MUGENと共に   作:アキ山

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 毎度ながら、お待たせしました。
 13話完成でございます。



13話

 『第三の無限』

 ダヌー様の口から出たこの言葉に、俺はボケていた頭に喝を入れた。

 天照様の口ぶりでは、俺がそうだというのは結構な機密のように思えた。

 一見おっとりした女性に見えても、天照様は神世から一神話勢力を背負ってきた女傑だ。

 そんな方が早々に機密情報を漏らすとは思えない。

 だとすれば、ダヌー様は一体どこで知ったのだろうか?

「警戒する必要はありません。誰かに聞いたのではなく、私は夢であなたの事を知ったのです」

 ……さらりと心を読まれた事は置いとくとして、ダヌー様の言葉に俺はある程度警戒を解くことが出来た。

 夢と聞けば、多くの人が胡散臭いと思うかもしれないが、神の見る夢というのは人間のそれとは全くの別物だ。

 一説によると、主神クラスの神の無意識はアカシック・レコードに繋がっており、自身にとって必要な情報を夢に形を変えて受け取る事があると言う。

「なるほど。しかし、俺ごときの事がダヌー様の夢に出るものですか?」

「『無限』とは創世からこの世界を支えてきた力。今まで二つの龍神以外には持ちえなかったそれを持つ者が現れたのです。私だけでなく多くの主神がそれを感じ取ったことでしょう」

 ダヌー様はこう言うが、生憎と実感なんてさっぱりだ。

 無限の闘争は生まれてからずっと共にあったのだ、今更『無限』だの何だのと言われたって困る。

「と言われても、実感がわかないものですね。けど、生まれてからずっとこの力を使ってたのに、なんで今頃になって騒ぎだしたんでしょう?」

「それは生まれながらにして完成された他の二つとは違い、貴方が司どるのが無限の進化だからでしょう。強者に挑み、打ち倒す事で己が身を高める。その意志が折れぬ限り、無限の頂へ手が届く可能性を持つ者。それ故に今まで私達は、貴方の存在に気づかなかった」

「つまり、俺が主神達に『無限』と感じるくらい強くなったから気づいた、と」 

「正確に言えばその片鱗を見せたからでしょうね」

 なるほど。というか、神様の夢すごいな。無限の闘争の事を、此処まで言い当てられるとは。

「いきなり自覚を持てと言われても難しいでしょうね。ですが、これだけは心して下さい。これから望む望まざるに関わらず、貴方の行動は多くの者の注目を集める事になるでしょう。貴方の宿す『無限』という力は、それだけの価値があるのです」

「貴女のように、ですか?」

「ええ。私がここに来たのは、貴方という存在を見極めるためですから」

 ニコリ、と見る者全ての心を解きほぐすような笑顔を浮かべるダヌー様。

 しかしその目は笑っておらず、こちらの奥底を見抜かんと鋭い光を宿している。

 ……観察の結果しだいでは我が身を犠牲にしてでも俺を消す事も覚悟してるな、これは。

 虫も殺さないような顔してるクセに恐ろしい方だ。

「それで、結果はどうですか?」

「今のところは何とも。ですが、貴方が日本神話に属しているのを見て安心しました。悪魔達が貴方の本質を知れば、その力をカサに再び蛮行を行いかねませんから」

 あー、やっぱり悪魔はそういう認識なんスね。……知ってたけど。

 擁護しても効果が無いのはわかっているので適当に会話を切り上げると、他のみんながこちらを注目しているのが目に入った。

「えーと、いまの聞いてた?」

『聞こえたー!』

「……ばっちり」

 ハティ様とイタチの耳を出した旋風がピコピコと耳を動かしてアピールし、他のみんなも頷いている。

 ……しまったな、情報漏えいとか言われなければいいが。

 番所の面子に関しては、みんな口々に『逆に納得がいった』だの『お前さんがおかしいのは今更』だのと失礼な事を言っていたので、皆の態度が変わると言ったことは無いようだ。

 取り敢えず『機密っぽいから他では漏らさない様に』と注意を促していると、不意に地面が揺れた。

 ……大気に含まれた氣が大きく揺らいている、ただの地震じゃない。

「久延毘古様!」

「何者かが地脈に強く干渉しておるな。このままでは一刻を待たずして、大規模な地盤沈下で街は壊滅するぞ」

「レイ・ラインを通して聖剣の波動を感じます。どうやら術式の発動媒体に、エクスカリバーの欠片が使われているようですね」

 巨体を屈めて地面に手を置いた久延毘古様とその傍らに立つダヌー様が、それぞれの見解を述べる。

「対策は?」

「もう始めておる。聖剣を媒体にしている為に術を返すことは出来ぬが、発動の邪魔をするのならば容易い」

「どのくらい時間を稼げそうじゃ?」

「うむ、ここで専念すれば半日は固いぞ」

 久延毘古様と少彦名様のやりとりに、俺達は一気に緊張が抜けてしまった。

 30分足らずが半日って、時間的余裕が増え過ぎだ。

「随分と余裕がでちまったなぁ」

「……長老、がんばりすぎ」

『ごはん食べて、お休みしても大丈夫そう』

「流石は久延毘古様! 土の神は伊達じゃないね」

呵々(カカ)、我が身はこの地に根差す土地神ぞ。地脈に関しては遅れは取らぬわ」

 みんなの称賛(?)を浴びて大笑する久延毘古様。

 久延毘古様って長老扱いされて現場に出ないから、こういったリアクションとかされないもんな。

「とはいえ、ノンビリしておるわけにもいかんじゃろ。ダヌー殿、聖剣の波動の在処はわかりますかの?」

「はい。ここから西に行ったところにある、悪魔の結界のすぐ近くです」

 久延毘古様の肩に乗った少彦名様の問いに、ダヌー様は方角を指で示しながら答える。

「そっちで悪魔の結界があるのって」

「駒王学園だな」

 コカビエルのおっさんの事だ。リアス姉が街にいると思って、挑発のつもりでやらかしてるんだろう。

 しかし、この街自体を的にかけやがるとは、元々ヤバかった堕天使の評価が底値を割っちまうじゃねーか。

 今まで積み上げてきた努力がバンバン消えていくのが理解できるというのは、ストレスが半端無い。

 この代償は身体で支払ってもらうしかないだろう、主にサンドバック的な意味で。

「皆の者、我と彦名はここで術の発動を抑える。お主らは元凶を叩くのだ」

「了解しました。ダヌー様、我々は戦場に向かいます。貴女は少彦名様の術で高天原へ」

「いいえ、私も行きます。日本神話が治める土地の崩壊に、我らの聖剣が使われているのを見過ごすわけにはいきません」

 ダヌー様の言葉に思わず眉根が寄る。人数的にこちらには彼女に護衛を着ける余裕はない。

 無礼は承知だが、敢えて苦言を言わせてもらおう。

「危険です。この地で貴女にもしもの事があれば、日本神話とダーナ神族の不和に繋がるのですよ」

「それなら心配には及びません。じつは先程の襲撃の際、救援を手配していたのです。もう着くと思うのですが……」

 ダヌー様がそう呟くのと同時に、俺達の数歩後ろで風が巻き起こった。

 吹き上がる風がおさまると、そこには見覚えのある騎兵達が列を成している。

母神(ははがみ)様、遅参(ちさん)申し訳ありません。お怪我はありませんか?」

 騎馬から降りてダヌー様に跪いたのは、夕方に出会ったヌァザ神だ。

「ええ、彼らのお陰で事なきを得ました。ですが、堕天使によって仕組まれたこの地を崩壊せんとする術式に、我らの聖剣が用いられようとしています。日本を友とする者として、この事態を看過はできません」

「承知しました。御身を護り、この地を荒らすカラス共を駆逐いたしましょう」 

 宣誓と共に(とき)の声を上げる騎兵達。

「どうですか、これなら問題ありませんね?」

 こちらに笑みをむけるダヌー様に、俺は苦笑いで両手を上げた。

 ダーナ神族最強クラスの戦神なんて呼ばれたら、文句なんてつけられない。

 俺達のやり取りを後目に立ち上がったヌァザ神は、こちらの前まで来ると深々と頭を下げた。

「皆様。我らが母神の窮地を救っていただいた事、感謝いたします」

「頭を上げられよ、ヌァザ殿。我等は古くからの盟友、この程度は当然の事だ」

 久延毘古様が声を掛けるが、ヌァザ神は頭を下げたままだ。

「しかし……」

「借りと思うならば、儂や久延毘古の代わりにあやつ等を気にかけてやってくれ。三郎は兎も角、他の者は将来ウチを背負って立つかも知れん逸材じゃからな」

 少彦名様の言葉に、頭を下げたままこちらを向いたヌァザ神は、納得の表情を浮かべて姿勢を戻した。

「承知しました。彼等を生きて帰す事を誓いましょう」

「ウム、頼み申す」

 久延毘古様の言葉に一礼を返したヌァザ神は、今度は俺の前に立ち、ニヤリと笑みを浮かべる。

「また会ったな、監査官殿」

「ええ。『次は戦場で』というヌァザ様の言葉は当たったようですね」

「そのようだ。貴殿の力、期待させてもらうぞ」

「こちらこそ」

 目の前に差し出されたヘコミの無い銀の手を、俺はしっかりと握りしめた。

 

 

 

 

 商店街を抜けて数分。

 慣れ親しんだ通学路は今や戦場と化していた。

 光の槍や魔術に呪術が飛び交う中、此方へ放たれた魔力弾を紙一重で躱した俺は、驚愕の表情を浮かべる中級悪魔(・・・・)を地面に蹴り落とし、こちらの隙を突こうと光の槍を手に躍りかかる天使(・・)を裏拳で叩き伏せる。

 そう、天使と悪魔だ。

 何故かは解らないがこちらに向かってくる敵の中には、コカビエル配下の堕天使に混じって天使や悪魔の姿があるのだ。

「慎坊、三勢力の奴等は停戦を望んでたんじゃなかったのか?」

「ああ。むこうの責任者から、天照様を通じてダーナ神族に停戦を申し込んでいるはずなんだが……」

「……だったら、こいつ等はなに?」

「悪魔についてなら二、三心当たりがあるけど、天使についてはさっぱりだ」

 瞬きする間に10体の悪魔と堕天使を斬り伏せた三郎の兄貴と旋風に、答えにならない言葉しか返せない。

 これが下級天使や転生悪魔ならば、三勢力のはぐれ者を纏めたのかと思うが、遭遇する悪魔や天使は中級から上級ばかり。

 悪魔は旧魔王派か現政権に既得権益を侵された貴族、もしくは現魔王に不満を持つ老害共といったところだろうが、天使の方はまったく解らない。

「下の手綱もまともに握れないとは、三勢力の首脳陣は随分と杜撰なのですね。ダグザが出ている停戦交渉も、これでは怪しいものです」

「ええ。停戦を結んでも、彼等の管理出来ていない別集団に襲われるのでは、意味がないですからな」

 宙に召喚した巨大な火球によって、数十の敵を焼き尽くすダヌー様。

 そして彼女を護りながら『不敗の剣』で天使達を斬り捨てるヌァザ様の漏らした会話に、頭を抱えたくなる。

 こっちが戦争にならない様に必死になってるのに、なんでこう廻りが足を引っ張りまくるのか。

 今まで世話になった人達に不義理かまして日本神話に所属したのも、リアス姉達が巻き添えにしない為に祐斗兄に嫌われる覚悟で送り返したのも、全部無駄だとでも言いたいのか、おい。

 考えれば考える程に頭に血が上っていく。

 邪悪だの異神だのとほざいている天使の顔面にヤクザキックをかますと、力加減を間違えたのか上半身がバラバラになった。

 一瞬の静寂の後、そいつの仲間が口々に罵詈雑言を浴びせてくる。

 戦場に出ておいて、仲間が死んだくらいで何をガタガタと……。

 そんな戯言をほざくくらいなら、こんな場所に首を突っ込まなければいいのだ。

「じゃかあしいわ、このクソったれ共があぁぁぁぁっ!!」

 沸騰しそうな頭でなんとか皆から離れた俺は、今までのストレスを込めて加減もへったくれも無しのレイジングストームをぶっ放す。

 無意識の内に潜心力を使っていた為か、それとも全力全開で放った所為か。

 手を地面に叩き付けた瞬間に生じたのは、氣の暴風ではなく天から降り注ぐ雷の群れだった。

 雨霰と降り注ぐ雷撃は敵陣の中央で荒れ狂い、恐慌状態に陥った天使や悪魔、堕天使達を次々と薙ぎ払っていく。

 そして、技を終えた時には数百はいたであろう敵は全て地に伏せていた。

「やるじゃねえか、慎坊。お前さんもついに雷撃を放てるようになったな」

「……雷撃(物理)じゃなくなった。おめでとー」

「よかったじゃん、慎兄もついに飛び道具が実装されたね」

 今までの不遇さを知る番所のメンツからの祝福の声がちょっぴり目に染みる。

 いや、今のは飛び道具じゃないんですけどね。

 レイジングストームを撃ったつもりが、まさかサンダー・ブレイクに化けるとは思わなかった。

 ともあれ、自分が潜在超必殺技使いの仲間入りを果たしたと思うと、胸が熱くなるか。

 よし、次の目標はデッドリーレイブだ。

 え、虚空烈風斬(こくうれっぷうざん)

 烈風拳すら体得できない俺にはいらない子ですね。

 身内限定の寸劇はさておき、敵を排除してから駒王学園へは10分ほどで到着することが出来た。

 校庭に足を踏み入れた俺達を迎えたのは、結界に閉じられた夜空を覆う、先程を倍する三勢力混合軍。

 そして、その中心からこちらを見下ろすコカビエルと、鬼太郎みたいに前髪で片目を隠して黒い高そうな服を着た上級悪魔に両手に剣を携えた最上級天使。

 さらには、校庭の中央で聖剣を手に立っている司祭姿のおっさんだ。

「ようこそ、劣等なる多神勢力と薄汚い雑種よ」

 最上級天使のこちらを見下した台詞に、ダヌー様の護衛の幾人かがいきり立つが、ヌァザ様の叱咤で大人しくなる。

 俺達や番所の面子は、奴の言葉などどこ吹く風だ。

 ああいう手合いは無視するに限る。

 下手に構ってやるから、余計につけあがるのだ。

「グレモリーとシトリーの妹の姿が見えんが、何処に行ったのだ?」

「リーア姉と会長なら冥界に帰ったよ。こんな状況でいつまでも地上に残すわけないじゃん」

「ふん。我が身可愛さに領地を捨てて逃げるとは、やはり偽りの魔王の血族だな。その卑しさは隠せんか」

「みんなが冥界に帰ったのは、日本神話が退去命令を出したからなんだけど」

 コカビエルのおっさんへ向けた美朱の答えに、さらに噛みつく上級悪魔。

 先程から、奴はこちらに殺気を飛ばし続けているのだが、憶えがない。

 うーむ、何かで恨まれるような事をしただろうか?

 あの大昔の少女漫画に出てくるようなクセ毛の鬼太郎ヘアー、どっかで見た事のあるような気が……。

「おい! 貴様、聞いているのか!?」

 鬼太郎君(仮)の事を思い出そうと頭を捻っていると、当の本人から怒鳴られた。

「すまん、全く聞いてなかった。というか誰だ、あんた?」

「私はシャルバ・ベルゼブブだ!! 三年前に我が計画の邪魔をし、あれだけの屈辱を与えたというのに、覚えていないだと!?」  

 シャルバ・ベルゼブブ……、シャルバ・ベルゼブブ……、ベルゼブブで三年前の事?

 いかん、全く思い出せん。

「慎兄、あれだよ。ミリ君誘拐の主犯格」

 ミリキャスの誘拐犯……、旧魔王……、関節技……

「……おおッ! 小便漏らした上に泣きながら命乞いした旧魔王のボンボンか!!」

 やっと思い出した。

 そうだ。人間の武術などに手を出す愚物、とか言って見下してたから関節技の練習台にした兄ちゃんだ。

「慎坊。お前さん、あの兄さんに何したんだ? ションベン漏らして命乞いなんて尋常じゃねえだろ」

「ん? 世話になった人の息子誘拐しやがったから、両手足と背骨、肋骨をへし折った」

「それはまた随分と酷い仕打ちを……」

「ムゴイホー」

「スッゴいやりすぎって感じ。お兄さんって怖い人だったんだー」

「……げどー」

『そうかな? 群れの仲間に手を出したのなら、そのくらいはするでしょ。生かしてやっただけ優しいと思うけど』

 ……弟分を浚われたなら正当防衛だと思うのだが、解せぬ。

 あと、ハティ様は家に帰ったら桜餅を追加で100個、食べて良し。

『やったー!』

「で、何の用だよ小便たれ。また泣かされに来たのなら、忙しいから後にしろ」

 挑発してやるとシャル……? シャロ……? もう鬼太郎君(仮)でいいや、が顔を真っ赤にして手から光線を放って来たので、ブロッキングで軽く捌いてやる。

 確か、あの光線は触れた物を異次元に飛ばすって代物だったな。

 まあ、問答無用で何でも転移させるわけじゃなく、自身より力の低い者しか飛ばせないと言う何ともしょっぱい技なんだが。

「貴様……ッ!?」

「下らん挑発に熱くなるな、ベルゼブブ。どうせ奴らは生きては帰れんのだ」

 さらに攻撃を放とうとしていた鬼太郎君(仮)を嗜める最上級天使。もっともらしい事を口にしているが、その目を見れば相手を見下しているのが丸わかりだ。

「はじめまして、諸君。私の名はアズラエル。天界に置ける主戦派の代表と覚えておけばいい」

 軍勢から一歩前に出て、慇懃無礼(いんぎんぶれい)な態度で頭を下げるアズラエル。

 天界と堕天使の主戦派に旧魔王、嫌な予感しかしない取り合わせだ。

「さて、君達には我等『禍の団(カオス・ブリゲード)』初陣を飾る生け贄として、死んでもらう事になる。劣等なる君達が、我等の手に掛かる事を光栄に思うがいい」

 自分に酔っているのが丸分かりの恍惚(こうこつ)な表情で語るアズラエル。

 『禍の団』ねぇ。そんな厨二臭全開の香ばしい名前を名乗って、恥ずかしくないんだろうか。

「天使さんよ。主戦派名乗ってんのに、悪魔や堕天使と組むってのは、どういう了見だい」

 龍人の姿で腕を組む三郎の兄貴に目をやったアズラエルは、小さく鼻を鳴らした。

「野蛮な龍と話す趣味はないが、この国には冥土の土産という言葉もあるそうだからな。特別に答えてやろう」

 傲慢な言い草と共に此方に向き直るアズラエル。その顔に浮かぶのは、先程までの道化じみた愉悦ではなく、憤怒と憎悪だ。

不倶戴天(ふぐたいてん)の敵同士の我等が手を組んだのは、三大勢力間で和平を結ぶなどとホザく現政権を戦乱に陥れ、打ち倒すため! そして、我等の最終目標は再び三大勢力による大戦を起こし、真の決着をつける事だ!!」

 瞬間、空気が凍った。

 俺達のアズラエルに向ける視線が、一気に氷点下を超える。

 これだけ他の勢力に迷惑をかけておいて目的は内輪揉めとか、どんだけアホなんだよコイツ等。

「えーと……、それなら何で俺達にチョッカイを掛けてきたんだ? お前さん等の目的とは関係無いだろうに」

「関係ならあるとも。現政権の愚か者共は、あろうことか貴様等多神勢力を怖れていた。いつ徒党を組まれて襲いかかられるか、とな。平和外交などと謳う冥界政府の負け犬外交を見ればその腰抜け具合は明らか。だからこそ、我等は貴様等に手を出したのだ。貴様等を打ち倒し嘗てのように我等の足元に跪かせる事で、愚劣な現政権よりも我らのほうが優秀である事を示し、至高たる三大勢力が貴様等劣等種を怖れたという耐えがたい汚点を雪ぐ為にな」

 なんとも傲慢で自分勝手な言い分に、こちらの面子の大半は眉根を寄せる。

「聖書の神に創り出された傀儡如きが大言を。貴方達だけで多神話勢力を相手にして、勝ち目があると思いますか?」

「勿論だとも。こちらには天使と堕天使の主戦派、そして旧魔王の息子とそのシンパがいるのだ。腑抜けた現政権とは違う、大戦を見越して己を高め続けていた我々が戦線に立てば、劣等種である貴様等が破れるのは当然。あとは貴様等の屍の上で、今回こそ雌雄を決するするのだ!」

 高らかに叫ぶアズラエルの言葉に、俺の口からは乾いた笑いしか出なかった。

 ……終わった。

 頭の中にあるのは絶望の一言だ。

 太陽が姿を消して久しいが、高天原は月読様か誰かの手で、こちらの様子をモニターしているだろう。

 なら、停戦交渉に出た面々も目の前の馬鹿共の事を知ったはずだ。

 天照様やダグザ神が、過激派同士の結託を許して世界中に喧嘩を売るような組織を生み出してしまった三勢力首脳と、条約を結ぶはずがない。

 つまり、俺の今までの努力は全部無駄って事だ。 

「さて、これから貴様等の処刑を始めるのだが、我々が手を下す前に、少し余興を楽しませてやろう」

 こちらを見下ろしながら嫌な笑みを浮かべたコカビエルが軽く腕を振るうと、校庭に二つの魔法陣が浮かび上がり、そこから巨大な影が飛び出した。

 三つ首それぞれの口から涎を垂らし、こちらにむけて唸っている二頭の魔獣。

 それを見た瞬間に沸き起こる更なる頭痛と胃痛に、思わず呻き声を上げてしまう。

 俺達の眼前に居るのは『ケルベロス』で間違いないだろう。

 ハーデス様が支配する冥府の番犬。日本でもRPGやファンタジーのサブカルチャー全般で有名なモンスターである。

「……なあ、コカビエルのおっさん。コイツ等どっから持ってきた?」

 キュッと縮む胃を押さえながら声を絞り出すと、コカビエルはこちらに聞こえるように鼻を鳴らした。

「冥府からに決まっているだろう。あの干からびた老いぼれではまともに使う事も出来んようなのでな。俺が有効利用してやってるのだ」

 ……コイツ等、ダーナ神族だけじゃなくて、オリュンポスにまで喧嘩を売りよった。

 冥府のハーデス様と言えば三勢力嫌いで有名なのに、どうやってフォローしたらいいんだよ、これ。

 ネズミ算式に悪化する状況に、考えるのが嫌になってくる。

 そもそも、なんで俺がここまで気を揉まなきゃならんのか。

 こういうので頭を悩ますのは、シスコン魔王や厨二病のおっさんの仕事のはずだ。

 というか、ここまで事態が悪化しているのは、だいたい向こうの不手際が原因じゃないか。

 ああ、イライラする。

 本当にイライラする。

 そろそろ我慢の限界だぞ、オイ?

 ゆっくりと顔を上げた俺の眼を見た途端、こちらに向けて唸っていたケルベロスが、尻尾を股に挟んで口々にキャンキャンと泣き始めた。

 コカビエル達が懸命にけしかけようとしているが、当の二頭はその場に伏せて動こうとしない。

 なんだか知らんが、これはありがたい。

 こいつ等を傷つけたら聖書はもちろん、日本神話やダーナ神族までハーデス様に責任を追及される可能性がある。

 何より犬派な俺の精神衛生の為にも、動物虐待は勘弁願いたい。

「クッ、この役立たずの犬ッコロめ! バルパー、統合したエクスカリバーと自らの手で強化したその肉体の力、ここで見せてみろ!!」

「よかろう! 我らの手にあった物と愚鈍な悪魔祓いから奪った二本。四つの欠片を統合した聖剣の力と、適正者の身体を調べ上げて調整した我が肉体の冴えをとくと見るがいい!!」

 いくら叱咤しても襲い掛かろうとしないケルベロスに痺れを切らしたコカビエルの声に、聖剣を手に神父らしき男が前に出る。

 司教というよりも、行き過ぎたオタクのようなイメージを感じさせるおっさんは、こちらを見てニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべる。

 ……キモいから止めろ。

 オ前モ俺ノストレスヲ増加サセルツモリカ。

「ふんはぁぁっ!!」

 聖剣を正眼に構えたおっさんが気合を入れると、それに呼応して全身が膨張し、瞬く間に分厚い筋肉に覆われた大男へとその姿を変える。

「ふははははははっ! これが聖剣の担い手としての究極の肉体! それに最強の聖剣であるエクスカリバーが加わればまさに絶対無敵! 最強の聖剣使いとなった私の手にかかる事を光栄に思うがいい!!」

 聖剣を大上段に構え、高笑いを上げながら突っ込んでくる変態マッチョ。

 しかし、当人のビックマウスとは裏腹に、その突進速度は欠伸が出るほどに遅い。

「キョエェェェェェッ!!」

 珍妙な奇声と共に振り下ろされる刃。

 聖なるオーラの軌跡を描いてこちらの肩口に吸い込まれたそれは、その輝きとは裏腹に制服の布地一枚も斬る事無くその動きを止めた。

 目の前にある驚愕に歪んだ不細工面と肩に置かれた鈍らを見比べて、ため息をつく。

 究極の聖剣使いに最強の聖剣、ね。

 ご先祖ちゃんの例もあるから硬氣功(こうきこう)を全開にしていたんだが、見掛け倒しも此処まで来ると笑いも出ない。

 この茶番と三つ首ワンコが余興とか、人を舐めるのにも程がある。

 ……いい加減、ブチキレてもいいよな。

 肩口に乗っていた剣を払いのけ、踏み込みと共に裏拳を放つ。

 一切手加減しなかった『不動殺活裏拳(ふどうさっかつうらけん)』は、マッチョが咄嗟に盾にした聖剣の刀身を粉砕し、そのままの勢いでおっさんの頭を消し飛ばした。

 頭部を失って崩れ落ちるおっさんを尻目に敵陣の中央まで駆け抜けた俺は、硬氣功に使用していた氣を全て攻撃の為の物に変換する。

イメージするのはさっきの感覚。

 あの時は偶然だった技も今ならモノにできるような気がする。

「サンダァァァァァァァァァッ! ブレイクッ!!」

 練り上げた氣の全てを込めた両手を地面に叩き付けると、先ほど以上の密度の落雷が俺の周囲を荒れ狂う。

 天から(こうべ)を垂れる紫電の大蛇達は、状況が理解できていない『禍の団』の構成員を次々と呑み込み、思うがままに蹂躙していく。

 そして、技の効果が終わった頃には、天を覆っていた軍勢の半数が消滅していた。

「なんだ、今の雷撃の威力は!?」

「誰だ! あの双子は人間よりの出来損ないと言った奴は!?」

「馬鹿なっ!? 人間風情がここまでの力を持っていると言うのか!」

 今の一撃で奴らは蜂の巣を突いたような騒ぎになっているが、そんな事は知った事じゃない。

 舞空術で敵の中に突っ込んだ俺は、周りにいる奴等に片っ端から拳を叩き込む。

 ボディを撃てば腹部が丸ごと吹き飛び、首筋に手刀を放てば頭が胴から離れ、回し蹴りは複数人の上半身を薙ぎ払う。

 加減をする気が一切無い攻撃は、種族や階級の区別なく、次々と奴等を肉塊に変えていく。

「ふははははははっ、どいつもこいつも死ねぇぇぇぇい!!」 

 我知らず普段なら言わないようなセリフが口を付くが、テンションが上がり過ぎて気にならない。

 頭の中が沸騰しそうなほど熱いのに、思考はスーッと冷たい。

 普段は頭の片隅に機能しているはずの常識のリミッターも、今はまったく働く気配を見せない。 

 この『どうにでもなれ』という感覚は本当に久しぶりだ。

 今まで積み上げてきたモノを根こそぎ台無しにされたんだ。たまにはこの感覚に任せて暴れまわっても、バチは当たらんだろう。

「……これほどの雷撃を放てるとは、さすがはバラキエルの息子といったところか」

 声の方を向くと防御の為か身体を覆っていた黒の羽を広げたコカビエルと、躱しきれなかったのか身体の所々に焦げ目を作った鬼太郎君(仮)とアズラエルの姿がある。

 一匹くらいは死んでるかと思ったが、そうはいかないようだ。

「やってくれたな、小僧」

「騙し討ちとは、この下賤者め!」

 感心しているのはコカビエルのおっさんだけで、他の二人はおかんむりらしい。

 もっとも、ブチキレ具合ではこちらの方が数段上である。

「下賤だぁ? そういうセリフは鏡見て言えよ、小便たれが」

「貴様ぁっ! 一度ならず二度までも、このシャルバ・ベルゼブブを愚弄するとは、万死に値するぞ!!」

「ベルゼブブってのは、ヘブライ語で『糞の王』って意味らしいじゃねえか。シモの緩いお前にはお似合いの名前だな。で、そんな名前を名乗るって事は今度は小便だけじゃなく、糞も漏らすのか?」

「~~~~~~ッッ!? 殺す! 殺してやるゥゥゥゥッ!!」

 こちらの罵倒に我慢が振り切れたのか、魔力弾と光線をやたらめったらと撃ちまくる鬼太郎君(仮)。

 こうも易々と挑発に乗るとは、底の浅い奴だ。

 それにこの攻撃。

 三年前と比べて、何も成長していない。

 敗北と土の味を噛み締めても強くなろうとしないとは、まったく話にならんな。

 サクサクと躱していた回避運動を止めると、あっという間に光線と魔力弾が視界を埋め尽くす。

 観念したと勘違いしたのか、鬼太郎君(仮)の顔が嗜虐に染まるのが見えた。

だが、この程度なら避けるまでも無い。

「かあぁッッ!!!」

 目の前に放った気合によって、視界を覆っていた攻撃は煙の残滓を残して消滅する。

「な、なにが起きたのだ!?」

「バカな……」

「あの攻撃を気合だけで掻き消しただと……!?」

 狼狽えるアズラエルと鬼太郎君(仮)に、事態をいち早く把握するコカビエルのおっさん。

 この辺は実戦経験の差だろうが、そんな事はどうでもいい。

 煙を裂いて接近する俺に、鬼太郎君(仮)が離脱しようとするが、遅い。

「つーかまえた」

 右腕を獲られた事で三年前の事が頭を過ぎったのか、蒼白になった片目面に笑顔を返すと、俺はそのまま奴の手首を握り潰した。

「ぎゃああああああああああっ!?」

 さっきまでの余裕はどこへやら、情けない悲鳴を上げる鬼太郎君(仮)。

 そのまま折れた手を引き寄せてチョーパンをかますと潰れた鼻から噴水の様に血が噴き出した。

 そこからさらに二発、三発と頭突きをかましてやると、イケメンの部類だった顔が潰れたイケてない面に変わる。

 心情的には十発は殴りたいところだが、片づけなければならない奴はまだ残っているので、この辺で我慢すべきだろう。

 俺は抵抗が薄まった鬼太郎君(仮)の背後を取ると、奴の身体を足元に敷き顎と足首をホールドした。

 そして、膝立ちなった両足を背骨と骨盤の位置に当てて固定すると、舞空術で地面に向けて加速する。

「うああああああああああぁぁぁぁぁっ!?」

 重力と氣勢による勢いで、急速に地面が迫ってくる光景に絶叫する鬼太郎君(仮)。

 それも地面が間近に迫った事でこちらが両手を絞って、奴の身体をエビ反りの体勢を固定すると聞こえなくなる。

「じっくり味わえ。これが我流地獄の九所封じ、掟破りの裏大雪山落としだ」

 顎を掴む手をさらに絞り上げる事でこちらに向いた鬼太郎君(仮)に笑みを見せてやると、股間の方からジョロジョロと水音がした。

 隕石もかくやといった勢いで地面に激突した俺達は、校庭にすり鉢状の大穴を作り出した。

 クレータの中心で白目を剥きながら血泡を噴いている鬼太郎君(仮)から手を離すが、その身体はエビ反りのまま戻ろうとしない。

 背骨に骨盤が全壊した上に、激突の衝撃で臓器の幾つかや生殖器まで逝かれただろうから、こうなっても仕方ない。

 まあ、これでお漏らしの癖もすこしはよくなるだろう。

 取り敢えず首謀者に死なれると厄介なので、命が繋がる程度に治療をしておく。

 次の獲物を定めようと向けた視線の先には、こちらを驚愕の表情で見るコカビエルのおっさんとアズラエル。

 そして、その背後で剣を振り上げるヌァザ様と三郎の兄貴の姿が。

 俺が目を見開くのに合わせる様に、振り下ろされる二つの刃。

「ぬうぅっ!?」

「ぐぉあぁぁぁっ!?」

 コカビエルのおっさんは寸でのところで三郎の兄貴の斬撃を防いだが、アズラエルの方は『不敗の剣』により三対の翼の半分を斬りおとされた。

「今だ、美朱! ぶっ放せ!!」

「了解! はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 着地しながらの三郎の兄貴の合図で放たれた妖刀の力の発露たる蒼い極光は、夜空を染めながら未だ混乱から立ち直らない敵陣を薙ぎ払い、その半分近くを削り取る。

「敵が浮足立った今が好機、突撃せよ!」

「私達も行こう、ワンコさん!」

「ハイヨーダホー!」

『ボクはオーカミだよ!』

 美朱の妖刀の一撃で総崩れになった者達をダーナ神族の騎兵団が蹂躙し、ダメ押しと言わんばかりに何故か妖精と雪だるまを背に乗せたハティ様が引き裂いていく。

 突然始まった皆の攻勢に唖然としていると、足元に軽い衝撃を感じた。

 目を向けると、そこには脛にローキックを当てている旋風の姿がある。

「……やりすぎ。みんな心配するから、無茶はダメ」

 頬を膨らませてこちらを睨む旋風に、血が昇っていた頭が冷めていく。

 思い返せば、確かにやり過ぎである。

 いきなり仲間がブチキレて暴れまわれば、誰だって心配するだろう。

「……すまん」 

「ん。三郎お兄から伝言、後はこっちに任せて下がれって」

 旋風の言葉に俺は大人しく従う事にした。

 皆の事は気になるが、今の俺にはそれを言う権利は無いだろう。 

 死にかけの鬼太郎君(仮)を引きずって後方に引っ込むと、最低限の護衛を残したダヌー様がいた。

「勝手に行動してしまい、申し訳ありませんでした」

「いいえ。ですが、何故あのように心を乱してしまったのですか?」

 頭を下げる俺に怒るでもなく、こちらの事情を問うダヌー様。

 情けない話なのであまり言いたくはなかったのだが、迷惑をかけてしまったからには答えないわけにはいかない。

 必要な部分を掻い摘んで説明すると、ダヌー様はややこしいモノを見るような視線をこちらに向けてくる。

「なるほど、事情はわかりました。貴方は一人で背負いすぎです。複雑な身の上でしょうから私達に相談できないのは解りますが、妹さんには話す事はできたのではないですか?」

 確かにその通りなのですが、その辺は兄の威厳というものがですね……。

「限界までため込んで暴走されるよりはマシです」

 ……ごもっともです。

 俺はもう一度、深く頭を下げた。

 さて、一見のんきに会話を交えているようだが、別にサボっているわけではない。

 口を動かしながらも前線を抜けてくる敵には、拳の素振りで生じた衝撃波をしっかりとお見舞いしているのだ。

 これはヤムチャさんから習った技で、元は神様やピッコロの流派の技らしい。

 『ドラゴンボール』の読者には天下一武道会で悟空がチチを吹っ飛ばした技と言えばわかるだろうか。

 俺の持つ技の中では唯一の遠距離攻撃なので、とっても重宝している。

 少なくとも、覚えた時には小躍りして喜ぶくらいには。

 これでもう、主人公のクセに投げキャラとか、某ハイパーボッ! な人みたいに主人公(笑)になるんじゃね? などと言われることはないはずだ。

 ん、アレックスの事は好きだぞ。何気に打撃も投げもできるオールラウンダーだし、飛び道具がないところも親近感持てるしな。

 なんてメタな発言は置いといて、ダヌー様の護衛と共に前線から抜けてくる敵を叩いていた俺の胸にはある懸念があった。

 それは先ほど妖刀の力を解放した美朱の事だ。

 持ち主の負の感情をエネルギー源とするという特性上、妖刀の力の行使は身体に大きな負担をかける。

 忍術習得の為に無限の闘争(MUGEN)で修練に励んでいたころに比べて、この頃の美朱は修業をサボり気味だった。

 今のあいつの体力では、妖刀を使った後も戦えるのだろうか。

 美朱の気配を辿って目を凝らしてみると、案の定動きが鈍ってきていた。

 額に玉の汗を浮かべながら荒い息を吐く様子を見るに、やはりバテているのだろう。

 ダヌー様に美朱のフォローに回る事を言い捨てた俺は、地面を蹴ると同時に潜心力全開の舞空術で一気に加速する。

 美朱の周りにいる敵の数は約10。

 ベストコンディションのあいつならものの数ではないが、今の状態では少々手に余るだろう。

 四方から放たれた複数の光の槍を美朱は後ろに跳んで回避するが、着地した途端に足がよろけてしまう。

 その瞬間を狙い、三匹の悪魔が躍り掛かる。

 一体は拳圧で消し飛ばしたが、位置的に残り二体が捉えきれない。

 歯噛みしながら界王拳で更に速度を上げる俺の目の前で、美朱にむけて剣を振り上げる二体の悪魔。

 だが、その刃が降ろされることは無かった。

 悪魔の背後に現れた転移門から飛び出した鎌と何かによって、奴らの首は地に落ちたからだ。

「危なかったでやんすね、みーちゃん。怪我はないっすか?」

「ありがと、ベンちゃん。助かったよー」

 転移門から現れた白いフード付きの上着にノースリーブのドレスを纏ったおさげの少女は、その場にへたり込む美朱を助け起こす。

 よくわからんが、美朱は助かったらしい。

 ホッと胸をなで下ろしていると、女の子が出てきた転移門から今度は道化の面を付けた死神が現れた。

「ベンニーアの友人は無事なようですね。間に合ってよかった」

「あの、ありがとうございます。お陰で助かりました」

「いえいえ。怪我が無くてなによりです。貴女が傷つけば、この娘が悲しみますから」

 ポンポンとベンニーア嬢の頭を叩きながら、黒のローブに道化の仮面という出で立ちとは裏腹に明るい声で笑う死神さん。

 どこかほんわかとした雰囲気の彼の後ろには、光の槍を手にした天使共の姿が。

 取り敢えず、挨拶の前に妹の恩人を狙う不届き者を黙らせておこう。

 槍を投擲しようとしていた天使共ににむけて手首を利かせて拳を振るうと、空気が弾ける音と共に衝撃波が奴等の頭を消し飛ばす。

「助太刀して下さってありがとうございます。貴方が手を貸してくれなければ、今頃私は穴だらけになっていたところです」

 こちらに警戒して距離を取り始めた敵の中を突っ切って美朱達に合流すると、死神さんが深々と頭を下げて来た。

 彼ほどの使い手なら、先程の攻撃には気づいていたはずなのに、そんな様子は少しも見せない。どうやら付けている道化の面は伊達じゃないらしい。

「頭を上げて下さい、貴方は妹の命の恩人なんですから。礼を言わなければならないのはこちらの方です」

「では、お互い命を助けたのですから、お相子ということにしましょう。ああ、これは失礼をば。私はハーデス様の下で、死神の統括をしております、プルートと申します」

「これはご丁寧に。私は日本神話に所属し、この町の監査官を勤める姫島と申します」

 流れるような動作でプルート氏が懐から名刺を出したので、こちらも慌てて名刺を取り出す。

「いやいや。プルート小父さん、ここは名刺交換してる場面じゃないっすよ」

「慎兄もだよ。ていうか、いつの間にか名刺なんか作ったのさ」

 黙らっしゃい、小娘共。名刺交換は社会人の嗜みなの。

 あと、職に就いてるのだから、名刺くらいは持っとるわ。

 夏祭りとかに来る新規のテキ屋さんなんかには、ちゃんと配ってるんだぞ。

 受け取る為に手を伸ばそうとしたところで、お互いの名刺を掠めるように通り過ぎる魔術の炎。

 見れば、双方の名刺の半分が焼失している。

「貴様等、我々を愚弄するのもいい加減にしろ!!」

 こちらを取り囲んでいる30体ほどの敵の中で、貴族の格好をした初老の悪魔が真っ赤な顔で喚いている。

 さっきの炎の発生源はあれか。

 わかってはいたが、本当にマナーのなっていない奴らである。

「いや、戦場のド真ん中で名刺出してる慎兄達のほうが、非常識だと思うよ」

「これは敵に同情せざるを得ないでやんす」

 シャラップ! 社会に出たら、挨拶は大切にするものなのだ。

「しかし、ベンニーア達の言葉にも一理あります。これは挨拶をするよりも先に、周りの相手をしてやるべきですね」

 言葉と共にローブから所々金属板で補強された革手袋に包まれた手を引き出すプルート氏。

 だらりと腕を下げたまま、細かく動く指に呼応するように、何かが蠢く気配がする。

 夜闇の所為で眼には映らないが、空気の振動や気配から感じ取れる、細く、鋭く、しなやかで、そして強いモノ。

 これは……鋼糸か。

 十指から伸びた極細の刀身は闇の中を音も無く疾りながら、次々と周りの敵の首を捉えていく。

 恐ろしいのは、この鋼糸に誰一人気づいていないことだろう。

 こちらが臨戦態勢になった事に気を取り直したのか、先ほどの貴族風悪魔が周りに攻撃の合図を出そうと手を挙げた瞬間、それよりも速く動いたプルート氏の指によって、その首が落ちた。

 頭のあった場所から赤い噴水を上げながら、崩れ落ちる悪魔の身体。

 たがそれを見る部下達からは何の反応も無い。

 何故なら悪魔の首につられるように、彼等の首も地に落ちたからだ。

「ようやく場が落ち着きましたね。これで安心して挨拶が交わせます」

 最後の死体か地に伏したところで、再び名刺を出してくるプルート氏。

 30体の首を刎ねておいて、キャラが全くブレていない。

 死者を導き、亡者や時には生者を狩る彼等からすれば、この光景は日常茶飯事なのだろう。

 なる程、これが死神というものか。

 こちらも名刺を出しながらも、心の中で唸ってしまう。

 ああ、別に嫌悪や恐怖なんて一切無いぞ。

 斬首云々の事を言ったら、こっちだって数百もの感電死体やミンチを作ってるんだから。

 純粋に感心しただけだ。

「流石ですね。見事な斬糸術でした」

「お恥ずかしい。見えてしまいましたか」

「いいえ、目に捉える事はできませんでした。空気の流れやプルートさんからの気配を伝って、何とか把握できたんです」

「これは驚いた。そんな形で糸を見抜かれたのは初めてです。流石はハーデス様の仰られた『第三の少年』ですね」

「『第三の少年』ですか?」

「はい。貴方の宿す力は、みだりに口にするべきではないでしょう」

 なじみのない言葉に首を傾げていると、プルート氏が意味を教えてくれた。

 うん、壁に耳あり障子に目ありと言うし、情報の管理は重要だな。

「なる程。しかし、ハーデス様もご存知なんですね」

「ハーデス様はゼウス様やポセイドン様も知っているだろう、とも仰ってましたよ」

 プルート氏の言葉に思わず天を仰いでしまう。

 オリュンポスの三大神全員が知っているのか。

 そう言えば、ダヌー様は主神クラスは感づいていると言っていた。

 ということは、これからもこの手の接触は増えるのだろう。

 できれば全力でお断りしたいが、無理なんだろうなぁ……。

 プルート氏に気づかれないようにため息をついていると、こちらを呼ぶベンニーア嬢の声が聞こえた。

 視線を向けると、そこには先程のケルベロスにじゃれつかれているベンニーア嬢の姿が。

「おお、見つかりましたか! その子達に怪我はありませんか?」

「大丈夫。何か怖い目に会ったみたいだけど、怪我は無いでやんす」

「無理やり連れ去られたのです、怯えるのは仕方ないでしょう。とにかく、無事でよかった」

 ……うん。本当は何に怯えていたのかは、言わぬが華だろう。

 なんか今も俺を見ると尻尾を股に挟むし。

「お二人はあのケルベロスを迎えに来たんですね」

「ええ。あの子達は冥府の番犬の子供なのですが、数日前に誘拐されまして。死神総出で探し回っていたところ、貴方の妹さんから連絡があったんです」

「美朱。お前、どうやってベンニーア嬢と知り合ったんだ?」

「オンラインゲーム。一緒にパーティーを組んでたのがきっかけで、オフ会しようって事になってさ。その時にお互い人間とのハーフって事で意気投合して、友達になったんだ」

 ……こいつの交友関係はどうなっているのか。なんか、その内世界中に友人がいるとか言いだしそうだぞ。

 というか、冥府でもオンゲーあるんですね。

「冥府もハイテク化が進んでるでやんすよ、堕ちてくる亡者さんにもゲーオタとか結構いるし。それはさておき、こっちは子供がいなくなった所為で親ケルベロスが荒れて大変だったから、みーちゃんから連絡が来てホント助かったっす。ねえ、プルート小父さん」

「まったくです。どこかのカラスの所為で冥府の門は半壊するわ、亡者や死神の負傷者は絶えないわ、と散々でしたよ」

 それはまた、ご愁傷様です。

 主犯のカラスはもうじき捕まりますんで、待っててくださいな。

 苦笑いと共に向けた視線の先では、二組の男たちが激しくぶつかり合っていた。

 一つはヌァザ様とアズラエル、もう一つは三郎の兄貴とコカビエルのおっさんだ。

 空中でそれぞれの得物を構えて対峙するヌァザ様とアズラエル。

 ヌァザ様のほうは鎧や兜に新たな傷が刻まれていること以外、目立った負傷は見受けられない。

 一方、アズラエルは奇襲で失った片方の羽を初めとして、全身が刀傷や打撲痕に塗れている。

 戦局がどちらに傾いているかなど、子供でも一目で解るだろう。

「グ……ッ!? 信じられん、至高の天使たる私が下賤な異神ごときに……ッ!!」

「ふむ……。貴様はどうにも自分を過大評価するきらいがあるようだな。そのように慢心に満ちた性根では、自分以上の実力者に出会えばそうなるのは当然というモノだろう」

「ふざけるなよ……貴様が私より上だと!? 私は全能たる主の祝福を受けて生み出された神の使徒だぞ! 貴様のようなどこで生まれ落ちたかもしれぬ者に劣るなど、あってたまるかぁぁぁぁぁっ!!」

 激昂したアズラエルは怒声と共にガラスの様に透明な双剣を我武者羅に振るうが、その斬撃の悉くはヌァザ様の銀腕と左手の『不敗の剣』によって打ち払われていく。

 元々の実力差に加えて、頭に血が昇った為に太刀筋が乱雑になってしまっている事。

 何より、『不敗の剣』はアズラエルの斬撃を防ぐだけではなく、触れた刀身を全て、熱したナイフでバターを切るように切断してしまっている。

 アズラエルの双剣は自身の光の力を使って生み出した物なので、斬られた端から再生成して攻勢を維持できているが、これが普通の武器ならばとっくの昔に勝負は着いているだろう。

 不敗の剣『クラウ・ソラス』

 一度鞘から抜かれれば何人たりとも逃れる事ができないという剣は、伝説よりも遥かに強力なもののようだ。

 教室で対峙した時に抜かれていたらと思うと、ゾッとする。

「全能の主、か。確かにあの男は優秀だったが、生み出された者もそうとは限らんものだ。……このようにな! 『モータル・ジハード!!』」

 感情のままに打ち付けてくるアズラエルの猛攻を防ぎ続けていたヌァザ様は、瞬くほどの間刃を交差させた奴の双剣をクラウ・ソラスで両断し、がら空きになった腹に銀の拳を叩き込む。

 インパクトの瞬間、砲弾を放つような重々しい音が響き、アズラエルは身体をくの字に折ったまま大きく弾き飛ばされる。

 だが、ヌァザ様の放った銀腕の一撃も奴を討つには届かなかったのか、血反吐を零しながらもアズラエルは残された羽根で姿勢を整え、新たに生み出した光の剣を放つ。

 高速回転をしながら飛翔する剣は銀腕に阻まれヌァザ様に届かなかったが、それでもアズラエルの眼から戦意は消えていない。

「ぐ……おぁ……ッ!? 私は……主の忠実な僕! あの方の言葉に従い、堕天使や悪魔共を駆逐して地上に千年王国を築くのが我が使命! 種族の滅亡などに怯えて主の言葉を違えたミカエル共ではなく、主の意思を胸に刻んだこの私こそが……! その為ならば仇敵である堕天使や悪魔、そして『無限の龍神』とも手を組んでやる! だからこそ、こんなところで躓くワケにはいかんのだ!!」

 気炎を吐きながら、羽と血を撒き散らして飛翔するアズラエル。

 満身創痍にも拘らず精彩を取り戻した動きに、口元に凄絶な笑みを浮かべたヌァザ様もまた、クラウ・ソラスを両手に構えて加速する。

 瞬きすら許さない刹那の攻防が終わり、両者は互いが背を向けた状態で動きを止める。

 二人の間を一陣の風が吹き抜けると、アズラエルの首に朱の線が走り、ゆっくりと胴から頭が落ちる。

「天使アズラエル。その忠誠と信念、見事であった」

 地に転がるアズラエルの首を拾い上げたヌァザ様は、語りかけながら銀の手で見開いたままの眼を閉じてやる。

 本来なら首級を掲げながら鬨の声を上げるのだろうが、相手への敬意とダーナの騎士達やハティ様の活躍で相手の軍がもはや数えられる程に減少している事から取りやめたのだろう。

 ダヌー様の元へと足を踏み出したヌァザ様から目を離し、俺はもう一つの決戦である三郎の兄貴の方に視線を向ける。

「ふははははははっ! 面白いぞ、極東の龍人よ! 二天龍以外にここまで歯ごたえのある龍がいようとはな!」 

「ご満足いただいてなによりってな。けど、気を付けたほうがいいぜ。俺の鱗はちぃとばかし固すぎるんでな、下手に噛みつくと歯が折れるからよ! 『八相発破!』」

 コカビエルのおっさんが生み出した光の槍の雨を、三郎の兄貴は手にした双剣から繰り出す怒涛の連続突きで、次々と弾いていく。

「ヌルいぞ、龍人!」

 自身に当たるであろう槍を全て撃ち落とした三郎の兄貴。しかし、その背後には先ほどの槍衾を目晦ましにして間合いを詰めたコカビエルのおっさんの姿。

 裂帛の気合と共に、がら空きになった背後に振り下ろされる光の槍。

 だが、それは軌道を予め知っていたかのように差し出された脇差によって、その動きを止める。

 驚愕に目を見開くコカビエルのおっさん。

 振り向きざまに放たれた斬り上げの太刀は、その一瞬の隙を突いておっさんの纏った黒のスーツを切り裂き、浅くではあるがその身体に傷を刻む。

「貴様……ッ!?」

「『柳生心眼刀・相破』ってね。悪いが、俺がこの二刀を手にしている間はチャチな小細工は通じんぜ?」 

 飛んで距離を取るコカビエルのおっさんと、グラウンドに足を噛ませて双刀を構える三郎の兄貴。

「俺の手札を小細工とほざくか。よかろう、ならば正面から打ち砕いてくれるわ!」

 気炎を吐きながら光力で両手に槍を創り出し、猛スピードで突撃するコカビエルのおっさん。

 迎え撃つ三郎の兄貴は先程のようにカウンターは取れないものの、相手の力を受け流す体捌きと刀身を小太刀と同程度の長さに変えた双刀を巧みに使って、全方位から襲い来る連撃をいなしていく。

 三郎の兄貴が持つ双刀は、龍の牙を変化させたものなのだ。だから、ある程度は己の意思で姿を変える事ができるらしい。

「俺の全速にこうも容易ついて来るとは、貴様本当に無名の龍か?」

「おう、こちとら地域密着型の龍神様よ。まあ、ここまで強くなれたのはつい最近だから、お前さんが知らんのも無理はないがな」

 1分足らずで互いに数百もの手を繰り出した両者は、刀と槍を鍔迫り合いのように噛み合わせながら、至近距離で睨みあう。

「強くなっただと? 戯言を。俺達のような被造物や貴様等の様な神は、その能力を生まれた時から決められている。オーフィスの蛇などといった外的要因が無ければ、定められた限界を超える事など出来ん」

「そうでもないんだな、これが。ウチの優秀な後輩が中々面白い空間を持っていてな。そこで修行すれば新しい能力や技が身につくから、俺達みたいな存在でも強くなれるのさ。───こんな風になっ!」

 コカビエルのおっさんを蹴り剥がした三郎の兄貴は、刀身に氣を込めた右の太刀を切っ先が足元を掠るように振り抜いた。

 すると刀身から放たれた氣は五行思想でいう水氣を纏い、衝撃波となってコカビエルのおっさんに襲い掛かる。

「ぬっ、飛び道具まで……ッ!」

 這うような軌道で疾る衝撃波を3対の黒い翼を羽ばたかせる事で回避したコカビエルのおっさんは、距離を取って油断なく兄貴の様子を伺う。

「『喝咄 水月刀(かっとつ すいげつとう)』 こいつもそこで覚えた技だ。どうだい、面白いだろ」

 二刀を肩に担いでカラカラと笑う三郎の兄貴。いや、あの人物凄い勢いで機密漏えいしているぞ。

 名前を出してないだけマシだけど、コカビエルのおっさんは堕天使の幹部だから、ヘタをしなくても兄貴が言ってるモノの所有者が俺だって行きつくんじゃねえか?

「確かに興味深い。その話が本当ならば、そいつの重要性は聖剣など比べ物にならん。何としても我らの手に収めねばな!」

 両手に持っていた槍を消したコカビエルのおっさんは、自身の身長を超えるほどの剛槍を生み出す。

「龍人よ、後が閊えているのでな、貴様との遊びはここまでにさせてもらおう」

「おいおい、そんなつれない事言わないで、もう少し遊んで行ってくれよ」

 光の剛槍を腰だめに構えるコカビエルのおっさんに、三郎の兄貴は軽口を叩きながら刀を構えていた両手を下ろした。

 別に兄貴は構えを解いたわけじゃない。あの棒立ちに見える体勢は『無形の位(むぎょうのくらい)』と呼ばれる、敵のいかなる攻撃に対しても千変万化・自由自在に対応できる構えなのだ。

 そして、兄貴が体得した技の中で無形の位から入るものは一つしかない。

 どうやら、お互いこれで勝負を決めるつもりらしい。

「そうはいかん、貴様の言う能力者も確保せねばならんのでな。だからこそ、貴様はここで死ねぃ!!」

 気炎を吐きながら、腰だめの槍をそのままに猛烈な勢いで飛び出すコカビエルのおっさん。

 最初の加速で最高速に達したその身体は、纏う空気を赤熱化させながら夜空に紅い軌跡を描いて、三郎の兄貴へと襲い掛かる。

 必殺の突撃を前に相手とは対象にゆっくりとした動きを見せる三郎の兄貴は、もはや砲弾といってもいいほどの穂先を脇差で滑らせて僅かに逸らすと、流れる水の様に無駄のない足捌きで相手の側面に回る。

 瞬間、肉を断つ音が周囲に響き、鮮血が宙を舞った。

 必殺の一撃を躱されたコカビエルのおっさんは、蟀谷と首、そして脇に刻まれた刀傷から赤熱化した空気とは違う、生命の紅をその軌跡に交えながら地面に堕ちた。

 三郎の兄貴はその姿に目を向けたまま地面に降り立ち、血振りをした二刀を自身の鱗に収める。

御庭番式小太刀二刀流(おにわばんしきこだちにとうりゅう) 回転剣舞(かいてんけんぶ)。……カラスの大将よ。あんた、強かったぜ」

 手向けの言葉を残し、こちらに歩いて来る三郎の兄貴。

 俺達の前までくると龍人から人の姿に戻り、慣れた手つきで胸ポケットから出したヤニを吹かし始める。

「お疲れ、兄貴」

「おう。で、頭は冷えたかい、小僧?」

「……迷惑をかけて悪かった」

 兄貴の言葉に謝罪すると、ポンと下げた頭を軽く叩かれた。

「反省してるってんなら、俺から言う事は無いさ。お前さんの今までの頑張りを思えば、キレるのもわかるからな。次からは、爆発させる前に俺か久延毘古の爺様に言うこった。お前さんの愚痴くらいはいくらでも聞いてやるからよ」

「ああ、ありがとうな」

「おうよ。さて、後はどのくらい残ってんだ?」

「もう敵はいないみたいだよ~」

「みんなオイラ達がたおしたホー」

『戦ったのはボクなんだけど……』

 紫煙と共に吐き出された兄貴の呟きに答えたのは、ハティ様達だ。

 どれほどの敵を倒したのか、夜闇から現れた3人(?)の姿は返り血で大変なことになっている。

 黒毛のハティ様は目立たないだけマシだが、妖精は全身に被った血が固まってホラー映画顔負けの有様だし、雪だるまにいたっては白かった部分が真っ赤に染まっている。

「あ~あ、こりゃ酷い」

「……死神のあっしもこれにはちょっと引くやんす」

「これでは街中は歩けませんね。どこか血を(ゆす)げる水場があればよいのですが」

 上から美朱、ベンニーア嬢、プルート氏のコメントである。

 さすがに学園の水場を使うわけにはいかないので、人祓いの結界と認識阻害で誤魔化しながら番所まで連れて行かなければならないだろう。

「ところで、その嬢ちゃん達は誰だ?」

「私の友達のベンニーアちゃんと保護者のプルートさん。ケルベロスの回収に来てくれたんだ」

「冥府所属の死神見習い、ベンニーアでやんす」

「冥府でハーデス様にお仕えしているプルートと申します。以後お見知りおきを」

「あ、どうも。日本神話駒王町番所所属の甲賀三郎です。名刺は持っていないので、申し訳ないが挨拶だけで」

「……同じくつむじ」

「私はダヌー様のお側役をしているピクシーのマベルよ」

「オイラはジャックフロストのヒホーだホー」

『北欧からお嫁に来たハティだよ』

「これは皆さんご丁寧に。ハティ様もご結婚、おめでとうございます。もうこちらの生活には慣れましたか?」

『うん! 旦那様は強くてカッコいいし、慎達も良くしてくれる。それに、さくらもちがとってもおいしいんだ!』

「おお、それはようございましたね」

 日本の営業マンよろしく、初めての面子に名刺を配りまくるプルート氏に若干呆れていると、ダヌー様達が合流してきた。

 ダヌー様と面識があったプルート氏がベンニーア嬢を紹介している間に、俺はヌァザ様と前線に出ていた騎士に謝罪をしておいた。

 ヌァザ様達もダヌー様から俺の事情を聞いていたらしく、こちらの謝罪を快く受け取ってくれた。

 久延毘古様に確認をとったところ、街を狙った術式の方も解除されているらしい。

 まだまだ問題は山積みだが、聖剣から始まった一連の件で俺達ができる事はもうないだろう。

 あとは、上の仕事だ。

 停戦を結ぶ為のハードルは相当高くなってしまったとおもうが、是非ともサーゼクス兄達には頑張っていただきたい。

 出雲の方角に目をむけながら停戦交渉の行方を憂いていた俺は、不意に見知った気配が近づいて来る事を感じて思わず顔を顰めた。

 ……この人と悪魔と龍が混じったカオスな気配。

 不本意ながら、俺はこの気配の主をよ~く知っている。

 ぶり返してきた胃痛と頭痛に呻く俺を尻目に、気配はこの場に到着した。ご丁寧に学校に張られた結界をぶち壊して、だ。

「久しぶりだな、慎! アザゼルのお使いのついでに遊びに来てやったぞ!!」

 夜空を背に光の翼を広げて尊大な態度で腕を組む、白い鎧の大馬鹿野郎。

 間違いなく、俺の知人の中でもブッちぎりの問題児兼アホの子であるヴァーリ・ルシファーだ。

 というか、あの馬鹿。アザゼルのおっちゃんの指示で動いているのをバラしやがった。

 ……頭の中に流れた三勢力終了のお知らせは、気のせいだと思いたい。

 とりあえず、あいつぶん殴っていいですか?




 ここまで読んでくださってありがとうございます。
 今回で聖剣編は終了させるつもりだったのですが、予想外に伸びてしまったので結末は次回に持ち越しです。
 次はもっと早く仕上げられる様に頑張ります。

 さて、MUGENですが、赤セイバーやリンダ・キューブの殺人サンタ、ミュウツー等々と相変わらずリリースされる新キャラがカオスですが、その中でも異彩を放つ男が一人。
 その名は『羅将モン』
 いや、紹介動画を見て即DLさせていただきました。
 あそこまでギャグに走ったギース改変キャラはボヒョー以来ではないでしょうか。
 現在の目標は、ハイパーボッで彼に勝つことです。

 では、恒例の用語解説へ。
 今回は久々に悪魔辞典脱却です。

〉サンダー・ブレイク ギース・ハワードの潜在能力およびMAX2超必殺技。
 レイジングストームのモーションで、稲妻を一度に数本発生させる。
 威力はレイジングストームを凌ぐが、リアルバウト餓狼伝説と最強ファイターズでは落雷はランダムなので安定性にやや欠ける。
 KOF2002UMでは発生が早く発生直後まで全身無敵、さらに最後に地面全体に電撃が走るようになり、この部分は下段判定なうえにどこでも判定で、ヒット時は追撃可能(画面端限定だがレイジングストームでも可能)と、かなり高性能。

〉虚空烈風斬 ギース・ハワードの超必殺技、およびナイトメアギースのMAX2効果中の専用技。
 餓狼伝説〜WILD AMBITION〜では、射程の短い烈風拳を連発して最後に両手を合わせて巨大な飛び道具を発射する。
 KOF2002UMでは、レイジングデッドエンド効果中の専用技。
 成功すると、裏雲隠しで相手を崩した後その場で胴着の上を脱ぎ、『WILD AMBITION』よりも多い回数で烈風拳を連発し重ねて巨大な烈風拳にした後、デッドリーレイブのフィニッシュ部分で吹き飛ばす。

〉アズラエル イスラム教において死をつかさどる天使で、片手には全ての生者の名を記した書物を持ち、人が死ねばそこから名前が消える。
 姿形は非常に恐ろしく、全身に無数の目、口、舌を持ち、人の罪を見、語り、裁くのだと伝えられる。
 また冥王星に関連づけられ、蠍座(天蠍宮)の天使でもある。

〉不動殺活裏拳 ギース・ハワードの技。踏み込みながら裏拳を放つ。
 餓狼シリーズでは、ライン吹っ飛ばし技、KOFでは地上の吹っ飛ばし攻撃になっていることが多い。

〉モータル・ジハード 女神転生シリーズに登場する、悪魔達が所持する物理攻撃スキル。
 打撃系スキルの中でも上位に入り、真女神転生ⅣおよびⅣFinalでは、比較的早く入手できる上に、高威力、高クリティカル率のお陰で上手くすれば終盤まで使う事が可能。

〉八相発破 サムライスピリッツに登場する柳生十兵衛の使用する技。
 両手の刀で激しい連続突きを繰り出す。
 コマンドの関係上(斬ボタン連打)暴発しやすく、ダメージが小さい、ヒットしても反撃確定などの点からどうにも使いにくい。
 主にケズリKO狙いで使用する場合が多い。

〉柳生心眼刀・相破 サムライスピリッツに登場する柳生十兵衛の使用する技。
 相手の斬撃を受け止めてから斬る当て身技。
 主にジャンプ攻撃を受け止め二ツ角羅刀の上昇部分で斬り上げて反撃する天羅(上段、Cボタン)、上・中段攻撃を受け止め斬り上げる(遠距離立ち強斬りの動作)相破(中段、Bボタン)、下段技を受け止め喝咄 水月刀で吹っ飛ばす水月(下段、Aボタン)と分かれており、状況に応じて使い分ける必要がある。
 十兵衛を使う上での真髄となる技であるが、完璧に使いこなすにはどの技がどれで取れるのか把握している必要があり、プレイヤーの経験が問われる技といえる。

〉喝咄 水月刀 サムライスピリッツに登場する柳生十兵衛の使用する技。
 地を這う衝撃波を放つ飛び道具で、技の仕様はパワーウェイブに似ている。
 シリーズによって発射後の隙等、性能が違うが基本的には牽制に使っていける。
 また発生の早さを活かした連続技にも使える。

〉回転剣舞 漫画『るろうに剣心』に登場する御庭番衆頭領、四乃森蒼紫が使用する奥義。
 逆手の小太刀で流水の動きから繋げる超高速の三連攻撃。
 初期の蒼紫の必殺技で、幕末の頃、彼は江戸城に忍び込んだ賊を全てこの技で倒している。
 鉄拵えの鞘を輪切りにし、なおかつ剣心に瀕死の重傷を負わせる程の威力を誇る。
 後に両手で回転剣舞を放つ『回転剣舞六連』という技に進化する。

 今回はここまでとさせていただきます。
 では次回でお会いしましょう。
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