ストライクウィッチーズ Assault Warfare 作:t5m5k2
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第2滑走路に片足が出ないまま―――正確には片足を支えてもらって―――着陸したアレンのF-15SEⅡは、その日のうちに故障原因が発見された。今は主脚も正常になり、その機体は格納庫の屋根の下にたたずんでいた。
カタログで公表されているF-15SEⅡの空虚重量は16トン弱。そこにミサイルや機銃弾、燃料を搭載すれば、20トンを軽く超える。そう考えると、今こうして駐機しているだけでも、3本ある主脚には相当な力が働いている。着陸時には倍以上の重量が掛かっているとも言われる。
自機の傍らにいたアレンは、ポツリポツリと考えた後、F-15SEⅡを見上げながらVTOLで着陸して正解だったと痛感した。今更ながら、嫌な冷や汗が垂れそうになる。
次にアレンは、後ろにいたベイリーに振り返った。彼が持っているトレーに乗せられた物体を見る。
「この箱状の物が、脚部を展開・格納する際に作動するアームにとりつけられていた、と…。」
その箱状の『異物』は、各辺10センチ程度の箱だった。
「そうです。」
アレンが確かめるようにつぶやき、ベイリーが静かに答える。
「アームとアームの間に挟まるように取り付けられていたので、物理的に展開ができないようになっていました。」
「それをセンサーが異常だと感知して作動しなかったのか…。」
ベイリーと共に点検をした一等兵が、ジェスチャーを交えて付け加える。アレンは深いため息をついた。
ネジもなく中は開けられず、異物は頑丈な作りだった。しかしきちんとした箱ではなく、ただ粘土をまとめたような雑な外見でもある。
「コードやボタンもないみたいだし、爆発物でもなさそうね。」
ノーマッド63機長こと、ディアナ・エンデン大尉も異物を眺めながら言う。
「時限式や無線式も考えにくいわ。どの国でも、まだ導入された話はないし…。」
報告のため、と見に来ていたミーナが呟く。
コードや配線、スイッチの類もなければ、爆発物とも考えにくい。遠隔操作式だとしても、この時代に遠距離から任意で起爆させられる装置があるかも微妙だ。
「中身が何なのかも知りたいが…。」
「誰が仕掛けたかも解明しないと。狙いは何にせよ、危険だわ。」
アレンの言葉を補うように、ミーナが呟く。いつになく厳しい表情のミーナを見遣り、アレンもそうだなと肯定する。
その直後、
「少佐ぁ!コソ泥がいたぞ!」
と、勢いよくハンガーの扉が開かれた。同時に男の声が響く。
その場にいた全員が振り向くと、大股で歩いてくるゴーストと、濃い茶色の服を着た兵士、そしてその兵士の肩を掴んだローチがいた。
「どうした?」
「この兵士が、少佐の部屋に忍び込んでいました。」
アレンの問いかけに、ローチが興奮気味の声で答える。
「ブリタニアの軍服じゃないか。」
連れてこられた兵士が、ローチの拘束から解放され、床に転がり込む。その姿を見ていたベイリーが、来ている服がブリタニア軍の物であることに気付いた。
「少佐の金を取ろうとしていたんだ。部屋まで帰ったら、たまたま見つけました。」
「ち、違う!そんな―――グフッ!」
ローチの説明を否定しようとする兵士の腹に、ゴーストの蹴りが入る。
「よしよし黙ってろ。ローチ、発電機とコード、それと金属片二つ、持ってきてくれ。」
「いや、そりゃダメ。その方法でロハスを半殺しにしたら、何も言わなかったこと覚えてないんですか?」
「じゃ手加減してやるさ。」
二人の会話から、どうやら拷問でもして本当のことを言わせるつもりらしいと気付く。
アレンは、言われたものを取りに行こうとしたローチを引きとめた。
「痛めつけなくったって大丈夫だろ。」
「嘘を言うかもしれませんよ?」
「嘘でも本当でも、今更取られて困る物なんか置いてない。」
「いやぁ、少佐は甘すぎる。」
こいつ…自身を含めた自分達6人が特殊な人間なこと忘れたか?
アレンはグッと顔を近づけてローチにささやいた。
(変なことしてみろ。周りの兵士からどんな反応が返ってくるか分からんぞ。)
(…。)
まだ完全な信用を受けているとは言えない。そんな時に、もし何もしていない兵士を拷問などで傷つければ、基地の兵士に限らず、司令部から何が返ってくるか分からない。
ローチが踏みとどまったのを確認したアレンは、連れてこられた兵士に向き直った。
先ほどローチから突き飛ばされた時と変わらずに座り込んでいる。
「とられて困る物はないはずだったが…。一応俺の部屋だし、何の用があったか聞くぞ。」
「…。」
「まず、お前の所属は?」
一般的なヨーロッパ人の顔立ちの兵士の顔には、まだ幼さが残っている。兵士は、一瞬だけアレンの顔を見、すぐに俯いた。
やっぱり電撃拷問が必要だ、とゴーストが呟く。やめろ、ともう一度釘を刺したアレンは、兵士の前にしゃがみこんだ。
「隠さなくてもいいだろ、別に命とるわけじゃない。それとも、どうしても言えないのか?」
「…。」
とはいいつつ、兵士がなぜ部屋にいたのかは大体予想がつく。黙り込んでいる兵士から視線を外し、兵士を睨んでいたミーナを見上げる。
「中佐、俺達の部屋がある士官宿泊棟は、基地の兵士たちが入れなくなってるはずだったか?」
「えぇ、そうよ。入るには、連絡通路の警備に顔を見せないとならないわ。」
501基地内の宿泊棟は、大きく3つに分けられている。1つは言わずと知れたウィッチ用、2つ目は基地に勤務する兵士用、最後は短期的に派遣される兵士や士官が泊まる臨時用だ。ウィッチ用宿泊棟は、誰もが予想できる理由で、残りの2つとは遠い位置にある。当たり前のことだ。2つ目3つ目の棟は、ほとんど一体化してはあるものの、間は3つの通路でつながれているのみであった。ミーナの言う警備とは、その3本の連絡通路すべてに配置されている。
「仮に警備にあったとすれば、連絡が俺のところに来るはずだが、それは一切なかった。俺が部屋にいなかったとしても、連絡は俺のもとに来るはずということだ。」
この基地に来てから2週間弱。短い新仮住まいでの暮らしではあるが、それくらいのことは覚えている。
「しかし実際にはなんに連絡もなかった…。そうすると、誰にも知られず部屋に入れる人物はかなり絞られてくる。…つまり、同じ宿泊棟に寝泊まりする人間だけだ。」
一通りの推理を立てたアレンは、再びミーナに視線を戻した。
「今日の臨時宿泊棟の利用予定は?」
「少佐たちタスクフォース249の6人ね。それと司令部から派遣された新型ネウロイ調査班の5人よ。」
確認するつもりで訊いたアレンは、ミーナの言葉を聞いてしてやったりという顔を見せた。
「249部隊の一員なら、俺とゴースト、ローチの誰かが気づいてる。しかし誰も知らない。ということは…お前は調査班の人間ということになる。」
決定的な証拠を示し、自分の知るものではないと断言したアレンは、もういちど同じ問をした。
大鷲に狙われたウサギのように、兵士は深くうつむいた。
「もう一度聞く。お前の名前は?」
「コリン・ハーディング…上級曹長です。」
その口から小さく蚊の鳴くような声で、兵士は答えた。
「調査班に所属している、これも事実だな?」
「はい。」
事件をある一定の解決まで持ち込んだアレンは、安堵とともに事の厄介さを感じていた。
アレンの部屋に調査班のメンバーが忍び込んだことが明らかになったということは、F-15SEⅡのトラブルに、クロウリー達が関わっていることが濃厚になったということを意味するのだ。
アレンは、クロウリーと初めて顔を合わせた時のことを思い出して、唇をかみしめた。
(あの大将、相当欲が深いやつだな…。)
遅くとも早くとも、この世界の人間が、異色の兵器であるF-15SEⅡを模倣、あるいは入手しようとしてくるとは思っていた。この基地に来て数日のうちに、ブリタニア空軍の司令官、マロニー大将が視察に来た時も予感していた。だが…
(こんなに早く来るとは。)
と、対策を打たなかったことを後悔していた。どうやって機体の情報が流出しないようしなければならないのか…。
「ところでお前、なんで少佐の部屋に入ってたんだ?」
ひとりで深く考え込んでいたアレンをよそに、いつの間にか拷問用具を揃えていたゴーストが尋ねる。金属片の先端をこすり合わせて火花を散らしている姿を見たアレンは、思考を中断してゴーストから道具を奪い取った。アホか、ローチも何で手伝ったんだと注意したアレンは、しかしゴーストの問いに対する答えは、重要なものだと思った。機体情報を盗み出したかったのだろうが、部屋には着替えくらいしかない。
「パイロットの持ち物に、設計図などがあると思ったので…。」
とコリンは答えたが、アレンは唖然とした。
「それは誰の命令で?」
「ミック・クロウリー中尉です。」
この時代のパイロットはそれぞれの持ち物に機体の取説を張り付けているのかと聞いてやりたかった。
不正解、持っていないよ、という気すら失せてしまった。
その後、いくつかの質問をコリンに投げかけていたアレンだったが、調査班や目的を詳しく聞き出すことができず、コリンへの聞き取りを中断した。
日が変わりそうだったということもあったが、それより重要なことが絡んでいたのだ。
「少佐、明日の午前中、ブリタニアの司令部から監査官が来ることになったわ。午前9時、到着するそうよ。」
一度ハンガーから姿を消していたミーナは、戻って来るや否や、そう告げた。
「俺に?何を調べるって?」
「わかるでしょう?機体のことよ。マロニー大将が直接手を打ってきたのかもしれないわ。」
そう言うミーナの顔は、大丈夫なの、という言葉を声に出さずに表していた。
またしてもアレンは苦虫を噛み潰したような顔をした。最悪ともいえる状況になりつつある、と直感したのだ。
調査班までなら、新型のネウロイは出ていない、いったん帰れと誤魔化すことはできる。しかし、明確にアレン自身の調査を目的とされれば、逃げる場所はない。アレンやF-15SEⅡだけでなく、元141のメンバーやAUH-72までも調べられるかもしれない。そして最終的には、F-15SEⅡの設計データの受け渡しなどが待っているはずだ。
もしデータを渡せば、何が起こるかは言うまでもない。世界が終る、と言っても過言ではない。
「…わかった。」
明日、自分の身に何が降りかかるかを、想像したくなくても想像したアレンは、低い声でそう答えた。
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―――翌日―――
ミーナから予告された通り、司令部の監査官が到着した。
午前9時ちょうどに正門に到着した高級セダンをにらみ、プレゼントをもらうときだけ大人しくなる子供そのものだと思った。
停車したセダンから背広姿の男が降りてくる。アレンの180センチある背丈より高く、背広の上からでも肉付きの良さが見て取れる。監査官にしては十分すぎる体格の良さに、アレンは監査官がボクシングの選手ではあるまいかと疑った。
「ブリタニア軍司令部より来ました、ベネティクト・オリバーです。」
立派なもみあげと横に長い髭が特徴的な顔に、敬意と共に敵意も秘められていると感じた。
差し出された右手をミーナが先に握り返す。それに続いて、アレンも名乗りながら握り返した。
「タスクフォース249の隊長、アレン・レスリー少佐です。」
「よろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
二人はお互い目を見て握手を交わした。それぞれ、負けまいという静かで見えない火花が散ったかもしれない。
しかしその直後、監査官の言葉によって、アレンは一気に劣勢に立たされた。
「早速だが少佐。君にはネウロイとの共謀を図った疑いがかかっている。今回はこのことについて詳しく話を聞きたい。」
アレンは絶句した。隣でミーナが両者の顔を交互に見たのは、気のせいだっただろうか。
勝負は、まだ始まったばかりのはずだった。
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次話もなるべく早く投稿します。