ストライクウィッチーズ Assault Warfare 作:t5m5k2
そして第1章はまだ終わっていません。
中途半端ですがどうぞ(汗)
1 , 口の堅さは?
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速度を落とし、ホバリングに移行したMH-60Mのドアから、ローチは真っ黒の海面を覗き込んでいた。上弦の月の放つ僅かな光だけが、暗闇を照らす。
カーゴドアの横に備えらえた手すりを掴む手に、無意識のうちに力が込められる。黒く染まった海面が、底なしの谷か、それに似た―――強いて言えば、二度と戻れないような―――ものに感じられたからだろう。
手を覆っているグローブの中に、嫌な汗がにじみだすのが分かった。
「唯でさえよく落ちることで―――」
「ゴースト、うるさい。」
すぐ隣で、同じ格好をして海面を覗き込んでいたゴーストが何事か言い出したが、言い終わる前にその言葉を遮った。いつものようにからかってくるゴースト。何を言いたいのかはわかる。だが言わせはしない。
「…なんだよ、別にお前が、とは言ってないだろ?」
「例として俺を挙げてる時点で変です。」
落ちたくて落ちているわけではない。だから今も、自然と手すりを握る手に力がこもったのだろう。
彼は、時には異常なほどまでいじってきて面倒事になることもある。しかしこの時は、暗闇を前にして緊張していた気持ちが、楽になるきっかけになった。
そのまま何度か冗談を言い合いながら、海面に浮かぶものが無いか捜索した。
しばらくすると、離れて捜索に当たっていたエイラとサーニャが戻ってきた。
「見つかったか~?」
傍まで来てホバリングするエイラが尋ねる。
だが、30分ほどの捜索では何も見つかっていない。
「いや、見つからない。そっちは?」
「こちらも見当たりませんでした。」
その場にいるメンバーに、無理か、という空気が流れる。
要請を受けた以上、さっさと撤収しましょうというわけにはいかない。
しかし考えてみれば、クルーザー一隻が行方不明、という情報を受けてからすでに1時間が経とうとしている。船体に受けた損傷の程度にもよるが、救難信号を発するほどの事態であれば、転覆までにかかる時間は長くはないはずだ。
「大尉、どうする?」
しばらく唸っていたゴーストが、コックピットの方を振り返って尋ねる。
「あぁ…。いや、待て。2時方向、何かあるぞ。」
答えの代わりに、マクタビッシュが何かを見つけたような声を上げた。
「2時ね。向かうわよ。」
エンデンがそれに答え、ヘリの機体が機首の方向へ傾き、前進する。ドアから乗り出して海面を注視すると、わずかな光の中でちらりと何かが浮かんでいるのが分かった。
徐々に大きくなるその浮遊物は、確かに船の一部のようだった。ヘリに備えられたサーチライトが灯され、光の輪が海面をなめるように移動する。
「これらしいな。」
ローチが少し面倒なものを見るような声でつぶやく。
「そーだナ。」
すぐそばで飛んでいるエイラも、同じような声色だ。
明るく照らされた海面には、大きな白いペイントが施されたクルーザーが転覆していた。この周辺から行方不明者を探し出さなければならない。海へとダイブする必要はないが、まだしばらく地上に降りることはできない。そのことを察して、自然と不機嫌な気持ちになったのだ。
しかしわがままだけを言っていては何も進まない。仕方ないかと気持ちを切り替える。サーチライトの輪が大きく広がり、周囲まで照らし出す。すると、他の浮いている物資や船体に、合計で4名がしがみついているのも確認できた。
「サーニャかエイラ、どちらでもいい。基地に連絡してくれるか。」
マクタビッシュがキャビンに移動してきて、二人に呼びかける。
「分かりました。私がします。」
するとすぐにサーニャが答えた。
「サーニャはしなくて大丈夫だゾ。私がするから。」
と、その横からエイラが口をはさむ。
「そう?お願いするわ。」
その会話の弾みように、改めて仲の良さを見せつけられる。
「ミーナ中佐、聞こえるカ?」
『聞こえるわ、エイラさん。見つかったかしら?』
共有された無線の音声が、頭に掛けているヘッドセットのスピーカーから流れる。
「通報通り、海上で転覆したクルーザーを発見した。合計で4人が海上に取り残されてる。これから救助でいいのカナ?」
『わかりました。えぇ、お願いするわ。』
最後にエイラが『了~解』といつもの余裕な口調で締めくくる。それから、救助活動が始まった。最大11人まで乗り込むことのできるMH-60Mが、下で漂っている4人の回収を担当する。エイラとサーニャの二人は、周辺の空域でネウロイが出現していないか警戒するために離れていった。
MH-60Mの機体が空中をじわじわと移動して、浮遊物の真上に達する。その横面にあるカーゴドアから、ハーネスと安全器具の一式を身に着けて吊り下げられたゴーストがゆっくりと下りていく。ローチはドアガンに取りついたままその姿を眺め、横ではマクタビッシュがホイストの昇降装置を操作している。お互いに水面との距離を確かめながら、装置の速度を調整する。
絶え間なくメインローターが引き起こすダウンウォッシュは、その下に広がっている海面を白く波立たせる。海面からの高さは40メートルほど。下で引き上げられるのを待っている彼らにとって、上空から絶えず強風に押し付けられるのは、初めてのことだろう。また、押し沈められないように必死になる過酷な時間だろう。なにせ、彼らからするこの世界には、まだヘリコプターという航空機は一般的に見られるほど数があるものではないからだ。
『一人目、準備良し。』
ようやく4人のうちの一人目が引き上げられた。案の定海水にさらされていたその乗組員は、特に下半身をびっしょりと濡らしていた。
「ふぅ…助かった。」
エンデンに指示され、ローチは救護用の毛布を取出した。キャビンの天井に埋め込まれるように設置されている収納から引きずりおろし、一人目の救助者に手渡す。
「すまないが、毛布しかない。これで冷やさないようにしておけ。」
キャビン後方へと、体を支えながら男を誘導する。引き上げた男がバランスを取るのに苦労しているのは、海水で冷えて寒いからなのか、初めてのヘリコプターに乗ったからか。
「ありがとう。なぁ、これはなんていう航空機だ?あんたらは?」
腰を下ろしながら、男は問うた。
対するローチは、一瞬だけ返答に戸惑った。説明して素直に『そうか』といってもらえるはずもないからだ。
「…それは後で基地に戻ってから答えてやる。今は大人しくしておけ。」
そう答えると、男は何かを察したのか、追及してくることもなく『分かった』と答えた。
その返事を背中に受け止めながら、再びガンナーシートに戻って引き上げられる乗組員を見守るローチ。その頭の中では、救助した彼らがこの後どうなるのか、彼らをどうしなければならないのかという思考が飛び交っていた。
『タスクフォース249』という部隊名を決めたあの日、アレンが持っていた部隊命名の書類には、自身らが機密扱いであると記されていた。ブリタニア軍に限らず、各国の軍にとって、F-15SEⅡやMH-60M、その他の武装・火器は、十中八九手に入れておきたい代物に違いない。感じ良く言えば、今の人類とネウロイの間にある戦局を、人類側に傾けるために大きく貢献するだろう。別の言い方をすれば―――将来的なことで断定はできないが―――各国がコピーを保有して量産すれば、ネウロイそっちのけで国同士の戦争だって始まりかねない。
たまたまブリタニアの基地に転がり込んだローチたちは、自然の成り行きでブリタニア軍所属となった。リベリオンやオラーシャ、カールスラントや扶桑へ兵器の情報が流れることを恐れたであろう司令部は、それを防止するために、早い時期に部隊命名と機密扱いの印を送ってきたのだ。
そんな中での今回の救助任務。可能性として考えれば、救助した彼らが唯の民間人でないこともあり得る。『あくまで』可能性の範囲だが、ローチたちからすれば、彼らは『ただ夜景を楽しもうとしてクルーザーで乗り出した観光客』でもあるだろうし、『観光客を装い、わざと基地に近い海域でクルーザーを破壊して遭難したように見せているスパイ』とも捉えられる。
その点では、今回の救助任務でMH-60Mを出撃させたのは間違いだったのかもしれない。可能性の後者で考えれば、今乗るヘリの情報を持ち出されてしまう。それを防ぐには――――彼らを生きて返すわけにはいかない。
(もしそうなら、大尉や中尉はどうするんだろうか。)
ぼんやりと海面を見つめる。かなりの長い思考過程だったが、どれくらいの時間がたったのだろう。その答えはすぐに分かった。
気づいた時には、最後の四人目の乗組員が引き上げられ始めていた。視線をキャビンに向けると、そこには救助されて毛布にくるまっている乗組員の姿もあった。
彼らの、こちらを見上げる視線が、自分の瞳をとらえている気がして、ローチは視線を何もない夜空に向かってそらしてしまった。
ガンナーシートから見える夜空を直視する。相変わらず黒い闇が占拠していた。
救助した男たちがスパイだと決まったわけではない。しかしローチの中には正体のわからない不安が漂っていた。本当に、なぜ不安になっているのか、ローチにはわからなかった。
キャビンではマクタビッシュが救助された乗組員たちを介抱している。隣では、昇降用のホイストに結び付けていたハーネスを取り外す作業をしているゴーストが。
二人も、自分と同じようなことを考えているのだろうか。そう思って視線を移そうと知ったとき、ずっと黙り込んでいたヘッドセットのスピーカーがハウリングのノイズを奏でた。ビクッとなって、すぐにスピーカーを耳に密着させる。すると、緊張したエイラとサーニャの声が響いた。
『こちらエイラ!ノーマッド63、聞こえるか!?』
『サーニャです。ネウロイを補足しました!』