 

 

私の前を歩いてる刹那の手には、私の携帯電話が握られているアル。

でも相手は、たぶん楓じゃないアルね。

楓の声には違いないアルが、楓じゃない。

 

 

難しい理屈はわからないアルが、刹那も相手が楓じゃ無いことはわかってると思うアル。

むしろ、今の問題は・・・。

 

 

「木乃香さんは、もしかして現在の状況を理解しているのでは無いですか?」

「うーん、さっぱりやねぇ」

「では、どうして急にコンビニなどと・・・」

「ご当地グッズが欲しかっただけやえ?」

「な、何故に今のタイミングでそんな・・・」

「今さっき、思い出したんやもん」

 

 

木乃香に纏わりついてる、夕映の方アルか。

確か、ネギ坊主関連の記憶は消されたはずアルが。

私は、消されて無いアル・・・卒業式のあの日から、誰にも話してない。

 

 

・・・監視もついてるアルしな。

でも今は、その監視の気配もしないアルね。

むしろ、この霧に包まれた空間は何アルか。

もう随分と歩いたはず・・・けど、さっぱり先が見えない。

 

 

「・・・ここか、楓」

 

 

ふと、刹那が足を止めた。

そこは、石の階段がある場所で・・・おお、看板がある、どれどれ。

えー・・・晴明神社?

 

 

・・・いやいや、歩いて来れる距離じゃ無いアルよ。

ついでに言えば、早く到着し過ぎアル。

 

 

「・・・引き寄せられた。どうすれば良い? うん・・・うん、いや、わかりやすくて良い。ああ・・・じゃあな」

 

 

パタンッ、と携帯電話を閉じて、刹那は私達の方を向いた。

その際、私に携帯電話を返してくれるアル。

 

 

「ありがとう、助かった」

「うむうむ・・・で、お参りでもするアルか?」

「・・・そうやね、ならうちとせっちゃんだけで行ってくるわ」

 

 

何と、マジアルか。

冗談で言ったら真実だったパターン、なるほど、わかるアルよ。

 

 

「え、いや、この状況で離れるのは・・・」

「夕映ちゃん」

「は?」

「・・・野暮はメッ、やえ?」

「・・・はぁ?」

 

 

・・・関係の無い話アルが、晴明神社は赤ん坊の名前を決める井戸があるネ。

人呼んで「名付けの神様」・・・らしい。

ああ、いや、そこの看板に書いてあるよ?

 

 

「え、ええ? それがいったい、今の状況と何の関係が!?」

「いや、混乱させるつもりは無かったアルが。まぁ、ここで大人しく待ってるアルよ」

「はぁ・・・いや、おかしいでしょう!?」

 

 

え、いや、ちょ・・・。

 

 

「・・・やっぱり、追いかけるです!」

「あ・・・ちょ、待つアルよ!?」

 

 

夕映は、神社の中に入って行った刹那達を追いかけて行ったアル。

み、妙な所で行動派なのは今も変わって無いアルね・・・!

と言うわけで、なし崩し的に私も・・・って、マジアルか。

いつかのパターンアルよ、コレ。

 

 

 

 

 

Side 木乃香

 

晴明神社・・・まぁ、端的に言えばうちのお師匠様の本拠地なんやけど。

京都についてからと言う物、何かに呼ばれてる感覚はあった。

うちの生まれとか今の力とか考えたら、何かに呼ばれるのはむしろ普通なことなんやけど。

 

 

「何も、コンビニに行くタイミングで攫わんでもええやん、晴明ちゃん(おししょうさま)・・・」

「このちゃん、最近コンビニグッズにハマってますからね」

 

 

うちの横で、せっちゃんが笑う。

それにうちも笑顔を浮かべて、霧で囲まれた境内の中を進む。

別に道に迷ったりはせぇへんよ。

呼ばれる声について行けばええだけやから。

 

 

『おお、おお・・・藤原の姫か・・・』

 

 

藤原の姫・・・まぁ、うちの血筋からすると不思議やないけど。

でも、その呼び方はやめて欲しいわ・・・晴明ちゃん。

 

 

『どうやら、他にも何人かおるようじゃが・・・まぁ、姫さえ食えれば良し』

 

 

その言葉だけで、晴明ちゃんがおかしくなっているのがわかる。

気配だけで、全てがおかしいのがわかる。

・・・隔絶されてしもとる空間や言うのが、わかる。

 

 

肌にチリチリと来るこの霊力は、晴明ちゃんの結界。

数年前は、毎日のように感じとった霊力。

神通力。

魔を退ける存在のそれには、今はどうしてか魔が混ざってる。

 

 

『・・・可哀想なうち』

 

 

その時、霧の中から女の子が現れる。

長い艶やかな黒髪の、和装の女の子。

昔のうちやった。

 

 

『お爺様にもお父様にも騙されて、せっちゃんまで知らずに利用して・・・最後には自分の都合で全てを割り切ったうち。本当に可哀想・・・哀れで儚い、うち』

 

 

・・・懐から、符を抜く。

晴明ちゃんが、教えてくれたことやえ?

 

 

『うちがせっちゃんを見る目と、せっちゃんがうちを見る目は違うってわかってるのに・・・どうにもできない、我儘で情けない、矮小なうち・・・あの時も』

「・・・」

『「あの人」と契約したあの時も、本当はせっちゃんのことなんて』

 

 

符を一枚、唇に当てて。

うちは、祝詞を紡ぐ。

それはうちとせっちゃんの、神聖な契約の証・・・。

 

 

 

「『汝、魔ヲ断ツ剣トナリテ―――――』」

 

 

 

瞬間、背後からうちを白い翼が包み込んだ。

この白い羽根は、全てがうちのモノ。

そしてうちは・・・貴女のモノ。

 

 

・・・晴明ちゃんが、教えてくれたことやえ?

化生の類の話は、一切、無視。

取り込まれるな、取り込め・・・それが。

化生を御するモノ、陰陽師。

 

 

 

 

 

Side 夕映

 

な、何が起こったですか?

気が付けば深い霧に包まれて、視界が・・・他の3人は?

 

 

『んん・・・? 藤原の姫だけを呼んだつもりじゃったが・・・迷い人か?』

「え・・・?」

『ふむふむ、まぁ・・・タシにはなろうの』

 

 

・・・声が、したです。

いくつもの声が重なり合っているかのような、不思議な声が。

そして同時に、霧も周囲が見通せない程に深く・・・と、都市部でこんな霧が、急にどうして・・・。

 

 

『良い感じの、淀み具合じゃ』

「は・・・?」

 

 

不意に、目の前に人が現れたです。

その人は、女性です。

長い黒髪の、おさげを二つ後ろに垂らして横髪を三つ編みにした・・・それは。

 

 

それは、昔の私でした。

ただ一つ違うのは、血のように赤い・・・赤い、両目だけで。

 

 

『・・・可哀想な私』

「え・・・」

『あるべき物を奪われて、いるべき人を失って・・・そしてそれにも気付いていない、哀れで弱く、儚い私・・・』

 

 

な、何の話です・・・?

と言うか、目の前の私は、誰。

良くはわかりませんが、でも目の前の私が言った次の言葉だけは、容認できませんでした。

 

 

 

『本当は、のどかのことなんてどうでも良いくせに』

 

 

 

・・・!

 

 

「ち・・・違う! 私は、のどかのことが心配で・・・」

『のどかだけが「向こう側」に行けるのが許せなかった。のどかだけが「新たな知識」を得ることができるのが許せなかった。のどかだけが「退屈な毎日」から抜け出せるのが許せなかった・・・』

「違う・・・違う」

 

 

それは違うです。

私はのどかが妬ましかったんじゃ無い。

あの時、祖父を亡くした私に新しい光と時間をくれた、のどか。

私は、のどかのことが本当に大切で。

 

 

『だから嘘を吐いた。「あの人」から引き離して、自分の傍に置こうとした。のどかのためなんかじゃない、私は私のためにのどかを「こちら側」に引き戻そうとした』

「な、何の・・・何の話を」

『貴女の話を』

 

 

わ・・・私の、話?

そんなはずは、私はのどかに嘘を吐いたことなど、何も。

あれ・・・でも、じゃあ、どうして。

 

 

『選ばれたのがのどかでは無く私だったら、私はのどかのことを放って行ったのに』

「ち、ちがっ・・・」

『だって本当はのどかのことなんか、どうだって良かったから。危険と冒険に満ちた「ファンタジーの世界」に行きたかっただけ。退屈な日常に嫌気がさしていただけ』

 

 

違う、それは絶対に違う。

私は、そんな・・・のどかの気持ちを踏み躙るような、裏切りのような真似、絶対。

 

 

<・・・ゆえ・・・?>

 

 

頭に響くのは、「あの時」ののどかの声。

・・・「あの時」?

そんな時は、無かったはず・・・なのに。

 

 

私、いったい、何を・・・「何か」、忘れてる?

ワタシ、ナニカワスレテル?

 

 

『のどかなんかどうだって良い、退屈な毎日なんてウンザリ、もっと楽しい世界があっても良いのに!』

「やめ・・・やめて、やめてよ・・・」

『のどかが憎い! のどかが嫌い! のどかが許せない―――我慢ならない! のどかなんて・・・』

「やめてえええええええええええええぇぇぇ・・・っっ!!」

『のどかなんて・・・消えれば良いのに!!』

 

 

とすん・・・と、その場に膝をつくです。

頭を抱えて、耳を塞いで。

こんな・・・こんなの、私じゃ無い、本心じゃ。

 

 

「貴女は・・・誰ですか」

『私は貴女』

「・・・違う」

『違わない、認めれば楽になるのに』

 

 

くんっ・・・と、昔の私が私の顎に指をかけて、上向かせます。

私は・・・何もできない。

 

 

『その証拠に・・・私達は、ひとつになれる』

 

 

ゆっくりと、幼い私の顔が近付いて。

頬にかかる小さな指は、本当に昔の私の物で。

私、私は・・・。

眠るように、目を。

 

 

 

――――汝、魔ヲ断ツ剣トナリテ――――

 

 

 

次の瞬間、硝子の割れるような音と共に、世界が壊れたです。

ゆっくりと・・・薄れゆく意識の中で私が見たのは・・・。

 

 

白い翼と、それに守られる誰か。

・・・のどか、私・・・貴女を、本当に。

・・・・・・ごめんなさい・・・・・・。

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

『錬金鋼』――――かつて先生から頂いた、可変金属(まほうぐ)。

麻帆良と違って自由に刀を持ち歩けないので、普段はこれをシルバーアクセサリーとして身に着けている。

それがグニャリ、と瞬時に形を変えて小刀(ナイフ)になる。

 

 

「御免」

 

 

呟きと共に、小刀を振るう。

刃の長さは大したことは無いが、「気」を乗せれば別だ。

龍宮では無いが・・・神鳴流に、苦手な距離は無い。

 

 

神鳴流奥義:『斬魔剣・弐の太刀』。

 

 

普通であれば斬れない晴明様の結界も、今や魔が混じっている。

魔なるモノが相手であれば、私に斬れないモノは無い。

我は、近衛木乃香の「魔を断つ剣」。

 

 

「・・・晴明ちゃん、やね?」

『おお、藤原の姫か』

 

 

硝子の砕けるような音と共に、霧の姿をした結界が壊れる。

現れたのは神社の境内、晴明様の井戸の前。

井戸に腰掛けるような形で、陰陽師の格好をした若い男性がこちらを見ている。

平安の大陰陽師・安倍晴明様。

 

 

「このちゃん」

「うん・・・あの影やね、余分な影を斬ってや、せっちゃん」

「委細、承知」

 

 

ばさっ・・・破魔の翼でこのちゃんを背中に隠し、前に出る。

神であるはずの晴明様、しかし今は魔なるモノに犯されている。

それは、ローマ数字で3番目と刻まれた魔なるモノ。

晴明様の陰に取り付いているそれを・・・。

 

 

「・・・斬る」

『おお、羽根娘か・・・すまぬが、食われておくれ』

 

 

晴明様が腕を振るうと、その影から何かが出てくる。

それは、7体の西洋人形のような形をしていた。

羽根が生えていたり、挟のような物を持っていたり・・・どこかで見覚えがあるな。

 

 

いずれにせよ、強力な式神のような物と見た。

私が飛び出すと、7つの方向から飛びかかってくる。

晴明様の式神にしては・・・遅い。

―――――素子様直伝、神鳴流・・・。

 

 

「『飛燕抜刀霞斬り』」

 

 

ぐにゃり、小刀の金属が二つに割れて・・・薄く細い二刀に。

・・・シャンッ!

涼やかな音と共に、西洋人形達の獲物を砕く。

神鳴流・・・。

 

 

「『斬魔剣・弐の太刀・百花繚乱』」

 

 

・・・西洋人形の形をした影を、斬り伏せる。

私が斬り抜けるだけではダメだ、このちゃんに通さないことが肝要なのだから。

そして斬り抜けた後、問題が発生する。

 

 

晴明様が発されたのであろう呪が、目前に迫っていた。

回避はできない、このちゃんに呪が及ぶ。

影を斬った直後で回避もできない、受けて耐えるしかない。

そう、私が覚悟を決めた瞬間。

 

 

「『我、汝の盾トナリテ――――』」

 

 

私の前に、別の呪力が顕現する。

このちゃんの呪力が、私を守る。

 

 

「3秒しか保たへんえ!」

「・・・『斬魔剣』!」

 

 

素子様、直伝!

 

 

「『弐の太刀・一閃』!」

 

 

このちゃんが止めた呪力ごと・・・晴明様に取り付いている影を斬る!

鋭く絞った気を斬撃として飛ばし、魔なるモノのみ斬り離す。

 

 

『ギエエエエエエエエッ!?』

 

 

甲高い悲鳴を上げて、晴明様の霊体から何か黒いモノが離れる。

それは空中に飛び出し、対流したかと思うと・・・このちゃんに向かって・・・!

 

 

『カラダ、ヨコセエエエエエエエエッ!!』

「ひゃっ・・・!?」

「このちゃん!!」

 

 

境内を壊す勢いで、跳躍する。

跳びながら身体を捻り、空中で姿勢を整え、小刀をもう一度一つにまとめて腰だめに構える。

・・・素子様直伝、神鳴流奥義!

 

 

「『滅殺斬空――――斬魔剣』!!

 

 

私の「気」力の全てを刃に練り込み、斬撃として放つ。

神鳴流奥義にして・・・青山素子様、最強の剣。

宗家の・・・剣!

 

 

このちゃんに向かった影のような魔なるモノを、両断する。

両断して、追い抜き・・・このちゃんの腰に手を回し、離れる。

ざざっ・・・と砂利を踏みしめて、きんっ、と『錬金鋼』を元の形に戻す。

羽根を翻し、このちゃんを包み込む。

 

 

「・・・あったかい」

 

 

このちゃんの言葉に、私は笑みを浮かべる。

どうして晴明様がああなって、こうしてこのちゃんを呼んだのかはわからないが。

・・・今回も、どうにか守れたようだった。

 

 

 

 

 

Side 木乃香

 

『いやぁ、何か急に分体から嫌なモノが流れてきおっての』

 

 

良くない物を落とした後の晴明ちゃんは、妙にフランクやった。

せっちゃんが倒れとった夕映を下に運んでる間に、うちは大体の事情を晴明ちゃん(本体)から聞いた。

晴明ちゃんが言うには、「3番目(トレイス)」とか言う「嫌なモノ」らしい。

どうも、向こう側・・・アリア先生絡みの話とか。

 

 

・・・懐かしい、な。

でも、もう会うことも無いやろうけど。

 

 

『分体の記憶ごと滅するのも雅では無いと思っておったらば、迷惑をかけたようじゃの』

「うちらは、まぁ・・・ええけど」

『霧に飲まれた陰陽師達は、我の方で現世に戻しておくからの。いや、食う前で本当に良かった』

 

 

最後に怖いことをサラリと言って、晴明ちゃんはカラカラと笑った。

・・・あの中にずっとおるってそれ、大丈夫なん?

・・・まぁ、ええけど。

晴明ちゃんによると、うちが知っとるアリア先生の所の分体は、そのうち直すとか言ってたえ。

はよぅ、戻れるとええなぁ・・・。

 

 

「おお、本当に無事アル」

「当たり前だ」

 

 

神社の外に出ると、せっちゃんとくーへが待っとった。

くーへがうちを見て驚いて、せっちゃんがそれに不機嫌になる。

夕映は、せっちゃんに背負われとる・・・ちょっと羨ましい。

まぁ、それはええけど・・・。

 

 

「お参りは終わったアルか?」

「うん、コンビニは今度でええわ」

「そうですね、皆も待ってるでしょうし・・・」

 

 

夕映は・・・まぁ、疲れってことにしよか。

麻帆良の記憶処理、不味い方向に歪んでるようにも思うけど・・・うちには治せへんし。

記憶を戻すわけにもいかへんから・・・。

 

 

・・・まぁ、正直、それはうちがやらなあかんことや無い。

麻帆良側の、そして夕映の問題やから。

 

 

「おお、そう言えば2人は就職したアルか?」

「ああ・・・まぁ」

「一緒の会社とかアルか?」

「いや・・・別々の所だ」

 

 

・・・せっちゃんは、最近は何でもうちと一緒にしようとはせぇへんようになった。

バイトも別やったし、就職先も別や。

常に一緒におらなうちを守れへん時期を過ぎた言うのもあるけど、一番は・・・。

 

 

うちの傍におるのが全てや無いって、思えるようになったんや無いかな。

寂しいけど、ええことやと思う。

いつまでも・・・何もかもが変わらへんわけには、いかへんから。

 

 

「このちゃん」

「はい?」

「行きましょう」

「・・・んっ♪」

 

 

それでも、ずっと一緒。

うちとせっちゃんは・・・そんな感じや。

 

 

「あ、やっと来たー!」

「遅いよ~・・・って、何で夕映ちゃん寝てるの?」

「あはは・・・あ、千雨ちゃん」

「・・・あ?」

 

 

今度こそ本当の楓に電話して、二次会の場所を聞いて。

・・・諸事情で、結構遠かったけど。

とにかく、皆と合流や。

それから・・・。

 

 

「ありがとうな」

「・・・はぁ? 何でお礼言われるのか意味わかんねーし」

 

 

千雨ちゃんは、顔を赤くしてそっぽ向いた。

顔が赤いんは、たぶんバーのお酒のせいやないんやろうなぁ、なんて。

うちは、そう思ったえ。

 

 

 

 

 

Side 詠春

 

安倍晴明に縁のある各地の結界が、急激に安定を取り戻している。

年末のある朝、麻帆良にいる私の下には同じような報告が寄せられていました。

・・・突然不安定になって、突然安定すると言うのは、いったい何が?

 

 

事態の収拾に関わった陰陽師達は、全員が肝心の部分の記憶を消されていると聞いています。

ただ一つの例外は、麻帆良にある例の「社」だけですが・・・。

しかし、そこは不可侵地帯ですから。

 

 

「いずれにせよ、中国やアメリカの協会につけ込まれる前に事態を収拾できて良かった」

 

 

最近は旧世界連合内にも、日本の台頭を抑制しようとする動きがありますからね。

まぁ、ゲートの独占と未来技術の占有・・・魔法世界におけるウェスペルタティアと旧世界における日本統一連盟は、実は似たような理由でそれぞれ地位を保っている。

 

 

ウェスペルタティアは旧連合諸国、日本統一連盟は中東・欧州・南米・アフリカの協会をとりまとめることで国際的地位を保っていて・・・ここも似ている。

合弁企業も増加の一途を辿り、そこで得られる利益がそれぞれの資金力の支えである点も共通している。

そう言う意味では、ウェスペルタティアは日本統一連盟の運命共同体と言うことになりますか。

 

 

「まぁ、ここ数週間は関西の結界の揺らぎに対処したりで干渉の度合いを下げていましたが・・・」

 

 

それでも、千草さんからの定期レポートには目を通しています。

これは、旧世界連合に提出している大使報告書とは別のレポートです。

端的に言えば、こちらの方が重要。

 

 

今、私が読んでいるのもそれですし・・・。

・・・ウェスペルタティア女王が魔法世界時間2月1日に議会を開き、最初の決議において軍備拡張を宣言する、とか。

女王艦隊(ロイヤル・ネイビー)拡張計画―――――すでに旧世界連合の経済技術部との契約で、250万ドラクマで戦艦10隻・巡航艦38隻を中心とする艦隊増強分の資材・精霊炉の生産がスタートしています。

 

 

「それをどう使うかは、アリア君次第か・・・」

 

 

かつてはあちら側で戦争を止めた身としては、なかなかに複雑ではあるわけですが。

しかしもう、私があちら側のことでとやかく言う時代は過ぎた。

立場もあるし・・・それに。

 

 

「・・・」

 

 

目を閉じて想うのは、誰か。

互いに意識的に避け合っている以上、会えるはずも無い。

陰ながらの援助も、必要なくなる時が来るのだろうか。

 

 

巣立ちと言うのは、寂しい物ですね。

ナギも・・・同じような気持ちなのでしょうか。




長谷川千雨:
・・・はぁ? 何でお礼言われなきゃいけねーのか意味わかんねーし。
私は何もしてねーし、道に迷ったバカをナビしただけだし。
私は、今回の話にはまったく関係ねーし。
・・・な、何だよ、その目は。
そ、そんな目で・・・見んなよ。


長谷川千雨:
ったく・・・あー、アレだ、次回予告。
次回は、王道だ、王道。
・・・意味不明な予告だが、気にすんな。
じゃ、縁が合えばまた会おうぜ。

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