【4月18日 火曜日 ファーストライブまであと9日】
西木野によってμ’sの最初の曲が作られた翌日の昼休み、カケルたち6人は再び屋上で穂乃果のパソコンで曲を聞き入っていた。
「本当にいい曲だよね」
「おかげで振り付けの方も、昨日の話し合いでだいぶ決まってきましたね」
「これが決まれば本格的にダンスの練習に入れるね」
穂乃果・海未・高志が嬉しそうに言った。
「3人とも昨日はありがとう。振り付けの話し合いに遅くまで付き合ってもらっちゃって」
「イイエ。気にしないでクダサイ」
ことりが駅伝部に対してお礼を言い、ムサが答える。
『~~~~~♪~~~~~~♪』
「う~ん・・・」
一方カケルは西木野が作った曲を聞きながら何か考え込んでいるようだった。
「どうしたの?カケル君」
「この曲に何か気に入らないことでもあるのですか?」
カケルの様子を見て穂乃果と海未が訊ねる。
「いや、そういうわけじゃないよ。これはとってもいい曲だと思ってるんだけど、何か物足りないんだよな」
「物足りない?」
「うん。だって今度のファーストライブでは広い講堂のステージで披露するんだろう。でもこの曲はピアノ演奏のみだ。アイドルの曲にしてはまだ寂しくないか?」
カケルがみんなに言った。
その言葉にみんなは一斉に考え込む。
「確かに、アイドルの曲はもっと色々な楽器を使ってアレンジされていますよね」
「となると、今度は新たに編曲が出来る人が必要になるね」
海未と高志が言う。
編曲とは、あるメロディーにさらにギターやドラムなどあらゆる楽器の伴奏を加えて楽曲に幅を持たせる作業のことである。それには曲・詩・歌手のイメージをしっかり把握する豊かな感性と音楽性が求められ、さらに音楽に関して相当な知識・技術・センスがないと出来ない作業である。
こんな難業が出来る人が俺たちの身近にいるだろうか、とカケルは思った。
「だったらもう一度西木野さんに頼んでみない?」
「いや、彼女にこれ以上お願いするのはさすがに申し訳ないよ」
穂乃果が提案するがカケルが却下した。
「そうですね。この作曲だって無理を言ってお願いしたわけですからね」
「じゃあ新たに探すしかないか」
「私、お母さんに知り合いにそういう人いないか聞いてみるよ」
海未・高志・ことりが言った。
こうして、6人は新たに編曲者を探すこととなった。
このやりとりを、屋上の入り口のドア越しに聞き耳を立てている人物がいた。
「・・・スクールアイドルねぇ」
その人物は片手で眼鏡を上げながら呟く。
そして、若干の笑みを浮かべながらその場を後にした。
その人物の正体は、ユキだった。
【放課後】
みんなは帰り支度を済ませ、それぞれの練習に向かおうとするとことりが口を開く。
「私、ちょっとこれからお母さんに色々聞いてくるから穂乃果ちゃんと海未ちゃんは先に練習行っててくれる?」
「わかった。よろしくね」
「待っていますよ、ことり」
「うん。じゃあ行ってくるね」
ことりはそう言うと教室を出ていった。
「スイマセン。実はワタシ、これから職員室に用事があるのでちょっと行ってきマス」
ムサがカケルと高志に言う。
「わかった。じゃあ俺たち先に行ってるね」
高志が言うとムサは手を振りながら教室を後にした。
「ことり、それを聞くためにわざわざ家に帰るのか?」
「違いますよ。ことりのお母様はこの学校の理事長ですよ。以前生徒会長が言っていたじゃないですか」
カケルの問いに海未が答える。
(あ、そういえばそうだったな。言われてみれば確かに面影があるな)
カケルは絢瀬の言葉を思い出すと同時に、転校初日に理事長に会った時のことを思い出した。
「カケル、俺たちも早く練習行かないと」
「ああ。じゃあ二人とも、練習頑張れよ」
「うん。カケル君たちも頑張ってね」
「編曲者の方は俺たちも出来る限り探しておくからね」
「はい。ありがとうございます」
そしてあとの4人も練習へと向かった。
◎音楽室◎
「~~~~♪~~~~♪」
音楽室では今日も西木野がピアノを弾きながら歌を歌っていた。
そして演奏が終わると、窓の方に体を向け空を見上げる。
「結局作っちゃった・・・まぁでも久しぶりの作曲だったし、案外楽しかったかも・・・って何言ってるの私・・・」
西木野は以前見たμ’sの練習風景を思い出しながら呟く。
ガラガラガラ・・・
すると音楽室のドアが開き、一人の人物が入ってきた。
西木野は振り向くと驚いた表情でその人物を見つめた。
「あ、あなたは・・」
◎運動場◎
カケルと高志は練習着に着替え終え、運動場の脇で平田・ジョータ・ジョージと共にストレッチを行っていた。
「さて、今日はどんな練習をするんすかね?」
「一昨日の記録会まではほとんど距離走だったから、そろそろスピード練を取り入れるんじゃないか?」
ジョータの問いに平田が答える。
「長距離のスピード練ってどんなことするんですか?」
ジョージが訊ねる。
「そうだね。例えば400mを15本とか1000mを7・8本とか、試合を想定したペースで走る感じだね」
高志が答える。
「はぁ~、俺スピード練はあんまり得意じゃねえんだよな」
「弱気になってちゃダメですよ平田先輩」
平田の言葉にジョージが喝を入れる。
「そうですよ。カケル先輩を見てください。めっちゃ張り切ってますよ」
ジョータが指さしながら言う。
カケルは入念にストレッチをしながら気合を入れていた。
(よし!練習だ!必ず、藤岡さんに追いつくんだ!)
「みんな集まってくれ!」
ハイジの掛け声でみんなは集合する。
「あれ?ユキとムサと王子はまだ来ていないのか?」
ハイジがキョロキョロと首をかしげながら訊ねる。
「王子は日直の仕事を終えてから行くって言ってました」
「ムサは職員室に用事があるそうです」
ジョータと高志が答える。
「そうか。それでユキはどうした?」
ハイジは平田に訊ねる。
「それがよ、授業終わって一緒に行こうぜって声掛けようと思ったら急ぎ足でどっか行っちまったんだよ」
平田が説明をしていると、ムサの声が聞こえ6人は振り返った。
「スイマセーン!遅くなりました!」
後ろには王子とユキもおり、駆け足でこちらへ向かってきた。
「どこ行ってたんだよ、ユキ」
「すまん。ちょっと野暮用でな」
「?」
ユキがそっけなく答え平田は少し怪訝な表情をする。
部員が全員揃ったため、ハイジはこれからの練習について説明する。
「今日から本格的な練習に入る。月末にはインターハイ支部予選と東体大記録会がある。そこで、それに向けて部員それぞれの実力に合わせて練習メニューを作成した」
ハイジはみんなにA4サイズの紙を配った。それには4月中の練習メニューが書かれており、部員たちはそれぞれ目を通している。
よく見るとレベルによって3つに分けられていた。
カケルとハイジはハードなA設定。王子はゆるやかなC設定。他のメンバーはその中間のB設定、という位置づけだった。
さらにハイジは続ける。
「どのレベルにおいても、スピードと持久力を同時に少しずつアップさせることに重点を置いて作ってみたんだ」
「ハイジさん。この『C・C』って何ですか?」
ジョージがメニューについて質問をする。
「クロカン、クロスカントリーの略だ。トラックでもロードでもなく自然の中を走るということだ」
「主に起伏の多い原っぱなんかを走るってことだ。まあ嫌でも速くなるだろうな」
ハイジと平田が説明する。
「でもそんなコースあるんですか?」
「近くの緑地公園に練習にいいコースを見つけたんだ」
カケルはメニュー表を念入りに何回も目を通していた。
確かに、それぞれの実力差を考えてしっかり組まれている。これならみんなしっかりこなせそうだ。
王子でも、たぶん・・・
でも、果たして本当に高校駅伝の予選を勝ち抜けるほどまでに育て上げられるんだろうか?
「それともう一つ、俺たちはこれからチームジャージを取り入れる」
ハイジが言った。
「やっとか」
「ついにチームジャージが出来るんですね!」
ユキが呟き、高志が嬉しそうに言う。
「後で額を言うから、今週中までに各自持ってきてくれ」
「え?今までチームジャージ用意してなかったんですか?」
「運動部なのに?」
双子は驚きながら訊ねる。
カケルもそういえば、と思った。
これまでみんなバラバラの練習着であり、またカケル自身も今まで特に気にしていなかったのだ。
「金銭的に余裕がなかったからね。なにせうちは、部の予算ゼロだからな」
「「ええ~~~~~~」」
ハイジの言葉に1年生は驚きの声を上げる。
カケルは、まあそうだろうなと納得していた。
「じゃあ、これから部でかかる費用は全部自腹ですか!?」
「当たり前だろう。こんな何の実績もない弱小部に降りる予算がどこにあるってんだよ」
「それにただでさえこの学校は廃校になりかけてるんだから、そんな余裕もないんだろう」
唸るジョージにユキと平田が述べる。
「よおお前ら!頑張ってるか!?」
突然誰かの呼ぶ声が聞こえたので部員たちは一斉に振り返った。
すると長袖のワイシャツにスーツズボン姿の男性が立っていた。
見た感じ20代後半といった感じで、部員たちに陽気に笑いかけている。
「誰ですかこの人?」
「地理担当の坂口先生だよ。ちなみに俺たち男子駅伝部の顧問だ」
ジョージが訊ねるとハイジが説明する。
顧問なんていたんだ、とカケルは思った。
「お前たち、全国高校駅伝を目指してるんだってな。そんな勇ましいお前たちに顧問として一言言わせてもらう」
カケルや1年生たちは真剣な顔つきで聞こうとしているが、他のみんなはあまり期待していないような表情だった。
「頑張れ!」
坂口の口から出た言葉はその、本当に一言で終わり辺りは微妙な空気に包まれた。
「相変わらずだな・・」
ユキがツッコみ、ハイジが苦笑いする。
「だったら先生!俺たち部の予算が降りなくて苦しいんです!先生の力でなんとかなりませんか?」
「おいおい!俺にそんな力があるわけないだろう!そんなに予算が欲しいんなら高校駅伝出場ぐらいの実績を作らんかい!」
ジョージがすがるような目で坂口に頼み込むがあえなく断られる。
「まあ、坂口先生にはとりあえず名前だけ顧問になってもらっただけだからな。運動部は必ず一人顧問の先生が必要だから」
ハイジが説明し、双子はダメだこりゃ、と落胆した。
その様子を見てカケルは思った。
うわーなんつうメチャクチャな駅伝部だここは?ありえねえ!
まぁ・・・俺はもともと「ありえる」ところが嫌で抜け出してきた身だしな。
よし!とにかく走るか!
「さあ、早く練習始めましょう!」
カケルが声を掛けると、みんなは一斉に練習前のアップジョッグを始めた。
みんなそれぞれチームメイトとコミュニケーションを取りながら走っていた。
現時点ではユキと高志、カケルとジョータ、ハイジと王子、ジョージとムサという組み合わせでそれぞれ練習のことだったり、身体の状態のことだったり、次の試合の意気込みなど会話の内容は様々だった。
その様子を一人で眺めながら平田は思った。
ようやく部活っぽくなってきたじゃねえか。創部当初は本当にそれどころじゃなかったもんなあ・・・
~~~~~~~~~2年前~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「俺たちで全国高校駅伝を目指す!」
「「「はあっ!?」」」
夏休みが終わり2学期が始まった時のことだった。当時1年生のハイジとユキ・平田、そして同級生2人が校舎の屋上に集まっていた。
ここでハイジの一言を聞き、あとの4人は唖然とした表情だった。
「すまん。もう一回・・」
「全国高校駅伝を目指す!!」
「「「高校駅伝~~~~~!!??」」」
ハイジの返答に4人は驚き絶叫する。
「・・・って全然面白くねえぞハイジ」
「俺はいたって本気だが」
「いきなり呼び出しといて何でいきなり!?」
「だったらお前一人で陸上部行きゃあいいだろう!」
「そんなの無理に決まってんだろ!」
などなどと、4人は揃って抗議する。
しかしハイジは意に介さず口を開く。
「無理とは限らないさ。平田は実家の工務店の手伝いをしているから基本的な体力はあるだろうし、ユキは中学時代は剣道部で走り込みもしたはず。それに岡本と近藤だって、小中学校時代はサッカー部だっただろう」
「そうだけどよ・・・」
「とにかく、俺は待っていたんだ。素質のある人間を集めて動き出せる日をずっと待っていたんだ。お前たちとならこの無謀とも言える野望を果たすことが出来る。いや、果たしたいんだ!」
「「「・・・・・」」」
「だから頼む!俺に協力して欲しい!」
ハイジはいつになく真剣に力強く頼み込む。
「アホか・・・俺たちみたいなド素人がそんな大それた大会に出るなんて10年かかっても無理に決まってるわ」
ユキが呆れた表情で口を開く。
「そういう全国の大会に出る選手ってのは、多い時には月に約800kmは走るんだろう」
「は・・800!?」
「そいつらが聞いたら大笑いするぜ」
「たしかに、長距離は走り込みがものを言うからな。無茶したツケがたたって故障する奴だっているからな」
ユキの言葉を聞き、平田が述べる。
「なんだよそれ!」
「やっぱ俺らには無理だろ!」
同級生二人が騒ぎ立てる。
「俺にはそういう、友情とか青春とか、ホント無理!」
ユキがきっぱりと言う。
「俺も勘弁だな。素人に苦労を強いるなよっと」
「平田。忘れたわけじゃないよな」
「えっ?」
「夏休み前の期末試験、英語が壊滅的だったお前の赤点を回避するために勉強を見てやったのは誰だ?」
(ギクッ!)
「それに、期限までにどうしても間に合わないと嘆いていたお前の夏休みの宿題を手伝ってやったのは?」
(ギクギクッ!)
「それから岡本、近藤。以前お前たちが校内でサッカーをやってて派手に窓ガラスを割ったときに、お前たちの罪を被った上にガラスの修理代を払ってやったのは誰だ?」
「「うっ・・・」」
「ユキ。この夏休みにどうしても行きたいと言っていたコンサートライブのチケット、誰が手に入れてやったんだ?それに、金欠だったお前に貸したライブ会場までの交通費・宿泊代・飯代、合計5万円!今すぐ返してくれるのか?」
「・・・・・」
ハイジにそれぞれ突き付けられ、4人は何も言い返すことが出来なくなってしまった。
「お前たちに拒否権はない!そういうことだ!」
ハイジは4人をじっと見つめ、意思確認をする。
「・・・わかったよ!走りゃいいんだろう!」
しばらく考えた後、ついにハイジの視線に根負けしユキが答えた。
ユキに続き平田もあとの2人も仕方がないとばかりに参加表明をした。
ハイジは喜びのあまりテンションが上がり、声を張り上げた。
「よし!よく言ってくれた!みんなで絶対、高校駅伝に行くぞー!」
「「「「お・・オ~~~~」」」
(はあ~、本当にとんでもない奴に出会っちまったなあ・・・)
平田は4人で気のない返事をしながら思った。
それから5人は当時の生徒会長に男子駅伝部の申請に向かった。
創部時の部員数5人、そして運動部に必要な顧問は坂口先生に頼み、創部条件を満たしていたため許可が降りた。
しかし運動部の部室棟は埋まっていたため、仕方なくあまり使われていない倉庫部屋を借り中を掃除し、駅伝部の部室へと作り変えた。
こうして、男子駅伝部が誕生したのである。
そして練習初日の朝6時、5人は練習着姿で校門前に集まっていた。
「これより、約8kmのロードジョッグを行う」
ハイジが宣言するが、他の4人は眠そうだったりやる気なさげな顔で聞いていた。
「なんでこんな朝早く・・・」
同級生の一人が言う。
「高校駅伝に出ると、みんなで団結しただろう!」
ハイジが力強く言うが、4人は全員完全にやる気なさげな声を上げ始めた。
「団結はしてないな」
「夢じゃなかったっけ?」
「こんな朝早くから走れるかよ」
「あ~~眠い・・・」
「いいからホラ行くぞ!!」
ハイジに促され全員渋々とハイジに続いて走り始めた。
4人は後ろからハイジの叱咤激励を受け、ゼイゼイ呼吸を荒げながらもなんとか初練習を終えた。
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」
「きっつ・・はぁ・・・はぁ・・・」
「何でこんなことに・・・はぁ・・・はぁ・・・」
練習を終えた4人はすっかり息も絶え絶えで、地面にへたり込んでいた。
「みんな!急に止まるのはよくないから少し歩け」
ハイジはみんなに声を掛けながら立ち上がらせる。
その中でユキは、ダウンジョッグをしながら先ほどの走りを振り返っていた。
(・・・まいったなぁ・・・案外余裕だったんだけど・・・そりゃ呼吸は辛かったけど、足はついていけてたし・・・)
それから、ハイジの指導の下ほぼ毎日のようにトレーニングが行われた。
ハイジ自ら練習メニューを作成し、学校のトラック・周辺のロード、他にも東京郊外のクロスカントリーコースなどにも足を運び、さらには4人分の毎日の食事メニューまで考えるなど、生活管理に余念がなかった。
早起きして朝練習。急いで朝食を摂ってから、学校の授業を受ける。終わったら全員が集まって本練習のメニューをこなす。
こういったスポーツアスリートの生活が繰り返されていった。
しかし、練習を始めて1ヶ月程経ったある日のことだった。
ハイジは同級生二人に廊下に呼び出された。
「こ、これは・・・」
ハイジの手には二つの封筒が握られていた。
「見りゃ分かんだろ。退部届だ」
「何が高校駅伝だよ。大体こっちは最初からやる気なんてないんだよ」
「これならガラスのこと白状して怒鳴られた方がマシだ」
「金ならホラ、返してやるから、もう俺たちに構わないでくれ。お前にはついていけねえよ」
同級生二人はガラス代を渡すと、さっさと背を向けて去ってしまった。
ハイジは声を掛けようにも掛けれず、茫然と二人の後ろ姿を見送るしかなかった。
その様子を物陰から平田が眺めていた。
(ほら見ろ。やっぱりこうなっただろう。世の中そんなに甘くねえんだよ)
放課後になり、ハイジはショックを抱えながら部室へと来た。
部室のドアを開けると、ユキがいた。
「よおハイジ。あいつらもう辞めちまったんだってな」
「ああ・・・もうお前にはついていけないってハッキリ言われたよ・・・」
ハイジが俯きながら答える。
「そりゃああんな半ば強引に勧められたら、そう言う奴だって出てくるだろう」
「ユキは、残ってくれるのか?」
「強引に誘われたとはいえ、俺はやると決めたことはやり通す主義でね。別にお前の為とかじゃねえぞ。単なる暇つぶしだ」
「はは・・ああ、結構だよ」
ユキの言葉にハイジは嬉しそうな笑みを浮かべる。
「あとは平田だな」
「あいつなら、さっき帰ってくのを見たぞ」
「・・・そうか。あいつもか・・・」
「・・・」
「でも、落ち込んでてもしょうがない。俺たちだけでも練習始めるか」
ハイジは一瞬落ち込むがすぐに気持ちを切り替え、ユキと共に部室を出て練習へ向かった。
一方平田は、練習に参加せずさっさと家に帰ってしまった。
自室に入るとカバンを置き、仰向けに寝転がった。
(あ~脚痛え~。もうやってられるかよこんなこと。何で俺がこんなキツイことやんなきゃいけないんだよ。とにかく、俺ももうやめだ)
平田は机に向かって紙とペンを用意し、退部願いの準備に取り掛かった。
(明日になったらハイジにこれを渡そう。これでこんな辛い生活からもおさらばだ)
そして書き終え封筒にしまい込み準備が完了した。
しかし平田は退部願いの封筒をじっと見つめながら考え始めた。
(でも、本当にそれでいいんだろうか・・・)
そう思っていると、ふと机の上のある物に目が止まった。
それは、小さな木製のオルゴールの箱だった。
「これは・・・」
平田はそれを手に取って箱を開きオルゴールを奏で始めた。
『~~~~~~~♪~~~~~~~~~♪」
部屋の中にオルゴールの音色が響く。
その音色はとても綺麗だが、どこか切なげにも聞こえた。
「彩花・・・」
平田は音楽を聞きながらそっと呟いた。
『俺、約束する!絶対生まれ変わるって約束する!もう二度と・・・』
『彩花・・・俺を一人にしないでくれよ!!』
『彩花!?・・・彩花!彩花!彩花ああぁぁぁ!!』
『ウワアアあああああああああああああああああ』
そうだ。俺は約束したんだ。絶対生まれ変わるって!
今こそ、その時が来たんじゃないのか!!
ビリビリビリ・・
平田は先程作り上げた退部届の封筒を破り捨てた。
【翌日】
放課後になり、ハイジとユキはいつものように部室へとやってきたが、ドアの窓から明かりがついているのが見えた。
「あれ?誰かいるのか?」
そう呟きながらドアを開けると
「よおっ!」
平田が練習着に着替え終えていた。
「平田!!」
「昨日はすまなかった。ちょっと野暮用があってな。さあ、早く練習いこうぜ。高校駅伝、行くんだろう」
平田が覚悟を決めた表情でハイジを見つめながら言う。
「ああ!もちろんだ!俺たちで絶対行こう!全国高校駅伝に!」
「フッ、しょうがねえな」
「よっしゃ!やってやるぜ!」
「「「行こうぜ!!高校駅伝!!」」」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ハイ平田!ラストだぞー!」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・だあぁ・・」
「ハイおつかれー」
駅伝部は今日の練習メニューを終えたところだった。
今日は平田の苦手とするスピードメインの練習だったため、彼一人だけ集団から遅れてしまった。
「はぁ・・はぁ・・くそっ・・」
「平田。キツくなったらすぐタレる癖直さないと、変われないぞ。お前はまだまだ伸びるんだから、もっと自分を信じよう」
不満足そうな平田にハイジが激励の言葉を掛ける。
(変われない・・か)
「ああ。そうだな」
平田は返事を返すと、ダウンジョッグに入った。
ハイジ。今となっては、お前が俺を誘ってくれてよかったって思ってる。
なんか、お前といればさらに自分を変えられそうな気がするぜ。
もっと練習積んで、更に生まれ変わってやるぜ。
だから見ててくれ・・・彩花・・・
【2日後】
カケルは穂乃果の家の前で穂乃果を待っていた。
今日は木曜日のため、カケルたちもμ’sの朝練に顔を出すことになっている。
やがて玄関から穂乃果が眠そうな表情で出てきた。
「おはよう~カケルくぅ~ん」
「遅いぞ穂乃果。早く練習行くぞ」
「うん。ん?あれ、何だろう?」
穂乃果は家の郵便受けに何か入っているのを見つけた。
茶色いB5サイズの封筒が投入口から突き出していた。
穂乃果はその封筒を取り出すと、封筒にはμ’sと書かれていた。
「カケル君!これってもしかして!」
「ああ。開けてみようぜ」
そして封筒の中を開けると、CDケースが一つ入っていた。
◎屋上◎
カケルと穂乃果はみんなにCDのことを伝え、昼休みに入ると再びみんなで屋上に上がり穂乃果のパソコンにCDをセットする。
そして再生ボタンを押した。
「~~~~~~~~♪~~~~~~~~~~♪」
収録されていたのは以前西木野が作曲してくれた曲だが、今度はその曲にギターやドラムなどの音が加わったものになっていた。
「すごい!さらにアレンジされてる!」
「ライブにふさわしい華やかな曲になりましたね」
「素晴らしいデス」
「これならもっといい振り付けを決められるね」
穂乃果・海未・ムサ・高志が曲を聞き絶賛する。
「これも、西木野さんが作ってくれたのかな?」
ことりが首を傾げる。
「きっとそうだよ。今度お礼を言わないとな」
カケルが言った。
これで曲の準備は整い、いよいよ発表に向けた準備は最終段階に入っていく。
ファーストライブまで、残り7日
前回、いよいよ本編に入ると言ってたのにすいませんでしたm(__)m
今度こそ本編に入るのでお楽しみに!