私は高坂穂乃果!東京都千代田区に住む音ノ木坂学院高校1年生で、来月の4月から2年生になります。
私の家は老舗の和菓子店「穂むら」を経営しているんだけど、今客足がすごいからせっかくの春休みなのにここ数日ずっと店番を手伝わされてるよ。
それに小さい頃からずっと和菓子を見てきたから、見るのもイヤになってくるよ~。
おまんじゅう・うぐいす団子・桜餅、あ~もうどれも飽きた!
「穂乃果~!悪いんだけどちょっと買い出しに行ってきてくれない?食材補充するの忘れてたの!」
お母さんが私にお使いを頼んできた。面倒だけどずっと店番ばっかりだったからいい気晴らしになると思って、お使いに行くことにした。
「は~い!行ってきま~す!」
そう言って家の玄関から外に出るともう夕方で日も落ち始めていた。私が店の入り口前の通りに出た途端、1人の少年が私の目の前をものすごいスピードで走って行った。
またあの子だ。最近よくこの辺りで走るのを見かける。見た感じ大体私と同い年くらいかな?一体誰なんだろう?
それにしても、速いなぁ!!
入り組んだ狭い道を一人の少年が歩いていた。少年は歩きながら空を見上げるとすっかり日も落ち、うっすらと星も見え始めていた。
やや冷たい風が吹き、少年はもうすぐ4月なのにやっぱりまだ夜は寒いなと感じながら、行きつけの銭湯「鶴の湯」へと向かっていった。
「鶴の湯」に入ると常連客のおじさんに会い、一緒に浴槽に身を浸す。
「いや~すっかりこの湯船にも慣れたもんだな」
おじさんが少年に笑いかける。
「そりゃあ子供の頃からよく来てましたから」
少年はおじさんの言葉に笑いながら返事を返す。
「昔から江戸っ子は風呂の温度は湯がケツに噛みつくぐらいがちょうどいいってんだけどよ、よそのヒトはなかなか慣れないもんでねぇ」
「まぁ普通の人からすればかなり熱いですからね」
「そういや、兄ちゃんもうすぐ高校3年生になるんだよな。どうだい、部員は集まりそうかい?確かあと2人揃えば予選に出られるんだよな?」
おじさんの言葉を聞くと、少年は黙り込んでしまった。
「ま、集まるといいな。ハイジよ」
「・・・はい」
少年の名は清瀬灰二。ここ東京都千代田区に住む高校生である。
灰二はおじさんの言葉に、「本当に」と思った。
今年が最後の年だ。そして最大のチャンスが回ってきている。今年こそ必ず予選に出場する。
やがて灰二はおじさんと銭湯を出てからおじさんと別れ帰路についた。
しばらく歩いていると背後から誰かが走ってくる足音が聞こえてきた。だんだん足音が大きくなってきたので灰二は振り返った。
その瞬間、灰二の横をスポーツ用のウィンドブレーカーを着た1人の少年があっという間に通り抜けて走り去っていった。
灰二は少しその少年の力強い走りに目を奪われたが、すぐに自身も走って彼を追いかけ始めた。
あいつだ。間違いない。何であんなのが東京にいるんだ。
2年前の全日本中学陸上選手権(全日中)で1500mと3000mの二冠を達成した
蔵原 走!!
まるで中距離選手のような大きなストライド。この走りで当時、全日中1500mと3000mの二冠達成にとどまらず、ジュニアオリンピック3000m優勝、都道府県対抗駅伝で区間賞を獲得し中学部門のMVPに輝くなど数々の大会を総ナメにしてきた、
まさに陸上界期待の逸材!!
・・・だったわけだ。
中学卒業後は県内の駅伝強豪校に進学した。しかし、高校駅伝本戦直前になって「あの事件」が起きた。
あの事件によってその高校は高校駅伝出場を取り消され、部は一時的な活動自粛に追い込まれ、彼は駅伝部を退部した。
しかし、それでも走らずにはいられないってわけか。
灰二はしばらく彼の3mくらい後ろについて走りを見ていたが、やがてペースを上げ彼のすぐ後ろにつき声を掛けた。
「走るの好きか?」
彼は驚いて足を止めた。まるで目の前の道が突然消えたかのように。
「急に止まるな。少し流そう」
灰二はそう言ってゆっくりとしたジョギングペースで彼の前に出た。
彼は少し怪訝に思いながらも自然と脚が灰二の後を追った。
しばらく二人で並んでジョグをした後、簡単なストレッチを行い筋肉をほぐした。
「いい走りをしているね」
しばらくの沈黙の後、灰二が口を開く。少年は「どうも」と簡単な返事を返す。
そしてさらに彼に質問をする。
「君、この辺に住んでるのかい?」
「ええ一応。4月から音ノ木坂学院に転校するんで」
「なんだって!?それは本当かい!?」
少年は質問に答えた後、灰二が異様に目を輝かせてきたのでたじろかずにいられなかった。
「いや~嬉しいよ。まさか音ノ木坂に来てくれるなんて」
尚も灰二は嬉しそうな仕草を取っていた。
「あんた一体何者なんですか?」
少年は灰二に問いただすと、灰二は先ほどのにこやかな表情から一変して真剣な表情に変わる。
「俺は音ノ木坂学院高校の清瀬灰二。そして、男子駅伝部の主将だ」
「駅伝部!?・・」
「そして君は、船橋第一高校の蔵原走だろう」
走は駅伝部という単語を聞き、さらに自分のことを知っている灰二に対して警戒の念を強めた。
そして灰二がさらに口を開く。
「単刀直入に言う。俺と一緒に全国高校駅伝を目指さないか!?」
「高校駅伝?」
「そうだ!」
唖然とした表情で走が問うと灰二が強く頷き返す。
「お断りします」
走は即答で答えた。
しかし灰二は尚も食い下がった。
「確かに音ノ木坂の駅伝部なんて聞いたことないだろうし、無謀だって思うだろう!でも俺たちは本気なんだ!」
「断るって言ってるでしょう!」
灰二の必死の説得も走はバッサリと切り捨てた。
「だいたいあんた、初対面だってのにこの俺が信用できるってゆうんですか」
「信用?できるわけないだろう」
「なんだよそれ!!」
灰二の思わぬ返答に走は食ってかかりそうになるが、灰二は走の顔をそっと抑えて答えた。
「俺たちはまだ出会ったばかりなんだ!!」
「!?」
「俺はお前が前の学校で起こした例の事件のことは知っているさ!でもそれがなんだ!俺が知っているのは今会ったばかりのお前だけだ!今のお前の走り!その走りだけ・・・俺はお前を信じる!!」
灰二は走の肩を掴んでじっと走の目を見ながら声を張り上げて宣言した。
・・・お前を信じる?そんな大声で言ってて恥ずかしくないのかよ?
ホントに何言ってんだか・・・
でも・・・そんなこと言われたの初めてだ
「俺のことはハイジと呼んでくれ。それでどうするカケル?」
灰二は入部についての最終確認をする。
「別に入ってもいいですけど」
「おお!その気になってくれたか!」
走はしばらく考えてから入部の旨を伝え、灰二は再び目を輝かせた。
しかし走は続ける。
「でもハイジさん。俺は駅伝を目指すつもりはありませんから」
「まあ来るだけ来いって」
しかし灰二は気にしていないようだった。
「俺は絶対駅伝はやらない!一人で走るって決めたんだ!」
その後、走は灰二から部室への簡単な案内図を渡され始業式の日の放課後に部室に入部届を持って来るように約束され彼と別れた。
帰り道の中、走は心の中で呟いた。
そうだ。俺にはもう帰る所も行く所もないんだ。なら
どこへ行ったって同じだ。
灰二は家に帰り着き、自分の部屋のベッドに仰向けになりながら先ほどの走の走りを思い出していた。
今俺たちに必要なのは、こんなゾクゾクする気持ちなんだ。
お前はこれから俺たちの仲間だ!カケル!
なんとか記念すべきプロローグを書き終えましたが、ほとんど漫画版のプロローグをそのまま書いたような感じですね。ちゃんとわかりやすく書けたか不安です。
時間が出来次第また更新していきます