Fate/GOの6章をクリアした後でエクスカリバーの話を書くことになるとは。
因みに一周年福袋ガチャで、2枚目のジャンヌが来て、思わず『いらねぇ!!』と叫んでしまいました。
うーむ、罰当たり。
「ある~日~、街中~で~、キ●ガ●に~、出会~った~」
即興の馬鹿歌を歌いながら、俺は日が遮られた薄暗い裏路地を歩いていた。
こちらが歩を進める度に片手に引きずったモノがズルリ、ズルリと汚れたアスファルトに跡を残すが気にする事はない。
たとえそれが顔面が原型を留めない位に腫れ上がり、両手足があらぬ方向に折れ曲がった白髪の男だったとしても、何の問題も無いのだ。
少なくとも、朝っぱらから
うむ、断じてこの頃仕事が忙しくて、鍛錬が進んでいない事への八つ当たりなどではない。
俺は男の襟首を掴むのとは逆の手に下げた西洋剣、この阿呆は鞘すら持っていなかったので着ていたカソックを剥いで巻き付けたそれに目を向ける。
しかし、一応悪魔が管理するこの街で聖剣を振り回すとは穏やかではない。
まあ、聖剣だろうが
もしかして、近頃流行りの宗教テロなんだろうか。
なんかこのキ●ガ●はエクスカリバーだのラピッドリーだのと言っていたが、こんな三流の駄剣がエクスカリバーなわけがない。
となるとラピッドリーとかいうのはこいつの妄想の産物か。
キ●ガ●に厨二病を併発しているとは、救いようがないな。
健全な学生としては学校に遅れる訳にはいかないので、取り敢えずは国津神の皆さんが運営してくれている自衛団体の番所にでも放り込んでおこう。
路地を抜けると土の香りと共に、比較的都会の駒王町には珍しい大きめの田畑が目に入る。
ウチの学校の運動場の3倍はある田畑の真ん中に建てられた少し小さめの平屋建ての一軒家。これが駒王町の
「おや、誰かと思えば姫島の坊主ではないか。学び舎は良いのかね?」
声の方に目を向けると、畑の土が盛り上がり瞬く間に人の形になっていく。
数秒ほどで目の前には稲の髪に土の身体、首には立派は
この方は
「お早うございます、久延毘古様。街で曲者に襲われましてね。そいつが聖剣なんて物騒なモノを持っていたんで、預けに来たんですよ」
「その手に持った虫の息の異邦人か?」
「ええ、正当防衛として無力化させました」
「どう見ても過剰防衛としか思えんのだが。……まあいい。で、件の聖剣というのはそれか」
「ええ。感じる力から見ても三流の鈍らですけど」
「確かに大した力は感じぬ。とはいえ、この剣を民に振るわれる訳にはいかぬわな。……あい解った、そやつとその剣は預かろう」
「よろしく頼みます。それじゃ俺は学校がありますんで」
「うむ。勉学に励むがよい」
剣とキ●ガ●を掴み上げると、久延毘古様は豪快な足音を立てて番所へと歩み去っていく。
その後ろ姿を見送った俺は、通学路に戻るべく踵を返した。
今の時間は8時10分、走ればギリギリ間に合うはずだ。
20倍の重力にも慣れて来たし、ここらでガチッと克服した証を立ててみるか!
「と、いう事があったんだ」
「なんつうか……相変わらずヴァイオレンスな日々を送ってんな、リーダー」
「慎君ってその手のトラブルの遭遇率、もの凄いよね。一度お祓い受けたほうがいいんじゃない?」
昼休みに持ち寄った弁当を広げながら今朝の出来事を話すと、ダチである
晴矢よ、俺はそんな生活なんて望んでないからな。あと耕太、それは俺が神主と知ってのセリフか。
さて、目の前にいる悪友二名を紹介しておこう。
晴矢はシェムハザさんと日本人の女性(職業は漫画家。シェムハザさんをヲタク道に引きずり込んだ張本人で諸芸上達・諸願成就の神
耕太は信州の田舎からこちらに越して来た心優しい純朴な少年だ。
『ビッグマグナム耕太先生』や『銀河エロス大王』なんて渾名がつけられているが、風評被害なので気にしてはいけない。
あ、ビッグマグナムは事実だった。
晴矢は
神職試験の間は勉強や学校行事で色々とフォローしてもらったものだ。
晴矢は親父さんに似た灰金の髪に青い目をした細めのイケメン、耕太は148㎝の小柄の身体に童顔、未だ声変わりもしていないという小学生といっても通る容姿をしている。
「まあ、一番災難なのはリーダーを襲った奴だろうけど」
「うん、そうだね。慎君、その人ちゃんと生きてる?」
「お前らは人をなんだと思ってるんだ」
二人のあんまりな態度に憤慨していると、昼食を終えた美朱がこちらに来るのが見えた。
「慎兄、リアス姉がたまには部室に顔を出しなさいって言ってたよ」
……そう言えば、本業と修行が忙しくてここ最近部室に顔を出していないな。
「そうだよ、球技大会もサボっちゃうし。まあ、今月末の『
リスのように頬を膨らませる美朱に俺は思わず言葉を詰まらせてしまう。
因みに『夏越の祓』というのは正式には『
数日前に終わったハティ様の輿入れから立て続けだったので、ここ二週間ほどは全く部室に行く余裕はなかったのだ。
「……そうだな。そんじゃ今日の放課後は顔を出す事にするわ」
「うん。それじゃリーア姉に行くって伝えとくから。……あ、ごめんね。食べてる途中にうるさくしちゃって」
「いいって、いいって」
「うん。気にしないで」
足早に去っていく美朱を見送り、俺達は改めて弁当の攻略に手を付ける。
3人そろって成長期の喰い盛りなので、弁当箱も大型だ。
かく言う俺も米とおかずの二段重ねだったりする。毎日この量を作ってくれる朱乃姉には感謝感謝である。
「しっかし、リーダーも大変だよなぁ。学校に加えて神社の仕事もしなきゃなんないんだろ。青春を満喫する暇なんてねえじゃんか」
「仕方ねえよ。経緯はどうあれ、任された以上はしっかりやらんとな。手を抜いて氏子さんやご近所に迷惑をかけるわけにはいかんし」
「無理はしないでね。手が足りないなら僕や晴矢が手伝いに行くからさ」
「ありがとうな、持つべきものは友達だよ、ホント」
友情の温かさにむせび泣く男になりそうになっていると、今度は廊下からこちらにこちらに駆け寄ってくる気配がする。
まったく、飯時なのに千客万来な事である。
「耕太く~~~ん!!」
教室の扉が勢いよく開くと同時に飛び込んで来た人影は、箸を置いた耕太に後ろから抱きつくと、そのリアス姉並みに豊満な胸を押し付け始める。
「ちっ、千鶴さん!?」
「うふふ…耕太くんは暖かいねー」
後頭部を乳に埋めた耕太は、真っ赤な顔で弁当を手に離脱した俺達を、恨めしそうに見ている。
すまぬ、友よ。午後を乗り切る貴重な栄養源を、ラブコメで潰されるわけにはいかんのだ。
「ねえ、耕太くん。お弁当、どうかな?」
「は、はい! 美味しいれふ!!」
「良かった。栄養のことも考えて頑張ったんだから、そう言ってもらえて嬉しい」
茹でダコ状態になった耕太のろれつの怪しい答えに満面の笑みを浮かべる女生徒。
さらに激しさを増したリバースパフパフや乳プレスに、耕太はパニック寸前だ。
心が汚れた俺達とは違って、田舎育ちの純朴なあいつには、少々刺激が強すぎるか。
というか、毎日やられてるんだからいい加減慣れろ。
「栄養ってあれか。あいつの弁当に入ってたウナギに牡蠣、焼きニンニクとか。夜の養分ばっかじゃ─」
「しっ!」
俺は小声で呟く晴矢を素早く制した。
付け加えればドリンクは赤マムシだったが、不用意にその手のツッコミを放てばこちらの墓穴を掘る事になる。
今はクラスの皆のように、何事も無かったように放置するのがベストだ。
さて、高校生の肉食系女生徒が小学生の男子に襲いかかるという、香ばしい光景が洒落で済む内に彼女の事を語っておこう。
え、助けないのかって?
馬鹿だな。乙女(?)の恋路の邪魔なんかしたら命がいくつあっても足りないじゃないか。
コホン、話を戻そう。今、耕太に抱きついているのは、三年生の源千鶴先輩。
腰まで届く黒髪にモデルも裸足で逃げだす程のスタイルを持つ美人で、俺達が入学するまではリアス姉や朱乃姉と並んで三大お姉様と言われていたらしい。
しかし、今年の入学式で耕太に一目惚れした彼女は周りがドン引くほどの強烈なアプローチを掛け始めた。
その結果、耕太の見た目の幼さとその容赦ない積極性から、今では『ショタコンマスター』なんて異名を頂戴している。
まあ、本人はそんな事なんてどこ吹く風と、耕太にまとわりついているのだが。
因みに耕太自身も源先輩には好意を持っており、過度の接触やアプローチには戸惑うものの、内心まんざらでもないそうだ。
毎度の事だが、イッセー先輩が見れば憤死するほどの、男としては羨ましい光景が繰り広げられているのに、そういった感情がまったく起こらない。
心の中にあるのは耕太への哀れみだけだ。
「……なんでだろう。あれを見てたら生物で習った『カマキリの交尾』を思い出したんだけど」
目前で繰り広げられる甘い光景に、晴矢がポツリと呟く。
「行為の後に物理的に喰われるか、行為の最中に性的に喰われるかの違いはあるが、オスが捕食されるのは同じだからじゃないか?」
「…………哀れ、耕太。友達として俺等にできる事ってあるかな?」
「とりあえず、できちゃった退学にならないように祈っとくか」
俺達は侘しい気持ちのまま、揃って耕太に柏手を打った。
友よ、避妊は忘れるなよ。
◆
時は流れて放課後である。
あの後、源先輩は自分のクラスに帰ったのを見計らった晴矢が耕太に『お前のバスターキャノンには役不足かも知れないが』と明るい家族計画を渡して、ガチギレした耕太に殴られるというハプニングがあったが、概ね問題なく1日が過ぎた。
美朱に伝えた通り久々にオカ研に赴いた俺は、覚えのない2つの気配にドアに掛けた手を止めた。
気配は共に人間のもので、なにかしらの聖別された器物を身に付けているらしい。
一瞬リアス姉達を狙った天界からの刺客かと思ったが、部室内からは争うような気配は感じない。
「ちわーす。ご無沙汰」
とりあえず入ってみると、何時もの面子に加えて黒い革製のレオタードに白のローブを身に着けた女二人が目に入った。
なんかコスプレみたいな格好だが、服装の趣味は人それぞれと言うし妙な指摘はするべきではないだろう。
「おや、お客さんか?」
「彼女達は教会から派遣された悪魔祓い。堕天使に奪われた三振りのエクスカリバーを奪還する為に、この街に来たそうよ」
気怠げなリアス姉からの言葉に、思わず首を傾げてしまう。
エクスカリバーが三振りあるとか、教会が聖剣を奪還するとか、ツッコミどころ満載である。
そういえば、朝の阿呆の駄剣もエクスカリバーとか言ってたな。
妙な縁でもできたかね?
「リアス・グレモリー。部外者に我々の任務を話さないでもらえるか」
「部外者じゃないわ。彼は私がこの街を治めるにあたって、日本神話から派遣された監査官だもの」
青髪メッシュからの苦情に苦虫を噛んだような表情で反論するリアス姉。
一見すると、監察官を置かれている現状に不満を覚えてるように見えるけど、本当は俺達が日本神話に籍を置いている事が気に入らないんだよな。
「それは失礼した。私はゼノヴィア、あそこにいるのは相棒の紫藤イリナ。先ほどの説明通り、聖剣奪還の命を受けている」
「駒王神社宮司の姫島慎だ。グレモリー女史の説明通り、この街での日本神話の監査官をしている。二度手間になって申し訳ないが、そちらの事情を聞かせてくれないか?」
俺の要請に小さく頷くゼノヴィア嬢。それによると、数日前にカトリックとプロテスタントが保管していた6本のエクスカリバーの内、3本が堕天使により強奪されるという事件が起きた。
教会は悪魔祓いを追撃させたが、多大な犠牲を払いながらも奪還は失敗。
生き残りが持ち帰った『聖剣が駒王町に持ち込まれた』という情報により、聖剣に適性のある彼女達が残存していたエクスカリバーを手に、この街を訪れたらしい。
リアス姉と対面していたのは、聖剣奪還に際して悪魔側に横槍を入れさせないための牽制だそうだ。
なるほど、大体は理解した。
とりあえず浮かんだ感想はアザゼルのおっちゃん、仕事しろである。
まあ、他にも溜まりに溜まったツッコミがあるので、処理していくことにしようか。
「説明をありがとう、ゼノヴィア嬢。2、3質問があるんだが、いいだろうか?」
「ああ。私に答えられる物ならな」
「まず、聖剣を奪取した者の目星は付いているのか?」
「ああ。今回の首謀者はコカビエル、堕天使の幹部だ」
「コカビエル、堕天使勢力における主戦派の急先鋒だな。前大戦の結果に固執するあまり、聖書の勢力が置かれてる現状が見えていないイメージがある男だったな」
「随分と詳しいな。奴に面識でも?」
「仕事がら色々なところにコネがあってね」
意外そうな顔のゼノヴィア嬢の追及にお茶を濁しておく。本当は親父の同僚で、事あるごとに『堕天使勢力に帰属しろ』と言ってくるウザさから覚えていただけなんだが、言ったらややこしくなるので黙っておこう。
「次に、エクスカリバーが複数存在するように言っていたが、それは教会が開発したレプリカということなのかな?」
「いや。エクスカリバーは過去に起こった神と悪魔の大戦の際、破壊されてしまったんだ。大戦が痛み分けで終結した後、教会は破壊されたエクスカリバーを回収して砕けた刀身を核に、錬金術で七本の聖剣に再構成した。エクスカリバーが複数あるのはそのためだよ」
俺はゼノヴィア女史の説明を聞きながら、顔が引きつりそうになるのを必死に耐えていた。
おいおい、なんで他神話の聖剣を聖書の勢力の内輪もめに使ってんだよ。
しかも、壊した上にその破片を改造したとか、嫌な予感しかしないんだが。
「なるほど。次に、何故エクスカリバーを教会が保管しているのかな?」
この質問にはゼノヴィア女史と相棒だけではなく、美朱を除いたオカ研メンバーも怪訝そうな顔をした。
「何故って、教会のものだからじゃないのかい?」
俺が入ってきてからずっと剣呑な雰囲気を発していた祐斗兄が口を開く。
さっきからゼノヴィア女史の持つ包みに殺気を飛ばしているのだが、なにかあったのだろうか?
「それは違う。エクスカリバーはケルト神話に登場するダーナ神族が創り出したものだ。聖書の勢力のものじゃない」
俺の言葉に部室内にざわめきか広がる。
「え、そうなの? リアス」
「知らないわよ、聖剣の由来なんて考えた事も無いわ」
「聖剣というくらいですから、てっきり教会の物かと」
「そう言えば、ゲームなんかでよく出てくるけど、元の伝説とかって知らないよなぁ」
「Mr.姫島、聖剣の正当な保有権は教会にある。憶測で物を言うのはやめてもらいたい」
「生憎と憶測ではないよ。では聞くが、聖書や教会の伝説にエクスカリバーの名前があったかな?」
「……聖書には名前は無かったと思う。ゼノヴィアは?」
「言われてみれば、教会から教わった逸話にデュランダルやアスカロンの名はあったが、エクスカリバーの名は無かったはずだ」
「エクスカリバーはアーサー王伝説で初めて姿を表したが、その原型はウェールズの伝説に登場するカレドヴールフ、それと同一視されるケルト神話の英雄フェルグス・マックロイが手にしていた魔剣、カラドボルグだと言われている。そもそもアーサー王伝説はケルト神話が根底を為すもので、聖書は関係ないんだ」
「……でも、アーサー王は伝説の終盤で、聖杯を求めていたと書いてありましたが?」
何気に読書好きな塔城が異を唱えてくる。聖杯探索はアーサー王伝説において、聖書と関わりを示す最も有力なものだからな。しかし、これにも事情があるのだ。
「それは文献を作った者の記述間違いだ。原典ではアーサー王が求めていたのは、聖杯ではなく食器とされている。これはダーナ神族の最高神ダグザが持っていた、無限に食料が湧き出る魔法の大釜の事を差しているんだろう」
「……なんでそんな間違いが」
「ケルト民族が文字を持たない民だったからだろうな。ケルトの神話や伝説は、ドルイドと呼ばれる賢人が口伝で伝えていたらしい。今ある書物はヨーロッパ本土からの渡来人が書き記した物だ。その中でケルト神話を知らない者が、神の器と聞いて聖杯と勘違いをしたんだろうさ」
因みに言っておくと、前世では架空の人物、器物とされていたアーサー王とエクスカリバーだが、この世界では実在している。
そういった前世との差が楽しかったので、子孫であるアーサーに資料とかを借りながら調べていた事があったのだ。
「なるほどな。礼を言うよ、Mr.姫島。エクスカリバーの来歴は勉強になった。だが、経緯はどうあれ現在のエクスカリバーの正当な所有者は、我ら教会の悪魔祓いだ」
「そうよ、今まで聖剣を守ってきたのは私達なんだから!」
こちらを見据えながら不敵な表情を浮かべるゼノヴィア嬢と、その後ろで誇らしげに胸を張りながらウンウンと頷く紫藤嬢。
こっちとしては、疑問ついでにイッセー先輩をはじめとした裏方面の知識の浅いメンツが、間違った事を覚えないようにウンチクを語っただけなのに、教会のエクスカリバー所有についてイチャモンを付けたと思われているようだ。
別にそんな気は無かったんだが……まあ、いいか。
しかし、泉の乙女に返還されたはずのエクスカリバーが、教会の手に渡っていたうえにぶっ壊れていたとは。
ペンドラゴン家の資料に載っていたのは返還までで、その後の足取りはなかったから解らなかった。
アーサーはこの事を知ってるのか?
「ねえ、慎兄。どうしてそんなに詳しいの?」
「アーサーから聞いた。あと、昔やったゲームに女神転生という超絶罰当たりなのがあって、それの影響で世界の伝説や神話を調べた時期があったんだ」
「ゲームかいっ!?」
「お前も人の事言えないだろ。しかし、教会はどうやって聖剣を手に入れたんだろうな……」
「たしか、アーサー王が倒れた後、侍従のベティヴィエールって騎士が泉の精霊に返すんだっけ」
「そう。だから、他の聖遺物みたいにどっかから発掘するなんて事は無いと思うんだが」
「でも、お話だとアーサー王は泉の精霊に認められて聖剣を貰ったんでしょ。教会にもアーサー王に負けないような立派な人がいたからじゃない?」
美朱と二人で首を捻っていると、紫藤嬢が口を開いた。自信満々なところ悪いのだが、そいつはありえないのだ。
「いや、それはない。たしか聖書の教えでは精霊や妖精って、排除あるいは忘れ去られた崇拝や畏怖の対象として捉えられることが多いんだろ? ワザワザそんな対象に剣を貰いに行くと思うか?」
「……問題ない。例え妖精の手にあったとしても、聖剣は人と神の教えを護るに足る力を有しているからな」
「そうよ。主の使徒である私達の手に使われた方が、穢れも落ちて本当の聖剣に近づけるというものだわ」
俺の指摘に二人は一瞬言葉を詰まらせたが、ゼノヴィア嬢が持ち直すと紫藤嬢もそれに追随する。
しっかしまあ、何とも傲慢極まりない言葉である。
「随分な意見をどうも。これじゃヨーロッパの土着神や妖精、精霊にとって、聖書の勢力が不倶戴天の敵になる訳だ」
「敵、ですか……?」
こちらの口から出た物騒な言葉に、困惑の表情を浮かべるアーシア先輩に小さく頷いて俺の話を続ける。
「神は人の信仰を糧にして存在し、その力を持って信者に様々な恩恵を与える。これは妖精や精霊も変わらない。しかし、聖書の教えが広まるに従って土着の神々は信者を失っていった。さらに、教会は土着信仰が根強い地域を未開の地、土着の神々を信じる者を蛮族や異教徒というレッテルを張り、あげくの果てに中世の魔女狩りで土着神や精霊の恩恵を得ていたドルイドや、魔術で人々の生活を支えていた者を次々と処刑した。これだけやられちゃあ恨まない方がどうかしてる」
比較的関係が薄いオカ研メンバーは難しい顔をしているだけだが、教会関係者だったアーシア先輩は顔を青くし、悪魔祓い二人組は不快げな顔でこちらを睨みつけている。
「Mr.姫島。随分な言い様だが、貴方は我ら教会に偏見でも持っているのか?」
「別に。こちらは歴史を元にした事実を述べているだけだぞ? 魔女狩りや他の宗教への蔑視は実際にあったことだろう」
「そんなの、主の教えに背を向けて異端の神を信じる人たちが悪いんじゃない! 私達は間違いを正すために頑張ってるだけ!! 異教徒だからって変な言いがかりはやめてよ!!」
口調は静かだが脇に置いた長物に手を掛けるゼノヴィア嬢に、口から火を噴くような勢いでこちらに文句を言ってくる紫藤嬢。
……どうやら盛大に機嫌を損ねてしまったらしい。
煽ったつもりはなかったんだが、悪魔祓いなんて過激派の前で教会の非を解説するのは、少々配慮が足りなかったようだ。
まあ、地元の国教から派遣されている監査官を異教徒呼ばわりするむこうも、大概配慮に欠けているが。
「その結果、聖書の勢力は世界中の神話勢力から恨みを買ったわけだ。そもそも、聖書の勢力は土着の神々と致命的に相容れない部分があるから、仕方ないところなんだろうがな」
「……相容れない部分、ですか?」
頭の上にハテナマークが見えそうな顔で、塔城は首を傾げる。まあ、解らんだろうな。宗教に興味が無ければ普通はこんなこと考えないし。
「聖書が唯一神を信仰する一神教である事だよ。聖書の教えでは聖書の神が唯一絶対の神であると教えられている、そうだな?」
「そうだ。万物を創りたもうた主こそが、万物の基準であり唯一の神であり、絶対の『善』なのだ」
「聖書の神の絶対性の是非は置いておくとして、この『唯一の神』という部分が曲者なのさ」
「えっと……どういう事だよ」
話に付いて行こうとしたのだろう、オーバーヒート気味の頭から湯気を出していたイッセー先輩が口を開く。
うん、解らんかったら解らんままでいいから、あんまり無理すんなよ。
「イッセー先輩、
「ああ。なんか近所の婆ちゃんが昔言ってたような気がする」
よほどうろ覚えなのだろう、ウンウンと唸りながら頭を捻るイッセー先輩の姿に苦笑いが浮かぶ。
「日本では古くから、山の神様、田んぼの神様、トイレの神様(
「素晴らしい考えだと思います。でも、何故それが私達の教えと相容れないのでしょうか?」
「簡単だよ。それは聖書の教えは唯一神、すなわち聖書の神以外を認めないからさ」
俺の答えに困惑気味だったアーシア先輩の表情が凍り付いた。
「聖書の勢力は他の宗教、神々について否定的だ。それは古代カナン地方、現在のシリア・パレスチナだな。そこで信仰されていたウガリット神話の主神であったバアル神と、その妻であり多産を司る豊穣の女神アスタルテを悪魔に堕とした事に現れている」
「えっと……ちょっと待ってくれ。神様って悪魔になるのか?」
「さっき神は信仰を糧にして生きるって言ったろ? それは即ち、神は人間の信じるイメージの影響を受けるということなんだ。聖書の勢力は旧約聖書の中で
「マジかよ……」
「少なくとも、多くの伝承や逸話ではそうなってるな。ところでイッセー先輩。主であるグレモリー女史を『糞山の王』と言われたらどう思う?」
俺の唐突な質問にイッセー先輩は呆気に取られた表情を浮かべたものの、言われた事を理解すると不機嫌そうに眉を顰める。
「そりゃあ……許せねえっていうか、言った奴見つけ出してぶっ飛ばすな」
「そうか。『糞山の王』ってのは、ベルゼブブのヘブライ語での意味だ。他にも『蠅の王』『糞の王』とも言われる。自身の信じる神を、自分が主と定めていた者を、そう貶められたウガリット神話の神や信者達は、そんな気分だったんだろうな。今挙げた様に、他神話の神や信者を否定しながら2000年もの間、勢力を拡大し続けた聖書の勢力は、世界中の神話勢力から嫌われている。その上、身内同士の戦争なんて自爆行為で勢力を衰えさせたから、あわよくばと報復の機会を狙ってるとこも結構多い。もし、どこかと揉めようものなら、他の恨みを持つ他神話の勢力が、徒党を組んで聖書の勢力を潰しに来るだろうな」
俺が言葉を切ると部室内に重い沈黙が降りた。現状を知っていた俺と美朱を除いて、他の者は顔色を青くしている。
悪魔祓いの二人が噛みついて来るかと思ったが、彼女達も青い顔を俯かせたままだ。
まあ、結構聖書の内容から引用して説明したからな。同じく聖書を知る者として、否定しきれなくて悩んでるといったところかな。
神職に就いてからこの2年間、三大勢力の外から現状を見る事ができた所為で、今の聖書の勢力がどれだけ詰んでいるかが良く分かった。
この現状に加えて、前大戦で主神にして聖書勢力唯一の神霊である聖書の神が死んでいる事を天照様から聞いた時は、日本神話に鞍替えしようかとガチに考えたものだ。
「ねえ、お兄様達はその事を知っているのかしら」
「ちゃんと把握してるよ。だからこそ、現ルシファーとレヴィアタンは平和外交に力を入れてるんだ」
死にそうな声に答えを返してやると、リアス姉の顔に少しだけ生気が戻った。
なんか『お兄様が動いているなら、大丈夫よね』とか小声で呟いては一人で納得している。
サーゼクス兄も大概だが、この人もブラコンだよな。
「ふむ、話を逸れてしまったな。最後に、君達の追っている聖剣にラピッドリーとかいう名前のものはあるかな?」
話が大いに脱線していたので軌道修正しようと声をかけると、ゼノヴィア嬢は紙のような色になった顔を上げる。
「ああ。
「今朝、こちらを襲ってきたカソック姿の白髪の男が、自身の聖剣をそう呼んでいた」
「その男はどこに?」
「両手足をへし折ってあばら骨をこじ開けてから、日本神話が運営している自警団の番所に叩き込んできた。自称聖剣もそっちに預けたぞ」
俺がそう口にした瞬間、またもや部室の空気が凍った。
「え、と……。そいつってさ、聖剣を持ってたんだよね? 君も何か伝説の武器を持ってたりするの?」
「いや、素手でボコっただけだが?」
「ちょっと待ってくれ。聖剣を、エクスカリバーを持っていたんだぞ。それを素手で倒すなんて……」
「いや、結構簡単だったぞ。ラピッドリーとか言ってる割には止まって見えたし。まあ、対将軍様用に関節技を磨いてたとこだから、実験台には丁度良かったけど」
そう言うと悪魔祓いの二人から信じられないモノを見るような視線を向けてきた。
やれやれ、あの駄剣がそんな大そうなモノかね?
数日前から重力制御室に現れるようになった、将軍様のほうがよっぽどヤバいと思うんだがなぁ。
いきなり『慎よ、私はついに打撃の速度で関節を極められるようになったぞ!』って入ってきて、マジに有言実行された挙句、骨を12回も折られたのは悪夢以外の何物でもない。
その後もちょくちょく来てはスパーを要求してくるもんだから、寝技の腕はうなぎ登りだ。
あ! そう言えば、将軍様からイッセー先輩に言伝を預かっていたんだった。
「毒蛭は嫌、毒蛭は嫌、毒蛭は嫌、毒蛭は嫌、毒蛭は嫌、毒蛭は嫌、毒蛭は嫌、毒蛭は嫌、毒蛭毒蛭毒蛭毒蛭毒蛭毒毒毒毒毒どどどどどどどどどど………」
「ちょっ!? イッセー君、どうしたの!?」
「慎君が将軍様の名前を出したから、トラウマのスイッチが入っちゃったみたいです!」
「将軍様って誰よ!? イッセー! しっかりして、イッセー!!」
おや? 虚ろな表情で頭を抱えたイッセー先輩にリアス姉達が集っているぞ。聞くに俺の言葉がトラウマを刺激したらしい。
本来なら、そっとしておくところなんだが、悲しいかな俺も弟子の身。師匠の命は守らねばならないのだ。
「イッセー先輩。この頃、鍛錬をサボってるのを将軍様が怒ってたぞ。このまま怠惰を貪るようなら、現世に出張ってスパー12本だってさ」
「いやぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁぁ!?」
「イッセー!?」
「イッセーさん!?」
俺の言葉に錯乱したイッセー先輩は、集っていた三人を押しのけて部屋の隅へと逃げてしまった。少しでも人目を避けようと、日陰で震える段ボール箱を被った姿が無性に哀愁を誘う。
将軍様の言葉はただの脅しなんだから、あんなに怯えなくてもいいのになぁ。
……脅しだよね?
「さて、俺は今から聖剣とキ●ガ●の様子を見に行くつもりだが、お二人さんはどうする?」
「あ……いや……」
ソファから腰を上げながら、悪魔祓い二人に声をかけてみたが、彼女達はお互いに顔を見合わせるだけで、返事は返ってこない。
ふむ、さっきは少々イジメすぎたかね?
まあ、着いてこないのなら、それはそれで構わない。
むこうに行った際のトラブルのリスクと説明の手間が省けるだけだ。
軽く伸びをして移動しようと踵を返すと、携帯から軽快なメロディーが流れた。
画面を確認すると発信者の欄には久延毘古様の名が浮かんでいる。
農業主体の久延毘古様が携帯を掛けてくるとは珍しい。なにかあったのだろうか?
「はい、姫島です」
「おお、坊主か。急にすまんな」
「いえ、どうかされたのですか?」
「ダーナ神族が聖書の勢力に戦争を仕掛ける事にしたらしい」
……は?
ここまで読んでくださってありがとうございます。
今回の話を書くにあたって、ネットや図書館でアーサー王の事を調べたのですが、時代が進むにつれて、設定やら人物やらが次々追加されていくので、色んな話があるんですよ。
(泉の騎士と王妃の不倫やら岩に刺さった剣は後づけ。トリスタンは別の話のキャラ)
原作では、しれっとエクスカリバーは教会の物として扱っていたのに違和感を覚えたのが始まりだったのですが、ここまで深いとは…。
今回の教訓は、エクスカリバーを容易に創作に使ったらヤバいということですね。
さて、今回の用語集です。
〉久延毘古 日本神話に登場する神。案山子が神格を得たもので、神名の「クエビコ」は「崩え彦」、体が崩れた男の意で、雨風にさらされて朽ち果てた案山子を表現したものと言われている。
田の神、また、学業・知恵の神として信仰されており、久氐比古神社などで祀られている。
〉バアル神 カナン地域を中心に各所で崇められた嵐と慈雨の神。その名はセム語で「主」を意味する。
ウガリット神話では、最高神イルと全ての神々の母アーシラトまたはアスタルトの息子と呼ばれる。
穣神として崇められ、海神ヤム(ヤム・ナハル)や死の神モートの敵対者とされる。
旧約聖書の列王記下では、預言者エリヤがバアルの預言者と争い、神の偉力をもってバアル信者を打ち滅ぼしたことが書かれている。
バアルは旧約聖書の著者達から嫌われており、もともと「バアル・ゼブル」(崇高なるバアル)と呼ばれていたのを「バアル・ゼブブ」(蝿のバアル)と呼んで嘲笑した。
この呼称が定着し、後世にはベールゼブブと呼ばれる悪魔の1柱に位置づけられている。
〉アスタルテ ウガリット神話に登場する、メソポタミア神話のイナンナ・イシュタルの系譜を受け継ぐ愛と豊穣の女神。
同じくイシュタルの系譜であるアナトが美しいと称されるのに対し、アスタルテは愛らしいとされる。
この女神はカナンなどでも崇められており、旧約聖書にも、主要な異教の神としてヘブライ語形 アシュトレトの名でしばしば登場する。
この旧約聖書におけるアシュトレトが、後にヨーロッパのグリモワールにおいて悪魔・アスタロトとされた。
今回はここまでとさせていただきます。また次回お会いしましょう。