ハイスクールR・D(レッド・デーモン)   作:ハクハク再モン

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どうも、初めましての方は初めまして。
「あれ?コイツって遊戯王書いてたアイツじゃね?」という方はお久しぶりです。
ハクハクモン改め、ハクハク再モンです。
長いことここから離れてしまっていた私ですが、ようやっと戻れた意味でもこの作品を投稿します。
え?もう待ってない…?ハハハ…(泣


前編

 それは燃え盛る炎のなかから現れる竜ーーー。王道たる主人公ではなく、そのライバルに位置する人物の象徴として時には鎧を身に纏い、時には禍々しい姿へと変じ、ついには“紅”をーーー“災厄”をーーー“暴君”の名を冠し、その圧倒的な力を見せつけてきた。誰の指図を受けることなく己の信ずる道を行く、そんな唯我独尊を地でいく男の象徴は多くの有志に気に入られ様々な形で愛されていた。

 その有志の一人である“彼”もビジュアルも含めて気に入った口で、多くの関連カードを集め続けてきた。元は対戦型のカードゲームにおける数多のなかにおけるただのカードに過ぎない。言ってしまえば、トランプなどと同じ娯楽を目的としてつくられた存在である。

 しかし、もしそのカードを通じて自分が知る“別の世界”へと行けるのだとしたら。雄々しくひた進むか、それとも……。果たして“彼”の双眸にはその世界がどう映るのだろうかーーー。

 

◇◆◇◆◇◆

 

 春の桜が咲き乱れるこの季節、ここ駒王学園は新学期を迎えた。去年に新入生として入学した生徒たちは二学年となり、新たに入学した生徒たちから見ての先輩となる。また二学年だった先輩たちも三学年となり、高校生最後の一年がスタートする。それぞれが思い思いの学園生活を営む季節が巡ってきたのだ。

 校内が生徒同士の挨拶やら世間話に溢れるなか、新しく学ぶ場所である教室に足を運ぶ。黒板にはそれぞれの生徒がつくべき席が指定されている紙が貼られており、自分は一番窓際に近い後ろから二番目の席であることを確認し席についた。ここから窓の外へと目を向ければ校門を彩る桜が覗けるようで、なかなかいい席につけたようだ。

 外の景色を眺めていれば、「よう蓮!」と自分の名を呼ぶ声が耳に入る。もはや声だけでも誰が来たかはわかるくらいにそいつの声は聞き飽きている。一応と確認の意味でも視界を向ければ、この学園において有名な三人がいつも通りの様相で揃って立っていた。

 

「二年になっても俺たち四人が同じクラスとは、運命を感じずにはいられないぜ…。そう思わないか兄弟?」

「いや。まったく思わん」

「そんな照れんなって!俺たちはちゃんとお前のことを兄弟にも等しいヤツだって思ってるんだからさ!」

「いや。思わなくていい」

 

 一人を除いたメガネと丸坊主、松田と元浜が朝っぱらからアッパーテンションで語りかけてきた。この二人に同類扱いされるとかたまったもんじゃない。ちなみに何のことかというとーーー。

 

「それよりお前ら、まだ朝だというのになんでそんなボロボロなんだよ。ドラグ・ソボールごっこでもしてきたのか」

 

 この三人の制服……それはもうあからさまにボロボロだった。最初は何事かと驚きはしていたが、三人の所業が明らかとなればそれも納得せざるを得なかった。

 

「俺たちはただ男子が持つ思春期特有の衝動を解放しているだけなんだ…!だとというのに、女子が理解してくれないこの現実の厳しさよ…」

「いつも通り女子の着替えを覗いてたと正直に言えよ…。変な言い回ししてるから、女子から余計に敵視されるんだ」

 

 最後の一人、三人組のリーダーとも言える男ーーー兵藤一誠が無念そうにボヤく。高校生ぐらいの歳ごろとなれば性に興味を向けるのは致し方ないとは思うが、それを全面的に押し出していくのはどうかと思うんだが。

 この三人こそが、性に貪欲であることから女子を対象にしょっちゅう問題を起こすことで知られる“変態三人組”である。覗きはもちろんエロ本やDVDを持ち寄ってのエロ談義などを平然とやってのけるツワモノたちだ。ーーーまぁ男子限定の“高校生あるある”だろう。

 

 「まったく相変わらずスカしてるな蓮。だがお前の牙城も今日この時をもって崩れることとなる…!」

 

 これを見ろォ‼︎と叫びながら、元浜が鞄から取り出し俺の目の前に何かを叩きつける。俺は松田が叩きつけたブツに視線だけを送ってみるとそこには、たわわに実った果実を惜しげもなく見せる教師風の女優がパッケージ中央に陣取ったーーー。どう見てもエロDVDです。本当にありがとうございました。

 

「元浜お前……これ…‼︎」

「ふっ……蓮のスカした仮面を引っぺがすために独自のルートを使って仕入れた、オッパイ紳士垂涎のレア物だ。俺はイッセーみたいなオッパイ好きじゃないけどな……知ってるんだぜ蓮。……お前もホントはオッパイが……いや、女の子が好きなんだってことがな‼︎」

 

 取り出されたブツにワナワナと震えている兵藤と松田、そして刑事が犯人に決定的な証拠を突きつけるかのように詰め寄ってくる元浜。その剣幕に周りにいた生徒がこっちを遠巻きに様子見、女子にいたってはなにかヒソヒソと話している。ある意味ただならぬ雰囲気に包まれたこの教室の空気は窓を開けているにも関わらず良くなる気配がない。……とりあえずこの空気をなんとかしないとな。

 元浜の言いがかりにも近い言及に返すことなく、そのDVDを手に取る。兵藤と松田は、ついに攻略か?と成り行きを静かに見守っていた。

 

「なに恥じることはない。蓮もこれからは俺たちと一緒に、健全な青少年のリビドーに素直になるだけのことだ」

 

 観念しろと言いたげに元浜はメガネを光らせた。そんなヤツに、DVDのパッケージを凝視していた俺はーーーそれを元浜に突き返しそうとしたところで、ひょいと横から取り上げられた。

 

「ふぅ〜ん。確かに胸は大きいわね……。竜胆ってこいうのが好みなの?」

 

 眼鏡を通してパッケージの表と裏を交互に見てそう問いかけてきたのは、駒王学園において兵藤を始めとした変態三人組を敵視していない稀有な存在である桐生藍華だった。ちなみに竜胆というのは俺の性で、名を合わせて“竜胆蓮”というのが俺のフルネームだ。

 

「お、おい桐生!それは俺たちが学校から帰って見るものなんだから、丁重に扱えよ!」

「それを手に入れるのに俺は多くの(モノ)を失ったんだ…!壊したりしたらタダじゃおかんぞぉ‼︎」

「あの魔乳と呼ばれた乳を心ゆくまで堪能するのは俺たちに課せられた義務…!この眼に焼きつけておかねば、俺は……俺たちは死んでも死にきれないんだァ‼︎」

 

 思春期男子の悲痛な叫びが教室に響き渡った。三人の気持ちがわからなくもないのが何とも言えないが、周りの視線はもう白を通り越そうとせんばかりに白々しい。そんな冷たい空気もお構いなしに三人が盛り上がるなか、ようやくホームルーム開始のチャイムが鳴り始めた。DVDを元浜に投げ返す桐生を始めとして、次々と生徒が席に座っていく。兵藤が席に戻りがてら「学校終わったら一緒に見ようぜ!」と誘ってきたのを耳にした俺は、あるひとつの事実に悩まされた。

 

(あの女優の胸、シリコン詰めたニセモノだって教えるべきなのだろうか……)

 

〜〜〜〜〜〜

 

 始業式の日は午前で終わる学校がほとんどだろうが、それは駒王学園も例外ではない。長ったらしい始業式とその後のホームルームさえ終わってしまえば俺たち生徒はさっさと帰るか、部活動に入っているなら部活へと赴くかのどちらかとなる。

 ちなみにあの変態三人は体育館の女子更衣室へと向かっていったのを見るに、また覗きでもしに行ったのだろう。ーーー現に見つかって追っかけられているのが女子の怒号で丸わかりなんだものなぁ。それでまた反省文書かされる、と……もはや日常の一部になるつつあっていたって平和である。

 

「くそ〜…女子め、手加減なしで攻撃してきやがって……」

「着替えを見られたぐらいであんな敵意剥き出しにするかフツー…!」

「お前たちはそろそろ女子に殺されても文句を言えない立場になりつつあるということを自覚しろよ…」

 

 ようやく教師の説教と反省文から解放された三人のうち松田と元浜が逆ギレに近い言葉をブツブツとボヤく。完全に自業自得だというのに反省の色がないのは今に始まったことではないので、片手間に相槌をうち続ける。こいつら逆にマジメになりさえすれば普通にイケると思うんだがなぁ……残念でならない。

 

「ーーーお⁉︎おい、あれ‼︎」

「ぁん?なんだよーーーって!あれは…“二大お姉様”じゃねーか‼︎」

 

 松田と兵藤の視線の先ーーー昇降口前にいた二人の女子を見て、松田と兵藤だけでなく元浜もテンションが一気にあがった。その二人というのは、この駒王学園において兵藤が口にしたように“二大お姉様”として男女問わず人気を博す三年生のことだ。赤く長い髪と整った顔立ちに、誰にでも分け隔てなく優しく接するリアス・グレモリーと、艶のある黒髪をポニーテールにまとめた年上の雰囲気を醸し出す正統派大和撫子と賛美される姫島朱乃。その圧倒的な美貌で周囲から羨望の眼差しを受けている彼女たちが、自分たちの視線の先にいるのだ。

 

「相変わらず先輩がたは美しいな……」

「もう見てるだけで傷ついた心が癒されていくぜ……」

「美しいのもそうだが胸も立派なもんだぜ…!なんとかしてお近づきになれないものか…!」

 

 ダメだこいつら……ついさっき痛い目にあったというのにちっとも懲りてない。周りの生徒からは先輩が穢れるだのなんだの囁かれているというのに、さすが思春期男子の性欲に忠実なだけはある。一方の先輩がたはこちらに気づくことなく、昇降口から姿を消してしまった。その歩いていった方向から察するに、校門へ向かったわけではないみたいだが。

 

「なぁ。先輩たちが行った方向って、もしかしてオカルト研究部の部室があるところか?」

「あぁ。あのお姉様がたがオカルトに興味があるようには見えないけどな〜。まぁグレモリー先輩はわからなくもないけど、姫島先輩はちょっと想像つかないっていうか……」

 

 松田と元浜だけでなく兵藤も加わってオカルト研究部と二大お姉様の繋がりにうんうんと唸る三人。知りたいならオカルト研究部に行ってこいと言うこともできたが、そうするとただでさえ低いこいつらの名声がさらに落ちることもなくはない為に断念せざるを得なかった。さすがにあの二人にまで嫌われようものならもう見てられないからな。

 結局、「そんなミステリアスなところもいい!」という結論に落ち着いたところで俺たちは下校した。その下校途中も終始件のDVDを勧められっぱなしだったのが面倒だったので、仕方なしに松田の家で鑑賞会を開くことになったが、猿のように興奮していた三人とは対照的に俺は一貫して興奮することはなかった。やっぱり天然物には叶わないな、うん。

 

〜〜〜〜〜〜

 

 鑑賞会を終えた時、空は少しずつ茜色に染まり始めていた。カァカァと鳴きながら飛んで行くカラスをBGMに、各々の家路へとつく子供たちとすれ違い自分の家へと辿り着く。玄関のドアを開ければ外の茜色が家の中に差し込み生気のない廊下を赤く染め上げているなか、さっさと家に入る。

 リビングに入る間際に「ただいま」と一言告げるが、生気のないリビングから「お帰り」という返事はない。廊下同様、少し薄暗いリビングには誰の姿もないからだ。もう慣れたことと気にすることもなく、鞄をソファに放り投げてドカッと座り込む。自分以外に誰もいないリビングに再び静寂が訪れ、まるで外界から隔絶されたかのような錯覚に陥りそうになる。

 

 ーーー自分には両親と呼べるものがいない。物心……と言うより、()()()()()()()()()()()()その時から両親という存在が自分の側にいなかったのだ。今いる家も、自分の両親が使っていたものだというのを維持していた親戚から教えられた。このようなおかしな言い回しをした最たる理由としては何を隠そう、自分が“転生者”というライトノベルよろしくな存在だからである。

 ーーー人間いつ死ぬかなんてわかるわけがない。普段通りの帰り道、軽トラックに轢かれかけたのをギリギリで避けられたと思ったら、その荷台に積まれていた物が落ちてきた……なんてぬか喜びもいいところだ。結局それの打ち所が悪かったらしく意識はアッサリとなくなったんだが、次に気づいたら自身を神と名乗るどこぞの閻魔様によく似た太ましいオッサンが出てきたわけで。まあ自分が死んだっていうのはあの経験したことのない激痛で理解できた。

 それでとりあえず天国に行くのか地獄に落ちるのか、と聞いてみれば、そっちのけで自分の人生をダメだしし始めた。曰く、「どうして恋人をつくらなかったの?」と。

 ーーー思わずはっ倒したくもなる。あんな間延びした声でそんなこと言われようものならな。しかも勝手に不憫に思ったらしく、「君さえ良ければ女の子と仲良くなれる世界に転生させてあげるよ!」だなんて余計な気遣いをまわしてくる始末。おまけとして与えられた、俗に言う特典についてはそれなりに知識があったからその点は感謝したが、アンタの振る舞いに隣にいたおそらく秘書の人、すごい顔してたぞ……。

 自称“神”のオッサンによって転生した先は『ハイスクールDxD』という、ライトノベルのひとつとして知られていた世界。確かにあれにでてきた女性陣は大変魅力的ではある。…が、同時にこの世界における戦闘が某龍球よろしくパワーインフレのめざましいことで有名でもある。

 他にも三大勢力だのテロ集団だの様々な人物の思惑も裏で蠢いたりとか、もう挙げだしたらキリがないほどに物騒な世界だ。最悪一般人としてひっそりと暮らすことも考えていたんだが、とある事件をきっかけにすでにその道は絶たれている。本当に、好奇心猫をも殺す(予定)とはよく言ったものである。

 

 そんな自分の過去をもやもやと思い出していれば、茜色に染まっていた外は随分と暗くなっていた。時計を見れば夕飯を食べてもいい時間、とりあえず制服を着替えてくるとしよう。二階にある自分用に模様替えした部屋のドアを開ける。部屋には学習机や本棚とタンスなどそういった最低限のものしか置かれていないーーーいや、テレビがあるな。

 相変わらず殺風景だと思って部屋に入ったところで、ベッドの傍にある外に面したベランダの窓が小さくトントン、と叩かれているのに気づいた。玄関でなく二階からの訪問者とは普通ではないが、これが今となってはそうとも思わなくなっているのだ。

 確認のために窓を隔てて見れば、ベランダには小さな訪問者ーーーもとい、一匹の黒猫が小さな前足で器用に窓を叩いていた。黒猫も慣れたものらしく、窓を開ければササッと室内に入ってベッドに一直線、そしてグッと身体を伸ばしてリラックス……あっという間に寛ぎモードへと移行した。

 

「う〜ん♪やっぱり落ち着ける場所があるっていうのはいいにゃ〜♪」

 

 黒猫の口からついて出た若い女のものと思われる声質。普通に考えれば耳を疑う現象だろうが、もうこれにも慣れたもの。ベッドでゴロゴロしている黒猫へと呆れ気味に問いかける。

 

「それはなにより。…ところで、誰かに尾行されたりはしてないだろうな、黒歌?」

「大丈夫だにゃ。ちゃんと追っ手がいないことは確認してるしーーー」

 

 そこまで言うと黒歌と呼ばれた黒猫を光が覆う。光は徐々に人間の形をとり、やがて光からは一人の女性が姿を現わす。身体つきは大学生相当で、黒髪を結い身につけている黒い着物をはだけさせた色香漂う出で立ち。さっきまでいた黒猫と同じ金の目と頭に生やしている猫耳がその女性と黒猫が同一の存在であることを証明していた。

 

「万が一捕捉されても、蓮から渡されたコレでうまく逃げるから安心するにゃ」

 

 自ら、その大きな胸から取り出したある物を俺に見せ余裕の態度を見せてくる妖猫ーーー黒歌。それは、そのカードは自分が以前いた世界で馴染み深い代物だった。

 

「『攻撃の無力化』は確かに敵の攻撃を文字通り無効にできる。だがそれも全てに対応できるわけじゃない。過信はーーー」

「わかってるわよん。でも人間界にいる悪魔は良くて中級悪魔レベル……一回使ったら再使用に時間がかかるとはいえ、これがあれば事足りるにゃ」

 

 『攻撃の無力化』ーーーかつて自分がいた世界に存在していたカードゲームに使用されるカード。その効果は『相手の攻撃を無効にし戦闘フェイズを終了させる』というものだ。実際に使用した黒歌が言うには、試しに相手の魔法弾や武器による攻撃に対して使ったところ、それら全てをシャットアウトしてくれたらしい。無効のバリエーションも弾いたり空間の歪みに吸い込まれたりと富んでいるのだとか。魔力、ないし気を込めれば使えるとは、ディスク要らずで便利なことだ。

 

「…黒歌がそう言うならこれ以上は言わん。だが、念のためにもう一枚くらい何か持たせておくか?」

「心配しすぎ。私は蓮の子供じゃないわよ?何かあったとしても、自分の力でなんとかするし。……最低、アンタには迷惑かけないようにするから」

 

 部屋の空気が重苦しくなる…。元々黒歌は、悪魔と呼ばれる者たちが存在する『冥界』という場所で指名手配ーーー主君殺しを犯した“SS級犯罪者”として追われる立場にあった。それに至った理由はあれど、罪を犯したものとして裁かれるのは人間悪魔を問わず当たり前のことだ。これほどの重罪を犯したならば極刑は免れないだろう。

 どう考えても誰もが関わりたがらないであろうそんな彼女を、何故自分が匿うような真似をしているか。それはとある理由によって互いに利を得る、交換条件によるものだからだ。

 

「…なんか辛気臭くなっちゃったにゃ。ーーーほら、そろそろ行くにゃ。外で体動かして、スッキリしないとねん♪」

 

 おもむろに立ち上がった黒歌に促され、運動用の服に着替え外に出る。目的地は近場の公園、暗がりの人気もない静かな場所まで足早に移動するとすぐさま黒歌が結界を展開。人払い及び気配を結界外に漏らさない類のもので、結界内の僅かばかりに張り詰めた空気はもう慣れたものだ。

 

「それじゃあ今日も始めるにゃ。いつも通り、遠慮しないでかかってきなさい♪」

 

 微笑を浮かべ妖しく手招きする黒歌の背後に、いくつもの術式が展開された。それはこれから黒歌へと迫る俺を迎え撃つための迎撃手段。

 俺は黒歌の手招きに呼応するようにこの身に流れる力、『魔力』を黒歌から教わった方法を元に右腕へと集中させる。炎を想起させるように揺らめく魔力を纏った俺の右腕は、人間のそれから形を変え竜ーーー上腕は黒く肘から手首までの腕が赤い腕へと変異する。指先すらも鋭い爪へと変じた異形の腕……。これこそが、あの気の抜けそうな神から与えられた特典の根幹たる能力だーーー。

 腕が変異してなお、炎の如く揺らめく魔力を宿す腕をもって構える。黒歌は以前として余裕の態度を崩すことはなく、また仕掛けてくる様子もない。どうやら今日は受けに徹するらしい。

 確かに守りに関しては黒歌から嫌というほど叩き込まれはしたし、時たまに鍛錬を怠っていないかと奇襲をかけてくることもある。今でこそある程度は守れるようになったが、始めたばかりの時はよくボコボコにされていたな……。むーーー過去を思い出したら腹が立ってきたぞ…!

 

「今日は何だかやる気みたいにゃね。だったらこの私に一撃を当ててみなさいな。できたら前に言った通りご褒美をあげるにゃん♪……できるものなら、ね?」

 

 黒歌が挑発の意味合いを含め微笑をいっそう深くする。黒歌からのご褒美という提案に乗るのは癪ではあるが、俺が交換条件にだした“鍛えてくれること”をこうして守ってくれていることに変わりはない。そんな彼女の胸を借りるべく、俺は黒歌へと駆ける。右腕だけでなく両足にも魔力を集中させていた為に普通に走るよりずっと速く、その場から微動だにしない彼女へと肉薄ーーー集中させた魔力を宿した右ストレートを黒歌めがけて放った。

 術式と右ストレートがぶつかり合うことによって発生したエネルギー同士の衝撃音が、二人しかいない夜の公園に響き渡る。スパークを起こす互いの境界、そんな術式越しに見た黒歌の表情から余裕の笑みは消えていたーーー。

 

〜〜〜〜〜〜

 

 時は進み授業が正式に開始された駒王学園。現国や数学に歴史や英語、科学や体育といった遠い過去の学生時代だった時を思い出させるラインナップが、二度目の高校生を堪能する俺の前に強敵として立ちはだかる。まぁ考えようによっては忘れてしまった知識を取り戻すといった意味で授業に臨むのも悪くはない。現にそういった姿勢のお陰か、昨年の駒王学園における中間及び期末テストは軒並み平均点近くをキープできていた。やはり勉強は大事だな。

 

「おーい蓮。昼メシ一緒に食おうぜ〜」

 

 そんな勉強を疎かにしてそうな三人組、兵藤と元浜と松田が昼休みになった途端に俺の元に集まってくる。しかも俺が逃げたさないようにする為なのか囲むような位置取りだ。

 

「なんだ、ナンパに失敗したからその反省会を兼ねた昼メシなら俺は少し離れて食べさせてもらうぞ」

「そう言うなよぉ!蓮も俺たちのどこが悪いのか、同じ四天王として考えてくれよぉ!」

「同じにするなと言ってるだろ…。……三人とも見た目は悪くないんだから、後は普段の言動を改めたらどうなんだ?」

 

 相変わらずのやり取りに呆れながらも、三人をパッと見た上での意見をあげてみる。俺が言った通り、兵藤と元浜と松田は見た目こそ決して悪いほうではない、むしろ良いほうだ。

 特に兵藤あたりはうまくやれば、それこそ女子に好意を抱かれることもあり得なくはない筈。つまりは常日頃の言動で全て台無しにしてしまっているのだ。

 青少年としてまっとうな青春を送ろうとしているのに、性欲に素直過ぎるが故にそれから遠ざかってしまっている……なんとも本末転倒な話である。

 ーーーと、窓から外を見ればこれ以上ないほど例えやすい人物がいるじゃないか。

 

「ーーー例えば()()()()みたいにさ」

 

 俺に促された三人もまた窓から下を覗き見ると、そこには一年生から三年生までの複数の女子に囲まれた二人の金髪の男子生徒がいた。

ひとりは困った風でいながらも優しい雰囲気を崩さずに女子ひとりひとりと真摯に接し、もうひとりは今時といった若者らしい雰囲気でグイグイと引っぱっていくタイプ。あの二人は間違いなくーーー。

 

「隣のクラスの木場祐斗と古舘王真か。俺らがあのイケメンどもみたいになれって言うのか蓮?」

「ああいったイケメンヤローを見習うっつーのは、それは俺たちの負けを認めるようなモンだろ!」

「そもそも俺たちは自分の性欲に忠実なだけだ。それを偽ろうものならそれすなわち我々のアイデンティティーの欠落とも言えよう!」

 

 相手が木場だとわかった途端に敵意を露わにする三人。木場のように顔が良いヤツを即敵認定しているのも女子に嫌われる要因のひとつではあるのだが……いや、もうよそう。俺が何言ったところでこいつらが自分の在り方を変えることはないだろう。

 

「それよりもだ‼︎実は今年の新入生のなかに期待できそうな女子がいたんだが……興味はないかね?」

 

 元浜のメガネがこの日一番に輝く。ああ、この輝きは自分の好みに近い異性を見つけた時のものだ…。兵藤と松田が早速食いつくなか元浜は俺にも、一緒に来るか?と尋ねてくる。元浜がロリコン気質なのと元々自分がロリを好まないことも相まって、その新入生に対する異性としての興味はなかったが純粋な興味はあったのでついて行った。……一歳年下ってロリコンになるのか?

 場所は変わって一年の教室。まだ初々しさ残る新入生たちばかりのクラスだが、昼休みだからか生徒の姿はまばらだった。おかげで変態三人組はお目当の女子をすぐに見つけることができたようだ。

 

「ほら、あの子だ…!」

 

 元浜が言っていた女子は、クラスの生徒がまばらな教室でぽつんと席に座っていた。無表情で感情が読めないことと、その小さな口で昼食であろうサンドイッチを黙々と食べている姿は、どこか近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。ーーーそして“金目”である。

 

「彼女の名前は塔城子猫。その愛らしい外見から既に一部の男子からの人気を集めている期待の新星…!猫を想わせる素っ気ない態度に堕とされ目覚める輩もいるんだとか…!」

「確かに可愛くはあるな…」

「惜しいな〜。もうちょっと胸があれば言うことないんだが…」

 

 白髪を揺らす塔城子猫を観察する三人。それに混じるように俺も自分の目で塔城子猫ーーー黒歌から聞かされた人物を観察を開始した。

 金色の目は黒歌と姉妹だということで同じなのは納得できる。髪の色が違うのは、猫の姿をとった際の毛色によるとのことなので彼女は白猫といったところか。また、黒歌の妹ということは彼女も黒歌と同じくただの人間ではない、『妖』と呼ばれる存在だということだ。

 まぁこの程度では驚きはしない。そもそもこの学園に通う生徒自体、人間でない存在が混じっているのは最初からわかってはいた。ただ黒歌による鍛錬のお陰でそれを感知できるようになると、彼らがどれほど人間社会にうまく溶け込んでいるのかをよくよく思い知らされた。この世界の人間たちは、知らぬ間に異種族との共生をしていたのだ。

 そんな時、視線を感じたのだろう塔城がチラッーーーとこっちに視線を向けた際に目が合う。気のせいか、と思っている間に塔城の視線は元のサンドイッチへと注がれていた。もしや黒歌に関する何かを感じ取ったのか……。その後は塔城がサンドイッチを食べ終わる前にその場を後にした為、それ以上のことはわからなかった。いずれにせよ、黒歌のことに関しても少し慎重になるべきかもしれないな。

 

「ゴラアァ!そこの変態三人組ィ!今さっき反省文書いた癖に今度は後輩をも毒牙にかける気かァァ‼︎」

「ゲェ⁉︎剣道部の村山と片瀬…!ヤベェ、二人とも逃げるぞ‼︎」

「俺たちはただ気になった後輩を見に来ただけなのに何で追われなきゃなんねぇんだよお‼︎」

「というか…!見逃されてる蓮と俺たちには何の違いがあるというんだぁぁ‼︎」

 

 全力疾走で逃げる三人組と追いかける村山と片瀬の喧騒はあっという間に遠くなった。それよりも松田よ……俺は見逃されてると言っていたが、お前の言葉で俺にも微妙な視線が注がれ始めたということを理解してくれ。要は、近いうちに()をしにいくから楽しみにしてろということだ。

 小さな復讐を心に誓い急ぎ足で一年の教室から去るまで、塔城の視線がこちらに向くことはなかった。

 

 この日の最後の授業を終えるチャイムが夕焼けに染まり始める空に鳴り響く。帰路につくもの、部活に精を出すもので溢れる校舎を後にしようと校門に向かう最中、視界の傍に塔城子猫の姿を捉えた。

 下校してもよい時間だというのに、塔城の足は校門ではなくもっと別……校舎の裏のほうへと向かっている。塔城がどこへ向かおうとしているのかは想像がついてはいた俺は、一応の確認の為に気配を消すことに努めながら塔城の後を追いかけた。

 

(もしかしなくても旧校舎に行くつもりか…)

 

 少しの時間をかけて尾行した結果、目的の場所と思われる木々に囲まれた木造の建物の前にたどり着いた。塔城は自然と中に入っていったこの建物……ここはこの駒王学園の旧校舎であり、二大お姉様のひとりであるリアス・グレモリーが部長を務めるオカルト研究部の部室がある場所だ。

 一昔前の時代を思い起こさせるような外観だが、日本の学び舎というよりは海外にあるような木造の別荘という印象が強く、それに旧校舎という割に傷んでいるところが全く見られない。いくら部活で使うとはいえ旧校舎という古い建物をここまで維持するものだろうか。

 

「オカルト研究部に何か用かい?」

 

 旧校舎の景観を眺めていた時にかけられた声に振り返ると、昼に見た時と大差のないスマイルを浮かべた木場祐斗の姿があった。木場も塔城の後をつけてきたーーーという訳ではなく、言葉からわかるようにこの男もオカルト研究部の部員である。

 

「いや、少し足を運んでみただけだ。これといった用事はない」

「確か君は、いつも兵藤君たちと一緒にいる竜胆君だよね。僕は隣のクラスの木場祐斗。お互いにこうして直接話をするのは初めてだね」

「クラスが違うのもそうだが俺自身、そっちと話す理由が何もないからな。理由もなく話を振れるほど器用というわけでもない」

 

そっか、と苦笑しながらも笑顔を崩さない木場。元よりイケメンと話すようなことなんてひとつもないというのに、何が悲しくて女子から黄色い歓声を受けるようなヤツと顔をつき合わせなくてはならないのか……あぁ、どうやら変態三人組の電波が俺にも影響を及ぼしているみたいだ。

 

「せっかくここまで来てくれたんだし、オカルト研究部の部室に寄っていかないかい?お茶ぐらいは出せると思うけど」

「厚意だけ受け取っておく。そろそろ帰らないと……待ってるかもしれないヤツがいるからな」

「そっか。それじゃあまた機会があったら」

 

 木場との会話を打ち切り旧校舎前を後にする。木場は律儀に俺の姿が見えなくなるまで、その場で俺を見送っていた。




後編へ続く。
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