真姫は4人が座っているソファーの向かい側の一人用のソファーに腰かけた。
執事の清本がすぐさま真姫の分の紅茶を用意する。
「それじゃあどうぞごゆっくり」
「失礼します」
真姫の母:淑美と清本はそう言って部屋を出ていった。
「いやー西木野さんホントすごい家に住んでるよね」
「それに将来は医者を目指してるなんて、やっぱお金持ちは違うなあ」
ジョータ・ジョージは揃って感嘆している。
「それはどうも・・それで、みんな揃って何の用?」
真姫はドライな反応を返すと用件を訊ねる。
「これ、落ちてたの。西木野さんのだよね?」
小泉が生徒手帳を見せながら言う。
「何であなたが?」
「ご、ごめんなさい」
「何で謝るのよ・・・まぁ・・その・・・ありがとう」
真姫は頬を赤らめながら照れくさそうにお礼を言う。
(なんか・・西木野さん、かわいいな)
彼女の様子を見ながらジョータが心の中で呟いた。
「ねぇ西木野さん。放課後、µ’sのポスター見てたよね?」
「えっ?そうなの?」
小泉の問いかけを聞いて王子も訊ねる。
「私が!?し、知らないわ!人違いじゃないの!?」
真姫は否定するが明らかに動揺している。
(わかりやすっ)
ジョータは思った。
「でも、手帳そこに落ちてたし・・」
「へぇ~、ってことはやっぱり」
小泉が続けるとジョージが悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ち、違うの!それは・・」
ゴンッ!
真姫は反論して立ち上がった際に、右膝をテーブルにぶつけてしまった。
「いったぁ!・・う、うわあぁぁ!」
さらに右膝を抑えたことで態勢を崩し、ソファーもろとも倒れ込んでしまった。
「「「ああぁ・・」」」
「だ、大丈夫!?」
4人は心配そうな声を上げる。
「へ、平気よ!まったく、変なこと言うから!」
「クッ・・クフフフフフ」
するとジョータが先ほどの西木野の様子を見て可笑しくなり笑いだしてしまう。
「ふ・・・うふふふふ」
「「アハハハハハ」」
それにつられて小泉もジョージも王子もみんな笑いだしてしまった。
「もう!笑わないでよ!」
真姫は顔を赤くしてムスッとした表情で言う。
しばらくして少し状況が落ち着いてから再び本題に入る。
「西木野さんもさ、スクールアイドルやってみたらどうかな?」
ジョージが言う。
「私が?スクールアイドルを?」
真姫がキョトンとした表情で聞き返す。
「うん。私もそう思う。西木野さん、放課後いつも音楽室でピアノ弾いて歌ってるでしょう。私、よく聞きに行ってたんだ。ずっと聞いていたいくらい、素敵な歌だったから・・」
「へぇ~、僕も一度聞いてみたいなぁ」
小泉の言葉に王子がワクワクした様子で言い、双子もうんうんと頷いていた。
しかし真姫は少しため息を吐いてから口を開く。
「私ね、大学は医学部って決まってるの。これからはそのための勉強に集中しなきゃならないの」
真姫の言葉を聞き4人は残念そうな表情をする。
「だから私の音楽は終わってるのよ」
さらに真姫は続けた。
「本当にそう思ってるの?」
突然ジョータが口を開く。
「えっ?」
「本当に君の音楽が終わってるって言うなら、どうして放課後に音楽室でピアノ弾いてるの?」
「そ・・それは」
「本当はまだ音楽に未練があるんじゃないの?」
「・・・」
ジョータの問いかけに真姫は口をつぐんで黙り込んでしまった。
「本当に好きなことっていうのは、そう簡単に捨てられるものじゃないってことさ。西木野さんにとっては、医者になるっていうのが夢なんだろうけど、そのために本当に大好きなことを犠牲にするなんてもったいないよ。まだまだ人生は長いんだから、もっと自分に正直になってもいいんじゃないかな」
「兄ちゃん・・」
「・・・」
隣で聞いていたジョージが呟き、真姫はまだ黙ったままだったがその表情は心の中で葛藤しているかのようだった。
「まぁ、ゆっくり考えてみなよ。あ、俺はジョータね」
「う・・うん・・・それより、あなた・・」
真姫は今度は小泉に話しかけた。
「は、はい・・」
小泉は突然話しかけられ少し驚いていた。
「アイドルやりたいんでしょう?この前のライブの時、夢中で見てたじゃない」
「えっ、う、うん」
「えっ?じゃあ西木野さんも来てたんだ」
真姫の言葉に小泉は頷き、さらにジョージが言った。
「い、いや、私はたまたま通りかかっただけだけど・・・」
「たまたま通りかかるようなところじゃないと思うけど・・・」
真姫の答えに王子が口を挟む。
「うぅ・・と、とにかく!」
「!?」
「やりたいならやればいいじゃない。そしたら・・・少しは・・・応援してあげるから」
真姫は顔を赤らめた後、優しく微笑みながら小泉に言った。
(その言葉、そっくりそのまま返してあげたいな)
真姫の言葉を聞いてジョータは心の中で思った。
「うん。ありがとう西木野さん」
小泉も微笑み返しながらお礼を言う。
「「じゃあまた明日~」」
「うん。じゃあね~」
「今日はありがとう」
その後、4人は真姫の家を後にし帰路についていた。
双子は途中で王子と小泉と手を振りながら別れた。
「兄ちゃんいいこと言うね~。カッコよかったよ」
「そうか?でも、なんかほっとけなかったんだよね。西木野さんには、後悔してほしくないから」
双子は先ほどの事を話しながら帰り道を歩いて行った。
外はもう日が沈みかけ薄暗くなっており、街灯の明かりがちらほらとつき始めていた。
その中を、王子と小泉が一緒に歩いている。
しばらく二人は何か考え込むように黙ったままだったが、やがて小泉が口を開いた。
「あ、あの・・・茜君。一つ聞いてもいい?」
「なに?」
「茜君は、どうして駅伝部に入ったの?」
「う~ん、それはね・・・」
王子は質問を聞いて少し考えてから口を開いた。
「スポーツマンの世界を見てみたいと思ったのと、あとは・・・自分の力を試したいと思ったことかな」
「自分の力を試す?」
「うん。僕は中学まではスポーツの経験なんてない、ただのアニメや漫画が好きなオタクに過ぎなかった。でも、スポーツ系の漫画を読んでるときにふと思ったんだ。何でこの登場人物たちは、これほどまでにこんなキツいスポーツに熱中できるのか、この人物たちの目にはどんな世界が写っているのか、そういったスポーツマンの心情を知りたいと思ったのがきっかけなんだ」
「へぇ~~」
「そして駅伝部を選んだ理由だけど、陸上は個人競技で自分の力がそのまま数字として表れる競技なんだ。その中でも駅伝のような長距離種目は才能よりも努力が問われる種目だから、僕がやるとしたらこれしかないって思ったんだ。こんな貧弱者の自分が一体どこまでやれるのか、自分の力を試したいと思ったんだ」
王子はいつになく真剣な表情で答える。
「す、すごいね。そんな大きな覚悟を持ってやってるなんて」
小泉が感嘆しながら言う。
「だから小泉さんも、少しでもアイドルをやりたい気持ちがあるなら、とりあえず入ってみて自分の力を試してみたほうがいいと思うよ。その時は、僕も応援するし力にだってなるよ」
「う、うん。その時は、よろしくね」
王子が優しく言葉を掛けると、小泉は照れたように頬を赤らめながら答えた。
しばらく二人で歩いていると、和菓子店「穂むら」の前を通りかかった。
「あ、和菓子屋さんだ」
「ちょっとお母さんにお土産買っていこうかな」
「じゃあ僕も行くよ」
王子と小泉は揃ってのれんをくぐり店の中へと入っていった。
「いらっしゃいませー」
2人は店に入って声のする方を向くと驚きの表情をする。
「「あっ」」
「あ、花陽ちゃんに王子君!いらっしゃ~い」
ちょうど穂乃果が店番をしていたのだった。
「ど、どうも」
「こ、こんばんは」
王子と小泉は挨拶をするが、2人は驚きのあまり開いた口が塞がらない様子だった。
そんな2人の様子を見て穂乃果が声を掛ける。
「驚いた?ここは私の家がやってる和菓子屋さんなんだよ」
「そ、そうなんですか」
王子が答え、小泉は再びモジモジし始めてしまった。
「よかったら2人とも上がっていかない?これからµ’sの3人で集まるところなんだ」
穂乃果が提案する。
「ど、どうしようか」
「せっかく来たんだし、少しだけでも上がってこうか」
小泉に意見を求められ、王子はお言葉に甘えることにした。
「やったー!穂乃果の部屋はそこの階段を上がった所にあるから。今、海未ちゃんが先に来てるよ」
穂乃果は嬉しそうな表情で階段を指さしながら言った。
王子と小泉は2人で階段を上がっていったが、階段を上がるとそこには部屋が2つあった。
どっちの部屋だろうと2人は迷ったが、とりあえず開けてみようと王子が階段から見て手前側の部屋のドアを開け、2人は中を覗いた。
「ふんぬぬぬぬぬぬ・・・このくらいになれば!」
そこには顔に美容パックをつけて、バスタオル1枚の姿で自分の胸を寄せている穂乃果の妹:雪穂の姿があった。
その様子を見て2人は慌ててドアを閉めた。
「あ、茜君・・・」
「小泉さん!ご、誤解だよ!僕は決して覗きたくて覗いたわけじゃないんだ!ただ普通に間違えちゃっただけで・・」
「だ、大丈夫だよ。ちゃんと、分かってるから」
王子が慌てて弁明し、小泉も慌てながら言葉を返した。
「じゃあこっちかな」
王子はそう言ってもう1つの扉に手を掛け少し開き、中を覗いた。
「ちゃーちゃちゃーちゃちゃーちゃらららーん!ジャーーン!ありがとうーー!」
「「・・・」」
そこでは海未がおもちゃのマイクを持ちながら、笑顔を振りまいてのライブの練習をしていたのだった。
2人は見てはいけないものを見てしまったと思い、無言でゆっくりとドアを閉めた。
「どうやらここみたいだね・・・」
「ど・・・どうしようか」
2人が静かに話し合っていると
バンッッ!!!
「「ピャア!!」」
勢いよくドアが開かれ、海未がまるで幽霊のような恐ろしく異様な雰囲気を放ちながら部屋から出てきたため、2人は変な声を上げて驚き、小泉は思わず王子に抱き着いてしまっていた。
さらに先ほど最初に見た部屋から雪穂も出てきたため、王子と小泉は挟み撃ちのような状態となった。
海未と雪穂は2人を睨みながらややドスの聞いた声を出した。
「「見ました?・・・」」
「「ヒイイィィ~」」
王子と小泉はお互いにしっかりと抱き合いながらガタガタと身を震わせていた。
「「ご、ごめんなさい」」
「ううん、こっちこそごめんね。でもまさか海未ちゃんがポーズの練習をしてたなんて」
「穂乃果が店番でいなくなるからです!」
あの後、店番を終えた穂乃果が来てくれたことで事態は収束し、王子と小泉は揃って頭を下げていた。
「そ、それと・・・茜君、その・・さっきは・・・ごめん。いきなり抱き着いちゃって・・・」
小泉は王子に先ほど急に抱き着いてしまったことを謝りだした。
「いや、いいよいいよ気にしてないって」
(でも、小泉さんって意外と・・・大きいんだな・・・)
王子は返事を返しながら、抱き着かれた時の小泉の胸の感触を思い出していた。
「お邪魔しまーす。・・・ん?」
「遅れてすまない。・・・ん?」
すると、ことりとカケルが揃って部屋にやってきて王子と小泉の存在に気付く。
「か、カケルさん」
「王子!どうしてお前がここに?」
「えっ?もしかして、本当にアイドルに?」
「あ、いや、そ、その」
「2人で店に来たところを私が誘ったんだよ」
カケルとことりがそれぞれ訊ねると穂乃果が代わりに答える。
「みんなよかったらこれ食べて。穂むら名物穂むらまんじゅう、略して『ほむまん』!おいしいよ」
穂乃果がテーブルの上の皿の上に乗っている饅頭を指しながら言うと、王子がほむまんを美味しそうに眺める。
「うわぁ~美味しそう」
「王子。あんまり食い過ぎるなよ」
「はーい」
カケルが王子に釘を刺す。
「今日も来てくれてありがとうカケル君。駅伝部の自主練習終わった後なのに」
「いいってことよ。どうせ家近いんだし」
「えっ?近いってどういうことですか?」
カケルの返事を聞いて王子が訊ねる。
「そうか。お前にはまだ話してなかったよな」
カケルは、穂むらのすぐそばのアパートで一人暮らしをしていることを話した。
「ええっ?そうだったんですか?知らなかったです」
王子は驚きの声を上げ、話を聞いていた小泉も驚きの表情をしていた。
「でしょ~。穂乃果も初めて知ったときはびっくりしちゃったよ。あ、ことりちゃん。パソコン持ってきた?」
穂乃果は思い出したようにことりに声を掛ける。
「うん。持ってきたよ」
ことりはカバンからパソコンを取り出した。
「ありがとう~。私のパソコン、肝心な時に調子悪くなっちゃって」
すると小泉がパソコンを置けるように、テーブルの上の饅頭や和菓子が色々乗っている皿をどけた。
「あ、ごめんね」
「いいえ」
「小泉さん、僕が持つよ」
「あ、ありがとう」
王子は小泉の代わりに皿を持った。
「それより、動画は見つかりましたか?」
「動画?何の話だ?」
海未の言葉にカケルが訊ねる。
「はい。実は私たちのファーストライブのダンスが動画サイトにアップされているらしいんです。よく分からないですか、誰かが撮影していたようなんです」
海未が訝しげに答える。
「マジか!?」
「それ僕見ました。僕はてっきり皆さんが自分たちでアップしたんだと思ってたんですけど」
王子が言う。
「多分ここに・・・あ、あった!」
ことりがスクールアイドルの動画サイト内で例の動画を見つけ、全員が動画に釘付けになった。
「一体誰が撮ってくれたんだろう?」
「それにしてもすごい再生数ですね」
「いろんな人が見てくれたんだね」
「いや~、何回見ても本当に素晴らしいです」
ことり・海未・穂乃果・王子がそれぞれ動画を見ながら呟いた。
動画には、確かにµ’sのファーストライブの様子がしっかりと映し出されていた。
本当に一体誰が撮ってくれたんだ?、と不思議に思いながらカケルも動画を眺めていた。
「花陽ちゃん。そこじゃ見づらくない?」
穂乃果は全員の中で一番見づらそうな位置にいる小泉に声を掛ける。
しかし彼女は動画を真剣に見入っており、聞こえていないようだった。
「花陽ちゃん!」
「は、はい!」
小泉はようやく穂乃果の声が聞こえたようで、びっくりしながら返事をする。
「スクールアイドル、本気でやってみない?」
穂乃果は小泉に優しく問いかける。
「えっ?いや、でも・・・私、向いてないですから」
小泉は苦笑いしながら答える。
「私だって人前に立つのは苦手です。だから向いているとは思えません」
「私も、歌を忘れちゃったりするし運動も苦手なんだ」
「私もすごいおっちょこちょいだよ」
海未・ことり・穂乃果はそれぞれ自分の欠点を打ち明けた。
「僕だって、向いてないのを承知の上で駅伝部に入ったんだよ」
王子が言う。
「で、でも・・・」
「プロのアイドルなら私たちはすでに失格。でもスクールアイドルなら、やりたいっていう気持ちを持って自分たちの目標を持ってやってみることはできる」
「それがスクールアイドルなんだと思います」
「だから、やりたいって思うならやってみようよ」
ことり・海未・穂乃果が言う。
「もっとも、練習は厳しいですが」
「海未ちゃん」
「あ、失礼しました」
「そうだよ小泉さん」
王子が口を開く。
「小泉さんが本当にアイドルが大好きだって気持ち、僕はしっかりと感じた。それでいいんだよ。大好きだって気持ちを失わず、しっかりと持ち続けていれば自ずと答えは出てくるよ」
「・・・茜君」
「私たちはいつでも待ってるから、きっと答えを聞かせてね」
ことりが優しく言った。
すると小泉の表情が次第に笑顔になっていった。不安などはなく、希望に満ちたような晴れやかな表情だった。
(みんな・・・)
その様子をカケルは微笑しながら見守っていた。
【5月12日 金曜日】
放課後になり、小泉は学校の敷地内のベンチに腰かけていた。
少し俯きながら、昨日穂乃果・海未・ことり・王子に言われたことを思い出していた。
『やりたいって思うならやってみようよ』
『大好きだって気持ちを失わず、しっかりと持ち続けていれば自ずと答えは出てくるよ』
先輩たちは本当に熱心に誘ってくれたし、茜君も励ましてくれた。
あの時は、ちょっと頑張れるかなって思ったけど・・・
やっぱり・・・私なんかが上手く一緒にやっていけるのかな・・・
こんな私が・・・アイドルなんて・・・
「何してるのよ」
小泉は声のする方へ顔を上げると、真姫が立っていた。
「に、西木野さん」
「さっきの授業での音読聞いてたけど、あなた声は綺麗なんだから、あとはちゃんと大きな声を出す練習をすればいいだけでしょう?」
「で、でも・・・」
すると真姫は、目を閉じ息を吸い込んでから声を出し始めた。
「あーあーあーあーあー。はい!」
「えっ?」
「あなたもやってみて」
真姫に促され小泉は少し迷ったが、息を吸い込み真姫と同じように声を出し発声練習を始めた。
「あーあーあーあーあー」
「もっと大きく」
「あーあーあーあーあー」
「一緒に!」
「「あーあーあーあーあー」」
「ねっ?やってみると気持ちいいでしょ?」
「・・・うん!楽しい!」
真姫の問いに小泉が笑顔で答える。
すると真姫は恥ずかしそうに顔をそむけてしまう。
「はい!もう1回!」
「お~い!小泉さ~ん!西木野さ~ん!」
真姫の合図でもう1度練習を始めようとすると、ジョータ・ジョージ・王子が手を振りながら2人の下へ駆け寄ってきた。
「あなたたち」
「こんなところで何してるの?」
「ちょっと見てたけど、もしかしてアイドルに向けての発声練習?」
ジョージと王子が訊ねる。
「い、いや、その・・・」
小泉は返答に困ったようにモジモジし始めた。
「じゃあさ、みんなで歌おうよ!」
「「えっ!?」」
ジョータが提案し、小泉と真姫は同時に驚く。
「そうだね。その方がいい練習になるよね」
ジョータの提案にジョージも乗り気になっていた。
「ち、ちょっと!いきなりなに言いだすのよ!」
「いいじゃん!歌った方が楽しいって!」
恥ずかしそうに言う真姫をジョータがなだめる。
「じゃあ、早速行くよ!」
ジョージが合図をすると息を吸い込み歌い始める。
「さあ行こう 風に乗って はるかな明日を目指し♪」
「「走って行こう 君といっしょに♪」」
ジョージに続いてジョータと王子も一緒に歌いだし、王子が手で指揮を執っていた。
「「「波の音 僕を誘い♪」」」
するといったん歌を止めてジョータが2人に手招きをして促した。
2人とも恥ずかしがっていたが、やがて意を決したように歌い始めた。
「「風の音 僕を呼ぶよ♪」」
それからみんなで男女パートに分かれながら歌い続けた。
「「「緑の木々も 僕を待ってる♪
空を飛ぶ鳥のように 今僕も旅立つんだ
道は遠く長いけれど 僕らの世界へ♪
果てしなく広い宇宙 青い星 地球の上
僕らは一生懸命 生きている♪」」」
やがて全て歌い終わると駅伝部3人は笑顔で拍手をし、小泉も真姫もつられて拍手をした。
しかし小泉の表情は、とても晴れやかな笑顔だった。
(楽しかった・・・声を出すことが・・・歌うことがこんなに楽しいなんて思わなかった)
「ねっ?楽しかったでしょ?」
ジョータが2人に問う。
「うん!とても楽しかったよ!みんなありがとう!」
「ま、まぁ・・・悪くはなかったわね」
小泉は笑顔で答え、真姫は少し頬を赤らめながら答えた。
「か~よち~ん」
「凛ちゃん」
すると今度は星空がこちらへやってきた。
「やあ、星空さん」
「あっ、ジョータ君、ジョージ君、王子君。こんにちは」
ジョージが声を掛けると星空は駅伝部3人に挨拶をした。
3人とはすでに顔なじみであり、それぞれの愛称で呼んでいた。
「それに西木野さんも。みんな何してたの?」
「励まして貰ってたんだ」
星空の問いに小泉が答える。
「それより今日こそ先輩たちのところへ行って、アイドルになりますって言わなきゃ」
星空はそう言って小泉の腕を掴み、µ’sの練習場へ連れて行こうとする。
「そんな急かさない方がいいわ。もう少し自信をつけてからでも・・」
その様子を見て真姫が声を掛ける。
「なんで西木野さんが凛とかよちんの話に入ってくるの!?」
「別に、歌うならそっちの方がいいって言っただけ!」
「かよちんはいつも迷ってばかりいるから、パッと決めてあげた方がいいの!」
「昨日話した感じじゃ、そうは見えなかったけど!」
真姫と星空は小泉のことをめぐっての言い争いが始まってしまい、小泉とジョータ・ジョージ・王子は心配そうな表情で様子を窺っていた。
「ふ、二人とも落ち着いて!」
「喧嘩はダメだよ!」
「「黙ってて!!」」
「「は・・はい」」
ジョータとジョージが止めようとするが2人に一喝され引き下がってしまう。
「かよちん行こう!先輩たち帰っちゃうよ!」
星空は再び小泉の手を引いて連れて行こうとするが、真姫がすばやくもう片方の手を掴んだ。
「待って!どうしてもっていうなら、私が連れていくわ!音楽に関してなら私の方がアドバイスできるし、それに・・・µ’sの曲は、私が作ったんだから!」
「えっ?そうなの?」
「「「えーーーーー!!」」」
真姫の言葉を聞き、小泉は思わず聞き返し駅伝部3人は揃って驚きの声を上げていた。
「いや・・えっと・・・と、とにかく行くわよ!」
真姫は小泉の手を引っ張るが、星空も引き下がらずもう片方の手を引っ張っていた。
「かよちんは凛が連れていくの!」
「いいや私が!」
「凛が!」
「私が!」
2人はお互いに言い合いながら小泉の制止も聞かず腕を力強く引っ張る。
「ダレカタスケテー!!」
小泉はそう叫びながら2人に連れていかれて行ってしまった。
「お、おーい待ってよー」
「大丈夫かなぁ?」
ジョータ・ジョージ・王子はしばらく黙って見ていたが、心配になり3人の後を追いかけていった。
◎屋上◎
6人は屋上で練習をしているµ’s3人のところへやってきた。
そしてここを訪ねた旨を伝える。
「つまり、メンバーになるってこと?」
話しを聞いたことりが聞く。
「はい。かよちんは前からずっとずっと前からアイドルをやってみたかったんです」
「そんなことはどうでもよくて、この子結構歌唱力あるんです」
「どうでもいいってどういうこと!?」
「言葉通りの意味よ!」
「二人とも!今は喧嘩してる場合じゃないでしょ!」
再び言い争いが始まった2人にジョータが声を掛ける。
「わ、私はまだ・・・何ていうか・・・」
しかし小泉はまだ決断が出来ていないようだった。
「もう!いつまで迷ってるの!?絶対やったほうがいいの!」
星空が強い口調で言った。すると真姫が小泉の肩を掴みながら言う。
「それには賛成。やってみたい気持ちがあるならやった方がいいわ。さっきも言ったでしょ。あなただったら出来るわ!」
「西木野さん・・・」
「凛知ってるよ。かよちんがずっとずっとアイドルになりたいって思ってたこと」
星空も小泉の肩を掴みながら言った。
「凛ちゃん・・・」
「小泉さん!今こそ、勇気を持って君の本当の気持ちを伝えるんだ!頑張れ小泉さん!」
「小泉さん頑張れ!」
「頑張って!」
王子・ジョータ・ジョージも笑顔で小泉に檄を飛ばす。
「茜君・・・ジョータ君・・・ジョージ君・・・」
小泉は穂乃果たちの方へ向き直り話し始めようとする。
「あ・・あの・・・私・・・小泉・・」
すると真姫と星空がそっと小泉の背中を押した。
小泉は振り返り、真姫・星空・ジョータ・ジョージ・王子、みんなの笑顔を見ると、やがて決心がついたようにもう一度穂乃果たちの方を向き、大きな声で話し始めた。
「私、小泉花陽と言います。1年生で背が小さくて声も小さくて人見知りで得意なものは何もないです。でも・・・アイドルへの情熱は誰にも負けないつもりです!だから私を・・・µ’sのメンバーにしてください!」
小泉は目に涙を浮かべながらも、ようやく覚悟を決め自分の本心を伝えることができた。
彼女の想いを聞いた穂乃果・海未・ことりはゆっくりと小泉の方へ歩み寄った。
「こちらこそ、よろしく」
穂乃果が手を差し出した。
小泉は涙を拭ってから、笑顔で握手をするように穂乃果の手を握り返す。
「やったね小泉さん!」
「よく頑張ったよ!」
「これからも応援してるからね!」
王子・ジョータ・ジョージは拍手を送りながら労いの言葉を掛ける。
「よかったね~かよちん」
「何泣いてるのよ・・」
「だって・・・あ、西木野さんも泣いてる」
「わ・・私は別に泣いてなんか」
真姫と星空も小泉の様子を見て喜んでいた。
「それで2人はどうするの?」
ことりが真姫と星空に問う。
「えっ?」
「どうするって・・」
「「えーー!?」」
突然訊ねられ2人は揃って驚きの声を上げる。
「まだまだ部員は募集中ですよ」
海未とことりに手を差し出され、2人は少し考え込んだ。
「いいじゃん!2人ともやってみようよ!」
「うんうん!これならもっと華やかになるよ!」
ジョージと王子が声を掛けた。
「じゃあ、凛もやってみる!」
星空は手を上げて参加表明をする。
あとは西木野の返答を待つだけとなった。
「西木野さんも、答えは出せたかい?」
ジョータが真姫に問う。
「ええ。あなたに言われてから考えたんだけど、やっぱり私・・・まだまだ音楽を続けたい!私もやるわ!」
真姫はそう言うと凛と共に海未とことりの手を取った。
こうしてµ’sは新たな仲間が加わり、6人となった。
そしてまた、新しい「絆」が生まれたのであった。
「真姫ちゃん!ナイス!」
「うぅ・・・その・・・ありがとう、ジョータ///」
ジョータがグットサインを送ると、真姫は照れたように頬を赤らめながらお礼を言う。
「それより皆さん、駅伝部の練習は大丈夫なのですか?」
「「「あ・・・」」」
ジョータ・ジョージ・王子は海未に訊ねられると、揃って青ざめながら硬直する。
「ああああああやべええええ!!完全に遅刻だーー!!」
「ハイジさんに怒られるーー!ダレカタスケテーー!」
「2人とも!チョットマッテー!」
3人は慌てて屋上を出て駅伝部の練習へと向かっていった。
ようやく4話分まで来れました。本当にずいぶん引っ張ってしまいましたね。
次回は少し駅伝部の試合を挟みます。