ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー   作:タトバリンクス

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何とか一ヶ月経つギリギリ前には更新できました。

それではお楽しみください。


六十三話 疑問

 1

 

「そんなこともあって、あいつが入部したわけよ、ただ単純に、私が無理矢理入れたって話よ」

 

 私はあいつと出会って、アイドル研究部に入部させた経緯をみんなに話終える。

 

「そのあとは少し経って、あいつの歓迎会をやって、穂乃果たちがμ'sを結成するまでは、二人で練習をする毎日を繰り返してただけよ」

 

 そのあとのことはなんてことのない。部活に励んだり、バカなことを(ほぼあいつが)やったり、どこかに遊びに行ったりと、面白くもない変化のない日常の日々。

 

「私が話せるのはここまでよ」

 

「沙紀ちゃんが今と全然違ってビックリしたよ」

 

「うん……今みたいな感じか、アイドルやってたときみたいな感じだと思ってたよ」

 

 私の話を聞いてあいつの性格のことで驚く穂乃果とことり。

 

 今のあいつと昔のあいつを比べると、全くと言っていいほど性格が違う。

 

 今みたいにテンションが高くないし、変なこと言わないし、スキンシップだって激しくない。

 

「最初は辿々しいというかオドオドしている感じで、あんまり笑わなかったけど、少しずつ普通に話したり、笑うようになって、夏休み明けた頃には今の感じになっていたわ」

 

 厳密に言えば歓迎会の後からあいつはよく笑うようになった気がする。

 

「そういえば去年の二学期くらいから沙紀の名前や噂を聞くようになったような気がします」

 

「そうやね、ウチもその噂が気になったのと、にこっちから委員長ちゃんのこと相談されたのもあって、委員長ちゃんに興味持って会いに行ったらもう既に今みたいな感じやったよ」

 

 あいつについて思い出す海未と希。少し前に話していた委員長キャラは海未の言った時期にやり始めていた。

 

 元からポテンシャルや演技力が高いのは、夏休みを一緒に過ごして薄々気付いていた。けど、まさか、それを使って全校生徒に委員長キャラを浸透させるなんて思ってもみなかったわ。

 

「まあ……あとはみんなが知ってる通りよ」

 

 さっきまでみんなで散々話していた篠原沙紀の人物像に繋がる。

 

「なるほどね……概ね流れは理解できたわ」

 

「真姫ちゃん何か分かった?」

 

「そうね……にこちゃんの話を聞いていくつかの疑問が増えたわね」

 

 花陽の質問に真姫ちゃんは少し考え事をしてから答える。

 

「一つはなぜにこちゃんの誘いに乗ったのか」

 

「それって……前に沙紀ちゃん言ってなかった? さっきにこちゃんから聞いたように、にこちゃんが熱く誘ってきてそれに惚れたからって……」

 

「確かに言っていたのは私も覚えているわ、沙紀の言葉をそのまま取るならだけど……」

 

 あいつの正体がバレたときに入部の理由を話していたことを思い出す穂乃果。だけど、真姫ちゃんは何となくその言葉を疑っているみたいで、そのあとに続く言葉を言いにくそうにしていた。

 

「あいつが私のこと利用するために、入部した可能性があるってことでしょ」

 

 真姫ちゃんが言いたかったことをスッパリと言った。

 

「正直あいつが入部してから何度も何度もそれは考えていたわ、プロのアイドルが、たかがスクールアイドルに、理由もなく力を貸すわけない、何かしら目的があったって」

 

「それなら別に問題ないわよ、私はあいつから技術を貰って、あいつはあいつの目的を果たすのは間違いじゃないわよ」

 

 そもそもあいつを私の自分勝手な理由で誘ったのは私。拒否しようと思えばできたのに、それをしなかったってことは何かしらの目的は必ずあったはず。

 

「まあ、何度かあいつに聞いてみたけど、上手くはぐらかせられてちゃんと聞いたことはないわ」

 

 大体この手の話をあいつに振ると、私のことが好きだからとか何だと言って終わるのが何時もの流れ。

 

「結局のところ、この疑問に対してはあいつしか知らないことだから、ここでいくら話しても答えはでないと思うわ」

 

「そうですね……こればかりは沙紀本人から直接聞いてみないと分かりませんから……」

 

「なら、次の話をしましょう」

 

 この話はここでキッパリと切り上げて、真姫ちゃんは次の話題に切り替えていく。

 

「なぜ星野如月は今までみたいに歌えなくなったのか」

 

 やっぱりそこになるわよね。

 

 星野如月の最大の謎。

 

 なぜ星野如月はアイドル活動を休止しなければならなかったのか。

 

 なぜ綺羅ツバサとケンカ別れになってしまったのか。

 

 なぜあいつは出会ったとき、あんなに暗かったのか。

 

 全部はそこに繋がっているように思える。

 

「沙紀の歌っているところ見たことないけど、そんなに違うの?」

 

「そういえばウチも委員長ちゃんが歌ってるとこ見たことないんよね」

 

 前にカラオケに行ったときに居なかった絵里と希は、当然この反応になるのは理解できる。

 

「前にカラオケで一回だけ沙紀ちゃんが歌ったの見たけど、わたしも……にこちゃんと同じで歌い方は如月ちゃんそのものだったけど……なんか違うって……感じがしたの……」

 

 真っ先に花陽はその当時の感想を口にする。

 

 私と同じように昔から星野如月のファンだった花陽が、そう言ってくれるのは心強いわ。正直私だけだと説得力がなかったからすごく助かる。

 

「そうね、私も歌唱力や技術は高いとは思ったけど、側だけで中身がないって印象を受けたわ」

 

「中身がないって?」

 

「例えば穂乃果、あなたライブをしているときにどんなことを考える」

 

「え~と……結構歌やダンスのことでいっぱいいっぱいだけど、見てくれる人が楽しんでくれるように頑張ろうって考えてるし、ライブしているときは私も楽しいって気持ちになるかな」

 

 真姫ちゃんの質問にそう答える穂乃果。他のみんなも穂乃果の答えに共感できているような反応をする。

 

「歌もダンスも突き詰めれば自己の表現、大なり小なりその人の個性や感情ってのが見えてくるものよ、だけど……」

 

「沙紀にはそれが全く見えないと言いたいんですか」

 

「そうね、そもそも星野如月は表現に関してなら、とてもストレートで分かりやすいほうだったのに、どういうわけか今の沙紀からは全くそれが感じられない」

 

「それこそ沙紀が言ってたみたいにスランプではないかと」

 

 真姫ちゃんの星野如月に対する認識は間違っていない。だからこそ、今のあいつの状態はかなり異常。真姫ちゃんは表現って言ってたけど、突然、感情や熱量が感じられなくなるなんて有り得るの。

 

 他人から見ても異常と感じられるのに、あいつが言ったようにスランプなんて言葉で片付けていいものなの。

 

「その辺に関しても本人じゃなきゃ分からないところね」

 

「結局何も分かってないにゃ~」

 

 これだけ話しても何も進展していない。いくつか疑問はあるけど、その答え合わせをする方法を持たない以上、どれがウソなのか判断できない。

 

「何も分からない……ある意味……それが正解なのかもしれないわね」

 

「それってどうゆう意味?」

 

 誰もが頭を抱えているなか一人呟く絵里に穂乃果は反応する。

 

「誰だって人前だとキャラ作ることはあると思うの、普通は元々の性格をちょっと変えるだけだけど、沙紀の場合はそれが極端に出ているからどれが本物のあの子か分からなくなる」

 

 絵里の言いたいことは分かる。親の前での自分。こころたちの前での自分。穂乃果たちの前での自分。あいつの前での自分。その人と自分との関係性で振る舞いが違ってくる。

 

「いわゆる社交性仮面(ペルソナ)ってやつね」

 

「ペルソナ?」

 

「大体は絵里が言ったように人によって着ける仮面──性格を変えることよ」

 

 知らない言葉に疑問を浮かべる穂乃果に真姫ちゃんは簡単に説明する。

 

 ペルソナ……。確かにあいつにピッタリな言葉かもしれない。

 

 クラスメイトの前のあいつと私の前のあいつでは全く違うし、希の前のあいつも私の前のあいつと比べると少し違う。それに今思えば、綺羅ツバサやユーリちゃんの前のあいつはまた別の感じがした。

 

「そうね、それに沙紀にはいろんな噂が流れてたからちゃんと会うまで、よく分からない子って印象になりやすい」

 

「そういえば海未ちゃんとことりちゃんも最初会ったとき、ちょっと緊張してたよね」

 

「そうですね、私も全部の噂を鵜呑みにしていたわけじゃないですが、それでも噂のこともあって、近寄りがたいイメージはありました」

 

「でも実際に会って話してみると、ちょっと変わってるけど、悪い人じゃないってのはすぐ分かったよ」

 

「他の人にも海未やことりのような印象を受けるのに、沙紀はあえて噂を取り消さないようにしてるって本人から聞いたことあるわ」

 

 沙紀に変な噂が流れていたことは知っている。最初の頃のあいつを知っていたから大半はウソだと思いながら、絵里と同じようにあいつから実際聞いたことは何度かある。

 

 そうしたらあいつはめんどくさいだとか、労力の無駄と言って噂を取り消そうとは一切しなかった。

 

「多分……なんだけど、人との距離を取るためにあえてそうしたんだと思うの、噂で自分のことをよく分からなくすれば、自分に近づく人が減るから」

 

 絵里の分析に私は納得できた。思い当たる節はあるし、それに何より最初にあいつと会ったときも距離を取られていたから。

 

 私があいつにお節介を焼いて、用が済んだらすぐに逃げるように立ち去ろうとしたのは、自分に近づいて欲しくなかったから。人と関わりを持ちたくなかったからだと思う。

 

 結局人当たりが良く明るく振る舞ってもあいつの本質は、今も昔もやり方を変えただけで、人との距離感は何も変わっていたかった。

 

「まあ、つまり……学校の中で得られる情報だけだと、沙紀のことを知るなんて無理ってことね」

 

 絵里の話を聞いて真姫ちゃんはそう結論づけた。

 

 2

 

「ではこれからどうするつもりですか?」

 

「そうね、他に沙紀や星野如月について知っている人に話を聞いてみるっていうのはどうかしら?」

 

 一先ず結論が出て、これからの方針を聞く海未に真姫ちゃんはそう答えた。

 

「沙紀ちゃんのことを知っている人になると……古道さん?」

 

「あとはA-RISEの綺羅ツバサさんとか?」

 

 穂乃果と希はそれぞれ思い当たる人物の名前を口にする。

 

 古道さんはあいつのアイドル時代のプロデューサーで、綺羅ツバサはあいつの親友だったらしい。

 

 どちらも私たちが知り合う前のあいつのことを知っているし、なんだったら私たちよりも付き合いが長いから、私たちが知らないことを知っていてもおかしくはない。

 

「それとユーリ──古道結理」

 

 その二人とは別に真姫ちゃんはもう一人の名前を口にした。

 

 トップアイドルにして、かつては星野如月とユニットを組んでいたあいつの相棒とも言える人物。そもそも今回の件は彼女とあいつが再会したことから始まっている。

 

「そういえば古道さんとユーリちゃんって同じ名字だね」

 

「親子……? 兄妹かな? それともたまたま名字が同じ?」

 

「おそらくですが、偶然名字が同じだった可能性は低いと思います、でなければ穂乃果にわざわざ偽名を使う意味がないかと」

 

 二人の関係性がただの他人ということを否定する海未。確かに海未の言うとおり、わざわざ偽名を使ったってことは、名字が古道さんと一緒なのを隠したかったからだと考えれば辻褄は合う気がする。

 

「ユーリちゃんの偽名のことよりもそもそも穂乃果がユーリちゃんと知り合いだったってことのほうが意外よ」

 

「そうだよ!! どうして教えてくれなかったの!?」

 

「えぇ!! そっち!! 昨日も言ったけど、たまたま知り合っただけだって!! そもそも結理ちゃんがアイドルだって昨日まで知らなかったから」

 

 ユーリちゃんの話題で、自分に飛び火が来るとは考えてなかった穂乃果は驚きながらも説明する。

 

「そもそも偶然なのかな?」

 

「なんか沙紀ちゃんがいるの分かってて穂乃果ちゃんに会った感じ」

 

「分かってたんやない? 委員長ちゃんどころかA-RISEがウチたちのこと詳しく知ってたのも、その結理ちゃんが教えてたみたいやし」

 

 ことり、凛そして希がユーリちゃんの言動からそう予想する。

 

「ただ……あの口振りだと……沙紀の情報は全くA-RISEに伝えていなかったみたいだったけど」

 

「確か……ツバサさんが沙紀ちゃんのこと知ってたら、私たちに近づかなかったかもしれないって……言ってたよね」

 

 絵里とことりの話を聞いて、その可能性はなくはないと思った。

 

 絵里から聞いた話によると、あの二人ケンカ別れしたあと、お互いにすれ違ったまま、それきり一回も会っていないみたいだったから、軽々しく会おうとは思わないはず。

 

「二人の間に何かがあって、よそよそしいのは分かるけど、ツバサさんと結理ちゃんの空気も何か重くなかった? それに沙紀ちゃんと結理ちゃんも同じ感じだったし……」

 

「うん……わたしはユーリちゃんのブログだと三人とも仲良さそうに書かれてたの知ってたから……余計に……」

 

「ブログって……星野如月が引退する前に更新が止まったあれよね?」

 

「うん……そう……やっぱりにこちゃんも知ってるよね」

 

「そうね、私も見たことはあるわ」

 

 まあ、見たことあるって言っても最後に見たのは、二年前に見たきりだから、詳しい内容までは思い出せない。ただ、星野如月とユーリちゃん、そして二人の親友が、よく楽しそうに遊んでいたことを書いていたのは、覚えている。てか、ほぼあのブログ……三人で遊んだことを報告していることのほうが多かった。

 

 そんなプライベートでもよく遊ぶくらいに仲良かった二人と親友なのに、いざ、再会してみれば、相当ギスギスしていた。

 

「何か沙紀ちゃんの人間関係拗れすぎにゃ~」

 

 私の心を読んだかのように凛は呆れていた。

 

「どうして……言うのも不粋ね……」

 

 真姫ちゃんが理由に気付いているけど、言うのを止める。言わなくても理由はおおよそ思い付く。みんなもそれに何となく気付いている。

 

 星野如月の活動休止するときに何かあったから。

 

 あいつと綺羅ツバサのすれ違いはその辺りで起きたことだと聞いている。おそらくユーリちゃんと関係の悪化も同じ時期に起きたんだと思う。

 

 そもそもあいつがスランプに陥ったのも星野如月の活動休止する際に何かがあったから。

 

「となると……やはりプロデューサーのほうの古道さんに話を聞くということになるのでしょうか、星野如月のこととなれば、あの方が一番知っているかと……」

 

「私も同じことを考えて、ここに来る前にあの人の携帯に一度電話してみたわ」

 

「はやっ!!」

 

 真姫ちゃんたちの行動の早さに驚く穂乃果。穂乃果だけじゃない、一年生以外は全員驚いていた。

 

「けど、仕事中なのか、全く繋がらなかったわ、一応留守電に用件は入れておいたから、そのうち折り返しが来るとは思うけど」

 

「さすがは真姫ちゃんだね」

 

「別に……これくらい普通よ」

 

 穂乃果に誉められるといつもの癖で髪を弄り始める真姫ちゃん。なんだかんだと一番あいつのことを知ろうとしているのは、真姫ちゃんなのかもしれない。

 

「一応私と花陽と凛で彼から話は、ある程度聞いているわ」

 

「手際の速さには驚きますが、でもその口振りだとあまりいい結果ではなかったかのように聞こえますが……」

 

「そうね、あの人も理由は分からないと言っていたわ、けど、そもそも沙紀に何か口止めされてたみたい」

 

「口止め? 一体何を?」

 

「さあ? それだけは話さなかったわ、けど、口止めしているってことは、沙紀からすれば絶対に知られたくないことなんでしょう」

 

 確かに真姫ちゃんの言う通り、あいつがわざわざそうするってことは、本当に知られたくないことなんだと思う。もしかすれば、あいつの隠し事のヒントに繋がるのかもしれないわ。

 

「でも……沙紀ちゃんは何を隠してるのかな?」

 

「これは古道さんの話を聞いての予想だけど、沙紀には綺羅ツバサや古道結理以外にもう一人、彼女たちと同じくらい……多分、それ以上大切な人がいる可能性があるわ」

 

「悪いけど……真姫の予想よね……本当にいるのかしら」

 

 ことりの呟いた疑問に自身の予想を話す真姫ちゃんだけど、予想の域を出てないため、絵里はあまりその可能性に確信を得られなかった。絵里と同じように確信できていない他のみんなも微妙な反応をする。

 

 けど、真姫ちゃんの予想を聞いて、あながち間違っていないと思えた。だって私は知っているから、あいつに対して何か特別に思っていた彼女のことを──

 

「篠原雪音……」

 

 気付けば私は彼女の名前を口にした。

 

 3

 

「篠原雪音?」

 

 私が口にした名前を穂乃果は疑問に思いながらもう一度口にする。

 

「誰だろう?」

 

「名字からして沙紀の肉親だとは思いますが……」

 

「にこっち……何か知ってるの?」

 

「えぇ……少しだけ会ったことがあるわ……というよりもここにいる全員一度は会っているし、話してもいるわ」

 

『えぇ!!』

 

 いきなり出てきた名前にみんな困惑しているなか、私は余計に困惑することを口にして全員驚く。

 

「どういうこと!! にこちゃん!!」

 

「え~と……穂乃果がμ's辞めるってバカなこと言った日のことは覚えているわよね」

 

「うん……覚えているよ……」

 

 私があの日のことを聞くと、穂乃果は申し訳なさそうな感じで口にした。当事者である穂乃果からすれば苦い思い出だとは思う。自分のせいでμ'sがバラバラになってしまう可能性があったと、反省していたから。

 

 他のみんなもあの日のことはよく覚えているような反応をしていた。

 

「あの日からもう一回μ'sが再結成する日までその間、あいつと入れ替わっていたのよ」

 

『えぇ~!!』

 

 まあ、みんな驚くのは仕方ないわね。部員の一人が見ず知らずの他人に入れ替わっていたなんて話、驚くなってのが無理な話よ。

 

「でも何でにこちゃんは知ってるにゃ~」

 

「私はそいつと一緒にいて違和感を感じたから、それを説明したら、そいつはあいつじゃないと認めたわ」

 

「違和感って」

 

「見た目はあいつに瓜二つってくらいそっくりだけど、そもそも三つ編みと眼鏡をしていなかったし、雰囲気や考え方も妙に違っていたわ、そして何より好みが違ったのよ」

 

「あいつ、ブラックコーヒー飲めないはずなのに、普通に飲んでいたのと、やたらところてん押しだったのよ」

 

『あっ……確かに……』

 

 私と次に一緒に篠原雪音といた花陽と凛が思い出したかのように納得した。主にところてんの部分で。

 

 短い間入れ替わっていたけど、あそこまでところてんに執着していた姿を見れば、嫌でも思い出すわよね。

 

「しかし、よく気付けたわね、にこ……沙紀ってたまにキャラ変えたりするから、てっきりそういう気分かなって普通は思うわよね」

 

「そうね、私も最初はそういう気分になりたかったと思っていたわ」

 

 あいつと篠原雪音が入れ替わる二日前に、あいつはかなり自分を追い込んでしまって、ストレスで倒れてしまった。てっきりそのストレスを発散するためにキャラを変えたとか考えたりもしたわ。

 

「けどね……何か違ったのよ……なんていうか理屈じゃなくて……あいつといるのに何故か落ち着かないって感じがしたのよ」

 

 篠原雪音があいつの振りをしていたときは、妙に波長が合わないというか、ノリが合わないというか気持ち悪い感じはした。別人だからそう思うのは普通だけど、ただ顔があいつとそっくり過ぎたから、余計にそう感じたのかもしれない。

 

「しかし、色々とあって私たちが、沙紀とあまり接する機会がなかったのもあるでしょうが、見分けるのが不可能なくらいそっくりなその……篠原雪音という方は沙紀とはどういう関係なのでしょうか?」

 

「そこまでそっくりなら姉妹何じゃない?」

 

「私もそう思ったけど、少なくとも姉じゃないとそいつは否定したわ」

 

 海未の疑問に凛は予想を口にするけど、私はそれを否定した。

 

「そもそもそいつ……おかしなことを言ってたのよ、自分とあいつの関係を当てれたら、そいつとあいつの関係も星野如月のことも全部教えてあげるって……それで姉だって答えたら──」

 

「篠原雪音は違うと言ったのね……」

 

「そうよ……ただ名前だけは教えてもらって……そいつとはそれっきりよ」

 

「にこっちのその言い方やと、名前も知らない状態で委員長ちゃんとの関係を当ててって話みたいやけど、それだと当てさせるつもりがないって言っているもんやん」

 

「そうね……でももしかしたらそいつは私だったら当てられるかもしれないって言ってたけど……ホントのところよく分からないわ」

 

 あのときのことを思い出すと、私が答えを外したとき篠原雪音は少し残念がっているようにも見えた。本当に私だったら正解できると思っていたのかもしれないけど、それは本人しか分からない。

 

「それにしても姉でもないとなると……普通は妹になるわよね」

 

「それかそっくりなお母さんか親戚くらいだよね」

 

「まあ、そういったところよね……」

 

 普通に考えるなら絵里と穂乃果の言った関係しか残らない。ここへきてただの他人はないはず。だけど、私には少し引っ掛かることがあった。

 

「にこっち……委員長ちゃんのあのことが引っ掛かるんやろ」

 

「そうね……」

 

 私と同じことを考えてた希に頷く。そういえば希も知っているんだっけ、あいつのあのこと。

 

「何のこと?」

 

「あんまりこういうこと言うのは、ダメだとは思うんやけど……委員長ちゃんのご両親が既に他界してて、天涯孤独の身やって……」

 

「それに肉親や血の繋がりのある親戚は一人もいないって言っていたわ」

 

 私は希に付け加えるように言う。そう、あいつは自分で口にしていた。自分は天涯孤独の身だって。

 

『……』

 

 その事を聞いてみんな黙り始める。それは当然だと思うわ。誰だってこんな話聞けば、暗くなるに決まっているもの。

 

「それって……本当なの?」

 

「あいつはそう言ってたわ」

 

 穂乃果は確認するように聞いてくるけど、そう答えるしかなかった。実際、あいつに聞いてみたが、同じようなことを口にした。

 

「ウチも委員長ちゃんから直接聞いたけど、あの感じはウソ吐いてようには見えなかった」

 

「けど、希やにこちゃんの話が本当なら変な話よね、天涯孤独の身である沙紀にそっくりな篠原雪音……」

 

「訳が分からないにゃ~」

 

 本当におかしな話なのよ。普通に考えれば、あいつがウソを吐いている可能性もある。けど、この件に関してはウソとは思えない。そう思うと、篠原雪音が訳の分からないことになる。けど、あれが他人の空似なんてことがあるの。

 

「せめて……沙紀以外に沙紀の家族のことを知っている人がいれば……もう少しは分かると思うけど……」

 

「そんな人いるわけ──」

 

「それなら……心当たりがあります、そうですよねことり」

 

 凛の言葉を遮るように海未はことりに話を振った。

 

「うん……私のお母さんと沙紀ちゃんのお母さん、知り合いだって聞いたことあるの」

 

『えぇ~!!』

 

 意外な人の意外な人間関係に私たちは驚くしかなかった。

 

 4

 

「単刀直入に聞きます、理事長って沙紀ちゃんの──篠原さんのお母さんと知り合いって本当ですか?」

 

「えぇ……そうよ……私と篠原さんのお母さんとはこの学校で知り合った仲よ」

 

 穂乃果の不躾の質問に理事長は少し戸惑いながら答えた。

 

 ことりのお母さん──つまり、この学校の理事長とあいつの母親が知り合いと知って、私たちは理事長のいる理事長室に向かった。

 

 その後、先に理事長に予選の結果を報告して、それからさっきの質問って流れだったってわけだけど、理事長が戸惑うのは無理もない。

 

「けど、どうして急に篠原さんのお母さんのことを?」

 

「それは……え~と……」

 

 理事長の最もな疑問に今度は穂乃果が戸惑いながら、こっちのほうを見て、私たちに助けを求める目をする。

 

「お母さん前に沙紀ちゃんのお母さんと知り合いだって聞いてたから、もしかしたら篠原雪音さんって人のことも知ってるのかな……って……」

 

 穂乃果の助けに答えて、フォローすることり。こういうとき、いくら理事長とはいえ、自分の親だから話しやすさは全然違うからホント助かる。

 

「えぇ、知っているわよ」

 

「ホント!! お母さん!!」

 

 理事長が篠原雪音について知っていると分かると、驚きの声をあげることり。他のみんなもあいつについて一歩前進することが分かり、安心する素振りを見せている。

 

 だけど、次に理事長の口にした言葉は思いがけないものだった。

 

「知っているも何も篠原雪音はその篠原さんのお母さんの名前よ」

 

 そう理事長は誰も予想し得なかったことを告げた。




彼女に様々疑問が出てくるなかで、一歩前進したかと思えば、意外な事実が発覚しました。

果たしてそれが事実なのかは次回をお楽しみに。

気軽に感想など頂けるとモチベにも繋がって嬉しいです。

誤字、脱字ありましたらご報告していただけると有り難いです。

それでは次回をお楽しみに。次回こそは早めに投稿できたら良いなと思っています
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