ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー   作:タトバリンクス

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お待たせしました。

今回は一体どんな話になるか、どうかお楽しみください。


三十六話 彼女の結末

 1

 

「ねぇ、これってチャンスじゃない?」

 

 プールでのライブが終わって、そのあとは自由時間で、みんなでプールで遊び回ってるなか、プールで遊び疲れて、休憩してたわたしと凛ちゃんに、真姫ちゃんは、突然そんなことを言ってきた。

 

「何が?」

 

「何がって……決まってるでしょ、星野如月について知るチャンスよ」

 

 何がチャンスなのか分からなかった凛ちゃんは、真姫ちゃんに聞き返すと、少し呆れながら真姫ちゃんは答えてくれた。

 

「古道さんだよね……」

 

 わたしは真姫ちゃんがどうして如月ちゃんの名前を出したのか理解して、真姫ちゃんが考えてると思う人の名前を口にする。

 

「そうよ、沙紀の知り合いって言うあの人なら何か知ってると思うわ」

 

 真姫ちゃんは沙紀ちゃん──星野如月ちゃんのことをずっと調べてる。わたしと凛ちゃんも一緒に調べて、真姫ちゃんのお手伝いをしてるけど、役に立ってるのかは怪しい。

 

 この前、沙紀ちゃんの親友が居ると思う学校までは特定出来たけど、それっきり手がかりないから、行き詰まって、結局何も出来ずに時間だけが過ぎてる。

 

 だから沙紀ちゃんの知り合いという古道さんの登場は、わたしたちにとって、とても有り難いことなんだよね。

 

「でも知り合いだからって、何か知ってるとは限らないと思う」

 

「そ、それは……凛にしては珍しく正論を言うじゃない……」

 

「真姫ちゃんに誉められたにゃ~」

 

「多分……誉められてないと思うけど……」

 

 隣で喜んでる凛ちゃんに対して、そんなことを言ってみるけど、多分聞こえてないと思う。

 

 でも確かに凛ちゃんの言う通り、ただの知り合いなら、わたしたちが知りたい沙紀ちゃんのことを、知らないかもしれないけど……。

 

「あの人……古道さんは沙紀ちゃんの──如月ちゃんのプロデューサーだから、多分……知ってると思う……」

 

「えっ? 花陽その話ホントなの?」

 

「あれ? 真姫ちゃん知らなかったっけ」

 

 ライブ前に一度と言うより、穂乃果ちゃんが迷子になってる間に、古道さんが少し自己紹介してたと思うけど……。

 

「知らなかったわよ、沙紀もその人も知り合い程度くらいしか言ってなかったわよ」

 

 そういえばそうだったよね。ライブの話が来たときも、沙紀ちゃんは古道さんのことを、ただの知り合いってだけしか言ってなかった気がする。

 

 それに古道さんも今日の自己紹介の時も同じように知り合いってくらいしか言ってなかったと思う。

 

 多分、この前会ったときにわたしは古道さんが如月ちゃんのプロデューサーだって知ってたから、勝手にみんなも知ってるって思い込んじゃったみたい。

 

「なら……ますますチャンスよね、プロデューサーならあの一ヶ月間に何があったのか、知っててもおかしくないわ」

 

 真姫ちゃんは古道さんが如月ちゃんのプロデューサーだって、知ると考え込むような素振りをしてから、そう確信してた。

 

 真姫ちゃんが口にしてたあの一ヶ月間──如月ちゃんのユニットを組んでたユーリちゃんのブログの最終更新日から如月ちゃんのアイドル活動休業までの空白期間。

 

 その間に何があったのか、パソコンで調べても全く情報がなくって、そのせいで如月ちゃんの突然の活動休業には、多くのファンが進撃を受けたのは、よく覚えてる。

 

 わたしもとっても驚いて、持っていた大盛りのご飯が入ったお茶碗を落としたことを覚えてる。それくらい衝撃的だったことだったから。

 

 そうして誰も真実を知らないまま如月ちゃんはアイドル活動を休業した。

 

 そこで真姫ちゃんは、多くのファンが何かあったと思われるその期間に注目をして調べようと、凛ちゃんの提案で真実を知ってると思う人に、接触をしようってなったんだよね。

 

 そのときに名前が上がったのが、ユーリちゃんと、如月ちゃんと、ユーリちゃんの友達。

 

 だけど、わたしたちには全く接点がない所か、一人は芸能人で会う機会がないし、二人の友達は学校は分かっても、顔も名前も知らないからどうしようもなくなっちゃった。

 

 これがわたしたちの現状。

 

「仮に知らなくてもプロデューサーのあの人に、ユーリに会えないかどうか頼むことが出来るわ」

 

「なるほど、確かにチャンスだにゃ~、それにもしかしたらユーリちゃんに会えるかもしれないよね、かよちん」

 

「ユーリちゃんに会える!?」

 

 あの如月ちゃんに続いて、ユーリちゃんにも会える。もしそんなことになったら……。

 

「とりあえずサインを貰って……それから握手もしてくれたら……わたし嬉しくて倒れちゃうかも……」

 

「なら、このプール広いし人も多いから、ささっと行くわよ」

 

「そうだね!! ユーリちゃんに会うために!!」

 

「かよちんの目的が変わってるにゃ~」

 

 そうしてわたしたちはユーリちゃんに会うためにまずはこのプールに居ると思う古道さんを探すことになりました。

 

 2

 

 最初から言っちゃうと、古道さんは簡単に見つけることができちゃった。

 

 とりあえずわたしたちはステージの方へ行ってみると、その近くのフードコーナーで古道さんは一人で食事をしてた。

 

「いや~、流石にユーリに会わせてくれって言われても難しいね」

 

 古道さんを見つけて、早々ユーリちゃんに会えないかと頼んでみると、そんな返事が返ってきた。

 

「そんな……」

 

 もしかしたらユーリちゃんに会えると思って、期待してたから古道さんに会うのは難しいと言われて、わたしは地面に這いつくばって落ち込んでしまう。

 

「かよちんがすごい落ち込んでるにゃ~」

 

「何か僕悪いことしちゃったかな」

 

「いえ、かよちんはアイドルのことになると、リアクションが大きくなるだけなので……」

 

「そうなんだ、アイドルが好きなんだね」

 

「はい!! アイドルのみんなは可愛かったり、かっこよかったりして、みんなキラキラ輝いて……」

 

 さっきまで落ち込んでいたのを忘れて、わたしはどれだけアイドルが好きなのか、古道さんに熱く語り始める。

 

「花陽、今はその話あとにしてくれない」

 

「はっ!! うん……ごめんなさい」

 

「大丈夫だよ、今ので花陽ちゃんがどれだけアイドルが好きなのかがよく分かったから」

 

 熱く語ってると真姫ちゃんに止められて、自分が熱が入ってるのに気付いたわたしは、古道さんに迷惑を掛けたと思って謝るけど、古道さんはまるで気にしてないような笑顔だった。

 

「最初会ったときは大人しそうな子だとは思ってたけど……なるほどその憧れが花陽ちゃんをアイドルとして輝かせるんだね」

 

 わたしの話を聞いて古道さんは自分が思ってることを口にして、わたしは思わず顔を真っ赤なるくらい恥ずかしくなった。

 

「そう!! かよちんは昔からアイドルが好きで、自分もあんな風になりたいと思って、スクールアイドルを始めたんですよ」

 

「そうなんだ、自分が憧れてた夢に向かって、その夢に挑戦してみる、そして続けることは簡単じゃないから、花陽ちゃんは凄いよ」

 

 凛ちゃんがわたしのことを誉められて嬉しかったのか、古道さんにわたしのことを話始めて、古道さんはまた素直に自分の言葉を口にする。

 

「職業柄、花陽ちゃんみたいに夢とか憧れを持ってる子と接してる機会が多いけど、夢と現実の差に飲まれる子も居るからね」

 

「毎日辛いレッスンをしても、結果を出せず、次第に夢や憧れ自体が苦痛になって、最後は最初の気持ちを忘れて辞めちゃう子」

 

 その話をしてる古道さんは何処か寂しそうな声で話していた。アイドルの世界は実力主義の格差社会だから、多分……そういった経験が何度かあると思う。

 

 さらに大手のNEGプロのプロデューサーだから、余計にそういった場面に遭遇してると思う。

 

「ごめんね、変な話をしちゃって、結局の所は最初の気持ちを忘れずに進んでいけるか、どうかって話何だよね」

 

 話終えた古道さんは喋って喉が渇いたのか飲み物を飲み始める。

 

 最初の気持ち……。

 

 古道さんの言いたいことは何となくだけど、分かる気がする。

 

 わたしの場合はアイドルを始めることに躊躇ってたけど、あの日、夕日の屋上でわたしの背中を押してくれた凛ちゃんと真姫ちゃん。

 

 二人が勇気をくれたから、わたしは今ここにいる。スクールアイドルとしての始まりの気持ちは、二人から貰った勇気から沸き上がったあの気持ちだと思う。

 

 そう考えると、古道さんの言いたいことは分かる。

 

「まあ、そんな話を聞きに来た訳じゃなくて、あの子の事を聞きに来たんだよね」

 

『!?』

 

 わたしの中で古道さんの言葉を納得すると、古道さんの口からこれからする筈の話を振ってきて、わたしたちは驚いちゃう。

 

「よく分かりましたね」

 

「あの子はあんまり自分の事は話さないから、あの子の事を知りたい人からすれば、僕は重要な情報源だからね」

 

 古道さんの言ったのはさっきわたしたちが考えてたことと一緒だった。多分……この人はそれを分かった上で簡単に見つかるこの場所にいたんだ。

 

 わたしたちのような沙紀ちゃん──如月ちゃんのことを調べてる人たちと接触するために。

 

「だったら話は早いですね、単刀直入に星野如月に何があったんですか?」

 

 真姫ちゃんもすぐにわたしと同じ考え、いや真姫ちゃんの事だからわたしよりも先の事を考えて、古道さんに質問を投げ掛けてきた。

 

「そうだね……まずは君たちがどれだけあの子──星野如月について知ってるのか把握しないと、何を話せば良いのか分からないかな」

 

「そうですね、こっちも知ってる情報を聞いても時間の無駄ですから」

 

 真姫ちゃんは古道さんの提案に乗って、わたしたちが今まで調べてきた如月ちゃんの事を、古道さんに話始めた。

 

 3

 

「──以上が私達が星野如月について調べて知ったことです」

 

「お疲れ様、真姫ちゃん」

 

「お疲れにゃ~」

 

 説明を終えた真姫ちゃんは一息ついてから、わたしたちの代わりに、全部説明してくれた真姫ちゃんに、感謝の言葉を掛ける。

 

「少しはあなたたちも喋りなさいよ」

 

「凛は説明下手だし……」

 

「わたしも上手く説明できる自信がないから……」

 

 真姫ちゃん頭良くて、わたしたちよりも説明が上手そうだから、わたしたちが変なことを言って、話の腰を折るのは行いけないと思って黙ってた。

 

 やっぱりずっと真姫ちゃんが喋りっぱなしなのは、申し訳ない気持ちになる。

 

「ごめんなさい……」

 

「別に良いわよ……そもそも星野如月について調べようって言ったのは私なんだし……」

 

「そうにゃ~、真姫ちゃんが言い始めたから、真姫ちゃんが説明するのは正しいにゃ~」

 

「凛、あんたはもうちょっと申し訳ないと思いなさいよ」

 

 そんな何時もの会話を会話をしてると、わたしは目の前で話を聞いていた古道さんの方を見ると、何か考えてるみたいな様子だった。

 

「君たちの調べたことは大体分かったよ、僕が話す前に一つ聞いて良いかな?」

 

「? 良いですけど、何ですか?」

 

 考えが纏まったのか古道さんが口を開くと、わたしたちは話すのを止めて、話を聞こうとすると、古道さんは質問をしようとしてきたから、真姫ちゃんは何を聞かれるのか分からないけど質問を聞こうとする。

 

「君たちは星野如月だった篠原沙紀のことか、それとも君たちと一緒にいるあの子の事か、どっちの事が知りたいのかい」

 

 えっ? どういう事? どっちも同じように聞こえるけど……。

 

 だって沙紀ちゃんは星野如月ちゃんだから、どっちの事が知りたいって言われたって、同じようだと思うんだけど……。

 

 違うとしても性格くらいだけど、あれは沙紀ちゃんの演技だけど、もしかしてそういうことを言ってるのかな。

 

「どういう意味ですか? 意味が同じだと思いますけど」

 

 どうやら真姫ちゃんも古道さんが言ったことは分からなかったみたいで、そう古道さんに聞き返す。

 

「そうだね……少し分かりづらかったね、なら言い方を変えて、星野如月時代の沙紀の事が知りたいのか、それともあの一ヶ月間のあの子の事だけが知りたいのかい」

 

 それなら大分分かりやすい。アイドル時代の沙紀ちゃんの事全体か、ピンポイントであの一ヶ月間の事を知りたいのかって事だよね。

 

 個人的にはアイドル時代の沙紀ちゃんがどうだったのか、気になるけど……わたしたちが知りたいのは、あの一ヶ月間の事だからここはやっぱり……。

 

「前者は結構長い話になるけど、アイドル時代の沙紀がどんななのか話せるけど、後者は……僕が知ってることだけしか話せない」

 

『えっ!?』

 

 そんなことを考えてると古道さんが話す内容の補足をしていて、その補足が予想外のことに驚いた。

 

「僕は星野如月が休業するまで一ヶ月間について、全ては知らないから話せるのは、本の一部なんだ」

 

 古道さんはそう断言した。その言葉には嘘を付いてるようには見えなくて、本当の事を言ってると思う。

 

「そもそも全てを把握してる人物は、当事者であるあの子以外知らないと思う」

 

「それって……どういう意味ですか」

 

「言葉通りの意味だよ、あの一ヶ月間は星野如月である篠原沙紀にとって……あの子にとって、僕たちが把握しきれないくらいに色んな事が起こり過ぎた」

 

 思わずわたしは古道さんに質問したけど、逆に分からないことが増えた。

 

「でも沙紀は休業したのは、スランプだって本人の口から言ってました、あれは嘘ってことになるの!?」

 

 そう。真姫ちゃんの言う通り、わたしたちは沙紀ちゃんから休業の理由はスランプだって聞いていた。

 

 本来の星野如月ちゃんのスタイルは、クールで歌やダンスで自分の感情を込めるタイプのアイドル。けど、実際に今の沙紀ちゃんの歌には、自分の感情が込められてない。

 

 だから沙紀ちゃんはスランプになってる事は間違いない。けどその理由が分からないから調べ始めたけど、その言い方だと、別の理由でアイドル活動休業したみたいに聞こえる。

 

「そうか、あの子はスランプと言ったんだね……確かにそうとも言い切れるけど……」

 

 わたしたちの話を聞いて、何故か古道さんは何処か納得したような事を言う。

 

「確かに星野如月はスランプで休業したのは、間違いではないね、実際に星野如月にとって大切なものを失ってしまったからね」

 

「大切なもの?」

 

「アイドル星野如月が、星野如月として、輝ける前提条件と言うべきかな」

 

「ますます分かんないにゃ~」

 

 凛ちゃんは全く理解が出来てないみたいで、頭を抱え始めてる。わたしも一体どう意味なのか、全然分かんない。

 

 如月ちゃん──沙紀ちゃんにとって大切なもの? 前提条件? 何だろう。

 

 歌やダンスの技術は前見たときも全く衰えてないから、違うと思うけど、やっぱり気持ちとかそういうものかな。

 

 歌って踊ってアイドルを楽しむ気持ちとか、ライブをやりきる達成感とか、そんな気持ち。

 

「それって……何ですか」

 

 真姫ちゃんは沙紀ちゃんは失ったものは何か、古道さんに聞いたけど、古道さんは答えず、首を横に振った。

 

「それは僕の口からは言えない」

 

「どうして!!」

 

 知らないじゃなくて、言えない。つまり古道さんは沙紀ちゃんが何を失ってるのか知ってる。

 

 真姫ちゃんもそれに気付いてるから感情的になって、古道さんに詰め寄るけど、古道さんは一切答えようとしないで黙ったまま。

 

 対して真姫ちゃんは沙紀ちゃんがスランプになった理由を探ってたから、その探して求めた答えが目の前にあって、もどかしく感じてるのが伝わる。

 

 如月ちゃんの手掛かりを掴むために話を聞こうと、思ったのに、何故か分からないことが、さらに増えてるそんな矛盾。

 

「すまない、この事はあの子にとって大事なこと、他人がおいそれと話していいことじゃないんだ」

 

「えっ──こちらこそ……ごめんなさい……」

 

 謝る古道さんに詰め寄ってた真姫ちゃんは、何処か申し訳なさそうな顔をして謝る。

 

「その上で聞くけど、君たちはどの話を聞きたいのかい、星野如月時代の沙紀か、それとも星野如月の結末か」

 

 そう聞いてくる古道さんにわたしたちはお互いの顔を見合って確認してから頷いた。

 

「話せること全部聞かせてください」

 

「そうか……なら話すよ」

 

 わたしたちが聞く意思を見せると、古道さんはゆっくりと口を開いて、こう口にした。

 

「僕が沙紀をアイドルとしてスカウトし、そしてあの子にアイドル活動の休業を言い渡した張本人なんだ」

 

 4

 

 まずは何から話そうかな。そうだね……初めて出会ったとき話からだね。

 

 初めて出会ったとき、もといスカウトしたときの沙紀は、同い年の子と比べると、大人びてると言うより、何処か退屈そうにしている子だったかな。

 

 冷めた瞳に、冷淡な声で、周りに興味がない雰囲気を出しているんだけど、話してみるとそうでもなく、好奇心旺盛で、自分に自信を持ってる女の子。

 

 ただ単純に、あまり感情を顔に出すのが苦手だから、周りに勘違いをよくされるのが多かったみたい。

 

 そんな沙紀に僕がアイドルのスカウトすると、静かに食い付いて興味がみたいだから、僕は沙紀に連絡先を渡した。

 

 すると、沙紀は帰ってからすぐに親御さんに相談して、その翌日には連絡をくれた。

 

 あまりにも決断が早かったから、沙紀に後で理由を聞いてみると──

 

(理由も何も……ただ面白そうだから、それだけよ)

 

 そう言った以外にこれと言った理由がなかった。

 

 強いて挙げるのなら、スカウトする少し前に色んな習い事やスポーツをやったみたいだけど、どれも辞めていて、丁度暇だったって事を言ってたかな。

 

 そんな経緯もあって、沙紀はウチの事務所に所属することになり、まずは同じようにスカウトやオーディションに合格した同期の新人アイドルたちと、トレーニングの日々が始まった。

 

 トレーニングを始まってからすぐに、沙紀の才能は頭角を現した。ダンスを踊る上で、基礎を全て感覚で習得してマスターした。

 

 色んな習い事やスポーツをやってから言うのも合ったかもしれないけど、元から才能があったのが、大きかったと思う。その時点で、沙紀は既に下手なプロよりは実力があった。

 

 そんな沙紀の姿を見て、始まって早々思い知らされたよ、僕がとんでもない逸材を見つけてしまったことをね。だけどね、大きすぎる才能は、周囲の人の心を折るには十分過ぎるくらいの才能でもあった。

 

 練習が数日と続くと、沙紀の才能を近くで感じて、自分には才能がないと思い、挫折していった同期の子が一人、また一人と辞めていった。

 

 さらに沙紀自身が無自覚に冷たい態度を取ったり、勘違いされやすさが拍車を掛けて、余計に辞める子が増えていった。

 

 中にはそんな沙紀の態度や才能に嫉妬して、イジメ紛いのことする子もいたけど、沙紀はそういった子を才能で徹底的に黙らせた。

 

 完膚なきまでに、相手の心が完全に砕けるまでやって、イジメをしていた子たちまで辞めさせた。

 

 そうして最後には君たちが調べて知ったように、沙紀の同期たちは──ユーリを除いて、表舞台に一度も上がる前にみんな辞めてしまった。

 

 あのときは事務所内も大騒ぎだったよ。何せ、トレーニングと同時平行で進められてた、新人アイドルプロジェクトがほぼ白紙になったからね。

 

 しかも残ったのが、そういう状況を生み出した問題児の沙紀と、当時の同期の中では一番下手で、別の意味でも問題児のユーリだけだったからね。

 

 白紙になったプロジェクトの代わりに、この問題児二人で何とかプロジェクト組んで、ユニット活動することになった。

 

 そうなると色々と決めなきゃいけない事が出てきた訳だけど、沙紀に関してはこの状況にした才能と実力があったから、キャラ作りとか下手な小細工はしなかった。

 

 ユーリ関しては、色々と問題はあったけど、今は彼女の話じゃないから、今回は割愛。

 

 あとは二人に共通して、芸名を考えるわけになったけど、二人の本名を弄って、一番になって欲しいと意味を込めて一を加えた芸名を考えて、沙紀とユーリもその芸名に気に入ってくれて、二人はアイドルとして活動を始めた。

 

 そう、これが星野如月とユーリと言う、後のトップアイドルたちの誕生と言うわけだね。

 

 5

 

「取り敢えず、沙紀との出会いから星野如月誕生まで簡単に話したけど、一先ず何かあるかな」

 

 一旦話の区切りが付いたから、古道さんはわたしたちにさっきまでの話の内容で、気になったことがないか、質問をしてきた。

 

「すごい興味深い話でした!! 如月ちゃんの誕生秘話が聞けるなんて!!」

 

 普通のファンが知らないことをいっぱい聞けて、アイドルファンとして、テンションが今までにないくらい上がってるわたし。

 

「気になるどころか、初めて聞く話ばかりで、如月ちゃんとユーリちゃんの名前の由来何て、そんな意味があるなんて知らなかったですし、二人の名前を付けたのが古道さんだったんなんて!!」

 

「かよちんの目がキラキラしながら、テンションが今までにないくらいに高いにゃ~」

 

「まあ、仕方ないわよ、花陽からしたら美味しい話しかないわ」

 

 テンションが上がってるわたしを見ながら、わたしがこうなることが分かってたのか、二人は落ち着いた感じで話してる。

 

「二人は何かないかい?」

 

「話の中の沙紀ちゃん、全然性格が違ったよね」

 

 古道さんは二人に気になることがなかったか聞くと、凛ちゃんは昔の沙紀ちゃんの性格が違ったことが気になってた。

 

「そうだよね、話の中の沙紀ちゃんって、どっちかと言うと、如月ちゃんの時の性格みたいだよね」

 

 如月ちゃんの性格は話の中に出てきた沙紀ちゃんと全く同じで、でもそれは本人だから同じなのは、当たり前なんだけど……。

 

「前に沙紀ちゃんがあれって、演技だって言ってた気がするけど、凛の勘違いだったのかな」

 

「凛の勘違いじゃないわよ、私もそれは覚えてるわ」

 

「わたしもそれ覚えてるよ、てっきりわたしも話を聞いてて、勘違いしてるのかなって思ってたけど……」

 

 やっぱりみんな疑問に思ったんだ。前に一度、沙紀ちゃんがみんなの前で如月ちゃんのキャラをやったときに、自分で演技だって説明してたけど。

 

 古道さんの話を聞く限りじゃあ、アイドルを始める前から、そんな性格だったみたいで、沙紀ちゃんが言ったことと違ってる。

 

 てっきりわたしが沙紀ちゃんの話したことを勘違いしてるのかなって思ってたけど、二人も覚えてるみたいから、わたしの勘違いって訳じゃないよね。

 

「確かに今のあの子と昔の沙紀だったら、大分性格が違うからね、正直な話、僕の方も今のあの子の性格の変わりようは驚いてるくらいだよ」

 

「そうなんですか?」

 

「うん、あの子が音ノ木坂に行ってから、直接会うのはこの前が久しぶりだったから、あのときのあの子の変わりようには内心驚いてたよ」

 

 そうなんだ……でもあのときの沙紀ちゃんを思い出すと、何か何処か落ち着かない感じだったような気がする。

 

 あと途中で席も外してたのも、昔の性格を知ってる古道さんが居たから、居心地が悪くなって席を外したかもしれない。

 

「多分……音ノ木坂に通ってからあの子に心境の変化があったと思うんだけど、その様子だと君たちは知らないみたいだね」

 

「えぇ、沙紀と関わるようになったのは今年からで、会ったときにはもうあの性格でしたよ」

 

 わたしたちが関わるようになるときには今の性格だったから、穂乃果ちゃんがμ'sを結成するくらいも多分違うから、もっと前だと思う。

 

「もしかしたら高校デビューってやつ!?」

 

「なるほど、その線はあるかもしれない」

 

 凛ちゃんの突拍子のない発言に、古道さんは真面目に考え始めるけど、流石にそれは……と思ったけど、若干沙紀ちゃんなら有り得るから否定できない。

 

「まあ、その辺に関しては僕からは何とも言えないから、本人か、その事情を知ってる人物に聞くしかないね」

 

 古道さんがそういうとわたしは一人、沙紀ちゃんの性格の変化について、知ってそうな人が頭に浮かぶ。

 

 もしかしたらにこちゃんなら何な知ってそうな気がする。

 

 だってにこちゃん、大分前から沙紀ちゃんが如月ちゃんだと知ってたのと、μ'sの中で一番沙紀ちゃんと付き合いが長いのはにこちゃんだから。

 

「まだ他に気になったことは何かあるかい?」

 

「じゃあ……沙紀ちゃんが問題児だったのは、話を聞いて分かるけど、何でユーリちゃんも問題児扱いされてたにゃ~」

 

 わたしたちの疑問に一区切りが付いたから、古道さんは次の疑問がないか聞くと、また凛ちゃんが気になった疑問を口にした。

 

「それはわたしも気になる」

 

 わたしが知ってるユーリちゃんはおっとりとしたゆるふわ系なんだけど、努力家な面もあって、歌やダンスは可愛くて上手いアイドル。

 

 そんなユーリちゃんが問題児扱いされてたのは、沙紀ちゃんのことも気になるけど、そのこともすごく気になる。

 

「ユーリの事か……」

 

 だけど、そんなわたしの気持ちとは裏腹に古道さんはすごく困ったような顔をしてる。

 

「そうだね……ユーリの場合は事務所に入り方が特殊だったのが、一番の原因だったね」

 

「入り方が特殊?」

 

 どういうことだろう。普通にオーディションとかスカウトとかで入った訳じゃないってことなのかな。

 

「それ以外にも問題は色々とあるけど、出来れば今はユーリについては触れないで欲しいかな、あの子が関わると録な事が起こらないからね……」

 

 気になるけど、古道さんは遠い目をしながらユーリちゃんに関しては、触れて欲しくないって感じがすごく伝わってくる。

 

 それを察したわたしと凜ちゃんはこれ以上ユーリちゃんについては追究しないようにする。それに今は沙紀ちゃんについて教えてもらってるからね。

 

「そういえば真姫ちゃんは何か聞きたいことはないかな」

 

「……」

 

 話題を変えるために古道さんは、まだ一度も疑問に思ったことを言ってない真姫ちゃんに声を掛けるけど、真姫ちゃんは何かとても考えてるみたいで、古道さんの声が聞こえていないみたい。

 

「真姫ちゃん、どうしたの?」

 

「えっ? 何?」

 

 わたしが呼び掛けると、真姫ちゃんは呼び掛けられてることに気付くけど、考え事に集中し過ぎて、珍しく話を聞いていなかったみたい。

 

「すごく考えていたみたいだけど、真姫ちゃんはさっきまでの話で気になることでもあるのかな?」

 

「いえ……聞きたかったことは凛が言ってくれたので、今のところ特には……」

 

 今の話のところで真姫ちゃんは何もないと答えるけど、真姫ちゃんは一体何をそんなに考え込んだろう。他の話を聞いてから聞く気なのかな。

 

「そう? 他に聞きたいことがなかったら、次の話を始めるけどいいかい」

 

 古道さんはわたしたちを見て、他に質問がないか確認する。

 

 とりあえず今の話では特に気になる事がないから頷いて反応をすると、凛ちゃんもないみたいで同じように頷いてる。

 

「大丈夫です」

 

 てっきり真姫ちゃんは何か言うのかなと思ってたけど、わたしたちと同じように疑問がないと答える。

 

「そう、じゃあ──さっきの話の続きを始めるね」

 

 全員が進めていいと反応したから、古道さんは再び星野如月について話始めた。

 

 6

 

 さて、奇しくもユニットを結成して誕生した二人の新人アイドル、星野如月とユーリなんだけど、これが予想以上の結果を出した。

 

 沙紀の実力は既に話したようにもちろんのこと、彼女の見た目や歌声、ダンスは人を惹き付ける魅力があり、彼女のライブを見たものは、その魅力に惹かれて、瞬く間に多くのファンを獲得をした。

 

 学業と両立をしながらも新人アイドルとしては、異例の速度で知名度を上げっていき、多くのライブやイベントを成功させ、ユニット活動だけじゃなく、次第にソロでも活発に活動が行われていった。

 

 事務所内でも多くの先輩アイドルたちに注目をされ、問題児扱いから、その年一番の期待の新星として、意識は変化していった。

 

 同じく問題児だったユーリも彼女に感化され、最初は緊張してたりも実力もそこまで高くなかったけど、少しずつ実力をつけていった。

 

 しかし、全てが順調に事が進んでいたが、ゆっくりと彼女の成長が止まっていった。正しく言うなら沙紀の一人の才能では、これ以上成長できないところまで上り詰めたと言うべきかな。

 

 沙紀には元々備わってる才能の他に、高い感性を持っていて、歌やダンスはほぼ感覚で歌ったり踊ったりして、練習をしなくても大抵の事が出来ていた。

 

 大抵だから稀に間違えることがあるけど、僅かなそれも誤差くらいで、あまり気になる事がないくらい。

 

 家には優秀な専属トレーナーが居るんだけど、指導してたのは最初だけであとは基礎トレーニングを見ることしか出来なかった。

 

 専属トレーナー曰く完全に完成されて、何処を伸ばせばいいのか分からないと、匙を投げてたよ。

 

 僅か半年の期間だけで、プロとしては十分なくらいに実力は持っている彼女だからこそ、その才能を更に開花させれば、アイドル界に永遠にその名を残せるアイドルになるんじゃないのかと思った。

 

 まだ沙紀の才能は原石のままで、それを磨き、より上手く扱えるために導く存在が居ればいいのでは、と当時の僕は考えていた。

 

 そのために多くの有名なインストラクター、トレーナーを彼女に紹介したが、上手くいかず失敗ばかりだった。

 

 才能を上手く引き出せなかったもの。

 

 才能は引き出せても、沙紀と相性が悪かったもの。

 

 逆に沙紀の才能に嫉妬して、沙紀の才能を潰そうとした指導者としてあるまじき行為をしたもの。

 

 様々な人間を外部から雇っても成果は出ず、沙紀の才能を伸ばせないどころか、そもそも沙紀自身がアイドルに対して退屈し飽き始めていた。

 

 元から才能に溢れた彼女は、大抵の事は出来て当たり前で、彼女にとって、アイドルはただの興味本位で始めた遊びでしかなかった。

 

 アイドルだけじゃなく、沙紀にとって今までやってきたスポーツも習い事もただの興味を持った遊びで、飽きたらオモチャのようにポイッと捨てるだけのものでしかなかった。

 

 周りに大きな影響を与えながら、適当に理由を作って、辞めて次の面白そうな遊びを探して、それを繰り返す、ただそれだけ。

 

 このままでは不味いと思って、ユーリにも協力をしてもらい、沙紀を説得まがいのことをして、何とか今すぐに辞めるのだけは阻止することは出来た。

 

 しかし、確保出来た猶予は夏に予定してたサマーライブまで、それまでに彼女の意識が変わらなければ、それがラストライブになる。

 

 それまでに沙紀の意識を変えられるように、僕は沙紀の才能を伸ばせる人物を探し回った。だが、そんな人物は見つかることなく、ただ時間だけが過ぎて行く。

 

 もう無理かと諦めかけたときに、あの子がユーリに練習を教えてる姿を目撃した。

 

 これは一度花陽ちゃんには話したことだけど、あの子は物事を真似するのがとても上手い。それは言ってしまえば観察力が高いと言える。

 

 それどころかあの子はとても細かい所までよく見てる。普通に気づかないような相手の仕草とか、癖を意図も簡単に見つける事が出来た。

 

 あとは単純にそういった部分を直す知識が足りないだけだが、あの子は何故かうちの専属トレーナーからそういった知識を勉強していた。

 

 それを見た瞬間に僕は確信したよ。星野如月の才能を更に開花することが出来るのは、他の誰でもないあの子自身だと。

 

 それをあの子に伝えると、どうやらあの子の友達にも同じことを言われたらしく、それが正しいかどうか試すためにユーリで実験していたと言う。

 

 実験でユーリに教えてたのは、この際置いといて、僕は今すぐにそれをやるべきだと沙紀に言うと、彼女は何処か乗り気で行動をし始めた。

 

 そうしてあの子自身が練習を見れるように鏡で意識しながら練習を続け、僕はライブの打ち合わせなどで練習をほぼ見ることなく、サマーライブ当日になった。

 

 このライブで沙紀がアイドルを辞める不安があったが、ライブ前の沙紀を見ると、不思議とそんな不安がなかった。

 

 そして星野如月がステージに上がり、最初の曲が始まると、その場に居た全員が彼女に魅了された。

 

 来てくれたファンも、スタッフも、事務所の重役たちも、誰構わず全ての人が彼女の歌に、ダンスに魅了された。

 

 勢いはあるが、間違い一つないキレのあるダンス。冷めた声色ではなるが、そこから彼女が本当に楽しんでると伝わってくる歌声。

 

 今までの星野如月のライブとは格段に進化したライブだった。

 

 そうして曲が終わると、一瞬の沈黙から大きな歓声が沸き上がり、そのままの勢いを維持したままライブを成功させた。

 

 ライブの終わりに沙紀は──星野如月は、引退宣言をせず、アイドルを続ける意思を見せた。

 

 僕はライブを終えて、アイドル続ける意思を見せた沙紀が居る楽屋に向かうとそこには──

 

(やっと見つけた……これよ、わたしが探し続けてたものよ)

 

(フフフ……何て奇妙な巡り合わせなのかしら、あの名前は本当にわたしたちを表してるわ)

 

(だからこそ今日のライブは最高に楽しかったわ、こんな気持ちは初めて……)

 

(なんたって……やっとあなたと一緒に遊べる場所が見つけたのだから)

 

 そんな風に喋る沙紀は、今までの彼女から一度も見たことのないような笑顔をしていた。

 

 その笑顔を見た瞬間、僕は本当に安心した。沙紀がアイドルを辞めるとは言い出さないだろう。何故なら沙紀はやっと自分がやりたいことを見つけたんだから。

 

 そして、このライブをきっかけに星野如月は、伝説のアイドルなんて大それた呼ばれかたをするようになった。

 

 7

 

「これが星野如月の本当の始まりの話、彼女にとって大切な物語」

 

 切りの良いところで話を終えた古道さんは、さっきと同じように一息付いた。

 

 ユニットを組むまでの話も驚くことばかりだったけど、今の話もいっぱい驚くことばかりで、特にあのサマーライブにはそんな出来事があったなんて。

 

 確かにあのライブは、それまでの星野如月のライブとは一線を越えたライブだったけど、まさか沙紀ちゃん自身が自分で自分の才能を伸ばして、あそこまでのライブにするなんて。

 

「沙紀ちゃん……色々とおかしすぎにゃ~」

 

「うん……沙紀ちゃんの才能の話は、この前聞いたから知ってたけど、まさか沙紀ちゃん自分にも使ってたなんてね」

 

 それどころか、実験感覚で練習を見られてたユーリちゃんって……あと話を聞いてると古道さんもユーリちゃんの扱いが結構酷い気がする。

 

「本当に沙紀ちゃんって天才なんだね、何から何まで自分一人で出来ちゃうなんて……」

 

 見た目もよくって勉強や運動も何でも出来て、その上色んな人に影響を与えて、人を導く能力まで持ってる。あとは運が悪いのがなければ完璧だよ。

 

「確かに聞いた話だけじゃ、沙紀は一人で完全に自己完結してるけど、あの子がそうじゃないのは、君たちがよく知ってるじゃないのかい」

 

 わたしが沙紀ちゃんのことを別の世界の人間だと思ってると、わたしの心を見透かしたのか古道さんがそんな言葉を掛けてくれた。

 

「沙紀は才能に溢れてるけど、あれの内面は本当にその辺にいる子供と一緒だよ、ただ純水に本当に自分が楽しいと思えることがしたいって思ってるだけだよ」

 

「だからこそ、それを見つけた沙紀はあそこまでの高みに上ることができた」

 

 古道さんの言う通りかもしれない。いくら才能があって色んな事ができても、それが楽しいと思えないと熱心に頑張る事ができない。

 

 それは沙紀ちゃんがアイドルを始める前にやってた多くのスポーツや習い事の結果からも分かる。本当に沙紀ちゃんはアイドルをやるのが好きだったんだ。

 

「それにあの子の才能に関しては、本当にタイミングが良かったとしか言えないよ、偶々あの子の友達がアドバイスをしてくれなかったら、そこで星野如月は終わっていたからね」

 

「その友達ってもしかしてよくユーリのブログに出てた子?」

 

「うん、確か……そうだったはずだよ」

 

 真姫ちゃんがそんな確認をすると、古道さんは思い出すような感じで答える。どうやら古道さんは沙紀ちゃんの友達についてよく知らないみたい。

 

「あの子が学校でどんな風に過ごしてるのか、あまり話さなかったけど、僕の記憶が正しければ、その友達はあの子にとって、とても大切な親友だとか言ってた気がするよ」

 

 そうなんだ。よくブログに出てきたけど、沙紀ちゃんがそこまで言うくらいの人なんだ。

 

 あの学校に通ってる可能性があるから、すごい人なのは分かってたけど、沙紀ちゃんの才能を──星野如月を、成長させるきっかけを与えるなんて一体どんな人なんだろう。

 

「そういえば沙紀ちゃんが名前がどうとか言ってたけど、何で? 古道さんが付けた意味以外に何かあるんですか」

 

 話してた内容にそんなことがあるのを凛ちゃんが思い出して、古道さんにそんな質問をすると、真姫ちゃんもそれ続けるように口に出した。

 

「その話、私も一度だけ沙紀本人から聞いたことがあるわ、本人は響きが好きとかどうとか言って、理由は教えてくれなかったわ」

 

「真姫ちゃん!! その話初耳だよ、何で教えてくれなかったの!!」

 

 沙紀ちゃん本人からそんな貴重な話を聞いてたのを教えてくれなかったのはショックだけど、何よりも沙紀ちゃんとそんな話をしてズルいよ。

 

 わたしはそんな思いを内に秘めながら真姫ちゃんに詰め寄ると、真姫ちゃんはうんざりするような顔をして、わたしを引き離そうとする。

 

「話さなかったのは悪いと思ったわよ、けど色々と気になることがあったから話さなかっただけよ」

 

「気になること? 何!?」

 

「顔が近いわ!! 何かあのときの沙紀は何時もと雰囲気が違うなって、どちらかと言うと、今の話に出てくる沙紀みたいだったのよ」

 

 今の話に出てくる沙紀ちゃんみたいって……星野如月のキャラをやってる沙紀ちゃん? 

 

「でもそれって真姫ちゃんがそれっぽいこと言って、沙紀ちゃんがやっただけじゃないのかにゃ~」

 

「違うわよ、偶々合宿の時に二階で一人でいると思ったら、初めからキャラ作ってて、気付いたら一緒に真夜中にお茶会をしてただけよ」

 

「真姫ちゃん一人だけズルいよ、如月ちゃんキャラの沙紀ちゃんとお茶会なんて」

 

「羨むところはそこ!?」

 

 勿論だよ、如月ちゃんのキャラってことは眼鏡を外して、ストレートヘアーで、クールな感じでいたってことだよね。

 

 それに合宿の時ってことは、真姫ちゃんの別荘で綺麗な星空が見える夜景を見ながら、お茶を飲むなんてすごく絵になる光景だよ。

 

 何時もの沙紀ちゃんも嫌いじゃないけど、その条件なら絶対に如月ちゃんの方がいい。

 

「何でわたしはそのときに起きれなかったんだろう……」

 

 あのときにぐっすり自分に眠っていた自分に物凄く後悔する。

 

「まあ……落ち込んでる花陽は置いておいて、話を戻すと、星野如月の意味に他にどんなあるの」

 

「……」

 

 本当に落ち込んでるわたしを放っておいて、話を戻して古道さんに質問をする真姫ちゃんに、また古道さんは考え込むような素振りをしていた。

 

「質問に答える前に一つ聞いていいかな」

 

「良いですけど、何ですか?」

 

「お茶会をしてたって言ってたけど、あの子は何を飲んでた」

 

「? 確かブラックコーヒーだったわ」

 

「そうか……」

 

 古道さんの質問の意図が読めなくって、わたしたち全員が疑問の表情を浮かべる。どうして古道さんはそんなことを聞いたんだろう。

 

「そうだね、その話については多分、本人がその内分かるとかどうとか言ってたと思うから、いずれ分かるはずよ」

 

「全然答えになってないですけど」

 

「いや、こればかりは僕の口からは言えない、あの子本人に聞き出して欲しい」

 

 どう言うこと? 古道さんが言えないって、そんな重要なことなの。

 

「じゃあ、沙紀がライブのあとに話してた相手は誰?」

 

 そういえばライブのあとの沙紀ちゃんって誰かと話してたような風に言ってたけど、誰と話してたんだろう。わたしはてっきりユーリちゃんかと思ってたけど。

 

「それも言えない、ただ沙紀にとって一番大切な相手だってくらいしか言えない」

 

「どうして!!」

 

「すまない、その相手については完全に僕から他人に言うことを口止めされてる」

 

 そう言って頭を下げる古道さん。色んな事を話してくれる古道さんだけど、そんな古道さんが話せない事って、一体……。

 

「え~と……ごめんなさい……こっちこそ色々と教えて貰ってるのに……」

 

 そんな古道さんを見て、好奇心のあまりカッとなってしまった自分に恥ずかしがりながら、古道さんに頭を下げる真姫ちゃん。

 

「すまない、本当は一番話さなきゃいけない事なんだけど約束をしてるから」

 

 そんなに重要なことなの。沙紀ちゃんが話してた相手って……。

 

 そこまでして沙紀ちゃんにとって一番大切な相手……。誰だろう。ユーリちゃん? それとも沙紀ちゃんの親友? そもそも誰がそんな口止めをしてるだろう。

 

「他に何か質問は……ないか……」

 

 わたしたちの顔を見て、そんな風に口にする古道さん。すると古道さんは少し呼吸を整えるような素振りをし始める。

 

 その姿を見て、わたしたちは何となく次に話す話を察した。

 

「じゃあ……次は星野如月の終わりの物語──結末を話すよ」

 

 ついにあの星野如月が引退する原因の話の一部を古道さんは話始めた。

 

 8

 

 さて、サマーライブを終えてから爆発的な人気を得た沙紀は、その後も順調だった。

 

 仕事の数は、それまでとは比べ物にならないくらいに増え、なおかつ学業のほうも疎かにせず、ちゃんと熟し早い段階で高校の推薦を貰っていた。

 

 ユーリもどんどん有名になる沙紀に対して火が付いたのか、あの子が練習に見て貰いながら、どんどん実力を付けていった。

 

 特に目立った問題もなく、何もかもが恐いくらいに順調に進んでいき、やがて星野如月とユーリはNEGの看板アイドルまで上り詰めて、名実ともにトップアイドルの仲間入りをした。

 

 そんな二人の影響を受けて、彼女のようなアイドルを志す者も増え、ウチにオーディションを受けに来る子や、スクールアイドルを始める子が、急激に増えていった。

 

 そうして今のアイドルブームを作るきっかけを彼女は作り上げた。

 

 毎日が充実してる沙紀は、相変わらず感情は分かりにくいが楽しそうに見えて、ユーリや学校の友達と一緒に楽しい時間を過ごしてた。

 

 しかし、そんな楽しい時間は徐々に崩れ去っていった。

 

 サマーライブから一年が経ち、二度目のサマーライブを終えてから、数日が経ったある日を境に星野如月の歌とダンスに彼女の熱意が感じられなくなった。

 

 技術的には問題ないのに、熱意どころか感情と言えるものが全く感じず、機械的に歌やダンスをするようになってしまっていた。

 

 あの子自身は何時も通りにやってると言うが、僕の目から見てもそうだったし、一緒に踊っていたユーリの目からも明らかにそうとしか見えなかった。

 

 もしかしたら身体に何か不調でもあるのではないかと思い、病院で検査させたけど、沙紀の身体は至って健康。何処にもおかしいところはなかった。

 

 検査を終えて、健康だと言うことが分かったあの子は特に気にせず仕事を続けるけど、明らかにそれまでの星野如月とは欠けていた。

 

 ただ何が欠けたのか、そもそもどうして欠けてしまった理由は全く分からないが、それは明らかに不調。

 

 しかし、身体に問題がないとなると、あとは精神的な部分に問題があるのでは考えて、あの子と話してみると、あの子の雰囲気からスランプになってしまったんじゃないのかと思い至った。

 

 沙紀の性格上、スランプになるとは到底考えられないけど、トップアイドルとして活躍して行くうちに、多くの人の期待に応えなきゃいけないと、あの子が次第に強迫観念に駆られたのかと。

 

 確かにここまで人気が出ると、そう感じるのは仕方ないことだと思う。

 

 それにここのところ忙しかったし、気分転換をして気持ちが落ち着けるように、少し休みを提案したんけど、あの子はそれを拒否した。

 

 自分は大丈夫、そんな必要はないと。そもそも僕の勘違いだと言ってね。

 

 あの子はそう言うけど、誰の目を見ても欠けてる。だから休むように説得するためにユーリにも頼んだけど、ユーリでも止められなかった。

 

 僕やユーリの制止を聞かずにあの子は、仕事を続けるのだけど、今の彼女では周りが求めてるものを与えることが出来なかった。

 

 その事を感じたあの子は次第に焦りを感じ始めて、今まででは考えられないようなミスを繰り返すようになっていった。

 

 流石にこれでは不味いと思ってもう一度説得してみるけど、焦りを感じ始めてるあの子には何も届いていなかった。

 

 僕では話を聞いてくれなさそうだから、説得できそうな人物に粗方頼んで説得をしてもらったけど、全く効果がなく、むしろ逆効果だった。

 

 日に日に溜まっていたストレスが説得によって、歯止めを効かずに爆発してしまった。

 

 そのときの状況ついては、僕は言伝で聞いたけど、相当あの子は取り乱してたらしい。

 

 場合によっては厳しく突き放すようなことや、ただ焦りから本心と一緒に余計なことを言ってしまって、関係を悪化させたり、と散々な状態を作り上げてしまった。

 

 それによって精神的に堪えたのか、体調面でも酷くなり始めて、もはやまともにアイドル活動をできる状況ではなくなってしまった。

 

 だから僕はあの子に強制的にアイドル活動を休業するようにと言い渡した。

 

 言い渡されたあの子自身、最初は言葉の意味を理解できなかったのか、反応は薄かったが、次第に言葉の意味を理解して、顔色も変わっていった。

 

 ただ変わっていった顔は絶望した顔ではなく、まるで始めからこうなることが分かっていたかのような諦めた顔をして──

 

(やっぱり私じゃ……駄目だったんですね……)

 

(ははは……バカみたい……私には……何もないの分かっていたのに……)

 

(ホント……言う通りだったよ……このまま続けたって良いことはないって……)

 

(ははは……はは……何で……私って生きてるんだろう)

 

 ぶつぶつとそんなことを呟きながらあの子はその場から立ち去ってしまった。

 

 こうして多くの人に影響を与えたアイドル──星野如月の活動は休止した。

 

 9

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 古道さんから話を聞き終えたわたしたちは、その場で一言も喋らずにそれぞれ違うことをしてる。

 

 わたしはこの空気に耐えられずつい目線を下にしていて、真姫ちゃんは何時ものように髪の毛をクルクルと弄っていて、凛ちゃんは買ってきた飲み物を飲んでる。

 

 ちなみに古道さんはわたしたちに話終えたあと、別の仕事に向かってもうここには居ない。

 

 どうやら古道さんの貴重な休憩時間をわたしたちに話すために使わせちゃったみたい。そう考えると何か申し訳ない気持ちになっちゃう。

 

「ねぇ……あの話聞いてどう思う?」

 

 そんな空気の中、最初に口を開いたのは真紀ちゃんだった。

 

「どうって……如月ちゃんについて知らなかったことをいっぱい知れたけど、正直あの最後の一ヶ月間について聞いちゃって良かったのかなって……」

 

 沙紀ちゃんからしたらきっと知られたくないことなのに、勝手にそんなことを知ってる人から隠れて聞いてわたしの中には罪悪感がある。

 

「そうね、確かに沙紀からしたら聞かれたくない話かもしれないだけど、多分そんなことはないと思うのよ」

 

「どうしてそんな風に思うの?」

 

「考えてみなさいよ、私たちが星野如月のプロデューサーに話を聞こうとするなんて、普通に考えれば分かることよ」

 

 確かに沙紀ちゃんのことだからそれくらいは簡単には思い付くと思う。そもそも沙紀ちゃんわたしたちが調べてるの知ってて黙ってるから。

 

「本当に知られたくなかったら接触させないとか、近くで見張ってたりとか何かしらことはしてくるはずよ」

 

「でも何もしてないよね……つまりこの話も知られても問題ないってこと……?」

 

 古道さんが話してる間に沙紀ちゃんが近くで見ていない。人が多いから近くに居ることに気付かなかったとか、もしかしたらあるかもしれないけど。

 

「いや知られたくないことはキッチリと口止めはしてるでしょうね、話の中で話せないって言ったこと何点かあったわけだし」

 

「そういえば誰かに口止めされてるって言ってたにゃ~」

 

 今日の話を思い出してみると、真紀ちゃんが言ってた通り話せないって言ってたことや、普通に口止めされてるって言ったことを思い出す。

 

『星野如月にとって大切なもの』と『星野如月の名前の意味』、それに沙紀ちゃんがライブのあとに『話してた相手』。

 

 このことについては口止めされてるとか、沙紀ちゃんが話すとか言って、古道さんは自分からは言えないって言ってた。

 

 つまり、それこそが沙紀ちゃんにとって一番隠したいことなのかもしれない。

 

「あの人言えないとか言いながら、バッチリと沙紀がどの部分を隠してるのか口にしてるわね」

 

「普通に約束破ってない?」

 

 凛ちゃんの言う通り口止めをされてるのに古道さんはあからさまにここを隠してますよと、堂々と口にしてたからどう考えても約束を破ってる。

 

 そのお陰で沙紀ちゃんがどういった事を隠してるのか気づくことが出来たけど。

 

「口止めされてるのが、隠したいことの内容そのものだから、それに触れるくらいならセーフだと考えてるのでしょうね」

 

「詐欺だにゃ~」

 

「そうね、でもあの人と何を口止めをしたのか分からないけど、ちゃんと口止めしなかった沙紀が悪いのよ」

 

「沙紀ちゃんのせいなんだ……」

 

 何か沙紀ちゃん可哀想に思えてきた。せっかく口止めしておいたのにちゃんと口止めをしておかなかったから、古道さんが普通に話しちゃったのは、沙紀ちゃんのせいだなんて。

 

「それにしても何だろう……如月ちゃんにとって大切なものって……」

 

 多分沙紀ちゃんがアイドルに対して一番大切だと思ってる事で、それが欠けたから今の沙紀ちゃんの歌とダンス何だと思う。

 

 ただ何が欠けたのかよく分からない。そこが口止めされた部分で、沙紀ちゃんにとって絶対に隠し通したいこと何だと思う。

 

「それに名前の意味くらいなら教えてくれてもいいのに」

 

「そうね、前に一度だけ沙紀から名前の話が出たときも話そうとしてたけど、沙紀自身も少し迷ってたみたいだったわ」

 

 そういえば真姫ちゃんは沙紀ちゃんから直接話を聞いていたんだっけ。良いな、わたしだって沙紀ちゃんから直接その話聞きたかったよ。

 

「もしかしてこの二つって関係があるのかな?」

 

「関係があると思う、そうじゃなきゃ口止めはしないし、今思えば名前に触れてたときに『わたしたちの事を見てたら』って妙なことも言ってたわ」

 

 わたしたち? 沙紀ちゃんとユーリちゃんのことかな。

 

「沙紀ちゃんとユーリちゃんのこと?」

 

 凛ちゃんもわたしと同じことを考えてたみたいでそう口にするけど、真姫ちゃんは首を横に振った。

 

「そうなると沙紀ちゃんの友達?」

 

 ユーリちゃんじゃないとなると、あとは沙紀ちゃんの友達くらいしか出てこないけど……。

 

 ただわたしたちのこと見てたらって言われても、そもそも沙紀ちゃんの友達のこと知らないのに見てたらはおかしい気もする。

 

「私も最初はそう思ってたわ、けど今日の話を聞いて違う可能性が出てきたわ」

 

「違う可能性?」

 

「さっき聞いた話中の沙紀の会話と私が沙紀本人から聞いた話を考えると、沙紀がライブのあとに話してた相手はその二人じゃない可能性が出てくるわ」

 

『えっ!?』

 

 突然の真姫ちゃんの発言にわたしと凛ちゃんは驚きの声を上げる。二人の他にもう一人誰かがいるなんてそんな風に思い付いたのか全く理解できない。

 

「何でユーリちゃんや沙紀ちゃんの友達じゃなくて別にもう一人が出てくるの、全く意味が分からないにゃ~」

 

「わたしもどうしてか分からない……」

 

「そうね……それは今日の話をちゃんと整理する必要があるわね」

 

 わたしと凛ちゃんが分からないと言うと、真姫ちゃんは丁寧に説明を始める。

 

「まずは沙紀のライブのあとの会話を思い出して」

 

 真姫ちゃんから沙紀ちゃんのライブのあとの会話と言われて、わたしと凛ちゃんは古道さんから聞いた話を思い出してみる。

 

(やっと見つけた……これよ、わたしが探し続けてたものよ)

 

(フフフ……何て奇妙な巡り合わせなのかしら、あの名前は本当にわたしたちを表してるわ)

 

(だからこそ今日のライブは最高に楽しかったわ、こんな気持ちは初めて……)

 

(なんたって……やっとあなたと一緒に遊べる場所が見つかったから)

 

「あっ……」

 

 一語一句隅々まで思い出してみると確かに名前に関して触れてる。それに気になる点も多くある。

 

「どうやら気づいたみたいね」

 

「え~、かよちん覚えてるの!? 今日、話をいっぱい聞いたからどれがどれだか分かんないよ」

 

 わたしが気づいたような声を出すと、真姫ちゃんと凛ちゃんはそれぞれ反応をする。

 

「凛には難しい話よね」

 

「酷いにゃ~、確かに凛は真姫ちゃんみたいに頭良くないけど、ただ話を聞き過ぎて良く理解できてないだけにゃ~」

 

「そうだよね、今日は色々と話を聞いたよね、わたしも凛ちゃんと同じでそんなに話を理解できてないよ」

 

 今の部分の真姫ちゃんに言われるまでは全然気付かなかったより、他にも話を聞き過ぎて、頭の中に埋もれちゃったって感じ。

 

 沙紀ちゃんの会話を思い出してみれば、星野如月の名前の意味に誰かが関わってるのは分かるけど、でもそれがどうして二人じゃない可能性が出てくるのかまだ分からない。

 

「次に注目するのは会話の中の『遊べる場所』って部分ね」

 

「今回の話の始めに沙紀はアイドルの前に色んなスポーツや習い事をしてたと言ってたわね」

 

「沙紀ちゃん、何やっても大抵上手くいっちゃうから羨ましいよね、かよちん」

 

「うん……それで大抵飽きたり、メンバーと何かあったりして辞めてるって言ってたね」

 

 小さい頃から才能に恵まれたから、何やっても当たり前ですぐに飽きたり、沙紀ちゃんの才能にメンバーが嫉妬したりするから何やっても辞めてた。

 

「沙紀にとってはどんなことでもただの遊びにしか感じないのよ、それはアイドルも同じ、だから途中で飽きてきて辞めようとした」

 

「けど、一つの才能が友達のお陰で開花して、沙紀ちゃんはアイドルを続けたんだよね」

 

 この一つの才能については古道さんから一度聞いたことがあるし、μ'sのマネージャーとしても使われてるからどういうものか分かる。

 

「と言うことは……沙紀ちゃんが言ってた『遊べる場所』ってアイドルってこと?」

 

「そうよ、凛にしてはよく分かったじゃない」

 

「やった~真姫ちゃんに褒められたにゃ~」

 

 凛ちゃんがそんな風に真姫ちゃんに褒められてると思ってるけど、多分、違う気がすると思うのはわたしの気のせいかな。

 

「さて、遊べる場所がアイドルを指してるってことが分かったところで次に行くわよ」

 

 凛ちゃんが喜んでるのを無視して、 真姫ちゃんは話を進めて行く。

 

「少なくとも沙紀にとってアイドルが他の遊びとは違うものになったのは、色々な部分で読み取れるわ、それに沙紀はそういった本当に楽しめる場所をずっと探してた」

 

「そうだね、会話の中にもそんなことを言ってたよね」

 

「次に注目するのは『やっとあなたと一緒に』って部分よ、これってちょっとおかしいと思わない」

 

「そう? 普通にユーリちゃんに言ってる思うけど……」

 

「花陽、サマーライブって星野如月の単独ライブでユーリは出てないはずよね」

 

「うん……ユーリちゃんが出てくるのは二回目で一回目は出てこないよ」

 

 何度も何度も繰り返し見たから絶対にそう言い切れる。

 

「おかしいわよね、出てない相手に一緒に遊べるなんて、それに会話を思い出してみると、沙紀はずっとその相手と遊べることを望んでたようにも思えるわ」

 

 確かにおかしい。これがユニットでのライブだったらユーリちゃんと話してるって辻褄が合うけど、そもそもユーリちゃんはライブに参加してない。

 

 さらに真姫ちゃんの言い方だとどう考えても……。

 

「沙紀ちゃんはアイドルを始める前からずっとその誰かと遊べる場所を探してた……」

 

 さっきの話で沙紀ちゃんは遊べる場所をずっと探してたって話をして、何でそんなことをしてたのか理由には触れてない。もし、これが沙紀ちゃんが遊べる場所をなら……。

 

「ユーリと知り合ったのは事務所に入ったときからだと思うから、この条件に当てはまらない」

 

「それに沙紀の友達に関しては知り合ったのは何時か分からないけど、そもそもアイドルじゃないから同じく条件に当てはまらない」

 

「だから、他にもう一人誰がいるなんて思ったんだね」

 

 確かにそれなら二人の他にもう一人誰がいるなんて考えるのは可能性として有り得なくないと思う。

 

「そうよ、ただこの条件に当てはまる人が全く話題に出てこなかったから可能性でしかないのよ」

 

 色んな所から情報を集めたけど、二人以外沙紀ちゃんと仲が良さそうな人が居るなんて話題は一つも出たことがない。

 

「多分だけど沙紀が私たちのことをずっと見逃してたのは、絶対にその誰かに近づけないと言う自信があるから見逃してた思うわ」

 

「そうだね、古道さんの話を聞いて始めて知ったくらいだし、それに沙紀ちゃんが口止めしてるし」

 

 今まで何もしてこなかった沙紀ちゃんだけど、今回は手を打ってきた。それはつまりこれ以上はどうやっても調べようがないってことだよね。

 

「いや、逆よ、むしろチャンスだわ、今まで手を出してこなかった沙紀が手を出したってことはこれは相当知られたくないことよ」

 

「その誰かに近づけば、今回分からなかった三つのことが分かるはずよ」

 

「でも良いのかな、沙紀ちゃんは知られたくないから古道さんを口止めしたんだよ」

 

 凛ちゃんの言う通りだよ。これまでは興味本意で色々と調べたけど、これ以上は沙紀ちゃんにとって本当に知られたくない部分に踏み込むことになる。

 

「じゃあ、何で古道さんは私たちにそれを教えたんでしょうね、沙紀に口止めされてるならもう一人の可能性を悟られないようにいくらでも出来たはずなのに……」

 

 確かにそうだよね。本当に沙紀ちゃんに口止めされてるなら、絶対にそのことに気づかれないように話すのに、古道さんはわたしたちに気づけるように話してた。

 

 しかもとてもあからさまに、少し考えれば気づけるように簡単に。まるで沙紀ちゃんのことを本当に知って欲しいかのように。

 

「でもどうしてただマネージャーの古道さんはそこまでするのかな?」

 

 アイドルとマネージャーなんて悪い言い方を仕事だけの関係でそれに沙紀ちゃんは今はアイドルを休業してる。

 

 そんな沙紀ちゃんに親身やってるのは何でだろうと考えてると、わたしは次の仕事に向かう前の古道さんの言葉を思い出す。

 

(あの子について色々と話したけど……まあなんと言うか、僕が言うのも変だけど、あの子とはこれまで通り仲良くして欲しい)

 

 そんなことを言ってから古道さんは次の仕事に向かった。

 

 ただそう言った古道さんの顔は何だろう……例えるならわたしのお母さんとお父さんがたまにわたしに見せるようなそんな顔をしてた。

 

「古道さんにとって沙紀ちゃんは娘とか妹みたいなものなのかな」

 

「さぁ? 私には分からないわ、ただあの人もあの人で色々と考えてるってくらいよ」

 

 何て真姫ちゃんは言うけど、多分真姫ちゃんも気づいてると思う。ただ単に恥ずかしいから口にしないだけで。

 

「それでどうするの?」

 

「そうね……次は沙紀の友達をどう探し出すか考えるわ、あの人的には今はまだユーリに接触されたくないみたいだし、それに……」

 

 凛ちゃんの質問に真姫ちゃんは次の方針を口にしてから何かを口にしようとして止めた。

 

「どうしたの?」

 

「いや、何でもないわ、そろそろみんなの所に戻るわよ」

 

 そう言って真姫ちゃんは立ち上がりみんなの所に戻ろうとして何も言わないまま歩き始めた。

 

「えぇ~凛はまだ遊びたいにゃ~、そんなわけでかよちん今度はあっちのプールに行くにゃ~」

 

「えっ!? えっ!? ちょっと待ってよ、凛ちゃ~ん!!」

 

 突然凛ちゃんに腕を掴まれて、無理矢理わたしはプールに連れていかれた。

 

 連れていかれながらもわたしはあることを思った。

 

 本当に真姫ちゃんの言ったもう一人がいる可能性があるのかなって。

 




如何だったでしょうか。

今回はある意味今まで以上情報量が多かったと思います。

それを含めて今まで出てきて今回では触れなかったものも多数あります。

その部分がどう絡んでいくのか。沙紀は一体何を隠してるのか何て言っておきます。

予告、次の話で長かった夏休み編最後の話になります。

そんなわけで次回もお楽しみに。

何か感想などありましたら、気軽にどうぞ。

誤字、脱字がありましたら、ご報告していただけると有り難いです。
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