MUGENと共に   作:アキ山

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 お待たせしました、閑話その2完成です。
 前回はあんなに筆が進んだのに、今回はこの始末。
 しかも、戦闘描写だけで13000字越え。
 これってハイスクールD×Dの小説なのに、女の子の萌え要素は皆無で
 暑苦しい野郎の殴り合いしか出てきてない件。
 原作表記を『キン肉マン』に変えた方がいいかしらん。



閑話『兵藤一誠救出作戦(破)』

 ゴールデンキャッスル謁見の間。

 その中央に備え付けられた、いつもは見上げるだけのリングの上で俺は入念に身体を解していた。

 朱乃姉をはじめとしたギャラリー達もサイラオーグの兄貴の敗戦に加えて、俺がリングに入ってから漂う異様な雰囲気に呑まれてか、声を上げようとしない。

 ちなみに着ていたウエイトと重力制御装置は上着と共に外してある。

 将軍様の相手をするのにハンデなんてもってのほかだし、組技主体のレスラーを前にして上着を着ていると不利になるからだ。

 まあ、上半身を晒した際に、ダメな紅髪の姉貴分や聖女な先輩の叫び声が聞こえた気がしたが、それは気にしない事にしよう。

「身体は錆び付いていないようだな。現世にいる間にどれだけパワーアップしたか、確かめてやろう」

「お手柔らかにお願いします、切実に」

「馬鹿を言うな。せっかくの弟子の成長を確かめる機会だぞ、全力で行くに決まっておろう」

「そう言うと思ったよ、チクショー!?」

 他愛もないやりとりを交えつつ、こちらは柔軟からウォーミングアップの型稽古に移行する。

 常在戦場を(むね)としている身として、準備を待ってもらうのは情けないと思うのだが、今回は相手が相手。

 使えるものは片っ端から使うべきだ。

 さて、間もなく自身の死刑執行の時間なのだが、悲しいかな、逃げようにもここはもう死刑台の上。

 こうなってしまったら将軍様のテンションが上がらない事を祈りつつ、決死の覚悟で足掻くしかないだろう。

 もっとも、手加減すると言われても将軍様の場合はあまり信用ならないのだが。

 あの人過去に二回、鍛錬中に俺を殺してるし。

 因みに、3人の師匠の中で俺を殺した事があるのは将軍様だけだ。

 死因は九所封じを実地(じっち)、要するに食らって覚える訓練で手加減を間違えた事と、スパーリング中にテンションが上がった将軍様に断頭台を食らった事。

 ん、なんでそんな目にあってるのに、離れないのかって?

 あー、何て言えばいいんだろうな……

 将軍様はさ、強さを求める事に凄い真摯(しんし)なんだよ。

 だから門下になった奴が鍛錬をサボるのを許さないし、強くなろうとする奴がいたら、それがガキだろうと全力で鍛えてくれる。

 俺を殺したのだって、指導に熱が入りすぎたのが原因だし。

 死ぬほど不器用な人だから解りにくかったけど、遠回しでもちゃんと謝ってくれたんだぞ。

 それに、お袋が死んで我武者羅(がむしゃら)に力を求めてた俺の無茶を諫めずに、気が済むまで鍛錬に付き合ってくれたのは、この人だけだった。

 あの時、力に傾倒(けいとう)するのを止めてくれたのが剛拳師匠なら、力を求める心を肯定してくれたのは将軍様だったんだ。

 その事が無かったら今の俺はいないし、お袋の事ももっと引き摺っていたはずだ。

 そんな恩人でもある師匠なんで、一回や二回殺された程度で離れるワケにはいかんのよ。

 効率のいいトレーニングや鍛錬的な意味での肉体改造知識も凄いしな。

 

 さて、ひと通り型も終わったし、現実逃避の回想に耽るのもここまで。

 望み薄だが、生存の可能性を信じて全力を尽くすとしよう。

 覚悟を決めてリング中央に出ると、逆のコーナーで待機していた将軍様も歩み出てくる。

「ふん、先程の戯言を言っていた時よりマシな顔になったな」

(はら)(くく)ったんで。敵わないかもしれませんが、最後まで足掻かせてもらいますよ」

「そうでなくては面白くない。全力で来るがいい!」

 その言葉と共に、俺たちは互いに構えを取る。

 俺はいつもの身体を半身にしたの独自の構え、対する将軍様は両手を下げた自然体だ。

 さて、格上の相手なんて前回のツアー以来だ。

 普通なら様子見やら駆け引きやらと考えるのだが、将軍様相手にそんな余裕はない。

 全力全開な上に玉砕覚悟で当たって初めて、同じ土俵に立てるレベルだからな

 マットの中央に悠然と立つ将軍様を前に、俺は大きく息を吸った。

 そして鋭い呼気と共に潜心力を一気に全開まで引き出す。

「ほう……」

 マットの上に渦巻く風と身に纏った紫電の弾ける音に混じって、将軍様の感嘆の声が聞こえる。

 感心するのはまだ早い! なんて言えたらいいなぁ……。

 ……そこ、後ろ向きとか言うな!

 目の前にしてるだけで泣きたくなるくらいの威圧感なんだよ、将軍様!

 あれ絶対ガチだぞ! スパーですら再起不能の危険が付きまとうのに、真剣勝負(セメント)とか死ぬ未来しか見えないよ、天国のママン!!

 覚悟を決めたとか言っといて泣き入れ倒してるが、その辺は目を瞑ってくれ。

 とは言え、このままでは(らち)が開かない。

 というか、将軍様の威圧感で肉体の前に精神が死ぬ。

 まずは一撃、こちらから手を出さなければ。

 マットを抉りながら一足で間合いを詰めた俺は、将軍様の顔面目がけて左拳を放つ。

 放った拳は容易く捌かれるが意に関せずに右拳、左ボディ、右フックと放つ拳の回転を上げる。

 こちらが放つ拳を危なげなく捌き、こちらに掌底を返す将軍様。

 当然、こちらも食らってやるつもりはないので、片っ端から捌きながら拳を放ってやる。

 見入っているのか、はたまた呆気に取られたか。

 ギャラリーの声も無く静寂に包まれた室内の中、互いの打撃を捌く音だけが響く。

 リングの中央で足を止めての打撃戦は互角。

 打撃系格闘家(ストライカー)も自認している身としてこの結果に思うところが無いわけではないが、将軍様が相手では仕方ない。

 とはいえ、全くの互角という訳ではない。

 応酬の間を縫う様に突き刺さったこちらの左ボディを契機に、拮抗(きっこう)していた天秤がこちらに傾いたのだ。

 打撃を交えながらも一歩、また一歩と後退する将軍様。

 さらに回転を上げると将軍様からの打撃が止まり、防御を固め始めた。

 この時点で攻守の流れは完全にこちらに動いたと言える。

 だが、あの将軍様が大人しく退くとは思えない、狙っているのはこちらの撃ち疲れだろう。

 ならば──

 こちらの打撃で後退を続けていた将軍様の足は、コーナーポストを背にした事によりその動きを止める。

 このチャンスに一気に攻勢をかけるが敵も()る者、精度が増した捌きによって有効打が与えられない。

 相手の防御の厚さに内心歯噛みしながらも手を出し続けていると、放った打撃に甘いものが混ざる。

「未熟者め、功を焦ったか!」

 叱咤(しった)と共にその一撃に腕を絡めようとする将軍様。

 このままでは、確実に腕の一本は破壊されるだろう。

 だが、それは捕られれば、の話だ。

 腕を引かれるままに懐に飛び込んだ俺は、銀の剛腕がこちらを極めるより先に逆にその手首を捕る。

 そして、当て身投げの本来の形である合氣の合理で将軍様の体勢を崩し、アームホイップで投げ捨てた。

「ぬぅ……!?」

 驚きの声を上げながらも投げ飛ばされた将軍様は、それでも尚マットに背を付けずにギリギリのところで着地する。

 正直、どんな反射神経をしているのかと問い詰めたくなるが、このレベルの実力者になれば理不尽なんてダースどころかグロス単位で持っている。

 嘆くのも憤るのも時間の無駄、こちらがやるべき事は追撃の手を緩めない事だ。

 先に起き上がった俺は、着地はしたものの体勢が整っていない将軍様に向けて蹴りを放つ。

 下から顎を(すく)い上げるような軌道の蹴りを、グニャリと音がなりそうなほどに背を反らして回避する将軍様。

 上半身を直角に反らせるという常識外れの身体の柔らかさを見たが、その程度の芸当なら無限の闘争に出来る奴はいくらでもいる。

 俺は外した蹴り足を更なる踏み込みにして、もう一方の足を跳ね上げる。

 膝蹴りとなった足が狙うのは、姿勢を戻そうとしている将軍様の側頭部。

 打ち上げの前蹴りを鼻先を掠めるように放つことによって、相手の意識を前面に固定し、そこに蹴り足を踏み込みに変えた上段狙いの膝を死角から叩き込む。

 この蹴りの連携は、とある漫画に出ていたムエタイ使いの得意技で、名を『コブラソード』という。

 意識と視野、双方にとっての死角から襲い掛かる一撃。

 だがそれは寸でのところで銀の腕に阻まれてしまった。

 あの状況で容易く防いで見せた将軍様の手腕に舌を巻くが、足首を襲った激痛にすぐさま意識を入れ替える。

 捕らえらえれた蹴り足に掛けられようとしているのは、スタンドでのアキレス腱固め。

 完璧に極まれば、瞬く間に俺のアキレス腱は断ち切られるだろう。

 将軍様が極めきるよりも早く、俺はもう一方の足を跳ね上げて足を捉えている方の肩、その付け根にあるツボに蹴りを叩き込む。

 俺が狙った箇所は人体の急所の一つで、ここにピンポイントで衝撃を加えられると、腕が痺れて力が入らなくなる。

 それは、鎧を身体の代替にしている将軍様も例外じゃない。

 狙い通り相手の力が一瞬緩んだ隙に技から脱出した俺は、マットに手をついて後方宙返りで間合いを取ろうとする。

「ぐ……え……ッ!?」

 だが着地の寸前、自動車で轢かれたかのような衝撃に襲われ、肚に溜まっていた空気を吐き出してしまった。

 痛みで霞む視界に映るのは、俺を肩に担いだまま走る銀色の背中。

 それで今のシャレにならない衝撃が、将軍様のショルダータックルだと理解した俺は何とか脱出しようと藻掻くが、左足と胴をガッチリとホールドされている為に、まともに動く事もできない。

「足掻くのはよせ。一度極まった私のホールドからは逃れられんのは、貴様もよく知っていよう」

 また無茶苦茶言うよ、この人はっ!

 これからどんな殺人技掛けられるか分からないんだから、抵抗しないわけないだろうが!?

 もたついている隙にトップスピードに突入する将軍様。

 ダンッ、ダンッ、と強烈な踏み込みの音が耳朶を打った直後、ゴールデンキャッスルの天井が手の届く距離まで迫り、浮遊感と共に視界が反転した。

 高っけぇ……。ここの天井って何メートルだったっけ。

 他人事のような感想が脳裏に浮かぶが、現実逃避している場合じゃない。

 風切り音と吸い込まれるような落下の感覚の中、俺は息を吐いて体内の氣の流れを掌握する。

 将軍様の言うとおり、このホールドの強さならならば全力で足掻こうと、逃れることはできないだろう。

 だが、それは普段の俺だった場合だ。

 口角を吊り上がるのを感じながら、俺は体内に取り込んだ氣勢を一気に循環させる。

 リスク無く上げられるのは4倍まで。

 さらに将軍様に気取られないように、発動も一瞬だけだ。

 技の発動と同時に、纏っていた氣が蒼から紅に変わり、全身に力が満ちるのを感じた俺は、そのままホールドされている右腕を力任せに引っこ抜いた。

「なにっ!?」

 将軍様が驚嘆の声を上げるが、それに構っている余裕はない。

 不完全になったとは言え、技はまだ生きてるし、地面はもう目の前だ。

 俺は身体を丸めながら、ホールドされていない右腕で何とか受け身を取ろうとする。

 衝撃、そして轟音。

 背中全体から身体がバラバラになるような痛みを受けた俺はそのまま、マットに大の字に倒れた。

 身体中が死ぬほど痛いし、腹の中で何かがグルグル回って気持ち悪い。

 本音を言えばこのまま朝まで寝たい気分だが、それをすると将軍様の手によって永眠する事間違いなしだ。

 暗転しかける意識を必死に繋ぎ止めながら、身体を起こす。

 コーナーポストを踏み台にして、天井近くまで跳び上がっての雪崩式ノーザンライトスープレックスとか、仕掛けてくる技がトンでもなさすぎる。

 抵抗して大きく崩れたからよかったものの、あのまま頭から落とされたらヘタしなくてもあの世行きだった。

 ダメージで思うように動かない身体で、なんとか四つん這いになった瞬間、腹で回っていたものがせり上がり、止める間もなく口からこぼれ落ちた。

 口の中と鼻に生臭さと鉄サビの匂いが溢れ、白いマットに赤黒い粘ついた液体が歪な模様を造る。

 だが、その事に何かを思う暇も無く、俺は両の手足を使ってその場を飛び退く羽目になった。

「この私を相手にして、呑気に血反吐を吐くとは随分と余裕ではないか」

 ギリギリと痛む身体を推して視線を走らせると、先ほどまで俺が這いつくばっていた場所に、手首をから生やした剣を突き立てる将軍様の姿がある。

 血反吐を吐く暇も与えられないうえにサーベルまで使うとは、辛口対応すぎる!? 

「さあ、行くぞ! ナマスにされたくなければ、反撃してみるがいい!!」

「ちきしょう、やってやらあ! 後で吠え面かくなよ!!」

 連続で振るわれる驚くほど澄んだ鉱石でできた刃を、俺は後ろに退がりながら捌いていく。

 今は聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)の治癒エネルギーを氣脈を通して腹に循環させている。

 全快とまではいかなくても、動きに支障がないくらいに回復するまでは時間を稼がないと。

 唐竹、袈裟、胴薙と次々に振るわれる斬撃だが、こちらが守りに集中しているお陰で全て躱す事が出来ている。

 将軍様は全てが一流以上に(こな)せるトータルファイターだ。しかし、その万能さ故に一芸を突き詰める必要がない。

 この斬撃も、ご先祖ちゃんや斎藤一といった本職に比べれば、一撃のキレや()められた凄みといった部分で一歩劣るのだ。

「チョコマカと……! だが、これならばどうだ! 地獄のメリーゴーランド!!」

 ()れてきたのか、ブレードを突き出し前方に高速回転しながら、こちらに突進してくる将軍様。

 同時に、こちらの腹に重石のようにのし掛かっていた不快感も消えて無くなる。

 ようやく腹の中が回復したらしい。

 サイラオーグの兄貴に使ったものとは違う、ブレードを展開した完全な地獄のメリーゴーランド。

 守勢から攻勢にシフトを変えた俺は、高速回転する刃、それが生えた手首ではなく下腕部に手を当てて斬撃を捌き、そのまま腕と体育座りのように将軍様の懐で折り畳まれた足を捕らえると、回転の勢いを乗せて地面に叩きつけた。

「ぬうっ……!?」

 頭からマットに激突した反動で浮き上がる将軍様。

「4倍界王拳!!」

 その姿を視界に捉えながら、氣脈操作で技の後で硬直した身体を強引に動かした俺は、即座に界王拳を発動。

「サンダァァァァッブレイクッッ!!」

 界王拳で倍化した氣を集中させた両手を地面に叩きつける。

「ヌオオオオオッ!?」

 天井を突き破って降り注ぐ雷は、瞬く間だが空中で死に体を曝していた将軍様に襲いかかり、その身体を天高く跳ね上げていく。

 当て身投げで相手を投げた後、硬直をスーパーキャンセルで打ち消してレイジングストーム、もしくはサンダーブレイクで追撃する。

 MUGENの原作にいた、とあるギースが得意としていた連携で、結構前から草案はあったものの、サンダーブレイクとスーパーキャンセルがネックになって再現できなかった。

 しかし、前の騒ぎでサンダーブレイクを習得した事と、合宿の折りにサイラオーグの兄貴が見せたブレーキングをアレンジしたスーパーキャンセルを習得した事によって、今日初めて日の目を見たのだ。

 この連携は魔王クラスでも一撃で葬れるだけの威力がある。

 しかし、あの将軍様が魔王を倒せる程度の攻撃で参るワケがない。

 だからこそ、この機にダメ押しを叩き込む!

 サンダーブレイクの硬直をキャンセルした俺は、舞空術で雷撃で空中高く打ち上げられた将軍様を追う。

 そして、体勢が整うより早く将軍様を『裏大雪山落とし』に捕らえる。

「これは……!?」

「大雪山落としを俺なりにアレンジした技です。威力は食らって確かめてくださいよ!」

 将軍様の背骨に置いた足を起点に足と顎をフックした腕でエビ反りになるように絞り上げながら、俺は舞空術で地面に向けて急加速する。

 しかし何故だろう。

 技の体勢は完璧、両手のフックもしっかりして返される可能性はまったくないはずなのに、決まる予感が全くしない。

「ふふ……ふふふふふふ」

「ちょっ!? こんな状況で笑わんでください!!」

 思いっきり背中を反らされながらも不気味に笑う将軍様に思わず抗議の声を上げてしまう。

 不安が雪だるま式に増えるんで勘弁してください、マジで!

「そう情けない声を出すな。大雪山落としを裏返す事で、まったく別の技に昇華させる。このまま地面に叩き付けられれば、脊椎(せきつい)頚椎(けいつい)、胸骨に内臓へのダメージは甚大だな」

 機械のように冷静に、自身にかけられた技のダメージを計算する将軍様に、背筋に冷たいものが走る。

「見事だ。用途は違うが、よくぞ九所封じの可能性広げてみせた。褒美(ほうび)として、今よりワンランク上の攻防というものをレクチャーしてやろう!」

 お断りします!!

「ふっ、そう遠慮するな。まずは技を掛けられた際の防御から……硬度ゼロ、スネークボディ!!」

 将軍様の声と共に、しっかりと握っていたはずの手から、将軍様の足が蛇か鰻のようにスルリと抜け出てしまった。

 支えの一端を失った俺は、咄嗟に将軍様の顎に掛けていた手に更なる力を込める。

「それは悪手だぞ、慎よ。……ロデオ・スキップッ!!」

 まるで暴れ馬のように全身のバネで跳ね上がる将軍様。

 その背から振り落とされた俺は、顎に掛けていた手が災いし、将軍様のすぐ近くで死に体を曝してしまう。

 舞空術で離脱しようとするが、それよりも先に伸びてきた銀色の腕によって頭と足を捕らえられ、膝立ちになった将軍様の下敷きにされる。

 この体勢は……や、ヤバい!?

「行くぞ! 掟破りの返し手・大雪山落としぃぃっ!!」

「……っ!?」

 一瞬の風切り音の後、腹と背中に何かが爆発したかのような衝撃と痛みが走った。

「ガハッ!?」

 呼吸と共に喉から飛び出した血反吐が雨のように降り注ぎ、俺と将軍様の身体に赤黒い斑点を付ける。

 ノーザンライトスープレックスを食らった時は、途切れそうになる意識を繋ぎ止める事に必死だったが、今回は苦痛が強烈すぎて気絶する事もできない。

 将軍様が技を解いた後、痛すぎて動かない身体に鞭打って、右手を腹に当てる。

 背中の感覚が無い上に、腹は中でミキサーの刃が暴れまわっているかのように、痛みと灼熱感が治まらない。

 さっきの内傷(ないしょう)が癒えきってないところに、このダメージはヤバすぎる。

 氣脈と手の二重治療じゃなきゃ追いつかないのを見ると、中身の一つや二つは破裂してるかもしれない。

「慎兄様ぁぁぁぁ! 頑張れぇぇぇ!!」

「慎兄! どうせ勝てないんだから、そのまま寝てろー!!」

 痛みがキツすぎてぼやけてきた意識の中でも、しっかりと耳を打つ声援。

 美朱よ、こっちが怪我をするのを見たくないのはわかるけど、もうちょっと言い方があるだろうに。

 本音を言えば美朱のいう通りにしたいが、兄貴分としてミリキャスの前でカッコ悪い姿を見せられない

 なんとか立ち上がった俺は、口に溜まっていた血反吐の残りを吐き捨てる。

 界王拳込み込みの全力で治療に当たってるので、腹の痛みは治まってきたが、背中の方は依然感覚が死んだまま遅々として治癒が進まない。

 これが九所封じの恐ろしいところだ。

 食らった技に当て嵌まる箇所を氣脈ごと根(こそ)ぎ破壊する。

 背中の傷は、今日一日は治ることはないだろう。

 まあ、そのお陰で痛みに動きが阻害されないので、無茶すれば普段通りに動けるのがせめてもの救いだが。

 後遺症やらなにやらについては知らん。そんなものは起きてから考えればいい。

 今の問題は、理不尽ボディの将軍様をどう攻めるか、だ。

 あのインチキ臭いスネークボディがあるので、絞め技も投げも通用しない。

 となれば後は打撃しか無いわけだが、俺の記憶通りなら将軍様の肉体には硬度調節機能があって、その気になればダイヤモンドと同じ堅さまで身体の硬度を上げられるはずだ。

 さすがにダイヤモンド並みの身体を殴って、拳が無事でいる自信は無い。

 ……あれ? もう詰んでないか、俺。

 いやいや、諦めるのはまだ早い。

 抵抗を止めれば、今の将軍様のテンションの上がり具合だと九所封じフルコースもあり得る。

 死刑執行中とはいえ、そんな死に方は御免被(ごめんこうむ)る。

 こうなったら、もう……あれだ!

 偉大なる先達であるキン肉マンに倣って、将軍様の硬度調節機能を破壊するしかない。

 確か、原作なら鳩尾(みぞおち)辺りに強烈な打撃を与えれば壊れたはずだ。

 腹の痛みも動きに支障がない程度に治まったので、構えを取るとそれに合わせて将軍様も腕組みを解く。

「すみませんね、お待たせしちゃって」

「構わん。貴様の成長を計るのも、この試合の目的の一つだ。あそこで攻め潰しては意味が無かろう」

「そうですか……っと!!」

 吐き捨てると共に、初手と同じ速度で踏み込んだ俺は、無防備に立ち尽くす将軍様の脇腹に左拳を打ち込んだ。

 だが、返ってきたのは先ほどまでの鎧をヘコませる感覚ではなく、途轍もなく硬いモノを殴った痺れるような痛み。

 小さく血の糸を引く拳を戻しながら間合いを取ると、銀だった将軍様の鎧がブレードと同じく恐ろしい程に澄んだ鉱石に化けているのが目に入った。

「ふふふ……。どうだ、ダイヤモンドと同じ硬度10の我がボディを殴った感想は?」

「いや、硬すぎますよ。一瞬、拳が砕けたかと思いましたもん」

 軽口を叩きながら、左手をプラプラと振ってみせる。

 まあ、表面の肉はある程度削げただけで骨には異常はないのだが。

 しかし、参ったな。

 ダイヤモンドボディをこうも早く切ってくるとは思わなかった。

 殴って確信したが、あの身体はシャレにならない。

 ダイヤモンドは衝撃に弱いとよく聞くが、人間の胴体レベルになるとワケが違うらしく、生半可な打撃は通用しないようだ。

 一発、二発程度のなら殴ってもなんとかなるが、ラッシュなんてカマしたら本気で拳が砕けちまう。

「今度はこちらから行くぞ! この身体を見事乗り越えて見せよ!!」

 気合増し増しで突進してくる将軍様を見ながら、俺は全身に氣を巡らせる。

 顔面目がけて飛んでくる微塵(みじん)の容赦も感じられない拳。

 ダイヤモンドの塊という、まんま凶器のそれがこちらを捉える寸前、手首を軽く弾いて逸らす。

 左ジャブ、右ストレート、フックにアッパー。

 次々と襲ってくる拳の群れは、力の流れに逆らわずに放たれる掌によって、見当違いの方向へと導かれて不発に終わる。

 疾さに勝る攻撃をいなす軽妙の技、これが濤羅(タオロー)師兄から学んだ戴天流の捌きの技法の一つ『波濤任櫂(はとうじんかい)』だ。

 ダイヤモンドになった腕とまともに付き合っていては、こっちの身体がもたない。

 しかし剣と拳の違いはあれども、生身で特殊装甲に覆われたサイバーアームの攻撃を捌けるこの技なら、リスクを最小限に対処ができる。

「ムエタイに合氣、そして私が教えた超人レスリングときて今度は中国拳法か。次は何が出てくる? 貴様の持てる全てを私に見せてみろ!」

 益々テンションが上がる将軍様に、思わず顔が引きつってしまう。

 いや、そろそろ本気でネタ切れなんですけどね。

 泣き事を胸中で呟きつつ、俺は将軍様のラッシュを捌きながらも、ダイヤモンドボディに隠された硬度調節機能の場所を探っていた。

 攻撃を逸らす際に触れた手から氣を流していると、最初は感じられなかった反応が相手の動きが激しくなるに連れて身体の中央、ちょうど鳩尾辺りから感じるようになった。

『目の視境に有らずとも、紛れもなく敵はそこに在る』

 濤羅(タオロー)師兄の言葉は間違いではなかったようだ。

 漫画の知識の裏付けが取れたので、防御の為に循環させていた氣を氣勢に変えて右手に集中させる。

 こちらにとって好都合な事に、当たらない事に業を煮やし始めた将軍様の打撃は、勢いを増すごとに大振りになってきている。

 次に顔面への一撃が来たら、そいつを捌いて界王拳で強化した発勁を鳩尾に叩き込む。

 狙い通りに行けば、硬度調節機能を破壊できるはずだ。

 そうヤマを張って防御を続けていたところ、チャンスは思ったよりも早く来た。

「亀のように縮こまって何かを狙っているようだが、その前にその防御を打ち壊してくれるわっ!!」  

 右のショートフックから左ボディというボクサー顔負けのコンビネーションからの右ストレート。

「待ってましたよ、そいつを!!」

 前の二撃を油断無くいなした俺は、本命を界王拳で倍化した力で弾くのと同時に、ガラ空きになった鳩尾へ発勁を放つ。

 硬いものが砕ける甲高い音と、右腕から肩へと抜けていく衝撃。

 放った拳の行き先を目にした俺は、顔から一気に血の気が引くのを感じた。

 右拳は狙っていた鳩尾から外れ、無数の亀裂と共に将軍様の胸部に突き刺さっていたからだ。

「ふふふ……見事だ。このダイヤモンドボディを一撃で砕くとはな。しかしまだ甘い! ダイヤモンドダストォォォ!!」

 言葉と共に胸部の傷から亀裂が全身に走り、甲高い音を立てて砕ける将軍様の身体。

 しかし、銀色の頭部に呼応して浮かび上がった身体を構成していた無数のダイヤモンド片がこちらを取り囲むと、高速で飛び回る礫となって襲いかかってくる。

「ぐぅっ……!」

 細かい破片が入らないように目を閉じた俺は、全身に何かが突き刺さるような痛みに呻き声を上げた。

 腕が捕られてガードが間に合わず、咄嗟に使った硬氣功も鋭利な破片となったダイヤモンドには気休めにしかならない。

 対抗策も思いつかず、ただ痛みに耐えてガードを固めていると、急に両腕が捻り上げられた。

 咄嗟に目を開くと、そこにはこちらをリバースフルネンソンに捉える、上半身だけの将軍様の姿が……。

「我がダイヤモンドパワーは、こういった使い方も出来るのだ!」

 クソッたれ! なんつーデタラメな身体してんだ!?

「ソリャー!!」

「ぐあぁっ!?」

 逆羽交(はが)い締めの体勢で、自身が回転してこちらを振り回す将軍様。

 上半身しかないにも関わらず強力なその力は、抗う事も許さずに俺の足をマットから引き剥がす。

 これは……また九所封じかよ!?

 猛烈に回る視界の中で次に来る技を予見した俺は、固められている両腕に力を込めた。

「地獄の九所封じ、No.2.3! ダブルアームソルトォォォ!!」

 両肘と肩に骨がズレる感覚と共に腕の力が抜け、一瞬遅れて景色が反転した。

 回転の勢いのまま背中からマットに叩きつけられた俺は、拘束していた力が緩むと同時に両腕を引き抜いて距離を取る。

 詰まる息と揺れる視界を無視して再び腕に力を入れると、またしても骨がズレる感覚のあとで腕に力が戻ってくる。

「咄嗟に関節を外す事で九所封じから両腕を守ったか。いい判断だ」

 呵々(かか)と笑う将軍様だが、こちらは荒い息を吐きながら睨み返すのが精一杯だ。

 しかし、参った。

 実力に差はあると分かっていたが、こうまでとは……。

 こちらは内臓へのダメージに全身裂傷。

 両肩と肘の靭帯も損傷してるし、背中の感覚は戻らないうえに肋骨も何本か逝っている。

 対する将軍様には、ダメージらしいダメージは無い。

 圧倒的というのは、こういうのを言うのだろう。

 とは言え、まだ勝負は終わっていない。

 こっちの引き出しはほぼ空っぽだが、全く手がないワケではないのだ。

 さっきのダブルアームで思い出した技が一つだけある。

 ここで得た技じゃない。

 練習をしたことが無ければ、当然成功もしたこともない。

 あるのは、脳にこびり付く漫画で見た技の知識のみ。

 こんなものに勝負を賭けるなんて自分でも阿呆らしいと思うが、相手は常識外れの規格外だ。

 この程度の無茶くらい通さねば、一矢(むく)いることなどできはしない。

 構えを取ろうとしてフラついた際に、身体からこぼれ落ちた血が、マットに紅い華を咲かす。

 血は未だに止まらないが治療はしない。今から賭ける大穴博打のために、聖女の微笑(トワイライト・ヒーリング)に回す体力も惜しいからだ。

「その闘志は見事だ。だが、 大勢が決した以上これ以上苦しめるのも不憫。ここは私の得意技でひと思いにマットに沈めてやるのが慈悲というものだろう」

 死刑執行ですね、わかります。

「行くぞ、慎よ! 心静かに最後を受け入れるがいい!!」

 何故か殺る気満々で突っ込んでくる将軍様。

 さて、博打の掛け金に自分の命が倍プッシュされてしまったが、こちらのやることは変わらない。

 突進してくる将軍様と組み合った俺は、相手が技に入る前に身体を後ろに投げる。

 勢い余って体勢を崩す将軍様の腕を引きながら、相手の腹に右足を当てる。

「この期に及んで巴投げなど、通用すると思っているのか!」

 半ば技に掛かっていながらも、こちらの技を潰しにかかる将軍様。

 普段ならここまで来ていれば相手が将軍様でも強引に投げにいけるのだが、現状のコンディションではそうはいかず、伸ばしていた腕は押し潰され、腹を捉えていた蹴り足も外されて膝を当てるだけになる。

 しかし、ここまでは予定通り。

 勝負の賭け時はもう間もなくだ。

 一瞬の浮遊感と軽い衝撃、のしかかってくる将軍様を見据えながら、俺はそれを放つ。

 瞬間、砲弾を撃つような轟音とガラスが砕けるような甲高い音が耳朶を打った。

 こちらの上になったまま、動こうとしない将軍様。

 その鳩尾には俺の膝が突き刺さり、ダイヤモンドボディに蜘蛛の巣状な亀裂を入れている。

「貴様……このような手を……」

不破圓明流(ふわえんめいりゅう)奥義、神威(かむい)。イチかバチかの博打は俺の勝ちッスよ」

「グオオオアァァァァッ!?」

 腹部を押さえて苦しみ始めた将軍様から距離を取った俺は、一度深い息をついた。

 不破圓明流奥義、神威。

 修羅の門という漫画に出て来る技で、甘めの巴投げをエサにして相手が潰しにきたところを両手と片足を拘束。

 相手の腹に当てた膝から三トンもの衝撃を与える寸打を放つ事で、内臓を破壊する殺人技だ。

 まあ、俺がやったのは正式なものではなく、シメの膝を寸打から寸勁と浸透勁に変えたものだ。

 さらりと説明したが、膝から発勁を撃つ時点で超が付くほどの高等技術。

 よくもまあぶっつけ本番で、将軍様に掛けられたものである。

 もう一度やれと言われても絶対無理だ。

 放っておくとぶっ倒れちまいそうな身体を支えながら将軍様に目を向けると、苦しみ藻掻く将軍様の身体がサファイア、ルビー、エメラルドと次々と変化していき、最後には元の銀の身体に変化した。

 どうやら、上手く硬度調節機能を破壊することができたらしい。

 ならば、やる事は一つ。

 指一本動かすだけでビリビリ痛む身体に鞭打って、俺は将軍様へと突撃する。

 さっきの神威で身体は限界を超えた。

 この技の後は鼻をほじる力も残らないだろう。

 だからこそ、この一手はなんとしても決める。 

 間合いを詰めた俺は、未だに膝立ちになっている将軍様の顔に左右の回し蹴りを連続で叩き込み、宙に蹴り上げる。

 そして、大きく浮き上がった将軍様の身体を空中でカナディアンバックブリーカーに捕らえ、コーナーポストに着地。

 そのままコーナーポストを踏み台に天井近くまで跳躍した俺は、錐揉みに回転しながら将軍様を叩き付けんと、頭からマットにむけて落下する。

 これがアストロとの対戦で習得した『D・D・D(ダイビング・デス・ドライブ)

 九所封じや断頭台を除いて、俺が使える投げの中で最も威力のある技だ。

 硬度調節機能を失った状態で、これを食らえば将軍様でもただでは済まないはずだ。

「私の硬度調節機能を破壊するとは……慎よ、よくぞここまで成長した。貴様の力への執念と克己心(こっきしん)を素直に賞賛しよう」

 地面まで半分近くまで落下した時、唐突に将軍様が語りだした。

「だからこそ、見せておきたい。貴様がいる場所よりも更なる高みを、貴様が目指すべき先を……!」

 熱が入り始めた語りに、俺は将軍様を捕らえている手を強めた。

 硬度調節機能を破壊した以上、スネークボディは無いはず。

 原作漫画を見たのは十五年以上前になるので、こんな細かい設定なんて自信はないが、技を仕掛けたからにはそれを信じるしかない。

 地上まであと3分の1。

 不安を掻き消す為に錐揉(きりも)み回転の勢いを上げた俺の耳に、将軍様の静かに呟く声が聞こえた。

順逆自在(じゅんぎゃくじざい)の術」と。

 次の瞬間、視界がブレたかと思ったら俺は、誰かに背骨を極められ、仰向(あおむ)けの状態で地面に向けて落下していたのだ。

 この状況には覚えがある。

 アストロとの対戦で『D・D・D』を掛けられた時と全く同じだ。

 将軍様が使った『順逆自在の術』とは、キン肉マンに登場した超人の一人、ザ・ニンジャが使った技の攻守をそっくりそのまま入れ替える妙技だというのか!?

「自分が何をされたのか、わかったようだな」

「こんな無茶苦茶な技、理不尽だ……」

「そうだ、無茶苦茶で理不尽だ。だが、貴様も知っていよう。この無限の闘争で上を目指せば、立ちはだかるのは雲霞(うんか)のごとき理不尽の権化だということを」

 諭すように紡がれる将軍様の言葉に、俺は言葉を詰まらせる。

 その通りだ。

 無限の闘争のランクを上げていけば、待ち構えるのは、神オロチに鬼巫女、ブロリーやラ=グースといった、物理法則すらもねじ曲げる狂気の化け物達なのだ。

 この程度の理不尽で根を上げていては、そんな奴等の前に立つなど到底不可能だ。

「理解したか。ならば、師である私が成すべきは、その身に焼き付けることだ! 理不尽の恐怖を! 無茶苦茶な力の痛みを!! いつの日か貴様がそれを喰らい、飲み込み、踏破できるように!!」

 気炎を吐くと共に、将軍様はバックブリーカーに捕らえていた俺の身体を地面に向けて投げ落とした。

 回転しながら迫り来る地上を捉えていた視界がグルリと動き、今度は高速で流れゆく謁見の間の壁面を映す。

 随分と無茶な扱いを受けているようだが、俺にはもう指一本動かす力も残っていない。

 追いついてきた将軍様が、互いの膝を合わせるように足をフックしてこちらに全体重を掛けた事によって、落下スピードが更に加速する。

 小さく視界を巡らせると、こちらを見上げて顔を青くするリアス姉達が見えた。

 泣いているミリキャスや美朱、朱乃姉の姿には心が痛む。

 ……すまん、みんな。

 やっぱり勝てなかったわ。

「貴様が超えるべき力をその身に刻め! 阿修羅飯綱落(あしゅらいずなお)としぃぃぃっ!!」

 将軍様の怒号と頭部を襲う衝撃を最後に、俺の意識はブツリとスイッチを切るように闇に落ちた。

 

 

 

 

 どうも、負け犬の姫島慎です。

 公開処刑と同義と言うべき将軍様との真剣勝負は、なんとか生き残る事ができた。

 正直、ここで一回は死ぬものだと覚悟していたのだが、自身の頑丈さには我ながらビックリである。

 俺が目覚めた時には対戦から30分ほどが経過しており、一行は控え室に戻ってきていた。

 目が覚めて最初に目に飛び込んできた鼻水まで出たアーシア先輩の泣き顔のどアップに、内心引いてしまったのは秘密である。

 先輩、懸命に治療してくれたのにこんな酷い感想を浮かべてしまい、本当に申し訳ない。

 さて、本題であるイッセー先輩の行方だが、結論から言えば先輩はゴールデンキャッスルには居なかったらしい。

 約二話分かけて、俺とサイラオーグの兄貴が半殺しの目にあったのはマルっと無駄だったようだ。

 なんでも、(なま)け癖の付いた体と心を鍛え直そうと、ゴールデンキャッスル版『精神と時の部屋』というべき部屋で将軍様とマンツーマンの修行を行ったところ、イッセー先輩は二日で挫折。

 本人から脱退を申し出た為、将軍様はそれを承諾してゴールデンキャッスルから放逐(ほうちく)し、後の行方は知らないとの事。

 この事に、サイラオーグの兄貴はイッセー先輩に対して情けないと嘆息(たんそく)し、リアス姉は将軍様の対応が無責任だと憤慨(ふんがい)していたが、俺はなんとも思わなかった。

 イッセー先輩に関しては、当たり前としか言いようがない。

 悪魔になったとはいえ、彼は運動部にも所属していなかった普通の高校生である。

 いきなり拉致って超人も裸足で逃げ出すようなシゴキを()いれば、逃げ出しもするだろう。

 合宿の時に耐えれたのは、レーティングゲームという目標もあり、後輩である俺の目もあった。

 なにより、受けていたのが、ゴールデンキャッスルではお客様コースと言うべき、軽いメニューだったのが大きかったのだ。

 あれで死にかけの状態だったのに、その5倍のキツさである本式メニューに耐えられるワケがない。

 将軍様の対応についても、間違ってるとは思わない。

 彼の役目は弟子が強くなる事を助ける事であり、それを自ら放棄したイッセー先輩の世話を焼く理由はないのだ。

 今回拉致を敢行(かんこう)したのだって、本人の気質もあるだろうが、その役目の一環だと言えるだろう。

 まあ、そもそもの原因は門下になったクセにサボり倒していたイッセー先輩にある。

 紹介した俺だって、合宿の時にサボらないよう釘は刺したし、いつでも利用できるように無限の闘争のユーザー登録だってしてやったのだ。

 レーティングゲームが終わって燃え尽きたのかもしれないが、放置するのは(まず)いだろう。

 まあ、何の益にもならない考察は置いておいて、本格的にヤバい事態になってしまった。

 現在、イッセー先輩は無限の闘争の中で遭難してしまっている。

 この理不尽、ネタ、悪ノリ、厨二病をまとめて非常識で煮込んだようなカオス空間では、死亡防止機能が付いているとはいえ、精神的な意味でイッセー先輩の命は風前の灯火だろう。

 ドライグにしても、無限の闘争に潜む理不尽な化け物の前では、水ポケモンの群れを前にしたヒトカゲのように心許ない。

 一刻も早く救助しなければ、『おっぱい』にしか反応しない廃人になっていてもおかしくないのだ。

 アーシア先輩と自前の治癒の重ね掛けで調子を取り戻した俺は、シャワーで全身にこびり付いた血糊を落とした後、塔城と入れ替わりで制御コンソールの前に座る。

 俺の敗戦がショックだったのか、俺から離れようとしないミリキャスの頭を撫でながら管理者権限を精査していくと、探していた項目が画面に浮かび上がる。

 俺が求めていたのは、『カメラ制御機能』と『ユーザーの位置情報機能』だ。

 無限の闘争では、ユーザーが自身の戦闘を確認できるように、各所にカメラが仕掛けられている。

 今まではあまり使った事がなかったのだが、こいつを上手く利用すれば監視カメラのように、イッセー先輩の足取りを追えるかもしれないと思ったのだ。

 もう一つは、無限の闘争内にいるユーザーの位置を、コンソールから確認する機能だ。

 前回のサバイバルツアーモードに参加した際にあるんじゃないかと睨んでいたが、案の定ユーザーサポートの項目にあった。

 初っ端からこれを使えばよかったのだが、あの時は将軍様に連れ去られたという先入観があった為に思い付かなかったのだ。

 やはり人間、冷静になることが大切である。

 取り敢えず、なんか雰囲気の暗い皆を呼んで見つけた二つの機能を動かしてみる。

 さきに動いたのがカメラだったので、ゴールデンキャッスルから控え室までの画像を八分割にして画面に映す。

 あとはイッセー先輩が連れ去られたと思われる時間に遡って再生すればOK。

「こんなものがあるのなら、最初から使えばよかったじゃない」

 位置情報システムが立ち上がる間、カメラを確認していると朱乃姉からツッコミが入った。

「すまん。俺も管理者権限を把握しきってなかったから、思い付かんかった」

 朱乃がまだ鼻声なのと心配をかけた事を合わせて素直に謝罪しておく。

 こちらとしては、将軍様に負けるのはある意味予定通りなので、泣いたりヘコまれたりしても困るのだが、負け方が悪かったのだろうか?

「自分の弟があれだけボロボロにされたら、ショックを受けるのは当たり前よ」

 ……あー、その辺は『武の道は(むご)く、そして厳しいモノと知れ』という事でひとつ。

 ……何故か雷撃と滅びの魔力、紫電のクナイが飛んできた。

 咄嗟(とっさ)にブロッキングで弾いたが、危うくコンソールに傷が付くところだった。

 どうやら女性に男の浪漫を察しろというのは、難しいようだ。

「あ、誰か人影が映ってますよ」

 こちらでアホな事をしていると、コンソールの横に置いた鈍色(にびいろ)の亀甲羅からギャスパーが声を上げた。

 モニターを確認すると、トボトボと歩くその人影は、制服を着たイッセー先輩だった。

「おっしゃ! やっと手掛かりが来た」

 指を鳴らしながら画像を進めると、控え室のすぐ前まで来たイッセー先輩はある人物に出会い、足を止めた。

「黒い棺を担いだシスター、ですか?」

 アーシア先輩の言うとおり、その人物は美しい銀髪に黒い法衣を身につけた修道女だった。

 イッセー先輩の前を横切る修道女。

 先輩の目は修道女の一点、大きくスリットが入って谷間が丸見えになった胸元に釘付けになっている。

「これはヒドい」

「……視姦は犯罪です。エロス先輩は死刑にすべきかと」

 美朱と塔城、一年生女性コンビから厳しい声が飛んでいるが、あのだらしのない顔では擁護(ようご)もできない。

 いやな予感を感じながら見ていると、案の定、修道女の後を追ってひょこひょこと控え室から離れていくイッセー先輩。

 なんとか足取りを追おうとしたが、途中でカメラの空白地帯に入られた為に追跡は断念せざるを得なかった。

「兄様、彼は助けなくてもいいんじゃないですか?」

 控え室に流れるなんとも白けた空気の中、ミリキャスの言葉に、リアス姉とアーシア先輩を除く女性陣が頷く。

 ミリキャスよ、残念ながらそうはいかんのだ。

 女性陣の厳しい表情を()えて無視した俺は、立ち上がってきた位置情報システムを表示させる。

 画面に映る地図には、俺とサイラオーグの兄貴が固まって表示されている地点と、そこから少し離れた北側にイッセー先輩の名前の付いた点が表示されている。

 幸い、馬鹿みたいに離れてはいないらしい。

 大体の位置は掴めたので、引き続き塔城に安全装置とマップナビを任せて、俺達は再び救助の旅に出ることにした。

 なお、女性陣のやる気が最底辺にまで落ちており、説得と激励にはひどく苦労した事を追記しておく。

 

 再び無限の闘争の世界に降りたった俺達は、先ほどの田舎道とは違った、古いながらも舗装された道路の上を歩いていた。

 ときより目に付く標識に『~マイル』と書いてある事から、この辺はアメリカを模して造られたエリアなのだろう。

『あと1キロほど先の街に、エロ先輩はいるようです』

「了解。他にわかる事は?」

『……いえ、このソフトは位置確認だけを表示するようですから』

「OK、その辺はこっちで調査する。塔城はイッセー先輩とこっちの面子の反応を見失わないようにしてくれ」

『……はい』

 耳につけたイヤホン型通信機から塔城の声に、指示を返して歩を進める。

 それから10分ほど歩くと、荒れ地ばかりの風景の後ろから大きなビル群の影が見えてきた。

 どうやら思った以上にデカい街らしい。

 イッセー先輩を捜す妨げにならないといいが。

「ねえ、あれって街の看板じゃないかしら?」

「リーア姉、なんて書いてあるの?」

「えーと……ラクーンシティへようこそ、ですって」

 瞬間、俺と美朱の目が死に絶えた。

 どうやら、次回もまた地獄へ付き合わなければならないらしい。




 ここまで読んでくださってありがとうございます。
 なんとか一話で将軍様戦を終えることが出来ました。
 将軍様が強すぎて、何を掛けてもすべて返されるイメージしか浮かばなかった為、大変苦労させられました。
 これでもスカル・クラッシュや地獄の断頭台は使ってないし、九所封じも半分残ってるんですよね……。
 今回の閑話で最難関というべき場面は切り抜けましたので、次は早めにお送りできるように頑張りたいと思います。
 では、今回の用語集をば、今回は漫画の技多めですね。

〉コブラソード
 漫画『高校鉄拳伝タフ』に登場するムエタイ戦士、ギャルアッド・スワンパクティの使う蹴りのコンビネーション。
 鼻先を掠めるような前蹴りで前面に意識を集中させておき、前蹴りの蹴り足を踏み込みに変えて視界の外から頭部に上段膝蹴りを叩き込む。
 作中では絡んできたチンピラをKOしたが、主人公の宮沢喜一は倒しきれなかった。

〉当身投げ→レイジングストーム(サンダーブレイク)
 MUGENでリリースされたP.o.t.S氏のCVSギースにmisobon_ism氏のオトコマエAIを組み込んだ際に使ってくる連続技。
 見た目もカッコよく威力も高いので、習得したい連携である。

〉不破圓明流奥義、神威
 漫画『修羅の門』に登場する流派、不破圓明流の奥義の一つ。
 宗家である陸奥圓明流を倒す為に生み出された技だとの事。
 相手が自分を仰向けに倒すように覆いかぶさってきた時、相手の腹に膝や足を当て、一緒に倒れ込むと同時に当てていた足で虎砲(相手に拳足を当てた状態から、全身のパワーを一気に相手に叩き込む技)を放つ。
 密着した状態で倒れこみながら放つため、相手には逃げ場がない。
 劇中では不破圓明流当代の不破北斗はこの技で主人公の陸奥九十九を瀕死に追いやった。

〉順逆自在の術
 キン肉マンに登場する超人、ザ・ニンジャが使用した技。
 技の受け手とかけ手を瞬時に入れかえる術で、様々な技に対しくり出す事が出来る。
 キン肉マンはこの技を使うのには500万パワーは必要と言っていたが、ニンジャは360万パワーで順逆自在の術を使いこなしていた。

〉阿修羅飯綱落とし
 アシュラマンの必殺技。
 本来は竜巻地獄で相手を上空に巻き上げ、真っ逆さまに落下してくる相手の足の上に膝を乗せ全体重をかけて落下しキャンパスに激突させる。
 変則で落下の途中で横方向に向きを変えると、相手を壁に激突させる∞稲綱落としになる。
 弱点は上下ひっくり返されると数字の8の如く、仕掛けられた側と仕掛けた側との天地が入れ替わり逆に仕掛けた側がダメージを受けてしまうこと。

 今回はここまでにさせていただきます。
 また次回でお会いしましょう。
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