ストライクウィッチーズ Assault Warfare 作:t5m5k2
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ベネティクト・オリバー―――自身を、ブリタニア軍司令部に勤める監査官だと名乗ったことは事実だった。さらにミーナが問い詰めると、空軍が管轄する情報機関、A-MI5の幹部であることが分かった。以前アレンのF-15SEⅡの後輪が破壊された事故に関わった、『新型ネウロイ調査班』も、同じくA-MI5に所属していた。オリバーの口から語られる証言を聞いていると、未だに彼らの事件を解決していないことを思い出した。
事件後、彼らはまだ501基地で監視されたままになっている。機体のメンテナンス―――部品を取り換えることはなく、無事に飛ぶことができた―――を続けているうちに時間を浪費してしまったため、ミーナも坂本もアレンも、彼らを尋問することができていなかったのだ。
司令部側は、調査班のメンバーからの連絡がなかったことを受けてオリバーを送りだしたという。帰ってこない愛犬を探しに行く飼い主と同じだと、アレンは聞きながら思った。調査班を送りだした時期には、アレンや249のメンバー、501基地のメンバーに気づかれずに機体を調べ上げるつもりだったらしい。確かに、リーダーのクロウリーをはじめ、わざわざネウロイの調査が目的だと言って乗り込んできていた。今となってはネウロイの調査はまともにしておらず、その目的が偽りだったことが立証されている。
対するオリバーはそんな姑息な真似をせず、正面切って聞き出しに来た。それが何故かと聞くと、オリバーは、自身の上官がそう指示したと答えた。
ブリタニア軍の軍人が語る上官―――特にオリバーのような監査官が支持を受けるとなると、考えられる人物は限られる。部屋の外で聞いていたアレンは、その顔を思い出し、心の中で、苦いものでも食べたかのような顔をした。
「おっと、思い出したか?」
ふと、隣にいたゴーストがつぶやいた。本当の表情は変化していないと思ったアレンは、思わずゴーストの顔に振り向いた。
「中佐が、だ。」
言われて再び部屋に視線を戻すと、露骨に嫌なものを見る表情のミーナが居た。いつもは温厚で笑顔を崩さない表情が、珍しく拒絶するような顔を作りだしている。間違えてオイルを舐めてしまったような顔だ。
彼女が想像したのも、おそらくアレンが思った人物と同じだろう。
「トレバー・マロニー大将ね…。」
部屋を仕切っている窓の向こうでミーナが呟く。
「やはり彼だったの―――」
「いや、違う。大将じゃない。」
「え?」
ミーナがため息とともに呟いたが、その言葉をオリバーが遮った。同時に、話がガラリと変わる。あきれ顔が、驚きの顔に変化する。アレンも同じだった。
「なら、誰から指示されたの?」
「ヒューバート・エース中将だ。」
将官か、とゴーストが呟く。ある意味予想通りだが、それでも階級がかけ離れた人間が相手になることに落胆した。軍隊であろうと民間企業であろうと、中階級以下の人間は、上司・上官の不正に気付いても正せない。アレンにとって、それが今回初めて遭遇する事態だ。
「そう…。中将から何を支持されたの?」
手元のノートへ記録を残しながら、ミーナが問う。
「例の戦闘機について、何でもいいから分かるものを知らせろと。調査班のメンバーが失敗した代わりだった。」
「方法の指示はあったのかしら?」
「特になにも。自由にしろと言われた。だから…、あんなことを…。」
オリバーの言葉の語尾は、少し震えていた。淡々と前を向いていた視線が、膝の上で組まれた手に落とされる。アレンに撃ったことを振り返り、後悔しているのかもしれない。しかし同時に、わざわざ殺してまで情報を盗み出そうとするか、と考えた。
日が浅いと言っても、基地の兵士や501部隊のメンバーとも顔を合わせている。異世界から来た未来の戦闘機パイロット、と呼ばれているあたり、かなり有名になっている。この基地の人間が普通であれば、噂のパイロットが死んだとなれば、犯人捜しを始めるはずだ。
オリバーがアレンを殺したとして、その後の犯人捜しをどうやって掻い潜るのか。いくら司令部の人間であろうと、それは不可能に近いはずだ。
アレンの中で疑問が膨らむが、ミーナが次の質問を始めようとしたのに気付き、慌ててドアをノックした。ミーナの隣で腕を組み黙り込んでいた坂本が立ち上がり、ドアを開けてくれた。
「何かあったのか?」
開き際に、坂本が訊いてくる。頷いて答えながら部屋に入り、オリバーに向き直る。
「手段は自由と聞いて、あんたは俺を殺すことしか考えなかったのか?」
俯いたままの男に聞くと、姿勢を変えずに答えを絞り出した。
「…ここへ来る前、お前に会う前から、私はお前がネウロイだと思い込んでいたのだ。」
「それは、あんた自身でそう思っていたのか?」
「そうだ…。その通りだ…。」
オリバーの答えが、頭の中で反芻される。問うた時に見せていたジェスチャーの腕をゆっくりと下ろしながら、特に意味もなく部屋を見渡す。彼の答えが、一体何を意味するのか。それを考えたのだ。
「分かった。ありがとう。」
その場にいても、ミーナの尋問の邪魔になると気付き、部屋から出た。後ろ手にドアを閉めつつ、隣の部屋に戻る。
「何か、新しい発見でもしたの?」
「この世界の人間は、俺たちがネウロイだと思い込んでいる。前線に出れば出るほど、撃たれるかもしれないな。」
フライトスーツのままのパウラが問うてくる。とにかく周りからいつ殺されるか分からない、ということを伝えると、再びミーナとオリバーのやり取りに意識を戻した。より一層険しい顔に戻り、オリバーが発する言葉に聞き入った。
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その日のうちに、ずっと放置したままだった新型ネウロイ調査班のメンバーへの調査も行われることになった。アレンがマクタビッシュを連れて先に立ち去り、残されたゴーストとパウラ、ローチが聞き取りに協力することになった。
何だか近頃、ひたすら調査の記録を取っている気がする。
最新で言えば、洋上で漂流していたところを救助したNSGについて(インテル#4 参照)。彼らはすでに基地から去り、その後のことは分からない。無茶をせずに、ネウロイの調査をしていると信じたいと思う。
これから対面する調査班の記録も、ローチが書いている(インテル#2 参照)。そのファイルを資料室に取りに行き、ついでにコツコツと記録しておいたネウロイに関する情報をまとめた手帳も部屋から持ち出す。
必要なものを取りそろえ、急いで地下へ向かう。待ち合わせの監獄へ向かう。クロウリー達も、オリバーと同じように取調室に来ていた。事前に供述することの打ち合わせをさせないために、一人ずつ、別々の部屋で行うことにしている。彼らとはあまり接点のない坂本は宮藤とリーネの訓練へ向かい、さらにパウラも、その訓練に付き合うため離脱した。
残された3人で聞き取りをすることになった。
「助かるわ、手伝ってくれて。」
合流して目的の取調室に行きながら、ミーナが穏やかな笑みを浮かべて振り返った。基地のトップである彼女は、戦闘での出撃より、執務での書類を裁くことの方が多い。それは、何度か彼女たちと交流した中で、彼女自身が漏らした愚痴からわかっていた。
「普段の激務に加えて今回の調査だ。むしろ、任せてくれても良かったぞ。」
隣のゴーストが答える。
「でも、基地の中で起こったことよ…。束ねる私が居ないのも、変な話よ。」
「なるほど。…なら、調べた後のことは任せてほしい。」
「そうね…。さっきの監査官の話から察すると、あなたたちは敵同然の見方をされてる。油断できないわね。」
ミーナの言葉の最後を聞いて、ゴーストとローチは、何も言えなかった。わずかにゴーストがため息をついただけだった。
ミーナの表情からも笑みが消え、焦燥とも悲観とも見える表情になっている。若くてかわいらしい顔がもったいないなと、自分のことを棚に上げて思ってしまう。
「…でも、この基地だけは安全だと信じてほしいわ。」
最初に助けてくれた彼女達―――というよりはこの基地しかないのだ。再び振り向いた彼女に向かって頷く。
やがて取調室に到着した3人は、交代で記録と尋問の役目を担い、5人のメンバーを一人ずつ調べ上げた。それが終わったのは、太陽が西にある山へ隠れるころだった。
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調査尽くしだった一日が終わろうとしている。椅子に座って尻が痛み、速記のために紙とすれて手は擦り傷のようなものができた。
戦闘にもいかずにここまで疲労するのは、訓練以外では経験が無かった。オリバーに加えて調査班の5人。記録の保存や調査班の処遇に関する手続きまで手伝った結果だ。達成感もあるが、ローチの口からはため息しか出なかった。
夏に近づき、基地の中は日に日に暑くなってきている。自室のやわらかいベッドに転がるのも良かったが、そこへは行かずハンガーへ向かっていた。そこなら静かである上に、海から吹いてくる風で涼めると思ったのだ。案の定、空気のこもった建物より、穏やかな風が吹いている外は涼しい。
MH-60の機内に保管しているACRを眺めながら、ハンガーで寝るのも有りかもしれないと考える。しかし、昼の一件を思い出し、それがはたして安全なのかと思う。
「この基地だけは安全だと信じてほしい・・・か。」
中佐が呟いた言葉を反芻する。そうであってほしいと願う。それしかない。
「あ、軍曹。」
不安がっている背後から、おっとりした声を掛けられた。立ち止まってその方向を振り返ると、いつもの水色の服を着たエイラの姿があった。
「少尉…こんな時間にどうした?」
「サーニャを見送って、今から戻ろうとしてたとこダ。」
そういえば、いつも眠そうな中尉と仲良しだったなと思い出す。
「軍曹はどこか行くのカ?」
「ハンガーに行って、涼むつもりだ。」
「それは良いナ…。ワタシも行っていいカ?」
「あぁ。多分、暇になるぞ。」
拒む理由は無い。先日もNSGのメンバーを救出した時に一緒だった。他のウィッチよりは親しくしている。会話が続かずに退屈するかもしれないと教えるが、構わないと言い切ったエイラと一緒にハンガーへと向かった。
ハンガーの扉を、音を立てて開く。駐機しているMH-60に近づき、パウラから預かった鍵を使ってカーゴドアを開く。
「レスリー少佐の戦闘機もそうだけど、この機体も未来のなのカ?」
「そのとおり。あと30年すれば開発されるはずだ。」
感心したような声を漏らすエイラ。その間に自分のACRを取り出し、分解を始める。各種のロックを解除しながら、ストックの伸縮や、マガジンキャッチの詰まり、ACOGのズレ、バレルの煤を確認する。
「これが弾倉…軽いナ。」
振り向くと、木箱に座って並べた部品を眺めていたエイラが、ACRのマガジンを手に取っていた。空になっているから当たり前だが…。
「プラスチックで出来てるからな。」
「へぇ~。」
黒塗りの弾倉を珍しそうに眺めるエイラ。15歳の少女が持っているそれには、弾丸が込められていない。言ってしまえば、ただの箱にしか見えない。だが、その弾倉に5.56ミリ弾を30発も込めれば、どう見えるだろう。彼女の顔を見ていると、そんな疑問がふつふつとわいてくる。
もし、今自分が持っているアサルトライフルを彼女が手に取り、自分に銃口を向けたら。彼女は引き金を引くだろうか。少女と言えど、兵士である以上銃の使い方は分かっている。教えなくても、撃つことはできる。
そんな架空の話を作り上げてしまい、思わず手が止まり、視線が固定される。再び組み立てたACRと5、6発装填している弾倉を両手に持ちながら。すると、見飽きたらしいエイラがこちらに振り向いた。
「何だヨ、どうした?」
「いや…別に…。」
誤魔化すために慌てて立ち上がる。しかし、足まで硬直していたのか、バランスを崩して木箱ごと後ろに倒れこんだ。
「大丈夫か!?」
「…問題ない。」
自分で、自分が何をしているのかとため息が出る。無駄に心拍が高まっている自分に落ち着けと言い聞かせ、ゆっくりと膝をついて立ち上がる。さっさと取り出したACRを片付けて宿舎に戻ろう。そう決めて、落としたACRを拾おうとする。しかし、落ちたはずのアサルトライフルが見当たらなかった。ヘリの下に滑り込んだのかと除くが、見当たらない。
「やっぱり軽いナ~。」
突然、エイラの声が背後で響いた。思わず、背中に悪寒が走る。頭に向かって、ACRのフラッシュハイダーが突きつけられている気がする。まさか、ここで殺されるのか。
―――基地だけは安全だと信じてほしい―――
昼間に聞いたミーナの声が頭の中に響く。あれは嘘だったのかと、身体を冷たい空気が覆う。
そのまま、どれだけそうしていたのかわからなかった。
「なぁ、どうしたんダ?」
再び声を掛けられ、ようやく視線を上げた。そこには、少し得意げな表情でACRを持っているエイラの姿があった。
「どう、似合って…すごい汗だゾ?風邪ひいたか?」
何かが首をツゥッと流れる。咄嗟にそれに触れると、それが汗だと分かった。もう一度、大丈夫だと伝え、エイラからACRを受け取る。
自分でも驚くほど緊張し、驚いていた。忘れもしない、初めての実戦の時と同じ疲労が沸きあがった。シャツは嫌な冷や汗で湿っている。手には、ACRを滑らせてしまうのではないかと思うほどの汗がにじみ出ている。いつもよりゆっくりと、丁寧に元の場所へ戻したローチは、カーゴドアのロックを何度も確認してから、ハンガーを後にした。ACRを手渡したときから、エイラは不思議そうな顔で覗き込んでくる。何度か、特徴的な口調で「大丈夫カ?」と聞いてきたが、大丈夫だ、なんでもない、と答えるだけだった。
部屋に戻ってから、何のためにハンガーへ行ってまで涼もうとしたのかと思い出した。冷静になるまで、しばらく時間がかかった。ようやく眠りについたのは、エイラと分かれて1時間は立っていた。
今回は長く書けました。
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