ストライクウィッチーズ Assault Warfare 作:t5m5k2
快晴。ローチはその一言しか思い浮かばなかった。驚くほど澄み切った青空が広がり、雲一つない。滑走路の下に広がる海もキラキラと輝く。魔法少女らが空へと舞いあがる滑走路の上には、モスグリーンの半袖Tシャツにカーゴズボンを履いた3人の男が立っていた。一人はモヒカン頭の厳つい中年で、左目に縦に傷跡を作っている。141部隊の隊長、ジョン・ソープ・マクタビッシュ大尉。二人目はサイモン・ゴースト・ライリー中尉。他の二人の服装に加えて、骸骨のバラクラバとサングラスをしている。決してこの2点セットを取らない謎めいた人物だ。そして自分は3人目のゲイリー・ローチ・サンダーソン上級曹長。整った顔だけどどこか子供っぽいと言われる。初めて会う人からは『兵士か?あのSASの?』と言われてしまうこともしばしば。ローチ自身はそれほど気にしていない。その3人を照らす太陽は、空を見上げる3人を穏やかな日差しで迎えていた。さながらリゾート地にでも来たかのような雰囲気だ。4月ということもあって、濃い緑色のシャツから出た腕に当たる日差しが暑く感じる。3人はそろって腕を頭上に掲げ、大きな伸びをした。
「こんなに晴れたの、何時振りだったかな…。」
ソープ目を細めながら、自分が思ったことと同じ言葉を口にしていた。毎日が戦争に関することばかりで忙しかったこの前まで、部屋の外でのんびり日光浴をすることはなかった。作戦系、書類系、整備系、訓練系…。一日の大半を屋根の下で過ごし、外に出ても空を見上げる暇などなかった。頭の中で日数を逆算すると、大体4か月だということが思い浮かんだ。どこか懐かしいと感じたローチは、もう一度大きな伸びをした。上にあげた腕をブランと下げ、今日は何をしようかと考え始める。こんなに天気のいい日なら、洗濯の一つでも…。
「お~い、ちょっと集まってくれ。」
そこへ少し低いイケメンボイスが響いた。後ろのハンガーから聞こえる。振り向くと、開け放たれたシャッターの手前で手招きする男がいた。長袖の灰色ジャケットにフライトスーツを着たアレンだった。何かをもう片方の手に持っている。日向ぼっこをしていた3人は少し駆け足でアレンに近づく。駐機しているヘリからは、武器の整備の途中だったディアナとコザックが出てきた。6人が円状に集まったのを確認したアレンは、
「この基地を管轄する司令部、ブリタニア空軍から俺たちに辞令が出た。」
と切りだした。持っていたA4サイズほどの茶封筒をヒラヒラさせる。それを聞いた5人から形容しにくい声が漏れる。意味はおそらく『そうですか』といったところだろう。
「これからは、この世界における人類の敵、ネウロイとの戦争になる。俺達は、この基地の第501統合戦闘航空団と共同で任務にあたる。部隊名は―――」
そういって、アレンは封筒から一枚の紙を取り出した。再生紙でも使っているかのように、少し茶色い。
「ブリタニア南部方面臨時特設防衛部隊。」
ローチは左眉を下に下げた。え?という顔を作る。聞いた瞬間には飲み込みにくい名称だ。その原因は、今まで自分が所属していた部隊の名前がそうだったこともあるのだろう。語尾に防衛部隊とあることから、とにかくネウロイとやらを迎撃することが主な任務なのかとローチはあたりを付けてみた。
「ま、そこまで身構える必要はない。部隊として認められたし、ここの規則に従って動けばいいと思う。」
そう呟くように言ったアレンは、出していた書類を封筒に戻した。入れ終わってから封筒の口を折ってわきに挟む。ここでゴーストが問いかけるように口を開いた。
「その長い部隊名…。なんとかできないかな。」
「同感。俺もそう思った。」
アレンがため息を漏らしながら腕を組む。他のメンバーも考え込むような素振りを見せる。ローチも右手をお顎に当てながら考える。今日から正式にこの世界の兵士になるとしたら、先ほどの部隊名で自分は呼ばれる。だがほとんど意味を持たない言葉が多く含まれる名称は、長いだけ無駄である。どうせ呼ばれるのなら、馴染み深い名称がいい。ならば…。
「タスクフォースで別名を作れないですか?」
ローチは思いついたことを提案してみた。自身がこの前まで一つの居場所と思っていた部隊、タスクフォース141。『タスクフォース』というフレーズが、今とても新鮮に感じられた。5人がローチに振り返り、同時にそうしよう、と言った。
*****
石造りの廊下をミーナについて歩いていた6人は、扉の横に『ミーティングルーム』と書かれた場所にたどり着いた。彼女が中に入っていくのに続いて入ったアレンは、思わず立ち止まった。想像していたものよりはるかに大きな部屋だった。広さは60㎡ほどだろうか。天井は驚くほど高く感じられる。先ほどまでいたハンガーより高い。壁は一面白で塗られ、大きな窓からは日光が差し込み、床に敷かれた赤いカーペットを照らす。書面の壁には黒板らしき大きな板が張り付けられ、端の方にはグランドピアノが置かれている。部屋には長机が大学の教室のように数十個並べられていた。その机に備え付けられた椅子に、合計10人の少女が座っている。ほとんど全員が、異世界から迷い込んできたアレンらに視線を向ける。すると、振り向いた少女らの大半が驚いた顔をした。隣の人間の腕をつかむ者も。老けた男ばかりでビックリしたのだろうか。アレンはちらと考え、すぐに状況の吸収に集中した。髪の色や来ている服、見た感じの年齢など、一人ひとり違った特徴を持っている。あらゆる国から人員を集められた多国籍軍といったところだろうか。この基地に駐留する501航空団が、魔力を持った20歳に満たない少女らの部隊であることは知らされている。しかし所属する隊員の国まで違うとは、アレンは考えもしなかった。新たに知ったことを頭の中で整理していると、数歩前に進んでいたミーナがこちらに振り向いて声をかけた。
「とりあえず前に立って自己紹介をお願いするわ。」
口元に小さく笑みを浮かべたミーナは、言い終わると早足に壇上へと向かった。遅れをとるまいと、アレンも足を進める。自己紹介、と聞いて、すぐにセリフを考えた。すぐにその原稿は作り上げられたが、少しアレンは緊張した。人前に立って何か話をすることは慣れている。だが、それは話す相手が自分と同じ、普通の人間だったからだ。いまアレンに視線を向けているのは、何かしら魔法を持っている少女、魔女だ。自分たちがこの世界で異色なものだということがわかりはじめて以来、アレンは少しずつ不安を感じ始めている。子供が幽霊を怖がるのと同じで、アレンも魔力を恐れ始めていた。得体の知らないものと接触することが。その不安を知ることなく、ミーナがミーティングを始めた。
「みなさん。今日正式にこの501基地に編入されたブリタニア南部方面臨時特設部隊の6人を紹介します。」
ミーナはそう言い終えると目でこちらに合図を送った。前置きそれだけかよ、と内心焦りながら小さくうなずく。ピアノの前から黒板の前の中心に置かれ教壇までゆっくり進み、長椅子に座った少女らに向きなおる。ひとつ深呼吸したアレンは、落ち着けと自分に言い聞かせて話し始めた。
「ブリタニア南部方面臨時特設防衛部隊、別名タスクフォース249のアレン・ロイド・レスリー少佐だ。元々は、別の世界で連合軍の戦闘機部隊に所属していた。今日から第501統合戦闘航空団と共にネウロイ殲滅を支援しようと思う。よろしくお願いします。」
あらかじめ頭の中で思い浮かべていたセリフを読み上げ、敬礼する。隊員の階級はほとんどが大尉以下、とここに来る前にミーナから説明があったので、敬語は最後だけにした。広い会議室に集まった少女らには、隣と何か確認し合う者、何か思い出すように口をモゴモゴさせる者、腕を組んでそのまま視線を向け続ける者などの反応が起きた。それ以外に目立った反応がなかったアレンは、何か喋らなければなるまいと思い、続ける言葉を探し始めた。するとその時、
「たすくふぉーすって?」
と質問が出た。この時代には、まだこの呼び名が定着していないのだろうか。手を挙げた黒くて長い髪を2か所で留めた少女を見る。その顔を見て、アレンはまた驚いた。この子何歳?すごく幼く見える。思わず妙な間が生まれる。それを咳で誤魔化したアレンは、単語の説明を始めた。
「ある任務だけに編成される部隊のことだ。一つの国だけで組まれることもあるし、いろんな国から精鋭が集められることもある。臨時の部隊、といったら簡単かな。」
質問した少女の幼さに影響されてか、アレンは自分の口調が少し優しくなっていることを認識した。
「へぇ、精鋭なの?」
その隣に座っていた茶髪で赤い服を着た少女が2つ目の質問を投げかける。先の回答でうっかり言ってしまったことを突かれてしまった。
「精鋭ばかりではないかもしれない。でも、並みの兵士以上だな。」
変な認識を導かないよう、あいまいに訂正する。妙に期待されるのはなきにしもあらず、逆に舐められては困る。発言するときには、わかりづらい表現を使わず明快にせよと言われる。なぜなら、その微妙な隙間を拾われて、自分が不利な方向へ付け込まれるかもしれないからだ。どこかの国では、そのやり合いで国会がボロボロになったこともあったそうだ。しかし、今のアレンのように、はっきりと断言しないことが大切な時もある。
「249はなぜだ?1でも良いんじゃないのか。」
ミーナの隣に座っていた坂本の声がミーティングルームに響く。
「本当は順番や規則に則って番号を決めるんだが、今回は二つの部隊が一緒になったからこうなった。この後紹介する。」
そのまま5人の紹介に移る。
「取りあえずメンバーを紹介する。みんなから見て左から1人目は、ジョン・ソープ・マクタビッシュ大尉。自分たちがいた世界で、タスクフォース141と呼ばれる部隊の隊長を務めていた。出身地はイギ―――、違った、ブリタニアだ。」
ソープが半歩前へ出て敬礼をする。うっかり自分の世界地図で紹介するところだった。目の前に座る少女のうちの数人が、どうした?といった顔をする。アレンはあえて気にしないことにして続ける。原隊のSASのことや141部隊ができた理由も話したいが、ここで話せば長くなってしまう。そう考えたアレンは、早速次へと移った。
「次はサイモン・ゴースト・ライリー中尉。彼は―――って、ちょいちょい」
今まで気付かなかったが、ゴーストが骸骨のバラクラバとサングラスを取っていない。自分が見たい気持ちもあるが、今は自己紹介の場だ。素顔を見せずに紹介するのはマズイ。不審者扱いで追い出されるかもしれない。そういえばさっきこの会議室に入ってきたときに数人が驚いたような表情を見せていた。その原因はこれだったのか?
「ゴースト、バラクラバとサングラス取ろう。」
「良いじゃないですか。こういう人物ってことで。」
草原のど真ん中で初めて出会った時と同じだった。言っても聞かないと薄々分かっていたアレンは、再び向き直って続きを話した。
「まぁいいや。彼の素顔は俺も見たことないけれど、兵士としての腕は確かだ。マクタビッシュ大尉の部隊で副官を務めている。その前にいた部隊もマクタビッシュ大尉と同じだった。」
少女らの視線がソープから覆面男に移動し、少しだけ不気味そうな表情になる。さてゴーストはこの風景を、サングラスによって外から見えない目でどう眺めているのか…。
「その覆面を取りたくない理由でもあるの?」
金髪でショートヘアの少女が質問した。アレンはゴーストの方を向いてどうなんだ、と問いかけるように手を差し出した。
「いろいろある。いろいろ、な。」
どうしても話したくないのか、それとも、ただ理由がないのか。アレンは少し考えたが、自分には予想ができない。また別の機会にでも聞けたらいいか、と思ったアレンは、3人目の紹介に移った。
「3人目は、ゲイリー・ローチ・サンダーソン上級曹長。彼も141部隊所属で、原隊もマクタビッシュ大尉、ライリー中尉と同じ。ちなみにこの6人の249部隊の中で最年少です。年は言いませんが…。」
すこしアレンがからかってみる。それを聞いたローチがこちらを向き、口で『何言ってるんですか!余計ですよ!』と話してきた。そのやりとりを見ていた少女らもくすくすと笑う。
「でも年に関係なく優秀な兵士だ。どんな武器でも、手に取れば正確な射撃ができる。困難な状況下でも、小さいときに養われた閃きで戦闘を勝利に導いたと聞いた。上級曹長という階級は低すぎるように思えてしまう。」
ニヤけた顔を引き締め、続きを話す。この情報はソープから聞いたものだが、おそらく本当だろう。よくいるタイプだ。普段の暮らしは普通でも、いざ戦場に立つと見間違えるほどになる分類だ。抗議の視線を向けていたローチが『そうだよその通り』といった顔になって視線を前に戻す。さらにアレンは紹介を続ける。口の中に溜まっていた唾をのみこみ、咳払いする。
「4人目。ジョン・コザック上級曹長。先のサンダーソン上級曹長と同じ年でおなじ階級だ。地上部隊員。彼はリベリオンと同じ位置にあった国の陸軍にいて、4人だけで様々な作戦にあたる特殊部隊の一人だ。彼も機械系に強く、部隊に支給される無人兵器を使いこなすことができる。今もハンガーに置いてあったっけ?」
アレンがコザックに問う。こちらに向いたコザックが頷き、後ででも紹介しようとアレンは決めた。時間があるのかどうかはわからないが。ここで今気づいたが、コザックの顎にうっすら分かるほどのひげが生えている。こいつも年に似合わず大人なんだなとアレンは心の中でつぶやいた。質問を出さないために次に移る。最後の人物紹介。249部隊唯一の女性隊員だ。
「5人目は、俺と同じタスクフォース108にいたヘリコプターパイロット、ディアナ・ルイス・エンデン大尉。出身地はバルトランド(2016年世界ではスウェーデン)。戦闘機ではできない兵員輸送や低速での作戦に参加した経験を持つ。地上の兵士達にとっては母親のような存在だな。」
だんだんと変な紹介になっていたが、気にしない。そういった感じで部隊の紹介を終えたアレンは一息ついて、少し離れたところに立っていたミーナに振り向いた。どうしましょうか、と無言で問いかける。その問いに気付いたミーナが頷いたのを確認し、アレンは壇上から降りて5人の隣に戻った。戻りながら、昔からの癖で、左腕に着けた某電子計算機メーカーの腕時計を確認する。液晶画面には9時44分37秒と浮かび上がっていた。ただそれを見るだけにして、ピアノのわきに立つ。時間確認の間に、代わりにミーナが壇上に立ち、少女らに話し始めていた。
「249部隊の彼ら6人は、この501基地から任務に就きます。いろいろなことにお世話になるかもしれないので、仲よくしてください。」
うわぁ、小学校の先生みたい。特に低学年クラスの。アレンはそう思った。言っていることは少し物騒かもしれないが、口調は優しい大人の女性だった。彼女はまだ20歳までいっていないと聞いた。あのような言葉で隊員と話せるのは、おそらく501部隊が結成されてしばらく経ったからなのだろう。彼女自身が501部隊の隊長を任せられ、配属されてきた自分より年下の隊員と接することで身に着けた技なのだろうか。この世界でウィッチと呼ばれるのは、主に純粋な心を持つ20歳以下の少女だと聞いた。しかし、まだ人間の平均寿命の6分の1までしか生きていない少女らに、人類の敵を撃退する責務を負わせなければならないと考えると、アレンは自然に顔をうつむけた。こうとしか決められなかった上層部に同情してしまう。仕方ないとは言え、やるせない気持ちがわいてきてしまう。唇を少し噛んだアレンは、閉じかけていた聴覚に情報が入ってきたのをきっかけに、暗い思考から考えを引きはがした。
「なんだ、ネウロイって定期的に襲来するのか?」
ローチの小声だった。アレンが黙り込んでいろいろ考えているうちに、何か話が進んでいたらしい。ピアノのわきに立ったままのアレンは、どんな話になったのか隣のソープに自分の口を手で隠しながら質問した。
「今何の話?」
「今日の大まかなスケジュール確認です。ネウロイは昨日来たから、今日明日までは来ないんだそうです。基地で待機するように、と。」
ソープがすぐに答える。アレンは新たに聞いた情報を整理した。あの黒くて所々に赤い斑点を付けたネウロイは、3、4日おきにこの基地へと向かってくるらしい。昨日性能テストで見た『巣』から…。教壇に立ったままのミーナは、まだ説明を続けていた。また腕時計で時刻を確認すると、9時47分28秒。2分ちょっとの間でどの程度話が進んだのか分からないが、少なくとも、出撃かそれの手前の事態にはならないようだ。なんとなく安心したアレンは、聞いていなかった部分の話を後で誰かに聞こうと決めた。その後、ミーナの終了の挨拶をもって、ミーティングは終わった。501部隊の少女らもそれぞれの行動に入る。249の面々も、気を付けの姿勢を崩して雑談を始める。アレンも、何をしようかと考え始めた。左手を腰に当て、右手を顎に添えて考えるポーズをする。アレンの癖だ。ミーナや坂本がほかの隊員と話し合っているところを見ると、自分たちはとりあえず暇らしい。そうなれば、自分の機体の掃除なり整備なりするか。整備員と話すことも必要かもしれない。適当に行動予定を立てたアレンは、249の5人に自由行動でいいと伝え、自分のジャケットのポケットに突っ込んでいた基地内の地図を取り出し、ハンガーへ向かおうと決めた。いろいろな会話が聞こえるミーティングルームを出て、地図を見ながら廊下を進む。カーペットとブーツがこすれる音が小さく響いた。
*****
「例の6人に辞令を出したそうだが、どうするのです?」
窓をカーテンで覆った薄暗い部屋に、入り口から向かって右手に座る中将の野太い声が響く。
「こちらに引き込むさ。あのままでは、我々に牙をむける狂犬だ。」
答えたのは、反対側のソファに座った大将だった。そう答えながら、組んでいた足を組みかえる。
「なるほど、忠実な番犬にしなければ、ということですな。」
ふふっと中将が鼻で笑いながらつぶやく。ゆっくりと背もたれから起きて、テーブルのコーヒーを手に取る。それを少しすすってまた小皿に戻す。
「今は放し飼いにしてやるが、いつかは鎖につないでやる。迷子はおとなしくさせないとな。頼んだぞ、エース中将。」
エース中将と呼ばれた男は、ゆっくりと立ち上がって敬礼した。
「お任せを、マロニー大将。」
書きにくい回でした。でもこの部分がないと話が繋がらないと思うと、やらなければならないと…。難しかったです。
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