◎教室◎
午前中の授業が終わり昼休みに入ると、穂乃果は海未・ことり・カケル・高志・ムサを呼び集めた。
「一体どうしたのですか?穂乃果」
海未が訊ねる。
「実はね、廃校を阻止するいい方法を思いついたんだよ」
穂乃果が言うとその場にいる全員が目を丸くする。
「本当ですか?穂乃果サン」
「一体どんな方法なの?」
ムサも高志も期待のこもった目をして訊ねた。
すると穂乃果は全員にある物を見せた。
それは全国各地のスクールアイドルが特集されている雑誌である。
「何だこれは?スクールアイドル?」
「そう!今、色んな高校でスクールアイドルっていうのが増えてきてるんだって!」
カケルが雑誌を眺めながら問いかけると穂乃果が答える。
「スクールアイドルって何デスか?」
「それは、一般の高校生によって学校ごとに結成されたアイドルのことだよ。でもアイドルといっても芸能事務所とかに入るわけじゃないんだ」
ムサが訊ねると高志が説明する。
(なるほど。いわゆるご当地アイドルってわけか。しかしこんなのが流行っていたなんてなぁ)
カケルもこういったアイドルに関しては全くの無知であり、高志の説明を聞いて初めて理解した。
「それに人気のスクールアイドルの高校では入学する人も増えてるんだって」
穂乃果が続ける。
(そうなのか。ん?まさか穂乃果が思いついたいい方法ってのは・・)
「あれ?海未ちゃんは?」
カケルがそう思っているとことりがあたりをキョロキョロ見回していた。
いつのまにか海未の姿がないのだ。
みんなで首をかしげると教室から出ていこうとする海未の姿を見つけ、穂乃果が急いで引き止めに行く。
「海未ちゃん!まだ話終わってないよ!」
「うぅ!?わ、私はちょっと用事が・・」
海未はいきなり声を掛けられ驚きながら答える。
「いい方法を思いついたんだから聞いてよ~」
穂乃果がジタバタしながら迫る。
「はぁ・・あなたのことだからどうせ、私たちもスクールアイドルをやろうといい出すつもりでしょう?」
海未がため息交じりに問う。
「おお!海未ちゃんもしかしてエスパー?」
(やっぱりそうだったか。あの様子を見たら誰だってよく考えなくても分かるわ)
穂乃果が言うとカケルは心のなかでツッコんだ。
「ワタシはいい考えだと思いマス」
「だよね~!ありがとうムサ君!よ~し、今から先生のところへ行ってアイドル部を結成しよう!」
ムサの言葉でさらに乗り気になる穂乃果。
(おいおい。そんな即決して本当に上手くいくのかよ?)
カケルがそう思っていると海未が口を開く。
「私は反対です」
「ええ~!?なんで!?だってこんなにキラキラしてるんだよ!こんなにかわいいんだよ!」
反対の意を示す海未に穂乃果は先ほどの雑誌を掲げながら問い詰める。
「そんなことをして本当に生徒が集まって廃校を阻止できると思いますか?」
海未は穂乃果をキッと見据えながら言う。
「そ、それは人気が出ればだけど・・」
「その雑誌に載っている人たちは、真剣にプロ並みの努力をして勝ち上がってきた人たちです。あなたにそこまでいける自信があるというのですか?」
「そ、それは・・・でも、カケル君たちは高校駅伝を目指して頑張ってるんだよ!だから私たちだって・・」
「それとこれとは話が違います。穂乃果みたいに好奇心だけで始めてもうまくいくはずありません」
「まあまあ海未ちゃん。俺はやってみてもいいと思うけど」
厳しく言う海未を高志がなだめる。
「そうですよ。ワタシも皆さんの歌とダンス見てみたいデス」
ムサも穂乃果に味方する。
「ダメです!あなたたちの頼みであっても、アイドルは無しです!」
はっきりと断言され、穂乃果は俯いてしまい、高志とムサも残念そうな表情をし、ことりは黙って様子を窺っていた。
みんなの会話を聞いてカケルは思った。
確かに海未の言う通り、世の中はそんなに甘くはない。俺はアイドルのことはよく知らないが、陸上にしてもアイドルにしてもみんなから注目されている人はそれ相応の凄まじい努力を重ねているんだ。さっきも海未が言ったように、好奇心だけで始めてもうまくいくわけない。穂乃果には気の毒かもしれないが、もう少し現実的に考えて他の案を出すべきだ。それにしても、俺の身近で無謀な目標を堂々と宣言できるのはハイジさんだけじゃなくここにもいたとは・・・
◎屋上◎
放課後になり、穂乃果は一人屋上にいた。
カケル・高志・ムサは駅伝部、海未は弓道部の活動に、ことりは委員会の集まりに行っている。
穂乃果は先程海未にスクールアイドルの件を断られたことで落ち込んでいた。
「いい方法だと思ったんだけどなぁ・・・ん?」
そう呟いているとどこからか誰かの歌声が聞こえてきた。
何だろうと思い穂乃果は歌声のする方へ向かっていった。
◎音楽室前◎
進んでいくと歌声に交じってピアノの音も聞こえてきた。
やがて穂乃果は音楽室のドアへと辿り着く。
音楽室の中から歌は聞こえてくるので、穂乃果はドアの窓から中を覗いてみると、一人の赤い髪の少女がピアノを弾きながら歌っていたのだ。
青いリボンをしているので1年生のようだった。
とても上手にピアノを弾いており、とても綺麗な歌声で歌を歌っていた。
「大好きだばんざ~い まけないゆうき~ 私たちは今を~楽しもう~ 大好きだばんざ~い 頑張れるから~ 昨日に手をふって ほら前向いて~ 」
やがて少女が歌い終わると、穂乃果はドアの窓越しに拍手を送り始めた。
少女は穂乃果に気づきドアの方へ視線を向ける。
「ヴェエエ!?」
少女は拍手を送る穂乃果の様子を見て、思わず変な声を上げて驚いてしまった。
穂乃果は音楽室に入ると、少女に声を掛ける。
「すごいすごい!感動しちゃったよ!」
「べ、別に・・」
少女は指で髪をいじりながらドライな反応を返す。
「歌上手だね!ピアノも上手だね!それにアイドルみたいでかわいい!」
穂乃果に褒められ少女は照れたように顔を赤くするが、足早に音楽室を出ていこうとする。
しかし穂乃果が呼び止めた。
「あ、あの!いきなりなんだけど、あなたアイドルやってみたいと思わない?」
穂乃果は単刀直入にスクールアイドルを勧めてみた。
「何それ?意味わかんない!」
しかしあっさり冷たくあしらわれてしまい、少女はそのまま音楽室を出ていった。
「・・だよね~。あははは」
一人残された穂乃果は苦笑いしながら呟く。
◎男子駅伝部・部室◎
その頃カケルは部室で他の部員と共に練習着に着替えていた。
となりでムサと高志が先ほどのスクールアイドルの件について話していた。
「残念デスネ。ワタシ、みなさんのアイドル姿見てみたかったデス」
「俺も残念だけど、あそこまで反対されちゃしょうがないかもね」
カケルは二人の会話を聞き、改めてスクールアイドルについて気になりだした。
一体穂乃果が提案したスクールアイドルとはどんなものなのだろうか?
先程の高志の説明で、各学校で結成されるアイドルというのは分かったが、さらに詳しく知りたいと思っていた。
誰かスクールアイドルについて詳しい人はいないかとカケルは首をかしげるが、思い当たる人物はすぐに見つかった。
反対隣で着替えている王子だ。
以前彼が初めて練習に来た時にカバンからアイドルのグッズがたくさん出てきたのを思い出したので、カケルは早速聞いてみることにした。
「なあ王子。ちょっといいか?」
「はい。何でしょう?」
「お前、スクールアイドルって知ってるか?」
アイドルという言葉を聞くと、王子は目の色が変わった。
「そりゃあもちろんですよ!今世間じゃどんどん知られていますよ!人気のあるグループは実際にグッズ販売もされてるんですよ!まずA-RISEに、EastHeartに、MidnightCatsに、それからこれは福岡の・・」
王子はすっかりテンションが上がっており、バッグから人気のスクールアイドルのグッズを取り出しながら語りだしてきたのでカケルは慌てて押しとどめる。
「わかったわかったもういいよ!それより、そのスクールアイドルってどれくらい大変なんだ?本物のアイドルとどう違うんだ?」
カケルは思っていたことを質問していく。
「そうですね。アイドルを始めてからやらなきゃいけないことは、ダンスの練習と歌の練習はもちろんですが、そのためにはまずダンスの振付を1から考えて、歌の作詞・作曲・編曲もやって、あと衣装を用意したり、練習場所や発表場所を確保したりといっぱいあるんですよ。本物のアイドルは、芸能事務所に所属してプロデューサーが色々手を回してくれるんですが、スクールアイドルはそれらを全部自分たちでやらなければならない。それがプロのアイドルとスクールアイドルの違いなんです」
王子はアイドルオタクらしく、色々細かく説明してくれた。
なるほどな。何から何まで自分たちでか。これだけのことをたった3人だけでやるなんて相当大変だ。それで人気が出なかったら無駄な努力に終わる。海未の言った通りだ。穂乃果のことだからそんなことまで考えてないだろう。やっぱりやめておいたほうがいい。
「カケルさん。もしかしてスクールアイドルに興味あるんですか?」
「い、いや、そういうわけじゃ・・・ちょっと気になっただけだ」
「いっそのこと、うちの学校でもスクールアイドル結成してくれないですかね~?そしたら僕ファンになって大応援しますよ」
「・・・」
早くもここにファン一号が誕生したな。
いや、何考えてるんだ。アイドルはなしだって言われただろう。もうこの話は終わりだ。
「先に行くぞ」
「ちょっと待ってくださ~い」
カケルは足早に部室を出て、王子は慌てて後に続いた。
◎弓道場◎
一方海未は弓道場で弓道の練習をしていた。
離れた所にある的を狙って、弓矢を構える。
「・・・」
(みんなのハートを撃ち抜くぞ~!バァーン!)
しかし海未は、頭の中にアイドルになった自分の姿が浮かび集中が途切れ、狙いを外してしまう。
「な・・何を考えているんです私は」
海未はもう一度弓矢を構える。しかし・・
(ラブアローシュートー!!)
その後何度やってもアイドル姿が思い浮かび練習に集中できず、ついに倒れこんでしまう。
「ああ!いけません!余計なことを考えて・・」
「海未ちゃーん。ちょっと来てー」
するとことりが海未を呼びにやってきた。
海未はことりと弓道場を出て、2人で敷地内を歩いていた。
しばらくして海未が口を開く。
「穂乃果のせいです。全然練習に身が入りません」
「もしかして、アイドルのこと気になってたの?」
「いえ、そんなことは・・・」
海未はことりに図星を付かれ 慌てて否定する。
「やっぱりうまくいくとは思えません」
「でも、こういうことはいつも穂乃果ちゃんが言いだしてたよね」
「・・・」
「いつも私たちが尻込みしちゃうところを穂乃果ちゃんがいつも引っ張ってくれて」
「でも、そのせいで何度もひどい目にあってきたでしょう。穂乃果はいつも強引過ぎます」
「でも海未ちゃん。それで後悔したことある?」
「えっ?」
海未は自分たちがまだ小さかったときのことを思い出した。
ある日穂乃果は、大きな木にみんなで登ろうと言いだしたことがあった。登ってみると、足がすべったり枝が折れたりして落ちそうになって怖い目にあった。でも、木の上から見た夕日はとても綺麗だったことは、海未の記憶の中に鮮明に残っていた。
「見て」
海未はことりに促され指さす方向を見る。
「いち、にー、さん、しー」
その先では、穂乃果が一人でダンスの練習をしていたのだった。
「うわぁー!いたたたっ」
だが途中で足がもつれ転んでしまう。
「よーし、まだまだ!」
しかし再び立ち上がり練習を再開する。
「ねえ海未ちゃん。私、やってみようと思う」
「・・・ことり」
「海未ちゃんはどうする?」
「・・・」
ことりは微笑みながら海未に問いかける。すると、またも穂乃果が転倒してしまう。
「あいたたたたっ、くぅぅ~」
穂乃果が倒れて打ちつけたところをさすっていると、海未が手を差し伸べる。
「海未ちゃん」
「一人で練習するより三人いたほうがいいでしょう」
「・・うん!」
穂乃果は海未の手を掴み立ち上がった。
ようやく海未は決心がつき、彼女たちはスクールアイドルを始めることになった。
◎生徒会室◎
穂乃果・海未・ことりは早速生徒会室へアイドル部設立の申請に行った。
生徒会長の絢瀬が3人が持ってきた資料に目を通す。
「これは?」
「アイドル部設立の申請書です」
絢瀬に聞かれ穂乃果が答える。
「それは見れば分かります」
「では、認めていただけますね?」
「いいえ、部活は同好会でも部員は最低5人は必要なの」
海未が聞くと絢瀬は部の設立の条件を述べた。
「でも、5人以下の部もいくつかあると聞いてます」
「設立した当時は5人以上いたはずよ」
「あと2人やな」
横にいる副会長の東條が言った。
「分かりました。あと2人ですね。行こうみんな」
3人が生徒会室を出ていこうとすると、絢瀬が呼び止める。
「待ちなさい。なぜこんな時期にアイドル部を始めるつもりなの?あなたたち2年生でしょう?」
「廃校を阻止したいんです。スクールアイドルって今すごい人気になっているんです。だから・・」
「だったら、例え5人集めてきたとしても認めるわけにはいかないわね」
なんと絢瀬はアイドル部の設立を認めようとしなかったので、3人は驚き穂乃果が理由を聞く。
「どうしてですか?」
「部活動は生徒を集めるためだけにやるものじゃない。思い付きで行動しても何も変わらないわ。変なこと考えてないで残りの学生生活、自分のためにするべきことをよく考えるべきよ」
◎校舎前◎
3人は生徒会室を出て校舎前にいた。外はもう夕方になっていた。
生徒会長にあえなくアイドル部の申請を反対されてしまい、3人とも落ち込んでいた。
「がっかりしないで。穂乃果ちゃんが悪いわけじゃないんだから」
ことりは誰よりも落ち込んだ様子の穂乃果を慰める。
「おーい、みんなー」
すると高志の呼ぶ声が聞こえ、視線を向けるとカケル・高志・ムサが駅伝部の練習を終えて3人のもとへやってきた。
「みんなお疲れさま~」
ことりが3人を労う。
「ありがとう。ところでどう?あれから何かいいアイデアは出た?」
高志が聞くと、彼女たちはスクールアイドルを始めることにしたこと、生徒会長に申請を反対されたことを話した。
アイドルを始めると聞いた時は、カケルはまさか本当にやることになるとはと驚き、高志・ムサは嬉しそうな表情をした。
しかし生徒会長との一件を聞くと、がっくりとうなだれてしまった。
「それは残念デス」
「生徒会長のいいたいこともわかるけど、何もこんなに頑なに否定しなくたっていいのに・・」
ムサも高志も落ち込みだした。その様子を見てカケルは思った。
今度は生徒会長か。思い付きの行動、やっぱりそんな感じに言われたか。さすがに生徒会長に言われちゃあ諦めるしかないだろう。
でも・・・なんでだろう・・・
なんで俺までこんな、みんなと同じような暗い気持ちになってるんだろう。
「部活として認められなければ講堂も使えないですし、部室もありません」
海未はそういうと、風にゆられ木から舞い落ちる桜の花びらを見つめる。
他のみんなも同じだった。
「困ったね・・」
「一体どうしまショウ」
「どうすれば・・・」
「どうすればいいのでしょう」
高志・ムサ・ことり・海未がそれぞれ呟いた。
その中でも穂乃果はずっと黙ったままだった。
カケルはいてもたってもいられなくなり穂乃果に問いかけた。
「どうするんだ穂乃果?やると言いだしたのはお前なんだぞ。生徒会長に言われた通り、このままあきらめるのか?」
(あれ?何でこんなこと言っちゃったんだろう?)
カケルに問われ穂乃果は少し考え込むが、やがて夕日を見つめながら言う。
「私、やっぱりアイドルやりたい!やるったらやる!この3人で絶対やるんだ!」
穂乃果は力強く決意を込めて宣言する。
「ふふっ、穂乃果らしいですね」
「うん。そうだね」
海未とことりが呟く。
「よく言ったね穂乃果ちゃん。俺も協力するよ」
「ワタシも手伝いマス」
高志とムサが言う。
カケルは穂乃果の様子を見て、口元が緩んだ。
(やっぱりやるのか。いいじゃねえか。あれ?何で俺嬉しそうにしてるんだろう?)
「よ~し、みんな頑張るぞ~!」
「「おお~~!!」」
穂乃果の掛け声でみんなは揃って拳を突き上げて叫ぶ。
その様子を見ていたカケルはしばらく考えた後に、口を開いた。
「俺も手伝うよ」
5人はみんなカケルの方を向く。
「俺も出来るだけのことは協力するよ。だからみんな・・・頑張れ」
彼女たちはこんな俺に最初に話しかけてくれた大切な友達だ。恩返しってわけじゃないけど、これからは友達として彼女たちの廃校阻止には協力しよう。
高校駅伝出場以外でだけどな。
「うん!ありがとうカケル君!」
穂乃果はにっこりと微笑みながら返事をする。
その笑顔にカケルは一瞬ドキッとしてしまう。
(何だろう?この妙な気持ちは)
こうして彼女たちのスクールアイドルの道が始まったのだった。