◎東京体育大学◎
記録会に来た9人は次のカケルの組の開始時間まで間があるため、それまで自由時間となった。
一同は持ってきたシートに座って待つことにした。
みんなが談笑し合っている中、真姫は本を読んでおり、王子は先ほどまで疲れてぐったりしていたが現在は回復し持ってきたパソコンでイヤホンをつけながらアニメ鑑賞をしている。
「王子の奴、こんなところでもアニメ鑑賞とは・・」
「王子君ってアニオタなのかにゃ~?」
「そうだよ。かわいい女の子キャラにでも励ましてもらってるんじゃないかな?」
ジョータ・凛・ジョージが王子の様子を見てクスクス笑いながら呟く。
「ねえ王子君。何見てるの?」
穂乃果が声を掛けるが、聞こえないのか尚もパソコンに夢中になっている。
「王子君ってば!」
「は、はい。何でしょう?」
穂乃果は傍まで行って王子の肩を叩きながら声を掛け、王子はイヤホンを外す。
「それ何のアニメ?」
穂乃果がパソコンをのぞき込みながら聞くと、王子はカバンからDVDBOXのカバーを取り出す。
「これですよ。『スーパーアイドルギャラクシー』略して『アイギャラ』という美少女アイドルアニメですよ」
王子はカバンからDVDBOXのカバーを取り出して説明する。
「アイギャラ!!??」
「うおっ!」
突然花陽が声を上げ、隣にいたカケルがびっくりしていた。
すると花陽は素早く王子のもとへ移動し、目を輝かせながらDVDBOXを眺めた。
「このアニメ、私も大好きだよ!私もこれ予約したんだけど、まだ届かなくて・・」
「じゃあよかったら、一緒に見ない?」
王子がイヤホンの片方を差し出す。
「いいの!?ありがとう~」
花陽は嬉しさのあまり目を潤ませながらお礼を言い、片耳にイヤホンをつける。
そして2人で身を寄せ合いながら揃ってワクワクした表情で画面を眺める。
その様子は傍から見るとまるで恋人同士のようだった。
「あの2人いい雰囲気だな~」
「同じアイドル好き同士、馬が合うんだろうな」
ジョージとジョータがニヤニヤしながら言う。
「小泉だっけか?なんかさっきと違ってずいぶんイキイキとしてるな」
「かよちんはアイドルのことになると目の色が変わるんです。凛はこっちのかよちんも好きだにゃ~」
「あ~そういえばそうだったね~」
平田・凛・穂乃果が言う。
カケルも、以前穂乃果の部屋でµ’sの動画を見てた時のことを思い出しながら、「確かに」と思った。
「ん?」
すると平田は、今度はみんなから離れて1人で本を読んでいる真姫のことが気になり始めた。
「よっ。何やってんだ?」
「ウェッ?ひ、平田先輩」
平田はゆっくりと真姫に近寄って声を掛け、真姫は少し驚きの声を上げた。
平田は真姫が持っている本に目を落とした。よく見ると、大学受験用の参考書だった。
「ほぉ~、こんなところでも勉強か。王子と違って真面目だな」
「・・・スクールアイドルを始めたからといっても、勉強を疎かにするわけにはいきませんから」
感心する平田に真姫が答える。
「何か目指してることでもあるのか?」
「はい。私、大学は医学部を目指していて、将来はパパとママが経営している病院を継ぐつもりなんです」
「へぇ~医学部かぁ、すげえな。俺なんかと全然ちがうなぁ~。ん?そういえばお前、西木野っていったよな?もしかしてその病院って、西木野総合病院か?」
「ええ、そうですけど」
「マジか!?実は俺の親父の行きつけの病院でな、仕事でどっか怪我した時にいつもお世話になってるぜ」
「そうだったんですか!?」
「ああ。親父が言ってたぜ。あそこの先生は本当に腕利きの素晴らしい医者だってな」
「あ、ありがとうございます・・・」
自分の親のことを褒められ、真姫は少し嬉しそうに頬を赤らめていた。
「平田先輩は将来どうするんですか?やっぱり実家の工務店を継ぐんですか?」
真姫が訊ねる。
「ああ。高校を卒業したらすぐに修行から始めるつもりだ。だから今年が、学生生活の集大成になる。だからこそ、今しかできないことを思いっきり楽しんで悔いの残らない高校生活にして見せる。そのためにも、このみんなで高校駅伝に出てぇんだ」
平田が静かに力強く答える。
(今しかできないこと・・・)
真姫は心の中で呟き、少し間を置いてから口を開いた。
「私もこれからの3年間の高校生活、悔いが残らないものにして見せます。だから先輩も、その・・・頑張ってください」
真姫は少し恥ずかしそうにしながらも、優しく微笑んで平田にエールを送った。
「おう!サンキューな!」
平田は満面の笑みを浮かべて真姫の頭を撫で始めた。
「こ・・子ども扱いしないでください!////」
真姫が顔を真っ赤にしながら言った。
「なんだかあっちもいい雰囲気だにゃ~」
「ホントだね」
「真姫ちゃん・・・」
平田と真姫の様子を、凛とジョージは微笑ましそうに眺めているがジョータは少しモヤモヤしているようだった。
(そういえばそろそろ、高志の試合が始まるな)
カケルが腕時計を確認する。
◎駒沢オリンピック公園陸上競技場◎
一方都大会は、いよいよ3000m障害の決勝が行われようとしていた。
高志は午前中の予選を勝ち抜き、決勝にコマを進めていた。
決勝は16人で行われ、上位6人が関東大会に進出できる。
高志は今、他の選手と共にスタート地点に並んでいた。
その様子を、付き添いのハイジと海未が見守っている。
(高志・・・頑張ってください)
海未は両手を合わせて祈りながら心の中でエールを送っていた。
「位置について!」
パーーーーーーーン
スタートの号砲が鳴り、選手が走り出した。
その瞬間、各高校勢の声援が飛び交った。
「高志ファイトー!」
「高志ファイトデース!」
「高志君頑張って~」
ユキ・ムサ・ことりがスタンドから声援を送る。
「高志!余裕持って落ち着いていこう!」
「高志ファイトですよー!」
ハイジと海未もタイムを計測しながら大きな声を掛ける。
高志はしっかり集団についていきながらテンポよく設置されているハードルを飛び越えていた。
まもなく1000mを通過しようとしていた。
「ハッ・・ハッ・・」
(よし。脚はしっかり動いてるから状態は悪くない。落ち着いていけば勝てる)
高志は心の中で言い聞かせながらさらにハードルを飛び越えた。
しかし・・・
ガッ!
「あぁっ!」
ドサァッ!!
ハードルを飛び越えた直後、相手選手と脚が絡まり高志は転倒してしまった。
「高志!!」
海未が叫んだ。
高志はすぐに立ち上がったが、集団からは大きく遅れてしまった。
「高志焦るな!まだ大丈夫だから落ち着いていけ!」
ハイジが必死に声を掛けるが、高志はすっかり動揺してしまっていた。
前の集団との差がなかなか縮まらずにいる。
「ハァ・・ハァ・・」
(こんな大事な時に何をやっているんだ俺は・・・こんなみっともない形で終わってしまうのか・・・)
「高志!高志ーー!」
「!!」
意気消沈している高志の耳に海未の声が聞こえた。
「あなたはまだ終わっていません!最後まで諦めちゃだめですよ!」
(う・・・海未ちゃん・・・そうだ・・・まだ試合は終わっていない!諦めちゃだめだ!最後まで戦うぞ!)
高志は海未の声を聞いて再び息を吹き返し、懸命に前の選手を追っていった。
やがて残り600mとなった。
高志はペースを上げ、集団からこぼれた選手を1人1人着実に抜いていった。
「いいぞ高志!そのペースでいけば6位まで行けるぞ!」
ハイジの檄を聞き、高志は前を見据えた。
高志は現在9位であり、関東大会出場枠の6位との差は約10mのところまで来ていた。
(あと、もう少しだ)
そして最後の1周に差し掛かり、それを知らせるベルの音が響いた。
高志は最後の力を振り絞りラストスパートをかけたが、前の選手も同じくスパートをかけていた。
しかし差は確実に縮まっていた。
「ハァ!・・ハァ!・・」
高志は必死の形相で前を追い、その差はあと4mまできた。
そして最後の直線に入る。
「高志ーーー!!」
ゴール地点に海未が大声で呼んでいるのが聞こえる。
ゴールに近づくにつれ6位との差も縮まっている。
あと3m・・・2m・・・1m・・・
ついに高志はフィニッシュした。
ゴールラインを越えてからばったりと倒れ込んだ。
高志のタイムは9分32秒31で第7位であり、6位との差はわずか0.18秒であった。
ほんの僅差で高志は関東大会出場を逃してしまった。
「惜しかったな、高志」
「残念デス・・・」
スタンドで見ていたユキとムサが呟いた。
「でも、高志君よく頑張ったよ」
ことりが微笑みながら言った。
そして高志に向けて、パチパチと拍手を送り始めた。
ムサもユキも一緒に拍手を送った。
「お疲れさま、高志君」
「高志!大丈夫か!?立てるか!?」
ハイジは急いで高志に駆け寄ると、高志はゆっくりと立ち上がった。
「高志、お疲れ。・・・!!」
高志の目には涙が溢れていた。
転倒したうえにわずかな差で敗退した悔しさがこみあげていた。
「あれは完全に自分のミスです・・言い訳はしません・・・でも・・・俺・・・やっぱり悔しいです・・・」
「高志・・・」
高志は言葉を絞り出すと両手で顔を覆い、尚も泣き続けた。
「お疲れ様です。高志」
すると海未が高志の前に現れ、優しく声を掛けた。
高志は声を聞き、顔を上げた。
「海未ちゃん・・・ごめん・・・俺・・・」
「いいえ、あなたはよく頑張りました。何も恥じることはありません。最後まで諦めずに戦い続ける姿、とても感動しましたし、大変立派でした」
「ありがとう・・・海未ちゃん・・・うううぅぅ」
海未の労いの言葉を聞き、高志は再び涙が込み上げ海未は持っていたタオルを差し出した。
「今は思いっきり泣いてください。そして、それからは次のステージに向けて頑張ればいいんです」
タオルで顔を覆う高志を海未は励まし続けた。
(お疲れ高志・・・来週は俺たち、お前の分も頑張るからな!)
2人の様子を見守っていたハイジが心の中で誓った。
◎東京体育大学◎
カケルは、試合時間が近づいてきたため競技場周辺でジョッグを行っていた。
走りながら船橋第一の選手はいないかと周りを見渡したが、今日も来ていないようだった。
「おーい、カケルくん」
すると穂乃果が声を掛けてきた。
「どうした?」
「あのね、さっき平田先輩たちにハイジさんから連絡があったみたいなんだけど・・・」
すると穂乃果は高志が都大会敗退になったことを伝えた。
「そうか・・残念だな」
「うん。高志君すごく悔しがってたって」
「でも高志にはまだ来年があるし、海未がそばについててくれてる。あいつは本当にしっかりしてるからすぐに気持ちを切り替えて、また頑張ってくれるだろう」
「うん。そうだね」
「よし!今日はいい記録出してあいつを少し元気づけてやるか!」
「その意気だよカケル君!ファイトだよ!」
「おう!」
「位置について!」
パーーーーーン
そして本日最後のカケルの試合がスタートした。
「カケル君ファイトー!」
「カケル先輩ファイトでーす!」
「いけカケルー!」
「頑張ってくださーい!」
カケルはみんなの声援を受けながら走り出していった。
この組のほとんどの選手が、箱根駅伝の常連校の大学生選手だった。
そんな選手たちにカケルは果敢に食らいついていった。
そして応援している穂乃果たち8人の前をあっという間に過ぎていく。
「すごいにゃ~」
「何なの!?あのスピード!」
「は・・速いね」
凛・真姫・花陽は初めて見るカケルの走りに感嘆していた。
「そうだよ!これがカケル君の走りなんだよ!」
穂乃果がワクワクしながら言う。
カケルはスタートからずっと先頭の大学生集団にただ1人の高校生として食らいついており、やがてラスト1周に差し掛かった。
集団はどんどんスパートをかけ始め、カケルもついていった。
「すごい。さらにペースが上がった」
花陽が驚きの声を上げる。
「いけカケルー!」
「カケル先輩ラストっすよー!」
「カケル君!いっけー!!」
カケルは全力疾走でゴールに飛び込んだ。
全体の5番目にフィニッシュし、タイムは14分26秒だった。
「よし!」
目標のタイムを達成でき、カケルは小さくガッツポーズをとる。
(この調子でもっと頑張って、必ず藤岡さんに追いつくんだ!)
「カケルくーん!」
「カケルー!」
「お疲れさまでーす!」
振り向くと穂乃果たち8人全員が手を振って迎えに来ていた。
「みんな!」
カケルは腰ゼッケンを係員に返却すると、笑顔で手を振りながらみんなのもとへ向かっていった。
いかがでしたでしょうか?
今回は完全オリジナルで書かせていただきました。こんな下手くそな文章ですが、読者の皆さんに少しでも彼らの陸上に対する思いを、そしてµ’sとの絆の深まりを感じてもらうことが出来たら幸いです。
次回は再びラブライブ本編に戻ります。あの方の襲来編です。