MUGENと共に   作:アキ山

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 お待たせしました、閑話4話の完成です。

 後二話で終わらせようと思ったのに、もう少しかかりそうな予感……。

 もっと文章を纏める力が欲しい。

 FGO

 パールヴァティ狙いで来たのは……軍神さんでした。

 なんだろう、このキラーパスを食らった感じ……

 やはりガチャは悪い文明。


閑話『獅子王・地獄変(4)』

 秋の訪れを感じさせるこの頃、いかがお過ごしでしょうか?

 私、姫島慎は変わらずに謎の世界を旅しております。

 さて、あれから一日が経過した。

 討伐部隊を倒した事から少し移動速度を弱めた俺達は、カプセルハウスを出して疲れを癒した。

 同行者の中には俺達のような肉体派ガテン系だけではなく、メディア女史やダヴィンチちゃんのような頭脳労働派、美遊嬢や立香嬢のような一般枠もいるのだ。

 無理して体調を崩しては元も子もない。

 ホイポイカプセルを見たダヴィンチちゃんが異様に原理を知りたがっていたけど、残念ながら俺にも分からん。

 そういう専門的な事は、ブルマさんかブリーフ博士に聞いていただきたい。

 その休憩を利用して、俺は俵さんをはじめとした現地同行者に悪魔超人関連の事情を説明。

 事前にこちらの目的を知っていた俵さんは、割とあっさり納得してくれた。

 曰く『思考操作に関しては思うところがあるが、あちらの意図はどうあれ獅子王はこの地の者に害を為した時点で悪神。同情の余地はない』との事。

 三蔵ちゃんも神殺しや他者を利用する手口に思うところはあったようだが、それでも民を虐殺する者を放っておけないと一定の理解を示してくれた。

 また、その間にランスロットの股間の性剣が修復不可能である事が分かったり、色んな意味で自害しようとするランスロットをマシュ嬢がシバき倒したり。

 さらには、ハウスに保存していた酒を飲んだご先祖ちゃんが黒くなったりとワリと色々あった。

 そんな中でも立香嬢からは目的の情報を手に入れたのだから、我ながらなかなかのコミュ力だと思う。

 その情報だが、例の砂漠の山岳地帯にほど近い場所に、他の物とは明らかに違う黒いピラミッドのようなモノがあるのだという。

 砂漠を支配しているオジマンディアスに確認を取ったのかと問えば、それを見たのはファラオの神殿から聖都に移動している最中だったので確認はしていないとのこと。

 それを聞いて俺の頭に過ったのは、映画『エイリアンVSプレデター』の古代の回想シーンで登場した、南米の古代文明を思わせるピラミッド型の神殿だ。

 もし立香嬢の口にした建造物がそれなら、中にエイリアン共が保管されていても不思議じゃない。

 その事の確認も踏まえて調べに入りたいのだが、無許可で手を出すのは少々拙い。

 万が一、それが本当に歴代ファラオの墓だった場合、相当な厄介事になる事は火を見るよりも明らかだからだ。

 というワケで、まずはオジマンディアスに確認しにいく事になった。

 俺達だけで行くつもりでいたのだが、カルデア組もついて行くと言うので同行することに。

 となると、こちらも解決しないといけない問題が出てくる。

 それはご先祖ちゃんとのシコリというか、不信である。

 俺としては思うところなど無いのだが、ご先祖ちゃんの方はそうも行かないようだ。

 まあ、冬木では聖剣素手で弾いたり、こっちでもトリスタンやランスロットをボコったりと嫌われる理由に事欠かんのは自覚している。

 仲良くしようとは言わんが、せめて最低限のコミュニケーションは取っておいたほうが良いだろう。

 いざという時に、こんな下らん事で足を取られるのは勘弁願いたいし。

 アーサーに仲介を頼んだところ、『微妙な立場の私が間に入れば、余計に拗れるでしょう』と拒否された。

 そう言われてしまえば仕方が無い。

 純粋培養なリリイ嬢や師事していた『無限の闘争』のご先祖ちゃんならともかく、彼女は平行世界の子孫とか言っても受け入れそうにないからな。

 となれば、やはり直接言葉を交わすしかないだろう。

 掛かった時間は大体二十分程度。

 上手く話が出来たかと問われると自信は無いが、愚痴くらいは聞けたと思う。

 ご先祖ちゃんの言い分はこうである。

「俺に相対すると、聖剣を弾かれた事が頭をよぎって苦手意識が凄い」

「円卓の面々が敵である事は理解しているが、パン一に剥くとか金的は酷いのではないか?」

「ガレスやベディヴィエールとの会話にも思うところがある。獅子王はともかく、円卓の騎士達を自身の糧にするのは如何なものか?」

「なにより、白い龍と友人関係でいるのが受け付けない」

 言ってる事はたいがい酷かったが、言いたい事があるなら言えと誘ったのはこっちなので、文句はつけなかった。

 その辺は本人にも自覚があったらしく、最後には『下らない話を聞かせて、すみません』と頭を下げてくれたが。

 これで円滑にとはいかんが、最低限のコミュニケーションは図れると思いたい。

 

 その後は聖都の連中や虫共の襲撃もなく、俺達は無事に砂漠地帯へと入ることが出来た。

 ここからは環境が過酷になるので空を飛べる者は空路で、他の者はダヴィンチちゃんのバギーで移動と相成った。

「わー、気持ちいい! 筋斗雲に乗るのも久しぶりだわ!!」

「危ねえから揺らさないでくれ、三蔵ちゃんよぉ!?」

「私の事はお師匠様!」

 けっこうな速度で飛んでいるにも関わらず、いつも通りのやり取りを繰り広げる美猴と三蔵ちゃん。

 なんとも器用な事である。  

 しかし、この砂漠に入ってから奇妙な事がチラホラと起きる。

 砂嵐に道を阻まれたと思えば俺達を誘導するように真っ二つに割れるし、砂漠を護るはずのスフィンクスも俺の姿を見れば首を垂れる。

 これはいったいどういう事なのか?

「これはあれですね。ご主人様は元の世界でアメンさんと懇意でしたから、むこう側の好意が加護という形で表れているのでしょう」

 成る程、ダヴィンチちゃんはオジマンディアスは『ラムセス2世』とも呼ばれていると言っていた。

 『ラムセス』とは『ラー・メス・シス』

 ラーによって生まれたという意味の言葉をギリシャ読みにしたもの。

 自らを太陽神ラーの子であり、化身でもあると名乗っているのだ。

 ならば、その加護を受けたこちらに妨害が無いのも頷ける。

 そのまま何の障害も無く進んでいると、巨大なピラミッドを中心とした建造物が見えてくる。

 あれがオジマンディアス王の居城なのだろう。

「驚いたな。ピラミッドだけじゃなくて、川や町まであるぞ」

「カルデアの話では、この世界の聖杯を手にしているのはここの王とのこと。おそらく彼は、聖杯の力で己が居城だけではなく生前の領地そのものを召喚したのでしょう」

 さすがはアメン様の子を自称するだけある。

 発想のスケールが桁違いだ。

 それを聞いた俺は、神殿都市の入り口の前で地面に降りた。

「どうした、慎? 目的の神殿はまだ先だぞ」

「見たところ空中に障壁なんかも張られてねぇし、このまま飛んでいこうぜぃ」

「馬鹿たれ。古今東西、王とは天の象徴に位置付けられてるんだ。だから、そういう貴人を上空から見下ろすのは失礼にあたるんだよ」

「ほう、そうなのか」

「脳筋なクセして、なかなか学が深いねぇ」

 やかましいわ。

 それとサル。

 お前の国は皇帝の事を天子って呼んでただろうが。

 そのくらいの事、気づけよ。

「見事です! 天を駆ける術を持ちながらも、地に足を付けてファラオに畏敬の念を示す。その心根、褒めてあげましょう!!」

 声の方に目を向けると、そこには動物の耳のようなクセ毛をもった褐色の少女が胸を張っている。

 ムト様……じゃないな。

 容姿はびっくりするくらいそっくりなんだが、神氣は感じないし胸も小さい。

 それに感じる気配は英霊のものだ。

「ありがとうございます、高貴な方よ。よければ、お名前を頂いてもよろしいでしょうか?」

「我が名はニトクリス。歴代のファラオに名を連ねる者にして、現在は太陽王オジマンディアスに仕える者です」

 頭を垂れるこちらを見て満足げに頷きながら、名を名乗る少女。

 ニトクリス。

 たしか、エジプト王朝中期にいた女性のファラオだったか。

 この時代に現れているという事は、彼女も聖杯に招かれた英霊なのだろう。

「太陽神ラーの加護を受けし者よ、ファラオ・オジマンディアスは貴方達との謁見を許可されました。神殿まで案内しますので、私の後について来なさい」

「申し訳ありませんが、少しお時間をいただけませんでしょうか?」

 (きびす)を返すニトクリス様に、俺は慌てて口を開いた。

 まだ陸路組が到着していないのだ。

 ここで逸れるのは勘弁してもらいたい。

「なにか不都合でも?」

「連れの者が遅れておりまして。もうじき到着すると思うのですが」

 そう言いながら砂漠に目を向けると、砂煙を上げながらこちらへ走ってくるバギーの姿が見えた。

 うむ、なかなかいいタイミングである。

「あれはカルデアの……。あなた達も彼らの仲間だったのですか?」

「知り合いではありますが、仲間ではないですね。彼等の組織には所属していませんし」

「そうですか。なら、彼等の謁見は不要ですね」

 ニトクリス様がそう呟いていると街の前でバギーは停車し、立香嬢を先頭にカルデア組と衛宮兄妹が降りてくる。

「あ、ニトクリス様だ。どうしたの?」

「不敬ですよ。ファラオを前にしているのです、頭を垂れるのが礼儀でしょうに」

「ゴメン、ゴメン」

 反省の欠片もない立香嬢の返しに軽くため息を付くと、そのまま神殿に向けて歩を進める。

 街は歴史の教科書なんかで見た古代エジプトとまったく同じ。

 驚いたのは、エジプトの民に紛れて現地住民らしき者の姿がチラホラと見えることだ。

 煙酔のハサンは砂漠に入るとスフィンクスの餌になると言っていたが、ここまでたどり着いた人もいるんだな。

「エジプト以外の民がいる事が不思議ですか?」

 こちらの思考を見透かすようなニトクリス様の問いに、内心で驚きながらも首を縦に振る。

「我等エジプトの民は砂漠と共に生きる者。故に砂漠の厳しさに挑み、打ち勝った者には敬意を持って接します」

「それが異なる民族でも?」

「関係ありません。サハラに認められた者は、誰であろうと我等の同胞なのです」

 そう言いながら、領民に慈愛の目を向けるニトクリス様。

 滅びが迫った世界の中でも他者を受け入れる度量を示すとは、オジマンディアスとは相当な傑物のようだ。

 彼女の後を追う道すがら、地上組に状況を説明していると、眼前に黄金に輝く巨大なピラミッドが現れる。

「ここがファラオ・オジマンディアスの神殿です。中では決して失礼のないように心がけなさい」

 そうこちらに釘を刺して中に入っていくニトクリス様。

 テレビで(たま)にみるような風化したものではなく、金箔に翡翠等の装飾が施された豪奢な通路に目を奪われながら通路を行く事しばし。

 玉座へと続くと思われる巨大な扉の前で、ニトクリス様は足を止める。

「此度、ファラオが謁見を許したのは、ラーの加護を受けた彼と異国の太陽神の分霊殿のみ。他の者はここで待機してもらいます」

 こちらにむかってそう宣告するニトクリス様。

 カルデア組の方は不満げにする者がチラホラといるが、ウチでそんな顔をするのは三蔵ちゃんのみだ。

 ヴァーリや美猴、アーサーといった脳筋連中は面倒くさい事が嫌いだし、衛宮兄妹は興味無し。

 三蔵ちゃんも『せっかく砂漠を越えてきたんだから、その王様の顔くらい見てみたいじゃない』的な理由なので、ごねる事は無かった。

 さて、ニトクリス様の先導で謁見の間に入った俺達を迎えたのは、建物の二階分くらいはありそうな台座の上に設置された玉座からこちらを見下ろす男だった。

 褐色の肌に金の瞳、絹のような黒髪と、これまたアメン様そっくりな偉丈夫。

 彼がオジマンディアス王で間違いないだろう。

「よくぞ来た。我が父ラーの祝福を受けし者、そして日本の太陽神の分霊よ。同胞として歓迎しようではないか」

「お初にお目にかかります、オジマンディアス王。私は日本で神官を勤める姫島慎と申します」

「その従者の玉藻の前です」

 跪いて頭を垂れる俺と、深くお辞儀をする玉藻。

 礼の方法に差があるけど、間違いじゃない。

 大妖にカテゴリーされるとはいえ、玉藻は天照様の分霊である。

 アメン様の化身と称するオジマンディアス王とは名目上同格なので、挨拶のようなお辞儀で十分なのだ。

「うむ、面を上げよ。此度はどのような用件で余の前に現れた?」

「はい。この砂漠にあるピラミッドの一つを調査する許可を頂きたいのです」

 単刀直入で出した用件に、オジマンディアス王の顔から笑みが消える。

「ピラミッドの調査だと? 異国の分霊とはいえ、誇り高き太陽神が盗人ごときに寄り添うはずもなく、さりとて学者にも見えん。其の方、何が目的だ?」

「私はこの地に現れる妖蟲(ようちゅう)を駆除すべく、奴等の巣穴を探しています」

「妖蟲か。人ほどの大きさを持ち、その血は強酸だという話だが?」

「はい。エジプト領への侵入は許してはおりませぬが、旅人や行商の者が被害にあったと報告が上がっております」

 オジマンディアス王が水を向けると、ニトクリス様は立て板に水を流すようにここでの虫の被害状況を口にする。

「お二方が(おっしゃ)られたモノで間違いないかと思います。先日カルデアの面々と合流した際、砂漠と山岳地帯の境界付近に他の物とは異質な黒いピラミッドがあるという話を耳にしました」

「成る程。そこが蟲共の巣穴であると判断したわけだな」

「左様でございます」

「黒いピラミッドか……。ニトクリス!」

「はっ!」

 王から飛んだ指示によって、ニトクリス様は短い詠唱から使い魔を頭上へと放つ。

 白いモヤ同然だった使い魔はみるみる内にその姿を隼へと変え、窓の外から飛び去っていった。

「隼ですか。あの鳥は、エジプトの天空神であるホルスさんの象徴とされていましたね」

「そうだ。あ奴は冥界の鏡にして天空神たるホルスの化身よ」

 ホルス神か。

 容姿からしてムト様の加護を受けてると思ったのだが、違ったらしい。

 けど、ムト様も『天空の女主人』って呼ばれてたらしいから、その辺で繋がりがあるのかも知れんな。

「其の方が口にした黒いピラミッドだが、こちらも存在は把握していた。しかし、あれは我が所領ではなく山岳地帯に位置するモノ故、調査を後回しにしていたのだ。ところで、其の方にはなにか確証があるのか?」

「確証と呼べるモノではありませんが、私が以前読んだ文献に黒いピラミッドと妖蟲を挙げた物がありました」

「文献だと?」

「はい。その文献は、とある異星人の生態について書かれたものでした。彼等は戦いと狩猟を最も重きに置く戦闘種族であり、一人前であると周りに認めさせるために力を示す習慣がありました。その為、宇宙で指折りの凶悪さと戦闘力を誇る妖蟲の女王を狩る事が、彼等の成人の儀となっていたようなのです」

「異なる星の民ですか。では、あの妖蟲も異なる星で生まれたものなのですか?」

「文献ではそうなっておりました」

「ふむ、続けよ」

「かの蟲は蟻や蜂と同じように女王を中心とした社会を築き、驚異的な繁殖力を持ちます。しかし、成人する者が現れる度にその巣を見つけるというのは、星を股にかける彼等でも容易ではありません。そこで彼等は蟲の女王を捕らえ、儀式の為に飼育する事を選んだのです」

「ふん。その飼育用の施設が、汝の言う黒いピラミッドというワケか」

 得心が行ったと言わんばかりのオジマンディアス王の笑みに、俺は肯定の意を返す。

「彼等は星間航行を可能にするその技術で未開の土地に降り立ち、その技術力と戦闘力を持って現地民の信仰の対象となります。そして彼等を使って黒いピラミッドを建造し、捕らえた蟲の女王を最奥に配置。外的ショックを与える事で強制的に産卵を促し、同時に生まれた卵の宿主として民に生贄を用意させます。それによって宿主を犠牲に蟲が生まれ、それらが狩るに足る大きさに成長した時、異星人の命を懸けた成人の儀がはじまるのです」    

「では、この地の虫共はその成人の儀によって呼び出されたものと?」

「そこまでは分かりません。あの黒いピラミッド自体、別のモノの可能性もありますから。ですが、あの蟲は間違いなく地球上には存在し得ない種です。それが現れたのならば、何処からか転移してきたと考えるべきでしょう。そして、その可能性が最も高いのがあのピラミッドであると私は考えます」

「成る程な」

 こちらの言葉に、オジマンディアス王は呟きを漏らす。

 ちなみに、文献とはもちろん、映画『エイリアンVSプレデター』の事である。

「ファラオ・オジマンディアス。使い魔が例のピラミッドを捉えました」

 映画の内容を思い返していると、ニトクリス様が声を上げた。

「よし、鏡に映せ」

 部屋の主の命により、中空に現れた水鏡に映像が映し出される。   

 空間投影ディスプレイのようなそれに映ったのは、上空から見下ろした黒いピラミッドだった。

「ほう、あれがそうか。実際に見るのは初めてだが、確かに他のモノとは違うな」

「はい。頂上に祭壇の様なものも見えます」  

「しかし、これでは詳細までは見えんな」

「では、拡大してみましょう」

 ニトクリス様が杖を軽く一振りすると、鏡に映された映像がどんどんピラミッドへと近づいていく。

 そして、それがエジプトのピラミッドというよりも南米の遺跡に近い物であると解った時、俺達は確実な証拠を手に入れた。

「いますね」

「ああ、いるな」

 外部の階段状になっている部分と入り口付近に数匹づつ、虫共が這い回っているのを目にしたのだ。

 しばらく様子を見ていると、山岳側から虫の一団が戻ってくる。

 奴等の手の中には、ぐったりとして動かない人間が見て取れた。

 人間を運び込んでいるって事は間違いない。

 奴等の巣穴はここだ。

「なるほど、其の方の言葉通りだったようだな。それで、どうするのだ?」

「巣に乗り込んで殲滅します。その際にあのピラミッドが破壊されてしまう恐れがありますが……」

「構わん、あれは余のモノではない故な。しかし、何故貴様がそこまでする? 見たところ、この世界とは縁のない異邦人であろう」

 頬杖をつきながらも、オジマンディアス王が向ける眼光は鋭い。

 一切の虚偽を許さないと言わんばかりの視線に俺は苦笑いを浮かべた。

「そうですねぇ……。しいて言えば、カッコ悪いと思ったからですかね」

「カッコ悪い、だと?」

「ええ。……俺はこの世界に武者修行目的で来ました。だから課題をこなして強くなれば、もうこの世界には用は無いんです」

「単純で分かり易い目的では無いか。それの何処が悪い?」

「目的自体には問題は有りません。でも、俺自身が納得できないんですよ。他人の世界に土足で踏み込んで、好き勝手した挙句に目的を果たせばオサラバというのは。……男だったら責任取って、胸張って、カッコ良く行きたいじゃないですか」

「その為に妖蟲の巣に乗り込むと?」

「ええ。害虫駆除程度ですが、少しは現地の人達へのケジメになるでしょう」

「随分と愚かな事よな。己の意地の為にそこまでするか?」

「かもしれません。ですが、格好を付けるってそういうものでしょう?」 

 俺の言葉を受けたオジマンディアス王は、一瞬だけキョトンとしたような表情を浮かべ、次の瞬間には謁見の間に響き渡るほどの声で大笑した。

「成る程、これは一本取られた! 『格好いい』と思わせるとは、他者を魅了し惹きつける事に他ならぬ!! 行動でそれを示そうというのだ、生半可な事では勤まらぬは道理よな!!」 

 それから少しして、ひとしきり笑ったオジマンディアス王は、ニトクリス様に目配せをした。

 すると彼女の背後に黒い穴が開き、中からポケットサイズの足から上を白い布ですっぽりと覆ったUMAが現れる。

 コレって確か、エジプト神話に登場する冥界の神の一柱であるメシェド様だったか。

「彼の者を連れて行くがいい。貴様のこれからの行動、しかと見定めてやろう。そして、それで余を楽しませたのならば、褒美にこれをくれてやる」

 そう言って懐から取り出したのは、黄金に輝く杯。

 カルデアが求めていた聖杯だ。

「いいのですか?」

「構わぬ。余には別に叶えたい願いなどないからな。魔術王が作ったものなど、余興の景品程度がちょうど良い」

 聖杯をその辺の瀬戸物セットのように言う太陽王。

 まさに太っ腹である。

 景品まで用意されたとあっては、こっちも気合を入れねばなるまい。

「分かりました。では、王の死ぬほど楽しめるように、私の誇る『明るく、楽しく、激しい』修行風景を提供いたしましょう」

「うむ、期待しているぞ」  

 その後、オジマンディアス王とニトクリス様に退出の礼をして、俺と玉藻は謁見の間を後にした。

 こっちのモチベーションを上げてくれるとはとてもいい人だ。

 こっからはいつもの『無限の闘争』タイムである。

「ご主人様。普通の方もいらっしゃるので、常識的な範疇に収めたほうがよろしいかと」

 ……常識ってなんだぁ?

 

 

 

      

 さて、問題の黒ピラミッドにやっていました。

 みんなと合流してから、ここまで来るのに掛かった時間は約10分。

 王都から結構離れていたが、カルデアのバギーを担いで飛んだお陰でビックリするほど速く着いた。

 中の人たちが怖いだのなんだの言っていたが、些細な問題だろう。

 先程も言ったが、ここは虫共の巣である。

 当然こちらの気配を察して迎撃部隊が現れたのだが、『聖杯動画大賞』を狙う俺の前では無力に過ぎた。

 具体的に言うと『やーまだたーろうー』で、全員星になっていただいた。

「開幕ホームランとは、幸先がいいな」

「今度はピラミッドのホームラン王でも目指すのか?」 

「馬鹿め、目指すは『聖杯動画大賞』だ」

 ヴァーリを初めとして、こちらの言葉に首を傾げる面々にミニメシェド様を見せながら説明。

 カルデアの面々は頭を抱えたが、ウチの面子のテンションは上がった。

 どいつもこいつも聖杯なんぞ興味は無いが、この手のイベントに目が無いのが『無限の闘争』常連者である。

 ヴァーリがノリで放った黒炎弾によって、ピラミッドに大穴が開いたのはご愛嬌だろう。

「てなワケで、巣穴に乗り込む面子を決めようと思う。希望者は挙手!」

 こちらの合図で手が上がったのは5人。

 俺、ヴァーリ、アーサー、美猴、ご先祖ちゃんだ。

「先輩は行かないんですか?」

「ごめんね、マシュ。さすがにリアルリプリー体験は遠慮したい」

 立香嬢とマシュ嬢の間で行われた会話には、思わず納得してしまった。

 人類最後のマスターとやらも、クイーン相手に『ビッチ!!』と叫ぶ根性は無いだろう。

 とはいえ、希望者全員を連れて行くというワケには行かない。

 立香嬢や美遊嬢の事を思えば、地上に待機する方にも戦力を配置しておかなければならないからだ。

 ご先祖ちゃんは兎も角、ウチの面子は口で言って聞くような奴はいない。

 ここは公平にじゃんけんで決める事にしよう。

「「「「じゃんけん、ホイ!!」」」」

「しゃあっ!!」

「くっそぉぉぉぉっ!?」

「しまった! チョキを出していれば!?」

「へへーん。これも日ごろの行いって奴だぜぃ!」

 結果は俺と美猴が勝ち、アーサーとヴァーリが負けである。  

「エイリアンの巣穴に乗り込むメンバーをジャンケンで決めるとは……」

「まるで遊びにでも行くようなノリね」

 アーチャーとメディア女史が呆れているようだが、気にしてはいけない。

 枯れた大人にはわからんだろうが、危険に目を輝かせるのは少年の特権なのだ。

 突入メンバーが決まり、ダヴィンチちゃん特製の通信機を着けて準備は完了。

「ここから先は、ピクト人の巣窟なのです。二人共、真面目にしてください!」

「そう目くじら立てんなって。鉄火場じゃいつでも大真面目だぜぃ、オレッチ達はよぉッ!」

 緊張が隠せないご先祖ちゃんに、美猴は軽口と共に如意棒を一閃させる。

 軽く振られたはずの先端から放たれた衝撃波は入り口の外壁を深い傷を刻むと共に、迎撃に跳び出そうとしてたエイリアン数匹を両断する。

「なんでぃ、そのツラは。オレッチをヴァーリの腰ぎんちゃくだなんて、思ってもらったら困るぜ。これでも斉天大聖の名を継ぐ漢なんだからよぉ」

 呆気に取られているご先祖ちゃんに、ニッと笑みを浮かべる美猴。

 お前のレアなカッコいいシーンは、メシェド様がしっかり記録しているぞ。

 虫共の死体を除ければ、奥に見えるピラミッドの内部は見覚えのある生物的な巣穴の様相を呈している。

 どう見ても完全な虫共の巣窟である。

 ならば、殴りこむ時に言うセリフは決まっている。

「狩・リ・ノ・時・間・ダ!」

 ……だろう?

 

「纏めて吹っ飛べ! テュホン・レイジッ!!」

 弧を描くように振り抜かれた踵が飛び掛かって来たエイリアン・ウォーリアの首を粉砕し、発生した衝撃波が竜巻となって通路の前方にいた敵集団を吹き飛ばす。

 突風と真空波に晒された虫共はミキサーにかけられたようにバラバラとなって、辺り一面に身体の破片と強酸の血を撒き散らした。

 ピラミッドに足を踏み入れて約1時間半。

 奥へと進むごとにエイリアン共の襲撃も激しさを増し、そろそろ数えるのも億劫になってきた。

 むこうもなかなか必死なようで、天井を初めとした高所からの奇襲はもちろんのこと、床下から顔を出して酸を吐きかけたり壁の隙間から槍衾のように尻尾を突き出してきたと、奇襲のバリエーションも増やしてきている。

 とはいえ、知恵が働くといっても所詮は虫。

 殺気を隠すというところまで頭が回っていないために、せっかくの罠も全て事前に察知できてしまう。

 天井から襲撃してきたドッグタイプの頭を鷲掴みにして握り潰す。

「そら返すぞ、地獄の剛速球ッ!!」 

「「「「「ピギィィィィィィィィッ!?」」」」」」

 前頭部を失って痙攣する虫を続けて落ちてくる奴等に投げ付けると、先頭の奴にぶつかってバラバラになった死体が散弾のように後続を巻き込み、あっという間にミンチの山が量産される。

 奴等を蹴散らすのは作業然として面白くもなんともないが、我儘は言うべきではないだろう。

 聖杯動画大賞の事もあるが、今はそれ以上に急ぎの要件もあるのだ。

「二人共、大丈夫か?」

 足を止めて後ろに声を掛ける。

「やれやれ、随分と気合入ってるねぇ。エジプトの大将にどんなハッパをかけられたんでぃ」

「こちらは問題ありません。貴方こそ先頭がキツくなったら言ってください。いつでも交代しますから」

 軽口を挟みながら如意棒で軽く肩を叩く美猴と、こちらへの気遣いを見せてくれるご先祖ちゃん。

 見たところ双方共に大した負傷も無いようだから、このまま進んでも問題ないだろう。

「休み無しの強行軍で悪いが、もう少しだけ付き合ってくれ」

「エラく急いでるが、何があるんでぃ? 聖杯動画大賞に関連する事か?」

「そっちも大事だが別口だ。オジマンディアス王の神殿でここの様子を探ってた時にな、山岳地帯から攫われてくる人が見えたんだ」

「成る程。奴らの手にかかる前に民達を助けようという事ですね」

「ああ。もう少し行ったところから人の気配がするから、多分そこに捕らえられてるんだろう」

「そういう事なら是非もありません。先を急ぎましょう」

 一瞬の迷いもなく言い放つご先祖ちゃん。

 この辺は英雄の面目躍如といったところだろう。

「ところでよぉ」

 先ほどと同じようにエイリアンを蹴散らしながら進んでいると、美猴が声を掛けてくる。

 虫共をむこうに回していないから、手持ち無沙汰でもなったのか?

 今は御先祖ちゃんのエクスカリバーと俺の手刀の切れ味を比べるのに忙しいのだが。

「さっきから奴等の返り血浴びてるのによぉ。溶けてないよな、お前」

「なんだそりゃ? 俺に溶けてほしいのか、お前は」

「ちげーよ。身体の方は耐性が出来たとか理不尽な理由なんだろうが、服も溶けてないのはなんでかなって思ったんだよ」

「実は私も疑問に思ってました。英霊の礼装も溶かす程の酸をどのように防いでるのですか?」

 まさかのご先祖ちゃんからの援護射撃である。

 別に隠す程の事でもないからいいんだけどさ。

「この道着は天津神が身に着けている神衣と同じ製法で出来てるんだよ。トール様の雷撃でも焦げ目一つ付かなかった優れものだからな、虫の酸なんて目じゃないのさ」

「いや、十分大した事だろ」

「普通は神霊と同じ礼装を貰ったら誇る物なんですが……」

「つっても、去年のお歳暮兼冬のボーナスに貰ったもんだしな。そんなん誇ってもカッコ悪いだけだろ」

「冬のボーナスって……」

「日本の神様、アットホームすぎるぜぃ」

 呆れる二人を尻目に歩を進めると、通路が終わって少し開けた場所に出た。

 周辺に目をやると四方は高い石の壁に囲まれ、床にはエイリアンの幼生である『チェストバスター』を模した彫刻が施してある。

 そして、部屋の片隅には人間とも虫とも違う異形の死体が二つ、転がっていた。

「エゲツないねぇ、一撃で頭をブチ抜かれてやがる」

「ピクト人……ではありませんね。この生物はいったい……」

 乾いて濃さを増した蛍光緑の血溜りに伏した遺体は、人型ではあるが爬虫類のような表皮に金属製のプロテクターとチェインメイルで武装していた。

 大穴が開いた頭部は金属のマスクが嵌められており、側面にはドレッドヘアーのような物が生えている。

「……間違いない、プレデターだ」

「この異人の事を知っているのですか、シン?」

「ああ、こいつ等は異星の狩猟民族だ。目にした文献によれば、このピラミッドはこいつ等が造ったモノらしい」

「ここをですか。その理由は?」

「成人の儀式の為なんだとさ。こいつ等は戦闘種族だからな、一人前と周囲に認めさせるには力を示す必要がある。虫共もその為の小道具だったんだが、この様子だと見事に返り討ちにされたようだな」

「そいつはまた、無様なこって」

 肩を(すく)める美猴を他所に、俺は倒れたプレデターからガントレットをはぎ取った。

 軽く弄ってはみるが、言語が分からない所為で使えそうにない。

 自決用の爆弾を使えれば、雑魚共を一掃するのに役立つと思ったんだが。

「シン。死者から物をはぎ取るべきでは」

「すまん。何か情報があるかと思ったんだ」

 ガントレットを元に戻した俺は、立ち上がりざまに右手を一閃させる。

 振り抜かれた手刀は物陰から飛び掛かって来た虫を縦に両断。

 その死体は床に転がってから初めて、断面から血を溢れさせた。

「やれやれ、どっからでも湧いて出るな。ゴキブリか、こいつ等は」

「凄まじい切れ味ですね……。素手とはとても思えない」

 同じタイミングで襲撃を掛けて来た別の一匹の死体を前に、ご先祖ちゃんがこちらに称賛の声を掛けてくる。

「なんだよ、慎。ヴァーリを真似て手刀を鍛え始めたのか?」

「あいつの真似なんてするか。『余の手刀こそが、如何なる伝説の武器をも上回る地上最強の剣なのだ』って、とある漫画の大魔王様の台詞に感銘を受けたんだよ」

「主人公じゃなくて魔王のセリフに感銘を受ける辺り、捻くれてるよなぁ」

 やかましい、バーン様は偉大なのだ。

「ところで、囚われた民は何処のいるのですか?」

「おっと、悪い。この下のフロアだ」

「下の階かよ。じゃあどうやって降りるんでぃ?」

「まあ任せとけって。救助対象もすぐそこだし、そろそろ動画を見てる視聴者用に一発芸でも見せようと思っていたところだ」

「視聴者って、『聖杯動画大賞』の事か? あれってエジプトの大将以外見てないだろ」

「いんや。どうせならって、外で待ってる奴等にも携帯端末使って送ってるぞ」

「マジかよ、いつの間に……」

「仕事は手早くがモットーだからな、俺は」

 カラカラと笑っている俺を見て、ご先祖ちゃんは不快げな表情を浮かべた。

「その動画というのは、本当に撮らなければならないのですか? 今の状況でそんな事をするのは不謹慎だと思うのですが」

「そう言われると返す言葉も無いな。けど、この動画を撮るのも大事な事なんだぜ」

「どう大事だというのです」

「上手くいったら、オジマンディアス王と戦わずに聖杯が手に入る」

 俺の答えに思わず息を飲むご先祖ちゃん。

 俺達には無用の物である聖杯も、カルデアからすれば喉から手が出るほど欲しいはずだ。

 それが闘わずに手に入るとしたら、そりゃあ考えるまでもないだろう。

「エジプト勢力は強いぞ。オジマンディアス王はもちろんだが、ニトクリス様も十分に強敵だ。そこにエジプト兵や神獣が加わるんだから、本気になれば聖都の連中も圧倒できるかもしれん」

「……だから、私達では敵わないと?」

「そこまでは言わんさ。でも闘えば犠牲は免れんし、勝てたとしても戦力的にもボロボロになるだろう。それだけの被害を出して聖杯を手に入れても、この世界の歪みを正さないと人理ってのは修復されないんだろ? つまり、そんな状態で聖都の獅子王や山岳地帯の勢力と闘り合わなけりゃならんわけだ。ぶっちゃけ、厳しいなんてレベルじゃないと思うけどな」

 こちらの指摘に黙り込むご先祖ちゃん。

 援軍があるならともかく、正直言って現状のカルデアの戦力ではオジマンディアス王にも勝てないと思う。

 物量を盾に波状攻撃をされたら、為す術もなく詰むだろうし。

「すみません、出すぎた事を言いました」

「いや、こっちもすまない。本当ならセイバーちゃんの言う事が正しいと思う。けど、今は少し異常な状況だからさ。不快だと思っても目を瞑ってくれると助かる」

 謝罪してくるご先祖ちゃんに、こっちも頭を下げる。

 こういう場合は互いに非を認め合うのが、人間関係を円滑にするコツだ。

「それで一発芸ってのはなんなんだよ。雷撃でも呼んで、この施設を跡形も無く消し飛ばすのか?」

「爆発オチなんてサイテー! そんなんじゃなくてモノマネだよ、モノマネ」

「モノマネって、誰の? エジプトの大将が分からないと意味が無いんだぜぇ」

「甘いな、俺が今からやるのは一発芸。普通のモノマネとは一味違うぞ」

 そう言いながら、オレは床に手を当てる。

「よしよし、この程度ならアレで抜けそうだ」

「なんだかイヤな予感がしてきたぜぇ……」

奇遇(きぐう)ですね、私もです」

 美猴たちが顔を曇らせながら距離を取っているが、そんな事は気にせずに俺は身構えながら調息する。

「そんじゃ、行くぞ! 二人共、成功したら床が抜けるから準備しとけよ!」

「そういう事はもっと早く言えよ!」

「普通に下に降りようとは考えないのですか、貴方は!?」

 二人が抗議の声を上げると同時に、氣を込めた右手に蒼い光が宿る。

 練氣の量も、宙に浮いたミニメシェド様の角度も良し。

 それじゃあ行くぜ!

「硬度10! ダイヤモンドアーム!!」

 将軍様直伝の素敵技能を展開した俺は、床を蹴ると同時に右手を大上段に振り上げてこう叫んだ。

「ランスロットのマネ! 『全鎖断裂・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)』!!」

 裂帛の気合と共に振り下ろされた蒼の手刀が刻まれた『チェストバスター』の頭を切り裂いた瞬間、その傷口から蒼い光が溢れ出して内側から弾けるように床は崩壊した。

「以上、ランスロットのモノマネでした!!」

 筋斗雲の上でアングリと口を開けるご先祖ちゃん達にむかって、舞空術で浮きながら(しめ)のお辞儀を見せる。

「いやいやいや! モノマネじゃねーよ!! 今のってランスロットがお前に仕掛けた技だよな!? 完全にパクッてるじゃねーか!!」

「そうです! 今のはランスロットとアロンダイトがあって初めて可能になる技! それを再現するなんてあり得ません!!」

「そう言われてもな。スッゲェ簡単だぞ、この技。ビーム用の聖剣エネルギーを刀身に込めて唐竹割りするだけだし。これに比べたら、アーサーの未完成燕返しの方が百万倍難しいと思う」

 まあ、聖剣エネルギーを氣で代用したり、念のため手刀の強度もダイヤモンド並みにあげるなど、再現にあたっては地味に手間がかかってたりするだけどな。 

「何を言ってるんですか! 聖剣の力を放たずに、刀身に(とど)める事が最も難しいんじゃないですか!!」

 えらい剣幕で怒鳴りつけてくるご先祖ちゃんに思わず首を捻ってしまう。

「え? 力の流れを制御するのって、氣功術はもちろん魔術や呪術でも基礎の基礎だろ。それを疎かにすると、使えなかったり垂れ流しに……あっ」

 ある事に気付いて、俺は慌てて口を(つぐ)んだ。

 そうだよ。

 ご先祖ちゃんって、普通でも黒い時でも魔力放出とかいってバリバリ垂れ流しだったわ。

 リリィ曰く、『竜の心臓』とかいう魔力炉心があった所為で、生成される魔力が多すぎて制御しきれないとか。

 ……実際リリィも垂れ流しだったし。

 『カリバーンが魔力に耐えられない』とか言ってたのも、制御もせずにブチ込んでるのが原因だったもんな。

 あ、今のリリィはしっかり制御できてるぞ。

「ゲフンッゲフンッ! ともかく、手ごろだったんでパクってみましたって感じだな」

「そんな理由で、聖剣の真名解放を模倣しないでください!!」

 新技を公開したのに怒られてしまった。

 パクられるのが嫌なら、あんなシンプルな技なんて作らなければいいのに。

 さて、ご先祖ちゃんの怒りも収まったところで下のフロアに降りてみたのだが、待っていたのは予想通りの地獄だった。

 灰色の壁に埋め込まれて力なくうな垂れる人々、その誰もが胸に大きな穴が開いている。

 傷の様子や出血の無さから死後数日が経過しているはずなのに、そのどれからも腐敗する様子が見えない。

 そんな異常さが、この場所の不気味さを殊更に引き上げている。

「ここはなんなんでぃ……」

 先程までの軽口が鳴りを潜め、苦々しい表情で周りの様子を見渡す美猴。

 そう言えばこいつって、『無限の闘争』でヴァーリと一緒にエイリアン狩りした時にいなかったっけ。

「奴等の保育所、いや孵化室というべきかな」

 表情を殺して周りを見渡していると、こちらに釣られて視線を巡らせていたご先祖ちゃんが、瓦礫に潰されていなかった奴等の卵に目を付けていた。

「あれがピクト人の卵だと?」

「くれぐれも中を覗こうとするなよ。最悪、寄生されちまうからな」

「……ッ」

 好奇心のままに中を見ようとしたので注意すると、ご先祖ちゃんはビクリと身を仰け反らせる。

「しかし、寄生とはねぇ。つまり、奴等が人間を浚う理由ってのはこれだったって事か」

 如意棒で犠牲者の胸に開いた傷を指し示す美猴。

 犠牲者の傷口の肉が、内側から外に向かって弾けているのに気づいたらしい。

「そうだ。奴等の増え方は、まず卵からフェイスハガーと呼ばれる幼生のキャリアーが飛び出して、宿主の顔に付着。身体全体で顔面を押さえつつ尾で首を絞める事で宿主の口を強制的に開かせ、そこに産管を差し込んで幼生を寄生させる。植えつけられた幼生は宿主の胸部に留まり、ある程度の大きさになると内側から胸を突き破って出てくる」

 エイリアンの繁殖方法を口にすると、ショックを受けた様子のご先祖ちゃんは思わず口元を押さえている。

「で、(さら)われた奴等ってのはどこにいるんでぃ?」

「この部屋の奥だ」

 胸糞の悪くなる光景の中を気配のする方に進んでいくと、そこには壁に埋め込まれた数人の男女がいた。

「要救助者発見ってか。ところで、奴さん達は大丈夫なのか?」

「ああ。彼等の前に置かれた卵も口を開けてないし、体の中に別の氣も感じない」

 なんて言っていると、此方の話を聞いていたかのように卵の口が開いていく。

「なるほどなぁ、フラグってのはこういうのを言うのかぃッ!!」

「言ってる場合かっ!?」

 バカを言い合いながらも、俺達は慌てて対処に入る。

 美猴は伸ばした如意棒を横薙ぎにして、フェイスハガーが飛び出してきたところを叩き潰し、俺は撃ち漏らした分を衝撃波で仕留める。

 時間にして数秒ほどだが、正直寿命が縮まる思いだった。

「やれやれ、なんとかなったかね」

「まだ終わってないっつーの。さっさとあの人達を壁から引き剥がすぞ」

「へいへい……」

 周りの壁を壊して囚われた人達を救出していると、不意に美猴が口を開いた。 

「ところで、ご先祖ちゃんの姿が見えねえんだけど、どこいった?」

「あん?」

 辺りを見回してみたが、たしかにご先祖ちゃんの姿は何処にも無い。

「ホントだな」

「どうすんだ?」

「こっちを片づけたら探しにいこう。ご先祖ちゃんも英霊なんだ、そこら辺の虫程度なら遅れは取らないだろ」

「それもそうだな」

 そうやって作業を再開して数分、最後の救助者である紫の髪に褐色の肌をした幼女を降ろして、俺は小さく息を付いた。

 こんな小さな女の子まで連れ去られてるとは思わなかった。

 しかし、なんでこの子は御先祖ちゃん達と同じ気配がするんだ?

 こんな年の英霊なんているとは思えないんだが……。

「ひーふーみーの……六人か。一人はチビでも、こっから運び出すのはけっこう骨だぜぇ?」

「ご先祖ちゃんと合流したら瞬間移動で外に出よう。寄生はされてないんだし、待機組に預ければ虫共を駆逐する間くらいは何とかなるだろ」

 そう言った瞬間、肌を刺すような殺意がこちらを襲った。

「美猴!」

「分かってるよぉッ!!」

 声を掛けるまでもなく、警戒態勢を取っている美猴。

 ヒリつくような空気の中で感覚を研ぎ澄ましていると、壁面の上の大気が弾けるのを感じ取った。

 ハープの音色のような音と共に押し寄せる不可視の刃。

 こいつは───!

「チィィッ!?」

 舌打ちと共に、俺は四方から押し寄せるそれを片っ端から払い落としていく。

 要救助者がいる以上、躱す事は許されない。

 流れ弾が行く事もアウトなので、思った以上に神経を使う。

 そうやって襲撃者の攻撃を凌ぎ続けていると、ようやく間断なく襲い掛かって来た刃に綻びが見えた。

「美猴!!」

「あいよぉ!!」

 ブロッキングに加えて手の振りで発生する衝撃波で、美猴の範囲をフォローに回る。

 そして、フリーハンドになった奴が襲撃者の気配がする方に如意棒を突き出すと、届かないはずの穂先はグングン伸びて、壁面を削り取りながらその先の闇に突き刺さる。

 ビリー・カーンの対空技である『雀落とし』。

 本家は三節棍を伸ばしてリーチを稼ぐのだが、その辺は伸縮自在という如意棒の特性で代用しているようだ。

「ギシャァァァァァァッ!?」

 虫特有の甲高い悲鳴を上げて、退散していく襲撃者の気配。

 そして一瞬ではあるが、他の個体よりも赤みを帯びた尻尾を見て取れた。

「慎、今のってよぉ」

「ああ。似てたな、トリスタンのフェイルノートに」

 奴が連れ去れた時、基本霊体である英霊からはエイリアンは生まれないとタカを括っていたんだが……見通しが甘かったのかもしれん。

 予定では救護者はここに置いて、俺達のどちらかがご先祖ちゃんを探しに行くつもりだったが、あんなのが潜んでいるならそうも言ってられない。

「美猴、移動するぞ。この人達担げよ」

「あいあい。まったく、面倒な事になったねぇ」

 取り敢えず救護者を3・3で担いで、俺達はその場を後にした。

 

 

 

 

 私、アルトリア・ペンドラゴンは自身の迂闊さに歯噛みしていた。

 同行者であるヒメジマ・シンから聞いたピクト人の繁殖方法の醜悪さに気を取られたとはいえ、敵地で仲間とはぐれるという失態を犯すとは……。

 自ら同行を申し出ておいてこれでは、地上で待っているマスター達に合わせる顔が無い。

 気を取り直して彼等と合流する為に動いた私は、周囲を見渡して表情を歪めてしまう。

 私も騎士として、そして王として戦場を駆け巡った身だ。

 こう言ってはなんだが、人の死には慣れているし無残な死体だって飽きるほど見た。

 しかし、眼前に広がる地獄は違う。

 ここには人としての意思も尊厳も存在しない。

 犠牲者たちは奴等の子を孵化させるための『モノ』として扱われているのだ。

 かつての我が民達もこんな仕打ちを受けていたのかと思うと、反吐が出そうになる。

 ……やはりピクト人共は駆逐しなければならない。

 犠牲者たちの顔を目に焼き付けながら決意を新たにしていた私は、その一つを目にした瞬間に息を飲んだ。

 彼は優れた騎士だった。

 慈悲深く正義感に溢れ、弓の実力は円卓の騎士随一。

 彼が爪弾くフェイルノートは多くの民を救い、また多くの蛮族を討った。

 だからこそ、彼が袂を分かった時は本当に辛かった。

 もし再び出会う事があるのなら、その時こそは『人の気持ちが分からない』と言われる事のないようにしよう。

 そう、思っていたのに……

「トリ…スタン……なんという姿に……」

 一歩、二歩と後ずさりながら、縺れる舌で紡いだ言葉。

 それを受け取る彼から答えが帰ってくることは無い。

 何故なら壁に埋め込まれた彼の胸には、他の犠牲者と同じく大きな穴が開いているからだ。

 あまりにも、あまりにも無残なその姿に、私は思わず目を背けてしまう。

 だが、それは間違いだった。

 何故なら、その先には肌色の蜘蛛のような生物がいたからだ。

 突然の事で開いた意識の空白、そこを突いて奴はこちらへ向けて跳躍する異形の蜘蛛。

 遅まきながら脳裏で直感が警鐘を鳴らすが、虚を突かれた身体がピクリともしない。

 頭の中で渦巻く、寄生という事実と犠牲者の姿が絶望という文字へと変わるその瞬間───

「悪魔忍法・空気手裏剣ッ!!」

 まるで不可視の刃に切り裂かれたように、蜘蛛の身体が八つ裂きにされた。

 四散する奴が撒き散らした黄土色の体液を、反射的に風王結界で払いのけていると、足音も無く一人の男が現れた。

「ここは既に彼奴の腹の中。油断は禁物ですぞ、王よ」

「そなたは……っ!?」

 そこにいたのは、潜入の為であろう動きやすい黒衣に身を包んだ円卓の騎士の一人、グリフレット卿だった。

 

 

 

 おまけ『聖杯動画大賞視聴者の反応』

 

『ランスロットのマネ! 全鎖断裂・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)!!』

 ヴァーリの携帯端末から展開する投影ディスプレイが映し出す光景に、地上で待機していた面々は開いた口が塞がらなかった。

「まさか体術で聖剣を模倣するとは……。分かってはいたが、君達のリーダーは非常識にも程があるぞ」

「こればっかりは私も返す言葉が見つかりません。ご主人様、マジ歪みねー」

 眉間を揉みしだくアーチャーの言葉に、玉藻の前の尻尾がへにゃりと下がる。

「トータ。あのね、ランスロットが真っ白になって動かないんだけど……」

「おおっ!? ランスロットがまた死んでおるぞ!!」

 困惑気味に声を上げる三蔵法師と俵籐太の声に全員の目が向くと、そこには燃え尽きた灰よりも白くなった湖の騎士が力無く椅子に座り込んでいる。

「ランスロットォォォォォォォォォォッ!?」

「ランスロットさん、しっかりしてください! ランスロットさん!!」

 風が吹けばそのまま消滅しそうなくらいに、生気の感じられない友の姿にベディヴィエールは絶叫を上げ、藤丸立香は必死に呼びかける。

「……いいのよ、立香ちゃん。男としても剣士としても、私は終ってしまったの。これからは淑女の道を歩むことにするわ」

「その身体でオネエキャラとか、ぶっちゃけ気持ち悪いです」

「止めて、マシュ! 彼の逃げ道を潰さないであげてぇぇぇっ!!」

 マシュの容赦ないツッコミに、ドサリと倒れ伏すランスロット。

「悲しい事です。性別の境を彷徨っていた彼は男としてだけではなく、剣士としても死んだようですね……」

 かつて円卓最強と呼ばれた騎士のあまりの末路に、アーサーはそっと目頭を押さえる。

「ねえ、あれってお兄ちゃんもできる?」

「ゴメンな、美遊。ハリボテの聖剣しか投影できない俺には無理だよ」

 妹の純真な目に、衛宮士郎は顔を引き攣らせながら目を逸らし、

「狡いぞ、慎めっ! 聖剣の奥義は俺がパクろうと思っていたのに!! こうなれば、ガウェインの聖剣奥義を習得してやる!!」

「ヤメロォ!?」

 地団駄を踏みながらとんでもない事を口走るヴァーリに、ベディヴィエールの魂の抗議が木霊する。

 

 一方、その様子も配信されていたエジプト領では───

「ファラオ・オジマンディアス! しっかり!! 気をしっかり持ってください!!」

「ハハハハハハッハハハハハハッ!!! 英霊の宝具の真名開放を生身で再現するとか……ッ! ヒィヒィ……ッ!? 予想の斜め上にもほどがあるッ! しかし湖の騎士……ッ! 無様すぎ……ハハハハハハハハハ八ッ!!」

 玉座から転がり落ちてもなお、腹筋崩壊した太陽王の姿があったとさ。    




 ここまで読んで下さって、ありがとうございます。

 4話くらいで終わらせるはずの第六特異点。

 原作勢を置いてけぼりでハリウッド映画の様相を呈して来ました。

 どうしてこうなった……。

 これも資料として見た『エイリアンシリーズ』と『プレデター』が悪いんや……。

 まあ、少々のサプライズを挟みますが、後二話で終わらせるつもりで今後は巻きで行くつもりです。

 もう少しお付き合いいただけると幸いです。

 今回の用語集

 〉グリフレット(出典 『アーサー王伝説』)

 サー・グリフレットはアーサー王伝説に登場する円卓の騎士の一人。
 湖の乙女にエクスカリバーを返還したと言われているベティヴィエールの従兄弟。
 アーサー王の若い頃からの友人で、従者として登場する。
 彼はアーサーの生涯の助言者であり、ランスロ=聖杯サイクルでは、カムランの戦いを生き延びてエクスカリバーを湖の乙女に返却する。
 また、トマス・マロリーの『アーサー王の死』ではグィネヴィアの処刑の際、女王を救いにきたランスロットに殺される騎士の一人となっている。

 今回はここまでとさせていただきます。
 また次回でお会いしましょう。 
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