翌日の昼休み終了間際
透流たちが体力強化訓練のために校門へ向かう途中、透流はふと金色の輝きが視界の端に映り足を止めた。
「トール?」
先を歩いていたユリエが、チリンと鈴を鳴らして振り返る。
「悪い。ちょっと先に行っててくれるか?」
ユリエが頷くと、透流は光が見えた場所、寮のバルコニーへと向かっていった。
「一人で大丈夫か?」
悠斗も気づいたらしく、透流に聞くと、
「大丈夫だ。それに、あのままじゃあいつが浮いちまうだろ?」
確かに彼女は今までちゃんと授業に出ていない。このままでは透流の言う通り周囲から浮いてしまうだろう。それを透流はほっとけないのだろう。
(なんつーか…こういうお人好しなところってこいつ本当にツナと似ているな)
悠斗は彼のその性格にツナを重ねていた。
「…分かったよ。でも今度は一人でマラソンしろよな」
「あれはお前が勝手についてきたんだろ?」
「確かに」
悠斗と透流はそう言いながら笑みを浮かべ、透流はバルコニーで紅茶を飲んでいるリーリス・ブリストルの方へと向かっていった。
「それじゃあ俺たちは行くか」
「悠斗くん、透流くんは大丈夫?」
「ああ、大丈夫だと思う。別になんかされるわけじゃないだろうし」
そうして、俺たちは校門へと向かっていった。
「ご、ゴール…」
「お疲れさん、前よりタイムも速くなってるぞ」
今日の体力強化訓練は初日同様マラソンであり、初日では走りきれなかったみやびも俺とのトレーニングの成果があってか以前よりも速いペースで走れるようになっていた。
俺とのトレーニングでもみやびは弱音を吐かずにしっかりとついてきており、悠斗自身も感心していた。
ただ、一人で走っていたりもしていて少しオーバートレーニングなところもあり悠斗もそこは注意していた。
「スゲー体力ついてるな、日頃の鍛錬の成果がでてる。」
「う、うん。私も少し自信がついたかな」
「その意気だ。あっ、これ飲むといいよ。水分補給はしっかりとしなきゃ」
そういうと、悠斗はみやびに二つあるスポーツドリンクのうちの一つを差し出した。
「あ、ありがとう…」
「気にすんな。脱水症状になったらシャレにならんしさ」
みやびは顔を赤く染め、悠斗からスポーツドリンクを受け取った。
「悠斗さん…そういう時は自分の飲みかけを差し出すシーンなのに…」
それを見ながら梓がなんか言っていた。
その夜、校舎裏
「…分かりました。では計画が出来次第、準備に取り掛かります。リーリス・ブリストルの確保は必ず…はい、もう一つの目的の方もある程度候補を絞れました。近いうちに必ず一人に絞れるはずです。本命もおりますし、《彼女》は博士の研究の完成に相応しいと思います」
『よろしくお願いしますよ。《装鋼の技師》も貴方には期待しております。くれぐれもあのお方の期待を裏切るようなことはしないでくださいよ』
「大丈夫です《K》隊長。全ては我ら《神滅部隊(リベールス)》の悲願のために」
そういうとその影は電話を切り闇の中へと消えていった。
次の日
「お疲れさん、どうだった?」
「まぁリーリスと色々話せたのは大きかったかな」
結局透流は夜まで帰ってこず、学園に戻ったのは門限を過ぎた頃だったそうだ。
「リーリスは本気で透流をデュオにしようと思ってたんだな」
「ああ、でも俺は今の絆双刃を変える気は無い」
「そうかよ、だと思った」
そう言っていると、
「さーて、交流試合のことを憶えてる人はどれだけいるかなーっ☆」
そう月見璃兎が聞いてきたので悠斗は手を挙げた。
同様にクラスの大半が手を挙げた。無論、大半であって全員ではない。
「……九重くん。ど・お・し・て、憶えてないのかな〜?」
営業用スマイルのまま、月見が透流の額を指先で何度もつつく。
「今、聞いて思い出しました」
「殺すぞ」
一瞬だけ素に戻り、ぼそりと呟くと再び笑顔の仮面を被る月見。
「さてさて、先生の話を憶えてなかったとーっても残念な人がいるみたいだから、もっかい説明するよ♪今月の下旬に二年生との交流試合を行うの。その名も《咬竜戦》☆オッケー?」
「《新刃》』のようなものですか?」
「そそっ。ただし今回は《絆双刃》での勝負じゃなくて、学年対抗になるの。一年生対二年生の選択メンバーって形でね♪」
「せんせー質問でーす。二年生はどうして選抜メンバーなんですか?」
「だってフツーに一年生全員対二年生全員をやったら勝負にならないでしょ?」
女子の一人の質問に月見は軽い口調で、けれど厳しい現実を言って返す。二年生へ進級するには《 II 》へ昇格することが条件だ。自分自身の超化の度合いから考えるに、数で勝っているとはいえ二年生全員が相手ともなれば戦力差は絶望的だろう。
続けて月見はルールの説明をする。大雑把にまとめると以下のような内容だった。
「だってフツーに一年生全員対二年生全員をやったら勝負にならないでしょ?」
女子の一人の質問に月見は軽い口調で、けれど厳しい現実を言って返す。二年生へ進級するには《 II 》へ昇格することが条件だ。自分自身の超化の度合いから考えるに、数で勝っているとはいえ二年生全員が相手ともなれば戦力差は絶望的だろう。
続けて月見はルールの説明をする。大雑把にまとめると以下のような内容だった。
○一年生は全員、二年生は選抜された四組の《絆双刃》。
○《焔牙》の使用可。
○制限時間は一時間。
○場所は格技場。
○時間内に中央へ設置された旗を倒せば一年の勝利。
「……つまり棒倒しと思っていいのですね」
身も蓋も無い言い方をしたのは橘だ。
「いえすっ♪」
あの後、クラス全員で格技場へと移動しすると中央の闘場では既に二年生がメンバー選出のためのバトルロイヤルを開始していた。透流たちは観客席に座ってその光景を観察していた。
(…やっぱりレベルが高いな)
悠斗は《新刃戦》の時よりもレベルの高い二年生達の戦いにさらに胸を高鳴らせていた。
「___さーて、それじゃあ二年生のメンバーも決まったし、みんなは教室へ戻って作戦会議しよっかーっ☆負けたらみんな、ぶっとばしちゃうぞー♡」
(月見が言うと冗談に聞こえないな……)
と思いつつ、透流が席を立ったときだった。
「あ……」
外への通路から格技場へ入ってきた黄金の少女を目にし、足を止めた。
「リーリス……」
「………………」
黄金の少女は透流の姿を認めると、キッと鋭い視線を向けるも、声を掛けてくるでもなく、そのまま闘場へと降り立った。
(何をする気だ……?)
その疑問は透流だけに留まらずクラスメイトである一年生のみならず、選抜メンバーとして決定したばかりの八人の二年生もリーリスへと注視する。当然だ。
一年生にとっては初日のHR以来、教室にまったく顔を出さない謎の転入生。
二年生にとっては見たことのない生徒、しかも外国人の美少女が突然現れたのだから。好奇の目が集まる中、リーリスは闘場の中央で立ち止まると、耳を疑うようなことを言い出した。
「選抜メンバーが決まったばかりで悪いけど、今から《咬竜戦》を行って貰えないかしら。ただしそちらの疲労を考慮して、あたし一人がお相手するわ」
「なっ…⁉︎」
格技場に驚きが駆け巡る。提案された内容が内容だけに、大半の者は呆気に取られてリーリスへ視線を送るばかり。だが最初に我に返った二年の男子、選抜メンバーの一人が呆れたように話し掛ける。
「おいおい、突然出て来て何言ってんのさ。《咬竜戦》とか一人で相手するとか、意味わかんねーっての」
「……だったら、その体に教えてあげる」
「は?いま何て……」
「二度は言わないわ」
代わりに、行動で示される。
「《焔牙》 」
《力ある言葉》に呼応して《焔》が舞い散り、《無二なる焔牙》が具現化される。
「そ、それって……」
存在しないと聞かされていた《銃》の《焔牙》。その銃口を向けられた男子が…いや、ほぼすべての生徒が目を疑う。
直後、乾いた銃声が響き、男子は一瞬体を震わせた後に倒れた。その姿を見つめたまま、リーリスは手元で《銃》をくるりと回す。しばしの沈黙、次いて怒号
「何しやがる‼︎」
「ちょっとどういうつもり⁉︎」
「ケンカ売ってんのか‼︎」
殺気立つ二年、固唾を呑んで見守る一年。視線を一身に集める中、涼しげな笑みを浮かべてリーリスは来賓席へ顔を向けた。
「どうにも丸く収まりそうにないし、《咬竜戦》の許可を貰えるかしら、理事長?」
自ら作り上げた状況で、ぬけぬけと言い放つリーリス。
「……随分と唐突な話ですのね。理由をお聞かせ頂きたいですわ」
「終わったらでいいかしら」
理由を口にするつもりが無さそうな黄金の少女。
「まったく……。貴方の気まぐれは本当に困ったものですわね」
九十九朔夜は小さく嘆息し…。
「わかりましたわ。今から《咬竜戦》を行うことを特別に許可します」
「感謝するわ、理事長。さて、それじゃあ許可も出たことだし…」
ぱちりとウインクをし、リーリスは選抜メンバーの顔を見回す。
「《咬竜戦》、スタートよ‼︎」
そこからは殆ど一方的な殲滅であった。リーリスの《銃》が向かってくる二年生達に向けられ、次々と討ち取られていき、ものの一分で全滅してしまった。
「ジャスト一分ってところかしら」
リーリスは不敵に笑い___。
直後《咬竜戦》の終了を知らせる銃声が格技場に響き渡った。
「残念ながら一分と六秒ですわ」
「あら、それは残念」
むしろ愉しげに返すと、リーリスは(銃》を《焔》と化して四散させた。その様を来賓席から見下ろしたまま、漆黒の少女がリーリスへ語りかける。
「《咬竜戦》とは、一年生にとって戦略次第では格上の相手と互角に闘うことが出来ると___ときには倒すことすら可能だということを経験させるためのものですの」
「ええ、知っているわ」
こともなげに返す黄金の少女に、理事長は眉をひそめる。
「ならば何故このように貴女一人で、しかも本来の日程を崩して《咬竜戦》を行うことを希望したのか、約束通り教えて頂きたいですわ」
「パーティーを開きたいのよ」
「……どういうことですの?」
「クラスメイトと親睦を深めるためのパーティーを開きたいって言ってるの。それも大々的に」
「それがいったい《咬竜戦》とどのような関係がありますの」
「だってしょうがないじゃない。会場を借りようとしたら、《咬竜戦》の日程と被ってたんだもの」
「……つまり貴女は個人的な理由で《咬竜戦》を早くに済ませたかったのですわね」
「ご明察。話が早くて助かるわ」
ぱちりとウインクをするリーリスへ、理事長は嘆息する。
「まったく……困ったことをしでかしてくれましたわ……。後日改めて同じ内容のものを行うか、それとも別の何かを用意するか……。頭が痛い話ですわ」
「それなら問題ないわ」
いったい何がだろうかと、格技場内にいる誰もがリーリスの言葉に耳を傾ける。
「あたしの実力は見ての通り、彼ら二年生の選抜メンバーを凌いでるわ。戦略次第では格上の相手を倒すことも可能と言うのなら……それを見せてくれないかしら?」
「……なるほど。つまり貴女はダンスパーティーを催すということですのね」
「ええ、そうよ。あたしたちは踊るの。着飾るは《焔牙》で、流れる楽曲は剣戟となるダンスをね」
「くはっ、とんだじゃじゃ馬お嬢様だな」
小さく口にした言葉とは裏腹に、笑みを浮かべる月見。
「そうね、曲名は___ 」
「ちょっと待ちなリーリス・ブリストル」
リーリスが何か言おうとした瞬間、観客席から悠斗が闘場へと降りてきた。
「ゆ、悠斗くん!?」
突然のことにみやびは驚きを隠せずにいた。
「何かしら、天峰悠斗」
「随分と舐めたことをしてくれたな…」
「舐めたこと?」
悠斗の言葉にリーリスは疑問を持った。すると、
「二年生との闘いスゲー楽しみにしてたんだぞ!!スタンドプレーも大概にしろぉぉ!!」
その怒りの言葉にリーリスは一瞬ぽかんとしたがその後、クスリと笑うと
「その謝罪ならさっき言ったダンスパーティーでしてあげるわ。それに、貴方とは闘いたいと思っているのは事実だし」
「…俺を含めたクラス全員を倒すってのか?」
「そのつもりよ」
悠斗はリーリスのその自信を持った言葉に少し納得がいかない様子だったが
「…良いぜ。その喧嘩敢えて買ってやるよ。俺たちの力見せてやる」
「見せて貰うわ。そうそう、さっき言いそびれたけど曲名は…
「《生存闘争(サバイブ)》」
闘いのタイトルが決まった。
生存闘争始まります。