思った以上に話が進んでない……。
次の話で終わるかなぁ。
「どうした、色男! その程度かっ!!」
「……ッ!? まだまだぁっ!!」
晴れない夜闇の中を三条の閃きが交錯する。
一つは固まった血のような濁った赤、後の二つは澱みが無い真紅と黄色。
二対一にもかかわらず優劣の秤が傾くのは血色の槍を振るうキャスターで、徐々にディルムッドの手数は減っていき守勢に追い込まれていく。
攻撃速度や身体能力では勝っているものの、技量ではキャスターのほうが上か。
それにディルムッドはどことなく闘い辛そうな印象を受ける。
伝承によれば、奴の本来のスタイルは二槍ではなく、今持っている槍に加えてモラルタ・ベガルタの二刀を使用した、剣と槍の二刀流だったはずだ。
クラスで付くというステータス補正差も、その辺で覆されているのだろう。
「チィッ! 御子とはいえ、これ以上はやらせん!!」
迫りくる突きを長槍で弾いたディルムッドは、起死回生を狙って短槍の一撃を放つ。
だが、必勝を期した短槍はキャスターに届く前に払い落とされ、間髪入れずに放たれた攻防一体の刺突が、ディルムッドの首を穿つ寸前でピタリと止まった。
「そこまで!」
親父の号令で模擬戦は終わりを迎え、血色の穂先から解放されたディルムッドは小さく息を漏らす。
「ふむ、どう見る?」
「キャスターの方は流石というしかないな。初めて使う得物なのに全く遜色がない。ディルムッドも戦力的には申し分ないが、本来とは違う二槍流というスタイルが、攻防に隙を産んでいるみたいだ」
投げられた問いに答えを返すと、隣で観戦していたヴァーリは小さく頷いた。
「そうだな。あの男、好機にあってもどことなく動きがぎこちない時があった」
「もしかしたら、変な召喚をした所為でなんか不具合でも起きてるのかもな。取り敢えず、本人に確認してみるか」
そう締めくくって、俺達は土手の上から鍛錬の場と化した河川敷のグラウンドへと足を進めた
皆様、こんばんわ。
あの後、ヴァーリと二人で無茶苦茶怒られた姫島慎です。
ヴァーリのアホに煽られて暴れてしまうとは、不覚にも程がある。
半分はノリだったとはいえ、これは反省すべき事案だろう。
さて、今俺達は河川敷の適当な広場で新規参入メンバーの能力確認を行っているところだ。
いくら俺でも、新入りをいきなり戦場に放り出すなんて真似はしない。
なんせ召喚なんて異常な方法で呼び出した面子である、身体に異常がないなど誰が言えるだろうか。
という訳で自他共に確認の為に手合わせをしてみたのだが、結果の方は上々だ。
現地の聖杯で呼ばれたというキャスターは問題なし。
クラス補正でクーの兄貴よりは下がっているとはいえ、身体能力に異常は認められないし、むこうの要望で貸したブラッド・ランスも十全に使いこなしている。
身体の方が劇的に変化してしまったアナ嬢(ランサーの事だ。こう呼べと言われた)も、反転していた時のように鎖による包囲攻撃は出来ない代わりに、得物の腕や身体能力は向上していた。
カルデア式で呼んだ二人も、現地サーヴァントの二名には一歩譲るが戦力としては十分な力を見せた。
リリィ嬢の方は技量では少々不安な面を見せたが、その辺は最優と言われるセイバーの身体能力と、それをさらに向上させる魔力放出でカバーしていた。
一対一でサーヴァントを相手にするのは少し厳しいかもしれないが、骸骨兵相手なら問題なく対処できるだろう。
もう一方のディルムッドは技量、身体能力共に問題はないが、二槍流というファイトスタイルが完熟しきっていない点が玉に瑕か。
この辺は、同じ槍使いであるキャスターや親父と言った超一流がすぐ横にいるからこそ、荒になって見えているのかもしれないが。
「というのが、模擬戦から判断したこちらの見解だ」
俺の口から出した結論に、同行者一行は様々な表情を見せる。
審判を務めていた親父やリリィ嬢の相手をした美朱、玉藻にキャスターは納得。
ディルムッドとリリィ嬢は少々悔し気だ。
朱乃姉とお袋はそんなリリィ嬢を慰め、アナ嬢は我関せずと言った感じで得物の手入れをしている。
「……あなたね、どうしてサーヴァントにダメ出ししてるのよ。今の動き、全部見えてたとでも言うつもり?」
「見えてたぞ。つうか、それを確認する為にわざわざ模擬戦したんだし」
「なんだ。お前達には見えなかったのか?」
「見えるワケないでしょーがッ! サーヴァントは音速を超えてるのよ、音速を!! 普通の人間が捉えられるかーっ!!」
俺達の返しにヒステリックに叫ぶオルガマリー女史。
まったく、世間を知らない奴はこれだから困る。
座学しか能のない無知な魔術師にはわからんだろうが、1日48時間鍛えれば人間は音速なんて軽く超えるのだ。
「音速くらい大したことないだろ。
「ふむ。
「化け物ッ! 化け物ッ!! 化け物ぉぉぉぉッ!!! あんた達絶対おかしいわよ!」
「所長! 落ち着いて!! 落ち着いてください!!」
「彼らは人間の限界をジェット・ゴーしてしまった、名伏し難いナニカなんです!! 人間はっ! 人理はっ!! こんな怪物を生み出したりしませんから!!!」
頭を掻きむしりながら錯乱し始めるオルガマリー嬢を必死に慰める藤丸嬢とマシュ嬢。
つうか、マシュ嬢って何気に失礼だな。
「ところでドクター」
『なんだい、慎君』
「カルデア式の召喚方法だと、サーヴァントの身体能力って下がるのか?」
『そうだね、確かに低下する。でも、それには理由があるんだ』
ふむ、理由があるとな。
よろしい、詳しく聞こうじゃないか。
『カルデアが使っている守護英霊召喚術式・フェイトは、冬木の聖杯戦争の英霊召喚術式を参考に造られた。でも、カルデアと聖杯戦争では英霊の運用方法は全く違うんだ。知っての通り、冬木の聖杯戦争は7組のサーヴァントとマスターの生存競争だ。その為、聖杯は英霊を使役するに足る者をマスターに選び、クラスという枠に当てはめるものの、基礎能力は生前に近い形で召喚を行う。しかし、カルデアは人理の守護という長大な目的から、多くの手を必要とする。そのために多くのマスターの元に英霊を呼び出さなければならない。当然、個々のマスターの能力にはバラツキがあるから、生前の能力を再現して呼び出せば下位の者が使役できなくなる』
「だから、そう言ったマスターも問題なく運用できるように、能力を押さえて呼び出すと」
『その通り。けど、ずっとそのままってわけじゃないよ。マスターが成長すれば、必要な触媒を使用してリミッターを解除できるようになっているし』
「成長と触媒ねぇ……。それって俺とディルムッドにも適応されるの?」
『それはわからない。ハッキリ言って、君みたいな召喚は想定外もいいところだからね』
申し訳なさそうにするドクターに気にしない様に告げた俺は、一団から離れて槍を振っているディルムッドの方に足を運ぶ。
「申し訳ありません。戦働きの為に呼び出されておきながら、このような無様を晒してしまうとは……」
こちらに気付いたディルムッドはすぐさま跪こうとするが、手でそれを止める。
「いや、相手は『ケルト版ヘラクレス』なんて言われてる大英雄クー・フーリンだ。クラス補正があっても、本来のスタイルじゃなかったらキツイだろ」
「……気づいておられたのですね」
「まあな。伝承じゃあ剣と槍の二刀流だって伝わってるし、さっきの模擬戦でもチョコチョコ動きがぎこちなくなってた。ところで、それ以外で不具合は無いのか?」
「不具合、ですか?」
「ああ。身体が重いとか能力が下がったとか、どんな些細な事でもいいからあるなら言ってくれ。召喚方法やら何やらイレギュラーが多かったみたいだからな、その辺の影響が無いか心配なんだよ」
こっちの問いかけに、顔を伏せて思案するそぶりを見せる。
「正直に言えば、前回召喚された時より少し身体のキレが悪いですね」
「ふむ、やっぱ身体能力にマイナスが掛かっていたか。それと得物はどうなんだ? 二槍で戦い辛いってんなら剣も用意するぞ」
「よろしいのですか?」
「ああ。モラルタやベガルタみたいな名剣は、さすがに無いけどな」
言いながら携帯端末を操作した俺は、『無限の闘争』で入手した剣を適当に見繕って転送する。
キャスターに貸しているブラッド・ランスもそうだが、『無限の闘争』は先のアップデートから、対戦でも武器を落とすようになったのだ。
『凶ランク千人組み手』で死にながらゲットした武器の数々、見るが良い!!
「取り敢えずこんなもんか。気に入った物があるなら持ってってくれ」
「ありがとうございます、拝見させていただきます」
目を輝かせながら、地面の並べられた十数本の剣に手を伸ばすディルムッド。
おメガネに適う物があればいいが。
「やれやれ、刃物にギラギラした視線を向けるとか。どう見ても不審人物ですよ、あれ」
小袖から取り出した扇子で口元を隠しながら、玉藻がこちらに寄って来た。
む……、心なしかこっちを見る視線が厳しい気がするな。
「まあ、あれだ。あいつは一流の騎士だからな、ああいう武器類を見たらワクワクするんだろ」
「戦人の気持ちは手に取る様にわかるのに、女性の機微をまったく読めないとかー。これってご主人様の玉に瑕なところですよねー」
ぷぅっと頬を膨らませながら、こちらを見上げる玉藻。
ふむ、何か気に障る事でもしただろうか。
「べっつにぃ。私に無断であの蛇娘と契約した事とか、全く気にしてませんから。ご主人様って実はロリコンの気があるのでは!? なんて思ってねーですからっ!!」
どうやらアナ嬢と契約したのが気に喰わないらしい。
つーか、誰がロリコンじゃい。
「仕方ねえだろ。こっちはアナ嬢をモルモットにした負い目があるんだしよ」
「ぐっ……。それにしたって、タダで解呪を行ったんだからイーブンじゃないですか」
「そりゃ結果論だべ。しくじったらもっと酷い状態になってた可能性だってあるんだ。本人の同意無しにやった時点で、こっちに何か言う権利はない」
「確かにあれで解呪を失敗してたら、伝承通りの女怪に化けていたと思いますけど……」
マジか。
もしそうなったら、クレイトスさんばりのヴァイオレンスをやらなきゃならんところだった。
あのデンジャラスハゲには、最近ようやく勝てるようになったからなぁ。
いやぁ、首捥がれたりハラ掻っ捌かれたり、中坊の時はバリバリ殺されたもんだ。
「どうしたんですか、ご主人様。いきなり遠い目をして」
「とある時空でソロでオリュンポスを全滅させた、スパルタンとの戦いを思い出してた」
「クレイトスさんですか。彼って軍神にして特A級の神殺しですから。ご主人様があの化け物に勝ったのを見た時は、正直ドン引きしました」
「いや、退くなよ。メッチャ大変だったんだから」
お前もあの人のCSアタック食らってみるか?
その尻尾、全部千切られるぞ。
……ん、尻尾?
そう言えば、玉藻の尻尾が増えたのって、俺がオーフィスと闘ってる時の氣の余剰分を受けたのが原因だったっけ。
確か、霊基が強化されてパワーアップしたとかなんとか……。
もし、ディルムッドが玉藻と同じ状態だったら、これって使えるんじゃね?
「なあ、玉藻」
「はい?」
「その尻尾って、俺の氣の影響で増えたんだよな?」
「はい。あの時のご主人様の氣は、地脈のそれを遥かに上回る程に上質でしたので。お陰で霊格もしっかり上がりました」
「なら、今のディルムッドに氣を送り込んだら能力が上がると思うか?」
俺の出した問いに、玉藻は顎に指を当てながら思案に入る。
「不可能ではないと思いますけど、匙加減を間違えると危険ですよ?」
「そうなのか?」
「はい。ご主人様の氣はレイライン、即ち龍脈を通る地球の生体エナジーを上回るほどの高密度エネルギーになりました。現在、蛇娘や黒子さんに流れているモノはご主人様の身体を巡る分の残滓のようなもの。それでも彼ら二人を現界させるには十二分なのです」
「ふむ、それで?」
「ですが、ご主人様の考えを行うには、その氣の上質さが仇となるのです。本来、レイラインを受けて生きるのは大地や空と言った天然自然、転じて神や精霊といえるでしょう。ですが、サーヴァントは英霊の座という高次空間の影響で精霊に昇華したとはいえ、元は人霊。神や生粋の精霊に比べて、その霊基は遥かに脆弱です」
「成る程。下手に氣を送り込めば、その存在自体が崩壊しかねないってことか」
「はい。私や蛇娘のように神だったモノやキャスターのような半人半神であるなら、まだ受け皿があるのですが。あ、お義母様が精霊に昇華したのは例外中の例外ですからね」
「OK 理解した。取り敢えず、本人に聞いてみるか」
踵を返してディルムッドのところに向かうと、ディルムッドだけではなくリリィ嬢やキャスターまで剣を見ていた。
「シンさん、ここにあるのはどれも良い剣ばかりですね!」
ピンク色の刀身を持つ曲刀を手にしながらキラキラした笑顔を向けるリリィ嬢。
うん、あまりこっちに向けないでね、それ『誘惑の剣』だから。
身内にメダパニが掛かるとか、勘弁です。
「主、これをお借りしてよろしいでしょうか?」
ディルムッドが持って来たのは、ドラクエでお馴染みの『奇跡の剣』とファイナルファンタジーの『オリハルコン』だ。
奇跡の剣はもちろん、オリハルコンもFF3仕様なので共に斬りつけた相手から生命力を奪う剣である。
さすが騎士、剣の目利きがパネェ。
「ああ、構わねえよ」
「シンさん、私はこれがいいです!」
期待に満ちた声に目を向けると、飛び込んできたのは柄に女王の意匠を持つ騎士剣。
あらやだ、手にしてるのは『セイブザクィーン』じゃないの。
それって、持っている限り永久にプロテス(物理防御力上昇魔法)の効果がある優れものですよ、リリィさん。
つうか、君って自前の剣あったよね?
「あ、あれです。カリバーンは本命で、この剣は寝所での護身用として使おうかと」
……美朱といいこの娘といい、なんで寝る時も刃物を忍ばそうとするのか?
まあ、いいけどさ。
「いいのか坊主? あいつ等が持って行ったのは、どれもこれも宝具級の業物だぞ」
「いいよ。俺は武器が使えないから、持ってても倉庫の肥やしにしかならんし」
キャスターが俺の執着の無さに呆れていると、玉藻がディルムッドを指差してこう言った。
「ご主人様、ディルムッドさんになにか用があったのでは?」
そうでした。
ホクホク顔で剣の素振りをしていたディルムッドを捕まえて強化の事を話すと、ノリノリで是非やって欲しいと言われた。
リスクの事など知った事じゃねえと言わんばかりのテンションに、キャスターはそれでこそケルトの男と笑い、玉藻は頬を引き攣らせた。
どうせだからとアナ嬢も誘ってみると、『せっかくこの姿になったのに、死にたくないのでやります』との答えを貰った。
「さて、そんじゃあ始めるから、二人共力を抜いてリラックスしてくれ」
みんなが集まる中、二人の首の後ろに手を当てた俺は、目を閉じてゆっくりと呼気を放ちながら氣を練り始める。
やる事は『駒落とし』と似ているが、今回は普通に氣を流し込むだけだ。
一気に流すと北斗神拳案件になってしまうので、できる限りゆっくりと流し込んでいく。
こうやって氣を流していると、ディルムッド達がどうなっているのかが何となくわかってしまう。
氣を受け入れる限界容量とか召喚術式によるリミッターとか。
ディルムッドは聞いていたが、アナ嬢にもリミッターのようなモノはあったのには驚いた。
これは多分、クラス補正とかサーヴァントに落としこむ際に必要なリミッターなのだろう。
形は違えど、両名共にリミッターは複数あるようだ。
その気になれば一気に全部取り払う事も可能なのだが、霊基への負荷を考えれば一段階に留めておくべきだろう。
霊基に嵌められた枷を外す為にひと際強く氣を送り込んで、俺は調息しながら手を放した。
目を開いてみると、アナ嬢の方は羽織っていたローブが消えて、白銀のブレストプレートと黒のレオタードのようなインナーという姿になっていた。
一方ディルムッドのほうだが…………オイ。
「あれ、わたし……姿が、変わって……」
「うむ、更なる力を手に入れられそうだ」
先ほどと同じようにペタペタと自分の身体を触るアナ嬢と、満足そうに頷くディルムッド。
強化が成功したのは喜ばしいが、その前に一つ言わねばならない事がある。
「ディルムッド。貴様、何故脱いでいる」
そう、ディルムッドは今、上半身を覆っていた緑のスーツを脱ぎ捨てた半裸の状態なのだ。
「……霊基再臨です」
「セイッ!!」
「ぐぼあぁっ!! 何故!?」
……無駄に爽やかな露出狂のイケメンスマイルに拳を打ち込んだ俺は悪くない。
◇
見苦しいモノをお見せして申し訳ない。
ディルムッドに服を着せた俺達は、再び魔力溜りへの行軍を再開していた。
あの後、ダ・ヴィンチちゃんやドクターから『素材も無しに霊基再臨するなんてありえない!!』だの『正規の聖杯戦争で召喚されたサーヴァントが再臨するとかどうなってんだ!?』などと質問攻めにあったが、東洋の神秘・氣の成せる技で押し通した。
魔術式で説明しろとか言われても、俺にはその手の知識が全くないのでやりようがないのだ。
お陰で所長さんはますます俺に怯えるようになり、姿を見ればマシュ嬢の盾に隠れるようになってしまった。
ちなみにパワーアップした二人だが、ディルムッド・アナ嬢共に身体能力が向上し、スピードは1.3倍、パワーは1.2倍になっていた。
それでも
ふむ、二人共音速超えしているのに、ライオネルと並べると途端にザコく見えてしまう。
なんとも不思議なものである。
再臨の効果はステータスの向上だけではなく、持っていたスキルも強化されていたらしい。
アナ嬢は『怪力』、ディルムッドは『愛の黒子』の魅了効果が増したそうだ。
しかし、ディルムッドは黒子を封印しているので効果は分からず、アナ嬢は自信ありげに俺に腕相撲を挑んできたのだが、コンマ一秒で勝ってしまった。
拗ねて涙目でブーたれるアナ嬢の機嫌を直すのは、本当に大変だった。
そんなこんなで歩む珍道中だが、当然の事ながら骸骨兵や怨霊は襲ってくる。
もっとも、そんな雑兵の群はサーヴァント4騎の敵ではなかった。
槍を手にして本来の魔法戦士のスタイルに戻ったキャスターを初めとして、二剣二槍を巧みに操るディルムッド。
不死殺しの刃を時には槍、時には鎖鎌として操るアナ嬢に『二刀流はいいですね!
まあ、お袋が回復オンリーの完全な非戦闘員なので、先行して敵を潰してくれるのは大変助かったが。
そんな風に片っ端から敵を蹴散らしつつ、歩を進める事しばし。
入口に『柳洞寺』と掘られた石碑が立つ階段を昇り、山の中腹にある山門を抜けると、目の前に打ち捨てられた寺院が広がる。
ここが石碑にあった柳洞寺なのだろう。
「神仏を祀る場までこんな風になるなんて、酷いものです」
まったくである。
この世界には神はもういないとは聞いていたが、崩壊したとはいえ寺社にまったく神氣がないとは。
そのうえ魔力溜まりの影響なのか、敷地一面穢れだらけだ。
俺は素早く九字を切って簡易の浄化結界で皆を包むと、『無限の闘争』の倉庫から塩と酒、白磁の器を取り出す。
そして、玉藻に酒を御神酒に変えるように頼むと、東西南北の邪気を祓って塩を盛っていく。
「あの、なにをしてるのですか?」
こちらの作業に興味があるのか、マシュ嬢が好奇心に目を光らせて声を掛けてきた。
「盛り塩だよ。これからこの寺を浄化しようと思ってな」
「浄化、ですか?」
「ああ。これでも神官の端くれなんでな、神仏を祀る場所が穢れたままってのは見過ごせないんだ」
俺の言葉に眉根を下げながら首を捻っていた彼女は、何か思い出した様にポンと手を打った。
「そういえば、自己紹介の時にそんな事言ってましたね。そうでした、慎さんは超人や
いや、ホントに無自覚失礼だよね、この娘。
何気に美朱と声がそっくりだから、聞き流してしまうけど。
つーか、理不人ってなんだよ。
新しい造語か。
「
中央に御神酒を供え八拍手を打って大祓の祝詞を唱えると、敷地を吹き抜ける一迅の風と共に周囲に満ちていた魔力や瘴気が消え去った。
「すごいです、先輩。空気が澄んでますよ」
「うん、さっきまでしてた焦げ臭さも無くなってる。それにここだけ星が見えるし」
「ほぉー、こいつは見事なもんだ」
「あれだけ穢れていた空気が、すっかり綺麗になってる」
「武だけでなく魔術の腕も一流とは、流石です主」
周囲を見渡しながら感嘆の声を上げるマスターとサーヴァント勢。
ディルムッド、これは魔術じゃなくて呪術な。
「分かっていたけど、実際に見るととんでもないわね。あの穢れって一流の術者が複数で、数日は祈祷に当たらないと祓えないレベルなんだけど」
「こういう事ができるから、御爺様が姫島の次の当主にしたがるんだよねぇ。まあ、本人は人の上に立つ器じゃないってやらないけど」
「あの子は一般レベルというものを知るべきね。こうもポンポンと隔絶した力を使っていたら、トラブルが絶えないわ」
ウチの女衆がなんか遠い目をしながら言っている。
親父は隅の方でちっちゃくなってるし。
朱乃姉よ、一般レベルって言うけど、この位は頑張ったら誰でもできるだろう。
「ダウト」
「母様が言ってたでしょう。普通は数人がかりでやるって」
「貴方みたいに単独で出来るのは、裏高野の座主様くらいよ」
浄化を成功させたのに塩対応とはこれ如何に。
あとやっぱりあったのね、裏高野。
中央のお神酒を四つに分けて、盛り塩の横に供える事で浄化結界を形成すると、本堂のあった場所に薄い気配が現れた。
目を向けてみるとここで暮らしていた僧侶達なのだろう、多くの作務衣を来た男性の霊がこちらに頭を下げている。
先頭に立つ住職様は徳の高い方のようなので不要かとも思ったが、弔いとして般若心経を唱えると光の柱に乗って雲の晴れた星空へと昇って逝った。
「慎君、神主さんってお経を唱えるの?」
経を終えて凝った首を鳴らしていると、藤丸嬢が声を掛けて来た。
「ああ。日本に仏教が伝来してから、神仏習合っていって仏教と
「へー、そうなんだ」
「それに神道における葬儀って仏教みたいに極楽に送る物じゃなくて、故人をその家の守護神となっていただくための儀式なんだ。だから一人一人を弔うのが基本だし、潰えてしまったこの寺で行うのは不釣り合いなんだよ」
「貴方、本当に神官だったのね」
「所長さん、あんたは俺を何だと思ってたんだ」
「……化け物」
「なるほど、シバくぞ?」
「所長を脅かしちゃダメだよ。またマシュの盾の影でプルプル震えるようになっちゃったじゃん」
「今のは俺が悪いのか?」
言い様のない理不尽さを感じていると、後ろから美朱がこちらの袖を引いてきた。
「慎兄。今なら所長さんにあの事、言えるんじゃないの」
ふむ、確かにこの場所なら死んでいる事を伝えても悪霊になることは無いだろうし、そのまま送る事もできるか。
肚を決めた俺は、盾の影から尻を出して蹲っている所長のところに足を運ぶ。
「所長、話があるんだけどいいかな?」
「なっ、ななっ、なによ!? ちょっと失礼な事言っただけじゃないっ! それだけで私を殺そうって言うの!?」
「慎兄、どんだけ怯えられてるのさ」
「特に何かした覚えはなんだが……。取り敢えず出てきてくれ、本当に大事な話なんだ」
こちらの真剣さが伝わったのか、渋々といった感じで所長は出てきてくれた。
流れで藤丸嬢とマシュ嬢もいるが、二人にも聞いてもらった方がいいだろう。
「それで、重要な話というのはなんなのかしら?」
「所長さん、落ち着いて訊いてくれ。実は────」
伝えるべき事を口にしようとした瞬間、針のように細い殺意と耳を過ぎった風切り音に、俺は左のコメカミの少し前に手を掲げて立てた二本指を閉じる。
手に軽い衝撃を感じながら視線を向ければ、指の間には鋼で作られた矢、いや矢の様に細くなった剣があった。
「北斗神拳・二指真空把」
指の間で剣を回転させて殺気の発生源に放ってやると、寺の敷地の外側に生えている丸焼けになった樹の陰から一つの影が飛び出してきた。
俺達のすぐ近くに降り立ったその影は長身の男性で、手には黒塗りの大型の弓を持ち、白い髪と褐色の肌。
黒の皮鎧と同色の皮のパンツを纏い、千切れた赤の外套を腰巻のように巻いている。
「アーチャーのサーヴァント!?」
警戒心を露わにする所長と藤丸嬢、それを庇う為に前に出るマシュ嬢には眼もくれず、アーチャーはこちらをジッと見つめている。
「まさか、此方の放った矢を掴んだ上に同じ速度で投げ返すとはな……」
冷や汗を拭いながら、アーチャーは鷹のような視線でこちらを睨む。
「北斗神拳の前では、貴様の矢など止まった棒にすぎん」
「その台詞、言いたかっただけだよね?」
「うん」
OK 妹よ、そんな目で見ないでくれ。
こういうのは男のロマンじゃないか。
「ちなみに、その技を覚えるのに何回死んだのかな?」
「34回、風のヒューイの気分を味わった。反省はしているが後悔はしていない!」
「ダメだ、この兄貴。早くなんとかしないと……」
はははっ、その台詞は10年遅いぞ。
「チッ、やはりイレギュラー共は厄介だな」
こちらの兄妹漫才を他所に、苦虫を噛みしめたような表情で虚空から黒と白の中華刀を生み出すアーチャー。
美朱を背に迎撃態勢を取ったところ、天から降って来たブラッド・ランスが俺とアーチャーの間を隔てるように突き刺さる。
「悪いな坊主。そいつとは腐れ縁でよ、俺に任せてもらうぜ」
ゆっくりとこちらへ歩いてきたキャスターは、地面に突き立った槍を引き抜くと、アーチャーに見えるように一閃させる。
駄目と言える雰囲気ではないな、これは。
「わかった、任せる。それで、俺等は観戦しとけばいいのか?」
「いや、魔力溜りにむかえよ! ここまで来れば狐の姉ちゃん辺りなら正確な場所を割り出せるだろ」
「いけるか、玉藻」
「お任せください。あの闇落ちしたアチャ男さんはキャスターさんが命を捨てて足止めしてくれるそうなので、我々はいち早く魔力溜りを消し去ることを考えましょう」
三尾の尻尾をフリフリ、胸を張る玉藻。
命を捨てて、なんて言ってないけどな。
それはともかく、玉藻の様子を見るに、これならば任せても問題は無いか。
「そんじゃ俺達は先に行くから、そこのボディビルダーバリの 褐色見せ筋野郎を倒したら追っかけて来てくれ。槍はそれまで貸しとく」
「おう! お前等も気を付けてな!!」
「誰が見せ筋だっ!?」
二人の声を後に柳洞寺を後にする俺達。
「主、御子殿一人で大丈夫でしょうか?」
崩れた塀を越えて山道に入ったところでディルムッドが声を掛けて来た。
聞けばクー・フーリンは、後世に生きた奴にとって憧れの英雄だと言う。
ならば、キャスターの身を案じるのは当然だろう。
「心配すんな、キャスターは負けねぇよ。キャスターとしての魔術にあの槍の腕前だ。クラス補正でステータスが下がってたとしても、覆せる奴はそうそういないさ」
こんな事は手合わせしたお前が一番分かっているだろう、と続けるとディルムッドは「そうでした」と身の内の焦りを修めた。
そうやって数分ほど山道を行くと、かなりの大きさの洞窟の入り口が見えて来た。
漏れ出している魔力や瘴気からして、ここが魔力溜りで間違いはないだろう。
さて、キャスターのいう事が確かならば、この奥には冬木で召喚されたセイバーがいるはずだ。
「そういえば、アナ嬢はこの先にいるセイバーは知らないのか?」
「知ってます。この先にいるのは女性のアーサー王、宝具は
「マジで?」
「はい」
なんと、この先にいるのはまたしてもご先祖ちゃんらしい。
リリィ嬢が後ろで『未来の私が……』とショックを受けているが、俺が驚いたのはそこじゃない。
「ヴァーリよ。一週間くらい前に、お前と一緒にご先祖ちゃんとやりあったよな?」
「ああ。タッグマッチでむこうは青黒コンビだった」
「そん時にエクスカリバーからビーム食らったよな?」
「黒と金の同時発射だったな。だが、お前が『モードUMEHARA』とか言いながら、全弾ブロッキングしたじゃないか」
「そうだったか?」
「ああ。三戦目くらいで直撃を受けたが、二種類食らっても禁手状態で体力が半分削られる程度だったぞ」
「ああ、思い出した。ナッパの口からビームと同じくらいだったわ、威力」
なんだ、これなら全く問題ないじゃないか。
「主……よろしいでしょうか……」
この戦い、我々の勝利だ! とばかりに頷いていると、戸惑いがちにディルムッドが声を掛けて来た。
「何だ、ディルムッド?」
「あの、主はあの聖剣を受けて、生き残ったのですか?」
「ああ、ヴァーリもな」
「
ディルムッドに続いて、こちらに疑惑の目を向けるアナ嬢。
見れば、リリィ嬢やカルデアの三人もこちらの言を疑っているようだ。
「馬鹿だな、アナ嬢。ディルムッドもだが、君達は自分のマスターの事をわかっていない」
「どういう意味でしょう?」
「こっちは星なんてバンバン吹っ飛ばす奴等と闘ってるんだぞ。星が鍛えた剣くらいで死ぬわけないじゃん」
「「「「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」
解り易く説明したのにこの罵倒だよ。
人の理解を得るのって難しいなぁ……。
ちなみにウチの家族は呆れはしてたものの、俺達の事を信じてました。
あと真人と覇龍を見せてやると、他のみんなの疑いもすっかり晴れた。
その代償に所長がマシュ嬢の盾の内側に張り付いて離れなくなったり、リリィ嬢が義兄やお抱えの魔術師の名を呼びながらガチ泣きしたりしたが、真実の前には些細な犠牲だろう。
ここまで読んで下さって、ありがとうございます。
本当なら大聖杯まで進めるつもりだったのですが、そこまでいきませんでした。
まあ、大空洞から帰還までを一話と考えればキリがいいのか?
ともかく、次はオルタ戦。
どうなるかは、乞うご期待という事で。
では、今回の用語集です。
〉ブラッド・ランス(出典 ファイナルファンタジー)
ファイナルファンタジーシリーズに登場する武器。
攻撃を与えた相手から生命力を奪う魔槍。
初出はFF3で、この時は竜騎士の最終装備の一つだった。
HP吸収能力という強みはあるものの、FF4では全能力-10、命中率22%というハンデを背負わされたリ、攻撃力共に各シリーズで安定はしていない。
それでも、槍の中では中・上位をキープしている武器である。
〉海ヘビ星座の市(出典 聖闘士星矢)
ヒドラの市とは、「聖闘士星矢」のキャラクター。
青銅聖闘士の1人で、原作開始時点ではどう頑張っても見えないが、14歳。
痩せた体躯に、北斗の拳全盛期にも関わらずモヒカンというヘアースタイルを選んだ漢。
その死亡フラグにふさわしく、銀河戦争でキグナス氷河に敗北。
以来出番も削られ、数少ない登場シーンでは語尾に「~ざんす」が付く立派なネタキャラになった。
サガの反乱に邪武達と共に駆けつけた際には「勝敗は常に顔で決まる」という、ある意味この作品を象徴する名言を残している。
氷河に敗北した事や自身がどう見ても悪党面な上に勝ったのが雑兵という事もあって、その説得力は絶大である。
〉大熊星座の檄(出典 聖闘士星矢)
聖闘士星矢に登場するキャラクターの一人。
大熊座の青銅聖闘士。
15歳で生身の体格と力は青銅聖闘士中で一番であり、修行地のカナダでは熊を殺しまくったと豪語する程。
大熊座の癖に同族を虐殺した報いか、188cmの身長に100kg越えの体重という恵まれた体格にも関わらず、銀河戦争でペガサス星矢にあっさり両腕を折られて敗北。
それからはあまり出番が無く、だいたい他の二軍メンバーと一緒に登場する。
ハーデス戦の終盤では、他の聖闘士とともに星矢の生き別れの姉、星華を守っている。
必殺技はその怪力で相手を絞め殺すハンギングベアー。
〉子獅子星座の蛮(出典 聖闘士星矢)
聖闘士星矢のキャラクター。
子獅子星座の青銅聖闘士で15歳。
銀河戦争で見開きで同じ青銅聖闘士の邪武に台詞を言う事も無く敗北。
その後も十二宮編まで出番もセリフも無いままだったという、北斗神拳を習っていたら無想転生に目覚めていたレベルの悲しみを背負った漢。
サガの乱で他の4人とともに聖域に駆けつけた時、初めて必殺技を披露。
その際、「やった 初セリフ!」と作者にまでネタにされた。
青銅聖闘士二軍でトップクラスの影の薄さという不遇ぶりである。
〉誘惑の剣(出典 ドラゴンクエスト)
ドラゴンクエストに登場する武器。
各シリーズ共に中盤~後半ぐらいで手に入るピンク色の曲剣で、敵の心をかき乱し混乱させる能力を持つ。
最初は女の色気で混乱させる感じだったが、徐々に誰でも装備できるようになった。
ライバル的存在に【まどろみのけん】があるが、共演作品では常にこちらが高い攻撃力となっている。
〉奇跡の剣(出典 ドラゴンクエスト)
ドラゴンクエストシリーズに登場する武器。
攻撃力は100とかなり高く、相手に与えたダメージを自らの生命力に変えることができる。
初登場は『ドラクエⅣ』。
入手は小さなメダル6枚と交換か、物語終盤ボスの固定ドロップだった。
『Ⅴ』ではメダルが溜まれば中盤で入手できる。
カジノを使わない、あるいは面倒くさいという人にとっては非常にありがたいアイテム。
『Ⅷ』では上位種のきせきのつるぎ・改が登場.
さらににミラクルソードという特技版も登場している。
〉オリハルコン(出典 ファイナルファンタジー)
ファイナルファンタジーシリーズに登場する武器。
FF2で初登場した短剣で、元ネタは「海のトリトン」に登場するオリハルコン製の短剣であると思われる。
水棲生物特攻が付いていたり、HP吸収能力があったり。
はたまた中堅から最強の地位を行ったり来たりする評価が忙しない短剣。
シリーズ通して変わらないのは高価であるという事か。
どのシリーズでも一定の強さを保持しているので、世話になったプレイヤーも多いはず。
〉セイブザクイーン(出典 ファイナルファンタジー)
ファイナルファンタジーシリーズに登場する武器。
ここではファイナルファンタジータクティクスの物を語る。
元ネタはイギリス国歌である「God Save the Queen」
攻撃力18、回避率30、永久プロテス効果を持つ騎士剣。
武器のヘルプには「忠誠の誓いを立てた証として与えられる騎士剣」とある。
メリアドールが加入する際の初期装備。
しかしイメージ的にか、はたまた戦力的見地からか。
プレイヤーが手にすると高確率でアグリアス専用装備となる。
メリアドールは泣いていい。
〉二指真空把(出典 北斗の拳)
敵が放った投擲武器を二本の指で受け止め、それを相手に向かって投げ返すという北斗神拳の奥義。
ボウガンの矢を放ってきたスペードに対してケンシロウが使用し、投げ返した矢で右目を貫いた。
後にラオウがマミヤに対しても使用したが、ケンシロウがその身を挺して守ったため、この時はマミヤに傷は無かった。
この技能は他の北斗の流派にも伝えられており、北斗琉拳には「双背逆葬」。
北門の拳には「二指無空把」という同様の奥義が存在している。
今回はここまでとさせていただきます。
また次回にお会いしましょう。