夕日が落ち始め空はだんだん暗くなり始めてきた。
先程スクールアイドルをやることを誓い合った後、みんなで一緒に帰ることになった。
途中で海未・ことり・高志・ムサと別れ、現在カケルは穂乃果と二人きりになった。
しばらく二人は無言で歩いていると、カケルは妙にソワソワし落ち着きがなくなっていた。
まいったなぁ・・・話題がないぞ。俺、女の子と二人きりで帰るなんて初めてだから何話していいか分からない。
う~ん・・・とりあえず何か褒め言葉でもかけてみようかな?
カケルは歩きながら頭の中で必死に言葉を探し、ようやく口を開く。
「あ、あのさ・・」
「ん?なぁにカケル君?」
「穂乃果ってさ、本当に芯が強いよな」
「えっ?」
「い、いやその、本当に真っ直ぐで前向きというか、あんなにアイドルのこと反対されたのに、お前は失敗を恐れず絶対にやるって決めた。穂乃果のそういうところ、何かすごいなって思って・・・」
カケルはぎこちなくではあるが、穂乃果について感じたことを述べた。
「えへへ、ありがとう」
穂乃果は褒められて本当に嬉しそうな様子だったのでカケルはホッとした。
「でもね、私がスクールアイドルをやる決心ができたのはカケル君たちのおかげでもあるんだよ」
「えっ?俺たち何かしたか?」
穂乃果は以前こっそり駅伝部の練習を見に行ったことを話した。
「あの時のみんなの姿を見て思ったんだ。私もあんなふうに仲間と一緒に何かを目指してみたいって」
「そ、そっか」
「それに私には海未ちゃんとことりちゃんがついててくれてるから。もちろんカケル君も高志君もムサ君も、応援してくれて本当に嬉しかったよ」
「・・正直、俺に何ができるか分からないけど俺なりに精一杯協力するよ。だって・・・友達だからな」
「ありがとうカケル君」
「お・・おう////」
穂乃果は優しく微笑みながらお礼を言い、カケルは顔が真っ赤になり慌てて顔を反らす。
まただ・・・何で彼女のああいう笑顔を見るとこんなに息苦しくなるんだろう・・・でも、悪い気分じゃないな。
何なんだろう?こんな気持ち今まで感じたことない・・・
二人で話しているうちに、カケルは自分の家の近くまで来たのを感じた。
(あれ?さっきから穂乃果ずっと方向同じだな。もうすぐ俺のアパートに着いちまうぞ)
カケルがそう思っていると、少し先に和菓子店「穂むら」が見えてきた。
「カケル君!あそこが穂乃果の家だよ!」
穂乃果は店を指さしながら言う。
「えっ・・・えええええええ!?」
カケルはあまりの驚きに大声をあげてしまう。
「驚いたでしょう。私の家は和菓子屋さんなんだ。そういえばカケル君ってどこに住んでるの?」
穂乃果が聞くとカケルはある場所を指さした。
「・・・あそこ」
「えっ?」
カケルが指さしたのは穂乃果の家の前の通りを挟んで向かい側の、約10~15mほど離れた一人暮らし用のアパートだった。ほとんど目と鼻の先のような距離だった。
「えええええええ!?カケル君!こんなに近くに住んでたの!?」
今度は穂乃果が大声を上げてしまう。
「驚いた~!でも嬉しいなぁ。これなら会いたいときにすぐ会えるもんね」
今度は笑顔になりながら言う穂乃果を見て再びカケルは赤面する。
(本当にこいつは思ったことがすぐに口に出るんだな///)
「じゃあちょっとうちに寄ってこうよ!家族を紹介したいから」
カケルは穂乃果に促され、店の正面入り口から一緒に中へ入っていく。
「ただいま~」
「おかえりなさい」
店の中へ入ると穂乃果の母がレジカウンターで店番をしており、父親と思わしき人物が商品の陳列をしている。
「あら、あなたは。また来てくれたのね」
「どうも」
穂乃果の母はカケルを見ると嬉しそうに声を掛け、カケルは返事を返す。
「えっ?お母さんカケル君のこと知ってるの?」
穂乃果が訊ねる。
「ええ。最近よくうちに買いに来てくれてたから」
「うっそ~!気が付かなかった!」
「ちょうどいつもあなたがいない時にね。もしかしてお友達?」
「うん。今年からうちの学校に転校してきたんだよ」
「蔵原走です。よろしくお願いします」
穂乃果の母に訊ねられ、カケルはお辞儀をしながら挨拶をする。
「あら、とても礼儀正しいわね。そんなに固くならなくても大丈夫よ。穂乃果のお友達なら大歓迎だわ。私は母の瑞穂です。そしてこちらは夫の健作です。よろしくね」
穂乃果の母:瑞穂も自己紹介をし、父:健作もカケルに一礼をする。
「実はカケル君ね、すぐそこのアパートに住んでるんだよ」
穂乃果がその方向を指さしながら教える。
「まあ、そうだったの。どうりでよく来てくれると思ったわ。・・・・・これも何かの運命なのかしらね」
瑞穂は、二人には聞こえないような声でニヤニヤしながら呟いた。
「でもあのアパートって一人暮らし用じゃない?」
穂乃果が思い出したように言う。
「うん。俺、一人暮らししてるんだ」
「えええええ!?ひっ一人暮らし!?」
「まあ、その若さですでに独り立ちしてるなんてすごいわね。でも大丈夫?ごはんとかちゃんと食べれてる?」
穂乃果はまた大声で驚き、瑞穂は驚きながらも心配そうに訊ねる。
「大丈夫ですよ。ちゃんと自炊はできるんで」
「そう、ならよかったわ。でも何か困ったことがあったら、いつでもうちにいらっしゃい」
「はい。ありがとうございます」
瑞穂に優しく言葉をかけられ、カケルはお礼の返事を返す。
「カケル君って料理作れるんだ。ねえねえカケル君!これからカケル君の家にお邪魔してもいい?穂乃果、カケル君の作った料理食べてみたい」
「えっ!?」
穂乃果はわくわくした様子で訊ね、カケルはいきなり言われ驚いた。
「こら穂乃果。いきなり訪ねちゃご迷惑でしょ」
「ええ~でも~」
瑞穂に諫められるが穂乃果はどうしてもという様子だった。
「別にいいぞ。食材は昨日のうちに買いだめしておいたから」
穂乃果の様子を見てカケルは仕方がないとばかりに許可をする。
「本当!?やった~!ありがとう」
穂乃果は許可をもらえ大喜びだった。
「でも少し時間を置いてから来てくれ。色々と準備があるからな」
カケルは穂乃果に念押しをした。
「うん!わかった!ちなみに部屋番号は?」
「102だ」
「じゃあ着替えてからいくね」
穂乃果がそういうと奥の方から妹:雪穂がやってきた。
「どうしたの?誰か来てるの?」
雪穂はそう言いながら売り場まで来るとカケルの姿を確認する。
「お姉ちゃん。その人は?」
「ああ雪穂。クラスメイトの蔵原走君だよ。カケル君、紹介するね。この子は私の2歳年下の妹の雪穂だよ」
雪穂に訊ねられると穂乃果はそれぞれ紹介する。
「よろしく」
「よ、よろしくお願いします」
カケルが声をかけると雪穂はお辞儀を返す。
「私これからね、カケル君の家に遊びに行くんだ~」
穂乃果は得意げになりながら言う。
「ええっ!?これから!?」
雪穂が驚いて訊ねる。
「うん!カケル君がご飯ごちそうしてくれるんだ!じゃあカケル君!ちょっと準備してくるね~」
穂乃果は鼻唄を歌いながら奥へと入っていく。
「うちの娘がごめんなさいね」
瑞穂が申し訳なさそうに言う。
「いいえ。もう慣れましたから。それじゃあ自分も失礼します」
カケルは店を出ようとすると、瑞穂が呼び止めた。
「待ってカケル君。よかったらこれ持ってって」
瑞穂はカケルに小さい被せ蓋の箱を渡す。
「今ちょうどお父さんが作り上げたお饅頭よ。よかったら食後に二人で食べてね」
「えっ?でもいいんですか?せっかく作ったものを」
「いいのいいの。お父さんすっかりカケル君のこと気に入ったみたいだから」
瑞穂がそう言うと、健作が厨房の方から軽く会釈する。
「ありがとうございます!」
カケルは穂乃果の両親に頭を下げながら感謝の言葉をかける。
「それと、穂乃果のことよろしくお願いします」
「はい。失礼します」
カケルはそう言うと店を後にする。
「お、お姉ちゃんが男の人を連れてくるなんて!しかもこれから家にいくなんて!」
カケルが店を出てから、雪穂は驚きの声を上げる。
「あら、彼とってもいい子だったわよ。これから彼と二人っきり・・・あの子たちの将来が楽しみね~ウフフフ」
瑞穂は少し不気味にニヤニヤとほくそ笑んでいた。
カケルは自分の家に戻ると、部屋の中を整理し始めた。といっても基本部屋はきれいに整頓されているのであまりやることはなかった。
(しかしまさか、こんなに近くに住んでいたなんてな。他にかたずけるものは・・・)
カケルは自分の部屋をチェックしていると、ある物を見て動きを止める。
それは壁に掛けられている、全国大会で優勝した時の写真と賞状だった。
(いくら友達とはいっても、やっぱり過去のことは話したくない)
カケルはそう思いながら、それらを壁から外しクローゼットの中へしまい込んだ。
「やっべ、俺まだ制服のままだ。これから穂乃果が来るんだから早く着替えなきゃ」
カケルは慌てて制服を脱ぎパンツ一丁の状態となる。そして部屋着用のジャージを着ようとしたその瞬間・・
「カケルく~ん!お邪魔しま~す!」
穂乃果がいきなり鍵のかかっていない玄関のドアを開けてしまった。
「あ・・・・」
カケルはパンツ一丁の状態を目の当たりにされ硬直してしまう。
「キャーーー!!変態ーーー!!」
「本当にごめんなさい・・・」
「まったく、ちゃんとノックぐらいしろよ。そうでなくともチャイムだってあるだろう」
「はい・・・気を付けます・・・」
あの時穂乃果が叫んだことにより、アパートの住人たちが何事かと騒ぎ立てる事態になってしまったのだった。
なんとか誤解が解け、穂乃果は完全に自分に落ち度があったと自覚し、部屋の中でカケルに頭を下げていた。
そんな中、穂乃果は先程目にしたカケルの姿を思い出してしまう。
(でもなんか、思ったよりいい身体つきだったなぁ・・・は!私ったら何を考えてるの///)
「じゃあ俺、夕食つくるからテレビでも見て待っててくれ」
「うん、ありがとう」
カケルはそう言うとキッチンへと向かい、穂乃果はカケルが座布団代わりにひいてくれた敷布団に座りながらテレビを見始めた。
カケルは冷蔵庫から材料を取り出すと、早速慣れた手つきで夕食を作り始める。
まず、もやしの芽と根を取りピーマンを縦に細切りにする。
そしてフライパンにサラダ油を熱し、もやしを少し炒めてから、ざるにあけて水気を切り、次に豚肉を炒め始める。
(こんなふうに誰かに料理を作ってあげるなんて初めてだ。なんか気合い入ってくるな)
カケルは穂乃果の方をチラリと見ると、さらに料理の手を早めていった。
「穂乃果、おまたせ!」
やがて夕食を作り終え、穂乃果のいる奥の部屋へと運ぶ。
「待ってました!もうお腹ペコペコだよ~」
カケルが座卓の上に料理を並べていくと、穂乃果は目を輝かせながら料理を眺めている。
「うわぁ~美味しそう~」
今日の献立は、ごはん・もやしとピーマンの肉野菜炒め・キャベツときゅうりとトマトのサラダ・ひじき・豆腐とわかめの味噌汁と、アスリートらしく栄養バランスを考えたメニューである。
「口に合うといいけど」
「ありがとう!それじゃあいただきま~す!」
穂乃果は早速料理を食べ始める。
「おいしい!これすごくおいしいよ!」
「そうか?よかった」
穂乃果は本当に美味しそうに食べており、カケルは初めて他人から自分の料理を褒められうれしい気持ちになった。
「さあ、カケル君も一緒に食べようよ」
「ああ。そうだな」
カケルは自分の分を用意すると、座卓で穂乃果と一緒に食べ始めた。
「カケル君ってすごいよね。足も速いし料理も上手だし、まさに完璧超人って感じだよね」
「いやそんな、それほどでもないって」
「でもカケル君は、どうして一人暮らしなんて始めたの?」
「えっ?」
「だって、こんなふうに料理作ったりとか洗濯とか掃除とか何もかも自分でやらなきゃいけないから、とっても大変だと思うけど」
カケルは少し表情を曇らせるが、すぐに返事を返す。
「は、早いうちから独り立ちをしたいって思ってたんだよ。いずれ東京に出たいって思ってたから今のうちに慣れておきたいなって・・・それに家事だって、もうすっかり慣れたから大丈夫だよ」
「でも、お父さんやお母さん心配してなかった?」
「・・・そんなことないよ。お前の道はお前自身で決めろって、特に反対することなく送り出してくれたよ」
「ふ~ん」
穂乃果はそれ以上追及はしてこなかったが、カケルは早くこの話題を終わらせたかった。
「それより穂乃果。スクールアイドルの活動についてだが、次の手は考えてあるのか?」
「うん。実は考えたんだけど、学校の講堂でライブをやろうと思うの」
カケルが訊ねると穂乃果が元気よく答える。
「ライブ!?」
「そう。講堂は部活をやっていなくても、生徒会の許可をもらえれば使用できるらしいから、明日生徒会にお願いしてみようと思うの」
「また生徒会に行くのか。あの生徒会長は許してくれるだろうか?」
「とにかく必死に頼んでみるよ。絶対やってやるんだから」
「それで、ライブはいつやるつもりなんだ?」
「今月末の新入生歓迎期間内にやろうと思うの」
新入生歓迎期間。それは4月末に一週間程の期間で新入生を対象とした各部活の勧誘や紹介などが行われる期間である。穂乃果はその期間のどれか1日にライブを行おうと提案した。
「なるほどな。お前にしてはよく考えてるじゃないか」
「ちょっと~、穂乃果にしてはってどういう意味?」
「とにかく、それまでに決めなきゃならないことはいっぱいあるんだから、しっかりやるんだぞ」
「うん!頑張るよ!」
カケルに喝をいれられ、穂乃果は再びやる気に満ちていた。
やがて二人は夕食を食べ終わり、カケルは食器の後片付けを始めた。
穂乃果は部屋を色々と見回していると、テレビ台の下にゲーム機があるのに気付いた。
「あ、これwiiUだ!カケル君も持ってたんだ」
「ん?ああ、暇つぶしにと思って買ったんだ。ソフトは一つしかないけど」
カケルはキッチンから顔をのぞかせて答える。
穂乃果は今度はゲーム機の隣にあるディスクのパックを見つける。
「あ!マ〇オカートだ!このゲーム私も好きだよ!ねえねえカケル君!穂乃果と勝負しようよ!」
「いいぞ。食器洗いが終わったらな」
「よっしゃー!また俺の勝ちだ!」
「わぁっ!また負けちゃった~」
二人は対戦ゲームを始め、カケルの3戦3勝という状態だった。
「む~何でこんなに負けるの~」
穂乃果は負けた悔しさで頬を膨らませながら唸る。
「穂乃果もミニターボ使えばいいじゃないか」
「ミニターボって何?」
「えっ?このゲーム好きなくせに知らないのかよ?」
「あ、あははは~」
「まったく、いいか?ミニターボはこのボタンを押しながらスティックをこうやって・・・」
カケルは操作方法を教えた際に、つい穂乃果の手を取ってしまい顔を赤くしてしまう。
(やべえ。女の子の手を握っちまった。それにしてもきれいな手だな。って何考えてんだ俺は)
「よかった・・」
「えっ?」
「カケル君とっても楽しそう。やっと笑ってくれたって思って」
「・・・///」
「さあ!もう一勝負だよ!今度は負けないからね!」
二人はそれからしばらくゲームで遊び続けた。
そしてやがて9時半となり、穂乃果は家に帰ることにした。
「今日は本当にありがとうカケル君!」
「こっちこそ、今日は楽しかったよ」
「じゃあまた明日ね!」
穂乃果はそう言って、玄関を出て家へと帰っていった。
穂乃果を見送った後、カケルは思った。
今日は穂乃果と過ごせて本当に楽しかった。ご家族も本当にいい人たちだった。こんな気持ちになれたのいつ以来だろう。
それにホントにいい笑顔だったなあいつ。これからも俺は、あいつの笑顔を守ってやりたい。
穂乃果の両親の名前は自分が勝手に考えさせていただきました(笑)