【4月29日 土曜日 午前9時】
ファーストライブから2日後、顧問の坂口を交えた駅伝部員たちは秋葉原駅前に集合していた。
今日から高校インターハイの予選がスタートし、部員たちはまず今日と明日行われる支部予選に向かおうとしていた。
「今日はいよいよ、高校インターハイの支部予選へ出陣だ!来たる全国高校駅伝へ向けて我が音ノ木坂学院男子駅伝部の大事な布石となるだろう!」
坂口がみんなの前に立ち、延々と演説を始めた。
(坂口先生ってこういうときだけ監督ヅラですか?)
(大人の話は長えよな・・)
ジョータと平田がヒソヒソと呟く。
「したがって、早急な強化体制に入る!ありがたいことに今日明日は臨時マネージャーが付いてくれることになった!」
坂口は横にいる3人の人物を指しながら言った。
その3人とは穂乃果・海未・ことりである。
「「「よろしくお願いしまーす」」」
3人は揃って駅伝部員に挨拶をする。
~~~~~~~~~~~昨日~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
駅伝部は練習が終わり、校内の運動場の脇にみんなで集まっていた。
「よし!今日の練習は以上だ!明日からはいよいよ地区予選だ!各自、体調を整えて万全の状態で臨むように!」
「「「お疲れ様でした!!」」」
ハイジの号令で練習終了の挨拶を交わす。
するとそこへ穂乃果たち3人がやってきた。
「「「お疲れさまでーす」」」
3人は部員たちに声を掛ける。
「µ’sの皆さんだ!」
ジョータが嬉しそうに言う。
「穂乃果!海未!ことり!」
「やあ、君たちか。何か御用かい?」
カケルとハイジが声を掛けると、海未が話し出す。
「実は皆さんにお願いがあるんです」
「お願い?」
「カケルたちから聞きました。皆さんは明日明後日に支部予選があるということを」
今度は穂乃果が前に出て口を開いた。
「そこで私たちに・・・お手伝いをさせてほしいんです!」
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3人は、以前のファーストライブを見に来てくれたお礼ということで、今日と明日の2日間臨時で駅伝部のマネージャーを志願してきたのだった。
そのために3人とも揃って学校のジャージ姿で来ていた。
「別にそこまで本格的にならなくても、応援に来てくれるだけでよかったのに」
3人の姿を眺めながらハイジが言う。
「いいじゃねえか!昨日の説明会も結局誰も来なかったから寂しいと思ってたしな」
「そうですよ!臨時とはいえ、念願の女子マネージャーですよ!」
「よ、よろしくお願いします!」
平田と双子はマネージャーが付いてくれたことにすっかりテンションが上がっていた。
海未とことりは少し照れながらみんなに会釈を返す。
「よろしくね。カケル君」
「お、おう・・///」
穂乃果はにっこりと笑いながらカケルに声を掛けた。
「それでは諸君の検討を祈る!では!」
坂口はそう言ってその場を後にした。
「えっ?先生ついてこないの?」
「本当に顧問ですか?」
「仕方ないだろ。無理やり名前だけなってもらったんだから」
怪訝な表情をする双子をハイジが諫める。
「それにしても、このチームジャージ格好良いデスね」
ムサは今着ているジャージについて絶賛する。
駅伝部員はみんな揃いのチームジャージを着ている。
ユニフォームと同じく上下茄子紺色で、背面には白文字で「音ノ木坂学院」と書かれており、正面から見て右側の胸部には学校のシンボルマークが描かれている。
ようやく出来上がったため、昨日ハイジがみんなに配ったのである。
「うん。とっても格好良いよ」
「いいな~。まさに部活動って感じがするよ」
「「いや~それほどでも~」」
ことりと穂乃果に誉められ、双子が頭をかきながら照れたように笑う。
「ハイジさん。この2日間はどういうご予定ですか?」
海未がハイジに訊ねる。
「今日は14時から3000障害に高志と平田が出場し、明日は同じく14時から5000mに俺とムサとユキが出場する。カケルと1年生たちは明日、東京体育大学の方の5000mに出場するから別行動になるな」
ハイジは2日間の予定を説明すると、海未が嬉しそうな笑顔になる。
「じゃあ今日は高志の試合が見られるんですね」
「うん。今日はサポートの方よろしくね」
「はい。よろしくお願いします」
高志と海未はお互い笑顔で言葉を交わし合った。
「お前ら仲いいんだな」
「もしかしてお前ら、付き合ってんのか?」
「「うえぇぇっ!?」」
ユキと平田に問われ、高志と海未は揃って変な声を上げる。
「そ・・そんなんじゃないですよ!海未ちゃんは確かにかわいくて魅力のある女の子ですけど、俺たちは同じ作詞担当者という立場なだけでそこまでの関係ではないですよ!」
「そ・・そうです!高志はとても優しくて頼りになる人です!ですか私たちはあくまでクラスメイトで友達なだけであって、それ以上でもそれ以下でもありません!」
2人はそれぞれ顔を真っ赤にしながら慌てて弁明をするが、お互いの褒め言葉を聞き照れたようにモジモジし始めた。
「ふ~~ん」
平田とユキは若干ニヤけながら2人の言葉を聞いており、双子もヒューヒューと言いたげな表情で2人を見ていた。
(うふふっ、海未ちゃんかわいい~)
(高志君もすっかり照れちゃって)
ことりと穂乃果もすっかり興味津々だった。
海未はともかく高志があんなに取り乱すの初めて見たな、とカケルは思った。
「こら!茶々を入れるのはそれぐらいにして、早く試合会場に行くぞ!」
ハイジの号令で、一同は駅へと入っていく。
東京都内の陸上部は第1支部から第6支部に分かれており、今日と明日の試合は各支部の学校同士で都大会の出場枠を争う支部大会である。
音ノ木坂学院高校は第1支部に属しており、第1支部に属する地区は千代田区、港区、大田区、目黒区、品川区、中央区、渋谷区となっている。
一同は40分程かけて東京モノレールの大井競馬場前駅まで行き、そこから徒歩10分程の所にある第1支部の試合会場「大井ふ頭中央海浜公園スポーツの森陸上競技場」へ到着した。
観戦席の一画に荷物を置き一同は陣地を確保する。
現在競技場内では、他種目の競技が行われており各校の応援の声が飛び交っていた。
「うわぁ~すごい声援」
「迫力あるね~」
「私、こういう雰囲気好きですよ」
穂乃果・ことり・海未は初めて見る陸上試合の雰囲気に感嘆していた。
「全国大会ではこんなもんじゃないぞ」
3人の様子を見てカケルが言った。
「カケル君は全国大会とか行ったことあるの?」
「い、いや・・そんな気がしただけさ」
穂乃果の問いにカケルはややどもりながら答える。
「試合までまだ時間があるから、それまで待機だ。高志と平田は頃合いを見てしっかりアップしておくように」
「はい!」
「おう!」
ハイジが声を掛け、高志と平田は返事を返す。
「ねえねえ、私たち何をしたらいい?」
「何でもするから任せて」
穂乃果とことりに訊ねられ、カケルは少し考え込む。
(う~ん、いきなり仕事任せるのも悪いし・・・)
「じゃあ試合が始まったら、応援してほしいかな。あんなふうに」
カケルは競技中の選手を応援している他校生を指しながら言った。
応援にも色んなやり方があった。
「田中先輩ファイトでーす!」
「大田ラストファイトー!」
部員が個人個人で応援しているところや
「ゴーゴーレッツゴーレッツゴー高橋!!」
「「「ゴーゴーレッツゴーレッツゴー高橋!!」」」
「いっけーいけいけいけいけ田村!!」
「「「いっけーいけいけいけいけ田村!!」」」
部員全員で声を揃えて応援するところなど様々だった。
「あ、あんなふうにですか・・」
「でも、これならいい発声練習にもなりそうだね」
「よーし!頑張って応援するぞー!」
穂乃果・ことりは張り切っているが、海未はやっぱりまだ恥ずかしそうにしていた。
やがて3000m障害の試合時間が近づいてきたため、ハイジが部員たちに声を掛ける。
「よし!高志と平田はそろそろ行こうか!誰か一人ずつ付き添いをお願いしたいんだが」
「では、平田サンには私が行きマス」
ムサが答える。
「オッケー。じゃあ高志には・・」
「あ・・あの!」
「ん?」
「私に行かせてください!」
「海未ちゃん」
「海未」
海未が手を上げながら立候補し、穂乃果とカケルは少し驚いていた。
「臨時とはいえマネージャーとして来たからには、しっかりと選手のサポートを務めたいんです。お願いします」
海未は頭を下げてハイジに頼み込む。
「よし、わかった。じゃあよろしく頼むよ」
ハイジが許可を出す。
「ありがとうございます!あ、あの・・高志・・よろしくお願いします」
「うん。よろしくね海未ちゃん」
そして高志・平田・ムサ・海未は試合へと向かっていった。
(ホントに海未って真面目だよなぁ)
カケルはみんなと共に試合に向かう海未の後ろ姿を見ながら思った。
「海未ちゃんやる~」
「やっぱりいい雰囲気だよね。あの二人」
穂乃果とことりが呟いた。
高志はスタート地点付近のトラックの外側でアップジョッグをしていた。
ジョッグをしながら高志は海未の様子を眺める。
海未は今、ムサからマネージャーの仕事を教えてもらっているようで、所々で頷きながらメモまで取っている。
本当に新人マネージャーみたいだな、と高志は微笑ましく思った。
高志はジョッグを終えると、持ってきた荷物の所に座り込み靴紐を結びなおした。
そこへ海未がやってきた。
「高志、調子はどうですか?」
「まあまあかな。でも、本当にありがとね。俺の付き添いに来てくれて」
「いいえ。いつもµ’sの活動に協力してもらっているお礼です。本当に高志には色々助けてもらいましたから」
「ありがとう。・・ふぅ~」
高志はもう一度お礼を言うと目を閉じて深呼吸をした。
「もしかして、緊張していますか?」
「うん。ちょっとね。いよいよ始まるんだって思うと・・」
すると海未は高志の後ろに回り、肩を揉み始めた。
「・・海未ちゃん」
「大丈夫です。しっかり練習を積んできたんでしょう。自分に自信を持ってください」
海未は肩を揉みながらにっこりと微笑む。
「肩の力を抜いて、リラックスですよリラックス」
「うん。そうだね」
「なあムサ。あの二人は本当に付き合ってないのか?」
「ウ~ン、よく分からないデス」
少し離れた所で平田がジト目で二人を見つめ、ムサが苦笑いした。
いよいよスタート時間となり、高志と平田はスタート地点に並んだ。
(初めてのインターハイ予選だ。頑張るぞ)
(いけるところまでいってやるぜ)
「位置について・・・よーい!」
パーーーーーーーーン
スタートの号砲が鳴り各選手が一斉にスタートし、各校の声援が飛び交った。
「平田先輩ファイトー!」
「高志ファイトー!」
観戦席で見ている駅伝部員たちも声援を送る。
「音ノ木坂ファイトー!」
「高志君頑張れ~~!」
穂乃果とことりも負けじと応援する。
周りにいる何人かが、ことりの声援に思わず反応していたことに隣にいたカケルが気付いた。
(このことりの脳トロボイスを聞けばそりゃ反応するわな。これで応援されたら大概の男は頑張れるか…いや、かえって力が抜けるかもな。って何考えてるんだ俺は)
「ええっ!?走りながらあのハードル飛び越えるの!?」
「ちょっと危なそう」
トラックの各地点に設置されているハードルを越える選手たちを見ながら穂乃果とことりが心配そうに呟く。
そんな2人にカケルとユキが解説をする。
「あれには相当強靭な足腰が必要になってくるよ」
「まぁ、高志は中学まで群馬の山奥で育ったんだからあいつにはうってつけの競技だと思うぞ」
3000障害は全2組のタイムレースで行われている。
タイムレースとは複数の組の選手全体のフィニッシュタイムが速い順に順位をつけていく形式である。
この試合では上位8人までが都大会に出場できる。
高志と平田は共に2組目を走っており、2人とも先頭集団につけていた。
「74、75、76、77!77秒です!高志ファイトでーす!」
海未はしっかり高志のタイムを計測しながら大きな声で声援を送っており、隣で平田のタイムを計測しているムサが嬉しそうに微笑んだ。
(海未サン。頑張ってマスね)
やがて2人はフィニッシュした。
高志は1組目の1着より速いタイムで4着となったため全体の4位となり都大会の出場権を掴んだ。
一方平田は途中から遅れだし上位8位以内のタイムに入れず、支部予選敗退となった。
「お疲れ様です」
走り終えた高志に海未が駆け寄り飲み物のボトルを差し出した。
「はぁ・・はぁ・・ありがとう。海未ちゃんやったよ。俺、都大会に行けるよ」
「本当ですか!おめでとうございます!」
高志の報告を聞き、海未の表情がとても明るくなった。
「これも、海未ちゃんのサポートのおかげだよ。本当にありがとう」
「い、いいえ・・本当にお疲れ様でした」
高志に改めてお礼を言われ、海未は若干顔を赤らめながら彼を労った。
平田は疲れ切って息を切らしながら地面に座り込んでいた。
「お疲れさまデス」
「ゼェ・・ゼェ・・サンキュー・・」
平田はムサからボトルを受け取り、飲み物を口に含む。
「残念デシタね・・」
「ああ。でもやるだけのことはやったんだからしょうがねえ。これからは5000mで記録を出すことに専念するぜ。お前も明日は頑張れよ」
「ハイ!」
平田はムサにエールを送り、次の目標に向けて気持ちを切り替えていた。
こうして支部予選1日目が終了した。
【4月30日 日曜日】
「よかったよね~。高志君無事に都大会進出できて」
「はい。本当によく頑張りました」
「あんなふうに応援されたら頑張るしかないですよ」
「よーし、俺も頑張るぞー」
カケルと1年生、そして穂乃果と海未は記録会のため東京体育大学へと向かいながら昨日の試合について話していた。
双子は今日もマネージャーの付き添いがあるということで張り切っていた。
「あれ?ことり先輩は一緒じゃないんですか?」
王子が訊ねる。
「ことりでしたら今日は支部予選の方に行っています」
「ムサ君の応援がしたいんだって」
海未と穂乃果が答え、王子はなるほど、と頷いていた。
「カケル君の付き添いは私がやるね。今日はよろしく」
「ああ。よろしくな」
穂乃果に笑顔で声を掛けられカケルは返事を返す。
「あの~、俺たちもいるんですけど…」
「いよいよカケル君の試合が見れる。楽しみだなぁ~」
ジョージが言うが、穂乃果は聞いておらず一人ほくそ笑んでいた。
「まったく穂乃果ったら」
「・・・///」
海未は苦笑いしながらため息をつき、カケルは思った以上に楽しみにされ、少し照れていた。
その様子を双子はニヤニヤしながら眺めていた。
一同は東京体育大学へと到着した。
初めて訪れた穂乃果と海未は、みんなで陸上競技場に向かいながらキャンパス内の様々なグラウンドや体育施設を見回していた。
中には既に練習を始めている部もあった。
「すごーい!運動場でいっぱいだよ!」
「とても広いキャンパスですね。うちの学校の倍以上はありますね」
「エーーーイサーーーー!エーーーイサーーー!!」
「な、何!?」
穂乃果と海未が呟いていると、大きな声が聞こえてきた。
声がする方へ振り向くと、キャンパスの一画で男子学生の集団が白の短パンに白の鉢巻きをつけ上裸という服装で大きな声を上げながら何やらパフォーマンスを行っていた。
「な、何なんすかね?あれ」
「あれは、東京体育大学の伝統応援パフォーマンスですよ」
不思議がるジョータに海未が説明する。
「各運動部が大きな大会で優勝した時のみ行われるんです。おそらくその練習でしょう。必ずあの服装でやらなければならないという決まりがあるんです」
「ええっ!?じゃあ真冬でもあの恰好でやるんですか!?」
「当然です」
「ぼ、僕には絶対縁のない世界だ・・」
王子が呟いた。
(じゃあ箱根駅伝で優勝した時も、あれをやるのか。あんな寒い中・・・さすが体育大学だ。それにしても海未、あれを見てからテンション上がってないか?)
海未の様子を見てカケルが思っていると、穂乃果の姿が見えなくなっていた。
「あれ?穂乃果は?」
カケルがキョロキョロ周りを見渡すと、すぐそばにある先程のパフォーマーと同じ恰好の人型の銅像の前に立っている穂乃果の姿を見つけた。
「こうかな?エーーーイサーーー!・・どう?強そうでしょ」
穂乃果は銅像のポーズを真似しながら声を上げる。
「「あはははは!穂乃果先輩おもしろ~い!」」
「「はぁ~~~・・・」」
双子は大爆笑し、カケルと海未は揃ってため息をついた。
たまたま通りかかった東体大の男子学生数人が穂乃果の様子を見てクスクスと笑っていた。
海未は恥ずかしそうに顔を赤らめながら学生たちに謝罪する。
「どうもすみません!」
「いやいや、気に入ってもらえて嬉しいよ。もっと色々見て回っていくといいよ」
学生たちはそう言って手を振りながら去っていった。
「えへへ、いい人たちだったね~・・痛っ!」
呑気な穂乃果の頭にカケルがチョップをくらわせる。
「アホなことやってないで、早く行くぞ」
「うえ~ん痛いよカケルくぅ~ん」
「カケルの言う通りです!私たちは遊びにきたのではありませんよ!」
「わかってるってばぁ~」
「まあまあ海未さん」
「抑えて抑えて」
そんなこんなで一同は再び陸上競技場へと向かった。
◎陸上競技場◎
まもなく王子の組がスタートするため、王子はスタート地点付近で準備をしておりカケルと穂乃果が付き添っていた。
王子は緊張しているように顔をこわばらせている。これまで運動歴のない彼にとっては初めてのスポーツ試合となるのだ。
「大丈夫か王子?緊張してんのか?」
「ええ・・・まぁ・・」
カケルが心配そうに声を掛けると王子がなんとか言葉を絞り出したように答える。
「初めての試合なんだから、そんな緊張しないで気楽にいけよ」
カケルが励ます。
「そうだよ王子君。ほら、そんな顔してちゃダーメ」
「いいっ!?」
穂乃果はそう言って両手で王子の頬を掴んで笑顔を作らせた。
「頑張ってね王子君!ファイトだよ!」
「は、はい」
カケルは若干ムッとしながらその様子を見ていた。
そしてついにレースがスタートした。
王子は果敢に先頭集団に付いていった。
部員たちは王子のタイムを計測しながら王子に声援を送った。
王子は1000mを過ぎたあたりからすでにきつい表情をし、あっという間に最後尾に落ちてしまった。
審判からは脱水症状でも起こしたのかと思われるほど、かなりの周回遅れになってしまった。
それでも諦めずに最後まで走り切り、カケルと穂乃果に抱えられながらゴール地点を後にした。
「ゼェ・・・ゼェ・・・」
「お疲れ王子」
「王子君大丈夫!?」
「ゼェ・・・スポーツマンって、さわやかそうで汚いですよね。スタート直後にいい位置を取ろうとして、みんなが肘で小突いたり背中を押してきますし・・・」
息を切らしながら話す王子にカケルが声を掛ける。
「これが陸上の試合なんだ。今後に向けていい経験になっただろう。お前はまだこれからだ」
王子のタイムは22分02秒で一番遅い組での最下位だった。
続いてジョータとジョージは順調に走り切り、揃って17分を切るタイムだった。
ジョータが16分42秒、ジョージが16分41秒で今回はジョージが先着した。
「イエーイ!今度は俺の勝ち!」
「くっそー負けたー」
「二人ともお疲れ様です」
ゴール地点には海未が待っており、二人にボトルを渡した。
そしてそれぞれのフィニッシュタイムを伝えた。
「ありがとうございます!海未先輩!」
「なんか結構様になってるじゃないですか」
「そ、そうでしょうか?」
「もうこのままマネージャーになって欲しいくらいですよ」
「ちょっと・・ほめ過ぎですよ」
双子に褒められ海未は恥ずかしそうにするがまんざらでもない様子だった。
そして最後にカケルの番となった。
カケルはユニフォーム姿になると、付き添いをしている穂乃果に荷物を預けた。
「いってらっしゃいカケル君。頑張ってね」
「ああ。行ってくるよ」
そう言ってカケルはスタート前の流しに向かった。
流しの途中カケルは船橋第一高校がいないか周りを見渡したが、今日は来ていないようだったので安心した。
向こうも今日はインターハイ予選なんだろうな、とカケルは思った。
やがて選手全員がスタート地点に立ち、カケルは大きく深呼吸をした。
「カケルくーーん!!ファイトーー!!」
「・・!!??」
するといきなり穂乃果に大声を掛けられカケルは思わずビクッとした。
「穂乃果!」
「穂乃果さん!シーー!」
穂乃果は一緒にいた海未や1年生に静かにするよう注意され、周りからはクスクスと笑い声が聞こえた。
(おいおい・・)
カケルは心の中で呆れ声を上げるが、それと同時に少し緊張がほぐれたのを感じた。
スタートの号砲が鳴り、みんなの声援を受けながらカケルは走った。
以前とは違い、今日はリラックスしてレースに臨んでいた。
榊がいないということもあるが、何より・・・
「カケル君!ファイトー!」
こんなに自分を応援してくれる人がいるという喜びが彼に力を与えてくれた。
やがてカケルはフィニッシュした。
タイムは14分31秒。
14分半を切れなかったのは悔しいが状態は良くなってるから次は大丈夫だろう、とカケルは思った。
「カケルくーん」
「カケル!」
「「「カケルさーん」」」
すると、みんながゴール地点で待っててくれていた。
カケルは腰ゼッケンを返却すると、みんなの下へ向かった。
「お疲れ様ですカケル。速いですね。走っている姿、素敵でした」
「そ、そうか?」
「うん!とってもかっこよかったよ!」
「あ、ありがとう///」
海未と穂乃果に褒められカケルは顔を赤らめる。
(やっべえ・・・女の子に自分の走りをこんな風に褒められるなんて初めてだ・・・)
「カケルさん、照れてますね」
回復した王子が呟いた。
「なっ!?べ、別に照れてなんか・・」
「本当~?カケル君、顔赤いよ~」
穂乃果は顔を近づけながらまじまじとカケルの顔を見る。
「こ、これは暑かったせいだよ!ってか近えよ離れろ!////」
カケルは穂乃果を追っ払った。
「そうだカケルさん。さっきハイジさんからLINE来たんですけど、3人とも支部予選突破したそうです」
ジョータが明るい表情で報告した。
「本当か!?」
「やったー!」
「よかったですね」
結果を聞いてその場にいた全員が喜んだ。
(そうか。突破したのか。とりあえず一安心だ。お疲れ様です皆さん)
カケルは心の中で労った。
「あと、今日は試合が終わったらこれで各自解散。明日は練習は休み。以上です」
「じゃあさ、このあとみんなでご飯食べに行こうよ!」
「お!いいっすねー!」
「行きましょう!」
穂乃果の提案に双子が賛成する。
「よし!じゃあ穂乃果と海未の分は俺がおごってやるよ!」
「え?いいの?カケル君」
「もちろんだよ。この2日間本当に世話になったからな。そのお礼だよ」
「わーい!ありがとう!」
「ありがとうございます」
「よっ!カケル先輩太っ腹~!」
「あ、お前らはダメだぞ!」
「えへへ、ですよね~」
こうして2日間の全試合が終了し、楽しい雰囲気に包まれながら一同は陸上競技場を後にした。
色々調べまくって疲れました・・・
皆さんもスタート前はお静かに