ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー   作:タトバリンクス

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お待たせしました。少し遅れましたが、五章最後の話となります。

それではお楽しみください。


五十九話 終わりの始まり

 1

 

 ユーリ。

 

 現役高校生アイドルとして、ライブやテレビで活躍するプロ。

 

 最初こそプロのアイドルとしては歌やダンスのパフォーマンスは平均以下のレベルだったけど、少しずつ頭角を現して、現在ではトップクラスの実力を持っている。

 

 見た目こそは身長の低さや顔立ちから幼く中学生くらいに見え、喋り方もほんわかしているのもあって、中学生っぽさに拍車を掛けていた。

 

 その見た目とは裏腹に、チャレンジ精神旺盛な彼女。バラエティーではバツゲームには進んで行きたがるし、曲のジャンルは王道のアイドルソングは勿論、ロック系や何なら演歌すら歌うくらい幅が広い。

 

 SNSや動画配信サービスでは自身のアカウントでファンとの交流広げたりとネットを使ったファンサービスも多い。

 

 いろんなことをコツコツとやる努力家というところが彼女の魅力で、彼女のファンもそういった部分に惹かれている。

 

 今は受験を控えているからなのか、全体的に活動は少し控え目にしているけど、その間にまた新しいことに挑戦してそうとかファンに言われるレベル。

 

 今ではソロで活動する彼女だが、かつて星野如月とユニットを組んでいた。それはつまり篠原沙紀とは旧友であることを意味する。

 

 そんな彼女が私たちの前に現れた。

 

 2

 

「はい、これでいいですか?」

 

 頼まれたサインを手馴れた手付きでささっと書き、私と花陽に手渡してくれた。

 

『はい!! ありがとうございます!!』

 

 私たちはお礼を言いながらユーリちゃんからサインを受け取る。

 

 ユーリちゃんから受け取ったサインを見て私たちは目を輝かせていた。しかもよく見ると、サインの他に『応援ありがとう』の直筆のメッセージとか『矢澤にこさんへ』も書かれている。

 

 これがユーリちゃんの直筆サイン……。まさかここで手に入るなんて思ってもみなかったわ。

 

 彼女の普通のサインは結構プレゼントや特典とかで配られているけど、直筆は抽選とかじゃないと手に入らない。しかも、なかなか倍率が高くて応募しても当たらないことなんてざらにある。

 

 私も何回抽選に応募してことごとく外したものか……。

 

「こちらこそありがとうございます、応援してたμ'sの中に私のファンがいたなんて……刺激的に感動しています!!」

 

 こちらに可愛らしい笑顔を向けてくるユーリちゃん。日が落ちて、辺りが暗いのに彼女が輝いて見える。これがトップアイドルのオーラってやつなの。

 

「結理ちゃんってホントにアイドルなんだ……」

 

 私たちのやり取りを見て、穂乃果はユーリちゃんがアイドルだったことを実感する。そんなことよりも──

 

「なんだじゃないわよ!! どうしてトップアイドルのユーリちゃんと知り合いになっているのよ!!」

 

「いつ、どこで知り合ったの!?」

 

「二人とも顔が近いし恐いよ……」

 

 私と花陽二人して穂乃果に詰め寄ると、穂乃果はたじたじになる。

 

「穂乃果さんを責めないでください、穂乃果さんと知り合ったのは、穂乃果さんがプールで迷子になっていたときに声を掛けたのがきっかけですから」

 

「そうそう夏休みにプールで迷子に……って結理ちゃんもあのとき迷子だったじゃん!!」

 

「何度も言いますが、道には迷ってましたけど、私は迷子にはなってません」

 

「やっぱりそこは認めないんだ」

 

 どこかコント染みた会話をする穂乃果とユーリちゃん。まさか、あのときのプールにユーリちゃんが来てたなんて。

 

「まあ、そんなことは置いておいて、皆さんのことは秋葉での路上ライブを見て、まさか、秋葉で路上ライブをやる図太いスクールアイドルがいるとは思いませんでしたから、そこから興味を持ってファンになりました」

 

 ユーリちゃんが興味を持ってもらった理由が分からなくもない。A-RISEのお膝元である秋葉で、他のスクールアイドルがライブをやっていたら誰だって興味を持つわよね。

 

「皆さんに興味を持ったのもそうですけど、何よりも思いもよらない人が近くにいましたから──ねぇ」

 

 笑顔をある人物に向けるユーリちゃん。その人物は沙紀だった。

 

「お久し振り、こうしてお話しするのは二年振りですね」

 

「うん……そうだね……」

 

 優しそうな声で話すユーリちゃんに対してどこか怯えた声で話す沙紀。

 

「あれ? 沙紀ちゃんと結理ちゃんって知り合いなの?」

 

「何言ってるの穂乃果ちゃん!! ユーリちゃんと如月ちゃんと言えば、デビュー当初から『Astrology』として活動して──」

 

「ストップ、ストップ花陽ちゃん!! そういえばそんな話してたの思い出したから……」

 

「つまり、かつてユニットを組んでいた二人が久し振りに再会したってことね」

 

 穂乃果が静止しているのに二人のことを話続ける花陽の代わりに、真姫ちゃんが要約してくれた。

 

 しかし、二人の雰囲気は綺羅ツバサと沙紀が再会したときと比べて、何故か分からないけど、どこか危なっかしい雰囲気だった。

 

 何て言うかとても仲の良い関係だったとは思えない感じがした。

 

「久し振りの再会だって言うのに、相変わらずあなたは陰気臭いと言いますか、根暗のくせに前よりもスタイルが良く……」

 

じろじろとユーリちゃんは沙紀の身体を観察する。その視線に沙紀は身体を隠すように縮こまる。

 

「あなたのスタイルは遺伝だとしてもその胸は反則です、なんですか、少しくらい私にも分けてもいいじゃないですか」

 

「うぅ……ごめんなさい……」

 

「止めなさい、嫌がってるでしょ」

 

 ユーリちゃんと沙紀の間に割って入るように綺羅ツバサが、沙紀を庇うように前に立つ。

 

「はぁ~、ツバサ……あなたにこれを庇いだってする理由ないじゃありませんか」

 

「理由はあるわ、それよりもあなた何でここにいるの? 今日ここに来れないように手を回したはずなのに」

 

「手を回した? なに言っているんですか、手を回したところで、あの人が私を止められるはずないじゃないですか」

 

「くっ」

 

 笑顔のままそう言い捨てるユーリちゃんに、綺羅ツバサはどこか苛立ちを隠せない様子。この二人もなんだか雰囲気が悪い。このままだと一触即発しそうな勢い。

 

「それで話を戻しますけど、あなたは何でこれを庇いだてするんですか?」

 

「だって──」

 

「私と違って何もかも恵まれて、何でも持ってるあなたに何が分かるって言うの」

 

「あなたと違って、私にはもうこれしかないの、星野如月しかないの、あの場所しかないの」

 

「私がやらなきゃ、私が守らなきゃいけないんだよ、そうしないと……私の親友なら何で分からないの」

 

「結局つーちゃんは私のこと親友だと思ってなかったんだ」

 

「うぅ……」

 

 綺羅ツバサがなにかを口にしようとすると、ユーリちゃんが口にしたその言葉でたじろいだ。彼女だけじゃない。その言葉を聞いて沙紀は、怯えるように耳を塞ぎ始めた。

 

「そう言ってあなたとの関係を全否定したこれを庇い立てする理由はないですよね」

 

「それでも……」

 

「それでも? そうならもうとっくにあなたたちは元の関係に戻っているはずですよね」

 

「少なくてもこれはあなたがここにいるのを知っていたくせに、自分から一度も会いに行こうとはしませんでしたよね」

 

 確かに沙紀は前から綺羅ツバサがUTX学園の生徒だっていうことは知っていた。それに音ノ木坂から秋葉までそう遠くない。会いに行こうと思えばすぐに会いに行ける距離に居ながら、この前二人が再会するまで一度も会っていなかった。

 

「あなたがμ'sに興味を持って穂乃果さんに接触しなかったらこれは会うつもりも毛頭なかったはずです」

 

「これはあなたと関係を戻そうとする気が一切ないんですよ」

 

 ユーリちゃんは断言した。

 

 綺羅ツバサは断言されたのが効いたのか俯き黙り込んでしまう。

 

 今まで沙紀は綺羅ツバサと理由は知らないけど、ケンカ別れしたことを後悔はしていた。それに謝りたいとも言っていたらしい。けど、そう言いながらこいつは一度も行動しようとはしなかった。

 

 それどころかその話を聞いていた絵理が気を利かせてくれていたのにも関わらず、親友が綺羅ツバサだとはちゃんと話していない。絵理がその話に触れてもぼかしていた。

 

 だから、結局絵理は今日までまともに動けなかった。沙紀が話せばいくらでも時間はあったはずなのに。

 

 ユーリちゃんが言ったようにその気が一切なかったのなら沙紀の行動に納得できてしまう。

 

「もっともあなたもこれがμ'sと関わっていると知っていたら不用意に近づこうとしなかったはずですので、他の皆さんの情報だけしか話しませんでしたけど」

 

「それで人の影に隠れてる根暗さんはまだ目を逸らしているんですか……」

 

 綺羅ツバサの後ろに隠れていた沙紀のほうに視線を向けるユーリちゃん。しかし、彼女の目線は沙紀自身ではなく、別のほうを見ていた。

 

「その手袋……それも目を逸らしてたの……」

 

 それだけ呟いてユーリちゃんは沙紀に近づいて、彼女の掌を握る。いや、正確には彼女が着けている手袋だった。

 

「いや……やっ……やめて……」

 

 手袋に触れられて嫌がりながら抵抗する沙紀を無視して、ユーリちゃんは彼女の手袋を取ろうする。止めに入るべきなんだろうけど、誰も彼もこの状況を呑み込んでいなかったため動けなかった。

 

 そうこうしているうちにユーリちゃんの手によって、沙紀が着けていた手袋が剥ぎ取られる。そこに隠されていたのは、何も変わりのない普通の手だった。隠す必要のない綺麗に整えられた手。

 

 だけど、手袋を外されて何もないはずの手なのに、何故か沙紀の表情は青ざめていく。

 

「その反応……やっぱりあなた……最低なやつだとは思っていたけど、ここまでだなんて……」

 

 沙紀の表情を見て苛立っているのかユーリちゃんは唇を噛む。

 

「あなた雪音さんのことまで目を逸らすの!!」

 

 なにに対しての怒りなのか私たちには全く理解できなかった。気付けばユーリちゃんの口調は変わって、ただ、あそこで怒っているのが、古道結理という一人の女の子だってことくらいしか分からなかった。

 

「信じられない……なんであんたなの……ツバサも真拓も雪音さんもみんなみんな……こいつのどこが良いっていうの……もういい、あんたがそこまで腐っているなら、私が手加減する必要もない」

 

 握っていた腕を沙紀の手から離すユーリちゃん。それはどこか呆れたようで、けど、悲しそうな声だった。

 

「すいません、取り乱しました」

 

「そう……私たちは別に大丈夫だけど……」

 

 口調を今までのように戻すユーリちゃんに戸惑いながら穂乃果は、チラリと沙紀のほうに視線を移した。穂乃果だけじゃない。私も含めて他のみんなも沙紀のほうに視線がいった。

 

 さっきまで怯えたような顔をしていた沙紀だけど、今では酷い有り様。顔は青ざめ身体は震えて、今にでも吐いてしまいそうな様子。

 

「正直に言います、みなさん、これに騙されて利用されているだけですよ、信用も信頼もしないほうがいい」

 

「それって……どういう意味よ……」

 

 ユーリちゃんの言葉に反応せざるおえなかった。

 

 沙紀が私たちを騙している? 利用している? 

 

 それがどうしても信じられなかった。

 

「そのままの意味ですよ、にこさん、こいつは大嘘吐きで卑怯者で人でなし」

 

 今まで一年近く沙紀と一緒に過ごしていた日々が嘘だとは思えなかった。

 

 私に向けてくれた笑顔や言葉が全部嘘だと思えない。はずなのに……。はずなのに私は知っていた。

 

 こいつが演技するのが上手いことを。その気になれば他人を騙すなんて容易にできる。

 

 それにかつて篠原雪音が言っていたことも私の心を揺さぶるのには充分だった。

 

 さっきの綺羅ツバサの件もそう。

 

 そもそもなぜこいつが私の誘いを受けてくれたのか。私にはずっと理由が分からなかった。知ろうとしなかった。けど、その理由が私を利用するためだったら……。

 

 一度疑ってしまえばあとは沼に嵌まるだけ。

 

「その様子……心当たりはあるみたいですね」

 

 私の表情を見て、私が何を考えてるのかまるでお見通しのように笑顔のユーリちゃん。

 

「それでいいんですよ、だってこいつは──」

 

 ユーリちゃんが何かを言おうとした瞬間、何かが彼女に襲いかかろうとした。だけど、襲い掛かる直前で動きは止まり、その場に倒れ込んだ。

 

 その倒れ込んだ人物に私は目を疑った。そこに倒れ込んでいるのは、沙紀だったから。

 

「やっぱり……そう来ると思った……」

 

 冷たい声で倒れる沙紀に言い放すユーリちゃん。彼女の手にはスタンガンが握られていた。

 

 ユーリちゃんを襲いかかろうとした沙紀をそれで撃退したのは明らか。だけど、沙紀が襲い掛かったのは、つまり──

 

「みなさん、これで分かりましたよね、こいつは自分に都合が悪い存在が現れたら排除する、これがこいつの本性」

 

 まるで見世物のような光景に誰もが何も言えなかった。だけど、そんな光景もユーリちゃんの声もなにひとつ入らなかった。

 

 ユーリちゃんの言ったことが真実だということが証明されてしまった。それだけで私の中に揺らいでいた不信感が更に大きくなってしまった。

 

「これをみなさんのところに置いておくのは迷惑ですので、私が回収しますね」

 

 笑顔で言いながら、ユーリちゃんは指を鳴らすとどこからか黒服の人が数人現れて、沙紀を持ち抱える。

 

「あなた……この子をどこに連れていくつもり」

 

「……」

 

 その異様な光景に綺羅ツバサはユーリちゃんに質問するが彼女は答えない。

 

 ユーリちゃんが答えるつもりがないのを理解できた綺羅ツバサは、沙紀を連れていこうとする黒服の人を止めようと動いた。

 

「くっ……」

 

 けど、後ろから不意を付くようにスタンガンで綺羅ツバサの意識を奪うユーリちゃん。そして、彼女も沙紀と同じようにその場に倒れた。

 

「あんじゅ、英玲奈、このバカにこれを付けなさい」

 

 倒れている綺羅ツバサの近くに手錠を二つ投げる。

 

「部外者である私たちが君たちの関係にどうこう言うつもりはないが、ここまでする必要があるのか」

 

「そうね、さすがにやり過ぎよ」

 

「そんなこと言われなくても分かってる、それよりもこいつが勝手に変なことしないように拘束しておいて」

 

 言われるがままあんじゅと英玲奈は綺羅ツバサの両手両足に手錠を掛ける。

 

「面倒ごとに巻き込んでごめん……鍵はあなたたちに渡しておく、こいつの頭が冷めたら外してあげて」

 

 二人に謝ると、私たちのほうを向いた。

 

「μ'sのみなさんもお騒がせしました、これは私が責任を持って拘束しておきますので、どうぞどうぞみなさんはこいつのことを忘れて、ラブライブ優勝に向けて頑張ってください、応援してますから」

 

 それだけ言ってユーリちゃんは沙紀を抱えた黒服の人たちを連れてこの場から離れようする。

 

「もし、それでもまだこいつと関わるつもりでしたら、こいつの嘘を見破って、あの人に辿り着いてください、おそらく情報は出揃っているはずですから」

 

 付け加えるようにそれだけ伝えてユーリちゃんたちはその場を去っていった。

 

 そうして私たちのラブライブ予選は異様な雰囲気に包まれたままその日を終えた。




如何だったでしょうか。

これにて五章完結。

更新頻度が一番遅れながらも何とかここまで漕ぎ着けました。次回より新章突入です。

いよいよ星野如月の真実が語られる章になります。彼女が隠していたものは一体何なのか全て語られると思います。

気軽に感想など頂けるとモチベにも繋がって嬉しいです。

誤字、脱字ありましたらご報告していただけると有り難いです。

それでは次回をお楽しみに。できれば次回も一週間以内に投稿できたら良いなと思っています。

次章予告

ユーリよってμ'sに不信感を抱かれ連れ去られた沙紀。
不信感を抱きながらも彼女がなぜ嘘を吐いたのか、何を隠していたのか疑問を解き明かすことした。
そもそもなぜ篠原沙紀はアイドル研究部に入ったのか。
なぜ星野如月は活動を休止したのか。
何が嘘だったのか。
そして、古道結理が口にした彼女とは誰なのか。
その全てを知った先にあるのは、果たして何か。
矢澤にこと彼女の行く末は終わりか、それとも……。
これは全ての真実を知る物語。

六章『星野如月の真実』

「私を見つけてくれてありがとう」


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