アブソリュート・デュオ〜銀狼伝〜   作:クロバット一世

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いよいよ悠斗の試合です


43話 天才

試合まで間も無くの一室で正堂院律(せいどういん りつ)が前の試合を振り返っていた。

 

土壇場での梓の反撃、あれは完全に自分の油断であった。

 

油断、自分がもう二度としないと誓ったのに………

 

「我ながら………恥ずかしいわ………後輩に偉そうに言ってたくせに………」

 

 

 

 

彼女は、入学以前の幼い頃から天才であった。勉強もスポーツも自分より上の人は男女問わずいなかった。実家の道場でも兄弟や門下生よりも優秀で中学2年には家に代々伝わる弓術の奥義以外の技を会得してしまっていた。

 

 

『つまらない………』

 

 

律はそう呟いた。自分が簡単に出来ることにみんなが苦悶する。なぜ出来ないんだろう?とまで思っていた。

 

 

 

 

しかし、祖父はそんな律を「未熟者」と言って一向に奥義を教えてはくれなかった。

 

 

『おじいちゃん、なんで奥義を教えてくれないの?私が他の門下生よりも優秀なのはわかるでしょ?』

 

痺れを切らした律は祖父に苛立ちながら問い詰めた。

すると、

 

『律、お前は確かに天才だ。だが今のお前は正堂院流弓術の奥義を伝授するには脆すぎる。』

 

訳がわからなかった…自分が優秀なのは知っているはずなのに………私の何処が脆いのか………

 

『広い世界を見てきなさい………そうすれば自ずとわかる………今のお前には………』

 

 

 

祖父の言葉の意味が何もわからないまま律は中学3年生になり進路を決める時期になっていた。

とりあえず推薦のリストにある弓道の強いところにでも入ろうかな…とパンフレットを読んでいると、ふと1つの学校が目に入った。

 

昊陵学園____一般の高校と違い、特殊技術訓練校という面がある。

この学校で教わる特殊技術とは、戦闘技術。 平和な日本において、日常必要としない術を教えるという非常に特異な学校とのことらしい。

 

さらに調べて見るとこの学園に入学すると、《超えし者》という超人になることが出来るらしい。

律はその超人になれるという話に興味が湧いた。それに、戦闘技術を学ぶ学園というのも自分好みで気に入った。そう思った律は迷わずこの学園を選んだ。

 

そして入学式、突如行われた《資格の儀》でも自分の対戦相手を難なく撃破し入学資格を勝ち取った。訓練も投与された《黎明の星紋(ルキフル)》の影響もあってなのかこなしていき、はっきり言ってここでも自分の優秀さが分かってしまった。

 

 

しかし、そんな彼女は《新刃戦》にて知ってしまった、「世界の広さ」というものを、

 

 

《新刃戦》当日、向かってくる相手を5組ほど倒した頃、その2人が現れた。

 

獅子戸王貴と兵藤仁哉、いつも互いに競い合っている絆双刃である2人であった。

 

『次は貴方達ね?倒してあげる♪』

 

誰が来ようと関係ない、向かってくる敵を倒す。たったそれだけのシンプルなことだ。そう思った。

 

『………仁哉、彼女は僕1人で行くよ。君は絆双刃の足止めをお願い』

 

『あいよ』

 

突然、王貴が静かな口調でそう言った。それは『彼女は自分だけで充分』と言われたようであった。

いや、そうでなくても明らかに舐められている。そう確信した。

 

『………舐めないでくれる?』

 

律はそんな彼に腹が立ち戦闘態勢に入った。

 

(甘く見られたものね………私の力思い知らせてあげる!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なにが………起こって………?』

 

気づいたら自身の体が地面に倒れていた。立ち上がろうとしても体が動かずこの時、自分が斬られたのだと気づいた。

 

『君が強いことは分かってたよ……けど…君、自分の負けるところを考えたこと無いでしょ?相手を舐めてるよう人には僕は負けないよ』

 

霞れていく意識の中で王貴の声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めたベットの上でハッキリと分かった。自分は負けたのだと、それもなすすべもなく、斬り伏せられたのだと、今まで一度も負けたことがなく、いつもみんなの上に立っていた自分が…

 

その時、かつて祖父が言っていた言葉を思い出した。

 

 

 

『今のお前には…驕りや慢心がある。自分が負けるはずが無い、自分は天才である。その思いが悪い方向へと向かっている。自分に自信を持つことは極めて大事だ。だが過ぎた驕りは身を破滅させる。律、お前はもっと広い世界を知り自分の弱さを知らなくてはならん……それが出来ないようなら……お前には正堂院流を継ぐ資格は無い……』

 

 

 

『なによ……私……全然弱いじゃない……なに偉そうにしてたのよ……』

 

涙が溢れんばかりに出てきた。自分がお山の大将だったこと、自分の弱さに全く気づけていなかったこと、なにを偉そうにしていたのか……そんな自分が惨めでならなかった。

 

 

こうして己の弱さを知った律はその後、今までをはるかに超える量の鍛錬を今まで以上の気迫で取り組むようになった。敗北を知り、一から魂を鍛え直した律はその後メキメキと頭角を現し、ついに学園のトップ3にまで登りつめた。

その後、律は実家にて祖父より改めて奥義を伝授されることになった。

 

 

 

 

 

 

「……あの日からずっと慢心せずに鍛錬していたつもりだったのに……心のどこかで相手を侮っていた……その結果ぎアレだ……気を引き締めていかないと……」

 

決して相手を過小評価していたわけではなかった。しかし、確かに心のどこかにスキがあった。そこを突かれて流れを乱されてしまった。次は無い。そう自分に言い聞かせた。

 

「それに……あの天峰悠斗……間違いなく実力は王貴に近い……」

 

かつて自分を一撃で降した学園生徒唯一の《Ⅴ》獅子戸王貴、天峰悠斗からは王貴にも匹敵する気迫を感じた。

 

「でも負けない」

 

相手の強さを侮らず、しかし勝利を決して疑わない……自分の目指す道の為に……

 

 

 

 

 

 

「……よしっ準備OKだ」

 

一方その頃、悠斗も準備を終えていた。

 

「相手は俺と同じ《能力持ち》……相手にとって不足無ぇ……」

 

悠斗は正堂院律の力を観てその強さに感服していた。だからこそ、それほどの手練れと戦えることに強い喜びがあったのだ。

 

「あの人の《焔牙》は《洋弓》……一気に間合いを詰めるべきだな……だけどあの人は接近戦もかなりの実力だった……一筋縄じゃいかなそうだな……」

 

悠斗は今回の対戦相手の律について考えた。彼女は間違いなく弓の使い手としては今まであった中でも最強であった。悠斗の戦闘スタイルは《長槍》の射程(リーチ)と自身の機動力を活かしての接近戦である。

しかし、彼女の《焔牙》は《洋弓》、射程では明らかに不利であった。

 

「ゆ……く…」

 

とすればやはり矢を射る前に間合いを詰めて畳み掛けるのがベストだろう……

 

「ゆう…くん」

 

しかし、梓との闘いで分かったように彼女は距離を詰められた時の対策も万全である。迂闊にスキを見せれば間違いなくやられるだろう……

 

「悠斗くんっ!!」

 

「うおっ!?」

 

突然大声が聞こえそちらを向くとみやびが心配そうに見つめていた。

 

「あ……ゴメンみやび。ちょっと考え事をしてて……」

 

「ううん……こっちこそビックリさせてゴメンね……もうすぐ時間だから呼びに来たんだけど……」

 

そう言われて時計を見ると確かにもうすぐ時間だあった。どうやら相当考え込んでいたようだ。

 

「次の相手は少なくとも《焔牙》での戦闘は俺より遥かに上だからな……色々考え込んじゃって……」

 

すると、みやびは心配そうに悠斗の手を握った。

 

「無理だけはしないでね、悠斗くんの体が1番大事なんだから……」

 

「みやび……///////」

 

その言葉に悠斗は顔を真っ赤に染めると……

 

 

ギュッ

 

 

「ふえっ!?///////」

 

みやびを思いっきり抱きしめた。

 

「ゆ……悠斗くん!?///////」

 

「ゴメン……みやびを急に抱きしめたくなって……」

 

(なんて……なんて優しいんだみやびは……こんな素敵な人が俺の恋人でなんて幸せなんだ俺は!!)

 

「心配すんなみやび、ゼッテー勝ってくる」

 

そう言うと悠斗はまっすぐと会場へと歩き出した。

 

 

「……負けらんねぇな……俺」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ただいまから、1年《Ⅳ》天峰悠斗対3年《Ⅳ》正堂院律の試合を開始します。両者は舞台中央へ来てください』

 

三國のアナウンスを聞き、悠斗と対戦相手の律が格技場中央に来た。

この試合を制したほうが決勝トーナメントへと進むことができる。

しかも、今回は互いが《Ⅳ》、つまり煉業(リヴォルト)の使用が可能となる。お互い本気のぶつかり合い、両者ともに凄まじい気迫であった。

 

「先輩……悪いですけど勝たせてもらいます。」

 

悠斗は迷いのない鋭い目で律を見つめてそう言った。

 

「そっちはやる気満々だねん。けど、私だって負ける気は皆無だからそのつもりでね♪」

 

対する律も同様に戦闘準備は万全のようである。

 

「天峰君私ね、最初に貴方達を目にした時から……ずっと想っていたんだ……「彼らと闘いたい」ってね!!」

 

そう言うと律は自身の《焔牙》である《洋弓》を具現化させ構えた。対する悠斗も自身の《焔牙》の《長槍》を具現化させた。

 

「それは俺も同じです先輩……貴方達と闘い……勝利したい……それに、もう1つ負けられない理由がありますので」

 

「みやびちゃんのことでしょ?」

 

「その通りです」

 

「なんだか王貴が告白したみたいだけどゴメンね、彼って一度決めたこと曲げない頑固なところあるのよ」

 

「関係ありません…誰が来ようとみやびは渡しませんから」

 

悠斗ははっきりと言った「みやびを渡さない」と、それを見て律も笑みを浮かべた。

 

「それじゃあ互いの腹の中も分かった事だし」

 

「あとは闘いで決着をつけますか」

 

そう言うと互いに臨戦態勢に入った。

 

『両者、試合開始!!』

 

「いくぜっ!!」

 

三國の試合開始の合図と同時に悠斗は律へと猛スピードで突進した。

 

(下手に距離を詰められたら厄介だ……一気に距離を詰める!!)

 

「狼王一閃!!」

 

そして間合いに入った悠斗はそのまま律へと強力な突きを繰り出した。

 

 

 

 

 

 

「そうくると思った!!」

 

「んなっ!?」

 

瞬間、律は退がるどころかこちらに向かってきた。あまりの行動に悠斗に一瞬隙ができてしまった。

 

「最初の読み合いは私の方よ」

 

そして律は悠斗の《長槍》を見切り腕を両手で掴むと

 

「せいやぁ!!」

 

「がぁっ!!」

 

渾身の一本背負いによって悠斗は地面に叩きつけられた。

 

しかし、悠斗も受け身を取る事でダメージを抑えすぐに律の手を振り払い起き上がった。

 

「貴方なら最初から一気に間合いを詰めてくると思ってたわ、だから私もあえて距離を詰めたってわけ」

 

「……今のは完全に読みを外しました……それなら……」

 

悠斗は選択を誤ったことを反省しながら確信した、最初の から本気でいかないとやられると、

 

「天に吼えろ________《覇天狼(ウールヴヘジン)》!!」

 

悠斗の《力在る言葉》と共に悠斗は銀色のオーラに包まれ額から白銀の炎が現れた。

 

「おりゃぁ!!」

 

「ぐっ!?」

 

悠斗は先ほどよりも遥かに速い速度で律に攻撃を繰り出してきた。その速度に律は慌てて回避するも《長槍》が横腹をかすめてきた。

 

「それが貴方の煉業……そこまで速くなるとは思わなかったわ……だから……見せてあげる……私の煉業をね!!」

 

瞬間、律の《洋弓》が輝き出し律は光り輝く矢を構えた。

 

 

 

 

 

「疾り穿て________《烈風射(アタランテ)》!!!」

 

 

 

 

瞬間、悠斗が危険を感知し、真横に回避すると、目にも留まらぬ速さで矢が放たれ悠斗の真横を通過した。

 

「な……速すぎる……!!」

 

あまりの速度での攻撃に悠斗は驚愕した。

 

「驚いた?私の《烈風射》は単純に矢の速度をあげるだけだけど……その威力は強力よ、すごいでしょ?」

 

再び矢を構えて律は笑みを浮かべながらそう言った。

そして悠斗も……

 

 

 

 

 

 

「……良いねぇ……そうこなくっちゃ……」

 

 

 

予想以上の強敵を前に喜びを隠せずにいた。

 




少し長くなりましたが……いよいよ始まりました、悠斗VS律!!

高速の矢の射撃に悠斗はどう挑むのか……





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