MUGENと共に   作:アキ山

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感想をくださった皆様、お待たせしました。
今回は説明文と肉成分マシマシでお送りします。


2話

 半ばからへし折れたビル群に、ぶつ切りになった高速道路。

 辺りは瓦礫と車や機械の残骸が小山を築き、まき散らされた建材や金属の粉末は、流れる水や吹き抜ける風さえも有毒なものに変える。

 文明に墓場というものが有れば、こんな感じなのだろうか。

 刻まれた名も解らない墓標の街の中を、俺は荒い息もそのままに走り続けていた。

 粉塵混じりの空気のせいで喉は焼け付き、流れる汗は全身を濡らす。

 肺は汚れていない新鮮な酸素を求めて胸を締め上げ、与えられた性能を超える程に脈打つ心臓はずっと悲鳴を上げ続けている。

 身体の限界なんて、とっくに通り過ぎている。

 もし、今倒れようものなら、立つことはおろか指一本動かす事もできないだろう。

 それでも身体が動き続けるのは、解っているからだ。

 心が、身体が、魂までもが『止まったら死ぬ』と。

 この墓標を築き、街を蹂躙しつくした化け物がこちらを狙っている事を。

 現状への苛立ちから、これを引き起こした馬鹿へ悪態をつこうとしたが、酸素が足りない脳味噌は気の利いた台詞を生み出す事もできない。

 もっとも、諸悪の元凶たる白蜥蜴は真っ先に化け物の手によって、クレーターの中心に強制埋葬されているが。

 何が白龍皇だ。言い出しっぺが0.1秒持たずにやられやがって。

「良かったぜぃ。坊主、生きてやが───アッー!?」

 雲に乗った甲冑姿のサルが、上空からこちらに近づこうとしたところで地上から放たれた黄緑色のエネルギー弾に飲み込まれて消えた。

 瞬間、全方向から叩き付けられた殺意に全身が総毛立つ。

 ヤバい、捕まった……!

 ケツの穴に氷柱を突っ込まれたような悪寒に、俺は足を止めてしまった。

 働かない頭に絶望がよぎり、追い詰められたネズミそのままに忙しなく辺りに目を走らせる。

 俺の眼では奴の動きがまったく捉えられない以上、これが無駄な行いだとは理性では理解している。

 だが、やらずにはいられない。

 肉食獣に捕食された草食獣が、喰われながらも死ぬまで足掻くように、何もしないでいたら身体より先に心が先に死ぬのだ。

 足を止めてどれほどの時間が経っただろう。

 数秒、数分。もしかしたら数時間も過ぎていたのかもしれない。

 悪足掻きに両手に渾身の氣を込めて、警戒していた俺はふと、言い知れないナニカを感じて腰を落とした。

 次の瞬間、頭が根こそぎ持って行かれる様な風圧が頭上を掠めていく。

 見えたわけじゃない。

 気配すら感じられなかった。

 マグレ。偶然。存外の幸運。

 いや、呼び名なんてどうでもいい。ただ、はっきりしているのは、今が千載一遇の好機と云う事!

「おおおおおぉぉぉっ!! レイジングストォォォォォムッッ!!!」

 全身全霊を込めて叩き付けた氣は蒼い衝撃波となって、車も瓦礫も死に体のビルすらも消し飛ばし、荒れ狂う。

 だが、そんな破壊の風すらも奴には何の痛痒も与えなかった。

 頭を掴まれたと思ったら、万力のような力で引っ張り上げられた。

 あまりの激痛に声すら上げられず、無意識に頭を掴む手を引き離そうと両手を掛けるがビクともしない。

 霞んだ視界に映るのは、噴き上がる金の炎のような氣を纏い金髪を逆立たせた筋骨隆々の大男。

「なんなんだぁ、今のは」

 奴は瞳の無くなった異形の視線で俺を捉えると、その顔に残忍な笑みを浮かべる。

 あ、これは死んだ。

 理屈ではない部分で理解するのと同時に男の氣が爆発的に膨れ上がり、空いた手に黄緑色の光弾が形作られる。

「スローイング・ブラスター!!」

「アッー!?」

 断末魔と共に緑の極光は俺の全てを飲み込んだ。

 

 

 

 

「さて、弁明を聞こうか。白龍皇(笑)」

 灰色の打ちっ放しのコンクリートで出来た殺風景な部屋。

 其処に置かれた木製の円卓を囲む椅子に腰掛けながら、俺は眼前の男へ目を向けた。

 レザーのジャケットとパンツに身を包んだ銀の髪に青い瞳を持つイケメン。

 ヴァーリ・ルシファーはこちらの視線など気にならないという風に、不敵な表情を浮かべている。

『待て、なんだ(笑)というのは!?』

「黙れ白蜥蜴! 0.1秒でやられる奴なんざ(笑)で充分だ、ボケ!!」

 ヴァーリの中から発せられた神器(セイグリッド・ギア)に封じられた天龍、アルビオンからの抗議をねじ伏せる。今回に関してはこいつ等に発言力は無いのだ。

「俺っちも、その辺は聞きたいぜぃ。あんな化け物を選んだんだ。さぞや立派な理由なんだろうなぁ」

 次いで口を開いたのは、ヴァーリのお目付役にて、闘戦勝仏の末裔である猿妖怪の美猴だ。余程あのエネルギー弾が堪えたのだろう、普段の飄々とした雰囲気はナリを潜め、冷え冷えとした眼光がヴァーリを射抜いている。

「あの化け物を選んだ理由か。強いて言うなら……」

「言うなら、なんでぃ」

「最強を体験してみたかった。反省も後悔もしていない!」 

「死ねぇぇぇい!!」

 ヴァーリが浮かべた無駄に神経を逆撫でするドヤ顔に、俺の飛び膝が突き刺さる。

 『DECOの世界最強のお兄ちゃん』こと『ファイターズヒストリー』のムエタイ戦士、サムチャイ・トムヤンクンから学んだ技『ティーカウコーン』だ。

 発生が早くそして突進力ある膝蹴りで、こういった奇襲には打ってつけだ。

 もんどり打って椅子から転げ落ちたヴァーリに駆け寄り、素早く両手足をロック、ロメロ・スペシャルの体勢を作り上げる。

「くっ、何をする!?」

「黙れ、愚か野郎! 今からその緩い脳味噌を締め直してくれるわ! ソリャー!!」

「グワー!?」

 ロメロ・スペシャルの体勢のまま前方に高速回転した俺は、ヴァーリの身体の前面を壁や床に叩き付けながら、室内を縦横無尽に駆け回る。

「どうだ! これが悪魔将軍直伝『地獄風車』だー!!」

「ウギャー!?」

『ヴァーリィィィ!?』

「あんなマンガみたいな技を使いこなすなんて……坊主、恐ろしい子!?」

 俺の怒号に白い馬鹿二人の悲鳴、美猴の恐れの混じった声が混じり合い、室内は実にカオスな状況になっている。だが、この程度はいつもの事なので気にしてはいけない。

 さて、ヴァーリの馬鹿をシメている間に、あの化け物『ブロリー』と闘う羽目になったのかを説明しよう。

 

 

 

 

 昨夜の堕天使の襲撃後、魔法陣で転移してきた親父を引き連れて、俺は家へと帰った。

 遠慮する親父を強引に風呂に入れて背中を流し、湯船に浸かりながら酒を飲む。

 風呂からあがったら、晩酌に付き合いつつ親父の愚痴を聞いてやる。

 アザゼルのおっちゃんをはじめ、個性豊かな変人が揃う神の子を見張る者(グリゴリ)の同僚の奇行に始まり、朱乃姉との縮まらない距離と自分の不甲斐なさ。

 俺と美朱に苦労をかけている事への謝罪ときて、最後にお袋の名前を呼びながら轟沈する。

 俺が晩酌に付き合えるようになってから、定番なったやり取り。

 ここまでが大体2時間程度。こっちが潰れないようにペース配分しながら聞き役に徹するのは大変だが、堅物で自分の内に溜め込みやすい親父の気持ちが楽になれば安いものだ。

 迎えにきた部下の人と一緒に、神の子を見張る者(グリゴリ)の自室に寝かせて晩酌会は終了。

 家に戻って晩酌の跡を片付けた俺は、酒の酔いもあって、早めに床についたわけだ。

 そして今日、朝の鍛錬の締めに一戦交えようと無限の闘争(MUGEN)を展開すると、先客がいた。

 ヴァーリと美猴だ。

 五年来の修行仲間であるこいつ等には無限の闘争(MUGEN)へのアクセス権を貸し与えているので、こんな風にカチ合う事がちょくちょくある。

 何時もは好き勝手に対戦をしているヤツらが、控え室で大人しくしている事に首を捻っていると、ヴァーリから思わぬ提案があった。

 曰く、「三人で協力して強敵と当たらないか」

 正直、俺はこの提案には乗り気ではなかった。

 無限の闘争(MUGEN)の鍛錬は、自身と同等もしくはある程度格上の相手と闘う事によって心身を鍛え、相手に勝つか自身の成長によって、新たな技を修得する事を基本としている。

 自分と隔絶した強さの相手と闘っても、鍛錬としては効率が悪いのだ。

 この事は二人にも説明していたのだが、戦闘狂の白蜥蜴には理解できてなかったらしい。

 渋る俺に業を煮やした馬鹿は、制御コンソールを勝手に操作して俺達三人を強制参加。

 さらに、対戦相手として、ランク『神』に位置する伝説のスーパーサイヤ人、ブロリーを選びやがったのだ。

 この無限の闘争(MUGEN)に登録されている戦士にはランクが存在する。

 最低のFに始まり、E、D、C、B、A、Sと来て『狂』『鬼』そして最上級の『神』だ。

 あの老人が残したと思われる説明書には、『狂』クラスで無限の龍神オーフィスと同等、『鬼』で赤龍神帝グレートレッドと同じレベル。

 そして『神』は一撃で星をも破壊し、加減を間違えただけで世界を滅ぼす化け物と書かれていた。

 はっきり言って意味が解らない。というか、星を砕く奴の相手なんてどうしろと言うのか。

 普通は自身のランクから1つ上までしか対戦相手を選べないのに、『神』だけはどのランクでも選べるという謎の仕様が災いし、俺達の地獄は始まった。

 ランクCに上がったばかりの俺とDから抜け出せていない二人の即席チームなど、当然奴の相手にはならなかった。

 開始早々ヴァーリが野菜王子よろしく瓦礫の中に消え、後の結果は冒頭語った通りである。

 悪夢の蹂躙劇の後、対戦リザルトで開始1分で全滅、与えたダメージは0.00001%である事を知った時はその場に崩れ落ちてしまった。

 渾身の必殺技が0.00001%とか……。

 まあ、あの時奴の攻撃を躱して反撃できたこと自体マグレだし、どんな攻撃でも必ずダメージになるという無限の闘争(MUGEN)の仕様がなければ、傷一つ付ける事も出来なかっただろうが。

 ヴァーリが泡を吹いて気絶したので適当に投げ捨てると、美猴が制御コンソールの前で難しい顔をしていた。

「どうした、サル」

「サル言うな。いや、あの化け物って実際どの位強いのかと思ってよぅ」

「俺等がミジンコみたいに叩き潰されるくらいだろ?」

「俺っち達を叩き潰すのならオーフィスでもできるぜぃ。けど、『神』クラスってのはそれより強いんだろう?」

 なるほど、蟻には象とサイの強さの差が解らないのと同じ理屈か。

「ふむ、調べてみるか」

 美猴を退けて制御コンソールを操作する。こいつは無限の闘争(MUGEN)をの中枢に直結しており、対戦相手や設定の他にバトルステージの選定やデータベースの閲覧、各キャラへの鍛錬の依頼なんかの調整もできるのだ。その為こいつを完全に操作できるのは俺だけになっている。アクセス権を渡してる者が操作できるのは、対戦設定と対戦リザルトや自身のステータスの確認程度だ。

 『神』ランクのブロリーを検索すると、画面には驚愕の事実が映し出された。

「ジーザス……」

「どうしたぃ?」

「あいつ、あの状態からまだ二回のパワーアップが残ってるらしい」

「ファッ……!?」

 驚愕に顔を蒼白にする美猴を無視して、コンソールに表示されたデータを読み進めていく。

 どうやら、この無限の闘争(MUGEN)に出てくる対戦相手は原点のMUGENで多くのクリエイターによって造りだされた同キャラを統合、調整した存在らしい。

 つまり、Aという人間とBと言う人間が『ブロリー』というキャラを創ったとして、Aがスーパーサイヤ人1にしかなれないとしてもBがスーパーサイヤ人2に変身できれば、統合された『ブロリー』は双方の特性を持ち、スーパーサイヤ人1、2双方への変身が可能になるということだ。

 そして、原作でも大人気だったブロリーは、公式が発表する遥か以前からスーパーサイヤ人3、4へ変身したキャラが海外の有志によって作られていた。

 そんな無数のブロリーが統合された結果、『超スピードで動いて常時ハイパーアーマー。超必殺技ゲージが自動充填される上に、追いつめられるとスーパーサイヤ人3、4へとパワーアップして体力も全快する』という化け物が誕生した。

 うん、こんなん勝てんわ。

 無限の闘争(MUGEN)の深すぎる可能性に、思考を放棄する事で折り合いを付ける事を決めると、携帯のアラームが鳴った。

 画面に映る時間は7:20。

 学生は登校の準備を始める時間である。

「お、もうあがるのか?」

「ああ。こっちは健全な高校生なんでな。学校へ行かねばならん」

「健全な高校生は、朝っぱらからこんな所に入り浸らないと思うがねぇ」

「言ってろ。ああ、帰る時は其処の馬鹿蜥蜴、回収していけよ」

「……なんか、ヴァーリの手足が曲がっちゃいけない方向に曲がってるんだけどよぅ」

「大丈夫、大丈夫。ヴァーリならそのくらい、三日あればくっ付くから。きっと、多分、メイビー」

「そりゃあ大丈夫って言わないんじゃねえかい?」

「細けえ事はいいんだよ。じゃあ任せた」

 美猴に言い残して、控え室の出口を潜る。現実に戻ってきた俺を待っていたのは、朱乃姉のステキすぎる笑顔だった。

 

 

 

 

「うおぉ…。朝から酷い目にあった」

「自業自得って言葉、知っている?」

 教室の机に突っ伏す俺に、呆れの込もった声が降りかかる。雷撃地獄に曝された兄に、何という冷たい態度。

 妹よ、お兄ちゃんは悲しいぞ。

「茶番乙。慎兄が大人しく食らってれば、一発で済んだじゃん。それを雷撃全部ブロッキングで捌いちゃうから、朱姉も意地なって雨霰と落とすんだよ」

 お陰で母屋の玄関が無茶苦茶だ、と嘆く美朱。

 弁明させてもらえば、悪気があったわけじゃない。ブロリーなんて化け物と闘ったせいで、緊張が抜けきらなかった身体が勝手に反応してしまったのだ。

「ブロリーって、『カカロットォォォォォォ!!』が口癖の?」

「そう。そのブロリー」

「そんなのまでいるんだ、あそこ。で、結果は?」 

「ヴァーリにサルの三人掛かりで瞬殺された」

「デスヨネー」 

「けど、マグレで一発入れたぞ。掠り傷どころか、皮がむける程度のダメージにもならんかったけど」

「なに当てたのさ。ジャブ?」

「渾身の氣を込めたレイジングストーム」

「しょぼいって言ったらダメだよね」

「倒壊しかかったビルを、根こそぎ消し飛ばす威力でしたが、なにか?」

「……さすがブロリーと言わざるを得ない。ホント、無限の闘争(MUGEN)に死亡防止機能があってよかったね」

「まったくだ。なかったら、今ごろ塵も残さず消滅してるよ」

 死亡防止機能は無限の闘争(MUGEN)に備わった基本機能の一つだ。即死や致命傷、身体に障害が残るような重症を無効、または支障が無いレベルまで治癒するようになっている。

 とは言え、傷を負った時には痛みは感じるし、死ぬようなダメージを受ければ全てが抜け落ちていく様な、死の喪失感を味わう事になる。

 まあ、お陰で生きてる事の素晴らしさをちょくちょく再確認できるのだが。

 え、素晴らしいと思うなら、ポンポン臨死体験すんなって? ご尤もです、はい。

「そう言えば、昨日パパが来てたでしょ?」

「ああ。昨日の堕天使の件で連絡する事があってな。ついでに一杯付き合わせたんだ」

「どうせまた、潰れるまで飲ませたんでしょ」

「ガス抜きだよ、ガス抜き。……あ」

「どしたの?」

「リアス姉に言わなきゃいけない事があった」

 酒を入れたせいで忘れていた。また忘れない内に連絡しとくか。

 携帯を取り出し、発信。

 二度のコールでリアス姉は出てくれた。

『どうしたの。もうすぐ授業が始まるのに』

「悪い。昨日の件で、言わなきゃいけない事があってさ」

『昨日のって、堕天使の件よね。何かしら?』

「昨日の帰り、堕天使に襲われたんで、返り討ちにして番所に引き渡した」

『……はぁ! 襲われた!?』

 おお、驚いてる、驚いてる。けど、携帯越しに朱乃姉の怒りの声が聞こえるのは、気のせいデスヨネ。

『え、ちょ…あなた、大丈夫だったの!?』

「大丈夫、大丈夫。相手は下級だったから、こっちに怪我はない」

『そう、よかったわ』

「あと、親父にもこの件伝えといたから。今頃はグリゴリに身柄は移ってると思う」

『そう。なら、こちらが手を下す必要はないわね』

 うむ、理解が早くて結構。

「向こうで何かわかったら、俺か美朱に連絡が来るようにしてるから。こっちはこっちで探りを入れとくわ」

『……わかったわ。それで今日は部室に来るの?』

「今日は鍛錬の日なんで、俺は無し。美朱は……」

 視線を向けた先には、漫画のチラシを指差しながら、首を横に振る愚妹の姿が。

「漫画の発売日だから行かないとさ」

『そう、わかったわ。あと、朱乃から伝言よ。「貴様、いい加減にしろ」ですって。伝言を口にするとき、顔が世紀末な劇画調だったんだけど、貴方なにしたの?』

「あーあー! 聞こえなーい!! 通話終了、切るぞ!」

『ちょっ、現実逃避はダメ───!!』

 流れるような動きで通話終了し、席に着く。俺は何も聞かなかった。よって、問題はない。

「慎兄、何かあったの? 顔が真っ青だよ」

 問題はないったらない!

 

 

 

 

 さて、学校が何の問題もなく終わったので、楽しい鍛錬の時間である。

 なに、本当に何もなかったのかだと?

 問題は無い。昼休みに朱乃姉に呼び出されて、黒こげにされかかっても。

 雷撃を緊急回避で避けまくったら、マジ泣きされたので土下座で謝ったとしても、何も問題は無いのだ。

 

 午後の鍛錬は対戦では無く、無限の闘争(MUGEN)に登録されている闘士を師事しての修行になる。

 無限の闘争(MUGEN)には自身の適正を元に複数の人物を師に選び、彼らの流派を基礎から学ぶことができる修行モードという機能がある。

 実戦では補いきれない闘士としての地盤を固める為のもので、俺は実戦経験を積む傍ら、こうやって基礎トレーニングも積んできたのだ。

 

「身体に眠る力、『潜心力』を自分の意志で引き出す。それが『神極拳』の真髄や」

 修行場に選んだ雪山の山頂を模したステージに、渋みのある声が響き渡る。

 粉雪の舞う中使い古した空手着に身を包んだ俺は、視界を塞ぎ丹田を意識しながら白い吐息を空手の呼吸法である息吹に変える。

『潜心力』とは筋肉の普段使わない力、要するに火事場の馬鹿力の事だ。これを使うという事は脳のリミッターを意図的に外して、肉体の潜在能力を引き出すことに他ならない。

 イメージするのは井戸。15年もの間、誰の目にも留まらずにその内で力を溜め続けた、強かな古井戸。

 その中に釣瓶を落とし、ゆっくりと汲み上げるように、力を引き出す。

 イメージを組み上げて閉じていた瞼を開くと、身を包む氣勢は不可視から紫電を纏った蒼い炎へと、その姿を変える。

 引き出した潜心力は三割ほどだが、これでも身体能力や氣の出力は通常の2倍近くまで跳ね上がっている。

 潜在能力を引き出す為、親父から受け継いだ雷が漏れるのが難点だが、これは制御の精度が上がれば治まるだろう。

 潜心力を馴染ませながら、ゆっくりと身体を動かしていく。空手の型から始まり、太極拳、ムエタイ、古武術、果てはプロレスまで。無限の闘争(MUGEN)で教えを受けた武術の基礎を再確認しつつ、徐々に引き出す潜心力の幅を広げていく。

「ええ感じやの。いきなり全開にしたせいで、身体中から水芸みたいに血吹いとったのが嘘みたいや」

「勘弁してくださいよ。それ、二年も前の事じゃないですか」

「二年も、やなくてまだ二年や。こういうおいしいネタはしっかり使わんとな」

 呵々と笑うのは、俺に空手と中国武術を教えてくれている高木義之先生だ。

 イナズマカットと呼ばれる、独特の剃りが入ったパンチパーマがトレードマークの生粋の大阪人で、美朱との寸劇に使う関西弁のコーチまでやってくれる愉快な人である。

「この調子やったら、今月中に『天地神明掌』を教える事もできるやろ。二年で神極拳を体得するやなんて、ワシも優秀な弟子持ったもんやで」

「優秀って……。その神極拳を一週間で覚えた人に言われてもなぁ」

「ダホ。ワシはその期間で体得せなあかん状況やったから、無理やり覚えたんや。開祖の陳陳先生も促成栽培やゆうとったわ。それにお前は、他にもムエタイやら古武術やら習っとるやんけ。そんだけ寄り道しながら二年で覚えたら充分優秀やで」

「どうもっす」

 習得した全ての型を終え、息吹と共に構えるのは二度目の空手の型。ここから引き出す潜心力は最大。氣炎は膨れ上がり、纏う紫電は雷撃となって周りの物を弾き始める。

「しかし、そのビリビリは無くならんのぉ」

「こればっかりは血筋っすからねぇ。力の制御が上がれば出なくなるんでしょうけど」

「お父ちゃんから貰ったんやったな。まあ、それもお前の奥にあった力や、無理に引っ込めることは無いやろ」

「いいんですか?」

「お前みたいな特殊な体質の奴に、教えた前例なんかないからな。無理に抑え込んで悪影響出たらアホみたいやんか。別に出てても不都合は無いんやろ?」

「ええ。身体にも特に違和感はありませんね」

「ならええ。そのまま全部の型やったら今日の稽古は終了や。型の一つ一つに気を張って潜心力を完全に使いこなしてみぃ」

「押忍!」

 この後1時間をかけてみっちりと型稽古を終えた俺は、高木先生に礼を言って修行場を後にした。

 無限の闘争(MUGEN)から出ると、大きく傾いた太陽が神社の鳥居をはじめ、辺りを紅く染めていた。

 あと一時間ほどで、世間一般では夕食の時間帯になる。

 昼間泣かせてしまった詫びに、今日は朱乃姉に代わって晩飯を作る事にしよう。

 炊いておいた飯が全滅していたので米を炊き、冷蔵庫の中を確認する。

 昨日出たトンカツが下拵えを終えた状態で残っていたので、献立をカツ丼に決めて油を用意。

 丼用の鍋に水、市販の丼出汁のモト、玉葱とネギを入れて煮ていると美朱が帰ってきた。

 俺が台所に立つのは珍しい事ではないため、普通に献立を聞いてきたのでカツ丼と答えると、カロリーがなどと愚痴り始めた。

「育ち盛りのお前が多少高カロリーの物を食っても、そうそう腹の肉にはならん」と返してやるとデリカシーが無いと怒られた。……解せぬ。

 結局付け合わせの味噌汁とお新香まで完食した美朱に、納得いかないナニカを感じながら後片づけをしていると朱乃姉も帰ってきた。

 俺が台所に立っている事に驚いている朱乃姉に、昼間の詫びと言うと嬉しそうに茶の間に入っていったので二人分の飯を用意する。

 茶の間に入ると美朱と朱乃姉が今日あったことで盛り上がっていた。何でも本屋の帰りにアーシアというシスターの少女と知り合ったので、イッセー先輩を巻き込んで遊び倒してきたらしい。

 しかも、そのアーシアという娘は俺と同じ聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)の所持者だという。

 慎兄のは聖母じゃなくて、悪鬼の嘲笑だろうだって? ふむ、そっちの方がドスが効いてていいな。

 聖母なんてガラじゃないし、今度アザゼルのおっちゃんに改名できるか、聞いてみるか。

 ……む、なんだ二人して残念なモノを見るような目をむけて。

 おい美朱、厨二病とかいうな。それはアザゼルのおっちゃん専用だ。

 ふむ、横道に逸れたな。話を戻そう。

 このアーシア嬢の一件は朱乃姉も知っていた。イッセー先輩がリアス姉に報告し、教会に近づかないようにと忠告を受けたらしい。

 しかし、アーシア嬢と別れた教会が引っかかる。あそこは随分前に打ち捨てられて、今は使われていないはずだ。

 朽ちた教会ははぐれ悪魔や堕天使の拠点になりやすい。

 これは探りを入れたほうがいいかもしれん。

 二人とも食い終わったので、洗い物をしながら思案していると、朱乃姉がまた出かける準備を始めた。

 行き先を確認すると、リアス姉達とはぐれ悪魔討伐があるとの事。

 む、俺等にはそんな情報は入っていない。

 俺達の茶碗を取るとは、リアス姉もやるようになったものだ。これは『魔のショーグン・クロー』から『地獄の超特急』のコンボの出番か?

「リアスはあなたと違って壊れ物だから、乱暴はやめてあげてね」

 酷いな朱乃姉よ、俺も一応壊れ物なんだが?

「貴方の場合は壊れ物だとしても、自己修復機能付きの超合金じゃないの。リアスと比べてはいけないわ」

 なんという評価。これはグレざるを得ない。

「え? 慎兄がグレるって、今更でしょ」

 おい、愚妹。お前は俺を何だと思っているのか。

「鍛錬中毒の修行僧型悪魔超人」

 むぅ……何故か否定できない。

 しかし、堕天使のハーフなのに悪魔超人呼ばわりとはこれいかに。

「悪魔将軍の弟子が何言ってるのさ。世が世なら立派な悪魔超人になる事間違いなしだよ、慎兄」

 俺の姉妹からの評価が酷い件について。今月の目標に『地獄の九所封じ』の習得を挙げたのが間違いだったか。

「あんなガチの殺人技、どこで使うのよ」

 無論、リアス姉の初レーティングゲームで。

 その時は謎のマスクマン、『バラキエル・ザ・グレート』として乱入するつもりだが。

「絶対やめてね」

 アッハイ。 

 

 それから俺達の参加を「イッセー君の研修も兼ねているから」と断った朱乃姉は、討伐に出かけて行った。べつに俺達がいても研修なら問題ないと思うのだが。

 やはり、リアス姉はレーティングゲームを見据えて任務を受けているのか。

「なんか荒事に関しては、リーア姉も朱姉も私たちの事、妙に警戒してるよね」 

 ふむ……。やはりこの前の合同討伐でやった、開幕妖刀ブッパがいけなかったのではないか?

「えぇ~、あれがダメとかない。香澄の妖刀の本来の使い方なのに」

 忍の祖とは何だったのか。しかも、あの所為ではぐれ悪魔が潜んでいた洋館が、標的ごと消し飛んだからな。

「その辺は必要経費だよ。妖刀使うの、凄い疲れるんだし」

 でも、事後処理を任せた上に報奨金折半は拙いだろう。

「うーん。その辺は要反省かな」

 まあ、あの放浪生活で金がない事の不便さは嫌と言うほど思い知ったからな。ドライになるのは仕方ない。

 会話が途切れ、何気なしに電源を入れたテレビをぼぅと見ていると、ふと美朱が口を開いた。

「朱姉達、心配だね」

「なら、見に行くか?」

 場所の方は念のために朱乃姉に聞いておいた。家の麓にある廃屋、ここからなら数分で着く場所だ。

「そうだね。イッセー先輩もいるし、リーア姉ってどっか抜けてるとこがあるから」

 席を立った美朱は自分の部屋に駆け上がっていく。2階から何かを引っ掻き回す音が聞こえた後、1分足らずで太腿や二の腕にシースに収まった苦無を巻き付け、手甲でなどで武装した姿で降りてくる。

 いつもながら、手早い奴だ。

「よし、じゃあ行くぞ」

「アイサー!」

 

 

 

 

 俺達が件の廃屋に着くと、中から戦闘を思わせる轟音が響いていた。

 開けっ放しになった入り口から中に入ると、両腕を失った巨獣に女の上半身が生えたはぐれ悪魔の胴体から脱出した塔城が、そいつを殴り飛ばしたところだった。

 柱や家具を巻き込みながら吹っ飛ぶはぐれ悪魔。朱乃姉へ追い打ちを加えるように指示を出し、余裕を見せるリアス姉。

 俺達の目はリアス姉の後ろから襲い掛かろうとする、斬り飛ばされたはぐれ悪魔の腕を捉えていた。

 瞬間、俺達は互いに別方向に駆けだしていた。

 祐斗兄を超えるスピードでリアス姉の元に駆け付けた美朱は、リアス姉を抱えて後方へ飛びながら手にした苦無を腕に叩き込んだ。

 8本の苦無を受けた腕は地面に叩き付けられて動きを止める。

「リーア姉、油断しすぎだよ!」

「あ……ありがとう」

 地面に降ろされて尻餅をついたリアス姉は、普段とは打って変わった鋭い視線をむける美朱に、小さく謝意を漏らす。 

 俺はと言うと、はぐれ悪魔の顔面を掴んで片腕で吊り上げていた。はぐれ悪魔はくぐもった悲鳴を上げながら、女の体に生えた手で必死に腕を外そうと足掻いているが、将軍様直伝の「魔のショーグン・クロー」はびくともしない。

 食い込んだ指から血が溢れ出すと、はぐれ悪魔の悲鳴はさらに大きくなる。 

「リアス姉、怪我は無いか?」 

「慎、あなたまで……」

 素早くメンツに視線を走らせて、負傷の有無を確認する。

 ふむ、誰も怪我は無いようで一安心だ。あとは、こいつを片づけるだけか。

 吊り上げている腕に力を籠め、身体全体で回転しながらはぐれ悪魔を振り回す。

「おおおおおおおおおおぉぉ!!」

 音が響く程の速度で振り回し、遠心力で浮き上がったはぐれ悪魔の身体を上空に放り投げる。

 上空高く舞い上がるはぐれ悪魔を追って飛び上がり、空中で奴を追い抜いた俺は右足を奴の首筋に叩き込み、その体勢のまま落下を始める。

「げぼぉぉぉぁぁぁぁっ!?」

 この状態を崩そうと足掻き始めるはぐれ悪魔。

 だが無駄だ。

 『魔のショーグン・クロー』で振り回された身体は、平衡感覚を失ってまともに動く事も出来ない。そして正確に首筋を捕らえた右足は首と頭を固定する事で、身体の動きを封じている。

 後は、首を捕らえた右足と俺自身がギロチンの刃となって、地面に激突すると同時に奴の首を破壊する!!

「これが地獄の断頭台だー!!」

「ウギャー!?」

 落下の加速と二人分の体重を一点集中した衝撃は、叩き付けられたはぐれ悪魔の首を中心にコンクリートの床に蜘蛛の巣状の陥没を作り上げた。

 そして、断頭刑を受けた哀れな罪人は、大きく陥没した首と下顎を自身の血反吐で濡らしてピクリとも動かない。

 ふむ、辛うじて生きているらしい。将軍様なら落下と同時に奴の首が千切れ飛んでいただろう。まだまだ未熟と言わざるを得ない。

「スッゲー……!」

「何て恐ろしい技なの……」

「地獄の断頭台まで……。悪魔超人デビュー待ったなしだね、慎兄」

 戦くリアス姉とイッセー先輩に、手痛いツッコミを入れる美朱。

 うん、俺は悪魔超人じゃないからね。断頭台もメッチャ未完成だし。スピン・ダブルアームしてなかったでしょ?

「慎、美朱。あなた達どうしてここに?」

「朱乃姉達が心配だったんでな」

「うん。リーア姉も油断してたし、来て正解だったね」

 堂々と毒を吐く美朱にバツの悪そうな顔をするリアス姉。

「で、これどうすんの?」

 半殺しどころか九割九分殺し状態のはぐれ悪魔を指さすと、みんなが痛ましい物を見るような顔になった。

「部長、楽にしてあげましょう。慎の悪魔を超えた凶悪な技で、苦しませておくのは可哀想ですわ」

「そうですね。あんな酷い殺人技を掛けられたら、命があっても地獄でしょうから」 

「……堕天使の皮を被った、悪魔よりも邪悪なナニカ」

「そうだよな。あんなえげつない技食らったら、死んだ方がマシだよな」

「ええ。極悪非道な弟分の不始末は、私が着けないとね」

 ……なにこれ。助けに来たのに不始末とか言われてるんだけど。

「ボロクソだね、慎兄。まあ、悪魔超人期待の星だから仕方ないか」

 ……解せぬ。

 この後、はぐれ悪魔はリアス姉が消滅させ、俺達は怪我もなく帰ることができた。

 この一件が原因で、当分の間イッセー先輩から悪魔の中の悪魔と怯えられるようになったのは、まあどうでもいい話なのだろう。




 読んでくださってありがとうございます。
 今回は格ゲー原作ではないキャラや技がメインでした。因みにここに出たキャラはみんなmugenにいますよ。
 さて、今回の慎の使用技ですが、
ティーカウコーン(現状唯一の突進技。地味だが派生が早く、下段をスカせるので何気に使いやすい。防がれると反撃確定なのが玉に瑕か)
地獄風車(超人レスリング第一弾。格ゲーでも数少ないダウンした相手への追い打ち用投げ技。)
魔のショーグン・クロー(派生が早く比較的間合いの長い投げ技。ここから地獄の超特急が未完成地獄の断頭台への投げコンボが可能)
未完成地獄の断頭台(本来とは技の入りからかなり違い、安定性にも欠けるので、威力は本家の半分ほど。利点は投げのコンボになっているところか。将軍様を見習いましょう)
 さて、今回で基本的なmugenの設定も出せたし、次からは少々巻きで行けると思います。
 良ければ、次回も見ていただけると嬉しいです。
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