やっぱり遊戯王のほうが書きやすいと思った私です。
「蓮、まだ帰って来ないのかにゃ〜。暇だにゃん」
竜胆蓮の自宅前で、忠犬のように蓮の帰りを待っている一匹の黒猫が呟いていた。黒猫の妖、黒歌である。
玄関前で座って待っていたかと思えば庭をグルグル周ったり、どこかから屋内に入れないかと探すなどの時間潰しも限界だったようだ。
「それにしても、おかしなことになったものにゃ。主殺しの重犯罪者で妖の私が、人間の世話になるだなんて…」
やがて黒歌は、目の前の家の主と初めて会った時のことを思い返す。自分に味方するものは誰ひとりとしておらず、そして蓮も今よりもっと未熟だった頃の当時を。
◇◇◇◇◇◇
猫の妖である黒歌ーーーかつて自分を眷属とし、その妹すらも毒牙にかけようとした悪魔を殺したはぐれ悪魔。唯一の肉親を守る為…と姉猫はその手を血に染めたのだ。そしてSS級犯罪者として逃げ回る日々を続けるなか、長い逃亡生活によって疲労していたところをついに追い詰められた。
追ってきたのは黒歌の首にかけられた金目当ての賞金稼ぎ数人、どいつも無頼という言葉が合いそうな風貌の傭兵崩れ。しかも賞金稼ぎの背後には殺した悪魔の手下だったヤツらもいる。殺された主の仇討ちが目的かーーー。
「…ふん。弱ってる女を相手に数で攻めてくるなんて、男として恥ずかしくないのかしら?」
「主を殺した貴様を我々は許さん。貴様をあらん限りの方法で嬲り、犯し、そして始末する……大罪を犯した愚かな貴様には相応しい最後だろう」
「やれるものならやってみろにゃ…」
残された力で精一杯の強がりを張る黒歌に容赦なく襲いかかる悪魔たち。最後に一矢報いてやるーーー一黒歌が心に覚悟を決めたその時、突然として上空に術式が展開すると重厚な鉄檻が構成され、悪魔たちが閉じ込められたのだ。
いきなりのことにこの場にいる誰もが理解が追いつかない。配下と認識される悪魔たちも黒歌も、このような術式を発動した覚えがないからだ。慌てふためく無頼たちは鉄檻を破壊しようと行動に出るが、鉄檻には傷ひとつ付かない。
目の前の光景に唖然としていた黒歌。とにかくこれで敵は身動きがとれない、と黒歌が再度逃亡をはかろうとしたその視線の先。そこには木の陰から手招きする、竜胆蓮の姿があった。これが黒歌と蓮の初邂逅である。
「あんたいったい…」
「話は後だ!アイツらを足止めしてる間にここから離れるぞ!」
離脱を促す蓮に流されながら黒歌は窮地から脱出した。その後はなし崩し的に居候する今の形となったが、色々と世話を焼いてくれる現状にこれはこれで悪くはないと黒歌は考えるようになっていた。悪魔からの干渉がされない念入りな結界が施された空間を提供される身で、時に宿主の修行に付き合うといった生活を良しとすることをーーー。
◆◆◆◆◆◆
「蓮もあれから強くなったにゃ。遊べてた最初が信じられないぐらいに。私が修行をつけたお陰で、蓮の中の力も少しずつ使いこなせてきてる。このままいけばーーー」
ーーー過去から今までの過程を思い起こしていた黒歌の耳が足音を捉え小刻みに動く。蓮とは違った足音、そして陽を背に影が覆う顔には口の端を吊り上げた笑み。黒歌は現れた
「私がいなくなっても……強くなれるわよねん。蓮…」
◇◆◇◆◇◆
旧校舎の帰り途中、夕飯の買い物で悩みに悩んでいたおかげで帰宅したのは空が暗くなり始めたころ。スーパーで買った食材が入ったビニール袋を右手にぶら下げながら帰路についていた俺は帰宅した。
「ただいまー……っても誰もいないんだったな」
買ってきたものをテーブルに置いてから時計を確認すれば、おおよそ黒歌が戻ってくる時間だ。そう思って庭に面した窓へと視線を向けるが。黒歌の姿は見えない。庭わ直接見ても、二階を調べても帰ってきた形跡はない。
「珍しいな。何か用事でもあるのか…?」
普段なら黒歌が帰ってくるのは遅くても日が落ち空が暗くなり始める時間帯、つまり今ぐらいだ。とはいえ黒歌にも黒歌なりの事情はあるだろうし。今日の夕飯は黒歌のリクエストを聞く日だ、ここはおとなしく黒歌の帰りを待つとしよう。
ーーー遅い。外の茜色は夜の闇色にほぼ塗り替えられたというのに、まったく帰ってくる気配がない。時計の針は七時を告げようとしているが、この時間まで黒歌が戻ってこないのは何かあったと見るべきかもしれない。
「遅すぎる…。まさかアイツらがまた来たのか…?」
アイツらとは以前に黒歌を追い詰めていたあの悪魔たちのことだ。撃退こそすれ殺しはしていなかったからその報復に来た、というよりは黒歌への妄執が未だ尽きていなかったのか…。
とにかく黒歌を探しに行こうと家を飛び出す。とはいえ肝心の黒歌がどこにいるかを俺が知っているわけがなく、連絡をとる手段もない。ならばどうやって、と思うところだろうが俺は誰に向かうでもなくあるひとつの名を呼んだ。
「『モンスター・アイ』‼︎黒歌がどこにいるかわかるか⁉︎」
その名を呼ばれて現れたのは、拳大の大きさを持った無数の目玉のモンスター。本来は無数の目玉が揃って初めて“一体”として数えられている彼ら、今回は家周辺の見回りを命じていたお陰で黒歌がどの方向に行ったのかを見ていたようだ。『モンスター・アイ』はその無数の目を一斉に同じ方角へと向ける。
「向こうの方角か…!」
『モンスター・アイ』に示された方角は、普段から黒歌との鍛錬の際に使っていた公園がある方向だった。ここから例の公園までは少し距離がある…。留守にする間の防犯対策として『異次元の境界』を展開すると、俺は公園のある方角へと走り始めた。
自分の知る漫画なら、ここは屋根を跳びつたって行くのだが、さすがにそんな人間離れした芸当をするような自信なんか持ち合わせていない。ここは地道に走っていくしかないのだ。深夜の時間であれば
「くそ…!人目を気にしなければ…!」
そう愚痴をこぼすが言ったところで仕方ない。今は一秒でも速く黒歌を見つけださなければ。黒歌はこの町にいるのはせいぜい中級レベルだと言っていたが、俺はそれ以上の厄介な存在を知っている。それは自分と同じ、本来この世界に存在しないものーーー“転生者”だ。
あの神様曰く「せっかくだし、転生者同士で仲良く新たな人生を過ごすっていうのも乙だよね♪」とのことなのだが、この駒王町に居を構えてから一度だけ別の転生者がはぐれ悪魔と戦闘していた場面に遭遇したことがあった。この転生者はいわゆる『強力な技や能力で無双したい』タイプの人間で、その特典をもって主だった女性陣をモノにしようという思惑が隠しきれていないようなヤツだ。なまじ外見はいいものだからゲスさがより顔から滲み出ていた。もしアイツが黒歌に接触したというのなら……黒歌ではアイツに勝てる要素はどこにもない!
「かと言って俺で勝てるかどうか……。アレに弱点らしい弱点があるのかも怪しいが、かといって手をこまねく訳にもいくまい…!」
緊張と不安で早くなる呼吸を整えつつ、ただひたすら黒歌を探し走り続ける。家を出てからとうに例の公園を過ぎてしばらくすると、俺の耳に何かが叩き落ちるようなーーー地面を抉るような大きな音が聞こえてきた。
やはりヤツが黒歌に……と思い立ってより、足に込める力が強まる。他人から見れば、人外の重犯罪者にずいぶんと気にかけていることで疑問を感じることだろう。
両親と呼べる存在を持たずにいても、ひとりで生きていくことはできた。生きていく上で必要なものさえ揃えられれば生命の維持には苦労しなかった。だが……心のほうはそうと言えないほどに寂しさを募らせていた。語る相手がいないことに、最初は変に気をまわす必要がなく気楽だと思っていたが、それが何年も続けばさすがに滅入ってしまう。このままでは人との対話の仕方すら忘れてしまいそうになるほど、冥界へと渡った俺は長い時を人と接触せずに過ごしてきた。
黒歌を匿い始めた頃も、生前ぶりの誰かとの共生ということで変にはりきっていたのは確かだ。やはり言葉を交わしてこそ自分が人間だというのを再認識できる点からも、黒歌が例え一時的のつもりであったとしてもその存在が本当にありがたかった。そんな口数の少なかった過去と比べて普通に接してくれる今の黒歌に対して、俺は僅かな家族意識を持っていたのかもしれない。であれば、有事の際に彼女を助けるのは当たり前なのだとーーー。
戦闘音と思しき轟音の響きを頼りに辿り着いた場所は空き地だった。すでに買い取りが済まされている旨の看板が掲げられているその場所にはおそらく黒歌のものであろう人払いの結界が張られていた為にすぐに理解できた。弱まりつつある結界……黒歌が押されているのだと…!
空き地の中央では息を切らす満身創痍の黒歌と、あの時と同じ能力を展開している金髪の転生者が相対している。膝をつく黒歌と無傷のまま余裕の様子を浮かべる男、その力の差は俺の考えていた通りだ。
「黒歌っ‼︎」
「…蓮!どうして…ここに…」
黒歌は息も絶え絶えながらも、俺が現れたことに驚いた様子だった。普段は結われている髪はおろされ、着物だけでなく肌にも無数の斬り傷が浮かぶ痛々しい姿を晒す黒歌を見て、自分の中の男に対する怒りという名の炎が静かにーーーだが確かに燃え上がり始める。
「おいおい。ぽっと出のモブが邪魔しないでくれないかな?さっさと消えないと、まずお前から殺しちゃうよ?」
見かねた様子で口を開いた、黒歌をこのような目にあわせた
「お前が……。ずいぶんと黒歌を可愛がってくれたみたいだな」
「ああその通りさ。でも、本当の意味で可愛がるのはこれからなんだけどなぁ。ーーーそういうわけだから、邪魔するんならマジで殺すよ?」
「なら遠慮なく邪魔させてもらおうか。可愛がってくれたぶんのツケを今ここで返してやる」
「へぇ、やる気なんだ。言っとくけどオレめっちゃ強いぜ?お前みたいなザコなんざ瞬殺間違いなしなんだから、今のうちに逃げたほうがいいんじゃねえの?」
あからさまな挑発をしてくる王真…。たしかに、今の自分がヤツに勝てるかどうかなんざ知るわけがない。もっとも、だからといって黒歌を捨てて逃げるなんて選択肢は最初からないんだがな!
「蓮…あいつの言う通り、逃げたほうがいいにゃ…。あいつは本当にデタラメに強い、今のあんたじゃ勝てっこない…」
妖猫で俺よりも戦闘経験があるだろう黒歌ですら諦めの言葉を呟く……が、俺は退こうとは思わない。ヤツが黒歌に何をしようとしているかなんて簡単に想像がつくうえ、ここで逃げたとあればこの先一生分の後悔に苛まれ続けるのは目に見えている。
後悔したくないーーーその想いだけで、俺は黒歌の前に居座り続ける。
「…だったら目を閉じて耳を塞いでいろ。その間に終わらせるから」
「蓮…」
「はぁ〜カッコいいねぇ。でもそんなことする必要はないよ。だって、今すぐミンチになるからねソイツ」
そう言った男がスッ、片手を上げる。それを合図に男の背後の空間から、無数の剣、槍、斧といった多種の武器が顔を覗かせた。黒歌はあれらの脅威をその身でもって体験したからか、ビクリと身体を竦ませた。
「どうする?いまならまだ、そこの女を渡せば許してあげなくもないんだけど?」
「ほざけ。お前のようなヤツに下げる頭はない。だから代わりに、お前の頭を下げさせてやる」
その言葉で琴線に触れたか顔を覗かせていた無数の武器が、弾丸の如き速さで一直線にこちらめがけて飛んでくる。ひとつひとつが武器としての殺傷力を持ち合わせているそれらを一々弾くような技量は持ち合わせていない俺は咄嗟に魔力を解放、右腕を変異させると同時に無数の武器をその余波で弾き返した。
「うお危ねえっ!なるほど、お前も俺と同じ……そんでそれがお前の特典ってやつか」
返された武器をギリギリで避けた王真が、赤いオーラを纏う俺の右腕を見て自分と同じ転生者であることを理解したらしい。さっきまで浮かべていた下衆な目つきがやや鋭くなった。
「いったいどんなモンかは知らねえけどさー。俺の『
こっちの能力に察しがついているのか王真は自分の持つ能力を惜しげもなく自慢している。完全にこちらを卑下している表情から、おそらく本当に負ける要素がないと考えているのだろう。
ならばその自信を確かめてみるべく今度はこっちから攻めてみるか、と俺は右腕に力を込めると、王真めがけて駆けだし躊躇うことなく右ストレートを見舞う。
「ーーーッ‼︎」
「残念でしたぁ〜。俺にはあらゆる攻撃を防げる
王真へと放った俺の右ストレートはたったひとつの盾によって難なく防がれた。命中すればただでは済まないような一撃をもってしても、王真より一回り大きい盾には傷どころかヘコみすらない。これまで黒歌との修行で培ってきた、俺のもっとも威力の高い攻撃がこの盾には通用しないのだ。
盾の頑丈さに驚きながら咄嗟に後退した俺に、王真は勝ち誇った様子だ。
「これでわかったろ。この盾と“王の財宝”がある限り俺は無敵なんだって。まあ運が悪かったと諦めて、さっさと死んでくれよな。お前が生きてるとこの先確実に俺のハーレムを邪魔するだろうから、さ!」
再び勢いよく多くの武器が次々と撃ち出される。修行において黒歌の素早さに目慣れしていた俺にとっては撃ち出された武器の速度には僅かに反応しきれなくとも、王真が武器を撃ち出してから次の武器を撃ち出すまでの時間の間に、角度と速度を考慮して自分の身体を射線上から外すことができる。これは黒歌との修行がなければ得られなかった成果だ。
「だめにゃ…。いくらアイツの攻撃を避けられても、攻撃が届かないんじゃ私と変わらない…」
黒歌の言葉からしてこの盾の前になす術もなかったようだ。それでも、王真の攻撃に負けじとこちらも合間を縫って接近し何度も右ストレートを放つが、それら全て盾によって阻まれ続ける。そして何度めかの拳と盾がぶつかり合う競り合いの際、同じことの繰り返しが続いている現状に王真の顔から苛立ちが見てとれた。
「っ、くそ!ちょこまか逃げる癖に同じことばっか…。いい加減に諦めろよ‼︎」
「確かに、悔しいが俺の力じゃその盾は破壊できないみたいだ。だったら、別の方法を試してみるまでだ…!」
「はぁ?」
こちらの真意が理解できない様子の王真に対して一度離れた俺は、射出されたのちその場に放置されていた一本の槍を引き抜くと勢いよく持ち主めがけて投擲する。その槍もまた例外なく盾に阻まれてしまったが、意に介さず今度は剣を、斧をと次々に拾い上げては王真へと投擲し続けた。
「…へっ、何かと思えば俺の真似ごとか?そんなことしたってこの盾の前じゃ同じだぜ!」
「ーーー」
王真の言う通り、拳を繰り出していたときと今の武器を投げ続ける結果は何ひとつ変わっていない。だがそれでも、俺は残り少ない武器を拾いひたすらに投げる。そして相変わらず盾が持ち主である王真を
「ようやくか、ったく…。さぁて今度こそミンチに…⁉︎」
盾が退いたことで視界が開けた王真が行動に移そうとした途端に動揺した。ーーーそれもそうだ。盾を隔てた向こう側に俺の姿がなかったのだから。
「ど、どこに行きやがった…!どこにーーー」
血まなこになって俺の姿を探す王真。俺の姿は無防備な姿を晒しながら探す王真の背後にあった。魔力が赤いオーラとして視認ほどに集中させた右腕をもって全力で駆ける俺の接近に、王真が寸でのところで気づく。
「後ろだと⁉︎だがお前の攻撃は盾が……!」
防いでくれるーーーそう言おうとした王真だが、ジャラリという音によって遮られる。王真が何事かと視線を向けた先には、地面から出現した鎖によって雁字搦めに縛られて動けない盾だった。盾は王真を危険から守る為に動こうとするも、鎖を引きちぎれずガチャガチャと音を鳴らすことしかできずにいた。
「バカな…!いつの間にこん、バァッ⁉︎」
盾に気を取られていたことで俺の拳がクリーンヒット、王真が派手に吹っ飛ばされゴロゴロと転がっていった。
俺の攻撃をことごとく防いだ王真の盾。その防御力は限りなく厄介だが、同時にその守りようで弱点も簡単に割り出すことができた。その弱点とは、攻撃を防いでいる間は王真の視界を完全に覆ってしまうこと、そして盾は王真の意思で動かすことができず敵の攻撃を防ぐ時でなければ動かせないということだ。今回の場合は音による誘導を仕掛けながら王真を挟んだ反対側へ即座に移動、こちらに意識を集中させている間に『デモンズ・チェーン』で盾を縛り上げた、という算段だ。
これも黒歌から身体能力の強化法を教わらなければ成し得られなかっただろう。
「これほどうまくやれるとは。諦めずに練習した甲斐があったものだな…」
「さすが、コツを掴んでから速いものにゃ…。もう実践でも使っていけるレベルねん…」
魔力の扱いの上達に多くの時間をかけていたことが無駄ではなかったことに感慨に耽っているところに、たった今のやりとりを見ていた黒歌からも感心の言葉を伝えてくれた。これは地味に嬉しい。
そんなことを思っていると、吹っ飛ばされた王真がフラフラと立ち上がった。
「グゥ…、ざけやがって…!ちょっと油断してたところを突いたぐらいで…調子に乗るんじゃ、ねえ…!」
「今ので倒れなかったのか。割と本気で殴ったと思ったんだがな…」
まだ継戦の意志を見せる王真だが、受けたダメージが予想以上に大きかったらしく痛々しい雰囲気を見せている。もしかすると王真はこれまではおろか、生前にも喧嘩などでダメージを受けたことがなかったのかもしれない。
「頭にきたぜ…!こうなったら……」
そう言った王真の視線が俺から外れ別の何かに向かう。その先にはこの闘いを見守っている黒歌がいる。まさかーーー嫌な予感を感じたのは黒歌も同じらしく、顔を覗かせた一振りの短剣が黒歌めがけて飛んでいった。
ここから全速力で駆けても短剣を叩き落とすには間に合わない!
「…『スクリーン・オブ・レッド』‼︎」
異形と化した右腕を黒歌へとかざして俺はそう叫んだ。その瞬間に短剣がたどり着くより早く魔術防壁が黒歌を覆い、無事に短剣を弾き返しことなきを得た。
「がっ…⁉︎」
だがそれに代わり、自分の背中に無機質な感触と激痛が走った。防壁の使用による消耗は著しく、その隙を突かれた俺は背中に剣やら槍を突き立てられて悟った。黒歌を狙ったのは攻撃のチャンスをつくる為のブラフだったのだと。
「は…ハハハ!簡単に背中を見せるからそうなるんだよ!まあ、黒歌みたいなイイ女をみすみす見殺しにしたくねえのはお前も同じだもんなぁええ?正義のヒーローさんよォ‼︎」
王真の嘲笑と同時に新たな武器が放たれ俺の背中に突き刺さる。漫画とかじゃ歯を食いしばって立ち続けるキャラを何度も見てきたが、これは想像以上の痛みだ…!刺さっている部位から服は赤く染まり続け、心臓の鼓動に合わせて身体を駆け巡る激痛によって俺はただその場に立ち続けることしかできなかった。
「いい
立場が逆転したことで興奮しきった王真が剣や槍を矢継ぎ早に撃ち出し続けている。狙いが定まっておらず擦りもしないのがほとんどだったが、他の部位に当たらないのが不思議なほどに俺の背中へと命中し続けた。
どんどんと重なっていく痛みは徐々に意識を削ぎ落とし、すでに気を抜けば倒れそうな状態だった。それでも立ち続けたのは黒歌を……寂しさを和らげてくれた存在を守りたいという、ちっぽけな意地を根性で張り続けたからだろう。
だが身体はそんな意地に反して強張ったまま動かない。激痛を耐えようとする防衛本能に囚われたまま絶望の表情を浮かべる黒歌を見たのを最後に、視界が砂塵と山のような武器に遮られたーーー。
◇◆◇◆◇◆
「ハーッハッハ‼︎やったぞ…!早くも邪魔な転生者をひとり片付けたぞー‼︎」
無数にそびえ立つ武器の前で古舘王真は歓喜に打ち震えた。肉ダルマのような神から伝えられていた、同じ世界に転生した己の邪魔となるであろう転生者のひとりを始末できたからだ。
王真のこの世界における目標は先にも言ったハーレムである。だがそれは世間一般で知られるものとは違い暴力で女を侍らせるという歪な、普通ならとうてい叶わぬだろうものだった。
だから王真は神に強請った。他を圧倒する強大な能力ーーー『王の財宝』を。
「そんな…蓮……」
「思ったより苦戦はしたがこうして俺が勝ったんだ。勝者の特権ってことで黒歌、お前は俺のモンだ!」
弱々しく蓮の名を呼ぶ黒歌。その目はかろうじて武器の山から覗く異形の腕に注がれているが、黒歌の呼びかけにピクリとも応じない。
そんな蓮を凝視する黒歌に業を煮やした王真が、黒歌の腕を強引に持ち上げた。
「…いつまであんなゴミを見てんだよ。もうアイツは死んだんだ、わかるだろ?だからこれからはアイツの代わりに俺がお前を可愛がってやるからよ」
「ーーーっ‼︎」
突きつけられた蓮の死ーーーそれをもたらした憎き男の言葉が頭に響いた瞬間、黒歌の目に憎悪の色に染まった。反射的に王真の喉を掻き切ろうと爪をむけるが、王真は難なくそれを制止させ黒歌の両腕を掴み拘束する。
「なんだお前、もしかしてアイツに惚れでもしてたのか?だったら安心しな、アイツのことなんかすぐにどうでもよくなるからな」
下衆な言葉しか出てこないこの口を今すぐ黙らせたい……耳が腐りそうになりながらもそう憤る黒歌。しかし疲弊した身体に力はうまく入らず仙術も使えない、このどうしようもない状況を打破する案が頭に思い浮かばない。憎い相手が目の前にいるというのに傷すら負わせられないことに、黒歌は自分の無力さを呪うことしかできなかった…。
ーーー王真は完全に慢心していた。蓮を完全に殺したと、確認もせずにそう決めつけた。その慢心はやがて……その手に掴みかけていた勝利の星を容易く逃すこととなる。
爆散した剣山の如き武器の山から、“赤い悪魔”が現れたことによってーーー。
◇◆◇◆◇◆
真冬の寒空に身を置いているかのような冷たさを感じながら、意識が段々と薄れていく。王真によって負傷した身体は糸が切れた人形のように指先ひとつ動かせない。こうしている間にも王真のヤツが黒歌に迫っているというのに…。
(しょせん……夢物語の真似事でしかなかったってことなのか…)
熱と痛みが徐々に失われつつあるなか、脳裏に浮かんだのは転生の際にこの能力を選んだ理由。ただ単に格好良いからとか強いとか……そういったところもあるがそれ以上に共感しやすかったからだ。
力をもって己の道を切り開くーーーその信念を体現する男の象徴である
(くそ……動け、動けよ俺の体。こんなところで終わりにするつもりなのか…)
見れば黒歌が王真に拘束され抵抗ができずにいる。再度起き上がろうとしても、やはり力は入らずか細く唸ることしかできない。このまま何もできずに黒歌が連れて行かれるのを黙って見ているしかないのか……心に僅かながら灯っていた火が消えるように、視界を開けていた瞼もうっすらと閉じられていく。
ーーー無様だな
ふと、そんな言葉が聞こえた気がして再び瞼を開く。だがそれと思しき人物はどこにもいない。幻聴か、と疑っているとまたその声が聞こえてきた。
ーーー今のお前の有様もそうだが、お前が何の為にその力を欲したのか。まさか忘れたわけではないだろうな?
何の為にこの力を欲したか……そんなことはわかりきっていることだ。俺はーーー俺は
生前は誰かに頼り続けなければ生きられなかったから、今度は自分の生きたいように生きる。それがこの世界での自分の生き方だった筈…。
ーーーならばどうするべきかわかっている筈だ。心を燃やし、その身体に炎を宿さんとする気概で立ち上がれ!そうすればお前の身体は燃え上がる炎によってより強く、そしてお前の行く道を煌々と照らし示す篝火となる!
言うだけ言った幻聴はそれを最後に聞こえなくなった。死の淵の現象ということで理解が遅れたが、何者かの言うことには俺の“道”はまだ終わりではないらしい。確証はなにもない、だが何もせずに朽ちるよりはマシだと消えかけた心の火を今一度強く燃やし始める。
そうだ。このまま終わっていいわけがない。俺は身体中に力を入れてゆっくりと起き上がるべく、痛みと寒さに苛まれながら腕に力を入れた。意識を落としかけながら上半身を起こした後は、今度は足に力を入れて、ふらつきながらもようやく立ち上がった。
幻聴の言った通りに立ち上がれた俺の心は、それだけでこれまでにないほど高揚していた。まるで本当に炎を纏っているかのような熱さを身体中に感じていたからだ。
高鳴る心臓の音がハッキリと聞こえるーーー
それらは等しい感覚で脈をうちーーー
俺の中の火を大きく燃え滾らせーーー
生成された魔力は身体中を駆け巡るーーー。
刺さっていた武器がひとりでに抜け落ち魔力によって傷が塞がった背中から一対の赤翼が。右側頭部からは一本の白角が生え、元から変化していた右腕は元より左腕も同じように赤い模様と黒く変色した腕へと変異。
本来なら更なる変化が生じる筈だが、今はこれが限界か。乱杭歯を噛み締めながら目を開きーーー溢れんばかりの魔力を一気に放出させ、邪魔な鉄クズを吹き飛ばす‼︎
「オオオオォォォォォッ!!!!」
小気味よくバラバラに吹き飛ぶ武器たち。流れ星のように落ちていくのを眺めたのち、次に叩き伏せるべき王真を視界へとおさめた。王真は何が起こっているのか、理解不能の呆然とした表情で完全に思考が追いついていないようだ。一方の黒歌はどこか信じられないといった様子でこちらを見ている。
「な……なんだよ。あれ…」
「…蓮……なの?」
我が目を疑っているのも無理もないか。それらしい雰囲気なんてなかっただろうにいきなり姿が変わったんだものな。それも悪魔を彷彿とさせる姿に、な。
「ああ、だからもう少し辛抱してくれ。すぐにお前を助け出してやる」
力強く答えたことで表情を綻ばせ頷く黒歌のその姿は、もう立派な囚われのヒロインのそれだ。ヒーローじみた闘いは趣味ではないが、時にはこういうのもアリ…かもしれないな。
「な、何が『助け出す』だ…!いくら変身したところで俺に敵うワケがーーー‼︎」
ようやく理解の追いついたらしい王真がまた“王の財宝”による武器の射出を繰り出してくる。だが悪魔を模した“ドラゴン”の力を解放させた今の俺には、それらがスローモーションがかかったように遅く見えた。故に回避も最小限の動きで難なくこなすことができる。
射出された武器が全て空振りに終わったのを見た王真の顔が驚愕に染まった。
「なっ…、な…っ⁉︎」
「悪いがさっさと片付けさせてもらおう。いつまでもお前の相手をしていては
ドンッ、と王真との距離を一気に詰める俺に王真は焦りながら武器を撃ち出してくる。さすがに全てを避けながら接近するのは無理だと判断し、先頭で飛んできた大剣をすれ違いざまに手に取ると打ち払いながら王真へと肉薄していく。
「なんだよこれ…!パワーアップして復活とか、ドラゴ○ボールじゃあるまいし…!はっ⁉︎」
王真の撃ち出していた武器の波状攻撃がついに途切れた。“王の財宝”に溜め込んでいた武器が全て排出された、いわゆる弾切れとなったのだ。
ボロボロになった大剣を捨て去り高く跳躍して、必殺の一撃を放つ為に右腕を引く。右の腕から手にかけて集約される魔力は変化前のそれとは桁違いの密度で、揺らめくだけだったオーラは炎が激しく燃え盛るように激しく揺らめいていた…!
「ま、待て!俺を殺そうってんなら黒歌も道連れにするぞ、っていねえ⁉︎」
追い詰められた末に人質作戦を敢行しようとした王真だが、すぐ目の前にいた筈の黒歌がいなくなっていることに目を丸くした。とうの黒歌はというと王真が俺に意識を向けていた間に回復した僅かな気を使って即座に離脱していたのだ。離れた場所では黒歌が王真に対し、イイ笑顔で舌をだしていた。ネコは身のこなしがいいってことか。
「この一撃でお前を粉砕する!ーーーアブソリュート・パワーフォース‼︎」
限界まで高めた魔力を放出しながら王真めがけて掌底を繰り出した。急速に飛んでくる俺に王真は足が竦んだ様子でその場から動けずにいたが、俺が一度倒れた際に“デモンズ・チェーン”から解放された盾が最後までこちらの攻撃を防いでくる。
凌ぎを削る轟音のなか、これほどのパワーを持ってしても破壊されない盾にはつくづく困らされるものだ…!
「そ、そうだ…!この盾がある限りどんなにパワーをあげても殴るだけじゃこれの破壊は不可能なんだ…!ははっ、ハハハ…!」
「ーーー防いだな」
「ハハ……は?」
「防いだな、と言ったんだ。この力を前に“防ぐ”ということがどれほど無意味なことか、それを教えてやる‼︎」
掌底を繰り出している右手から、放出されている魔力の勢いがさらに激しくなる。ジェットのように噴きだしていく魔力は、この力に秘められた特殊な力を引き出す為のものだ。
そんな荒ぶる魔力の奔流と掌底によるふたつの衝撃を受け続けていた盾は、ピシッとその部分に小さな亀裂を生み出した。
「ーーーデモン・メテオ‼︎」
俺がそう叫んだ瞬間に亀裂が一気に広がり、鉄壁の防御を誇った盾が砕け散る。その瞬間の王真の顔は迫り来る脅威を防ぐ手立てを失ったことでせっかくのイケメン顔が台無しの泣きっ面でぐちゃぐちゃだった。
強力無比の掌底で王真に見舞う勢いそのままに地面に叩きつける。隕石が落ちてきたかのような轟音と共に生じた衝撃波は凄まじく、黒歌の張った結界をも簡単に破ってしまうほどだった。
結界がなくなった今この惨状に自分たちがいるのを誰か……特に悪魔側に見られるのはマズイと思ったのか、黒歌からここを離れようという提案を耳に、俺の目は眼下で倒れている王真の姿を映していたーーー。
〜〜〜〜〜〜
王真との闘いを経た翌日、普段と何も変わらない日常生活の始まりは誰にも平等に訪れる。どんなに闘い傷つこうと、学生としての側面がある俺は学園へと通わなければならないのだ。
「それじゃあ行ってくる。どこかに行くときはちゃんと戸締りを確認するんだぞ」
「そんなことはわかってるにゃ。それより、身体のほうは本当に大丈夫なのにゃ?」
黒歌がどこか心配そうに聞いてくるのは、王真との闘いで普段以上の力を行使したことによる反動のことだ。
今朝になって筋肉痛と疲労感のダブル・アタックによってベッドから起き上がれないということになり、ある程度回復したばかりの黒歌が急遽マッサージと仙術で動けるようになるまで俺の身体を回復させてくれたのだ。「せっかく回復したのに」と文句を言う黒歌のご機嫌をとる為に、帰りに何かデザートを買って帰らなければな。
「ああ。黒歌のお陰で、体育さえなければ問題はないだろう。だから黒歌も、今日は家でゆっくり休んでくれ」
「ん、そうするにゃん」
俺がそう言うと黒歌は素直に頷く。いや、頷くこと自体はこれまでもあったのだが今回のは少し柔らかいというか自然というか…。
「蓮。ーーー助けてくれて、ありがとにゃ♪」
学園へと通うべくドアを開けたところで黒歌に呼び止められる。何か、と振り返ると思わず心臓が跳ねるほどの可愛らしい笑顔を俺に向けて、そう言った。
〜〜〜〜〜〜
駒王学園二年の教室。お昼時となったこの時間に生徒たちが思い思いの食事を進めるなか、教室の端っこではいつもの変態三人組が猥談に花を咲かせていた。
「見ろよこの写真…!なかなか際どいとは思わんかね…!」
「なかなかやりますなぁ松田くん。しかしこちらの、まだあどけなさの残る少女の写真も捨てがたいものですぞ…!」
「いやいや!こっちに写ってる女の子のオッパイの形も!」
「お前ら…人がメシ食ってる前で生々しい会話をするなよ。メシがマズくなる」
ただ教室の隅っこで猥談するぶんにはいっこうに構わないのだが、どういうわけがメシを食べてる目の前で繰り広げているのだ。しかも巧みに写真を隠し、チラチラとこっちの動向を伺ってるのだから確信犯に違いない。
「フフン、気になるかね竜胆氏?我々としては同士が増えるのはむしろ大歓迎ですぞぅ!」
「元浜ってそういう喋り方だったか…?とにかく、そういった話はもっと別のところでやってくれ。せっかくの弁当だというのに…」
「そういや蓮、今日は珍しく弁当なんだな。今までずっとパンとかだったのに」
兵藤を始めとした松田と元浜が俺の目の前にある弁当箱を覗き込む。弁当箱は二段式のシンプルな構造で、上段と下段にそれぞれおかずとご飯が入っている。おかずには赤、緑、黄色と鮮やかな色合いで食欲を掻き立てられるが、ここにあるほとんどは事前に自分が作っておいたものだ。
「へぇー。竜胆が料理できるっていうのは聞いてたけど、美味しそうじゃない」
そんな兵藤たちに気を取られているなか、横から伸びた手が卵焼きのひとつを摘んでいった。誰かと思えば眼鏡とお下げが特徴的な桐生藍華だ。
桐生は卵焼きを味わうように食すと、何かが気になるのか眉をひそめる。
「んん…?この卵焼き、けっこう繊細ね。甘さだけじゃなくて焼き方についても、しっとりさとふんわりさが絶妙にマッチしてる。普通にお店で買ったものだ、って言っても通用するレベルだけど…なんていうのかしら。竜胆に対する思い入れが微かに感じられるわ」
「なぜそこまでわかるんだよ…」
たった一口にも関わらず、桐生はこの卵焼きを作ったのが俺ではないとあっさり看破してしまった。そしてそれを聞いた兵藤たちは疑問の声をあげながらも、桐生に質問を投げかける。聞きたくないことの筈なのに聞いてしまうのは、悲しき人間の探究心によるものか。
「ちなみに桐生……卵焼きを作ったのが男か女かはわかるのか?」
「ん〜そうねぇ。これほどのハイレベルな卵焼きを作れるってことは料理の腕はプロ並み、そしてすごく繊細な作りから見て間違いなく女でしょうね」
「ノォーー‼︎」
よほど聞きたくなかったのか松田が泣きながら頭を抱えこんだのと同時に、今度は元浜と兵藤が食いついてくる。
「見損なったぞ竜胆‼︎まさかお前が抜けがけするようなヤツだったとは!」
「ちなみにその女性は年上か?オッパイは大きいのか⁉︎もしそうなら俺にも紹介してくださいお願いします今度秘蔵のエロDVD貸すからさ‼︎」
「いつものことながらさらっと俺を同類に引き込むなっての‼︎お前らも自分の母親に弁当作ってもらってるだろうが!」
いつもの日課とも言える台詞をいったところで元浜と兵藤にそう反論するが、曰く「家族とそれ以外の女性が作ったものは別」なんだとか。
まあ女性の手作りに夢を見るのはわからなくもないが、母親が作ってくれる弁当はおいおい食べられなくなる希少なものなんだぞ?そこをちゃんと理解してる……のは兵藤ぐらいだろうな。まだこの時は『あのこと』を知らないだろうが。
「それにしたって竜胆もやるわね〜。いつの間にその女性と親しくなったわけ?普段のアンタを見てるぶんには、むしろ女に興味なさげに思ってたけど」
嫉妬の現れとして卵焼きを狙ってくる三人組の猛攻を防いでいるなか、桐生が興味深そうに聞いてくる。…一応言っておくが、俺は女性に興味がないわけではないぞ。ただ気恥ずかしくて話せないだけだ。
それでも話さなければならない時は、だと?簡単なことだ。相手の額を見るか、その背後を見ればいいだけだ。ここまでで高圧的な印象を受けているかもしれないが、その原因が気恥ずかしさを隠す為のものなのだからどうか許してほしい。ーーーなんでもはできないがな。
「別にホモでもないし、女性に興味がないわけでもない。アイツとは何年か前に知り合っただけだ」
「ほう。…その女性は近くに住んでる人?」
「いや。どーーー」
「『ど』?」
しまった、と思ったがすでに遅し。桐生の眼鏡が太陽光を浴びていないにも関わらずキラーンと輝いた。しかも「案外簡単に罠にかかった」と言いたそうな、ニヤリもセットで。
「ははぁん。もしかして、『同棲』って言おうとしたのかしらぁ?」
「どど、同棲だとぉぉぉ⁉︎」
「おのれ、そこまで堕ちたか竜胆…!」
「桐生ゥ‼︎余計なことを言うなぁ‼︎」
桐生の爆弾発言によって変態三人組がますますヒートアップしやがった…!もうこうなったら止めようがないぞ…って桐生のヤツ、あんなニヤニヤしやがって!絶対確信犯だ!
結局、暴走した三人を止める手段を持ち合わせている筈もなく、コイツらの訪問を仕方なく受け入れた。俺は黒歌がうまく隠れてやり過ごすことを切に願いながら、この日もいつも通りの日常を送ったのだった。
◇◆◇◆◇◆
「ーーーそれは本当なの?祐斗」
「はい部長。古館君は家で療養しているとのことで。怪我の具合から見ても、例の空き地のことと何か関係しているかもしれません」
本校舎の裏にある、夕焼けが差し込んでいるオカルト研究部の部室。洋風建築な外観から想像がつくように、そこはインテリアが並ぶまさに貴族を彷彿とさせる部屋だった。
そこでオカルト研究部の部員である木場祐斗は長く美しい紅髪を揺らす部長、リアス・グレモリーへと報告を行っていた。
「もし木場君の言うことが本当でしたら、彼はいったい何と闘っていたのでしょうか…」
「昨夜に一瞬だけ感じたあの魔力……。思い出すだけでも、体がまた震えだしそうです…」
オカルト研究部の部室にいるのは二人だけではない。リアスと同じく“二大お姉様”と呼ばれている姫島朱乃はもちろん、今年になって駒王学園へと入学した塔城子猫も部員としてこの部屋に集まっていた。
そんなここにいる彼らのーーー特にリアス・グレモリーの表情は神妙なものだった。
「あの全てを焼き尽くす熱波のような魔力を持った存在がこの町にいる…。この領地を治めるものとして、見過ごすことはできないわね」
「いかがいたしますか?部長」
窓際に立っていたリアスは部室全体を見渡せる部長席に座る。そんな彼女に副部長である朱乃を含め、祐斗と子猫もリアスの口から指示が出るのを待つ。
「まずはあの魔力の持ち主を割り出すのが最優先ね。それでもし話が通じる相手であれば、接触を試みてみましよう」
「わかりました。では、僕と子猫ちゃんは学校のなかから探ってみます」
「お願いね二人とも」とリアスは祐斗と子猫を送り出す。二人が退出したのを見送ったリアスは朱乃の前で独り言のように呟き始めた。
「古館君が自分を売り込んできた時、保留にしておいたのは正解だったみたいね」
「部長?もしや……」
「ええ。彼には申し訳ないけど、私は向こうのほうが欲しくなったの。ほら、私たち悪魔にとって交渉は得意中の得意でしょ?話ができるなら、うまく首を縦に振らせてみせるわ」
リアスは笑うーーー。それは学園で知られる彼女がもつもうひとつの顔。駒王町があるこの土地の領主である、文字通り“悪魔”としてのものだった。
「ふふ…会うのが楽しみだわ」
手を組みまだ見ぬ存在に思い馳せるリアスは、まるでクリスマスのプレゼントを楽しみにする子供のように心を躍らせていた。
これはまだ世界が回る前の話。もしかすれば世界が修正されるか、それともこのまま回る始めるのか……それはまだ誰の知る由もない。
ひとまず謝罪をば。
昨年から長い間、更新も返信もできず申し訳ありませんでした。
というのも使っていた携帯の変更を余儀なくされ、パスワードを控えてなかったことでログインできないというアホをかましてしまいました。
おまけに完成間近だった次話も消失して一気にモチベーションという名のライフがゼロにされました。なんて恐ろしいコンボなんだ…!
とりあえずまだ飽きたなんてことはないので、今のアカウントでも投稿できるようであれば投稿していきたいと考えています。