ラブライブ! 委員長はアイドル研究部のマネージャー   作:タトバリンクス

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お待たせしました。

解答編二話目何とか年内に投稿ができました。

それではお楽しみください。


六十七話 沙紀ビギニング その一

 1

 

 わたし──篠原沙紀には物心付いたときから、二つの人格が宿っていた。

 

 一つは星野如月として活動していたわたし。

 

 もう一つはあなたたちのマネージャーをしていたあの子。

 

 何時からこの身体に二つの人格が宿っていたのか、正確には分からない。ただ気づけば、あの子はわたしの側にいた。

 

 そんなわたしたちの関係は常に対等。例えるならコインの裏表。

 

 ただコインにはどちらが表か裏かと基準があるけど、わたしたちにはそれがない。ニワトリが先か、卵が先かみたいにどちらが表か裏なんて誰にも分からない。

 

 同じく身体、同じく時間を共有するニ心同体。それがわたしたちとわたしは思っているわ。

 

 でも身も蓋もない話、偶々わたしが多く表に出ていたせいで、沙紀ということになっているのだけど。

 

 それはさておき、ここからは何を話そうかしら。

 

 まずはわたしのことを知ってもらうことから始めましょう。

 

 わたし──沙紀は幼い頃からこう見えてとても好奇心が強い女の子だった。

 

 昔からテレビやマンガが大好きでそれをきっかけに色んなスポーツや習い事に興味を持つことが多かった。

 

 幸いにも母親である雪音も近い性分だったのか、すんなりとわたしの興味の持ったスポーツや習い事をやらせてくれた。

 

 そんな軽い感じで何でもやれて、いざ、色んなことを始めてみると、どんなことでも手際よくこなせていたわ。

 

 昔からわたしは器用というか、感が良いというかやることなすこと上手くいきやすいタイプ。

 

 スポーツならすぐさまレギュラーのスタメンだったり、習い事であればコンクールを取れるのが日常茶飯事。だからか周りからは天才なんて持て囃されたりもした。

 

 わたしも周囲からそんな評価をされること事態は悪く思わなかった。むしろ、マンガ好きのわたしにとっては、自分が天才ポジションにいることで、主人公的な存在が現れることを期待していたわ。

 

 わたしと張り合ってくれる相手。言ってしまえばお互いを高め合うライバルの存在を待っていた。

 

 けど、そんな相手は一向に現れないどころか、わたしの才能を目を妬む人やわたしを見て離れていく人ばかり。

 

 元々表情とか喋り方の勘違いされることも多くて、それも相まって居心地が悪くなり、気づけば興味も消えていった。

 

 それが一度や二度だけじゃなく、何度も何度も繰り返されてわたしは色んなスポーツや習い事を転々としていたわ。

 

 そんな自由奔放なわたしに常に振り回されていたのがもう一つの人格……あの子。

 

 あの子はわたしとは正反対で表情は豊かだけど、大人しくて不器用な子だったわ。あまり多くのことに興味を持たず、好きなことも特にないというよりもそんな余裕がなかった。

 

 幼い頃は気軽に身体の主導権を変えることが出来なかったわ。一度入れ替わると眠るまで入れ替わることはなく、そのあと目が覚めてもそのままってことがざらにある。

 

 それに身体の主導権がないときは視覚や聴覚は共有されてけど、実感はあまり感じない。まるで夢を見ている状態。

 

 そのせいもあって幼い頃はお互いにお互いの存在を認識できていないのもあって酷い有り様。

 

 わたしは持ち前の器用さと直感で大抵のことはなんとかなったけど、不器用なあの子にはキツイ状況が多かった。

 

 例えば、大事な大会の日にあの子が身体の主導権を握ってしまったことがあったわ。

 

 チームのエースである自分が休むわけにはいかないと思い、大会に出るのはいいけど、結果は見事に惨敗。

 

 当然の結果よね。実際に経験していないことをやれと言われて出きるのかって話。例え別の人格が経験したことでも自分で経験して積み重ねなければ、上手くいくことなんてほとんどない。

 

 だからあの子が悪いって訳じゃない。仕方ないと、次から気を付ければいいと割りきれれば良かった。

 

 けど、他人から見たらそうじゃない。

 

 突然、篠原沙紀が今まで出来ていたことが出来なくなっているという事実。

 

 それも間の悪いことに一番大事な場面で。

 

 普通なら周りが心配してくれるけど、わたしの器用さと態度が裏目に出てしまったわ。

 

 わざと手を抜いたのではとか、バカにしているのかとか、謂れのない批難や中傷的な言葉があの子を襲った。

 

 本来ならわたしに返ってくるべきものが、非のないはずのあの子に全て押し付けてしまうことに。それも一回だけではなく、表に出るたび、何度も何度も呪いのように。

 

 幼いあの子にとってその繰り返しは耐え難いストレスでしかなかった。

 

 自分以外の他人は何故か怒ってくる恐怖の対象であり、何事も上手くできないのは自分が悪いのだからと卑下する。

 

 誰一人として自分を肯定してくれる人などいない。そんな生活が幼いあの子の心を磨り減らしていった。

 

 そして追い討ちをかけるようにわたしたちが二重人格だと気付くきっかけがあった。詳しいことはよく覚えていないけど、おそらくテレビかマンガで多重人格のことを知ったからだと思う。

 

 わたしは自分にもう一つ人格があると気づいて正直わくわくしたわ。こんなに近くに色んなことを共有できる相手がいるなんて思いもしなかったから。

 

 きっと、お話しできたら、一緒に遊べたら、もっと楽しくなるんだと、いつか色んなことができる日を楽しみにしていた。

 

 けど、あの子は違った。あの子は自分が病気そのものだと思い込んでしまった。

 

 病気は直さないといけないもの。じゃあ、二重人格を直すには。どちらかが消えるしかない。けど、消えるのは。当然、自分自身しかいないと。

 

 極端な話、二重人格であることがバレたらあの子は自分は死ぬんだと勘違いをしてしまい、誰にもバレないような振る舞い始めた。

 

 この日から他人に怒られる恐怖にプラスして、自分が消えるかもしれない恐怖に変わってしまった。

 

 自分が表に出てる間は沙紀(わたし)として振る舞い、陰で練習や勉強して少しでも違和感を無くそうと必死だった。けど、限られた時間だけで多くのものを得るには無理と気づいたあの子は別の手段を取ったわ。

 

 見て覚える。

 

 言うのは簡単だけど、実際にやるには困難な方法をあの子は選んだ。

 

 視覚が共有できるなら近くにいる上手い人から見て覚えてしまえば効率が良い。勉強だって黒板に書かれていることや教科書に乗っていることを覚えてしまえば終わりだと。

 

 幼い子どもでありながらも追い詰められていたからかそんな極端な思考に捕らわれてしまった。

 

 そんなの普通は上手くいかないはず。だけど、あの子の極限的に追い詰められていた精神がそれを可能にしてしまった。

 

 自分に足りないものを周囲から写し撮り補強し、沙紀(わたし)という仮面を被り自身を偽る。それが結局のところ、自分で自分の存在を否定し、消し去っているという矛盾に気づかずに。

 

 そしてあの子は数年近くわたしたちが二重人格であることを母親である雪音に気づかれることなく、隠し続けた。

 

 まあ、でも最終的には雪音にバレてしまったけど。

 

 ただ、雪音がその事実を知った上で、何事もなくわたしたちをそれぞれ一人の娘として受け入れてくれた。

 

 そしてわたしにそのまま沙紀という名を、あの子にも別の名をくれた。

 

 そのお陰なのか分からないけど、あの子の精神は少しは良くなって、お互いがちゃんと認識し合えるようになり、ある程度は融通が聞くようになったわ。

 

 身体の主導権を基本的には何時でも切り替えられるようになったり。ようやくお互いに会話もできるようもなったわ。

 

 それでもあの子は表に出ようとはしなかった。過去のトラウマや周囲に対する恐怖心はなかなか抜けるものじゃない。

 

 結局、表に出ても今までとは変わらず、沙紀として振る舞って自分を偽り続ける。

 

 わたしも自分の好奇心が抑えきれないからまた色んなことに手を出したわ。それであの子に負担を掛けたけど。

 

 ただあの子の存在にちゃんと気付いて、わたしの中で一つ考えが変わったわ。

 

 二人で心の奥底から楽しめるものを見つけたいって。

 

 そんな出逢いや出来事が見つかるように探し続けた。

 

 2

 

「──と一先ずはそんなところね」

 

 話が一区切りついたところで、沙紀は一旦話すのを止めた。ずっと喋って疲れたのか用意してあった飲み物を飲む。

 

「え~と……つまり……沙紀ちゃん……じゃなくて、え~と……」

 

「今はわたしのことは如月で、あの子のことは今まで通り沙紀って呼べばいいわ」

 

 穂乃果は二人の名前で困惑していると、沙紀改め如月はそう提案してくれた。

 

「うん……そうするね、沙紀ちゃんと如月ちゃんが一緒の身体に居るってのはなんとなく分かったよ」

 

「そう、まずはそれが伝わってくれて良かったわ」

 

「二人が小さいときから大変だったってことも」

 

「まあ、わたしはそれほど大変じゃなかったけど」

 

「えっ……」

 

 冗談なのかホントなのか分からない口調で話す如月。その物言いで、一瞬困惑する穂乃果。

 

「もう沙紀ったら、刺激的に冗談なのか分からないこと言わないでくださいよ、穂乃果さん困ってるじゃないですか」

 

「ちょっとしたジョークのつもりよ、でも大変じゃなかったのは事実だけど」

 

「そういうところですよ、沙紀のことは気にしないで話を続けてください穂乃果さん」

 

 助け船を出すようにユーリちゃんが軽い感じで場を和ませてくれる。そのおかげで穂乃果もちょっと助かったような顔をした。

 

 さっきの会話を聞いてる感じ、如月が昔からよく勘違いされるってのが分かる。今もユーリちゃんがフォロー入れないと嫌みにしか聞こえない。

 

「話の続きでそこまでは理解できたよ、けど……」

 

「けど?」

 

「何で私たちが高そうな車に乗っているの?」

 

 穂乃果の言い分は最も。この場にいる誰もが疑問に思っていたことだった。

 

 如月が自分の正体を口にしたあと、私たちは何故かドラマとかアニメでしか見ないような黒い長い高級車に乗せられた。

 

 しかも運転しているのはさっき別れた真拓さん。どうやらこの車を取りに行っていたみたい。

 

 そんな訳も分からないまま車に乗せられて、さっきまでの話を聞いていたのが、今までの流れ。

 

「それで何でわざわざ移動しているのよ」

 

「単純にあのアパート恐いじゃない、恐くないの真姫は?」

 

 真姫ちゃんも質問すると、思わぬ答えが返ってきて、ちょっと驚いた顔をする。みんなも意外そうな顔をしている。

 

「何? みんなして……わたしだって苦手なものくらいあるわよ」

 

「まあ、沙紀の言ったことは置いておいて、車に移動したのは、特に目的地があるわけでもなく、ただこれからする話を第三者に聞かれないようにするためです」

 

「置いておくてわたしの扱い酷くない?」

 

「一体何の話なの、結理ちゃん?」

 

「スルーなのね」

 

「皆さんにお話しするのは、星野如月の活動休止の真実です」

 

 如月の反応を無視して、星野如月の活動休止の真実と聞いて、この場の空気は変わった。

 

「皆さんもここに来るまでに色々と調べていると思います、しかし、推測止まりで、確信は得られなかったはずです」

 

 ユーリちゃんの言う通り、昨日の話し合いでも話題には出て、ある程度の予測は出来てはいた。ただやっぱり知っているだけの事実に辻褄を合わせただけで、正しいかどうかなんて証明できない。

 

「厄介な点がいくつも絡んでいましたから、世間には伏せざる追えなかった」

 

 二重人格のこともその一つだとユーリちゃんは付け加える。

 

「全容を知っているのは、当事者である星野如月、そのプロデューサーである真拓、うちの事務所の社長、A-RISEの綺羅ツバサ、そして私──古道結理だけです」

 

「そんだけ……」

 

 予想以上に少ない人にしか知られていなかったことに驚く海未。それだけにあいつにとって隠したい事実があったのだと、その実感に緊張感が走る。

 

「さて……そのまま話してもいいけど、まずはそこに至るまでの話をしましょう……星野如月の始まりから」

 

 そうして彼女は自身の昔話を語り始めた。

 

 3

 

 それは小六の二月のある日のこと。わたしはるんるん気分で本屋に買い物に向かっていた。

 

わたし(沙紀)……機嫌が良いね……)

 

「当然よ、待ちに待ったマンガの最新刊が出るのよ、私は楽しみじゃなかったの?」

 

 まあ、機嫌が良いといってもいつも通り冷めた顔なのは変わりない。

 

(続き気になってたけど……私は……わたし(沙紀)ほどじゃないよ……)

 

「まさか、死んで操られてた兄貴があんな荒業で味方になるなんて……それにもしかして弟と再会するんじゃないかって考えると……」

 

(私は……兄弟子のところが良かった……)

 

 視覚を共有している以上、強制的にマンガを読まされている状態だけど、なんだかんだ話には乗ってくれる私。

 

 ただわたしに話を合わせてくれているだけなのだけど。

 

 ただこんな風に私と会話しているけど、端から見れば独り言ブツブツ言う変な子にしかみえない。

 

 わたしは気にしないが、私はそういうところを気にするからあえて人通りの少ない道を歩いている。

 

「ふんふん~」

 

 気付けば楽しみのあまりアニメ版の主題歌を口さんでいた。

 

 そんなときだった。

 

「きみっ!!」

 

 誰かに声を掛けられた。

 

 わたしは声を掛けられた方へ振り向くと、そこにはスーツを着た中性的な顔立ちの人がいた。どうやら気付けば人通りがあるところに来ていたみたい。

 

 ただ不思議なのはその人の顔はわたしを見て、どこか懐かしむような嬉しいような複雑な顔をしていた。まるでもう会えないと思っていた人に会えたみたいに。

 

「?」

 

「……きみ……アイドルに興味ない?」

 

 わたしが首を傾げると、それから少し間が空いてからその人はそう口にした。

 

 わたしはその言葉を聞いて、ポケットから防犯ブザーを取り出し、何時でも音が出せるように構えた。

 

「だよね!! 急にそんなこと言われてたら警戒するよね」

 

「近づくと鳴らす」

 

「分かった、僕はもうちょっと距離を取るから、きみはブザーを持ったままでも良いから話を聞いてくれない」

 

「話を聞くだけなら」

 

 彼は数歩下がり、それなりの間隔を取ってからわたしは話を聞くことにした。

 

 それがわたしと後にわたしたちのマネージャーとなる古道真拓との出会いだった。

 

 それから家に帰ると、わたしは買ったマンガをさっそく読んでいた。

 

「今回も面白かったわ」

 

 読み終わると満足感でいっぱいだった。やっぱりマンガは良いわ。わたしをドキドキで満たしてくれる。

 

「やっぱり歴代の影強いわ、それよりも仮面のあいつ何者なの」

 

(今回も……気になる……ところ……多かったね……)

 

「はぁ~早く続きみたい……」

 

(週刊誌……買う?)

 

「流石に買ったら他のも読みたくなる……それにお金が足りない」

 

わたし(沙紀)のことだから……一つ買うと……他の週刊誌……下手したら……月刊誌まで買いそう……)

 

「それは否定できない」

 

「はぁ~、ひみつ道具で未来の自分が持っているやつを借りる道具があった気がするからそれが欲しい……」

 

(そういえば……あったね……そんなの……)

 

 夢みたいなことを口にしながら、読み終わったマンガを押し入れの中にある本棚に片付ける。

 

 わたしは軽く身体を伸ばすと、ふと、机の上に置いておいた名刺に目が行った。

 

(アイドルに……なるって……話……受けるの?)

 

「そうね……最近は暇だったし、いいかもしれない」

 

 私の質問にわたしは名刺を片手に持ちながら答えた。一応安全のために携帯で事務所の名前を検索してみる。

 

 すぐにそれらしきホームページが見つかったからそこにアクセスして、中を適当に見てみる。

 

「ふ~ん、結構大きな事務所みたいね」

 

(この子……テレビで……見たことあるかも……)

 

 なんて二人で事務所のホームページを見ていると、ガチャっと玄関のカギが空く音が聞こえ──

 

「ただいま!! 愛しき娘たちよ!! お母さんが帰ってきたよ!!」

 

 テンション高い声で家に入ってくると、同時にわたしたちに向かってダイブしてくる母──雪音。

 

「ああ、この愛しき匂いに発展途中の身体付き、落ち着くわ~!!」

 

「ウザい」

 

 わたしたちの身体をベタベタ気持ち悪く触る雪音に頭突きを食らわせる。

 

「イタッ!! 母親に頭突きするなんて沙紀ちゃんは反抗期なの!?」

 

「いや、気持ち悪いから頭突いただけ」

 

「酷い!! 実の母親に向かって気持ち悪いなんて!!」

 

「はぁ~、めんどくさいわ、私……チェンジ 」

 

「溜め息吐かれた、ショック!!」

 

 ショックを受けている雪音を無視して、わたしは私と入れ替わる。

 

「えっ……急に……言われても……」

 

「■■ちゃんは私のこと、めんどくさいとは言わないよね!?」

 

「あっ……え~と……うん……」

 

「困っている■■ちゃんも可愛い!!」

 

 またまた有無を言わさずに娘に抱きついてくる雪音。一瞬驚きはするが、わたしと違って私は嫌がる素振りは見せなかった。

 

(はっきり言わないとダメよ、雪音はすぐ調子に乗るんだから)

 

 押し付けたわたしが言うのもあれだけど、私に忠告をする。

 

 こんな感じで無駄にテンションの高い母親とそのテンションに付き合わされる二重人格の娘のやり取りが篠原家の日常だった。

 

「これは?」

 

 雪音は床に落ちていた名刺に気づいてそれを拾う。どうやら雪音に抱きつかれたときに床に落としていたみたい。

 

わたし(沙紀)が……アイドルに……スカウトされたときに……貰った名刺……」

 

「ええ!? 沙紀ちゃんスカウトされたの!?」

 

「うん……買い物……行っているときに……偶然……」

 

「そうかそうか~……アイドルにスカウトされたのか……でも当然だよね、なんたって私の娘たちは超絶可愛いもの、そのスカウトマン見る目あるなぁ~」

 

 しみじみと思い耽るように親バカなことを口にする雪音。

 

「それで沙紀ちゃんはどうするつもり?」

 

「興味ある、だから話を聞いてみたい」

 

 雪音はわたしに質問しているからすぐさま私と入れ替わって、自分の気持ちを口にした。

 

「■■ちゃんは?」

 

「私は……わたし(沙紀)が……やるって……言うなら……」

 

「そう……」

 

 私にも同じ質問をするけど、わたし任せの煮え切らない答えを口にする。雪音はその答えに対してそれ以上口にすることはなかった。

 

「二人の気持ちは分かった、なら、私から言うことは特にないから思う存分挑戦してみればいい」

 

 簡単に雪音は許可してくれた。いつもそう。わたしがやりたいと口にすれば、雪音が断った試しがない。

 

 わたしがすぐにスポーツや習い事を辞めても怒ったりはしない。なんだったら少し前に習い事を辞めたばかりだ。

 

 一般的な親ならすぐに辞めたからどうせ続かないでしょとか言うかもしれない。けど雪音の場合は小言とか言わないどころか、次の楽しいこと探そうなんて言ってくる。

 

「そうと決まれば善は急げ、さっそく連絡してみよう!!」

 

 雪音はカバンから携帯を取り出して、名刺に書かれた連絡先を入力し始めると、一瞬雪音が指が止まったように見えた。

 

「どうしたの?」

 

「何でもないよ、それにしても……私もなって見ようかな? アイドル」

 

「それは絶対にイヤ」

 

 わたしはいつも以上に低いトーンで拒否した。

 




如何だったでしょうか。

沙紀の視点から明かされる始まりから終わりまでの物語が始まります。

少し長くなるとは思いますが、最後までお付き合いいただけると幸いです。

気軽に感想や評価など頂けるとモチベにも繋がって嬉しいです。

誤字、脱字ありましたらご報告していただけると有り難いです。

それでは次回をお楽しみに。できれば次回も年内に投稿できたら良いなと思っています。

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