ストライクウィッチーズ Assault Warfare 作:t5m5k2
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―――1944年春―――
穏やかな北海の上空を、軽快なプロペラ音を奏でる4人のウィッチと、それをかき消すような轟音を響かせる1機の戦闘機が飛び過ぎていく。
F-15SEⅡのコックピットでレーダーディスプレイを注視していたアレンは、反応が出たネウロイを確認し、無線のスイッチをオンにした。
「アクイラより報告。敵機が11時より低空で接近中。数は6、タイプは不明。」
『わかった。全員、戦闘用意。始まるぞ。』
それに答えるように、すぐ右で飛んでいる坂本が指示を出す。
「会敵まで、およそ5分。おっと…敵機散開、2機ずつ3グループに分かれた。」
『よし。私と宮藤は右を。バルクホルンとハルトマンは左、少佐は正面を頼む。いくぞ!』
「「「了解!」」」
左右のウィッチらが散開するのを確認したアレンは、コンソールに触れて武装解除のボタンに触れた。画面上に『MASTER ―ARM―』の文字が浮かび上がり、被るヘルメットのHMDに円形のターゲットシーカーが現れる。その中には、まだ肉眼では見えないネウロイを表す四角いマークも映し出され、捕捉可能のサインが出ていた。
もう一度兵装コンソールを操作してAIM-120D―――AMRAAMを発射体制に移行させる。
『コア発見!すべての機体にある。タイプは…いつもの偵察型だな。』
『う~ん…できるかな…。』
『いくぞ、ハルトマン!』
『そんなに急がなくていいじゃん…。』
坂本の報告をきっかけにポンポンと弾む会話を聞き流し、アレンはネウロイのマーカーが変わるのをじっと待った。
そしてマーカーが点滅し、ピーという電子音が鳴った瞬間、サイクリックレバーの発射ボタンをぐっと押し込んだ。
「FOX3、発射。」
座席の下からゴトンとミサイルが離れる振動が伝わり、一瞬遅れて2発のミサイルが飛び出していく。噴煙を確認したアレンは、爆発の破片をインテークで吸い込まないように、機体を上昇させる。まっすぐ突っ込んでくるネウロイは、音速以上のミサイルに気付いたものの、よけきれなかった一体が消滅した。
座席の下からミサイルが爆発する衝撃を感じ取ったアレンは、コンソール上のマーカーが『HIT』の文字を表示するのを確認した。だがもう一発のミサイルは『LOST』を表示していた。
「外したか…。」
ネウロイの頭上を通過してしまったアレンは、やや大きな弧を描いて追撃に入った。
『一機撃墜!』
『じゃ、2体目はもらうよ~っと。』
『宮藤、落ち着いて狙え!』
『りょ、了解です!』
ネウロイがどうやってミサイルを回避したかは分からないが、それを考えるのは後回しにする。体にのしかかる力を堪え、ネウロイをHMD越しに睨みつける。アレンのF-15SEⅡに気付いたのか、ネウロイの先端がこちらを向く。その光景をみたアレンは、旋回する機体を降下させ、海面ぎりぎりまで高度を落とした。直後、レーザーがF-15SEⅡのいた空間を切り裂く。
急激な機体の降下を感知したコンピュータが『Pull Up』と警報を発する。その時には、アレンは再びネウロイを通り過ぎてしまっていた。
(ちょこまかと…!)
いくら高機動の第5世代戦闘機と言えども、ジェットエンジンによって生み出される速度と機体の重量は、第2次世界大戦の零式艦上戦闘機やF6Fなどといったプロペラ機と比べれば2倍や3倍も多い。つまり失速速度もジェット戦闘機の方が高止まりし、結果として、最低旋回半径も大きくなる。
もしアレンの駆るF-15SEⅡとレシプロ戦闘機が機銃による格闘戦を行うと、十中八九レシプロ機が勝利する。かつて太平洋でゼロ戦とF4Fが戦ったとき、旋回性能で長けたゼロ戦が多くの勝利を収めたときがあったように。
ネウロイもまた、第2世界大戦で登場した兵器のコピーが多い。格闘戦は不利であることは、容易に理解できる。
(だが…)
ここで性能を発揮しなければ、生きていくことができない。自らの力を示さなければ、ネウロイに、同じ人間に食われてしまう。
『レスリー少佐!大丈夫か!?』
「問題ない。任せろ。」
追い縋るネウロイのレーザーを回避しながらバルクホルンの呼びかけに応答したアレンは、ひとつ深呼吸をしてから、レバーを握る手に力を込めた。
(後方、右上…至近距離…)
キャノピーのフレームに取り付けられた鏡でネウロイの位置を把握する。
再びネウロイのレーザーがすぐ脇をかすめ、すぐ下にある海面に突き刺さって海水を蒸発させる。
(振り切ってもレーザーで焼かれたらお終いだ)
そう考えたアレンは、機首を引き上げて高度を取り、回避の準備に入る。ネウロイもF-15SEⅡを追尾してくる。ネウロイが背後に回るのを確認したアレンは、息を詰めてスロットレバーを押し下げ、同時にサイクリックレバーを引き上げた。
後方への推力カットと逆噴射、急激な機首上げによって、F-15SEⅡは一瞬空中に制止―――コブラ・マニューバを繰り出した。急減速したF-15SEⅡのすぐ下を、機動についていけなかったネウロイが通過する。
再びスロットルを元に戻して推力を回復させたアレンは、ネウロイの追撃へ入った。急旋回して戻ろうとするネウロイの背後に迫り、機関砲を打ち込む。高速で飛び出す弾丸でネウロイに穴が開き、コアを粉砕する。一瞬光ったネウロイが結晶化するのを確認したアレンは、ウィッチ4人のもとへ戻った。
「目標2機、撃墜。」
『こっちも完了だ』
『同じく、撃墜。』
すでに合流している4人の隣へ機体を滑り込ませる。
『無事か、みんな。』
『なんともないよ。』
『同じく。』
『大丈夫です。』
『少佐も無事か?』
追いかけられたところを見られていたらしい。
「無傷だ。」
『それはよかった。よし、帰還しよう。』
坂本が安堵の表情を作り、5人は基地への空路を進んだ。
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(マロニー大将の部下達…いったい何を考えているのかしら)
管制塔で出撃したアレンや坂本たちの帰投を待っていたミーナは、ふと思った疑問について考えていた。数日前、501基地にやってきたクロウリー中尉ら6名のことだ。
着任報告の際にクロウリーがアレンに向かって放った視線が忘れられなかった。必ず聞き出してやる、と表面には出さない意志が込められていた。あれほどまで挑発するかのような態度をとっておきながら、今はまだ何も行動を起こしていない。
(何もせずに帰るわけはないわ…)
ミーナを始め、ウィッチという存在を毛嫌いするマロニーである。そんな時にやってきた未来の戦闘機とパイロットは、マロニーには好都合だろう。
遅かれ早かれ、レスリー少佐本人に接触するはず。どんな手を使ってくるのか。
渡そうとしない少佐たちを無理やり黙らせて強引に機体を解析する?
戦争に勝つためだとうまく吹き込む?
マロニーがとりそうな手段をあれこれと考えていく。考えるだけで鳥肌が立った。どれもあり得そうで、ミーナは思わず身震いした。
同時に、レスリー少佐と戦闘機という2つで1つの存在が、想像以上にもろくて崩れやすいものであることに気付く。
ウィッチがネウロイと交戦する距離、つまりは機関銃の射程距離以上から攻撃できるミサイル。
音速を超える速度を軽々とたたき出すエンジン。
二つ目の頭脳とも呼べる高度なコンピュータ。
あの戦闘機があるかないかで戦況が大きく変わることは、誰にでも分かる。数が多ければ多いほど、ネウロイを壊滅させられるかもしれない。
ただ一方で、魔力も持たない人間が操る戦闘機が投入されれば、ウィッチという存在はどうなってしまうのか。仮にウィッチが不要となれば、その後自分たちはどうすればよいのか。
決して魔力の無い人を見下している訳ではない。すべての人が平等になれれば問題ない。世界のウィッチたちが、ただの女性にもどったら、世間はどんな視線を送ってくるのだろうかと、ミーナは不安を覚えた。
未来から来たパイロットが、どちらに微笑むのか。無意識のうちに、机の上に乗せた両手が握られていった。
その時、目の前の通信機器のスピーカーのランプが灯った。出撃したアレンたちからの通信だ。
『こちら坂本。敵部隊の撃墜に成功。これより帰投する。』
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『少佐、もうネウロイには慣れたか?』
平行して飛ぶ坂本が、こちらを向いて問いかけてくる。
「問題ないくらいに。」
アレンはバイザーと酸素マスクを外して答えた。
『そうか。まだ2、3回目だと言うのに、流石は少佐だ。』
『慣れが速いのは、やはり実戦での経験がそれなりにあるからか?』
今度はバルクホルンが尋ねた。
「多分そうだな。パイロットになって10年くらいたつか…。いろんな作戦に参加したし、毎回同じ敵がくることはないからな。」
経験が実力を証明する。誰かが言ったその言葉通り、こういった戦闘も、簡単には測れない経験値という物があるのだろう。
『さっきの急減速さ、すごかったけど、敵に後ろ取られた時はいつもしてたの?』
ハルトマン―――なぜかゆるやかなバレルロールを続けている―――が尋ねる。
「いや、やっぱり後ろは取られないように努力している。まぁ、取られた時は仕方なくしてるな。」
『一々後ろは取らせないの?そうした方が簡単じゃん。』
簡単だと言う根拠がどこにあるのか…相変わらずのほほんとした顔のハルトマンに聞きたかった。代わりにバルクホルンが口をはさむ。
『ハルトマン…そんなわけがないだろ。危険すぎることが分からないか?』
『あぁ、そっか…。』
「毎回同じことしてたら、敵だって先手を打つようになる。そのためにも、なるべく接近戦は避けてるんだ。」
『回避の技は、さっきの機動だけなのか?』
腕を組んだ坂本が問う。
「もちろん他にもある。さっきのはコブラって言う機動。他にもループやクルビットとかも使うが…。」
『どんな飛行なんですか?そのループとかクルビットって。』
キラキラした目を向けてくる宮藤が眩しい、と思った。期待に応えてやりたいが、あまり期待に無理をさせたくもない。
「見せたいけど…すまないがまたの機会にしてくれ。戦闘に出れば見れるかもしれないな。」
『実践ですか?』
「何もないところでしたら機体にガタが来てしまうからな。」
わかりましたと宮藤が答える。実戦ということは戦闘中だと言うことだが、彼女はそれを分かったのだろうか?楽しみに思っているのか、彼女の口元が緩んでいるように見えてしまう。
「実戦や慣れと言えば…少佐や大尉たちも、これまで多くのネウロイを撃墜してきたのでは?」
ふと思ったアレンは尋ねた。
『私の場合は1937年からだから、7年と少しくらいだ。レスリー少佐の言うことと似て、多くの作戦に参加したな。』
『私も…そうだな。撃墜数はもう250機を超えているし…。ハルトマンも200機を超えている。』
カールスラント出身の二人の撃墜数を聞いて耳を疑うが、それが彼女らがエースである証拠なのだ。『へぇ』と感心したように声を漏らす宮藤に、自分はどうなのかとアレンは問いかけた。
『わ、私ですか?あ、私は、その…。』
『宮藤はまだ入ったばかりでな。まだ10機に届いたかどうかといったところだ。』
そうだったのか、と驚き半分の声を出す。というより、ほとんど経験のない宮藤を出撃させて良いものなのかと疑問に思う。まさか『兵士は戦場で花開く』というんじゃないだろうな。いや、ヤマトナデシコである少佐なら―――
『まぁ宮藤はこれから伸びるだろう。訓練も大切だが、実戦も訓練の内だ。ウィッチは戦場で開花するものだ!ハッハッハ!』
やっぱり言うんだ、とアレンは心の中で呆れた。軽快に笑う少佐と、なにやら冷や汗のようなものを流す宮藤。その光景を、カールスラントの二人も見ていたようだ。不意にバルクホルンが宮藤へ声をかける。
『あまり邪魔ばかりはするなよ、新入り。』
『え、あ…。すみません…。』
『トゥルーデ、怖いよ~。』
あまりに暗い声色に、アレンはびっくりしてバルクホルンに振り向いた。宮藤もおろおろとする。自信を出させるために励ましの言葉でもかけるのが流れだと思う。相棒であるハルトマンの反応にも、まるで興味などないというようにうるさいとだけ答える。
何をもって宮藤にきつく当たったのかとアレンは考えた。帰ってから話でも聞くか、と結論を出したアレンは、残る基地までの空路を4人と共に飛んだ。
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帰投したウィッチたちが滑走路へと滑り込む。ミーナはそれを静かに見守っていた。しばらくして、坂本から無線が入る。
『ミーナ、着陸完了だ。レスリー少佐に伝えてくれ。』
「分かったわ。お疲れ様。」
坂本からの無線を聞いたミーナは、回線を切り替えてアレンへ話しかけた。
「レスリー少佐、準備できたわ。着陸を許可します。」
『了解。マニュアルチェック…ギア、ダウン(ピ―――)。おっと?』
着陸前のチェックらしい、とミーナが思った瞬間、無線の向こうで警報が鳴った
「どうしたの?」
反射的に問いかける。F-15SEⅡの構造などほとんど知らないが、妙に耳に刺さる警報は、不安を感じさせる音だった。
無線の向こうで何かを操作している様子のアレンは、しばらくしてぽつりとつぶやいた。
『主脚が故障した…?』
書きたい話まで到達せず…。まだまだ時間がかかりそう。
ですが!もう少し待っていただけたらと思います!