9人の女神と9人の戦士 ~絆の物語~   作:アイスブルー

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第16路 記録会と再会(後編)

「蔵原、この試合で教えてやるよ。お前は・・・道を間違えたんだってな」

 

 

 

「・・・!!」

 

 

 

 

 

 

5000m第25組目のスタートの号砲が鳴り響き、各選手が一斉に飛び出した。

 

 

 

しかしカケルは先頭集団には付いていけず後方の位置になった。

 

 

さらにその後ろにハイジがいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

やべっ!久々のレースですっかり勘が鈍ってる・・・

 

 

しょっぱなから出遅れてる場合じゃないぞ

 

 

 

 

 

 

 

一方榊は先頭集団の中にいた。

 

 

そしてちらりと後方にいる蔵原を振り返った。

 

 

 

 

(おいおい寝ぼけてんのか?蔵原。船橋第一を離れてたるんじまったのか?)

 

 

 

 

 

 

 

 

音ノ木坂駅伝部はコースの外側で見守っていた。

 

 

 

「カケルさんにハイジさん、大丈夫っすかね?」

 

 

ジョータがレースを見て心配そうに言う。

 

 

 

「つーかあのチビ速いな」

 

 

「身長が低くストライドが足りない分、ピッチで押していく走りだな。なんにせよ、速いぞありゃ」

 

 

平田とユキが榊を見ながら言った。

 

 

 

 

 

 

ハイジは先頭集団についていけないカケルの様子を見ながら走っていた。

 

 

 

(大丈夫かカケル・・・久々のレースで調子が上がらないようだが・・・)

 

 

 

 

 

カケルは現在第2集団についていた。しかし、まだ2000mも過ぎていないのにすでに表情が険しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・」

 

 

 

 

カケルはきっと、この道を選んだことに後悔はしていない。

 

 

悪いことはしたと思っても、選んだ道を間違ったとは思っていないだろう。

 

 

 

でも・・・万が一・・・ちょっと後悔するようなことがあったら・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

集団のペースが上がった。

 

 

カケルは現在ついている第2集団からもこぼれ落ちそうになっていた。

 

 

 

集団の中にいる船橋第一の選手たちがちらりとカケルを振り返った。

 

 

 

(この程度かよ、蔵原)

 

 

(落ちるとこまで落ちたじゃねえか)

 

 

(14分一桁なんてまぐれだったんだろ)

 

 

 

 

(((蔵原走も終わったな)))

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

 

 

 

「やっぱりカケルさん何か変ですよ!」

 

 

「カケル・・・」

 

 

「このままじゃ第2集団からもこぼれ落ちちゃうよ」

 

 

ジョージ・ムサ・高志が心配そうにカケルの様子を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

榊はしっかりと第1集団の中にいる。

 

 

再び榊はカケルを振り返る。

 

 

 

 

 

 

未だにお前は俺のこと格下だと思ってんだろ。でも、俺はお前よりずっと努力してきてるんだ。

 

 

お前みたいにふざけた奴には、絶対負けねえ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか蔵原がまだ走っていたなんてな・・・」

 

 

ゴール地点付近で松平と共にタイム計測をしている古賀が呟いた。

 

 

 

 

「蔵原って、2年前の全日中で1500と3000で優勝して、その実績を引っ提げて船橋第一にスポーツ推薦入学して、そしてあの事件を起こして退部して転校したんだろう?それほどの実力者という走りには見えないが・・・」

 

 

松平が言った。

 

 

 

「こればっかりは、あいつと練習を共にした奴じゃないと分からないですよ。こんなもんじゃないんですよ。蔵原走って奴は」

 

 

 

 

 

 

 

 

先頭は3000mを通過しようとしていた。

 

 

 

 

「ホラ榊!しっかりついてけ!」

 

 

「67、68、69!」

 

 

古賀と松平が榊に声を掛ける。

 

 

 

先頭は3000mを8分42秒で通過した。

 

 

 

 

 

「はぁ・・は・・は・・」

 

 

少し遅れてカケル、そしてハイジが通過した。

 

 

 

 

 

「なあ古賀。蔵原は一体どんな奴だったんだ?」

 

 

松平が訊ねる。

 

 

 

「ただ純粋に走りたい。そう至極まっとうかつ単純に考える奴でした」

 

 

古賀が説明する。

 

 

 

「でも部活もひとつの社会ですから、裏を返せばただの自己中にもなりますよね」

 

 

「確かに、速い奴は敵対心バリバリになる、勝てない奴はやっかみからひやかしに回る。あんなのがそばにいたら嫌でも意識するだろうな」

 

 

 

松平は榊を見つめながら呟く。

 

 

「寮も学年も一緒なら尚更な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蔵原はこれで終わるような奴じゃない。あいつと一緒にいたのは1年足らずだったが俺には分かる!

 

 

 

榊はまだ第1集団につきながらカケルを意識する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~半年前~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

千葉県内のとある陸上競技場で競技会が行われており、船橋第一高校駅伝部が出場していた。

 

 

現在5000mが行われており、その組のほとんどが船橋第一の選手だった。

 

 

その中には当時1年のカケルと榊もいる。

 

 

 

 

 

 

「ホレエ3年!!しっかり引っ張らんかい!!」

 

 

当時の監督の檄が飛んだ。

 

 

 

すると集団から榊が飛び出し始めた。

 

 

 

 

 

(おいおい榊!設定より速えよ!俺たちは練習で来てるんだぞ!)

 

 

(やめてくれ~)

 

 

 

他の部員たちが心の中で叫ぶ。

 

 

 

 

しかしカケルがさらに速いペースで集団から抜け出し、あっという間に榊を追い抜いて行った。

 

 

 

「・・・!!」

 

 

 

 

「いいぞ蔵原!!そのままラストまで上げろ!!」

 

 

再び監督の声がする。

 

 

 

 

(またかよ蔵原!設定オーバーしやがって!)

 

 

(完全に俺たちのこと、置いてく勢いじゃねえか!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【レース後】

 

 

 

「どこにいるんだ?蔵原の奴・・」

 

 

榊がぼやきながら一人でダウンジョッグをしながらカケルを探す。

 

 

「・・・!」

 

 

すると一人でストレッチをしているカケルを見つけた。

 

 

カケルも榊に気付く。

 

 

 

 

「何してんだ?」

 

 

「ストレッチだよ。見りゃわかんだろ」

 

 

榊が訊ねるとカケルがドライに返す。

 

 

 

 

「つーかさ、今日の記録会は設定ペースで走る練習で来たんだぞ。いくら監督が大目に見てるからって、集団をひっかきまわすのやめてくれよ」

 

 

榊が言う。

 

 

 

「・・・ついてこれねえなら、別に無理しなくてもいいんだぞ」

 

 

 

カケルの返答に榊はむかっ腹が立ってきた。

 

 

 

「監督が来いってよ!!今伝えたぞ!!」

 

 

そういって榊はカケルの下を後にする。

 

 

そして歩きながら心の中でぼやく。

 

 

 

 

 

(くそ~ムカつくぜ!俺の方がスゲー努力してんだぞ!朝は誰よりも早く起きて走り始めるし、先月だって部内で一番長く走ったんだ!・・・)

 

 

榊はちらりとカケルを振り返る。

 

 

(まあ、あいつもあいつなりに努力してんのは分かるけど、全然変わらないんだよな・・・)

 

 

 

 

何なんだ・・・この温度差は・・・

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

走るのは苦しい。長距離は努力の連続だ。

 

 

 

とにかく走って走って、苦しいのを我慢して我慢して

 

 

 

 

ある日俺は蔵原にこんなことを聞いたことがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なあ蔵原』

 

 

『なんだ?』

 

 

『お前、走るの嫌になったこととかないのか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・ねえよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あいつははっきりとそう言いやがった。

 

 

 

俺はある。メチャクチャある。

 

 

 

初めてキツい距離錬をやった夏の時とか、故障でロクに走れなかった時とか、何やっても調子上がらなかった時とか。

 

 

 

 

 

でもそれらを乗り越えて努力していた時、あいつはいつも俺の前を走っていた。

 

 

努力なんて当たり前って顔をしながら。

 

 

 

 

お前と出会って、俺は死ぬほど思い知らされた。

 

 

 

 

俺は天才なんかじゃないって・・・

 

 

 

 

 

 

 

それでも何で俺は走り続けると思う?

 

 

 

それは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

蔵原!!お前に勝つためだ!!

 

 

 

 

 

 

お前を超えるまで、俺はどこまででも追い続けてやる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ・・はっ・・はぁ・・」

 

 

 

カケルはついに第2集団からもポロリとこぼれ落ちてしまった。

 

 

相変わらず苦しい走りが続いている。

 

 

 

 

(ダメだ今日は・・・これ以上行ける気がしない・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この試合で教えてやるよ。お前は道を間違えたんだってな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もし俺がこのまま負けたとしたら

 

 

 

 

俺が間違っていたことになる・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~2年前~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

【全国中学駅伝:県予選】

 

 

 

 

『船橋北中、1位通過!』

 

 

 

カケルは走り終え、次の走者に襷を渡したところだった。

 

 

そこへチームメイトが声を掛ける。

 

 

 

 

 

「蔵原。お前もっと走れただろ。後続と差が詰まってたし。全日中とジュニアオリンピックの覇者なら、しっかり仕事しろよ」

 

 

 

「・・・」

 

 

 

 

 

結局チームは逆転され、全国中学駅伝の出場を逃した。

 

 

 

 

 

 

【2週間後】

 

 

 

カケルはとある競技会の3000mに出場し、トップでフィニッシュした。

 

 

 

「蔵原!8分21秒」

 

 

マネージャーがタイムを計測した。カケルが出したタイムは中学歴代2位という好タイムだった。

 

 

 

県予選から一転し好走を見せたことで、他の部員たちは驚愕の表情で眺めていた。

 

 

 

 

 

 

【レース後】

 

 

 

カケルが一人でストレッチをしていると、5人ほどのチームメイトが怒りの形相でカケルに詰め寄った。

 

 

 

 

「おい蔵原!!お前今日に調子合わせるためにこの間の予選、手抜いたんだろう!!」

 

 

「お前がしっかり走ってりゃあ予選突破できたかもしれねえのによ!!」

 

 

チームメイトが声を荒げる。

 

 

 

 

「文句あるんだったら別の奴が走ればよかっただろ」

 

 

カケルが返す。

 

 

 

 

「俺、今故障中」

 

 

「俺は補欠だ」

 

 

 

「知ってるぞ。お前補強やストレッチ面倒臭がって真剣にやってねえから故障するんだよ。お前も、補欠が嫌ならもっと練習でやる気見せろ。そんなんじゃ、いつまでたっても速くなれねえぞ」

 

 

チームメイトたちの返答にカケルはもっともな意見を返すが、逆にチームメイトの琴線に触れたようだった。

 

 

 

 

「・・・ちょっと速いからって、自分が全部正しいみたいな言い方すんじゃねえぞ」

 

 

「・・・!!俺は間違ったことなんて言ってねえだろ!」

 

 

「超人には俺らの気持ちなんて分かんねえだろうな!」

 

 

 

 

「俺たちはお前と違って完璧には出来ねえんだよ!!人間だから!!」

 

 

 

 

チームメイトは次々とカケルに当たり散らす。

 

 

そしてカケルの方も怒りが沸き上がってきた。

 

 

 

 

「・・・それで何か?俺はお前らや監督の道具ってわけか?それなら俺も言わしてもらうけどなあ」

 

 

「「「!?」」」

 

 

 

 

 

 

「俺はお前らのために走ろうなんて思ったことねえから」

 

 

 

 

「「「!!」」」

 

 

 

 

「言ったなこの野郎!!!」

 

 

 

ドカッ!!

 

 

 

チームメイトの一人がカケルに殴りかかる。

 

 

 

「お、おい高田!・・・」

 

 

 

 

「ああ!!何度でも言ってやるぞおらぁ!!」

 

 

バシッ!!

 

 

そしてカケルも殴り返し、ついに二人による乱闘騒ぎとなってしまった。

 

 

 

 

「落ち着け高田!!」

 

 

「やめろ蔵原!!」

 

 

 

「お前ら何やってるんだ!!」

 

 

 

他の部員たちと騒ぎを聞きつけた監督が止めに入る。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

お前らのために無理してでも走ってやろうなんて思わなかったよ。

 

 

お前らだってきっと同じだったんだろ。

 

 

俺たちは仲間なんかじゃなかった。

 

 

 

 

結局みんなとは分かり合えないまま中学を卒業し、県内一の駅伝名門校である船橋第一高校に入学した。

 

 

チームメイトとの仲は中学の時ほど悪いわけではなかったが、今度は監督とそりが合わなかった。

 

 

 

当時の監督は、徹底した選手管理とスパルタ練習法で有名だった。

 

 

また、時には選手に体罰もあたえるほどの厳格な監督だった。

 

 

 

俺は、結果を求めタイムの事ばかり口にするやり方が気に食わなかった。

 

 

 

時が経つに連れて鬱憤が溜まっていき、そしてついに

 

 

 

 

 

「あの事件」を起こしてしまった。

 

 

 

 

 

 

だから俺は一人を選んだ。俺は間違ったことをしたつもりはない。

 

 

 

 

 

負けるわけにはいかない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思っても、カケルの身体は言うことを聞かなくなっていた。

 

 

 

身体に力が入らず勢いがどんどん失われようとしていた。

 

 

 

 

 

 

だ、だめだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「カケル!!!」」」

 

 

「!?」

 

 

 

 

「カケルさん!あとちょっとですよ!」

 

 

「もっといけるだろカケル!こっからだ!」

 

 

「諦めちゃだめデスヨ!」

 

 

「「「がんばれカケル(さん)!!」」」

 

 

 

その時、駅伝部のみんなが大声でカケルを激励する。

 

 

 

その声を聞き、カケルは頬を赤らめる。

 

 

 

 

 

 

うわーーーーーみんないいって、俺の応援なんて。

 

 

今日こんな調子悪いのに・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『みんなはちゃんと君のことを受け入れてるんだ。君は紛れもなく、俺たちの仲間だ!』

 

 

 

 

 

 

 

そうだ。みんなはこんな俺のことを仲間として受け入れてくれた。だからあんなに応援してくれるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

『カケル君!ファイトだよ!』

 

 

『私も応援していますよ、カケル』

 

 

『頑張ってね、カケル君』

 

 

 

 

それに穂乃果・海未・ことりも・・・みんな・・・

 

 

 

 

 

 

勝たなきゃ!!応援してくれているみんなのためにも勝たなきゃ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カケルは残り4000mを通過し残り1000mとなった。

 

 

しかしトップとはすでに200m近く差がついている。

 

 

 

しかしカケルはペースを上げ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は・・はぁ・・は・・」

 

 

榊はすでに残り2周を切っていた。

 

 

 

 

 

(蔵原はどこだ?半周は離れたみたいだったが・・・)

 

 

 

 

まぁここまで来たらあいつも終わりだ。

 

 

 

今日こそ蔵原に勝てる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カケルも残り2周に差し掛かった。

 

 

 

「なあ古賀。見ろ。蔵原がペースを上げ始めたぞ。それに、さっきより余裕っぽくなったような・・」

 

 

カケルの走りを見て松平が呟く。

 

 

 

「榊は人一倍努力してますよ」

 

 

「えっ?」

 

 

古賀が言う。

 

 

 

「あいつはコツコツ毎日練習して、階段を一段一段昇るように着実にタイムを伸ばしてきました。逆に、長いこと停滞してると思ったら、ある日なぜかいきなり一気に何十段もすっ飛ばして伸びていく。それが蔵原なんです」

 

 

 

「・・・」

 

 

 

「榊・・このままじゃタイムでねえぞ。あと1周半だろ」

 

 

 

古賀はイライラしたように呟き、松平は再びカケルの走りを見る。

 

 

 

(えっ?さっきまで蔵原は第1集団とは半周ほど差があったのに、確実に・・・確実に縮まっている!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は・・はぁ・・はぁ・・」

 

 

カケルはペースを上げてから猛烈な追い上げを見せている。

 

 

 

 

なんか速さに乗れてきたぞ!

 

 

いつもの感覚に戻った感じだ!

 

 

 

 

 

 

そして最後の1周に差し掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

先頭集団がさっきより近くなっている。30mないな。

 

 

ゴールまでもつか?いいや、このまま逃がすか!

 

 

 

全部捕まえてやる!!

 

 

 

 

 

 

 

カケルはさらにギアを入れ替え前にいる選手を次々と抜き去っていった。

 

 

中には船橋第一の選手たちもいた。

 

 

抜かれた選手は驚愕の表情でカケルの走りを見た。

 

 

 

 

(ば、ばかな!!)

 

 

(蔵原、なんて奴だ!)

 

 

 

 

 

 

 

その時榊は背筋に悪寒を感じた。

 

 

 

ヤバい!この気配・・・奴が来る!!

 

 

大丈夫!このまま逃げ切れる!あと100m・・・

 

 

 

 

榊は最後の直線に入りラストスパートをかけた。

 

 

しかし残り50mに差し掛かった瞬間・・・

 

 

 

カケルが一気に抜き去っていったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

何でだ・・・あいつだって苦しいはずなのに・・・

 

 

何であんなに・・・楽しそうなんだよ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてカケルはフィニッシュラインを越えた。

 

 

 

周りの観衆は、カケルの追い上げにざわついていた。

 

 

 

 

やがて榊とハイジもフィニッシュした。

 

 

 

 

「ハイジさん、お疲れ様です」

 

 

カケルはフィニッシュしたハイジに声を掛ける。

 

 

 

「はあ・・はあ・・カケル。最後よく粘ったじゃないか」

 

 

「ええ。何とか」

 

 

 

 

二人は腰ゼッケンを返却するとゴール地点を後にしようとした。

 

 

すると二人の前に一人の男が立ちはだかっていた。

 

 

 

「・・・!?」

 

 

その男は、黒にオレンジが混ざったジャージを着ており長身でスキンヘッドという容姿だった。

 

 

 

「久しぶりだな、清瀬」

 

 

男が声を掛ける。

 

 

 

「・・・藤岡」

 

 

清瀬が呟く。

 

 

 

 

(えっ?この人、ハイジさんの知り合い?それにしても、この人からは並々ならぬ威圧感を感じる・・)

 

 

カケルは藤岡という男を見て思った。

 

 

 

 

「今日は流しただけなのか?」

 

 

「まあな」

 

 

「膝のほうはもういいのか?」

 

 

「まあそこそこさ」

 

 

藤岡とハイジはそれぞれ言葉を交わし合っていた。

 

 

その様子を見てカケルは思った。

 

 

 

(そういえば俺、ハイジさんのこと何も知らないよな・・・)

 

 

 

 

 

「藤岡の方こそ調子はどうなんだ?」

 

 

「良好だ。ゴールデンウィークに海外のレースへの招待が決まったんだ。今日はそのための予行演習に来た」

 

 

「相変わらずだな」

 

 

「清瀬。お前は今、走るの楽しいか?」

 

 

「・・・ああ。もちろんだ」

 

 

「フッお前も相変わらずだな」

 

 

 

 

 

「ハイジさん、この人は?」

 

 

カケルはついに藤岡について質問をする。

 

 

 

 

「蔵原走だな。2年前の全日中の1500mと3000mの覇者か」

 

 

藤岡がカケルを見つめながら口を開く。

 

 

 

 

「先ほどまでお前の走り見させてもらったが、見事なスパートだった。だが・・・」

 

 

「・・・?」

 

 

 

「何かから逃げるような走りに見えたな」

 

 

「なっ!?」

 

 

 

藤岡はそういうと振り返って立ち去ろうとした。

 

 

「まあそれは言い過ぎだな」

 

 

藤岡はピタリと足を止めてカケルの方を振り返りながら声を掛けた。

 

 

 

 

「強くなれ!!」

 

 

 

 

そして藤岡は去っていった。

 

 

 

 

 

 

「彼の名は藤岡一真。現在の高校駅伝の王者、長野県佐久清城高校のキャプテンでエース。今、高校陸上界最強の選手と言われている。俺の・・・中学時代のチームメイトだった奴だ」

 

 

ハイジはカケルに藤岡について説明する。

 

 

 

カケルは藤岡の後ろ姿を見つめながら先ほどのことを思い出していた。

 

 

 

 

 

『強くなれ!!』

 

 

 

『長距離選手にとって一番のほめ言葉ってなんだと思う?強いだよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方榊は、レースが終わり息を切らしており、古賀と松平が付き添っていた。

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

 

「ったく、お前と蔵原とじゃスプリントに差があるっつの」

 

 

古賀がボトルを渡しながら言う。

 

 

 

 

 

 

(くそ~あいつさえ戻ってこなければ・・・あいつのせいでいつも上手くいかな・・・・・・・)

 

 

 

バシイィッ!!

 

 

 

榊は自分の頬を片手で思い切り引っぱたいた。

 

 

(バカバカバカ!すぐそうやって蔵原のせいにする、俺の悪い癖だ!)

 

 

 

「っいでででで・・・叩き過ぎた・・・」

 

 

「何をやってるんだお前は?」

 

 

 

松平が呆れ顔で訊ねる。

 

 

 

 

 

 

(また明日から練習だ!見てろよ蔵原!今度は負けねえからな!)

 

 

 

榊は拳を握りしめて決意を新たにしていた。

 

 

 

 

「あいつはいつもああですよ。かわいいところあるでしょう」

 

 

「榊・・・」

 

 

古賀と松平が榊の様子を見ながら呟く。

 

 

 

 

 

「よっしゃーまずは船橋第一のエースになるぞー!!」

 

 

榊が声を張り上げた。

 

 

 

「でもすぐ調子に乗ります・・・」

 

 

「・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「カケル~!ハイジ~!」

 

 

「お疲れ様です!」

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 

古賀は声のする方を振り返った。

 

 

音ノ木坂学院駅伝部員がカケルとハイジを迎えに来ていたのだった。

 

 

 

 

 

(蔵原の周りに人が集まるなんて初めて見た。なんかあいつ、ちょっと変わったな・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音ノ木坂学院駅伝部員たちは、貼り出されている結果表でタイムを確認していた。

 

 

二人のタイムは以下の通りである。

 

 

 

 

 

カケル:14分39秒

 

 

ハイジ:14分58秒

 

 

 

ちなみに榊は、14分41秒だった。

 

 

カケルは最後の追い上げで組3着という順位だった。

 

 

 

 

 

 

「やっぱカケル先輩すげえ!」

 

 

「すごくはねえよ。周りが調子悪かったのに救われたな」

 

 

 

ジョージの言葉にカケルがドライに返す。

 

 

 

 

「でもいいよなぁ~14分台か」

 

 

「俺ももっと速くなれたらなぁ」

 

 

ジョータとジョージが期待に胸を膨らませている。

 

 

 

「よっしゃ、明後日からまた猛特訓だ!頑張ろうぜ!」

 

 

平田がみんなに檄を飛ばす。

 

 

 

 

 

 

(なれたらじゃなくて、なる!)

 

 

カケルも俄然やる気になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして駅伝部のみんなは最終の30組目のレースを見ていた。

 

 

最終組には、大学・社会人選手の日本トップクラスの選手がズラリと並び外国人選手もいるハイレベルな組だった。

 

 

その中には、先程カケルとハイジが会った藤岡もいた。

 

 

この組で高校生は藤岡と古賀のみであった。

 

 

 

レースは3人の外国人選手が引っ張るハイペースな展開となっていた。

 

 

「うおぉ!速えぇ!」

 

 

「すごいスピードデス」

 

 

 

駅伝部のみんなはそのレーススピードに圧倒されていた。

 

 

先頭集団の中には大学・社会人選手に交じって、高校生の藤岡もいた。

 

 

藤岡は上下オレンジで胸部には白字で「佐久清城」と書かれたユニフォームを着ている。

 

 

そして最後のスパートになっても、藤岡は果敢に外国人選手に最後までくらいついていった。

 

 

そして二人の外国人選手に競り勝ち、全体で2番目にフィニッシュした。

 

 

 

タイムは13分45秒

 

 

無駄のないキレのいいフォーム。レース展開を的確に読むクレバーな頭脳。そしてあのスタミナとスピード。

 

 

まさに圧倒的だった。

 

 

 

古賀は14分12秒でフィニッシュした。

 

 

 

「さすがだな、あいつ」

 

 

古賀は藤岡に対して呟いた。

 

 

 

 

 

カケルは藤岡の走りを見て思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

あれが高校最強の走り・・・全然次元が違う・・・

 

 

 

 

『強くなれ!!』

 

 

 

 

強いってどういうことだろう!?強くなったらあの走りに辿り着けるのか!?

 

 

 

俺もそこへ行きたい!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【翌日】

 

 

カケルは学校に到着した。

 

 

昨日試合があったため今日は駅伝部の朝練も放課後練もない完全休養となった。

 

 

それでもカケルは独自に朝ジョグは行ってきた。

 

 

 

(さすがに疲れたな~。今日はゆっくり休むか)

 

 

 

そう思いながら教室に入ると

 

 

 

「おはよう!カケル君!」

 

 

「おはようございます、カケル」

 

 

「おはようカケル君」

 

 

「おはようカケル」

 

 

「おはようございマス、カケル」

 

 

穂乃果・海未・ことり・高志・ムサがそれぞれ挨拶を交わしてきた。

 

 

 

「ああ、みんなおはよう」

 

 

カケルも挨拶を返した。

 

 

 

「カケル君。昨日は試合お疲れさま」

 

 

「聞きましたよカケル。昨日の試合では見事な追い上げを見せ、3着になったんですよね」

 

 

「ああ。まあな」

 

 

穂乃果と海未にカケルは返事を返す。

 

 

「ことりも見に行ってみたかったなぁ~」

 

 

「2週間後にまた試合ありますからぜひ見に来てクダサイ」

 

 

「うん!絶対みんなで見に行くね!」

 

 

 

 

(ありがとうな、みんな。昨日はお前らからも力をもらって頑張ることが出来たよ)

 

 

カケルは穂乃果・海未・ことりに心の中でお礼を言う。

 

 

 

 

 

「あ、そうだみんな。実は今日の朝、郵便受けにこれがあったんだ」

 

 

穂乃果は思い出したように言うと、カバンから1枚のCDを取り出した。

 

 

差出人の名前は無いようだった。

 

 

 

これってもしかしたら、とカケルは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◎屋上◎

 

 

 

昼休みになり、6人は屋上に行き穂乃果のパソコンにCDをセットした。

 

 

「じゃあ流すよ」

 

 

穂乃果はそう言って再生ボタンを押した。

 

 

 

『~~~~♪~~~~~♪』

 

 

 

流れてきたのはピアノの音色、そして西木野の歌声だった。

 

 

 

 

「すごい!歌になってる!」

 

 

「私たちの・・・」

 

 

「私たちの歌」

 

 

「うん。いい曲だね」

 

 

「西木野サン」

 

 

「ああ。やってくれたんだな」

 

 

 

6人は、初めて誕生したμ’sの曲に感動していた。

 

 

 

「西木野サンに感謝しないといけマセンね」

 

 

「そうですね」

 

 

ムサと海未が言った。

 

 

 

 

「よしみんな!放課後に振り付けについて考えよう!初ライブ、絶対成功させようぜ!」

 

 

カケルが言った。

 

 

 

「そうだね!よ~しみんな頑張るぞ~!」

 

 

「「「おーーーー」」」

 

 

 

 

 

 

 

そうだ。今の俺には、こいつらがいる。

 

 

こうなりゃとことん音ノ木坂で走りながらみんなを支えてやろう!

 

 

 

 




ようやく記録会編が終わりました。長くなってしまってホントにすいません(汗)

次回からは再びラブライブ本編に戻ります。
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