ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー 作:タトバリンクス
そんなわけで二章最終回お楽しみください。
1
彼女と初めて会ったのは希の紹介だったわ。
何でも凄く有能な後輩を見つけたから、次期生徒会長候補として、この子が良いんじゃないかってことで、一人の後輩を紹介された。
多分理由なんて特に後付けで、ただ紹介したかっただけかもしれないけど、希は彼女を生徒会に連れてきた。
それが当時から少しずつ有名になりつつあった篠原沙紀さん。
どうしてそんな彼女と知り合ったのか経緯は知らない。当時の私は興味が無かったのと、そんなことは気にしてなかったから聞いていない。
私の中での最初の第一印象は眼鏡に三つ編みって、いかにも文系の優等生って思ったわ。
実際に私の印象通りだったのだけど、ただ一つ違っていたのは文系の優等生じゃなくて、完璧な優等生だってこと。
そう思ったのは、とりあえず紹介してもらって、すぐのことだったわ。一先ず生徒会の仕事を見学してもらうと、彼女はすぐに仕事の内容を把握して、その日の内に生徒会の仕事を覚えてしまったの。
それどころか、効率よくスムーズに仕事が進むように手伝いをして、仕事が一通り終わると、目の前にお茶を用意してくれる気遣いまでしてくれていたわ。
篠原さん協力のお陰で、仕事が予想以上に早く終わり、時間が出来たから彼女と話してみると、性格も良くって、話しやすく、自分の才能に鼻に掛けることなく、非の打ち所の無い優等生だと分かった。
そんな経緯もあって彼女は、その日からよく生徒会の活動の手伝いをするようになったわ。
何回か生徒会の活動をしていく内に、非の打ち所の無い優等生ってだけではなく、別の一面が見られるようになったりしたわ。
よく希が私をからかったりするのだけど、篠原さんも希と一緒にからかう事も度々。けど、割りと可愛くてお茶目なからかい方をするから、ちょっと可愛いと思ってしまう。
だけど、たまに彼女が私を見ていると、彼女から何故かピンク色のオーラ(?)みたいなものを感じるときがあるのだけど、多分私の気のせいだと思う。
基本的に彼女が手伝うのは、書類の整理や備品の整備など、雑務が多い。たまに議会で出た議題について助言をくれて、それが現実味もある的確な助言をくれたりするわ。
だからこそ、篠原さんが、スクールアイドル活動をして廃校を阻止しようとする彼女たちに、協力するのか分からなかった。
素人がそんなことをやったところで、人に見てすら貰えない可能性やそもそも上手くなるかどうか分からない。
どう考えても現実味はない。
そんなことに協力している篠原さんがどうしてなのか知るために、穂乃果さんの活動を見学することになったのだけど、結局まんまと篠原さん、そして希に、乗せられて私もアイドルを始めることになってしまったわ。
けどどうしてか悪い気はしないわ。希の言う通りやりたいからやってみる。篠原さんは好きに理由はない。そんな風に単純で良いのかもしれないわ。
私はこうしてスクールアイドルを始めようとしたのだけど、影の功労者である篠原さんは何故か……。
教室で椅子にロープで巻き付かれて拘束されてしまっていたの。
2
待って、状況が全く理解できないわ。篠原さんの眼鏡が外れた姿を見たら、急に一年生の小泉花陽さん(だったかしら)が急に叫びだして、篠原さんはその場から逃走しだしたわ。
けど、足取りが覚束なくって、すぐに他のメンバーに捕まり、何処からか持ってきたロープで、篠原さんを縛り付けてしまい、花陽さんは何処かへ駆け足で向かって、今に至るのだけど。
「これは……一体……どうして篠原さんは縛られてるのかしら」
「念のためです。沙紀が暴走しないように」
私には何故篠原さんが縛られているのか、理解できなかったから、近くに居た海未さんに理由を聞くと、海未さんはそう答えたわ。
何故か、暴走辺りで、言葉に重みがあって、ちょっと怖かったけど。
「ちょっと待って──私には何が何だか理解できないんだけど……」
念のため? 暴走? 本当に何のことなのか分からないんだけど、
「まあ、エリチは今は分かんないんやろうけど、それは追々分かるやろ。嫌ってほど……」
「そうですね。ここに居ると、分かってしまいますよね。嫌ってほど……」
私以外のメンバーは海未さんと希の会話を聞いて、共感したのか、頷いたり、苦笑いだったりの反応をしているけど、私には全く何のことか分からなかった。
何なのかしらこの疎外感は。今日入ったばかりだから仕方ないけど、少し寂しいわね。
「そこが沙紀ちゃんの良いところだよね」
「うんうん。見てる分には楽しいよね」
「でも巻き込まれた時はめんどくさいにゃあ」
「そうね。実際に何人か被害に遭ってるし」
穂乃果さんを含む他のメンバーも篠原さんに対して、そんなことを言ってる。
「けど、委員長ちゃんがここまでされるのは結構なことやね」
「絵里先輩と希先輩は今入ったばかりだから、知らないんですよね」
ことりさんが私と希にこの状況について経緯を説明してくれた。
少し前に花陽さんが眼鏡を外した篠原さんの姿を偶然目撃して、その顔がアイドルの顔にそっくりだったから、本人じゃないのか、聞こうとしたみたい。
それで篠原さんを探して、他のメンバーに聞いて事情を説明したら、みんな気になり篠原さんを見つけて、聞き出そうとした。
本人は違うと否定したけど、手っ取り早く、眼鏡と三つ編みを取ろうとしたら、篠原さんが暴走して、海未さんに被害が及び、何か聞ける雰囲気じゃなくなって、水に流されたそう。
「何と言うか、委員長ちゃんらしいやん」
ここまでの経緯を聞いた希は、何処か納得したような感じで言うけど、私には理解できない。
それに海未さんに被害があった言うだけで、実際何があったのかは言葉を濁していたし、チラッと海未さんの顔を見ると、何となく恥ずかしそうにしてたりと、分からないことが理解できないことが多い。
それにしてもさっきから私……理解できないとか、分からないこと多すぎよね。
そんな風に考えていると、何処かへ行っていた花陽さんが色々と持って戻ってきた。
「真姫ちゃん、持ってきたよ。これが当時の如月ちゃんの写真と、あと真姫ちゃんに言われて調べておいた如月ちゃんのプロフィールだよ」
「ありがとう花陽」
戻ってきた花陽さんは、手に持った写真とノートを真姫さんに手渡して、真姫さんは持ってきたお礼を言う。
「やっぱり本当にそっくりだよね」
花陽さんは持ってきた写真と篠原さん本人と、見比べながらそんな感想を口にする。他のメンバーも気になって、写真と篠原さん本人と見比べ始めた。
私も気になったので、写真と見比べると、やっぱり似ている。
写真の方は、何処か冷めた目をしていたり、少し幼かったりするけど、今の篠原さんと見比べてみると、その面影があり、髪型も同じだから本人としか思えない。
「正直、前回は水に流されたけど、今回は証拠もあるんだから言い逃れは出来ないわよ」
前の話を聞く限り、似ているだけで、確証は無かったのと、水に流されずには終えない状況だったらしいけど、今回は違うみたい。
「この前のカラオケやダンスの時だって、貴方がこの中で誰よりも上手かったわ」
そうなの。みんなとでカラオケ行ってたのね。私行ったことがないから、よくは分からないけど、そこで点数を出せるなんて、流石は篠原さんね。
「そうそう──この前のカラオケのとき、沙紀ちゃん上手かったよね。みんなと違って、練習してた訳じゃないのに」
「ダンスだって、その日の最高得点だったもんね」
ダンスも上手かったのね。と言うかどうやってダンスは競ったのか分からないけど、その日の最高得点言うならどのくらいの実力なのかしら。
実際に見たことないから分からないけど、この話を聞く限り、今日私に勝負を仕掛けてきたのは、強ち勝算無しで挑んできた訳じゃないのね。
「それに花陽が言ってたわ。貴方の声も歌い方も星野如月そっくりだったって」
真姫さんにそう言うと、花陽さんも頷いて、その通りだと伝えている。
「ああ!! この眼鏡、伊達眼鏡だあ!!」
凛さんが机の上に置いてあった篠原さんの眼鏡を掛けて遊んでいると、そんなことに気付いた。
凛さんの言う通り、篠原さんの眼鏡が伊達眼鏡だということは、つまり変装の為に使っていた可能性が出てくるわね。
「また証拠が増えた訳だけどもう一つ……好みとかははぐかされそうだから、誕生日は? ちなみに星野如月は7月25日よ」
真姫さんが好みを聞かずに、誕生日を聞いたのはたとえ嘘を付いたところで、学生証を見れば、生年月日は分かるからだと思うわ。
それにしても、どうして真姫さんは、そこまで篠原さんや星野如月の事を調べているのかしら。何か合ったのかしら。
「……7月……25日……」
嘘を付いても無駄だと理解したのか篠原さんは──ボソボソと小声で、正直に答えると、星野如月と同じ誕生日だったわ。
「同じ……やっぱり……」
「いや、もしかしたら双子って可能性も……」
確かに誕生日が同じなら双子って可能性は捨てきれないわ。ただ篠原さんに姉妹がいるのか、知らないから何とも言えないけど。
「多分、違うと思います。私、沙紀が自分は一人っ子だって聞きましたから」
そんな疑問に海未さんはそう答えた──どうやら篠原さんから直接聞いていたみたいだけど……。
「嘘付いてる可能性は……」
ここまで隠していたとなると、嘘を付いていてもおかしくないけど、私が知っている篠原さんは、そんなことをするとは思えないから、何とも言えないわ。
それは他のメンバーも同じみたいで、篠原さんが嘘を付くとは思えない雰囲気が何となく伝わってくる。
「それはない。委員長ちゃんは一人っ子だと断言できる」
そんな中、そう確信を持って答える希だけど、何処か悲しそうな感じが、その言葉から伝わった。
「けど、もう良いんじゃないかな。委員長ちゃんも言いたくないこともあるやから」
希の言う通りかもしれない。ここまで誰にも言わなかったのは何か理由があるかもしれないのに、無理矢理言わせるのは良くないと思う。私も止めるべきと言おうとすると──
「いいよ。大丈夫だから……」
今までずっと質問以外黙っていた篠原さんがそう言って、希や私が何か言おうとするのを止めさせる。
「そうだよね……流石に今回は言い逃れも水にも流せないよね──なら仕方ないか」
ボソッと小声でそう呟くと、篠原さんは目を閉じて、大きく深呼吸をすると──
「そうよ。私が星野如月よ──それで何か文句あるかしら」
彼女は自分が星野如月だと認めた。ただ、今までの篠原さんと違って、冷たい瞳、冷淡な口調、無情な表情をして、これまでの彼女とは、全く正反対の雰囲気になっていた。
そして、誰もがその真実、篠原さんの豹変に驚いているなか──
「その──サイン貰って良いですか!!」
篠原さんに向かって、そんなことを言う花陽さんだった。
3
「はい、これで良いかしら」
篠原さんはサイン書くのを引き受けると、取り敢えず縛られたロープをほどいて貰い、花陽さんから色紙を受け取ると、スラスラと書いて、彼女に色紙を手渡す。
「ありがとうございます。はぁ~、如月ちゃんの直筆サインだあ」
篠原さんから色紙を受け取ると、花陽さんはとても大事そうに色紙を抱えながら、嬉しそうな表情をする。
「そんなに嬉しいの? サイン貰えて?」
「あっ、絵里先輩……かよちんのスイッチ押したにゃ」
何て私が花陽さんに聞くと、凛さんがそんなことをボソッと口にして、何のことか分からないけど、今度は突然花陽さんの表情が豹変する。
「もっちろん──嬉しいに決まってるじゃありませんか!! あの星野如月ですよ」
今までの大人しい彼女とは掛け離れた大きな声で、私に向かって、そんなことを言い始めた。
私は突然の豹変に戸惑って、他のメンバーに助けを求めると、他のメンバーも諦めろと言いたげな表情をこちらに向けている。
このあと私は花陽さんから星野如月について語られて、彼女のことが少し詳しくなったのは別の話。ちなみに語り終えた花陽さんは何処か満足げな表情だった。
「で? 本人を目の前によくもそう語れるわね」
何て気だるげにそんなことを言う篠原さん。それどころか机に顔を付けて、体勢からやる気のない怠そうな感じが伝わってくる。
「はぁっ──うっ!!」
篠原さんの指摘に気付いたのか、花陽さんはそんな風に驚いて、恥ずかしそうにそそくさと教室の隅に移動する。
そんな花陽さんを篠原さんは、何処か興味なさそうな感じで見ていた。
「えっ……と……沙紀ちゃん?」
「何?」
恐る恐ることりさんが篠原さんに声を掛けると、篠原さんは冷たい目線だけを動かして、冷淡に答えた。
「怒ってるの?」
そんな風に聞きたくなるのは分からなくもない。篠原さんに無理矢理言わせたから、そんな風に今までの篠原さんとは真逆の感じで、自暴自棄になっているかもしれないと思わずにはいられない。
「別にそうじゃないわ。ただ星野如月だとこうなるだけ──知ってるでしょ、私、演技は上手いって、つまりそういうことよ」
「なるほど!! 確かに沙紀ちゃんならそれで納得だよ」
そんな風に適当な感じで篠原さんが答えると、穂乃果さんはそんな風に納得してしまった。
「えっ!! それで納得できるの!?」
『はい(うん)』
「ハ……ハラショー……」
私の疑問に全員が即答する姿に思わず、口癖が出てしまった。
「じゃあじゃあ、聞いていい? 何で今まで自分がアイドルだって言わなかったの?」
どうやら篠原さんの今の状態が演技だと分かった穂乃果さんは、彼女に質問し始める。
「別に言っても良かったわ。けど自分からアイドルだって言うのは馬鹿じゃない」
「確かに……」
そうね、自分からアイドルだって、言うのは何と言うか自意識過剰過ぎて、本当にこの人アイドルなのか疑っちゃうわよね。
「それに希先輩が裏で色々としてたの聞いたから、余計な事をして、計画が狂わないようにしたのよ」
どうやら篠原さんは、希に今回の事の話を聞いていて、それで彼女は、自分がアイドルだと不都合になると思ったみたいで、黙っていたみたい。
「じゃあ何で音ノ木坂に?」
「それは本当に偶然。何となく選んだだけよ」
「じゃあ何でアイドル研究部に?」
それは確かに気になるわ。本物のアイドルである篠原さんが、何でここでマネージャー何てしているのか。
「これも偶然。たまたま部室の前を通り掛かると、にこ先輩が入部希望と勘違いしたのよ。そうですねにこ先輩」
「そうよ……」
そうにこに話を振ると、にこはそう答えた。そういえばさっきから彼女の声を聞いてなかったのは、気のせいかしら。
「私は一度断ったのだけど、すぐに正体がバレて、サインをせがまれたわ」
「かよちんと同じにゃあ」
「と言うかにこ先輩、沙紀ちゃんがアイドルだって知ってたの!?」
今の話が本当なら、にこは昔から篠原さんがアイドルなのを知った上で、アイドル研究部に入れたことになるけど──まさか、そんなことないわよね。
「そうよ。それでいて何か図々しくも私にアイドル研究部に入らないのかって、言ってきたわ」
「それは確かに図々しいわ」
まさか、本当にそうだと思わず、うっかりと口に出してしまった。
「流石はにこ先輩だね」
「それってどういう意味よ」
「私はその図々しいさに惚れて、マネージャーとしてこの部に入ったのよ」
「なるほど、それでにこ先輩へのアプローチが高かったんだね」
何か篠原さんから変な単語が混ざっていた気がするけど、誰もが何も反応しないから私の聞き間違いよね。
「じゃあ……何でアイドル活動休止にしたのかしら」
「本当にシンプルよ」
真姫さんがある意味核心的な質問をすると、篠原さんは、少し間を開けてから答えた始めた。
「ただスランプになっただけ……ただそれだけよ」
今まで冷淡だった篠原さんの言葉に、何処か悲しくて辛そうな風に聞こえたのは、気のせいではないと思う。
「理由は……まあ……周りの期待からってところ」
花陽さんが散々語っていたけど、篠原さん──星野如月は、すごいアイドルだったから、その期待は、プレッシャーは、きっと私たちの想像も付かないようなものなんだわ。
何となく私も彼女の気持ちは分からなくもない。私も篠原さんほどでは無いが挫折した経験がある。
「そのせいで上から休止しろと言われて、今に至るわけ」
その言葉にも何処か悔しそうな気持ちが伝わってくる。
「正直、あのカラオケの時だって歌いたくはなかったんだけど……、どっかの誰かが私を乗せようとするからやむ無くね」
そう言って篠原さんは、冷たい目線で真姫さんの方を見る。どうやら真姫さんは篠原さんを無理矢理歌わせたみたい。
その証拠に真姫さんは、篠原さんと目線が合うと、目線をずらしてそっぽを向いた。
「まあ、でもスランプな状態であの点数が出るのは流石は私ね」
スランプな状態で歌わされたのにもかかわらず、気にしてない様子で、それどころか自画自賛する辺り何か余裕がある感じがするわ。
これが本物のアイドルの格の違いなのかしら。
「これで十分でしょ。聞きたいことは聞けたでしょ、それに……今の私は……」
多分みんなが聞きたかった質問を大体聞いて答えた篠原さんは、ここで区切りにして、体を起き上がらせて、目を閉じて──
「音ノ木坂の一生徒で、『白百合の委員長』ですし、それで……」
何時も私が生徒会で感じる優等生な感じの雰囲気に一瞬で切り替えて、口調も何時もの篠原さんに戻り、更に──
「今はアイドル研究部のマネージャー、そしてμ'sのマネージャーだからね」
今まで私が知っている優等生な感じではなく、何処か砕けたようなフレンドリーな感じに切り替わった。
「だから、私の正体が星野如月だとか関係なく、何時も通りに接してくれたら嬉しいなあ」
何処か恥ずかしそうにそんなことを言うと、その篠原さんの表情を見たメンバーは──
「もちろんだよ。これからもよろしくね」
「そうですね。たとえ、沙紀がアイドルだとしても沙紀は沙紀ですし」
「それにプロのアイドルが私たちの練習を見てくれてるとなると心強いよね」
「本当ですよ!! あの星野如月直々に教えて貰えるなんて、こんな機会普通じゃあ有り得ないですから!!」
「かよちんが何時なく興奮してるにゃあ……」
「そうね。確かにスゴいことだけど、私たちが頑張らないといけないわ」
「エリチの言う通りや。委員長ちゃんがいくらスゴイアイドルだとしても、ステージに立つのはウチたちやから」
「そうね。私たちがやらないといけないわ」
そんな風に私たちが篠原さんに対して受け入れた言葉を言ったり、今後のことで言っている声を聞いて、篠原さんは何処か嬉しそうな顔をして──
「それじゃあ、これからもよろしくね」
言って立ち上がると、立ち眩みあったのか、急にフラッと倒れ始めて、その方向にはある人物がいた。
「えっ!?」
急な出来事に対応できなかったその人は、篠原さんと一緒に巻き込まれる形で倒れこんで、私たちの視界から消えた。
「これって……まさか……」
「うん……」
みんなが篠原さんと倒れた人物に対して、嫌な予感を感じながら、ゆっくりと二人の方へ歩いていくと、そこには──
篠原さんと巻き込まれた人物──海未さんが倒れた勢いで口と口が重なって……キスをしていた。
「あっ、あっ、あっ、ヤバイ、ヤバイ。今度こそ殺されるよ……助けて!!」
『まあ、うん。頑張って!!』
そんな風に焦ってる篠原さんに対して、みんなが同じタイミングで完全に篠原さんを見捨てたような事を言った。
「そんな!!」
今にも泣き出しそうな声でみんなに助けを求めようとする篠原さんは海未さんから反応を怯えながら待つけど、何時までも何もなく、みんなが不思議に思って海未さんの方を見る。
「あれ? 海未ちゃん……気を失ってない?」
「何か何処となく幸せそうな顔をしてるけど」
そんなわけで海未さんは気を失っていたことが分かり、何とかこの事件を有耶無耶にしたまま事を終えた。
しかし、そんな騒動がありながら、星野如月の話題の時には殆んど反応がなく、ただ一人黙っていた人物が居たことに、私たちは誰もが気づかなかった。
4
「エリチ、何か機嫌良さそうやね」
私はアイドル研究部の部室に向かって、ゆっくりと廊下を歩いていると、一緒に向かっていた希にそんな事を言われたわ。
「希だって、機嫌良さそうに見えるけど」
「そうやね。ウチもやね」
希に同じことを言うと、そう返されて、それだけで自分たちが機嫌が良い理由も大体理解したから、思わず互いに笑ってしまったわ。
「やっぱり……エリチも今日のライブが上手くいったんと思ってたの?」
「そうよ、やっぱり希の思ってたのね」
どうやら希も何故私の機嫌が良かったのか、大体見当がついていたみたいで、それを確認すると、私も同じことを思っていたのが分かり、さらに笑いが込み上げてくる。
私がμ'sに入って、篠原さんの正体が、アイドル──星野如月だと、バレてから二週間近くが経って、オープンキャンパス、つまりライブの日を向かえたわ。
ライブの結果はさっきも言ったように、私たちが思うには、大成功だと、思ってるわ。
実質お客さんも結構来ていたし、何より見に来てくれたお客さんが楽しそうに私たちのライブを見てくれていたから。
あのライブでステージの上に立って、色々と思うことはあるわ。けど、この辺については、話したい相手がいるから、今は置いておいておくわ。
「しかし急よね……いきなりライブの打ち上げをやろうなんて」
ライブを終えた私たちが今部室に向かっているのは、そんな理由。
言い出したのは穂乃果さんで、本当はそんな予定無かったのに、急にやりたいって言い出したから、急すぎてちょっと戸惑ってたりしてる。
「良いと思うんよ、みんな頑張ったんやから」
「そうね、それにわりとみんなノリノリだったわね」
穂乃果さんが打ち上げをやりたいって言ったときの事を思い出してみると、みんなやろうって声が多かったし、話が淡々とすぐに纏り、それぞれ役割分担して、準備に取り掛かっている訳だし。
「委員長ちゃんに至っては、いの一番に打ち上げの準備に取りかかってたやらね」
希の言う通り、篠原さんは打ち上げやりたいって話が出た辺りから、じゃあ準備してくるって言って、何処かへ消えていったわけだけど……。
「みんな……どれだけ打ち上げやりたいのよ」
「そういうエリチだって部室に向かってる訳だし──やりたいんやろ?」
みんなの反応に対してそんな事を言うけど、希の言うことが正論過ぎてと言うよりも、私も楽しみにしてたから何も言えず、顔を背けると、何やら希がにやにやしているそんな感じがしたわ──いや、絶対にしてるわね。
「でも篠原さんは何してるのかしら? 役割分担する前にいなくなったから」
「エリチ、話剃らしたやろ」
下手にそんな態度を取ってると、希にからかわれそうだから、別の話を始めて話を剃らそうとしたけど、すぐにバレたわ。
「まあいっか、大丈夫や委員長ちゃんなら部室の飾り付けやってるはずやから」
「それってにこが担当してたはずじゃあ……」
確か役割分担する際に、私と希が食器担当で、穂乃果さんたち二年生がお菓子担当、一年生に至っては花陽さんの強い要望で白米担当になって(何故白米なのかしら?)にこは余った感じで決まったようなはずだったけど……。
「もちろん決まってるやん、あの子が何かやらかさないように保険としてやん」
「えっ? あの篠原さんだから大丈夫じゃない」
何か当たり前のようにそんな事を言った希に私は思わず疑問に思ってしまったわ。篠原さんは生徒会の仕事を完璧にこなすからそんな心配する必要ないわ。
「あぁ、うん、そうやね、エリチは分かって無かったから仕方ないんやね」
私が篠原さんの事をそんな風に言うと、希はちょっと困った反応をしたわ。
「あの子……エリチの前で超次元ラップとか訳の分からない事を言ったん気がしてたやけど」
何かボソッと希が小さな声で言っているけど、私には聞こえなくて、何を言っているのか分からなかったわ。
そんなモヤモヤした感じのまま歩いていると、もうすぐで部室が見える距離になり、篠原さんがどんな飾りつけをしてるのか楽しみにしていると、急に扉が開いて、部室から何かが勢いよく飛んで壁にぶつかるのが見えた。
「えっ!?」
突然の出来事に驚いて戸惑っているけど、何よりも部室から飛んできた何かの方がそれ以上に驚いたわ。何故なら──
「し、篠原さん……?」
彼女が何故飛んできた方が全く予想できない事態だったのだから。
そして、同じように篠原さんが飛んできたのを見ていた希は、この状況を見て苦笑いしていたのに、私は気づかなかった。
5
「篠原さん!! 一体……何が……」
余りにも突然過ぎる状況に思考が停止していたけど、私は篠原さんがこんなことになるなんて、相当な事態だと思い、彼女の元へ駆け寄って、彼女の頭を胸の位置まで抱き抱える。
「絵……里……せん……ぱ……い……」
苦しそうに篠原さんが私の名前を呼んで、何かを言おうとしているけど、その姿を見て何かとんでもない事態に巻き込まれたのだと、容易に想像できるわ。
実際に彼女が早退しただけで、多くの生徒が早退するとかと言う事態を引き起こした事もある彼女なら、何があっても不思議じゃないわ。
「エリー、そいつから離れなさい」
すると、部室の方からそんな声が聞こえ、その方向を見ると、にこが部室の扉を閉めてから部室の方から出てきたわ。
「にこ……一体篠原さんに何があったの」
「別に……何時もの事よ」
にこに何があったのか聞くと、そんなことを言って説明になってなく、私には何が起こったのか、全く理解できなかったわ。
「嘘よ、篠原さんがこんなことになるなんて只事じゃないわ、ちゃんと説明しなさいよ」
「いや……なあエリチ……本当に何時もの事なんや、最近無かっただけで……」
私がにこにちゃんとした説明を求めると、希が割って入り、私を止めようとしてきたけど、希も全く説明になってなく、余計に理解できなかったわ。
「それに本当に離れないと危ないから……エリチが」
「何言ってるの希、篠原さんがこんな状態でほっとける訳ないじゃない」
この子は大切なμ'sのマネージャーなのよ。そんな子がこんな状態になっているのにほっとける何て……
「絵里先輩……ホント良い匂いがします、あとお胸様が私の目の前にあって下着も若干透けて見えそう」
出来る訳ない……? 今……この子何て言った?
「あぁ……ヤバイ……憧れの絵里先輩のお胸様が手に触れられる距離にあるとこの気持ちは抑えられない、そんなわけで触らせて頂きます」
「止めなさいよ!! バカ!!」
「アブッ!!」
篠原さんが何かをしようとしていたのを、にこが駆け寄って、篠原さんのお腹に蹴って止めると、その勢いとビックリしたせいもあって、私の腕から彼女の頭が落ちて床にぶつかった。
「全く油断も隙もないわね……希、こいつを一旦エリーから離すから手伝って」
「ホント……相変わらずやね委員長ちゃんは」
そう言ってにこが篠原さんの手を持って、希も篠原さん所まで来て、彼女の足を持ち、手馴れているように私から離して、部室に移動させた。
私も何が何だか分からないまま部室に入ると、部室の中は──
「ハラショー……」
日も沈んでいないのにカーテンを閉め、ライトは何処かピンク色ぽく、それどころか部室一面がピンク色に飾り付けされて、何処かいやらしい雰囲気になっていた。
「ははは……委員長ちゃん……今回も盛大にやってくたやん」
一面ピンク色の光景を見て希は、渇いた笑いをしながら、篠原さんを並べた椅子の上に横にする。
「全くよ、絶対に何かやらかすと思って部室の方に行って正解だったわ」
対してにこはこうなることを予想していたのか、呆れた声で、椅子に座る。
私は予想も出来なかったこの光景と二人の会話を聞いて、かなり頭を混乱させる。
だって今回こんな風に飾り付けしたのは、あの篠原さんで、さらに二人の会話から察するにこんなことをするのが目に見えてたみたい……。
一体……どういうこと?
「私のやること言わなくても分かるなんて、流石はにこ先輩です」
私がこの状況に着いていけないなか、さっきにこに思い切り蹴られた篠原さんが、何事も無かったようにけろりと起き上がってきたわ。
「し、篠原さん……だ、大丈夫なの」
「相変わらず復活早いわね」
「流石は委員長ちゃん頑丈やね」
そんな篠原さんを見て驚きながらも心配するけど、二人は特に心配とかしないで、当たり前の出来事のように──平然と、受け入れていた。
「心配はいりませんよ絵里先輩、頑丈さは私の売りですから、そんなことより……」
篠原さんは二人にそんな反応されてるのにも気にせず、私に大丈夫だと笑顔で答えると、篠原さんはにこの方を向いて──
「やっぱり私とにこ先輩は相思相愛なんですね!!」
この部屋のどんなものよりもピンク色のオーラを出しながら、にこにそんなことを言ったわ。
「いや違うから」
「またまたにこ先輩照れちゃって、絵里先輩や希先輩がいるから仕方ないですね、でもそんなにこ先輩が可愛い、愛くるしい、一線越えたい……」
「これ以上何か言うと、もう一発行くわよ」
「むしろ、ウェルカム!! これも一つの愛!!」
全く状況が整理できてない状態で、さらに篠原さんとにこで私には理解できない会話が続いて、私の頭がどんどん混乱していくと──
「お菓子買ってきた──何これ!! 部室のなかピンクッ!!」
「やっぱりこうなると思ってたよ……」
「にこ先輩を送って正解ですね」
お菓子担当だった穂乃果さんたちが戻ってくると、この部室に現状に驚きながらも、何処か分かっていたような反応をして、部室の中に入っていく。
「とりあえず花陽ちゃんたちが戻ってくる前に、この飾り付け剥がそっか」
「そ、そ、そうですね」
買ってきたお菓子を机の上に置いて、ことりさんは無情に、海未さんは恥ずかしがりながら、篠原さんが飾り付けた飾りを剥がし始める。
「えぇ~いいじゃんこれで」
「良くありません、流石にこれは……は、は、破廉恥すぎます!!」
穂乃果さんは特に気にしていないのか、部室の中を興味津々に見て回るけど、そんな彼女を飾り付けを剥がしながら恥ずかしそうな顔をして叱る海未さん。
「ホント、酷いよ……、私が一生懸命に飾りつけしたこの部屋を勝手に剥がしていくなんて」
すごく悲しそうな声で訴える篠原さんだけど、彼女は何故かにこに踏みつけられていた。
「そ、そうよ、篠原さんだって少し変だけど、一生懸命飾りつけしてくれたのよ、それを剥がすのは、流石に酷いと思うわよ」
きっと篠原さんのことだから何処か芸術的な観点からこの飾り付けをしたに違いないわ。だってあの『白百合の委員長』なのよ。そんないやらしい事なんて考えてるわけないじゃない。今までの会話だって何かの暗号に違いないわ。
「では聞きますけど、どういう意図で飾りつけしたのですか」
「みんなでいやらしい雰囲気になったところでちょっと友達よりも上の関係に──」
「よし、みんな片づけるわよ」
にこの言葉に余りにも予想外の理由で驚きを隠せず動揺して、動けなかった私と特に気にしてない穂乃果さんを除いて、みんな片付け始める。
篠原さんはそんなみんなの姿を見て、偶々近くにいた海未さんに泣きつくいて止めようとする。
「な、な、な、何ですか!!」
「ちょっと待って!! せめてこれだけは見て」
急に泣きつかれて驚く海未さんだけど、一応篠原さんのお願いを聞いて、隣の部屋の扉の前に案内される。しかし、抱き付かれたとき海未さんの顔が、何処と無く顔が赤く見えるのはこの部屋の光のせいかしら。
「この扉を開けると、中に布団が二つ敷いてあります」
扉の奥には篠原さんが言ったように布団が二つ敷いてあり、その上この部室よりも薄暗く、それでいていやらしい雰囲気を出していた。
「は……」
「は?」
「破廉恥過ぎます!!」
「ゴフッ!!」
その部屋を見て、海未さんは恥ずかしさの余りに思いっきり篠原さんの顔に向けてビンタをすると、篠原さんはその勢いで部室の扉の方まで飛んでいった。
「きゃあ!! 何か飛んできたわよ」
「これ篠原先輩だにゃあ」
「じゃあ、問題ないわね」
「えっ!?」
部室の扉の近くでそんな話し声が聞こえたかと思うと、白米担当だった真姫さんと凛さんが戻り、部室に入ってきたあとに、花陽さんが篠原さんに肩を貸して入ってきた。
そうしてこの部室を見ると真姫さんと凛さんは、やっぱりかみたいな反応をして、持ってきたお米を机の上に置いて、にこたちの手伝いを始める。
一方、花陽さんはこの光景に戸惑いながらも篠原さんを椅子に座らせて、心配そうな顔で篠原さんを見つめる。
「え……と、大丈夫ですか?」
「うぅ、こんなに優しくしてくれるのは今じゃあ、花陽ちゃんくらいだよ……」
花陽さんは心配して、篠原さんに大丈夫かと声を掛けると、篠原さんは手で顔を隠し表情が見えないようにしながら言う。
「だから結婚しよ」
「えっ!?」
脈絡もなくいきなり笑顔でそんなことを唐突に言われて、戸惑う花陽さん。すると──
「かよちんにいきなり何言ってるの!!」
「ブウッ!!」
片付けをしていた凛さんが飛び出して、篠原さんを椅子から突き飛ばして、花陽さんから離れるようにする。
「あぁ、もう凛!! 篠原先輩をこっちに飛ばさないで邪魔だから!!」
「酷い!! ウゥ、お姉ちゃぁん!!」
偶々凛さんが突き飛ばした方に真姫さんが居て、その近くに篠原さんが倒れ、真姫さんに邪魔だと言われると、立ち上がって、今度は希の方に抱きついていった。
「よしよし」
「えへへ……」
希はいきなり篠原さんに抱きつかれても動揺はせずに、優しそうな顔しながら彼女の頭を撫でて、篠原さんは何処か嬉しそうな顔をしながらただ撫でられると言う、何処か微笑ましい光景を作り上げる。
「希先輩……」
「ん? なんや」
そんな光景の中に穂乃果さんは希の名前を呼び、希何か用があるのかみたいな感じを出す。
「後輩にお姉ちゃんと呼ばせる趣味でもあるんですか!!」
そういえば、篠原さん希に対してお姉ちゃんとか言いながら抱きついてきたけど、まさか穂乃果さんが言ったように私の友達にそんな趣味があるの。
「あっ!? いや──これは違うんや」
穂乃果さんにそう指摘されて戸惑う希。けど、篠原さんがぎゅっと抱きついているから説得力が全くない。
「じゃあ、姉妹だけど家庭の事情で生き別れたとか言う何か漫画とかで読んだことのある関係!!」
「でも似てないからもしかしたら腹違いの可能性も……」
何かここへ来て突然希に矛先が向き、さまざまな予想が挙げられてくると篠原さんが──
「違うも何も私にお姉ちゃんをお姉ちゃんって呼んで良いって言ったのお姉ちゃんじゃん」
希がお姉ちゃんと呼ばせてた核心的な事を言う。
「委員長ちゃん!?」
「まさか、ここにもう一人変な性癖を持った人が居るなんて」
「希……」
「エリチ違うから、委員長ちゃんが勝手に変な事を」
正直、色々とごちゃごちゃし過ぎて何が何だか分からないけど、きっと、これだけは言えるわ。
「私のせいで辛い思いをさせてたのね、ごめんなさい気づかなくって」
私が生徒会長の責任感で周り気づけなくって、希に辛いことを押し付けてしまった結果、彼女の心を歪ませてしまったのね。
「だからこれは違うんや、委員長ちゃんも何か言って!!」
「分かった」
そう言って篠原さんは希から離れて私の前に立って、大きく深呼吸をしてから篠原さんは口を動かした。
「絵里先輩……私……貴方の体が好みです……だから……その……私と一線越えてくださいお願いします」
そう恥ずかしそうに何かとんでもなく予想外のことを言われた。
「ああ、言っちゃった、てへっ」
「言っちゃったじゃないやん、違うやん、何で今それを言うんや」
「えぇ~、お姉ちゃんが何か言って言うから、告白しただけじゃん」
「違うん違うん、そうじゃない、ウチはこの状況をどうにかするために何か言って欲しかったんや」
「でも、言っちゃったもんは仕方ないよ、それでどうですか絵里先輩……絵里先輩?」
篠原さんが私に告白の返事を求めるが返ってはこない。何故なら私は自分が理解できる許容をオーバーして頭が真っ白になり、そのまま意識を失っていたのだから。
6
「うぅ……ここは……」
目を覚ますと、私は何故か布団の上で寝ていた。
私は虚ろな意識のまま起き上がると、周りをキョロキョロとせず、ただぼうっと前だけ見てるだけだけど、ここが学校の教室の何処かだと何となく分かる。
自分がどうしてここの布団の上で寝ているのか、目覚めたばかりの頭じゃあ全然理解できないけど、ただ意識を失う前に、何かとてつもない事があった気がするわ。よく覚えていないけど。
記憶が曖昧でハッキリとしないなか、ふと横からすうすうと小さな寝息が聞こえて、誰かが私の横で寝ているのを感じた。
恐る恐るゆっくりと、顔を横に向けると、そこには篠原さんがすやすやと寝息を立てながら寝ていた。
「えっ!? ど、ど、どうして、し、し、篠原さんが私の横で寝てるの!?」
横で寝ていた相手が予想外だった為に、思わず大きな声で驚いてしまったけど、篠原さんは起きず、気持ち良さそうに眠っていた。
落ち着くのよ、落ち着くのよ、私。これにはきっと訳があるのよ。何て心の中で自分を落ち着かせようと言い聞かせる。
例えば、気を失っていた私を篠原さんが運んで、ここまで連れてきて看病してくれてたけど、篠原さんも釣られて眠ったとかあるかもしれないわ。
あれ? でもそれなら保健室でいいのに、ここは保健室じゃなくて、何処か別の教室……それに何で教室に布団が敷いてあるのかしら。
何て疑問が私の頭の中に過ると、つい最近何処かで似たような光景を何処かで見た気がする事に気付いた。
確か……アイドル研究部の部室の隣の部屋で布団が敷いてあって……そこはちょっと薄暗くて……!? 。
そこまで思い出すと、今まで忘れていた記憶が一気に甦り、自分が気を失っていた経緯を思い出した。
そう、みんなでライブの打ち上げをしようとして、部室に来たら、篠原さんが飛んできて、そのあと何か色々と今までの彼女から想像の出来ない事をやって、最後には……。
私に……変わった告白……と言うよりも、カミングアウトをしてきたのよ。
それらを思い出した瞬間、私は布団から飛び出て、篠原さんと距離を取る。
「う~ん……あっ、絵里先輩……起きたんですね」
タイミングが良いのか悪いのか分からないけど、篠原さんは──まだ眠いのか、目を擦りながら起きて、さっきの私と同じように辺りを見渡して、私に気付き私が起きたのを確認する。
「でも……どうして絵里先輩はそんなところに居るんですか?」
私が布団から離れた位置に居る事に疑問に思ったのか、そんなことを聞いてくるけど、私は返答に困っていた。
思い出したショックでつい勢いで布団から飛び出してしまったけど、篠原さんが急に変な事を言ったから距離を取ったとか言えば、きっと彼女を傷つけるかもしれない。
「その前にこっちも質問させてもらっていい? 何で私と篠原さんが一緒に寝ていたの?」
一旦話題を逸らして、何でこんな状況になったのか確認すると、篠原さんは恥ずかしそうに顔を赤くしながら頬に手を付けて──
「気を失った絵里先輩にちょっとしたイタズラをしようとして、気付いたら私も寝てました」
何て私が欲しかった返答とは明後日の方向の返答をした。
それで確信してしまったわ。意識が失う前の事が現実だったことに。そうなると彼女が言ったことが確実に嘘だと思った。特にイタズラって言ったときにいやらしい言い方をしていたから。
「まあ、寝込みを襲うのは私の主義に反しますから、やっぱりこっちの方が断然いいですね、そんなわけで……」
そう言って篠原さんは、唐突に自分の制服のボタンに手をかけ、ボタンを外し始めて、制服を脱ごうとする。
「ちょっと待ちなさい、何で急に服の脱ぐの!?」
「何でって絵里先輩とスキンシップを取ろうかと……あぁ、絵里先輩は着衣派でしたか、そっちも良いですね……今日はそれにしますか」
篠原さんの奇行を止めようとするけど、篠原さんは途中であられのない理由で私が篠原さんを止めたと勘違いして、彼女は制服を脱ぐのを中途半端に止めたから、肌と下着が見えたままになった。
「何で服を戻さないの!?」
「何でってそっちの方が興奮しますから」
そう言いながら篠原さんは、四つん這いで、ゆっくりと、私の方に近づき始める。中途半端に脱いだ制服と四つん這いで、近付いてくるために彼女の下着と胸の谷間が強調されて、とてもいやらしい。
「待って、待って!!」
私は必死になって篠原さんが止まるように言うけど、止まる気配は一向になく少しずつ確実に私の近くまで近づいてくる。
この場からさっさと逃げ出せば良かったけど、余りにも色々と有りすぎて、逃げると言う思考が出来なかった。
そうして、私と篠原さんの距離が目と鼻の先くらいになると、私の髪に触れて思わずビクッと震える。
「戸惑ってる絵里先輩も可愛い……やっぱりこういう反応が見えた方が興奮する」
何てとてもいやらしくも麗しい顔で、瞳も私の瞳をしっかりと見て、どんどん顔が赤くなって恥ずかしくなると、思わず目を瞑るけど、ゆっくりと、私の近付いてくるのを感じる。
もうダメ……。
「あんた何やってるのよ!!」
「ブウッ!!」
私が心の中で諦めかけてると、突然誰かのそんな声とこちらに向かって走る音が聞こえて、そのあとに篠原さんの身に何かあったような声が聞こえた。
瞑っていた目を恐る恐る開けると、目の前には篠原さん居なくって、代わりににこが私の横に居た。
「大丈夫だった!?」
「えっ、えぇ」
にこは私を心配して声を掛けてくれるけど、また突然の出来事に、まだ戸惑った反応しか出来なかった。
「そう、全く油断も隙もないわね」
私の反応を見て、にこは私の状態を大体把握したあと、彼女は何処か呆れるようにそんなことを言った。
「そうだわ、篠原さんは?」
いきなり目の前から居なくなったから何処へ行ったのか気になって、にこに聞くと、にこは指をさす。私はさされた方向を向くと──
「うぅ、やっぱりこうなる……でもにこ先輩から愛を頂いたからプラスかな……」
とても変な体勢しながら悲しそう声で何か言っていた。
「まあ、あいつはほっといて、立てる?」
「えぇ、ありがとうにこ」
「別に……偶々よ、どうせ私が駆けつけなくても助かったのだし」
にこにお礼を言って、私は立ち上がるとお礼を言われたにこ少し照れた顔をしていた。
「ちょっと待ってくださいよ──それは私を信用して言ってくれてるのですね」
「そうね、別の意味であんたを信用してるわ」
「流石はにこ先輩、私の事分かってます、なので私と結婚しましょう」
「はいはい、しないから」
「ナチュラルに断られた──けど、そんなにこ先輩が大好きです」
何て篠原さんは楽しそうに話すけど、にこは冷たい反応をしているからこの温度差のギャップを感じるのだけど、にこはにこでどことなく楽しそうに会話しているように感じたわ。
「えっと……何かしらこれは」
「気にしなくて良いから、それよりも行くわよ」
私はまるで漫才のような二人の会話に戸惑ってると、にこはそう言って何処かへ移動しようとする。
「何処へ?」
「何って打ち上げに決まってるじゃない」
そういえば、そうだったわ。打ち上げしに部室に来たのに、色々と有りすぎて、忘れていたわ。
「準備が出来たのよ、誰かさんのせいで、余計な手間が掛かったけど」
「全く、にこ先輩のお手を煩わす何てとんだ不届き者ですね」
『……』
にこが皮肉つもりで言ったことに、言われた本人が惚けたように言うから、私もにこと同様に黙ってしまった。
「申し訳ございません──反省してますので、無視だけは止めてください」
流石に黙ってしまわれるのは堪えるのか、篠原さんは目にも止まらぬ速さで、その場に土下座して、今までの事を謝罪する。
「分かったから、じゃあ、行くわよ」
「ありがとうございます」
篠原さんの謝罪を受け入れると、にこは部室に移動しようと歩き始めて、篠原さんもにこの後ろに付いていくように歩き、私の二人と一緒に部室に向かう事になったわ。
結局、何で篠原さんが私の隣で寝ていたのかちゃんとした理由は分からなかったけど。
7
「ふう、これで良いかしら」
私は打ち上げで出たゴミを片付けるため、学校のごみ捨て場にゴミを捨てに行って、持ってきたゴミをそこに捨てて、そう口にした。
みんなで分担して片付けて、私が今持ってきたゴミが確か最後だったはずだから、これで片付けは終わりのはずなので、私は部室に戻る。
部室に戻る途中、さっきの打ち上げの事を思い出してしまい、つい口がにやけてしまう。
流石に今の顔を見られるのは恥ずかしいけど、にやけ顔を止められない。
仕方ないじゃない、打ち上げが始まる前に色々とあったけど、打ち上げは結構楽しかったのだから。
ただお菓子や飲み物を食べたり飲んだりして、喋ったりしてるだけだったけど、あまりこういった事をしたことが無かったからとても新鮮だったわ。
だから、ついにやけてしまうのは、仕方がないと思うわ。
そんな風にしながら部室に戻って、部室の中に入ると、そこには篠原さんが一人で部室の中を掃除していたわ。
「あっ、絵里先輩お疲れ様です」
「えぇ……お疲れさま篠原さん」
戻ってた私に篠原さんは気付くと、笑顔を向けてそう言うけど、打ち上げ前の事があって、どう彼女と接すればいいのか分からない。
「そういえば、他のみんなは?」
「まだ戻って来てないですね」
とりあえずみんなの姿が見当たらないので、聞いてみたけど、まだ全員戻って来てないみたいだから、つまり、いま部室で私と篠原さん二人きりの状況。
「……」
「……」
正直、気不味いわ。今日で篠原さんの印象ががらりと変わってしまって、何て会話したらいいのか分からないわ。
「絵里先輩」
生徒会での彼女だったらちょっとした話していたのだけど、今の彼女とどんな風に会話すれば良いのか、全く見当も付かないわ。
「絵里先輩」
打ち上げの前の出来事で、彼女の趣味思考がどちらかと言えば、変わっているのは分かるけど、私にはそんな趣味はないし……。
「エーリー先輩」
「きゃあ!? 篠原さんいつの間に!?」
知らない間に篠原さんが私の目の前にまで来ていてた事に気付かず、急に目の前で声を掛けられたから思わず驚いてしまう。
「ずっと絵里先輩のこと呼んでたんですけど、絵里先輩、上の空で反応が無かったから」
どうやら篠原さんとどう接すればいいのか、考え込んでいたせいで、彼女が近づいていることに、気付かなかったようね。
「でも驚いた時の絵里先輩の顔、可愛かったですよ」
「ちょっと……からかわいでよ」
私の驚いた顔を見て、そんなことを言いながら微笑む篠原さん。私は面と向かって言われたから恥ずかしくて小さな声で言う。
「え~、良いじゃないですか、だって可愛いものは可愛いですし、まあ絵里先輩は元から可愛いですけど」
小さな子供のように駄々をこねる篠原さん。そんな姿も生徒会で手伝いをしてくれたときには見られなかった姿。だから一つ気になってしまうわ。
「ねえ……生徒会の時と今の貴方じゃあ全然違うけど、あれは演技だったの?」
私がμ'sに入ってから今日までの二週間近くの篠原さんは、私の知ってる『白百合の委員長』として篠原さんと少し距離感が縮まったくらいの雰囲気だったけど、今日知ってしまった篠原さんは全く違う雰囲気だったわ。
「そうですね、ずっと絵里先輩のお手伝いをしていたときは演技ですよ、私演技得意ですから、それにあのときも見ましたよね」
あのとき──私がμ'sに入ったとき、そのあとに篠原さんがかつてアイドル──星野如月だと、バレて正体を明かした際に、今と『白百合の委員長』の彼女とは全く違う雰囲気になっていたわ。
「覚えてるわ、ある意味衝撃を受けたもの、色々な事があって」
私がμ'sの見学から始まり、篠原さんが急に倒れて、そのあと姿見で自分の身体を見てたり。
そのあと彼女から何故μ'sのマネージャーをしているのか聞き、それから穂乃果さんたちからも理由を聞いて、希には私の本心を当てられてしまい、最後には、みんなに後押しされるかのようにμ'sに入ったわ。
こうして思いましてみると、一日で色んな事があったわ。それにあのとき気付かなかったけど、今日の彼女を知って何となくだけど、あのとき分からなかった事が分かった気がするわ。
何で急に鼻血を出して倒れたのかとか、何で姿見で自分の身体を見てたりしてたのかとか、何でにこのTシャツを着ていたのか。
「あれ? 貴方……みんなが真面目にやっていたときにふざけたの?」
よくよく思い出してみれば、勝負しようって言ったときの勝負内容が特にふざけてような気がするわ。
「酷いですよ!! 真面目にやってましたよ、ただ欲望に正直なだけなんですよ私は、何でみんな同じことを言うの」
あっ、そうなのね。私と同じことを他のメンバーにも言われたのね。けど、それでもμ'sのみんなを見ていると何だかんだで信頼されているそんな感じはしたわ。
特ににこからかなりの信頼を受けているそんな感じがしていたわ。
「もういっそのこと言いますけど、生徒会で手伝いをしていたとき絵里先輩に欲情してましたよ」
また彼女凄いカミングアウトしてきたわよ。しかも本人に向かって。
「あのね……篠原さん……私が言うのも変だと思うけど、それかなりの失言よ」
「しまった、つい勢いで要らないことを言ってしまった、今の無しで」
今の発言を取り消してほしいと言わんばかりに、手を前に出してアピールする篠原さん。その際に彼女がちょっと慌てているのが珍しくて、可笑しく思えてしまう。
そして、そんな彼女の姿を見ると、彼女とどう接すればいいのか考え込んでいた自分が馬鹿らしくなって、つい笑ってしまう。
「何で絵里先輩笑ってるんですか、私が慌ててるのがそんなに変なんですか」
「ごめんなさい……でもそうね、貴方のそんな姿を見るなんて思っても見なかったから」
今まで完璧なイメージばかりが篠原さんには付いていたから、こんな風に慌てる彼女を見て、新鮮な気持ちになるわ。
「まあ、良いですけど……絵里先輩が笑ってくれるなら」
そんな私を見て、篠原さんは不貞腐れながらも私が笑うなら良いって言う辺り、いくら今までと性格が違っても、篠原さんは篠原さんなのよね、と実感できるわ。だからこそ──
「そんな貴方だから希も自分の計画を話してくれたのかしら」
私の友達が私を救うために、みんなが楽しく過ごせるような時間を作るために、そして廃校を阻止するために、一人でこそこそと計画していたを篠原さんは、唯一知り、行動していたわ。
どうやらにこも話だけは聞いていたみたいで、邪魔しないように気を遣ってくれたみたいだけど。
「さあ、どうでしょうね、私も私で自分の計画の為にやってた所もありますし、利害の一致って奴ですよ、最初は」
「そうなの? 全然そうとは思わなかったけど」
意外だわ。結構初めから穂乃果さんの味方をしてたから篠原さんにも何か裏でやろうとしてたのね。でも何なのかしら彼女の計画って。
「まあ、そのあとこっちはこっちで色々とあって、心境の変化がありましたから」
そう言う篠原さんには何処か切ないような顔をしていたのは気のせいかしら。
「けど、結局貴方は希の手伝いをして計画を完了してるのよね、流石だと思うわ」
篠原さんはそんなことを言うけど、実際にμ'sの名前通り九人の女神を揃えている訳だし、彼女は仕事を実際にやり遂げているのよね。
「そうでもありませんよ、実際色々とやらかしてますし、それに実際にまともに動いたのは、穂乃果ちゃんににこ先輩を紹介した事と、μ'sと絵里先輩を引き合わせる事くらいですし」
あとは穂乃果ちゃんたちが頑張っただけだと篠原さんは付け足す。
「にこの件や私の件だって、貴方と個人的に繋がりが合ったからこそだし、適材適所だと思うわ」
篠原さんが間に居たからこそ、あまり拗れずにすんなりいけた所もあるわ。私も篠原さんはが居なければ、見学して一日でμ'sに入ろうとは思わなかったはずだわ。
多分、にこの件もそう。詳しくは知らないけど、一年の頃の彼女のままだったら、きっとすんなり穂乃果さんたちを入部させなかったと思うわ。
「そう言って貰うのは有り難いですけど、だからこそ何ですよね、にこ先輩、お姉ちゃん、絵里先輩と個人的な繋がりが合ったからこそ、他のメンバーの誰よりも笑って欲しいと思ったのは」
「私もなの? と言うか希はお姉ちゃん呼びのままなのね」
どうして希がお姉ちゃんと呼ばれてるのか気になるところだけど、私もにこや希と同じくらいに並べられてるのに驚いたわ。そこまで篠原さんに何かしてあげたとは思えないし。
「驚くのも無理がないですよね、絵里先輩はちょっと事情が違うと言うか、本当に私的な理由なんですよ」
「私的な理由? まさか──私の体目当て!?」
今日の篠原さんの言動ならなくもないわね。そんな理由でにこや希と同じくらいに並べられてるのは、流石に傷付くわ。
「流石にそれは酷すぎますよ、そんな理由じゃありませんよ、ただ……」
そうしてゆっくりと篠原さんは私が二人と同じくらいに並べられてる理由を口にした。
「昔の私と絵里先輩はよく似ていたから、ほっとけなかったんですよ」
そう言った彼女の目は何処か悲しみに包まれた表情だったわ。
8
似てる? 私と昔の篠原さんが? 一体何処が?
昔の篠原さんと言うことはアイドル──星野如月としての彼女だと思うけど、彼女の雰囲気と私とじゃあ共通点が見つからない。
星野如月に限らず、二つ雰囲気の篠原さんや他にも共通点がないか色々と考えてみるけど、やっぱり全く思い付かないわ。
「でも似てると言っても、ただ状況が似ていたってだけなんですけどね」
「状況が似てる?」
アイドルをやってるって状況が似てると言っているのかしら。でもそれなら穂乃果さんたちも似てると言えるし、そもそも似てるって言ってるのは、μ'sに入る前の私の状況だと思うから……それってつまり……。
私は色々と考えてみて、何故篠原さんが私と似てると言ったのか、一つの答えに辿り着く。
「もしかして義務感で生徒会長やってた私に似てるかしら」
私と篠原さんの関係から考えると、彼女は生徒会長としての私を見る機会の方が多かったから、多分、そうなんじゃないのかと思うわ。
「そうです、あのときの絵里先輩と昔の私は、よく似てましたから……」
彼女はそう言ったってことは、つまり……義務感や責任感で何かをやっていたことになるけど、それって……いや考えるまでもないわ、だってもう私は知っているのだから。他の誰でもない篠原さんが口にしてたのだから。
「スランプになりながらもプロのアイドルとして、星野如月として、ファンの期待に応え続けなければならなかった私に」
やっぱりそうなのね、この言葉から分かるようにつまり篠原さんはあのときの私のように義務感でアイドルをやっていたことになるわ。
「空回りして、上手くいかなくて、失敗ばかりで、次第にイライラしてきて、周りが見えなくなって、終いには自分の本心を隠してとても辛い思いをするそんな毎日」
まるで当時の気持ちが甦っているかのように、その言葉一つ一つに辛そうな気持ちが伝わり、彼女の表情を見て、今ようやく確信したわ。
「確かに似てるわね、私たち」
篠原さんが言うことはものすごく分かるわ。私も彼女と同じように生徒会長としての責任感から悩んだことがあるから。
それに彼女の表情はあのときの鏡に写っていた私とよく似ていて、何もかもを張り詰めて、何時壊れてもおかしくない表情をしていた。
けど私はそんな毎日に終わりをくれた人たちがいる。目の前にいる篠原さんや、私を受け入れてくれたμ'sのみんな、そして私の大切な友達──希が居たからこそ今こうして笑っている。
じゃあ篠原さんは?
ふとそんな疑問が頭の中を過る。今は今日みたいに笑ったいるのだから、彼女も誰かに救われたんじゃないのかと思ってしまう。
「篠原さんは私と状況が似てると言っていたわ。それって私にとっての希やμ'sみたいな人が貴方にもいたんじゃないのかしら」
例えば、花陽さんから聞いた星野如月とユニットを組んでいたアイドルとか、同じの事務所のアイドルとか、それか学校の友人とか、家族とか上げれば色々とあると思うけど、私は自分が思っていた疑問を思わず口にして彼女に聞いてしまった。
それが彼女にとって地雷だと気付かずに。
「ええ、居ましたよ、私の事を心配してくれた私のたった一人の大切な親友が……」
「それって、貴方の相方だったアイドルの子?」
たった一人の親友、何て言うくらいなら候補としては一番だと思う。花陽さんから聞いた話だとかなり仲良かったと聞いているから。
「その子じゃあありませんよ、あの子はまた違った妙な関係ですから、そうじゃなく、星野如月に憧れて、スクールアイドルを始めたようと夢見ていた、私の中学の時の先輩」
そうなのね、星野如月の相方の子じゃなくって、中学の時の先輩、つまり私と同じくらいか、その一つ上くらいだと思う。
「彼女が私のやるべきことを教えてくれて、私の背中を押してこそ、星野如月はあそこまで行くこと出来ましたから」
「そうなの!?」
私は思った以上に驚いてしまったわ。一応、花陽さんから話を聞いて──興味を持ったから、彼女のライブを見たのだけど、歌もダンスもどれも圧巻で、伝説と呼ばれるのが、納得するほどのものだったわ。
けど、そんな星野如月が僅かの期間で伝説まで呼ばれるのに、実はそんな影の功労者がいたのね。
そうだからこそ親友、いや親友だからこそ、気付けたのかもしれないわね。篠原さんとって大切なことに。
そんな親友なら篠原さんが暴走しても止めるのは明らかで、彼女を止めることが出来たのね。
だけど、次に放たれた篠原さんの言葉で、私は自分がどんだけ甘かったのか思い知らされる。
「でもそんな親友を私は突き放したんですよ」
「えっ!?」
思いもしなかった結果を聞いて、私は一瞬思考が停止する。
「絵里先輩がお姉ちゃんに本心を突き付けられたように、私もその親友に本心を突き付けられたんですよ」
やっぱり篠原さんも親友に本心を当てられてる。でもそう上手くいかずに……。
「けど私はそんな親友に酷いことを言って、彼女を突き放して、私はそのまま責任感と義務感だけで、アイドルを続けました、その結果、私は事務所から休業するように言われたんですよ」
止めて、その先の展開なんて言わなくても分かるから。けど私はそれを口には出来なかった。
「とっても後悔しましたよ、あのとき彼女の言葉を聞いていれば、こんなことにならなかったんじゃないのかって、だからこそ、私は絵里先輩に同じ結果にならないように、同じ過ちを犯さないように、動いたんですよ」
このときの彼女の表情を見て、私は確信してしまったわ。
「だから……良かったです……貴方が……笑っていられるようになって……」
そう言った彼女の表情は笑っているが、瞳には涙が流れていた。
それは彼女がまだ救われていないってことを証明させるには十分だったわ。
9
「ねえ、希……私はまだ幸せ方だったのね」
「何や、急にどうしたん?」
帰り道──私は希にそんなことを口にすると、希は少し戸惑った顔をして、私の悩みを聞こうとする。
「もしかして委員長ちゃんがいつの間にか帰ってた事と関係ある?」
「……」
何かを勘づいたのか希はそう言うけど、私は答えなかった。けど、その反応をしたせいか、何処か希が納得したような表情をする。
「エリチ、委員長ちゃんのこと何か知ったやろ」
「どうしてそれを!? もしかして知ってたの!?」
「やっぱり……そうなん……」
希は私が悩んでいることを当てたため、思わず驚いてしまったけど、逆に希はまるで当たって欲しくなかったのか、少し暗い顔をしていた。
「なあ、エリチ話して、委員長ちゃんと何があったのか……」
「そうね……隠したって希にはいずれバレそうだし」
私は諦めて、希に今日あったことを全部話した。話を聞いている際に希は驚いた顔をしていたけど、まずは全部話を聞くことに重点に置いてたみたいだから、私が一方的に今日のことを話したわ。
「そう……やったんね……だから委員長ちゃんは他の子と比べて慎重に動いてたんやね」
私の話を聞き終わると、希は何処か辛そうな顔をして、何か納得していたような口振り、きっと私よりも篠原さんと親しい希なら、私を入れようとしていた理由に気付いていたと思う。
「ねえ、希……貴方も何か知ってるんじゃないの?」
私の話を聞いていた際の希は初めて知ったような表情をしていたけど、最初の希の口振りからして、他の事を知っている可能性があるわ。
「……そうやね……委員長ちゃんには悪いけど、エリチに聞いておいて、ウチが話さないのは不公平やし、それに……」
「それに?」
「エリチなら言いふらさないやろ」
「そんなこと絶対にしないわよ」
人の知られたくない事情を無駄に広めようとするなんて、そんな無神経な事は人としてどうかと思うから絶対にしないわ。
「エリチならそう言うと思った」
どうやら希は私がそう言うと信じていたみたいで、全く私の事をどれだけ信頼してるのよと思うけど、今はその信頼が嬉しいわ。
信頼してるからこそ希は、私に篠原さんの秘密を話しても問題ないと思ってくれているのだから。
そうして私は希から彼女の知っている篠原さんの事を聞いた。
「そんな……」
希から篠原さんの秘密を知って、更にショックを受ける。
「本当や、委員長ちゃんには家族がいないんや」
篠原さんの両親はもう既に亡くなっていて、兄弟や姉妹と言った肉親もいなくて、彼女は天涯孤独の身だった。
それに今日聞いた話を含めると、彼女は一人でいる期間が必ずあることが分かる。
家族がいなくて、親友も失って、更にアイドルとしての自分を失って、何かもが無くなった篠原さんは一体どれ程の悲しみや苦しみ、絶望があったのか、私には到底分からないわ。
「やっぱり……私はまだ幸せ方だったのね」
私は最初に言ったときの言葉と同じ言葉を口にするけど、前と比べて、この言葉を口にするのは辛い。
結局、私は何かを失った訳じゃないからその気持ちを理解することが出来ない。いや、きっとμ'sの誰もが彼女の事を理解できないと思うわ。
「そうやね……けど、そうやってうじうじと相手に遠慮してたら何も変わらないと思うんや」
「じゃあ、だから希が篠原さんにお姉ちゃんと呼ばせてるのは、彼女を一人にしないため?」
篠原さんが希を本当の姉のように慕うのは、彼女が一人だと知って、受け入れてくれた希だからなのかしら。
「そうや、あの子はほっておくと、いつの間にか一人になるそんな子やだから、ウチはあの子が一人にならないように、甘えられるように、お姉ちゃんになってあげたんや」
そう言う希の表情は、まるで本当の姉のように優しい顔をする。
「それにそう思ってるのは、ウチだけや無いからにこっちもやから」
「にこも?」
一瞬何故かにこもと思ったけど、篠原さんの正体がバレたときや今日の出来事を思い出してみると、一目瞭然だったわ。
そうよ、あのときにこは篠原さんの正体をずっと前から知っているって言ってたわ。それににこは篠原さんが星野如月として、振る舞っていた時は終始黙っていて、とても辛そうな顔をしていたわ。
「ウチはずっと気になってたんや、何で委員長ちゃんはにこっちと一緒にいるやろうって」
「でもそれは篠原さん本人が言ってなかった? それが嘘だとでも言うの?」
確か篠原さんがたまたまアイドル研究部の部室の前に居て、それをにこが入部希望と勘違いして、そのあとにこに篠原さんの正体がバレて、そのうえで図々しくもマネージャーをお願いして、その結果篠原さんが入部したって言っていたわ。
「いや、嘘じゃないと思うん、それはにこっちの反応から見ても分かる、ただ差し障りのないことだけを言っただけや」
そういえば、あのときのにこの反応は、とても演技とは思えなかったわ。僅かに懐かしむそんな感じがしていた。つまり、希の言うように、差し障りのないことだけを言った可能性がある。
多分、篠原さんが話していない部分にきっと私たちの知らない篠原さんとにこに何かがあった。いや、絶対にあるわ。
そもそも彼女の方が他の誰よりも篠原さんに一緒に居るのだから、知らないはずなんて有り得ないわ。
「ウチもにこっちも委員長ちゃんが一人にならないように彼女に寄り添うつもりや、エリチはどうする?」
「わ、私は……」
そう聞かれて私は言葉に悩んだ。私は篠原さんとこれからどう接していけば良いのか。全くわからないけど……そもそもそんなの考えるまでもないわ。
「私も篠原さん……いや沙紀が辛い思いをしないように」
だってあの子は自分が辛くなるのが分かってて、私に自分と同じ過ちを犯さないように動いてくれたのだから。なら、私にやることはもう決まってるわ。
「ちゃんと笑えるようにしてみせるわ」
それがきっと私に出来る沙紀への恩返しなのよ。
「エリチも何だかんだで委員長ちゃんの事好きやな」
「それは希も同じでしょ?」
「そうや、ウチは委員長ちゃんのこと好きや、エリチと同じくらいに」
「急に変なこと言わないでよ……バカ……」
こうして私の友達が計画した九人の女神を揃える物語は終えて、次の物語が始まる。
今まで殆んど交わろうとしなかった彼女の物語と私たちの物語が、今やっと少し交わろうとしていた。
その物語の結末がどんな風になるのか、今の私たちはまだ誰もが知らない。
これで二章完結。
今回でもまた沙紀の過去が分り、それを聞いた絵里がどうするのかって話でした。
まだ謎の多い彼女ですけど、次章からはそんな彼女周りのことも大きく関わるようにそれは次章をお楽しみに。
その前に筆休めとして二つの幕間で二章での一番の被害者の彼女の話です。
ちなみにもうひとつは秘密を追う彼女たちの話もやる予定ですのでお楽しみに。
感想などありましたら気軽にどうぞ。
誤字、脱字などありましたら気軽にどうぞ。