ストライクウィッチーズ Assault Warfare 作:t5m5k2
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5メートル四方の監獄の個室には、簡素なベッドと便器だけが置かれている。錆が出ているベッドは、その上で寝返りを打つたびにギシギシと鳴る。
壁や床に使われているコンクリートは、天井からつるされた電灯の光を吸収するように黒く、中に入れられた人間から、地上の明るさを忘れさせるかのようだ。さらに、ひんやりとしたその表面は、空気中の熱を吸収し、部屋の温度を下げている。外がどんな天気か分からないが、地下となれば天気の良し悪しに関わらず、暖かさを感じられない。
監獄のある場所は、501基地。統合戦闘航空団、つまりストライクウィッチーズが駐留する基地だった。
そして監獄にいた男の首と左手首には、何者かの手で掴まれた跡が痣となってクッキリと残っている。さらに来ているシャツに隠れている腹にも、殴られた跡が残っている。
普通の痣なら数日で治るはずだが、この男の痕は、実に一週間もはっきりとしたまま残っている。ベッドに座ってそれらを眺めていた男は、やがてふぅとため息をついた。
「いつまでこんなクソ溜めに放置するつもりだ…?」
コンクリートの壁に吸収され、野太い声は思ったより反響しなかった。上体を起こして頭上の電灯を見上げると、その人物の顔が明かりに照らされた。老けてしわが出てきたが、まだまだ現役である男だった。
彼の名は、ベネティクト・オリバー。ブリタニア軍司令部の情報戦担当部に勤める監査官で、丁度一週間前に、この基地へとやってきた。
任務は、この501基地に最近配属された謎の戦闘機と、新設の部隊について調べ上げる事。必要があれば、メンバーを尋問することさえ許されていた。
そして司令部を発ってから、オリバーは一つの事がずっと気がかりだった。渡された資料に書かれていた戦闘機の特徴―――レーダーに映りづらいことや、使用するロケットにある誘導能力など―――が、明らかに現実離れしていたのだ。その技術・技法が、なぜ人間が持っているのか。そう思ったのだ。
考えても、彼にはその戦闘機のテクノロジーが信じられなかった。事象としてはあり得る者の、人間の手によるものではないと信じた。故に、オリバーは、彼を―――アレン・レスリーという男を、人間だと信じられなくなった。
ならばどう考えるか。玄関で立ち会ったとき、アレンと名乗ったものは、人の成りをしていた。そして男だった。しかし疑いを持ったままだったオリバーは、あの時ようやく、目の前の男がネウロイではないかと思ってしまったのだ。
もし、アレンと対面した時に彼をネウロイだと思わなければ、どうしていただろう。狭くて涼しい部屋にいる今であれば、その頭で冷静に考えられた。
再び状態を前に傾けて考えようとしたとき、鉄のドアの外から足音が響いた。すぐにオリバーの部屋の前までやってきたそれに、鍵を解除する音が加わる。そして扉が開かれ、ブリタニア軍の陸軍兵士が姿を現した。
「ベネティクト・オリバー、取調べを行う。」
二人の兵士が中に入り、手錠を見せる。強引につかみ出されるようなことはなく、オリバーは内心ホッとした。スッと立ち上がり、大人しく両手を差し出す。手錠をするのがお決まりの筈だからだ。
「いや、拘束はしない。そのまま来い。」
思わず下に向けていた顔を上げ、そう言った兵士を直視した。なぜ、とは言わなくとも、目で訴えた。しかし兵士は答えようとはせず、部屋から出るよう促すだけだった。
拘束されない理由を探ろうとしたものの、それを聞くのも気が引けたため、オリバーは促されるまま部屋を出た。するとそこには、また別の格好をした男が二人いた。ひとりは不気味な骸骨が描かれたマスクをかぶった人、もう一人は整った顔つきに茶髪の若い男だった。
部屋から出ながら二人を見ていると、茶髪の男が声を掛けた。
「貴方がどんな人間なのか、本当のことは知らない。だがそれなりの『予習』はしてきた。」
言いながらそっと近づき、肩に手を置かれる。名前を知らない目の前の男は、さらに続けた。
「拷問は好きじゃないが、嘘をついたときにはそれをする準備があることだけは覚えていてくれ。」
言い終わると、少しだけ微笑み、励まされるように肩を叩かれた。しばし男の顔を見ていたオリバーは、やがて基地の兵士に促され、廊下を歩き始めた。
取調べは、もっと拷問に近いものだという認識が、オリバーにはある。それは、オリバー自身が尋問をする人間だからだ。だが今こうして付き添われている兵士や話しかけてきた男の態度から、自分がこの後うける尋問が、本当に尋問なのかと思った。
しかし不安がなくなるわけではなく、オリバーは宙を見つめていた視線を再び下げて廊下を進んだ。
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「『予習』か。」
オリバーを見送ってからゆっくりと廊下を歩いていると、ゴーストがポツリとつぶやいた。
「受験勉強よりハードだった自信がある。」
それに対し、ローチは少し間を開けてから、比較対象を引き出して答えた。
「受験したことないくせに。」
「ふぅん…なら、カザフで凍りそうな中、ロシア兵の大群から逃げるくらい大変だった。」
「居なかったから実感が沸かねぇな。」
咄嗟に思いついた経験も、ここでは使い物にならない。
「…囚人救出作戦で四方から撃たれた時くらい余裕が無かった。」
「俺はその時コントロールルームで回線を弄り回してたな…って、きれいに俺のいなかったことを例えに出すんだな、お前は。」
「要はゴーストが居る作戦は有利に進むってことだ。」
「ほぅ、言ってくれるようになったか。」
「俺の給料が下がっちゃったから、微妙な気がしてましたよ。」
自信ありげな鼻息をゴーストが漏らす。お兄ちゃんうれしいよ、と冗談をつぶやく横顔に、ローチは冷めた答えを返してやった。
「ケッ、可愛くねぇな。」
「こんなごつい体した弟に『ちゃん』付けで呼ばれたら引くでしょ?」
「そうだな。」
ついさっきまであったオリバーの尋問については何も触れず、二人で話を続ける。やがて目的の取調室に来ると、そこにはマクタビッシュやエンデンの姿もあった。
この基地に来て最初に案内された部屋と同じだった。ここで、アレンはオリバーから尋問されたらしい。そのことを思い出したローチは、その部屋をもう一度、改めて見渡した。
鉄格子の向こうの部屋には、先ほど前を歩いて行ったオリバーと兵士二人が待っている。オリバーは椅子に腰かけ、相変わらず暗い顔をしたままうつむいている。
「レスリー少佐は?」
肝心の男が居ないことに気付いたローチが尋ねる。しかし誰かが答えるより早く、部屋の扉が開かれ、アレンが姿を現した。
「あ、俺が最後だったか。」
「そのようですね。」
後には坂本とミーナもいた。
「主役の登場だ。」
話によれば撃たれてしばらく意識がなかったらしいアレン。その彼に、もう無事なのかと聞くことを兼ねて声をかける。
「何言ってんだ、ローチ。お前がヒロインになるか?」
「勘弁してください。」
「しかし、本当に大丈夫なのか、少佐。体調は。」
ジョークを交わすと、今度はマクタビッシュが問うた。
「問題ない。それに、彼からの話は大切なものだ。直接聞いておきたい。」
アレンは鉄格子の向こうのオリバーに視線をむけながら答えた。
「では、取調べを始めますね。」
会話が終わるのを見計らっていたミーナが切り出す。アレンが代表してOKを伝えると、ミーナは取調室へと入った。妙に分厚い資料のファイルとペンがあまりにもアンバランスなことに違和感を感じつつ、ローチはオリバーに視線を戻した。
彼への取り調べで何が得られるのか。指令部所属のオリバーを探れば、およそ司令部が考えていることも吸い上げることができる。そのなかに、TF249についての情報があるか否かで、命に関わる問題になる。
つい先ほどまで冗談を言い合っていた彼らの間には、いつのまにか緊張と身長の空気が満たされていた。