MUGENと共に   作:アキ山

23 / 59
 みなさま、お待たせしました。
 後半部分です。
 


閑話『兵藤一誠救出指令(結)(後編)』

日の光とは異なる謎の光源に照らされて赤紫色に染まるモヤの中を、傷だらけになった生ける機関車が血を撒き散らしながら疾走する。

 車上で行われていた激しい戦闘も二つはその幕を閉じ、残るは魔の理により死を超越した不死者ディモスとリアス姉率いる眷属+αの闘いだけだ。

「いくぞ、F2! あちきと合体攻撃だ!!」

「わかった、姉さん!」

「いけ、いけ! らいこー!!」

『サンダー・スマッシャー!!』

 ドクロの意匠が刻まれた魔杖から放たれる緑の弾幕を器用に躱しながら、宙を舞うフェイト嬢とミニフェイト。

 二人の手にある機械的な黒い杖の先端から特大の電撃が放たれる。

「甘いぞ、幼子達よ」

 しかし周囲のモヤを焼きながら死者の王に向けて疾る雷光は、その身に届く前に魔杖の一閃によって掻き消されてしまう。

「あ~! また消えた!!」

「……ッ!? やはり魔法無効化能力なの!?」

 不満を隠そうともせずに頬を膨らませるミニフェイトと、厳しい表情で杖を構えるフェイト嬢。

 そんな二人を眼窩(がんか)に灯った赤い光で捉えたディモスは、ゆっくりと手にした魔杖をそちらに向ける。

「では返礼だ。人の業の落とし子と我が(くびき)を断ちし蘇生者よ、この程度で落ちてくれるなよ。『Wall Of Fire』!!」

 術の名と共に魔杖の先端から放たれた炎は、進路上に紅蓮の壁を築きながら少女たちへと牙をむく。

 しかし、火の粉を上げながら地を()う紅き大蛇が二人を呑み込む寸前、疾風を纏った影がその身を奪い去る。

 フェイト嬢達を脇に抱えながら宙を舞うのは、菖蒲(あやめ)色の忍装束に身を包んだ美朱だ。

「朱姉、合わせて! プラズマブレイド!!」

「ええ! 雷よ!!」

 トンボを切りながら美朱は残る右手で紫電の苦無を投げ、同時に逆方向に陣取った巫女装束の朱乃姉も白雷を放つ。

「ぬぅ……ッ!?」

 ディモスは杖を構えて相殺しようとするが、魔法ではない二条の雷撃は消える事無くその身を弾き飛ばす。

「今よ、イッセー!!」

「はい、部長!」

 リアス姉から敏捷強化の術式を受けたイッセー先輩が、背中からアフターバーナーのようにオーラを放出してディモスに迫る。

「うおおおおおっ! 食らえ、(おとこ)のナックル!!」

「まだまだ獲らせはせん、赤龍の戦士よ! 『Rebirth Gravity』!!」

 体勢が整わないままにディモスが魔杖を天に掲げた瞬間、奴の周りに光の柱が立ち昇り、それに触れたイッセー先輩はまるで見えない手に引っ張り上げられるように天に向けて上昇していく。

「うわああああぁぁぁっ!?」

「さあ、墜ちるがいい!!」

 魔杖を振り下ろすと同時に光の柱は消え失せ、空中に放り出されたイッセー先輩は受け身を捕る事も出来ずに床面に叩き付けられる。

「がはっ!?」

「空中遊泳は楽しんでもらえたかな? これはオマケだ、『Fire Ball』!!」

「ぐあぁっ!?」

 まるで子供に語り掛けるような口調ともともに、ディモスの頭上から放たれた火球が落下地点で(うずくま)っているイッセー先輩を吹き飛ばす。

「むぅ、いけません! マジックファイア!!」

「チッ、使えねぇな、あのヘタレ小僧はよッ! 行けや、影の獣共!!」

 イッセー先輩の窮地にラスプーチンは火球を、バロールは自身の影から飛び出て来た漆黒の狼に似た獣を放つ。

「やらせはせんよ、『Ice Storm』!!」

 しかし、二人の攻撃はディモスを守る様に渦巻く氷雪の嵐によって容易く凍り付き吹雪の一部となった。

 そして、吹雪の中から飛び出した巨大な氷の(れき)が二人を襲う。

「うぬぅ、小癪な……!」

「クソッ! 野郎、ヘタな上位ドルイドよりも腕が立ちやがる。坊やの身体で相手にするには骨が折れるぜ……!」

 ラスプーチンは瞬時に自身の身体を石に変えて防ぎ、バロールは影から呼び出した熊型の獣を盾にしてやり過ごす。

「虎煌拳!!」

 マシンガンの掃射のような(れき)も止みディモスを包んでいた吹雪も薄れた瞬間、狙いすましたかのように紅い魔力弾が奴の胸元へ飛ぶ。

「むん!」

 ディモスはすかざす魔杖で打ち消すが、同時に石のままだったラスプーチンを踏み台に跳躍した小さな影が頭上から躍りかかる。

「確か、飛燕龍王脚!!」

 足に紅い滅びの魔力を宿した飛び足刀で急降下するのはミリキャスだ。

「……龍王じゃない、龍神脚だ」

 どこかムスッとしたサイラオーグの兄貴が発するツッコミに苦笑いが浮かぶ。

 まあ、技名を間違えてるくらいはご愛敬だろう。

「これだけの魔力を持ちながら肉弾戦を好むか、なかなか面白い坊やだ。しかし……!」

「うわぁ!?」

 仕掛ける機は悪くなかったが、氣、この場合は魔力の練りが悪い為、ミリキャスの龍神脚は掲げた魔杖によってあっさり防がれた。

 無効化の影響で滅びの魔力は消え、反動で跳ね返ったところをディモスの放った魔力波によって大きく吹き飛ばされてしまう。

 技の型はできているが、全体的な練度が足りなすぎる。

 まあ、将軍様との戦いで兄貴が使ったのを見よう見まねでマスターした特異な才を思えば、練度不足なんてすぐに解決するだろうが。

 吹き飛ばされながらも空中で器用に体勢を整えたミリキャスは、残された機関部の先端を足場にして距離を取る。

「……ッ! こうも攻めきれないなんて……」

「魔法の運用が上手すぎますわ。あの鉄壁と言うべき術理を何とかしなければ……」

「あの杖の魔法無効化も厄介だよ。あれがあると私も姉さんも何もできない」

「ブーブー! ずっこいぞー、ドクロのおっちゃん! そんなにあちきの使い魔になるのはイヤか!! 使い魔になったらあちきに魔法のお勉強教えたり、抱き枕になったり、特典いっぱいなんだぞ!!」

「ふむ。幼女よ、それは特典ではなく労働と言うのではないか?」

「? アンジェリアのお姉は、美少女に仕えるのはご褒美だと言ってたぞ。マーリンだって抱き枕とか武器にされても嫌そうな顔してなかったし。あと、裸Yシャツは乙女の一張羅(いっちょうら)だって」

「……憶えておきなさい。それは極めて特殊な趣味の者の話で、普通の人はそんな事ではあまり喜ばないのだよ。あと、裸Yシャツの事は忘れるように」

「そうなのか? F2」

「……私も姉さんの恰好はどうかと思うよ?」

「(´・ω・`)」

 なんだあれ。

 敵味方の掛け合いのはずが、途中からミニフェイト嬢の情緒教育に変わったぞ。

 フェイト嬢も姉と呼んでるし、ホント何者なんだ、あの娘。

「敵との漫才はその辺にしとけ、ガキ共。今からそのドクロ野郎の首を獲らなきゃならないんだからな」

 言葉と共にラスプーチンと現れたのはバロールだ。

 奴はどこで手に入れたのか、(くわ)えた煙草から紫煙を(くゆ)らせながら深紅に染まった瞳でディモスを睥睨(へいげい)する。

 というか、なにギャスパーの身体でヤニ吸ってんだ、あの馬鹿。

「ほう。今、私の首を獲ると言ったかね? 少年の身体に潜みし魔神よ」

「ああ、言ったぜ。幻聴でも何でもねえから安心しな」

「随分な大言だ。それだけの頭数で攻めながら、我が魔法に阻まれてまともな傷を負わせられなかった君がそれを言うかね」

「確かにお前さんの魔法の腕は大したもんだ。オレが生きていた時代でも、そこまでの腕を持った魔術師は片手に数えるほどしかいなかった。けどよ、そろそろだろ?」

「なに?」

 ギャスパーの顔でひどく酷薄な笑みを浮かべるバロールに、ディモスの眼窩に灯る紅光が戸惑う様に揺らぐ。

「魔法の矢や火球なんて基本的な魔術を初めとして、氷精召喚、重力制御、壁が出来るほどに強力な火炎放射に雷撃、そう言えば、毒霧の噴射なんかもあったよな。さて、それだけの大魔法をポンポン撃ったお前さんにはどれだけの魔力が残っているかな?」

 その言葉に場にいた全員がディモスの方に目を向ける。

 言われてみれば、奴から立ち昇る魔力の勢いが弱まっている。

 それに、杖とは逆の手に持った水晶球に込められた魔力も、かなり目減りしているのを感じる。

「……なるほど。それを狙っていたからこそ、君はその強力な魔眼ではなく影の獣を嗾けていたという訳か」

「優れた魔術師を殺るには魔力切れ狙い(これ)が常套手段だからな。今回は頼りになりそうな連れが引き離された事もあって、念入りにさせてもらったぜ?」

「ちょっと待て。じゃあ、俺達にひたすら攻めろって言ってたのって……!?」

「少しでも奴の魔力を削るために決まってんだろ」

 バロールが浮かべる見事なゲス顔に、ドン引くリアス姉達。

「さて、おしゃべりはここまでだ。覚悟はいいか、ドクロ野郎」

「生憎だがそんな覚悟はできんよ。……来るがいい、魔術師の手腕とは『今ある魔力を如何に使うか』という事を教育してやろう」

 ローブをはためかせて魔力を滾らせるディモスに襲い掛かる一同。

 まあ、バロールを除く各人がどこか納得のいかない表情なのは仕方のない事だろう。

「なんか引っかかるけど気にしてる場合じゃねえよな! 行くぜぇぇぇぇぇぇッ!!」

 初手を取ったのは紅い鎧に身を包んだイッセー先輩。

 後方に控えている薬箱───もといアーシア先輩の治癒を受けた彼は元気いっぱいに突進する。

「今度こそ食らえ! 漢のナックル!!」

「せっかくだが遠慮させていただこう、『Project Image』!!」

 杖を掲げて詠唱を終えると、ディモスが6体に増殖する。

「なんだそりゃ!?」

 驚きながらもイッセー先輩はその一体に身体ごと突っ込む勢いで拳を振るうが、インパクトの瞬間にそのディモスは掻き消え、勢い余ってつんのめった先輩の背後に緑の魔力弾が突き刺さる。

「ぐああああっ!?」

「猪武者な龍の戦士はこれでいいとして、今度はいい加減目障りな後方を潰させてもらおうか、『Lightning Bolt』!!」

 鎧の破片を撒き散らして吹き飛ぶ先輩を尻目に、ディモスはリアス姉達に向けて雷撃を放つ。

「やらせませんわ! ……雷光よ!!」

 しかし、その光の鞭は朱乃姉の雷光によって打ち消され、さらに紫電の苦無と深紅の魔力弾によって幻影の3体が消滅する。

 というか、撃つたびにそんな嫌そうな顔しなくてもいいじゃねえか、朱乃姉。

「チィ……ッ!?」

「へっ、(ようや)くそのすまし顔が歪みやがったな」

「勝ち誇るにはまだ早いと思うがね、『Magic Missile』!!」

 後方でドヤ顔を浮かべるバロールに放たれる緑の魔弾、だがそれも影から這い出た獣によって防がれてしまう。

「幻影を生んどいて墓穴を掘りやがったな、馬鹿が! 忍者娘!!」

「了解! フェイトちゃんズもよろしくね!」

「おう、おまかせだ! F2!!」

「はい! バルディッシュ、アークセイバー、セット!」

『Arc Saber』

「私もお供しましょう! ライトニング!!」

 バロールの号令によって上空に陣取ったフェイト姉妹、地上のラスプーチンから魔法が放たれ、その中を美朱が駆ける。 

 鎌型に変形したバル2達から発射された二本の黄色の刃と、なぜか天高く足を上げた状態で落雷を受け、レントゲンよろしく自分の骨格まで見せた上で放たれた雷球。

 ディモスを挟み込むように飛来するアークセイバーが2体の幻影を打ち消し、本物に飛来した雷球は魔杖によって打ち消されたが、その間に美朱が奴の懐に飛び込んでいる。

「もらったよ!」

「そうはさせん! 『Wall Of Fire』!!」

 咄嗟に突き出した魔杖の先端は下から逆袈裟に斬り上げようとしていた美朱の腹部を捉え、次いで放たれた炎がゼロ距離からその身体を呑み込んだ。

 炎の奔流の中で瞬く間に消えていく人影、それを見ても仲間たちに悲嘆の表情は見えない。 

 何故ならば───

 次の瞬間、ディモスの真上から流星のように降り注いだ美朱がディモスの身体を袈裟斬りに切り裂いたからだ。

「な……ッ!?」

(オン)! 阿毘羅吽欠蘇婆訶(アビラウンケンソバカ)!!」

「ぐおぁぁぁぁぁっ!?」

 真言を唱えながら、分身と共に縦横無尽にディモスに刃を走らせる美朱。

 前後から腹を薙ぐと同時にディモスの身体が大きく吹っ飛んだ。

 『伊賀忍法奥義 梵天閃光陣(ぼんてんせんこうじん)

 今は無きADKのネオジオ用格闘ゲーム『ワールドヒーローズ』の主人公『ハンゾウ』こと『服部半蔵正成』が使う超必殺技である。

「見事……ッ!? しかし、詰めが甘いぞ!!『Meteor Swarm』!!」

 だが、ディモスも伊達にラスボスを任されているわけではない。

 弾き飛ばされながらも魔杖を天に翳すと、次々と天に虫食いのような穴が開き、そこから真っ赤に焼けた隕石が飛び出してきた。

「なんて無茶苦茶な召喚魔法をッ!? 回避よ、みんな!!」

 相手か放った魔法のスケールに度肝を抜かれながらも、全体へ敏捷強化の魔法を放つリアス姉。

 魔法の効果で格段に動きが速まったみんなは、襲い来る隕石を躱していく。

 だが、一人だけ動けない者がいた。

 美朱だ。

 奥義の撃ち終わりで発生した硬直は、敏捷強化の魔法を持ってしても美朱に自由を与える事はなかった。

 そして、その頭上には赤熱化したバスケットボール大の岩が迫っている。

 周りに降り注ぐ隕石に比べれば随分と小振りだが、頭に当たれば人の命を奪うには十分な威力を持つ。

 それが美朱を捉えようしたその時、

「させるかぁぁぁっ!!」

 両手に過剰なまでの滅びの魔力を宿したミリキャスが飛び込んできた。

「兄様、技を借ります! レイジング……ッ! ストォォォォム!!」

 気合いと共に地面に手を打ちつけると、荒れ狂う真紅の嵐がミリキャスと美朱を包み込み、その威に巻き込まれた隕石は欠片も残さず消滅する。

 ……威力も範囲も未熟だが、あれは紛れもなくレイジングストームだった。

 なんか弟分がエラいことになっているんだが。

「まさか、我が最大魔法を持ってしても一人も討ち取れんとは……!? だが、まだ雌雄が決した訳では───」

「いいや、チェックメイトだ」

 不屈の闘志で魔法を放とうとするディモス。

 しかし、手にある魔杖から魔力が放たれる事はない。

 それどころか、宙を舞うディモスの身体がまるで固定されたかのように、その体勢のままピタリと止まってしまっている。

「これは……っ!?」

「これがお前さんがさっき口にしていた魔眼の力だ。なかなかオツなもんだろう?」

 動く事も出来ないディモスを視界に収めたバロールは、瞳に宿った紅い光を一際強くする。

「見えてるか、ギャスパー坊や? これが俺の魔眼の正しい使い方だ。一対の魔眼で効かないのなら効くまで数を増やせばいいのさ、こういう風に」

 自分の身の内にいる相棒へのバロールの言葉に応える様に、周辺の影から獣が次々と顔を出す。

 百はくだらない獣の瞳。

 その全てが深紅の眼光を称えており、視線はディモスへ張り付いている。

「まさか、使い魔にまで魔眼の力を譲渡できるとは……!?」

「覚えとけ、切り札ってのは絶対に成功する土台を作ってから切るもんなんだよ。さて、トドメは任せるぜ、へたれドラゴン」

「誰がへたれドラゴンだ!?」

 視線をディモスに向けたまま勝ち誇るバロールの言葉に抗議の声を上げるイッセー先輩。

「んな事はどうでもいい。わかってると思うがしくじるじゃねえぞ。これを逃したら次は無いんだからな」

「ああ! 俺の最高の技で決めてやるぜ!!」

 気合いの入った声と共に、左手を天に掲げスタンスを大きく広げるイッセー先輩。

 腰だめにした右拳を中心に身体から立ち上る真紅のオーラが、貯め込まれた力の大きさを物語る。

「部長! この拳に俺の全てを賭けます!!」

 さらに勢いを増したオーラが宙に異様なモノを浮かびあがらせる。

 それは一枚絵を連続で映し出す形で表された、イッセー先輩のサクセスストーリー。

 赤龍帝の力で強敵を打ち砕いて冥界の危機を救い、地位を手に入れてのし上がる。

 何故か水着姿のオカ研女子と美朱をはせべらせ、豪華な椅子の上で高笑いするイッセー先輩の姿を締めとして映像は終わり、同時に背中から最大級のオーラを放出してその身体が加速する。

「食らえ!! イッセぇぇぇぇぇぇっ! 百ぅぅ年ッ! ナックルッッ!!」

「ぬおおおおおっ!?」

 最大倍化の『皆殺しのトランペット』を遥かに上回るオーラを宿した拳は時間停止の網に絡め取られたディモスの身体に突き刺さり、一撃でその身体を打ち砕く。

「…………燃え尽きたぜ」

 破壊を免れたディモスの頭蓋が地面に落ちると同時に、何故か大の字に倒れ込むイッセー先輩。

 というか、瀕死レベルで氣が減ってるじゃねえか!?

「倒された私が言うのもなんだが、彼を放っておいていいのかね? 半分魂が出かかってるんだが」

「薬箱先輩! イッセー先輩が死にかけてる! 治療を早く!!」

「薬箱ってなんですか!!」

 頭だけなのに妙に冷静なディモスの言葉と俺の失言にツッコミながら、手にしたシメサバ丸を放り出してイッセー先輩の元へ向かうアーシア先輩。

 鎧が消えてジャージ姿に戻った胸元に聖母の微笑の光が当たると、弱っていた氣の流れが少しづつ活力を取り戻していく。

 これならイッセー先輩は大丈夫だろう。

「ふむ。これならば、死に囚われる事はあるまい」

「ドクロのおっちゃん、なんであのお兄ちゃんを助けてくれたの?」

 割と余裕で言葉を紡ぐディモスの頭を持ち上げたミニフェイト嬢は、その眼窩の光を覗き込みながら首をかしげる。

「なに、気紛れさ。敗者が生き残り勝者が命を落とすなど、結末としては締まらないだろう?」

「そんなものなのか?」

「そんなものさ」

 イマイチ理解できないのかしきりに首をかしげるミニフェイト嬢と、その小さな腕の中でカタカタと笑うディモス。

 やっぱりこのドクロ、人間臭い。

 しかし、技を当てると同時に自分もくたばるとは……。

 それにあのセリフと演出、今のって『陣内兵太』の『10年ナックル』をアレンジした技なのか?

「うわぁ……」

 思わず口をついた呆れとも憐憫とも付かない声と共に、俺は頭を抱えた。

『兵太10年ナックル』

 成人ゲーム『大番長』の同人格闘ゲーム『BigBang Beat』に登場するキャラクター『陣内兵太』最大の必殺技だ。

 寿命を十年削って繰り出す超威力の拳で、原作『大番長』ではこれを使いすぎると兵太は超呆気なく死ぬ。

 『BigBang Beat』でも実装され単発で相手の体力を5割は削る事ができるが、使えば結果に関わらず体力が1ドットまで減ってさらに反撃確定という、博打100%のロマンとネタの双方を併せ持つ技となった。

 そういえば、先輩は撃つ時に百年とか言ってた。

 まさかと思うが、本当に一発で寿命を百年削ってるんじゃあるまいな。

 アーシア先輩の膝枕の上で、妙に緩んだ顔を見せているイッセー先輩にため息が出る。

 空気の揺らぎを感じて視界を巡らせると、周りを覆っていたモヤが消えて空間が元に戻り始めているのが見えた。

 どうやらこの騒動にも、ようやく終わりが見えてきたらしい。

 ……ああ、疲れた。

 

 

 

 

 さて、あれから数時間。

 核に吹っ飛ばされる前に街を脱出した俺達は、ラクーンシティから離れた分岐路にいた。

 あの後、散々暴れた反動か現実に戻った途端に列車がスクラップになり、トンネル半ばでアシを失った俺達は徒歩で残りの道を歩かなければならなかった。

 道自体は普通の線路で妨害なんかもなかったのだが、体力が空の上に界王拳の反動で全身が極度の筋肉痛だった所為で死ぬほど辛かった。

 そんな状態でも誰の手も借りずに歩き通したのは、一重に漢の矜持の為せる業だ。

 というか、女性陣に運ばれるなんて情けない真似、死んでもするかってんだ。

 その道すがらミニフェイト嬢改めF1嬢の事を尋ねると、彼女と使い魔契約を交わしたディモスが、頭だけだというのに随分饒舌(じょうぜつ)に説明してくれた。

 なんでもF1嬢は、フェイト嬢を作成するにあたって発生した失敗作達の魂と、サンプルとして残っていた検体を用いてディモスが作成した不死人だったらしい。

 しかし、ディモスが一時目を離した隙にアンジェリアという名の高位存在と接触し、『妹大好きな姉に悪い奴はいない』という謎理論で蘇生させられたそうだ。

 なるほど、F1嬢がディモスに固執していた理由は形はどうあれ生みの親だったからか。

 因みにディモスがF1嬢を創り出した理由は、終始一貫して『モノ』として扱われた彼女に哀れみを感じたから、だそうだ。

 どこの『赤おじさん』だよ、お前。

 あと、イッセー先輩の『100年ナックル』だが、やはりと言うか何と言うか寿命が100年しっかり減っていた。

 当人はその事を知らなかった為、知った時にはムンクの叫びのような表情になっていたが。

 今回の教訓は技に限らず、何かを使うときは性質をしっかり把握するといったところか。

 それと、この技は『ドレス・ブレイク』に続く封印指定技になったのは言うまでもないだろう。

 そんな感じで色々あった旅路も終わりを迎え、フェイト嬢達と別れる時が来た。

「ありがとうな、フェイト嬢。色々世話になった」

「ううん。私こそ、イッセーやみんなに会わなかったらあの町で死んでいたから。それに、姉さんにも会えなかっただろうし」

「そう言えば、これからフェイト達はどうするんだ?」

 思いついたかのようなイッセー先輩の言葉にフェイト嬢の顔にわずかに影が差す。

 そうか、クローンである彼女達には後ろ盾が何もないんだったな。

「それなら心配はいりません。彼女たちは私が責任を持って面倒を見ましょう」

 突然満面の笑顔で話に乱入してきたラスプーチンに、フェイト嬢を含めた俺達全員の顔が引きつる。

「え……あんたが? 大丈夫なのか、それ」

「こう見えても私、身寄りのない子供たちを保護する養護施設の経営も行っているのです。そこには私の孫のラスプーチコもいますので、友達にも不自由しませんぞ」

「え!? あんた孫いんの! というか、ホモじゃなかったのかよ!?」

両刀使い(バイ)ですがなにか?」

「余計悪いわ!! ホントに聖職者か!?」

「聖職者だからこそ、ですな。性別によって愛が偏っては全ての人を受け入れる事など出来ますまい」

 冴えるイッセー先輩のツッコミを笑い飛ばすラスプーチン。

 まあ、そういう考え方もあるのかもしれないが、幼児教育を任せるには適切な人材とは言い難いのではなかろうか。

「そう不安そうな顔をするな。あの怪僧がこの子たちに悪影響を与えぬように私も注意する」

 そう口を開いたのは、F1嬢との使い魔契約によってデフォルメされたまんまるドクロに姿を変えたディモスだ。

 こんなナリでも習得した魔法は全て使用可能というのだから、恐れ入るというか何というか。

「んー、ドクロさんがそう言ってくれるのなら少しは安心できるかな」

「うむ、任せよ。我が姿に思うところは無いわけではないが、契約を結んだ以上マスターを悪影響から守るのも使い魔としての責務ゆえな」

 安堵の声を出す美朱に頷いているつもりなのだろう、空中でクルクルと縦回転をするディモス。

 件のマスターであるF1嬢に目を向けると、彼女は俯いて不満げに頬を膨らませている。

「どうした、マスター?」

「ヤダ……ヤダぞ! せっかくお友達になれたのにお別れだなんて!! みんなもこっちに住めばいいじゃないか!!」

 手をバタつかせながら地団駄を踏むF1嬢の姿に、みんなの顔に苦笑いが浮かぶ。

「姉さん、イッセー達にも都合があるんだから。そんな我儘を言ったら、みんな困っちゃうよ?」

「にゅう……でも、寂しいじゃないか」

 フェイト嬢に後ろから抱きしめられた事で癇癪は治まったものの、F1嬢の紅い目に溜まった涙は決壊寸前だ。

「心配はいりませんよ、ネージュ」

 その項垂れた小さな頭をラスプーチンは優しくなでる。

「ネージュ?」

「ええ、貴方の新しい名前です。いつまでもF1などという記号ではいけませんからね。お気に召しませんか?」

「……ううん。今までのよりはいい」

「それはよかった。即興で考えた物ですが、我ながら良い名が浮かんだと思っていたのです。話を戻しますが安心していいのですよ、ネージュ。今回の旅で彼等と私達には縁が結ばれました。人の縁とは強いもの。たとえ時空を(へだ)てていても必要があればお互いを巡り合わせるものなのです」

「んーと……またミリキャスやみんなに会えるって事か?」

「ええ、きっと」

「そっか。だったら、寂しいけどあちきは我慢するぞ」

「よく言いました、偉いですよ」

 向こうの駄々っ子も納得したところで、名残惜しいがそろそろ別れの時間だ。

「それじゃあ俺達は行くな。二人とも達者で暮らせよ」

「ディモス、そのおっさんから目を離さない様にしろよ! マジで!!」

「じゃあね、二人とも! また会おうね」

「フェイトさん、ネージュちゃん! 今度あったら一緒に遊ぼう!」

「世話になった。冥界に来る事があれば歓迎しよう」

「フェイトちゃんもネージュちゃんもお元気で。ラスプーチン様、ディモスさん、二人の事をよろしくお願いします」

「皆さん、またお会いしましょう」

「今回は助かったわ。こっちに来ることがあれば、その時はお礼をさせてもらうわね」

「イッセー、みんな、ありがとう。きっとまた会えるよね」

「みんな、また会おうな! 絶対の約束だ!!」

「さらばだ。最後の障害を務めた者として、この言葉を贈ろう。君達はよい挑戦者だったよ」

「みなさん、一時の別れです。この後のイベントで私を召喚しても良いのですよ?」

「お断りします

   ハハ

   (゚ω゚)

  /  \

((⊂ )  ノ\つ))

   (_⌒ヽ

   ヽ ヘ |

εニ三 ノノ J

        」

「お断りします

    ハハ

   (゚ω゚)

 ((⊂ノ  ノつ))

   (_⌒ヽ

εニ≡ )ノ`J

        」

「お断りします

  お断りします

   ハハ ハハ

   (゚ω゚)゚ω゚)

  /  \  \

((⊂ )  ノ\つノ\つ)

   (_⌒ヽ ⌒ヽ

   ヽ ヘ | ヘ |

εニ三 ノノ Jノ J

         」

「お断りします

 ハハ

(゚ω゚)つ日 ザバー

     川

         」

「┌○┐ お断りします

│お│ハハ

│断│゚ω゚)

│り│//

└○┘(⌒)

  し⌒

         」

「お断りします

    ハハ

((⊂ヽ(゚ω゚) /⊃))

   \/  ヽ_/

  __/  |

 ( __ |

  \\  \\

  (/  / /

      \)

         」

「(´・ω・`)」

 変態が最後に立てようとした妙なフラグを全力で圧し折り、俺達は漸くの帰路に着いたのだった。

 

 

 

 

 

 時間にして一日足らず。

 しかし体感時間ではもっと長い間不在にしていた感がある控室に戻った俺達が最初に目にしたものは、山に積まれた高級菓子の空箱とリスのように頬を膨らませながらコンソールの前でもっきゅもっきゅと口を動かす塔城の姿だった。

「……おふぁえりなふぁい」

「口の中の物を始末してからしゃべれよ」

 なんとも間抜けな様子に全員で呆れた視線を向けてやると、そこで初めて塔城は居住まいを正した。

「……突然、みなさんをモニターできなくなったので心配していたんです。無事でよかった」

「ま、色々あったんでな。ともかくご苦労さん、場所変わるわ」

 塔城に変わってコンソールの前に座った俺は、コンソールに指を走らせながら、画面を流れる情報に目を通していく。

 今画面に出てるのは今回のリザルトだ。

 ほー、今回から参加選手に評価がつくようになったのか。

 なになに……。

 MVPは俺。

 敢闘賞はサイラオーグの兄貴。

 新人賞はミリキャスとイッセー先輩。 おおっ! アーシア先輩も入ってるな。

 最後はナメてる奴で賞……って『くにおくんの大運動会』かよ。

 これはリアス姉と朱乃姉がもらっちまったか。

 初っ端のポイント浪費が効いたのかなぁ、やっぱ。

 それで個人評価の報奨だが、これはガチャの回数追加のようだ。

 MVPで5回、新人賞と敢闘賞は3回増プラス、ナメてる奴で賞は2回マイナスか。

 大盤振る舞いかケチ臭いのか、よくわからんな。

 他には個人の診断書やら評価の詳細やら細々したもののようだし、これは後でいいや。

 さて、そんじゃあ皆さんお待ちかねのガチャタイムと行こう。

 俺はコンソール席を立つと、思い思いにヘタばっている面々に向き直る。

「みんな、今回のツアーご苦労さん。今回も色々ヤバい場面があったけど、全員無事に帰ってこれて本当によかったと思ってる」

「私達はともかく、慎兄とサイラオーグ兄は無事と言うには程遠いけどね」

 美朱のツッコミに他のみんなから小さく笑いが零れる。

 やかましいわ。死にぞこないだったのは自覚してるし、今飲んだ『エクスポーション』のお陰で回復してるわい。

「チャチャ入れんな、美朱。さて、今回の報酬として今からみんなにはガチャを引いてもらう。知ってると思うがこのガチャは今回初めて導入されたもので、詳しい事は俺にも良く分からん。その辺も踏まえて、ヤバいと思う奴は辞退してくれ」

 俺の言葉に手を上げる者はいない。

「まったく、この欲深な業突く張り共め。それじゃあ、誰から行くよ?」

「私から行くわ!」

 デカい胸を誇張しながら立ったのはリアス姉。

 どうなるか分からんって言ってるのに、この姉は……。

 まあいいや、この際だから人身御供になってもらおう。

「じゃあ行くわよ! あれだけ危険な目に遭ったんだから、ドカンとデカいのを当てて見せるわ!!」

 説明を聞き、コンソールに追加されたガチャボタンを気合と共に押し込むリアス姉。

 その結果は……

 やくそう×3 ハイポーション×2 地返しの玉×2 アライグマ

 ん……最後がおかしい? いいや、おかしくない。

 リアス姉が引き当てたのは名作アニメ『あらいぐまラスカル』の主人公ラスカルなのだから。

 因みに原作でもそうだったが、アライグマというのはとっても気性が荒く悪戯好きで、人間と同居するのに極めて不向きな動物だったりする。

 それが無限の闘争の闘士となれば、言わずもがなである。

 件のラスカルもその例に漏れず、見た目に騙されて抱き上げようとしたリアス姉を逆に抱え上げ、イズナ落としの様に空中から錐もみ回転を加えて頭から落とそうとする、なんて鮮烈なデビューをカマしてくれた。

 その体躯の小ささとは裏腹に、奴は投げキャラだったのだ。

 床に激突する前にラスカルごとリアス姉を受け止めたのでなんとか事無きを得たが、それからリアス姉はラスカルを怖がるようになってしまった。 

 せっかく呼んだのだから、害獣として処理なんて結末は無しにしてもらいたいものである。

 さて、先程の不幸な事故は置いといて、こっからはサクサク行こう。

 

 二人目、朱乃姉。

 その結果は……

 どくけし草×3 傷薬×3 ロトの鎧×1 チョコボ

 何気にロトの鎧が出てきたのにはビビったが、ロトの血なんぞ毛の先程も入っていない俺達には無用の長物である。

 さて、問題のチョコボに関してだが、呼び出されたのは子犬サイズの幼生だった。

 大きな目に涙を浮かべてこちらを見上げる仕草にあっと言う間に篭絡(ろうらく)された朱乃姉は、速攻で猫可愛がりし始めた。

 むこうも鳥の癖に豊満な母性の象徴に顔を埋めて幸せそうにしていたので、ファーストコンタクト的には問題ないのだろう。

 まあ、いくら可愛くても相手は無限の闘争の闘士。

 一癖くらいはあると考えておくのが無難と思われる。

 取り敢えずポイントでキザールの野菜を交換して、当面の餌として朱乃姉に渡しておいた。

 

 三人目はアーシア先輩。

 引いたのは

 エリクサー×1 賢者の石×1 光のドレス×1 ハイポーション×3 リボン×1 上やくそう×3 まんげつ草×2 ペプシマン

 序盤の鬼の引きには驚いたが、最後にしっかりオチを付けてくれました。

 ペプシマンは例のBGMと共に颯爽と現れたものの、ポーズをとったところで床に落ちていた瓶を踏んで転倒。

 強打した頭をアーシア先輩に癒してもらったことで、呆気なく懐いた。

 因みにアーシア先輩はコーラを飲むのが初めてだったらしく、ペプシマンの出したペプシコーラを飲むときは、おっかなびっくりだった。

 

 四人目はミリキャス。

 結果は

 豪傑の腕輪×1 プロテスリング×1 リフレクトリング×1 アモールのみず×2 仙豆×瓶いっぱい 命の木の実×3 力の種×3 フェイト嬢とネージュ嬢

 まさかの召喚である。

 むこうもこんなに早く再会するとは思っていなかったらしく二人してワタワタと混乱していたが、ディモスのお陰でなんとか落ち着きを取り戻した。

 その後こちらの事情を説明したところ、二人ともミリキャスの力になる事を快諾。

 その際、ミリキャスには悪魔に転生する事に関しては本人の意思を尊重する事と、眷属は道具でも奴隷でもないので当人の人権を尊重する事を口を酸っぱくして教え込んだ。

 二人は眷属候補兼ミリキャスの友人としてグレモリー家でお世話になるらしい。

 ……日本に帰る前に小父さん達に一言言っておこう。

 

 五人目はいつの間にやら、バロールからバトンタッチしていたギャスパー。

 本人もあまり理解しないままに引いた結果は

 エクスポーション×1 万能薬×1 金塊×3 水の羽衣×1 エルフの飲み薬×1 フェニックスの尾×1 スプー ゴレムス

 アクシデント発生である。

 驚きの闘士二重召喚だったのだが、片一方が最悪過ぎた。

 『スプー』

 巨大なかぼちゃに歪んだ顔と白い触腕が生えた姿をした化け物。

 好物は『子供の肉』

 この邪悪な怪生物は召喚と同時にミリキャス達へと襲い掛かろうとした為、俺の『狂雷迅撃掌』とサイラオーグの兄貴の『MAX覇王翔吼拳』で即座に抹殺した。

 呼び出したギャスパーはこの世の終わりの様な表情をしていたが、その後に現れたドラクエのゴーレムであるゴレムスに無言で慰められていた。

 うん、こんなこともあろうかと臨戦態勢を取っていて本当に良かった。

 ギャスパーについては、イヤな事件だったとしか言いようがない。

 

 気を取り直して六人目はサイラオーグの兄貴。

 叔母さんの治療薬を求めての参加だった為、ボタンを押す指にも相当気合が入っていたが結果は

 ソーマ×1 ブラックベルト×1 稽古着×1 世界樹の葉×1 マダラ蜘蛛糸×4 すばやさの種×2 体力の香×2 マルコ・ロドリゲス

 一念天に通ず、と言うべきか。

 小母さんを完治させる可能性を持つソーマと世界樹の葉をゲットする事に成功した。

 もっとも、本人はその後に現れた兄弟子に恐縮しっぱなしだったが。

 まあ、あの様子からすれば眷属にしようなんて思わないだろう。

 

 七人目は美朱。

 『ワンコ、カモン!!』と気合を入れて引いた結果は

 黒頭巾×1 黒装束×1 盗賊の腕輪×1 宝玉×2 サンゴの指輪×2 反魂香×1 やくそう×1 クー・フーリン

 ワンコはワンコでもクランの猛犬が来ました。

「よう!  サーヴァントランサー、召喚に応じ参上した。まっ、気楽にやろうや、マスター」

 と気さくに声をかけてくれたにも関わらず、召喚した瞬間に俺と美朱は二人して崩れ落ちた。

 美朱は忍犬の召喚に失敗した為。

 そして俺は日本に帰った後に浮上する彼の戸籍についての手続きや、日本神族所属の美朱にケルト神話屈指の英雄が付く事に関してダーナ神族と調整しなければいけない事等々の厄介事を思って胃が痛んだためだ。

 ランサー(こう呼べと言われた)はその様子に「自分が来たのは不満なのか!?」と憤慨していたが、事情を説明すると微妙な顔で納得してくれた。

 兄妹そろって無礼者ですみません。

 

 八人目はイッセー先輩。

 『ハーレム王に俺はなる!』なんてほざきながらのガシャの結果は

 竜の鱗×1 守りの指輪×1 特やくそう×3 魔石×4 傷薬×2 反魂香×1 いろは

 ……この男、マジで引きよった。

「はじめまして、旦那様。私、いろはと申します」

 と三つ指でお辞儀する露出過多なメイド服風の衣装を身に纏った美少女を見た瞬間、当の本人は両手を振り上げて天を仰ぐという渾身のガッツポーズで、

「おっぱい!!」

 と、雄叫びを上げていた。

 どう控えめに言っても最低である。

 お陰で女性陣からの評価はまた下降してしまった。

 しかし、なんで彼女はイッセー先輩をご主人様認定しているのだろうか?

 原作ゲーム『サムライスピリッツ 天下一剣客伝』では彼女の使えるご主人様=ゲームのプレイヤーだった。

 もしかして、その設定が生きていて召喚者=ご主人様って事になってるのだろうか?

 まあ、そうだとしても懸念すべきは不純異性交遊くらいなんだが。

 それだって『ヘタレドラゴン』の称号を持つイッセー先輩なら、覗きはしても手を出すような度胸は無いだろう。

 ま、差し当たっては彼女の戸籍云々について、こっちで世話をするくらいか。

 だって、童話『鶴の恩返し』をモチーフにした鶴の変化だし、あの娘。

 

 で、最後は俺。

 特に欲しいものも無かったので、何も考えずに引いてみたところ、

 やくそう×5 どくけし草×3 ポーション×2 傷薬×3 GSX-デスモドゥス×1 玉藻の前

 というとんでもない結果だった。

『玉藻の前』

 日本三大妖怪に喩えられる大化生。

 その正体は九尾の狐と言われている。

 さて、そんな大妖怪を呼び出したとあって、こちらも身構えていたのだが、現れたのは狐耳と尻尾をつけて露出強(誤字にあらず)の改造着物に身を包んだ天照様だった。

「謂れはなくとも即参上、軒轅陵墓(けんえんりょうぼ)から、良妻狐のデリバリーにやってきました!」

 なんて口上と共にポーズを取った彼女は、俺の『なにしてるんですか、天照様』という言葉にビシリッと固まった。

 こちらとしては彼女が現れた時点で、訳が判らないのだが。

「もしかして、天照大神と知り合いなんですか?」

 と、顔を引きつらせながら聞いてきたので『部下です』と答えると「ようやく、貴方様の前に出る事ができたのに!?」と嘆きながらその場に崩れ落ちてしまった。

 ガチ泣きする玉藻女史をなだめて話を聞いたところ、

 彼女は大妖と呼ばれているが、本来は人に仕える事を目的に分かれた天照様の分霊であり、宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)、要するに御稲荷様なのだという。

「この世界の住人は、外界から修行に来る者の事を見ることが出来ます。貴方様の事は幼少の時から見させていただいていました」

「俺の事を?」

「はい、私好みのイケ魂でしたので。本来ならもっと早くに出会いたかったのですが、私は呪術師。無手の武術を修めようとしているあなた様とは、師としても対戦相手としても縁を造る事は叶いませんでした」

「それで今回の召喚に応じてくれたのか」

「はい。千載一遇の好機と喜び勇んで来たのですが、まさか本体の元に仕えているとは……」

 尻尾や耳をしおらせながら項垂れる彼女に『何故天照様と知り合いだといけないのか』と尋ねると、もの凄く意外そうな顔で、

「え? だって本体ですよ、本体。腹黒くて残虐で、私もドン引きするくらいの謀略家で。そんなのを先に知られてたら、私にもいい感情なんて抱けないでしょう?」

 と捲し立てられた。

 天照様、エライ言われようである。

 それはともかく、分霊とは言え彼女は玉藻女史であり天照様は別人であるという此方の所見を伝えると、いたく感動された上に

「さすがは私が見込んだイケ魂! 子供の時からロックオンしていた甲斐がありました! こうなればこのタマモ、誠心誠意仕えさせていただきます!!」

 さっきの消沈ぶりはどこへいったのかというくらいのハイテンションぶりで、従者宣言されてしまった。

 まあ、ウチのお稲荷さんの社は空だし、そっちに入ってもらえれば受け入れもなんとかなるだろう。

 もう一つのデカブツである『GSX-デスモドゥス』だが、これは成人ゲーム『吸血殲鬼ヴェドゴニア』に登場するスズキのメガスポーツバイク『GSX1300R・ハヤブサ』を過剰改造した吸血鬼用武装バイクで、全面には防弾カウルとチタン製のドデカい刃が仕込まれており、車体の至る所に武器固定用のホルスターがある。

 さらにはニトロターボで初速から数秒で時速300キロに到達するという、イカレたバイクだ。

 せっかく引き当てた代物だが、俺はまだ二輪の免許は無いし過剰改造のせいで普通に乗れる代物でもないので、当分は倉庫で埃を被るだけだろう。

 さて、これで全員が引き終えたわけだ。

 各自、結果に関しては思うところがあるだろうが、その辺は各々で処理してほしい。

「今回の騒動はこれにて終了だ。家に帰るから、各自荷物纏めろよ」

 こちらの指示でノロノロと動き始める面々を見ながら、俺は大きく伸びをした。

 終わった、全ての厄介事が。

 これで俺も晴れて怠惰の国の住人になれる。

 今回のガチャの所為で、日本に帰ったら新たなデスマーチか待ってるような気がするがその辺は考えないことにする。

 というか、いい加減休まないと身体が保たん。

 休暇の残りはあと三日。

 その間は無限の闘争も封印して、まったり過ごすんだ。

 ……そんな儚い願いも、一日近くミリキャスを連れ回した事に対するグレモリー家のお歴々からの追求や新規メンバー同士が巻き起こす騒動で、あえなく消える事になる。

 そのやるせなさを『地獄極楽落とし』という形で、イッセー先輩にぶつけた俺は悪くない。




 ここまで読んで下さってありがとうございます。
 これで長かった閑話も終了、次は本編基準の話にもどります。
 因みに今回のツアーで参加者が覚えた技は

 慎 竜巻捕縛
   合氣鏡殺

 サイラオーグ MAX覇王翔吼拳

 イッセー 漢のナックル
      漢対空
      イッセー(兵太)キック
      イッセー百年ナックル

 ミリキャス 虎煌拳
       飛燕疾風脚
       飛燕龍神脚
       レイジングストーム
 慎、サイラオーグ、ミリキャスは無限の闘争のシステムではなく、自身の才格で習得していたりします。
 因みに今回召喚した仲間は、慎以外は全てダイスで決めました。
 イッセーの番でいろはが出た時は思わず『ふぁっ!?』と驚いたものです。
 さて、彼らの存在は原作とは打って変わった野郎と鉄火場しかないこの作品に、甘い描写をもたらしてくれるのでしょうか?
 まあ、作者が現在プレイしているのが『龍が如く』という時点で無理臭いのですが。
 ここからは今回の用語解説です。

〉伊賀忍法奥義 梵天閃光陣(出典 ワールドヒーローズ)
 『ワールドヒーローズ』の主人公、ハンゾウこと服部半蔵正成の超必殺技。
 技の発動と同時に自身の背後の壁に飛び、三角飛びで相手を急襲。
 ヒットすると梵字が浮かび上がる斬撃を連続で叩き込むと言う技。
 登場作である『ワールドヒーローズパーフェクト』では、見た目はかっこいいものの、かなり微妙な技で使い物にならなかった。
 その後、リリースされた『ネオジオバトルコロシアム』では実用レベルになり実戦で使えるようになった。

〉ラスカル(出典 あらいぐまラスカル)
 フジテレビ系の世界名作劇場枠で放送されたテレビアニメ『あらいぐまラスカル』に登場するアライグマ。
 アニメでの担当声優は『ドラゴンボール』の孫悟空役で有名な野沢雅子氏。
 原作は、主人公でもあるスターリング・ノースが少年時代を振り返って書いた『はるかなるわがラスカル』であり実体験をもとに書かれた小説である。
MUGENにおけるラスカルは、スーパーファミコンのバズルゲーム『あらいぐまラスカル』のドット絵を使用して作られている。
 特徴としては見た目と違ってバリバリの投げキャラでちびキャラ。
 投げキャラであるが、避けや前転といったものはなくそのかわり壁をつたって移動したりできる。
 そしてこのラスカルの一番の特徴は「野性の脅威」という2ゲージ技。
 これが発動するとアニメシーンがはじまり、相手をつかみ牛乳に漬けて洗い、そして頭から食らうという、かなり怖い技となっている。

〉ペプシマン(出典 ペプシコーラCM)
 ペプシコーラのイメージキャラクター。
 体が金属に覆われた筋骨隆々の人間で、目や鼻は無く口だけは動く。
 困った人を助ける為にダッシュで駆けつけて、主にペプシコーラを届ける正義のヒーロー。
 ただし、ドジで毎回酷い目にあう。
 作風がアメコミヒーローっぽいが実は日本生まれのキャラクターである。
 MUGENにおけるペプシマンは、グラフィックは『ストリートファイターⅢ』の『ギル』を改変したモノがあり、技はアクションゲームで用いた行動が主体である。
 空き缶からトラックまで数あるアクシデントに敵を巻き込んでダメージを与える等(当然自分が当たるとダメージを受ける)一般的な対戦格闘ゲームのフォーマットに沿った戦い方はしない。
 攻撃の効果音がデフォルトのままであるのはこちらも同じだが、音声は独自のものがいくつかあり、ペプシマン要素は押さえてある。

〉スプー(出典 教育テレビ・インターネット)
 NHK教育TVの番組「おかあさんといっしょ」で放送されていた着ぐるみ劇『ぐ~チョコランタン』に登場したキャラクターを、同番組内の絵描き歌コーナーにて歌のお姉さんが、その画伯然とする美的センスでスプーを描いた結果誕生してしまった悪魔。
 このスプーがネット上で有名になってしまったため、元がどんなものだったのか咄嗟に思い出せない人が続出することとなった。
  MUGENにおけるスプーは、通称『グロスプー』が有名。
 イントロでは一見普通のスプーだが、この姿で子供を食べるというグロテスクな方法で変身する。
 普通のスプーが泣く子供を片手で掴んでいる次点でおかしい。
 地面から血塗れの亡者を召還する飛び道具や相手を噛み砕くコマンド投げなど、技の一つ一つがエグいイメージを持たせる。

〉いろは(出典 サムライスピリッツ天下一剣客伝)
 奥州漆山(現在の山形県南陽市)に住む若者の前に突然現れ、彼の身の周りの世話をするため半ば強引に転がり込んできた謎の女性。
 早い話がメイド、もしくは押しかけ女房。若者を「旦那様」と呼ぶ。
 本名はもっと長いらしいが、旦那様が「いろは」の部分しか聞き取れなかったという。
 とにかく旦那様一筋で、御前試合に出場したのも旦那様の幸せのため。
 作中のセリフや勝利メッセージもほぼ全て旦那様に向けたものになっている。
 彼女の正体はかつて若者に助けられた一羽の鶴。
 その恩を返すために人間に化けて彼に仕えることとした。
 ちなみに「若者=プレイヤー」と考えるのが正しいらしい。

 さて、今回はここまでにさせていただきます。
 また次回にお会いしましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。