スクールアイドルを結成した翌日、学校が始まる前の朝カケルたち6人はこれから生徒会室へと向かうところだった。
「一体どうするつもりなんですか?」
海未が穂乃果に訊ねる。
「実はね、私たち3人で講堂で初ライブをやろうと思うんだ」
「そのために今度の新入生歓迎期間内に講堂を使わせてもらえないか生徒会に頼みに行くんだ」
穂乃果とカケルが説明する。
「へえ~、早速やることにしたんだね」
「楽しみデスネ」
高志とムサがわくわくした様子で言う。
「昨日カケル君と話し合って決めたんだよね~」
「いや、ほとんどお前がどんどん決めてただろうが」
「待ってください!何を勝手に決めてるんですか!?それに、二人で話し合ったってどういうことですか!?」
海未が突然血相を変えて穂乃果に詰め寄る。
そして穂乃果は昨日カケルのアパートにお邪魔したことをみんなに話した。
「一人暮らし!?すごいなぁ」
「へぇ~そんな近くに住んでたなんて。今度ことりも遊びに行きたいなぁ」
「ワタシもぜひ行ってみたいデス」
話を聞くと高志・ことり・ムサが順に話す。
「別にいいけど、狭いし何もない所だぞ」
興味津々な3人にカケルは返事を返す。
同時に、新しく座布団をいっぱい買っておこうと思った。
「カケル・・あなたまさか穂乃果に何か余計な入れ知恵をしたんじゃないでしょうね」
「い、いや・・何も言ってないって」
カケルは海未にキッと睨まれながら詰問され、その迫力にたじろきながら答える。
「とにかく善は急げって言うじゃない!みんな行くよ!」
「でも、まだできるかどうか分からないよ」
「え~、やるよ~」
「待ってください。まだステージに立つとは言っていません」
「まあまあみんな」
「皆さん落ち着いてクダサイ」
穂乃果と海未とことりが言い争いを始めてしまい、高志とムサが仲裁に入る。
「ごちゃごちゃ言ってないで、早く行くぞ!」
その様子を見ていたカケルがみんなに発破をかける。
「そうだね。行こう!」
こうして一同はカケルと穂乃果を筆頭に生徒会室へと向かう。
「はぁ・・仕方ないですね」
海未は観念したように呟きながら後に続いた。
(なんかカケル、ずいぶん積極的だな)
高志はカケルの後ろ姿を見ながら思った。
◎生徒会室◎
6人は生徒会室を訪れ、生徒会長の絢瀬の元へ講堂使用の申請書を提出した。
「何をするつもり?」
「ライブです!私たち3人で新入生歓迎期間内に講堂で初ライブをやることにしました!」
絢瀬に問われると穂乃果ははっきりと答える。
「新入生歓迎期間までそれほど日はないけど、準備は出来てるの?」
「そ、それはこれからやるとこです」
「そんな状態で本当に出来るの?新入生歓迎会は遊びじゃないのよ」
絢瀬はきつい口調で穂乃果たちに問い詰める。
「まあまあ、彼女たちは講堂の使用許可をもらいに来ただけなんやし、生徒会が内容まで聞く権利なんて無いやろ」
副会長の東條が絢瀬をなだめる。
「それと、君たちは?」
東條は今度はカケル・高志・ムサに声を掛ける。
「僕らは彼女たちのサポートです」
高志が代表して答える。
「転校生の蔵原走君に、ケニア人生徒のムサ・カマラ君。そしてあなたは、杉山高志君でええんかな?3人とも男子駅伝部に所属しておるやろ?」
東條が3人を順番に見つめながら言う。
「どうしてそれを?」
カケルは思わず聞いてしまう。
「ウチら生徒会は部活動の部員名簿を預かっとるから、もしかしたらと思ったんよ」
東條の答えを聞きカケルは、ああなるほど、と納得した。
「それで男子駅伝部がなぜ彼女たちのサポートをしているの?」
絢瀬がカケルたち3人に訊ねる。
「同じクラスメイトとして何か力になりたいと思ったんです。みんなこの学校が好きだから、じっとしていられなかったんです。どうか、彼女たちに活動の機会を与えてあげてください。僕たちからもお願いします!」
「「お願いします!」」
高志が頭を下げてお願いし、カケルとムサも続いた。
「「「お願いします!」」」
穂乃果・海未・ことりも絢瀬と東條に頭を下げて懇願する。
「わかった。じゃあ27日の木曜日でええかな。その日だったら都合がええから」
東條が日程を指定し正式に許可を出した。
「わかりました!ありがとうございます!」
穂乃果が目を輝かせながらお礼を述べ、全員再び一礼をした。
「「「「失礼しました!」」」」
6人は生徒会室を後にする。
「やったー!これでライブができるよー!」
穂乃果は許可を貰えた嬉しさで、両手を広げて辺りを駆け回った。
「よかったデスネ、皆さん」
「うん。本当によかったよ」
ムサとことりが言う。
「高志の説得のおかげですね。ありがとうございました」
「いや、礼には及ばないよ」
高志は海未に感謝され照れながら答える。
「安心するのはまだ早いぞ。生徒会長も言ってたように、新入生歓迎期間までそんなに日がないんだ。早く準備に取り掛からないと間に合わなくなるぞ」
カケルがみんなに声を掛ける。
「カケルの言う通りだね。やることはたくさんあるんだから、みんなで話し合って決めることを決めよう」
「皆さんで力を合わせれば、きっと大丈夫デス」
「「「はい!」」」
高志とムサも声を掛け、穂乃果・海未・ことりは元気よく返事をする。
一同は教室へ向かうが、途中カケルが壁に貼られている物に気付いて足を止めた。
それは、男子駅伝部の部員募集のポスターだった。
「ああそれ、俺たちが作ったポスターだよ。部員を集めるために、春休みの時から作ってたんだ」
ポスターを見ているカケルに高志が説明する。
(こんなの貼ってたんだ。今まで気づかなかったな)
カケルはそう思いながらポスターを眺め続けた。
そのポスターには、『男子が活躍できる舞台!みんなで一緒に高校駅伝を目指そう!』と書かれており、部員一人一人の走っている姿の画像が載せられていた。
「なになに?あ、駅伝部のポスターだ」
「皆さんとても格好良く写ってますね」
ことり・海未・穂乃果も興味津々でポスターを眺める。
「このポスターのおかげで、ジョータとジョージが入ってきてくれたんだよ」
「えっ?そうなのか?」
「うん。この前言ってたんだ。『男子が活躍できる舞台って響きに憧れました。これならきっと女の子にもモテます』ってね」
「そ、そうか・・」
高志の説明を聞きカケルは少し苦笑いをする。
「よーし、私たちもこういう宣伝用のポスター作らないと」
「気が早すぎます。他に早く決めなきゃならないことがあるでしょう」
はりきって宣言する穂乃果を海未が咎める。
カケルはみんなの様子を見て少し微笑しながら思った。
なんか変な感じだ。この音ノ木坂学院で出会ったみんなは、俺が今まで会ってきた人とは何か違う・・
一方生徒会室では、絢瀬と東條が溜まっている書類の処理を行っていた。
絢瀬は先程のことがまだ頭から離れずにいた。
「なぜ、希はあの子たちの味方をするの?」
絢瀬が東條に直接問いただす。
「何度やっても、カードがそうしろってウチに言うんや」
東條は手に持っているタロットカードの束を眺めながら言う。
カードの束を机に置くと、窓辺に近づき窓を全開に開ける。
「うわっ!」
すると突然ものすごい風が部屋の中へと吹き荒れ、絢瀬は思わず両腕で顔を覆い、机の上の書類や東條のタロットカードの束が散らばった。
「カードがウチにそう告げるんや!」
東條は両手を広げ、窓の外を見つめながら力強く言った。
壁にはタロットカードの1枚が正位置の状態で張り付いていた。
そのカードは太陽の絵が描かれた「THE SUN」というカードだ。
正位置の「太陽」のタロットカードには、成功や満足が目前に迫っているという意味が込められている。
東條のその姿はまさに占い師そのもののようだった。
そして彼女は空を見つめながら心の中で呟いた。
彼女たちはきっと、この音ノ木坂学院の未来を変えられる。
いや、彼女たちだけじゃない。彼らも・・・
特にあの、蔵原走君。
彼こそが、運命を変えられる大きなキーカードかもしれんな・・・
◎教室◎
午前の授業が終わって昼休みとなり、6人はこれからのアイドル活動について話し合うために集まった。
「見て見て~、ステージ衣装を考えてみたの」
ことりはそう言って、みんなに自分のノートを広げて見せた。
そこには、ことりが考えたアイドル衣装の絵が描かれていた。
「うわぁ~、かわいい」
「うん、いい衣装だと思うよ」
「ハイ。とても素敵デス」
「えへへ、ありがとう」
穂乃果・高志・ムサが絶賛し、ことりは照れながらお礼を言う。
へぇ~よく描けてるなぁ~、と思いながらカケルも絵を眺めた。
「あ、あの・・・ことり」
すると海未がモジモジしながら声を掛ける。
「こ・・このスカートからスゥーッと伸びているものは」
「脚だよ 」
「この短いスカートに素足になれと言うのですか?」
「だってアイドルだもん」
ことりに告げられると、海未は更に顔を赤くして俯いてしまう。
その様子を見てカケルは、恥ずかしがり屋なんだな、と思った。
「海未ちゃん、大丈夫?」
ずっと俯いてる海未に高志が声を掛ける。
「大丈夫だよ海未ちゃん。海未ちゃんの脚、全然太くないよ」
「穂乃果も人のこと言えるのですか?///」
穂乃果はなんとかフォローしようとしたが逆に言い返されてしまう。
そして穂乃果は自分の脚をスカートの裾を少しまくりながら触って確かめ始めた。
(男子のいる前で何堂々とやってるんだよ///)
・・と思いながらカケルは慌てて顔を反らした。
「う~ん、よしダイエットだ」
「わ・・私は・・う~ん///」
穂乃果は少し悩んだ末に宣言し、海未はまだ自信なさげな様子で自分の脚や体型を気にしていた。
「二人とも大丈夫デスヨ」
そんな二人にムサが声を掛ける。
「二人とも、今のままでもとってもカワイイですよ。どうか自分に自信を持ってクダサイ」
「ありがとうムサ君」
「あ、ありがとうございます」
ムサの言葉を聞き二人とも嬉しそうな表情になった。
「それよりも、まず先に決めなきゃならないことがあるだろう」
カケルがみんなに声を掛ける。
「ん?なになに?」
穂乃果が訊ねる。
「グループの名前だよ」
カケルの言葉で全員がハッとした。
◎中庭◎
6人は中庭のテーブルに移動し、昼食を食べながら色々と案を出し合っていくがなかなか決まらない。
出てきた案としては、穂乃果を陸軍、海未を海軍、ことりを空軍とイメージした「陸海空」だったり、他にも「音ノ木レインボー」「O-GIRLS」「頑丈3姉妹」などが浮かんだが、どれも却下となった。
「なかなか決まらないね」
「君たち3人に何か共通の特徴があればいいんだけど」
「ですが、3人とも性格はバラバラですからね」
「よ~し、いい方法を思いついた」
ことり・高志・海未が考えあぐねていると、穂乃果が閃いたようだった。
放課後になると、穂乃果を筆頭に6人は学校の掲示板の前に来た。
そして、穂乃果は自分で作ったグループ名募集の貼り紙を貼りその前に目安箱を置いた。
穂乃果が考えた方法とは、グループの名前を生徒に呼びかけて募集しようということだった。
丸投げかよ、とカケルは心の中でツッコんだ。
「こっちのほうがみんな興味持ってくれそうだし」
穂乃果がわくわくした様子で考えを述べた。
「まあ、いいアイデアかもね」
「いい名前、来てくれるといいけど」
高志・ことりが言う。
6人はいい投稿が来ることを願いながらその場を後にし、カケル・高志・ムサは駅伝部の部室へと向かった。
◎男子駅伝部:部室◎
部員たちは全員着替えと身支度を終え、これから練習に向かおうとしていた。
ユキが給水用のボトル等が入った籠を持ち上げた。
「あ、俺持ちますよ」
「いいって。そこまで気を使わなくても大丈夫だ」
自分が持つと声を掛けるカケルをユキが制止する。
(この上下関係の緩さは未だに慣れないな)
とカケルは思った。
「ハイジさん。せっかくこうして部活を始めたわけですし、大会とかないんですか?」
ジョータがハイジに訊ねる。
「あるよ。記録会や競技会といったトラックレースの大会がね。出たいか?」
「もちろんですよ。やるからには目標が欲しいですし」
ハイジに問われ、ジョータはやる気になっていた。
「うむ・・実はあるんだよ。ちょうどみんなにも話そうと思ってたんだ。みんな聞いてくれ!」
ハイジが全部員に呼びかける。
「来週の日曜日に、東京体育大学で記録会がある。その記録会の5000mに全員エントリーしておいた」
「マジッすか?もうすぐじゃないですか」
「まあ、今月末にはインターハイの地区予選も始まるから肩慣らしにはちょうどいいかもな」
「やったー試合だー」
「ワタシもやる気になってきマシタ」
ハイジからの連絡を聞き、みんな記録会に向け俄然やる気になっていた。
その中でカケルはふと思った。
記録会。そこにはいろんな高校・大学・社会人の選手が集まってくる。
俺が前にいた高校の駅伝部も・・・
その時あいつらは何て言うだろう・・・
カケルはそんな不安な気持ちを抱えながら、みんなと共に練習へと向かっていった。