MUGENと共に   作:アキ山

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 皆様、お待たせしました。

 閑話第五話の完成です。

 ……後2話で終わらせるといったな、あれは嘘だ。

 いや、マジに3話くらいかかりそうです。

 巻きで行くつもりだったのに、どうしてこうなった……。

 あと、FGOは『英霊剣豪七番勝負』が面白かったです。

 オマージュの関係で昔の魔界転生の映画ももう一度見たし。

 もし柳生十兵衛が出るのなら、是非とも千葉真一氏が演じた十兵衛をモデルにしてほしい物です。

 あと、儂にはパライソも武蔵も段蔵も不要。

 狙うはただ一つ、柳生の爺様のみ。

 というわけで、これの投稿が終わったら10連に挑戦するんだ……。



閑話『獅子王・地獄変(5)』

「ファラオ・オジマンディアス。太陽神の加護を受けているとはいえ、旅の者に聖杯を与えるなど……本当によろしいのですか?」

 (そば)に控えていたニトクリスの言葉に、大神殿の玉座に座してミニメシェドから送られてくる画像に目を向けていた太陽王の柳眉が動く。

「ニトクリスよ、余の采配に異論でもあるのか?」

「いえっ、そのようなっ!?」

 少し不機嫌な声を出してみれば、途端に狼狽した気配が伝わってくる。

 この少女は己に自信が持てないのが玉に(きず)だ。

 生前の事を思えばそれも已む無いのだが、それでも歴代のファラオに名を連ねる身としてもう少し大きく構えてもらわねば困る。

「悪戯が過ぎたな、許せ。余があのような沙汰を下したのは、父神の加護を得ているからだけではないぞ」

「では、何ゆえでしょうか?」

 先達でありながらも導くべきと断じた女性のファラオの問いに、オジマンディアスは少しの思案の後に口を開く。

「……あれ等がここを訪ねてくる前に夢を見たのだ」

「夢、でございますか?」

「うむ。夢の中での余は太陽の化身ではなかった。強い悪意を持つナニカに堕とし穢され、地を這いずる薄汚い魔となっていたのだ」

「そんな……!?」

「目覚めれば一夜の夢であったが、夢の中では永劫に等しい時であった。深淵(しんえん)の如き闇の中を只管(ひたすら)彷徨(さまよ)い続けた余は、ついに一筋の光を見つけることができた」

 太陽王は陽の色の瞳を閉じて、そのときの事を思い出す。

 呪詛と嘲笑、嫌悪を塗り固めたような世界。

 本来の己であれば自決する程の恥辱を味わい続け、もはや己が命を絶つ気力すら湧かない中で見つけた光。

 涙が出るほどに嬉しかった。

 (はや)る心のままに駆けだそうとしたが、醜く歪められた身体ではまともに歩く事もできず、無様に転び虫けらの様に地を這いずった。

 だが、そんな事など気にならないほどに、その光は甘美だった。

「残り滓のような気力を振り絞って、余は光の中へと飛び込んだ。この身を包む光は、まるで我が妻の胸のように優しく温かかった。東洋の言葉に『地獄に仏』という言葉があるそうだが、あれこそ正にそうであったわ。光は悪意のヘドロに塗れ、人あらざる異形と化した我が身も洗い流してくれた。そして我が身が本来の物に戻り始めると同時に、光は我をゆっくりと闇から救い上げてくれたのだ」

 こちらを逃がすまいと光に集ってくる闇は心底憎く、そして恐ろしい物だった。

 汚泥の如きそれらが光の柱に備わった外壁にぶつかる度に、己らしからぬが肝が冷えたものだ。

「そして、夢の中の余は東洋の建築物の中で目が覚めた。(かたわ)らには涙ながらに(すが)りつく我が妻、そして異国の神官装束に身を包んだかの者がいたのだ」

「それは……夢見でしょうか? こことは別の聖杯戦争に呼び出された時の記憶が夢として出てきたと」

「違うな、アレは余の記憶や記録ではない。夢の中で妻の事をムトと呼んでいたのを思えば、あれは我が父ラーの記憶なのかもしれん」

「太陽神の……!? しかし、神話には太陽神が(おとし)められたなどという記述はありません!」

「我等の神話には、な。他の神話……そうさな、聖書を紐解けばその記述は容易く見つかろう」

「他の神話、ですか」

「うむ。聖書を下敷きにした魔導書グリモワール、そこに記された悪魔の中にいるアモン。彼奴はアメン・ラーが堕天した姿だと言われている」  

「アモン……」

「そして魔術王が従える72の魔神、その中に彼奴の名前が刻まれている」

「……」

 もはや声も出ないニトクリスを一瞥(いちべつ)もせずに、オジマンディアスは懐から取り出した黄金の杯を憎憎しげに見据える。

「何故この聖杯が触媒も無しに余を呼び出し、こうも容易に心に忍び込んでくるのか。……タネが分かれば簡単よ。彼奴は夢で見た父神のように、余にこの聖杯で堕天せよと言っておるのだ」

 太陽王がその黄金の杯から手を離すと、それは何度も階段を跳ねながら、高い音立てて床に転がった。

「不遜! 不遜!! 不遜!!! 人理を護りし英霊の一角として、地力で我を上回る事は認めよう。しかしっ!! このような小道具で我が父と余を貶める事が絶対に許さんッ!!」 

 突如として立ち昇った怒声。

 身を(すく)ませながらも見上げたニトクリスが見た物は、立ち上がり怒りを剥き出しにした太陽王の姿だった。

 その立ち昇る怒気に、一言一句に込められた言霊に、あてられたニトクリスと大神殿が大きく揺らぐ。

「故に杯は彼の者に渡すのだ。本来なら余自らが対するのが筋であるが、今の余は忌まわしい事に聖杯を依り代としている。それに込められた術式が発動すれば逃れるのは困難だ」

「そ……それ故に、彼の者に渡すのですね」

「そうだ。異なる世界とはいえ、父神をアモンという呪いから開放した奴ならば、魔術王の下らぬ企みを阻止できよう。それに───」

「それに?」

「一度聖杯に縁を結んだならば、近くに起こるカルデアと魔術王の決戦に彼の者も呼ばれる事となるだろうからな」

 人の悪い笑みを浮かべるオジマンディアスに、ニトクリスは整った柳眉を下げる。

「ですが、あの少年を呼び出して何になるのですか? ファラオのお話から術師としては有能なのはわかりますが、魔術王との闘いでは役に立つとは……」

「ふん。平凡に見えるかもしれんが、あ奴は並の英霊など歯牙にも掛けんほどに強力な存在ぞ。その気ならば、聖都など奴一人で殲滅できるほどにな」

「そ……そこまでなのですか!? 聖都には名高い円卓の騎士が控えているのですよ!」

「その円卓最強の騎士が去勢されたではないか。しかも己が真名開放を一目で模倣される始末だ、あんな芸当ができる者などそうはおらぬぞ」

「た、確かに。ならば、なぜすぐに聖杯を授けられなかったのですか?」

「それはな、ノリだ」

「ノ……ノリ?」

 予想の埒外(らちがい)な台詞に、ニトクリスは唖然と言葉を漏らす。

「そうだ。それに足る理由はあろうと、ただ聖杯を渡すのでは芸が無い。どうせならば奴等のやる気を刺激し、我等も楽しめるようにした方がお互い利点があろう」

「そ、そういうものなのでしょうか?」

「だからこそ、このような愉快な物が見れている。ニトクリスよ、憶えておくがいい。世の中の多くにおいて、『面白い』という事は重要なものだぞ」

「面白い……憶えておきます」

 呼び出したメシェド神からパピルスを貰ってメモを取るニトクリスを横目に、再び玉座に腰を沈めた太陽王は魔術によって造られた投影画像に目を向けた。

 その太陽色の眼を期待に細めながら。

   

 

 

 

 謎の古代遺跡からこんにちわ。

 現在、害虫駆除作業中の姫島慎です。

 さて、前回ちょっとした手違いで(はぐ)れてしまったご先祖ちゃんだが、孵化室から動かないでいてくれたお陰で無事に合流する事ができた。

 本人に怪我が無かった事はめでたいのだが、彼女と同行していたのがまた意外な御仁だった。

 悪魔六騎士の一人であるザ・ニンジャ。

 レスラーなのに使う技の大半が忍術という異色の超人だ。

 とはいえ、その実力は折り紙付きで、将軍様との対戦でこちらが散々苦しめられた『順逆自在の術』は彼の持ち技だったりする。

 例によって円卓の騎士の一人である『サー・グリフレッド』を名乗っている彼の目的は2つ。

 一つは拉致されたトリスタンの安否の確認。

 そしてもう一つは俺たちへの伝言だ。

 まず伝言だが、その内容は『後二日以内に、この特異点をクリアせよ』という将軍様からの非情のオーダーであった。

 聖都の獅子王、山岳地帯の勢力、そしてこの虫塚と問題は山積しているにも関わらずコレである。

 流石は将軍様、無茶振りの年季が違う。

 次にトリスタンの件については、やはりと言うべきか奴は蟲達の苗床にされていた。

 壁に(はりつけ)にされて力なく垂れた頭と、紅い髪の間から見える胸元の大穴。

(むご)いな、これは……」

 栄光ある円卓の騎士とは思えないその末路にニンジャ先輩は顔を(しか)め、事前に知っていたらしいご先祖ちゃんも(たま)らず目を逸らす。

 眼前に広がる光景は確かに無残だが、俺にはどうにも腑に落ちない事が一つあった。

 前回の冬木では、ヘラクレスや黒化したご先祖ちゃんなどの脱落した英霊は、落命した時点で光の粒子となって消滅していた。

 しかし、眼前のトリスタンは未だ屍を晒している。

 この違いはいったいなんなのか?

 それに、先程の襲撃にあったフェイルノートによく似た攻撃を撃ってきた変異体も気に掛かる。

 奴の死体が残っている事に、関わりがあるのだろうが……。

 そう考えながら死体を検分しているが、やはり門外漢の俺には分からない。

 ならば『餅は餅屋』という言葉があるように、こういう時は専門家の意見を聞くのがベターであろう。

 そう思い至った俺は、地上にいるダヴィンチちゃんに連絡へ連絡。

 状況を説明しエイリアンの特性を説明したところ、あっという間に仮説を立ててくれた。

 (いわ)く『奴に仕込まれていた幼生は、遺伝情報ではなく霊核を取り込んだのではないか』との事。

 トリスタンの死体が残っているのは頭部と奪われた心臓、二つの霊核が不完全ながらもまだ存在している事が原因だと思われるそうだ。

 また、フェイルノートに似た攻撃は霊核に含まれていた英霊の武器(むこうは宝具と言っていた)の情報を、肉体に反映させたものらしい。

 余談だが、入り口に放置していた虫の残骸を調べたところ、かなりの神秘(魔術や霊的存在に干渉できるバロメーターのようなもの)が検出されたそうな。

 まあ、相手は宇宙生命体なのだ。

 遺伝子工学だけではなく、地球の魔術に似た技術が使われていたとしても不思議では無いだろう。

 などと自分を納得させてようとした瞬間、微かに感じた肌を差すような感覚に俺は右手を一閃させる。

 甲高い金属音を立てて床に転がったのは、投擲用と思われる黒塗りの短刀。

 どこか見覚えのあるそれを、ニンジャ先輩が一つ蹴り上げて気配がしたほうに投げ返すと、蟲共の繭となった柱の影から複数の人影が現れる。

 最初に姿を見せたのは青銅の鎧に朱塗りの弓を持った青年。

 それに続くのは、髑髏(ドクロ)の仮面を着けた全身黒ずくめの男達が4人。

 そして、先日聖都で大暴れしたダッチ・シェーファー少佐だ。

「隠形の腕はなかなかのもの。されど、攻めの際に殺気を御し切れなければ、それも宝の持ち腐れよな」

「聖都の騎士風情が知った風な口を!」

 ニンジャ先輩の評価に激昂する、黒ずくめの中でも比較的細めの男。

 彼の発言に美猴は呆れながらも言葉を返す。

「おいおい、俺達は聖都の関係者じゃねーよ」

「しらばっくれるな! そこの女はどう見ても円卓の関係者ではないか!!」

 美猴の言葉に、男はご先祖ちゃんを指差して喚く。

 あ~、確かにそう取られても仕方ないか。

「止さぬか、ザイード! 此度の我等の目的は民の救出、聖都の者と争っている余裕なぞ無い!!」

 血気はやる黒ずくめの一員を、頭目と思われる右手を布で拘束した男が一喝する。

「突然の無礼、許されよ。我が名は『呪腕のハサン』、山岳地帯に住まう民を束ねし者の一人だ」

 呪腕と名乗った男の言葉に、俺は思わず手を打ちそうになった。

 さっきの短刀、どっかで見たと思ったら煙酔のハサンの持ち物と一緒だったわ。

「ハサンっつー事は、旦那は煙酔のねーちゃんと知り合いかい?」

「む……煙酔の事をご存知か?」

 美猴の言葉に驚きを隠せない様子の呪腕のハサン。

 むこうは俺達を聖都の手先だと決め付けてたんだから、そりゃ驚くわな。

「応よ。あのねーちゃん、難民連れて山道を上がってったから後の事が気になってたんだよ。それで、彼女達はアンタ等の集落に無事に着いたのかぃ?」

「うむ。心ある方が支援してくださったお陰で、誰一人欠けることなく我等の集落に行き着いた。それを知っているという事は、お主等が彼奴に手を差し伸べた者なのか?」

「ま、そういうこったな」

戯言(ざれごと)をっ! 聖都の者が我等を支援するなぞ有り得るかっ!!」

「落ち着きな、ザイード。そうやって頭に血を上らせてると、見える物も見えなくなるぜ?」

「俺達のいる場所を考えろ。人間同士のイザコザを持ち込めるほど、安全な場所か?」

 美猴の言葉に抗議の声を上げたザイードと呼ばれた黒ずくめだが、弓兵の青年と少佐に声をかけられてその口を噤む。

「連れが失礼した。あの者は仲間が聖都の騎士に討たれておるのでな、彼奴等を目の敵にしておるのだ」

「なんの。だが、そこの女人の格好を見て聖都と結びつけるのは早計というもの。見ず知らずの拙者の弁など信用に値せぬだろうが言わせて貰おう。この者達は聖都の手の者ではない。星見台の英霊と旅の武芸者よ」

「いや、信じよう。我等、闇に生きる者は易々と己が名を明かす事は無い。煙酔のが貴方達に名乗ったのならば、相応の理由があってのこと。それが民への援助ゆえと考えれば、得心も行くものよ」

 ニンジャ先輩の言葉にゆっくりと頭を振った呪腕さんは、こちらを向き直ると深々と頭を下げた。

「我等が同胞の命を救ったうえに貴重な食料まで分け与えてくれた事、心より感謝いたす」

「あー……、礼なら上にいる俵のおっさんかこいつに言ってくれ。奴さん達に与える飯とか用意したのこいつ等だからよぉ」

「お前な、こういう状況でこっちに振るんじゃねーよ。呪腕殿、礼は受け取りました。こちらも好きで手を貸しただけですので、お気になさらないでください。それよりも民の救出と仰ってましたが、皆さんがお探しなのはこの方々ではないですか?」   

 真正面から頭を下げられるのはむず痒いものがあったので、そうそうに話題を変えさせていただこう。

 先程救出した山岳地帯の民達を、彼等の前に寝かせて確認をお願いする。

「おおっ!! 間違いありませんぞ、呪腕殿。皆、憎き蟲怪(ちゅうかい)に連れ去られた者達です!」

百貌(ひゃくぼう)(あね)さんとこのチビも無事か。よかった、これで一安心だな」

 黒ずくめ達や弓兵が喜ぶ中、シェーファー少佐は救助者たちに厳しい目を向けている。

「坊主。彼らの中には何もいないのか?」

「エイリアンの寄生のことですね。私は生命体の生体反応を感じ取る技能を持っています、間違いなく彼等の中には何もいません」

 言葉の真偽を確かめるように、こちらの目を見据える少佐。

 あの人がモデルであることに加えて歴戦の勇士である事も相まって、その威圧感は相当なものだ。

 しかしこちらも己の業にはそれなりの自負がある。

 この程度の脅しで怯んではいられない。

「……信じよう。民間人救出の手助け、感謝する」

 しばらく睨みあった後、彼は厳つい顔に男臭い笑みを浮かべて義手を差し出してきた。

 握り返すと血の通わないはずの鋼鉄は、何故かほのかな温かみを感じさせた。

「……これで目的の一つは果たせたか。ザイード、マクール、ゴズール。お前達は民を連れてここから脱出せよ」

「呪腕殿達はどうされるのですか?」

「我等はこのまま最深部に入り、彼奴等の首魁(しゅかい)を討つ。これ以上、村や初代様の霊廟を脅かせるわけにはいかぬからな」

 どうやら、向こうの方針は決まったらしい。

 彼らもクイーン狙いとは、これは渡りに船という奴ではないか?

 シェーファー少佐は対エイリアンのエキスパートだし、あの弓兵も只者じゃない。

 呪腕さんとコネを造っておけば、山岳地帯の勢力と争わなくてすむかもしれないし。

 将軍様にリミットを切られた以上、できれば闘り合うのは獅子王だけにしたいからな。

「皆さん。クイーンのところに行くのなら、ご一緒して構いませんか?」

「なんだ、そっちも奴さんに用があるのか?」 

「目的は皆さんと同じですよ」

「ええ。こんな地獄を二度と生み出さない為にも、ピクト人は殲滅する必要があります」

「ま、妖怪退治は武道家の使命っていうからな。ジジイからその手の自慢話を耳にタコが出来るくらい聞いたし」

「同じ釜の飯を食った同僚がああも無残に殺られたのだ。仇の一つも討たねば、墓前に花も供えられまい」

 俺に続くようにこちらの面子が決意を口にすると、弓兵は苦笑いで呪腕さんを見る。

「ここから先は決死行となる。動けなくなった者は容赦無く置いていくが、それでも構いませぬかな?」

「もちろんですよ」

 こちらが全員頷くのを確認した呪腕さんは、一息ついて左手を差し出してくる。

「ならば、改めて名乗ろう。私は『山の翁』が一人、呪腕のハサン。この(えにし)がどこまで続くかは分からぬが、よろしく頼む」

「俺はアーラシュ、何処にでもいるしがない弓使いさ」

「地球軍海兵隊のダッチ・シェーファーだ。蟲共とは腐れ縁でな、対処の仕方は心得ている。分からん事があったらなんでも聞いてくれ」

 互いの自己紹介も終わったところで、ザイードを初めとする黒ずくめ軍団が救助者と共に離脱。

 無事にここを抜けられるか気になったが、彼らも英霊の端くれだと言う呪腕さんの言葉を信じる事にした。

 さて、ここからは仕切り直しである。

 将軍様の無茶ぶりのせいで時間も無いことだし、巻きで行こうではないか。

「というワケで、こっからは床をブチ抜いて最下層に行こうと思います」

「「「「ちょっとマテや」」」」

 ナイスな案を提示したはずなのに、何故か少佐を除いたみんなから抗議の声が上がる。

「何か問題が? 敵には遭遇しにくいし、最短距離で移動できる良案だと思うのだが」

「そういう問題ではありません! どうして貴方はまともに降りようとしないのですか!?」

「時間が無いから」

「脳筋だとはわかっちゃあいたが、ここまでとは思わなかった! やってる事がヴァーリと変わらねえだろうが!!」

「あいつよりマシだ。シバくぞ、サル」

「着地はどうするんだ? 高さに関しては心配してないけど、罠なんかがあると困るんだが」

「俺は飛べますし、美猴には筋斗雲があります。空中で回収するから大丈夫」

「武者修行で来ているのだから、ちゃんと経験は積むべきだと拙者は思うのだが?」

「クレームならリミットを切った将軍様にお願いします」

「下で敵か待ち構えていたら、どうされるのですかな?」

「相手の上を取ってるから、飛び道具を撒いていればなんとかなるでしょう。もしそれでダメだった場合は、俺が突貫して叩き潰します」 

 次々と押し寄せるクレームに真摯に答えると、納得したのだろう誰も文句を言わなくなった。

「いいじゃないか。派手だしシンプルだ、俺は好きだぜ」

 葉巻を吹かしながら、上機嫌でOKを出してくる少佐。

 うむ、州知事そっくりの彼からお墨付きを貰っては、実行に移さざるを得ない。

「そんじゃ軽く3階層ぶち抜き、いっきまーす!!」

「ちょっ!?」

「1階層づつじゃないんですか!?」

「こりゃまた、トンでもない兄ちゃんと知り合ったもんだ」

「す……っ、少し待たれよ! 心の準備がまだ……ッ!?」

「やれやれ、この無茶苦茶さは将軍様に通ずるものがあるな」

「よぉし、やれ! 要員の回収も忘れるなよ!!」

「アイアイサー!!」

 そう言いながら、俺は床に向けて拳をブッ放したのであった。

   

 

 

 

 甲高い声を上げて、通路から、天井から、床下からも殺到する蟲共。

 その数は四方にある大型の通路を埋め尽くすほどで、種類もウォーリア、ドッグ、外殻が過剰進化したクリサリスに他の物よりも二周りほどの巨体を誇るロイヤルガードなど、多種にわたる。

「流石に、ここまで来ると歓迎もひとしおだねぇ!!」

「宴に招待されるのは嫌いじゃないが、卓上に並ぶのは遠慮したいなッ!!」

 軽口を叩きながら得物を振るう美猴とアーラシュさん。

 氣と燐をふんだんに纏った如意棒は風を切ると同時に巨大な炎を生み出し、朱塗(しゅぬ)りの弓から放たれた矢は対物ライフルさながらの威力で、壁や天井もろとも蟲共をブチ抜いていく。

「ふんっ! ザクロと散れ!!」

「かように未熟な隠行では、我等の隙を突く事はできぬッ!!」

 物陰から飛び掛ろうとしたドッグタイプ達は、その素振りを見せる間も無く黒塗りの短刀と手裏剣に頭部を貫かれる。

「この迎撃密度の濃さ……女王の間は近いようですねッ!」

「女王親衛隊であるロイヤルガードまで出張ってるからな。感じる氣の位置もあと二階層ほど下ってところだ」

「なら、雑魚共と遊んでる暇は無いな!!」

 玄武剛弾と風王鉄槌(ストライク・エア)によって一箇所に固めたところに、風を巻きながら飛来する手榴弾。

 轟音と共に咲いた紅蓮の華は、数十匹のエイリアンを纏めて焼き払った。

 

 あれから階層をブチ抜くこと、数回。

 我ながらエゲツないショートカットを行った結果、俺達はクイーンの座する巣の中枢まで後一歩という位置まで歩を進めていた。

 当然ながら奥に進むほどに迎撃は苛烈になっていき、奴等の兵種もウォーリアやドッグタイプはもちろんの事、クリサリスや腕部の甲殻が強化されたディフェンダー、敏捷性に特化したデモノイド等の変異体が多数出現し始めた。

 とはいえ、迎え撃つこちらも海千山千の英霊たちに加えて『無限の闘争(MUGEN)』の闘士に悪魔超人と手練ぞろい。

 即興ながらも各自が連携を取り出したこともあって、その足は止まる事は無かった。

 気になるのは、あれ以来トリスタンから生まれた変異体『トリデリアン』(命名俺)が姿を現さない事だ。

 乱戦の最中に奴の狙撃があれば、それなりに厄介だと思うのだが……。

 まあ、出てこないからと言って建物内を探して回る時間も無いので、現在は放置の方向を取っている。

 どのみちクイーンを痛めつければ、助けを呼ぶ声に反応して姿を見せるだろう。

 さて、現在俺達の前にはこれ見よがしな石造りの門が立ちはだかっている。

 気配からしてクイーンがこの奥にいるのは間違いないうえに周辺にエイリアンの影もないので、ここで最終の打ち合わせを行う事にした。

「えー。この先にクイーンがいると思うんだが、殺すのは止めてほしいんだ」

「む、どうしてでしょうか? 敵の王を目の前にしてその首を取らないというのは、納得がいかないのですが」

「王よ、まずはあの者の話に耳を傾けましょう。今までの態度からして、考えも無くあのような事を口にしているとは思いませぬ」

「……そうですね」

 こちらの言葉に難色を示したものの、ニンジャ先輩のフォローでご先祖ちゃんは矛を収めてくれた。

 まったく演技をする気も無いアシュラ先輩たちに比べて、その副官っぷりは堂に入っている。

(忍の変装とは、その者になりきる事こそが肝要。サー・グリフレッドに関しては、円卓の騎士共に顔写しを掛けて下調べは済んでおる)

 耳の中に直接ニンジャ先輩の声が木霊する。

 美朱もちょくちょく使う口寄せの術だ。

 さっきの将軍様の伝言もこうやって伝えてきたし、どこぞのはぐれ悪魔コンビと違ってこの人はガチで潜入してるわ。

「疑問に思うのは(もっと)もだけど、少し話を聞いて欲しい。そういう措置を取るのは奴等をここで全滅させる為なんだ」

「もとより我等はそのつもりだが、それと頭目を生かしておくのとはどう(つな)がるのだ?」

「奴等は蟻や蜂のような社会的昆虫に似た性質を持っている。だから、女王が死んだり巣が壊滅した場合、種の保存の為に生き残りの兵隊が女王に突然変異する事があるんだ」

「蟲共の研究データによると、女王じゃなくても単体生殖能力を持った奴もいるらしい。つまり、兵隊一匹でも逃がしたら駆逐失敗ってわけだ」

 俺の弁を補足する少佐に、周りのみんなに渋面が広がる。

 どうやら、クイーンさえ倒せば解決すると思っていたようだ。 

「そこでクイーン討伐の際、奴を半殺しの状態で手を止めてもらう。そうすれば、命の危険を感じた奴は自身の兵隊に助けを求めるはずだ」

「なるほどねぇ。そこで寄って来た奴等をオレッチ達が、一網打尽にすればいいって寸法か」

「そういうこった。奴等は女王を中心とした社会を築いているから、次の女王候補がいない限りクイーンを見捨てる事は無いだろう」

「もし候補がいた場合はどうするんだ?」

「その場合はここを壊滅させた後、聖都の対応をしつつ地道に探すしかない。対策としてクイーンの亡骸を触媒にして呪いを掛けるつもりでいるけど、それも何処まで通用するかわからんしな」

『お話のところ失礼するよ。それに関しては、亡骸の一部を持って来ればメディア王女が探索の魔術と別の呪いをかけてくれるそうだ』

 こちらに割り込む形で通信を入れてきたダヴィンチちゃんの言葉に、俺とご先祖ちゃんは小さく安堵の息を吐く。

「上で待つキャスターは、魔術の腕に関しては英霊随一です。一族の母体である女王の一部があれば、残党を探し出す事も可能でしょう」

「たしかメディア女史って、古代ギリシャにあったコルキスの王女だったっけか」

「はい。女神ヘカテーに直接教えを受けた神代の魔術師。その実力は世界に五人しかいないとされている魔法使いにひけは取らないでしょう」

 ふむ、その『魔法』と『魔術』はどう違うのかというのには疑問はあるが、その辺は置いておこう。

『あ、あと慎君に連絡だ。美遊嬢の体調が優れないみたいだったから、救護者を救い出したハサンと一緒に山岳地帯の集落に行ったよ』

 寝耳に水な話に、思わず眉根が寄ってしまう。

「彼女の容態は?」

『風土病や大事に至るようなものでは無いよ。ストレスや緊張で気分を害しただけのようだからね』

「そうか……」

 安堵と共に湧き上がる自己嫌悪を噛み潰す。

 思えば、9歳の女の子を化け物の本拠に連れてくるのは拙かった。

 聖杯動画大賞でテンションが上がっていたとはいえ、そんな事に考えが行かないとは猛省せねばなるまい。

「それで、付き添いは誰が行ったんだ? 嬢ちゃんだけでクロスケ達について行ったんじゃねーんだろ」

『ああ。兄の士郎君と三蔵法師、俵藤太やアーサー君も同行してるから心配は要らないと思うよ』

「それなら安心だ。三蔵ちゃんはともかく、俵の大将やアーサーがいれば大抵の事はなんとかなるしな」

 美猴の言葉に俺は小さく頷いた。

 アーサーは救いようのないシスコンだが、剣の腕とそれを除いた人格は信頼に値する男だ。

 万が一円卓の騎士が攻めてきても、奴ならそうそう遅れを取る事は無いだろう。

「ダヴィンチちゃん、こっちの方針はこんなところだ。クイーンを追い詰めたら『戻り』の兵隊と遭遇するかもしれないから、立香嬢の事は頼むな」

『了解したよ。こっちにはエミヤ君にヴァーリ君、そして私もいるんだ。心配はご無用だよ』

「そんじゃ突入するんで、あとよろしく」

『うむ。くれぐれも気をつけてくれたまえ』

 そう締めて地上からの通信は終わりを告げた。 

「さて、これで大方の対策も立ったろう。そろそろ女王陛下へ謁見としゃれこむとするか」

「そいつはいいんだが、こっちは無骨な戦装束だ。礼服一つ着ちゃいない奴を、むこうは通してくれるかね?」

「なに、ドレスコードに引っ掛かるのはいつもの事だ。それで断られた場合の対処も抜かりなしさ。───だろう、騎士王様?」

「ええ。戦場において、相手の王に相対する為の妨害は付き物です。ならば、目の前に立ち塞がる有象無象は吹き飛ばすまで」

「もしくは、案山子共の目を盗んで王の前に現れるというのもある」

「左様。鈍間(ノロマ)共の目の前で、彼奴等が主の首に刃を突きつけるのが我等の流儀よ」

「どっちにしたって構わんさ。獅子王やら何やらと後が(つか)えてるからな、チャッチャと片をつけるまでだ」

言いながら俺は閉ざされた門を押し込む。

 わずかな抵抗の後、重い音を立てて動き始める石造りのそれの先には、予想通りの光景が待っていた。

 部屋の中央で半透明の産卵管を(うごめ)かせ、粘着質な音を立てながら次々と卵を産み落とすクイーン。

 その身体は『無限の闘争』で出会った個体よりも倍近いデカさがある。

 そして周りでこちらに威嚇の声を浴びせているのは、かつてのクイーンと同等の巨躯を誇るロイヤルガード達。

 その数はざっと見ただけでも百近くはいる。

 奴等は通常のモノより外殻や筋力が強いうえに、周囲に強酸の体液を吐き散らす習性があるからな。

 酸対策が出来ている俺やご先祖ちゃんはともかく、他の面子は注意が必要だ。

 石門は閉めたものの、通風孔や屋根裏、いざとなれば自身の体液で穴を開けて移動できる奴等が相手では、たいした意味は無い。

 このまま火蓋を切られれば一気に乱戦になるだろう。

 なら、初手はどうするべきか?

 ──そんな事は決まっている。

「こんにちわ、死ねッ!!」

 身も蓋も無い言葉と共に放った衝撃波はロイヤルガード二体の頭を爆砕して、クイーンの右前肢二本を抉り取った。

「おいおい、女王様に当たったけどいいのかよぉ」

「目測を誤った。あの不細工がでかいのが悪い」

「確かに醜いですね。同じ王でも、ああはなりたくないものです」

「そうは言っても奴さん達に取っては大事な女王様だ、むこうは随分と頭に血を上らせてるようだぜ?」

「無駄口はここまでだ。総員、迎撃準備!」 

 それぞれが軽口を叩いたところで、少佐の声で全員が迎撃体勢を整える。

 前衛は俺とご先祖ちゃん、殿(しんがり)は美猴と少佐。

 後の三人は中衛に残って遊撃もしくは支援射撃。

 乱戦を見越して全方位に対処できる円陣を組む中で、俺はそこに一手を加える事にした。

 周りへの警戒を維持したまま呪腕さんに指示を出すと、こちらの意図を読んでくれた彼は漆黒の外套を(ひるが)して物陰へと消えていく。

 集まりつつある衛兵達が彼に気づかないのは、アサシンのサーヴァントが持つ『気配遮断』の為せる技だろう。

 黄土色の体液を撒き散らしながら一頻(ひとしき)り叫んだクイーンは、歯を剥き出しにしてこちらを睨んでくる。

 目が存在しない奴に睨まれるというのは妙な気分だが、奴から放たれる怒気や殺意は存分に感じる。

 クイーンはその巨躯を一瞬縮こませると、天井へ向けて咆哮を上げた。

 それは先程までの甲高い悲鳴とは異なる、怒りと殺意に塗れたもの。

 そして、それを合図として周囲の衛兵達も一気にこちらへ雪崩れ込んでくる。

 もはや壁と言っても過言ではない群れを、グレートホーンの応用である無音拳をブチかます。

 放たれた衝撃波は次々と奴等を粉砕するが、なんせ数が数だ。

 こちらの攻撃を掻い潜ってくる奴等もチラホラと現れる。  

 しかし、そいつ等もご先祖ちゃんが振るう風を纏った聖剣によって、次々に両断されていく。

「我が騎士を貶めた報い、受けるがいい!!」

 踏み込み一つで床を割り、身体から放たれる魔力は触れずして雑魚共を吹き飛ばす。

 そして放たれる剣撃は一振りで5体のエイリアンを断ち切り、最初の犠牲者に至ってはその威力に耐えられずに身体が爆砕する始末だ。

 降り注ぐ酸の体液を物ともせずに暴れまわる様は、『ブリテンの赤き竜』の名に恥じないものだろう。

 そして後方では───

「食らえッ! この〈ピーーーッ〉野郎!!」

「数の暴力はテメエ等だけの専売特許じゃねぇだぜ! 見な、こいつがジジイ直伝の身分身(しんぶんしん)の術でぃ!!」

「ほう、見事。ならば拙者も一芸魅せねばなるまいっ! 悪魔忍法・焦熱地獄!!」

「視界一面敵だらけ、か。これなら狙いを付けないでいい分、早撃ちに専念できるってもんだ!」

 シェーファー少佐のスマートガンが唸りを上げ、美猴が分身達と共に振るった如意棒でエイリアンを叩き潰す。

 ニンジャ先輩が吐き出す火焔の玉が蟲共を焼き払い、アーラシュさんがマシンガンばりの速射力で放つ矢は鉄鋼弾のように並み居る敵を粉砕する。 

 分かっちゃいたが、過剰戦力である。

 エイリアン達の脅威は、個々の戦闘力もさることながらその多くは数の暴力か奇襲である。

 映画でもあったように、正面切っての戦闘では武装した海兵隊でも撃破することが可能なのだ。

 まあ、ここのエイリアン達はプレデターが意図的に戦闘力を強化した種だろうから、本編のようにはいかんだろうが。

 だとしても、ここにいる面々に比べれば個々の戦闘力は比べるべくも無い。

 数の暴力に訴えようにも、これだけ戦力差があっては纏めて叩き潰されるだけ。

 奇襲狙いだとしてもこうも開けた場所で、俺の気配察知やご先祖ちゃんの直感を潜り抜けて行うのは至難の業だ。

 それが唯一行えそうなのは───

 こちらがそう思考を組み立てた直後、微かな琴の音と共に目の前のエイリアン達が両断された。

 奴等の身体の裂け方と飛び散った体液から軌道を読んで手を払うと、鉄を叩くような鈍い感覚が伝わる。

「ッ……! やっぱり来やがったか」

「今のはトリスタンのフェイルノート!? トリスタンの力を奪った者が現れたのですね!」

「待った、セイバーちゃん! 奴に対してはもう手は打ってる。君はこっちに専念してくれ」

「しかし……ッ!?」

 こちらの指示に異を唱えようとするも、不可視の刃に続くように飛んでくる強酸の飛沫に、ご先祖ちゃんは言葉を飲み込んで風の障壁を張る。

 トリデリアンの攻撃に合わせて遠距離攻撃に戦法を切り換えるとはッ!?

 奴等、思った以上に知恵が回る。

 本来ならここで足を止めているのは悪手でしかないのだが、酸に対応できる俺達が抜ければ残されたみんなの危険度が増す。

 ここはトリデリアンを潰すまで耐えるべき───

「束ねるは星の息吹……以下略! 『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』!!」

「ちょっ!?」

 いきなり聖剣ブッパをかましたご先祖ちゃんの手によって、酸を吐いていたロイヤルガードとこちらに向かっていた戦力の三分の一は光の中に消えた。

 そして巻き添えになったクイーンは産卵管と卵を丸々失っている。

「なに、いきなり聖剣ぶっ放してんの!?」

「奴等の酸攻撃を防ぐ為には数を減らすのが一番でしょう。大丈夫、むこうの女王は存命ですよ」

「いやいや、呪腕さんが別行動とってるから! 巻き込んだらどうすんだよ!」

「……大丈夫です。彼とて一流のアサシン、私の殺気を感じて射程範囲からいち早く離脱している事でしょう」

 こちらから顔を背けて呟くご先祖ちゃん。

 いや、全然説得力ねーよ。

 多分、頭に血が上って忘れてたんだろ。

 さすが『コンウォールの猪』なんて綽名を貰うだけはあるわ。

 卵を失い産卵の場を荒らされたクイーンの怒りの叫びに、ここに雪崩れ込む虫の数がさらに増えている。

 ご先祖ちゃんにツッコミを入れている暇はなさそうだ。

「ともかく、呪腕さんが戻ってくるまで聖剣は禁止! 聞かないのなら、今度はそっちもパクるからな!!」

「やめてくださいっ!!」

「遊んでねぇで闘えよ! ヒャオオオオオオッ! ファイヤァァァァァッ!!」

「お前、その辺は中国語でやれよ! グレートホーン!!」

 美猴の放った超火炎旋風棍と俺のグレートホーンが、ご先祖ちゃんの聖剣と同等の敵を抹殺する。

 まあ、ご先祖ちゃんの思惑通りに、ロイヤルガードが減って酸攻撃の手が緩んだから楽になったけど。

 視界を巡らせば、少佐が『FU●K』と叫びながら十体くらい一気に殴り飛ばしていたり、ニンジャ先輩が複数纏めて鋼糸で縛り付けて切断したり。

 あれって、『悪魔忍法・蜘蛛糸縛り』の応用だよな。

 あと、アーラシュさんがどう考えてもオカシイ威力の射撃で、天井や壁に風穴を空けながらエイリアン共を駆逐している。

 ふむ、こっちはちょくちょく必殺技を織り交ぜてれば何とかなりそうだ。

 というワケでそっちは頼むぜ、呪腕さん。

   

 

 

 

「やれやれ、騎士王殿にも困ったものよ」

 周囲を照らす聖剣の極光を横目に、髑髏の面を被った男は闇に身体を浸しながら一人ごちる。

 彼の名はもはや無い。

 あえて呼ぶとすれば、背負った責務と能力から呪腕のハサンというべきか。

 異形の蟲怪が溢れる回廊を、呪腕はまるで影のように誰にも気取られること無く駆け抜けていく。

 彼が狙う物は一つ。

 円卓の騎士トリスタンの身から生まれでた変異体だ。

 実質的に自身達を率いている少年の弁では、かの変異体は英雄の宝具であるフェイルノートと同等の能力をその身に宿しているという。

 呪腕自身も数えるほどだが、かの魔弓の力を目にした事はある。

 彼の弓、いや竪琴は弦の調整如何によって変幻自在、あらゆる角度から目に見えない音の刃を放つことができる。

 奏でられる甘美な調べとは裏腹に、その切れ味はギロチンなど足元にも及ばないほどだ。

 そんなモノが人を襲い、殺める事しかしない蟲怪の手に落ちたとなれば、その危険性は口にするまでも無い。

 獅子王の円卓の中でも最も残忍といわれた本来の主の手にあった時よりも、同胞の血に塗れることだろう。

 だからこそ、その禍根はここで断たねばならない。

 決意を新たに柱から柱に飛び移っていた呪腕は、陽動の役目も担っている仲間たちに向けて殺到する敵の中において、一匹だけ集団から離れて物陰に潜もうとする赤い影を見つけた。

 気配を殺して近づくと、それが他の物とは大きく異なる容姿をしている事が見て取れた。

 まずは全身の外骨格が赤く染まっていて、大きく突き出た後頭部には左右に広がるエラがある。

 そしてそのエラには細い弦のようなものが張られており、首の後ろに当たる部分から左右二本の副腕が生えている。

 物陰に潜んで仲間たちの様子を盗み見る変異体を、髑髏の仮面に隠された暗殺者の瞳が冷徹に射抜く。

 乱戦に紛れての遠距離からの狙撃。

 少年の予測は見事に的中したらしい。

 確かに現在自分たちがいる位置は狙撃にはうってつけだ。

 仲間に取って死角で距離もある。

 さらに言えば、ここからなら全員の頭部へ容易に狙いを付けられる。

 このベストポジションを経験の裏打ち無く本能だけで選んだのだから、この生物は本当に侮れない。

 蛇の様な鳴き声を一つ上げて、副腕で頭部の弦をかきならす変異体。

 間を置かずして、地上では侵入者に躍りかかっていたエイリアン数体の肉体が裂け、床や壁面にも刃の跡が刻まれる。

 その一射における人間側の被害は無いが、気にした様子も見せずに変異体は短く声を上げた。

 粘液に塗れた口から第二の顎が飛び出しているところを見ると、人間で言う『舌なめずり』でもしているのだろう。

「……阿呆」

 その様子を一言で切って捨てた呪腕は、取り付いていた柱を蹴って宙を駆けた。

 サーヴァントの脚力によって一気に加速した漆黒の影は、外套をたなびかせながら赤い異形の背後を通り過ぎる。

 そして呪腕が音も無くバルコニーに降り立った次の瞬間、異形に生えていた副腕の一つが肘の辺りから取れてボトリと床に転がった。

 患部を押さえて先程の数倍はある甲高い悲鳴を上げる変異体。

 その無様な姿を視界に捉えながら、呪腕は白煙を上げる短刀を地に放る。

 跳ねる事無く地面に転がったそれは、刀身の半ばまで溶け落ちていた。

「その腕もろとも首を落とそうと思ったのだが、初代様の様にはいかぬな」

 自嘲しながらも足音無く近づく影に、変異体は威嚇の声を上げる。

「どうした、貴様の間合いだぞ? 自慢の武器を放ってみるがいい」

 人語を解する知識があるのか、それとも挑発の意のみを汲んだのか。

 変異体は咆哮と共に残された腕で頭の弦をかき鳴らした。

 すると、弦が爪弾(つまび)かれる度に周囲の石材に次々と斬撃の跡が刻まれていく。

 それを見て取った呪腕は、懐から黒い玉を取り出して素早く地面に叩きつける。

 軽い炸裂音と共に周囲を覆う黒煙。

 それに紛れるように髑髏面の影は姿を消す。

 突如として落とされた一寸先も見えぬ闇の中、それでも変異体に動揺は無かった。

 元より彼等の種族に視覚は存在しない。

 獲物を捉えるのは高度に発達した他の感覚器ならば、視界が利かぬ環境はむしろ得手と言えた。

 彼らに表情というものがあったならば、変異体は自ら死地に飛び込んだ獲物に嘲りの笑みを浮かべていただろう。

 小さく喉を鳴らしながら己に傷を付けた不埒者を探していた彼は、不意にその動きを止めた。

 彼の感覚器は獲物を識別する要素を何一つ捉える事が無かったからだ。

「シィィィィィィィッッ!」

 しきりに周囲を見回しながら鋭く声を放つが、幾ら研ぎ澄まそうとも獲物は自らの感覚の網に掛かる事は無い。

 普段は容易に感じられた獲物の息遣いや肉の匂い、そして体温の暖かさも。

 そうして彼の脳内が混乱に埋め尽くされようとした時、自身の足に鋭い痛みが走った。

 確認すると、外骨格を突き破って硬い異物が右足の付け根に深々と突き刺さっているのが分かる。

 それ自体は体液によって半ばまで溶解して地面へと落ちたが、足に負った傷が深手である事に代わりは無い。

 機能不全を起こして右の足が片膝をついたところで、今度は左足の関節部分に同様の痛みが走る。

 左足も殺されて跪けば右腕の関節部、間髪入れずに左腕の付け根と攻撃は次々に変異体を襲う。

「シャャァァァァァァァァァァァッ!!」

 感知できない敵から一方的に攻撃を食らう事に混乱した彼は、絶叫と共に四方八方へとガムシャラに音の刃を飛ばす。

 奇しくもその行動は、彼の仲間に襲われた人間たちの取るモノと同じだった。

 しかし、間断なく放たれた攻撃も姿無き敵を捉える事はできない。

 それどころか、虎の子である副腕も切り落とされ、頭部のエラに張られた弦も全て断ち切られてしまった。 

「……他愛なし。如何に優れた攻撃であろうとも、担い手がこの程度では宝の持ち腐れよ」

 黒煙も晴れ、漸く音声という相手の手がかりを得た変異体が顔を向けると、そこには彼を見下ろす髑髏の面があった。

「視界なき貴様等に煙幕が通用しないなど、最初から分かっていた。あれはな、貴様が放つ音の刃の軌跡を見切る為の道標よ。そこに貴様等の感覚を掻い潜る我が気配遮断とこの短刀が合わされば、斯様な結果が生まれるという事だ」

 言葉と共に左手で漆黒に染め上げられた短刀を見せ付ける呪腕。

 しかし、変異体の注意はそこには無かった   

 無事である全ての器官で彼が注視していたのは、左の倍ほどの長さとなった相手の右腕だ

 何かを掲げるかのように天を向いた右手、その中には大きく脈打つモノがあった。

 変異体には術理も道理も分からない。

 だが、相手の手の内にあるそれが、自身にとっての命脈そのものである事は本能で理解した。

「ギィシャャァァァァァァァァァァァッ!!」

 絶叫を上げながら呪腕からそれを取り返そうと足掻く変異体。

 しかし、黄土色の体液に塗れた彼の身体には、それを為す術は残されていなかった。

「その命、ザクロと散れ! 『妄想心音(ザバーニーヤ)』!!」

 呪腕の右腕が手の中のモノを握り潰した瞬間、変異体の胸から大量の体液が噴出し、糸が切れた人形の様に床に倒れ伏した。

「……彼奴が放つ斬撃はトリスタンの物と同様であった。未熟の内に討てた事、僥倖(ぎょうこう)と見るべきよな」

 そう一人ごちた呪腕は体液が付着していない部分を探して掴むと、変異体の死骸をテラスから投げ落とす。

「貴様が奪いし武具は、我が同胞の血に塗れし物。屍を晒しながら、それに手を出した己の不明を呪うがいい」

 押し潰されたエイリアンの上に横たわる躯に言葉を残し、黒衣の暗殺者は音もなく姿を消した。

  

 

 

   

 

 こちらに襲い掛かろうとしていた一団を押し潰した赤い死骸に、口元が吊り上がるのがわかった。

 黄土色の体液に塗れている上に、欠損している部分もあるので分かりにくいが、奴がトリデリアンだろう。

 どうやら呪腕さんが上手くやってくれたらしい。

 彼から(にじ)み出るいぶし銀な仕事人オーラを信じた、俺の眼に狂いはなかったようだ。

「依頼は果たしたぞ、少年」

「すみません、助かりました」

 音も無く背後に現れた呪腕さんに礼を告げると、彼はゆっくりと頭を振る。

「礼は不要。して、私は何をすればいい?」

「アーラシュさんと一緒に俺達の援護を頼みます。後はクイーンにどれだけ兵隊を吐き出させるかが重要になるんで」

「心得た」

 短い答えの後、背後から黒く塗られた短刀がエイリアンに向けて放たれ始めた。

 後列から強酸を液射しようとしている奴を優先に狙ってくれるのは助かる。

 聖剣と風王結界しか遠距離手段の無いご先祖ちゃんは前線でチャンバラ中だし、俺にしても衝撃波では後列まで届かないうえに玄武剛弾はタメがいるので速射性の欠ける。

 なんてワケで、背後まで手が回らなかったのだ。

 そうやって絶え間なくかかってくる奴等を始末していると、徐々にだが敵の勢力が緩まってくる。

 体感的にはそんなに長丁場になっていないが、軽く四桁近くは殺ってるんだよな。

 まあ、三分の一近くを消し飛ばした、ご先祖ちゃんの聖剣ブッパが効いてるんだが。

 視界を覆うほどだったエイリアン達の数も減って見通しが良くなった時、俺はある事に気付いた。

 あれほど目立つ姿だったクイーンの姿が無いのだ。

 そういえば、さっきの聖剣で産卵場もろとも卵管まで消滅させてたっけ。

 …………ちょっと待て。

 この状況ってアレじゃねーか!

「全員、気をつけろ! クイーンの姿がない!!」

 警告を叫ぶ俺の視界に映ったのは、剣を振るうご先祖ちゃんの背後に釣り針のように垂れ下がった、エイリアンの尻尾だった。

「王よ! 御免ッ!!」

 俺より先に飛び出したのはニンジャ先輩だ。

 ご先祖ちゃんに群がる敵を空気手裏剣で始末すると、彼は空中で聖剣を持つ方とは逆の手を掴んで、彼女をこちらに投げ飛ばす。

 そして入れ替わるように着地したニンジャ先輩の身体が一瞬ブレた次の瞬間、尻尾が彼の腹部を貫いた。

「グブッ!?」

「グリフレッドォォッ!?」

 フックに掛かった肉のようなニンジャ先輩の惨状に、ご先祖ちゃんの悲鳴が木霊する。  

 徐々に吊り上げられるその先にあるのは、口から粘液を滴らせるクイーンの姿。

 このままでは映画のビショップの様に、ニンジャ先輩の身体が引き千切られてしまう!

「待ってろ、今助ける!」

「無用ッッ!」

 動こうとする俺達は、ニンジャ先輩当人からの厳しい声にその動くを止めた。

「……もはやこの身は助からぬ。ならば、忍として己が役割を果たすまで!!」

 相手の手が届く距離まで引き上げられてなお、気炎を吐いたニンジャ先輩は、眼前まで迫ったクイーンに向かってニヤリと笑って見せた。

「拙者を喰らうか嬲るつもりだったのか……。どういうつもりかは知らんが、忍を懐まで呼び寄せるなど迂闊に過ぎたな、女王!!」

 カチリという小さな音に続き、一瞬の閃光の後でニンジャ先輩のいた場所に轟音を伴った紅蓮の炎が咲く。

「あ…あぁ……」

「バカヤロウ、早まった真似を……」

 呆然と声を漏らすご先祖ちゃんと、小さく吐き捨てるシェーファー少佐。

 次の瞬間、数十体の仲間を押し潰しながらクイーンが落ちてきた。

 尻尾の半ばから先と前肢を失い、身体の前面が焼き(ただ)れた奴は、同胞の死体を弾き飛ばしながら苦痛の声を上げる。   

「あの野郎、まだ……」

「否、死んでもらっては困る。彼奴には未だやってもらわねばならぬ事がある」

「そうだ。全員、クイーンを確保してくれ! 奴を中心にして陣を組むんだ!」

 こちらの指示でクイーンを囲うように円陣を組む俺達。

「セイバーちゃん、奴の両足を斬り落として頬を串刺しにしてくれ」

「……分かりました」

 噴火を待つマグマのような低く押し殺した声を返したご先祖ちゃんは、バタバタと足掻いていた奴の両足を一刀の下に切断し、刀身の三分の一が床に埋まるほど強く聖剣を奴の頬に突き立てる。  

 遮られてくぐもった声を上げるクイーンを黄金に染まった目で冷ややかに見下ろしていたご先祖ちゃんは、傷口が広がるように大きく捻りながら剣を引き抜く。

 これで逃走はもとより、インナーマウスや酸の攻撃も封じる事が出来たはずだ。

 痛みでさらに暴れるかと思われていたクイーンだが、小さく声を上げるだけで動こうとしない。

 今のでダメージが限界に達したのか、それとも観念したのか。

 どちらにしても、傷口から酸を撒き散らされないのは助かる。

「セイバーちゃん。悪いけど、これで(こら)えてくれ」

「わかっています。ここで怒りのままに奴を討っては、命を懸けたグリフレッドに申し訳が立たない」

 鉄面皮に感情をまったく感じさせない声で、ご先祖ちゃんはこちらに言葉を返す。

 これも努めて冷静でいようとする本人の努力なのだろうが、倒れた相手に容赦なく剣を振り下ろす様を見れば、どれだけ怒り狂ってるかは分かるというものだ。

「計画通りクイーンは確保した! 後はこいつが呼ぶザコを始末するだけだ! 持久戦になるから気合入れろよ!」

 少佐の激を背に前を向けば、ワラワラとこちらに殺到する虫共の姿が目に入る。

 そんじゃあ、もう一踏ん張りといきますか。

 

 クイーンを確保して2時間が経った。

 猛烈な勢いで襲い掛かってきたエイリアン共も一時間もすればその勢いに陰りが見え、三十分前には数は疎らに、10分前になるとついには現れなくなった。

「どうやら、打ち止めのようだな」

「やれやれ、ようやく終ったかよぉ……」

 全身傷だらけながらも何事も無いかのように葉巻を吹かす少佐と、傷らしい傷もないクセにへたり込む美猴が対照的だ。

「それで、こいつはどうするんだ?」

 アーラシュさんが指差したのは瀕死になったクイーンだ。

 今までロクな治療もしていなかったのに生き残っているのは流石だが、兵を呼ばなくなったのならば用は無い。

 では、速やかに次の使い方へと移行する事にしよう。

 ん、外道だと?

 なんとでもおっしゃいなさい。

 こいつ等が異常繁殖する事を思えば、その程度痛くもかゆくも無い。

「セイバーちゃん」

 少し離れた場所で警戒を続けるご先祖ちゃんに声を掛けると、彼女は仮面のごとき無表情で振り返る。

「なにか?」

「ここはもう大丈夫みたいだ。こいつの始末、付けるか?」

「何故、私にいうのです?」

「今回の戦いで犠牲になったのはザ・ニン……じゃねーや、『サー・グリフレッド』だ。今はどうであれ、上司だったあんたには仇討ちの権利があると思う」   

 こちらの言葉に小さく頷くと、ご先祖ちゃんは聖剣を片手にクイーンの前に立つ。

「ピクト人の女王よ。虜囚(りょしゅう)の身となり民を討たれた事、さぞや辛いだろう。だが、これも敗れし王の宿命。その事を胸に刻んで逝くがいい」

 振り下ろされた聖剣は狙い違わずに地に伏すクイーンの首を薙ぎ、僅かな体液を振りまきながら首は床に転がった。

 首を刎ねてこの程度だとすると、こいつは失血死寸前だったのかもしれんな。

「これで一応のカタはついたな。そんじゃ、地上に戻るぞ」

 軽自動車並みの大きさはあるクイーンの首を肩に抱えて声を掛けると、座り込んでいた美猴が立ち上がって空いた肩に手を当てる。

「何をしているんだ?」

「こいつは瞬間移動が使えるんだよ。こいつに触れてれば地上まで一瞬で運んでもらえるぜぃ」

「ほぅ、そいつは便利だな。だが、そんな能力があるのなら直接ここに乗り込んだら良かったんじゃないのか?」

「この技の欠点は転移する先の様子が分からない事なんです。だから下手に使うとトラップルームや迎撃準備が完了した敵の前、って事も無いわけじゃない」

「なるほどな」

「ま、よっぽど切羽詰っていなければ、敵陣に入るのは自分の足が一番ですよ」

「違いない」

 大仕事を終えて気が緩んだのだろう、話に乗ってきた少佐と言葉を交わしていると、ニンジャ先輩の自爆跡を見つめているご先祖ちゃんが目に入った。

「セイバーちゃん、地上に帰るぞ」

 こちらの声にゆっくりと振り返るご先祖ちゃん。

 なんか目が死んでるし、物凄い悲しそうなんだが。

「……グリフレッドは、彼の騎士は獅子王である私に召喚されたといいました。なのに、彼は私を庇った。どうしてなのでしょうか?」

 あぁ、原因はその件か。

 思えば、ご先祖ちゃん的にはここで元部下を二人亡くしてる事になるんだよなぁ。

 でもさ、その手の話題を俺に振るのは止めてもらえないだろうか。

 元凶の一端だから、コメントとか無理ゲーすぎます。

「今までスルーしてきたんだが、そろそろ教えてくれ。どうして彼女は、あのジャパニーズニンジャを騎士と呼んでいるんだ?」

「その辺はややこしい事情があるんです。とりあえずは円卓の騎士特有の呪いと思っていてください」

 ご先祖ちゃんには聞こえないように気をつけながら、シェーファー少佐達を納得させる。

「あ~、なんだ。上手くは言えんが、目の前で知り合いが危ない目にあっていたら、助けちまうのが人間って奴じゃないか?」

「人間、ですか?」

「ああ。だから、そのグリフレッドって奴も聖都の騎士じゃなくて、人間として動く事を選んだんだろうさ。……多分な」

「……そう、ですね。そうであったなら、私も嬉しい」

 そう呟きながら、ご先祖ちゃんは微かに笑みを見せた。

 答えに窮する俺に代わってアーラシュさんがいい話風に持って行ってくれた。

 ありがたい、本当にありがたい。

 クーの兄貴に並んで『兄貴』呼びしたい人だ。

 内容に関しては、ニンジャ先輩だと絶対に裏があると思うが、今は黙っていよう。

「セイバーちゃんも気が晴れたなら俺に手を当ててくれ。色々と時間が無いんでな」

「わかりました」

 気まずい案件をスルーした俺は、左手に感じる微かな違和感をあえて気にせずに、ヴァーリを指標に瞬間移動を行った。

   

 地上に戻った途端、俺達は上にいた面子に囲まれる事になった。

 こっちはヴァーリに理不尽な文句を言われたり、玉藻に抱きつかれたり、とドタバタ。

 ご先祖ちゃんは立香嬢やマシュ嬢、アーチャーに慰められていた。

 まあ、この特異点は獅子王といいヴァーリといい、ご先祖ちゃんへのストレスがキツいからな。

 カルデアの癒し枠にしっかりケアしてもらうべきだろう。

 やはりというか、こちらも結構な数のエイリアンに襲われていたようだが、俺のパクリにハッスルしたヴァーリによって全て消し炭になったそうだ。

 聞けば『覇龍』まで使ったというのだから、完全にオーバーキルである。

 次にクイーンの頭だが、死ぬほど嫌そうに術を掛けてくれたメディア女史の話では、現状では虫の生き残りは感知できないそうだ。

 俺達の二時間の頑張りが功を奏したのか、それともヴァーリのハッスルのたまものか。

 まあ、この土地からエイリアンの脅威が無くなったと思えば、どちらでもいいだろう。

 で次の行き先だが、呪腕さんの勧めや美遊嬢が世話になってる事もあり、山岳地帯の村落にお邪魔する事になった。

 呪腕さんの案内の元、カプセルハウス等々を手早く片付けて出立する一行を俺は見送った。

 ちょっとした野暮用があるから、もう少しここに残る事にしたからだ。

 玉藻は特に渋ったが、用が済めば瞬間移動で追いつくと説得して先行してもらった。

 来た時よりも焼け焦げた跡と破損が目立つ遺跡のお膝元、全員が完全に見えなくなったのを見計らって、

「もうみんな行ったんで、出てきても大丈夫ですよ」

 俺は物陰に潜んでいる気配に声をかける。

 すると、そこに現れたのはクイーンへの自爆攻撃で果てたはずのザ・ニンジャ先輩だった。

「よくぞ見破った、というべきか。……何時から気付いておったのだ?」

「クイーンの尻尾攻撃を受ける寸前からですね。ご先祖ちゃんを助けてすぐに、空蝉の術か何かの応用で人形と入れ替わったのでしょう?」

「然り。あれは特製の火薬人形でな、ああいう用途の為に作り出した。しかし、何故見破れたのだ?」

「そりゃあ、腹をブチ抜かれたのに吐血してませんでしたから。で、起爆や細かい動きは気配を絶った上で人形繰りで対処していたと」

 たしか、サタンクロス戦でもやってたよな、この人形トリック

「気配に関しては、術で人形に移しておいたのだ。しかしこうも容易く見抜かれるとは、修行をやり直さねばならんな」

「いや、俺や呪腕さん以外は気付いてなかったみたいだから、気にしなくていいと思いますよ。ところで、どうしてあんな手の込んだ真似をしたんです? ニンジャ先輩ならあの状況でも簡単に躱せたでしょうに」

「なに、大したことではない。こうやってお主と対峙するのに、『円卓の騎士グリフレッド』が邪魔だったのよ」

「だから、サー・グリフレッドはあそこで殺して、身軽になったと?」

「本来であれば斯様な事をする必要は無かったのだが、あそこで騎士王と出会ってしまったからな。彼の者がいれば、この立合いを邪魔してくるであろう?」

「まあ確かに。なら、あんな忠臣の演技しなくても良かったのでは?」

「入る時も出る時も余人に違和感すら残してはならぬ、それが潜入任務というものよ。その為ならばどのような事でも行うし、何でも利用する。忍の最大の敵とは、他者ではなく己の怠惰と妥協なのだ」

 なんというプロフェッショナルな精神だろうか。

 同じ悪魔六騎士でも、偽る気すらさらさら無い輩とはエライ違いである。

 腕が六本あるベディヴィエールと性別偽証のガレスには、あの人の爪の垢でも煎じて飲んでもらいたい。

「さて、そろそろ始めるとするか。お主も忙しい身、拙者と無駄口を叩いている暇はなかろう」

「お気遣いどうも。けど、手加減はしませんよ」

「望むところよ!」 

 言葉と共にニンジャ先輩は地を蹴る。

 忍特有のバネでこちらの頭上高く飛び上がった先輩が選んだ初手は、急降下式のドロップキック。

 巧みな体術で軌道を修正したそれは、人体を一本の槍と化してこちらの脳天へと飛来する。

 だが、こちらとてその程度で食らうほど甘くは無い。

 先輩の爪先がこちらの髪に触れる寸前で人一人分の距離を飛びのいた俺は、目標を失い地面に着地しようとするその腹部に横蹴りを放つ。

 だがしかし、捉えたと思った蹴りはその衝撃を伝える事は無かった。

 なんと相手は足刀が自身の腹を捉えるよりも早く、両手をこちらのふくらはぎについて足の上で倒立したのだ。

「チッ」

 すぐさま足を引くが、一寸早く腕の力で跳躍する先輩。

「食らえ! 彎月(わんげつ)手裏剣刺しッ!!」

 そのまま空中で前転した先輩は、回転と落下のエネルギーを込めた蹴りを放ってくる。

 しかも、足袋に手裏剣を挟むというオマケ付きでだ。

「シッ!」

 だがしかし、真剣相手に闘う事に慣れている身としては、この程度では怯む理由にならない。

 躱すのではなく、一歩踏み込んで打点をズラすと同時に腿の部分の布に手をかけた俺は、空中で体勢を崩した先輩の右手を取りそのまま地面に叩き付けようとする。

「甘い!!」

 掛け声と共にブレる視界、その後には風切音と浮遊感が全身を包む。

 順逆自在の術

 超スピードで相手と体位を入れ替える事で、技の掛け手と受け手を入れ替える超高等技術だ。

 軽く舌打ちをしつつ腿の裾を持った手を脚力で引き剥がし、腕を引く相手の力を利用して足から地面に着地する。

 とはいえ、敵も然る者。

 投げが失敗したと見るや否や、掴んでいた手を捻って関節を捕りに来る。

 両腕を相手の腕に絡みつかせる事で関節を極め、そこに全体重を乗せる事で肘を破壊する『(やわら)』に派生する前の古流忍術が一つ『袖絡み』。

 並の相手ならこれで腕一本だが、生憎とこっちは普通の鍛え方はしていない。

「───ふんっ!!」

 両足を砂地に噛ませて捕られた右腕に力を込めると、全身で肘を挫こうしていたニンジャ先輩の動きが止まる。

「我が葛を力で破るかっ!?」

「悪いッスね。俺の骨はガンダリウム合金より丈夫なんですよっ!!」

 そのまま腰の回転で空いた左のショートフックを無防備な相手の脾臓に叩き込む。

「ぐはぁっ!?」

 苦鳴と共に拘束している力が緩んだところで右手を引き抜くと、その掌を相手の顎に乗せると同時に足を払う。

 相手の身体が宙に浮いたところで左手の氣勢で足を、右手の氣勢で首と顎を捕らえてそのまま空中を二周三周と回転させる。

 そして、相手の平衡感覚が鈍ったところで、遠心力と落下スピードを込めて後頭部から地面に叩きつける。

 大南流合氣柔術が一つ『轟天殺』だ。

「~~~~ッ!?」

 痛みにのたうちながらも距離を取るニンジャ先輩。

 それを身ながら俺も再び構えを取る。

 さっきの轟天殺だが、地面が砂地なので威力が半減した上に、ギリギリのタイミングで後頭部と地面の間に手を差し込んでいた。

 あれでは決まり手にはほど遠い。

 案の定というべきか、ヘッドスプリングで起き上がったニンジャ先輩は、こちらへ向けて手裏剣を投げる仕草をする。

 空気を切り裂く音に飛びのくと、砂地に複数の刀傷が刻み込まれた。

 たしか、エイリアンの時に使っていた空気手裏剣とかいう技だったな。

 だが、遠距離攻撃はこっちにだってある。

「テュホン・レイジッ!」

 一歩踏み込みその場で大きく回し蹴りを放つと、その軌跡をなぞる様に竜巻状の衝撃波が発生する。

 それは放たれた不可視の手裏剣を全て飲み込んで、ニンジャ先輩に襲い掛かる。

「抜かったな! 疾風は忍の友よ!! 悪魔忍法『神風返し!』」

 ニンジャ先輩が竜巻とは逆の渦を描くように両手を回転させると、なんと放ったはずの衝撃波がこちらに跳ね返ってきたではないか。

「チィッ!?」

 咄嗟にガードを固めても数十センチは後退する俺の身体。

 衝撃波系の技は使えない事に内心舌打ちしていると、視界の隅を小さな鳥の羽が掠めた。

 素早く辺りを見渡せば、俺の周りを大量の鳥の羽が舞っている。

 水鳥の羽とザ・ニンジャ。

 その二つのキーワードが脳内で合致した瞬間、背中を走る悪寒と共にその場から離れようとした。

 しかし────

「逃しはせんぞ! 『忍法・業火羽輪の術』!!」

 先輩が目の前に浮かぶ羽に火をつけると、まるで導火線の様に周囲の羽を伝って炎が奔る。

 テュホン・レイジの残滓を遡るかのように、螺旋を描いて迫る炎。

「グレートホーンッ!!」

 食らいつかれる寸前、紅蓮の大蛇を拳圧で吹き飛ばすと、舞い散る火の粉の照り返しによって刹那の間、細く光るナニカが見えた。

 反射的に防御を固めると同時に、全身に絡みついて食い込んでいく極細の物体。

 これは……鋼糸ッ!?

「かかったな、これが忍法『蜘蛛糸縛り』の本来の姿よ」

 手の内にある小さなリールから伸びた鋼の糸を引き絞りながら、ニンジャ先輩は冷ややかな眼光をこちらに向ける。

「……なるほど。最初に見た時から無茶なロープの使い方をしてると思ってましたけど、本来は鋼糸術だったんですね」

「左様。ルールのある超人レスリングにはそぐわぬ殺人術故、あのような歪な姿となったのだ。だが、此度は野仕合、こちらも容赦せずに全力を振るうことが出来るわ」

 先輩が糸を操る度に締め付けが強くなり、鋼糸は深くこちらの身体に食いついていく。

 巧みに関節の稼動範囲を力が入らない位置に留めているうえに、拘束しているのが鍛え抜かれた鋼のワイヤーである事から、力ずくで引き千切ろうとすればそれより先に皮膚や肉が裂けてしまう。

 これは身の内に刃でも仕込んでいないかぎり、脱出は困難だろう。

 なんとか脱出方法を模索しつつ周囲に目を走らせていると、つま先が固い物にぶつかった。

 こいつを使えば或いは……やってみるか! 

「本来の蜘蛛糸縛りの前には、如何なる肉体も脱出は不可能! 観念せぃっ!!」

 鋭い声と共にさらに鋼糸を引き絞ろうとするニンジャ先輩。

 だがその瞬間、刹那の間だけ絡みついていた糸が(たわ)んだのを俺は見逃していなかった。

 順逆自在の術の応用で足元にあるモノと入れ替わった俺は、地を這うような体勢から思い切り地を蹴る。

「むぅっ!? あれは蟲の死骸!! おのれ、空蝉か!!」

「これでも一応忍の末裔なんで、アレくらい出来ないと妹にデカい顔されちまうんですよ!!」  

 寸断されたエイリアンの死体に驚愕の声をあげるニンジャ先輩との間合いを一気に詰めた俺は、その腕を捕ろうと手を伸ばす。

 しかし一瞬早く引かれた事により、俺の手は空を切ることになった。

「甘いな! 拙者の技をおぬしが知るように、お主の技も拙者は熟知している。そう易々と羅生門などという大技にかかりはせんぞ!」

 会心の笑みを浮かべるニンジャ先輩だが、その表情はすぐに凍りついた。

 何故なら技を躱されて隙だらけの筈の俺が、瞬間移動で後方に移動した上に特大の氣を纏って突っ込んできているからだ。

「羅生モォォォォォォォォンッ!!」

「それの何処が羅生も───グワーーーーッ!?」

 どっからどう見てもサイコクラッシャーな体勢でニンジャ先輩のドテッ腹に突き刺さった俺は、そのまま先輩の身体を弾き飛ばして十数メートルほど滑空した。

 背後を見れば、氣の放出によって砂地が焼け焦げている。

 『羅生門クラッシャー』

 羅生門を外した恥ずかしさを誤魔化す為にサイコクラッシャーで相手を抹殺するという、どっからツッコんでいいのか迷う技である。

 仕入先は言うまでも無いだろうが『羅将モン』

 許されるならば永久に封印したい技であった。

「ニンジャ先輩、生きてますか?」

 ボロボロの状態で横たわる先輩に声を掛けると、彼は何故か清清しい笑みを浮かべている。

「ふふっ……。よもや、拙者が化かしあいで敗れるとはな。認めよう、お主が将軍様の後継を名乗るに恥じぬ漢である事を……」

 死亡防止措置の光に包まれたニンジャ先輩は、そう言い残してこの世界から退場した。

 ありがとう、ザ・ニンジャ先輩。

 ネタ技で倒してゴメンナサイ、ザ・ニンジャ先輩。

 ともかく、これで悪魔六騎士の一角を崩すことが出来た。

 残りが5人もいると思うと頭痛がするが、武者修行である事を思うと仕方ない。

 しかし、思った以上に翻弄されたな。

 流石は本職の忍者というべきか、技の起こりや殺気の隠蔽が滅茶苦茶巧かった。

 同じ忍者だったサタンクロスはともかく、初見で彼に勝ったブロッケンJrは素直に尊敬するわ。

 さて、あまり遅くなると不審がられるだろうし、皆と合流する事にしよう。    




 ここまで読んで下さってありがとうございます。

 かなりの巻き展開でしたが、エイリアンとニンジャの対処が終了しました。

 あとは初代様をカルデアに任せて、モードレッドの襲撃を済ませた後は聖都攻めと相成ると思います。

 英霊剣豪のシナリオと魔界転生の影響が凄まじく、サムスピの天草出そうかと思ったのですが流石に没にしました。

 今でもジュリーの演じる天草は卑怯だと思います。

 さて、今回は用語集は無しで、ここまでとさせていただきます。
 また次回でお会いしましょう。
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