【5月21日 日曜日 午前8時30分前】
◎秋葉原駅◎
駅伝部9人は穂乃果・ことりも交え秋葉原駅に集まっていた。
今日は都大会5000mの決勝が午後12時30分より行われる。
出場するハイジ・ムサ・ユキは3人揃って前日の予選を勝ち抜き決勝にコマを進めていた。
今日はµ’sも付き添いに来てくれることになり、現在残りのメンバーを待っているところだった。
ちなみに海未は弓道部の試合で来れないことになっている。
「凛ちゃんたち遅いなぁ~」
「早くしないと集合時間になっちゃうよ」
穂乃果とことりが周りをキョロキョロ見回しながら言う。
「大丈夫だよ。試合時間にはまだ十分余裕があるから」
2人の様子を見てハイジが答える。
カケルはハイジの右膝をチラッと見ながら思った。
(あの膝で昨日に続いて今日も走って、大丈夫なんだろうか・・・)
「あ、来た!」
穂乃果が指さしながら言ったので、全員が振り向くと凛・花陽・真姫・にこがやってくるのが見えた。
「あれが新たに加わったメンバーたちなんだね」
「でも、あともう1人ほどイマスネ」
「へぇ~、ずいぶん人数増えたんだなぁ」
高志・ムサ・ハイジが彼女たちの姿を見ながら言った。
そっか、3人とも見たことなかったよな、とカケルは思った。
「ん?なんか見慣れない人がいますね」
「あいつは、矢澤じゃねえか」
「知り合いなんですか?」
「知ってるもなにも、俺と同じクラスだよ」
ジョータの問いに平田が答える。
「にこ・・・」
ユキがにこの姿を見て小さく呟いた。
「ってことは3年生!?」
「そうは見えないですけど」
「それは失礼だよ」
ジョータ・ジョージの言葉に王子が言う。
「みんなおはよう~」
「「おはようー!」」
到着した4人にことりと双子が手を振って挨拶をする。
「おはようございま~す」
「ごめんなさい。遅くなってしまって」
凛がみんなに挨拶し、花陽が申し訳なさそうに言う。
「気にしなくていいよ。みんなもさっき来たばかりだから」
カケルが返す。
「みなさんにお知らせがあります!実は私たちµ’sにさらに新しいメンバーが加わりました!それは・・」
「待って!紹介は自分でやるわ!」
穂乃果が駅伝部員たちににこのことを紹介しようとしたが、本人が制止した。
にこは一旦後ろを向くと再び駅伝部員たちの方に向き直り、自己紹介を始める。
「駅伝部のみなさーん!初めましてー!みんなのハートににこにこにーの矢澤にこでーす!私のラブにこパワーで今日の試合もファイト一発!にっこにっこにー!」
「「「・・・・・・」」」
にこは笑顔を振りまいて自己紹介を終えた。
アイドル好きの王子と日本文化好きのムサは拍手を送るが、他の部員は反応に困ったように呆然としていた。
ユキと真姫はやれやれと言うように揃ってため息を吐いていた。
「ま・・まぁ・・・よろしく頼むよ」
「「「よ、よろしくお願いします」」」
ハイジが先になんとか言葉を絞り出し、双子と高志が揃って挨拶を返した。
「ふん!何よ、ノリが悪いわね」
「まあまあにこ先輩」
駅伝部の反応を見てにこは頬をプクッと膨らませて機嫌を損ねてしまい、穂乃果がなだめにかかる。
「Jambo!」
するとそこへムサがやってきて母国語で挨拶をし、にこは突然話しかけられ対応に困りだした。
「うえぇっ!が、外国人!?え・・えーと・・・ハロー・・」
「さっきのポーズ、よかったデスヨ」
(って、日本語ペラペラじゃないの!)
「初めまして。ムサ・カマラデス。今のはスワヒリ語で『こんにちは』という意味デス」
「そ、そうなんだ~」
「それより、にこサン可愛かったデスヨ」
「本当~!?///」
「ハイ。アイドルみたいで素敵デシタ」
「ありがとう~!そう言ってもらえて嬉しいにこ~!」
にこは嬉しさのあまりムサと握手しながらお礼を言う。
「ニッコニッコニー・・こうデスか?」
「違うわ。人差し指と小指と親指を立てて・・・こうよ!にっこにっこにー!」
「ニッコニッコニー」
早速ムサは先ほど披露したポーズをにこに教わり始めていた。
「すごーい!国際交流が始まったにゃー!」
「はは、ムサったらすっかり気に入ったみたいだな」
「こりゃ、そのうちケニアにあれが流行る日が来るかもな」
凛・ハイジ・平田が呟き、他のみんなも微笑ましそうにその様子を見ていた。
(早速ファンが出来てよかったじゃねえか、にこ)
ユキが心の中で呟いた。
「さて全員揃ったようだから、みんな出発するぞ」
「「「はい!」」」
ハイジの号令で一同は駅の改札を抜けた。
駅のホームで電車を待っていると、にこがモジモジしながらユキに声を掛けてきた。
「ねえユキ・・・」
「ん?なんだ?」
「その・・・この前は、ありがとう」
にこは少し顔を赤らめ恥ずかしそうにお礼を言った。
「聞いたわよ。あんたがあの子たちにお願いしてくれたんでしょう。私を仲間に入れてあげて欲しいって」
「・・・別に、ただいつまでも意地張り続けてるのが見てて鬱陶しくなっただけだ」
「あんたらしいわね。でもいいわ。これからこのグループを、『みんなを笑顔にさせるアイドル』にしてみせるわ!だから、ライブやることになったら・・・見に来てよね・・・それと、今日の試合、頑張ってよね///」
「言われなくてもそのつもりだ。しかし、相変わらず寒い自己紹介だったなぁ」
「ぬぅあんでよ!!アイドルやるって決めてから一生懸命考えたんだから!」
「はいはい。ご苦労なこった」
「もう!ユキのいぢわる!分からず屋!」
「ああ、意地悪でも分からず屋でも結構だ」
「あの2人、なんかいい雰囲気じゃない?」
「だよね~」
ユキとにこが話し合ってる様子を見ながら双子が呟く。
「そういえばあの2人、中学の頃からの知り合いだって言ってたよ」
双子に穂乃果が説明する。
「マジかよ!?あいつらそんな前から付き合ってたのか!?」
穂乃果の言葉を聞き、平田が声を上げる。
「「付き合ってない!!勝手な事言うな!!・・あっ・・・フン!」」
ユキとにこは平田の声が聞こえたようで2人同時に抗議し、お互い顔を見合わせるとすぐにそっぽを向いた。
「す・・すげえ・・・見事なハモりようだ」
「息ぴったりだにゃー」
2人の様子を見てカケルと凛が呟いた。
「2人とも仲がよいのデスネ」
「「仲良くない!!・・うっ・・・」」
ムサが訊ねるとまたしても2人は見事なハモりを見せ、一同は笑いをこらえるのに必死になっていた。
「「「プッ・・クククク」」」
「「笑うなーー!!」
やがて一同は電車を降り、試合会場の「駒沢オリンピック公園陸上競技場」へ向かって歩いていた。
「ねえねえカケル君。今度の試合っていつあるの?」
「そうだな。2週間後の世田谷競技会になるな」
「その試合にジョージ君も出るの?だったら凛、絶対応援行くね」
「うん!その時はよろしくね!」
「今日もことりが付き添ってあげるから、頑張ってねムサ君」
「ありがとうゴザイマス。頑張りマス」
「真姫ちゃ~ん。もうすぐ中間試験だから明日勉強見てくれない?」
「しょうがないわね。でも、これでいい点取れなかったら承知しないわよ」
「なあハイジ・・・うちの部活、どんどんリア充が増えてきてねえか?」
「ははは・・・まぁ、仲がいいのは良いことじゃないか」
それぞれ仲良く談笑し合ってる部員たちを見て、平田とハイジが呟いた。
「なんだお前、僻んでんのか?」
「男の子ね~」
「う・・うっせぇ!」
ユキとにこにからかわれ、平田はそっぽを向く。
「茜君、実は昨日茜君が欲しがってたグッズ、秋葉原で手に入れてきたよ」
「本当!?ありがとう!」
その一方で王子と花陽はアイドル関連について語り合っていた。
「ちょっと待ってね。今見せるから」
花陽はそう言うと、自分のバッグの中をあさり始めた。
その時・・・
バッッ!! ダッダッダッダッ
「ああ!私のバッグ!」
「ひったくりだ!」
「「何!?」」
花陽と王子の声を聞き、一同は何事かと振り返る。
実は突然すれ違った男が花陽のバッグをひったくり逃げ出していったのだ。
「待って~!バッグ返してくださ~い!」
「あの野郎!待ちやがれ!」
「カケル!」
「カケル君!」
カケルはすぐさまひったくり犯を追いかけ始めた。
するとひったくり犯が逃げていく方向に、1人のスポーツジャージを着た男性が立っていた。
「おらぁどけぇ!!」
「あぶない!」
ひったくり犯はその人物に拳を振り上げ、ことりが叫びながら両手で顔を覆う。
「!!」
「ハアアッ!!」
しかし次の瞬間、スポーツジャージの男性がひったくり犯の腕を掴むとその身体を宙に浮かせ、背負い投げでひったくり犯を投げ飛ばした。
「グアッ!」
「今だ!全員捕らえろ!」
すると今度は、ひったくり犯が地面に叩きつけられたと同時に、投げ技を決めた男性と同じジャージを着た集団がひったくり犯を捕らえ始めた。
そのうちの1人が、たまたま近くにいたパトロール中の警察官を呼びひったくり犯はそのまま逮捕された。
「はい。これ、君のバッグだよね」
先ほどの男性は盗まれたバッグを花陽に返した。
「あ、ありがとうございます!」
「例には及ばないよ。最近こういう事件が多いから、気を付けるんだよ」
花陽がお礼を言うと、男性は爽やかな笑顔で答えた。
その男性は、長身で黒の長髪に整った顔立ちをしておりモデル並みのルックスの持ち主であり、真姫以外のµ’sメンバーが思わずうっとりと眺めてしまうほどだった。
「君たち、もしかしてこれから都大会に向かうのかい?」
男性は駅伝部員たちを見回しながら訊ねた。
「ああ、そうさ。5000mに出場することになっている」
男性に聞かれ、ハイジが代表して答える。
「そうか。俺たちも出場するからお互いいい走りをしよう。今日はよろしく」
「「「よろしくお願いします!!」」」
男性が言うと、同じジャージを着た彼のチームメイトの集団が駅伝部に対して一礼をしながら挨拶をした。
「ああ。こちらこそよろしく」
「うん。それじゃあ失礼します」
ハイジが挨拶を返すと、男性は最後に一礼をし集団を従えながら去っていった。
彼らは全員上下青に白のラインが入ったジャージを着ており、背中にはオレンジ色の文字で「日学院大付属高校」と書かれていた。
「かっこよかったね~」
「はい・・とても素敵な人でした」
「すっごいイケメンじゃない!」
ことりと花陽とにこが男性の後ろ姿を眺めながら呟いた。
「まったく・・なにうっとりしてんのよ」
3人の様子を見て真姫が髪をいじりながらぼやく。
「部員全員礼儀正しかったね」
「スポーツマンの鏡って感じだにゃー」
穂乃果と凛が言った。
カケルは先ほどの男性を見ながら思った。
さっきの背負い投げ、すごかったなぁ
いや、それだけじゃない・・・
あの人からは何か特殊なオーラを感じた
これは、初めて藤岡さんに会った時に感じたのと同じだ
あの人は一体・・・
「あいつら、日学院大付属高校の連中だな」
「ああ、東京NO.1の駅伝強豪校のお出ましか」
平田とユキが呟いた。
「「「東京NO.1!?」」」
2人の言葉を聞いてジョータ・ジョージ・王子はたちは説明を聞いて驚きの声を上げる。
なるほどな、とカケルは思った。
「日学院大付属って言ったら、東京都内でも屈指の進学校として知られてるわよね」
真姫が言った。
「あのチームはこれまで13年連続で東京代表として高校駅伝に出場している、まさに東京王者ってわけだ。そして彼らは、スポーツマンシップを大事にしていて対戦相手に最大の敬意を払い、挨拶などの礼儀が非常にしっかりしている優良チームとしても知られているんだ。そしてそのチームを率いるのが、一番前を歩いている彼だ」
ハイジは先ほどの男性を指しながら説明する。
「彼の名は黒田 龍(くろだ りゅう)。日学院大付属高校陸上部の主将でありエース。あの佐久清城の藤岡と並ぶほどの全国トップレベルの選手だ」
(藤岡さんと・・・並ぶ・・・)
カケルが心の中で呟いた。
「俺たちが全国高校駅伝に出場するためには、6ヶ月後の東京予選で彼らに勝たなければならないんだ」
ハイジは力強く宣言するが、他の部員たちは息を飲みながら日学院陸上部の集団を眺めていた。
◎駒沢オリンピック公園陸上競技場◎
間もなく試合開始時刻となるため、ハイジ・ユキ・ムサはスタート地点付近に集まっていた。
3人とも選手コールを終え、あとはスタートを待つのみとなり、それぞれストレッチをしたりシューズを履き替えたりと準備を行っていた。
3人の付き添いにはカケル・高志・王子・ことりが来ており、3人のストレッチやマッサージを手伝っていた。
やがてスタート3分前となりスタートラインに選手が集まり始めたのを見て、ハイジ・ユキ・ムサは一緒に集まった。
「よし!みんな!締まっていくぞ!」
「ハイ!」 「おう」
3人は声を掛け合うと右手の拳を交わし合い、それぞれのスタート位置へと向かった。
「ムサ君」
「ことりサン」
するとムサはことりに声を掛けられ振り返った。
「ゴールで待ってるからね」
「・・・ハイ!行ってきマス!」
ことりが笑顔で言葉を掛けると、ムサも笑顔で手を振りながら声を掛け、スタートラインに向かった。
一方他のみんなは観戦スタンドの方で試合の様子を見ている。
「いよいよ始まるね」
「ワクワクするにゃー」
穂乃果と凛がワクワクしながらスタートを待っていた。
スタンドからはこれからスタートする選手に対する声援が飛び交っていた。
「初めて来たけど、すごい盛り上がりね」
にこは周りの応援の声の凄さに圧倒されていた。
スタートラインにはハイジ・ユキ・ムサを含める全20人の選手が並んでおり、その中の上位6人が南関東大会に出場できることになっている。
そして審判員が台にのぼり、ピストルを構える。
「位置について!」
パーーーーーーーーーーン
号砲と同時に20人の選手が一斉にスタートした。
日学院高校の黒田が前に出て集団を引っ張る形になった。
「ハイジさんファイトー!」
「ユキさん落ち着いていきましょうー!」
「ムサ君頑張れ~」
コースの外側から付き添いのカケル・高志・王子・ことりが声援を送る。
「ハイジいけー!」
「「ユキさん!ムサさん!ファイトっすよー!」」
「頑張ってくださーい」
「ファイトー!」
スタンドからは平田・双子・花陽・凛・真姫が応援する。
「いっけーユキー!!」
それに負けじとにこも声を張り上げた。
選手の集団は最初の1kmを2分57秒で通過し、ハイジもユキもムサもみんな余裕を持ちながら集団についていた。
(いつもより少し速いペースだな)
(ムサ。残り2kmからが勝負だぞ)
(分かりマシタ。ハイジサン)
集団は依然としてひとかたまりになっており、変わらず黒田が引っ張る形となっている。
やがて3000mを通過した。通過タイムは8分58秒である。
すると集団に動きが出てきた。先頭のペースが上がり、余裕のない選手が徐々に遅れ始めてきた。
「ハッ・・・ハッ・・・ハッ・・・」
ユキも表情が苦しくなっており、集団から遅れかけていた。
「ああ!ユキ先輩が!」
「余裕なくなってきたな」
高志とカケルが呟いた。
「ユキ負けるなー!」
「ユキ先輩まだいけますよー!」
「ユキー!頑張ってー!」
平田・ジョータ・にこが檄を飛ばした。
しかしユキはついに集団から離れてしまった。
それでもしっかり前を見据えながら走り続けるユキの姿をにこはしっかり見つめていた。
(ユキ・・・)
「ハァ・・ハァ・・ハァ・・」
(あんたいつもこんなキツいことやってたの・・・)
「ハァ・・ハァ・・ユキ・・」
ハイジは集団から遅れたユキをチラッと振り返った。
(お前の分も俺たちが走るぞ)
ピシッ
(うっ・・・)
しかしハイジは右の膝に違和感を感じ始めていた。
(・・・今ここで無理するわけにはいかないな・・くっ)
ハイジはペースを落とし、集団から離れていった。
「ハイジさんも遅れちゃったよ」
王子が言った。
(ハイジさん・・意識的にペースを落とした感じだ・・・やっぱり膝が・・・)
ハイジの走りを見ながらカケルは思った。
(ハイジさん・・・ユキさん・・・2人の分も、私が頑張らなケレバ)
ムサは2人を振り返りながら思った。
集団は完全にばらけており、現在は黒田がトップで抜け出しその後を同じ日学院の2人が追っていた。
ムサは現在入賞圏内の5番目を走っており、まもなく残り1000mに差し掛かろうとしていた。
(よーし、あと1kmの辛抱デス)
ズキッッ
(ウッッ!・・・・お腹が・・・痛いデス)
残り1000mに差し掛かった途端、ムサの右脇腹に痛みが走りだした。
ムサは顔を歪めながら右脇腹を抑え、その間に2人の選手に抜かれ7位に落ちた。
「ムサ君!」
ムサの様子を見てことりが声を上げる。
「ムサ君どうしたんだろう?」
「お腹を押さえてます」
「なんだか苦しそう・・」
穂乃果・花陽・凛が心配そうな表情で呟いた。
「きっと『差込み』ね」
真姫がムサの様子を見ながら言った。
「差込み?」
「ええ。マラソン選手がたまに起こす腹痛よ。走っている時の衝撃で臓器が揺れ動き、その臓器に引っ張られた横隔膜が痛みを発することが原因なの」
穂乃果に訊ねられ真姫が医者の娘らしく説明する。
「おうかく・・まく?」
「呼吸運動をするための筋肉の1つよ。あんな急激なペースで走ったことによって、そこに痛みが出てるんだわ。早いとこペースを落とさないと危険だわ」
「そんな!」
「ムサさん・・・」
真姫の説明を聞き、ジョータとジョージが声を上げ、他のみんなは祈るような表情でムサを見つめた。
「ハァ・・ハァ・・」
ムサは脇腹が痛みながらも6位の選手のすぐ後ろについていた。
しかし痛みで表情は歪みっぱなしだった。
(こんな痛み・・辛くなんてありマセン・・・ワタシには・・・)
「ムサくーん!!」
「ムサ!」
「ムサさん!」
「負けるなムサ!」
「頑張ってくださいムサさん!」
ことりを始めとする仲間の応援がムサの耳に聞こえてきた。
(ワタシには・・・・みんながついてマスから!)
やがて残り1周に差し掛かり、それを知らせる鐘の音が鳴り響いた。
ムサは最後の力を振り絞って、痛みをこらえてラストスパートをかけた。
(持ちこたえてクダサイ・・・)
ムサは自分の脇腹に対して念じた。
そしてついに残り100mとなり、ゴールが見えてきた。
「ムサくーん!ムサくーん!」
ことりがゴール地点で手を振りながら必死に声を掛けているのが見える。
ムサはさらにギアを入れ替えスパートし、残り10mの所で選手を1人抜いたのを確認し、そのままゴールラインを越えた。
ムサはばったりと倒れ込み、ことりが急いで駆け寄ってきた。
「ムサ君!大丈夫!?」
「ハァ・・ハァ・・こ・・ことりサン・・・勝ちマシタヨ・・・」
ムサは小さくガッツポーズをしながら笑顔で答えた。
ムサは14分56秒で第6位に入り、南関東大会への出場権を勝ち取った。
「うん・・・お疲れさま、ムサ君」
ことりは両手でムサの手を握りながら優しい笑顔でで労った。
ハイジもユキもフィニッシュしていた。
ハイジは15分08秒で10位、ユキは15分23秒で15位という結果で、都大会敗退が決まってしまった。
「ハイジさん!お疲れ様です!」
「おうカケル。ありがとう」
カケルはフィニッシュしたハイジにタオルを差し出した。
「いや~結局ダメだったよ。みんな強いなぁ~」
(いや、絶対ハイジさんもっと行けただろう・・・やっぱりその膝、完治していないんじゃ・・・)
残念そうに語るハイジを見て、カケルは思った。
「おっしゃー」
「「ムサさん、南関東大会進出だ!」」
「やったー!」
一方スタンドでは平田・双子・穂乃果が喜びの声を上げ、みんなで一緒に拍手を送っていた。
「ムサさんすごかったね~、かよちん」
「うん。感動しちゃったよ」
凛と花陽が言う。
にこは疲労困憊で高志に抱えられながらトラックを後にするユキを見つめながら温かい拍手を送っていた。
(ユキ・・・)
それから一同は、本日行われたすべての競技を見終わり、会場の一画に集合していた。
みんなに向かってハイジが声を掛ける。
「みんな、今日は応援とサポートありがとう!おかげで、ムサが南関東大会に進出することができた!おめでとうムサ!」
ムサは6位入賞の賞状を掲げ、誇らしげに微笑んだ。
「やったねムサ!」
「おめでとうムサ君!」
「おめでとうー!」
「「おめでとうございます!」」
「ありがとうゴザイマス!皆さんの応援のおかげデス!次も頑張りマス!」
高志・ことり・穂乃果・双子が声を掛け、みんなは一斉に拍手を送り、ムサが笑顔で答えた。
しかしカケルは、今日の日学院高校の黒田の走りを思い出していた。
黒田は1着でフィニッシュし、タイムは14分43秒だった。
しかしフィニッシュした時は、まだまだ余力が残ってる涼しい表情だった。
その後、2位と3位には同じく日学院高校の選手がゴールし、表彰台は日学院高校が独占する形となったのだった。
(あの人の力はあんなもんじゃないはずだ・・・一体どんな走りをするんだろう・・・闘ってみたい・・・試合で)
その後一同は会場を後にし、秋葉原駅へ戻り、そこで解散となった。
「お疲れさまでしたー」
「お疲れさまでーす」
「また明日ー」
みんなそれぞれ帰路につき、駅前にはユキとにこだけが残った。
「さて・・帰るか」
「ユ・・ユキ!」
「?」
ユキがさっさと帰ろうとするとにこが声を掛けた。
「そ・・その・・久しぶりに・・・一緒に帰ってあげても・・・いいけど・・・」
にこは頬を赤らめモジモジしながら言う。
「べ・・別に変な意味じゃないのよ・・あんた、試合に負けて落ち込んでると思って・・・ホントに・・単なるついでっていうか・・」
「バーカ。誰が落ち込んでるんだよ。もうとっくに、高校駅伝予選に向けて気持ち切り替えてるっつの・・」
そう言ってユキは先に歩き出した。
するとすぐに振り返って声を掛けた。
「ほら。早く帰るぞ」
「・・・・うん」
にこは嬉しそうに微笑みながら頷き、ユキの隣を歩き出した。
「あ、それと・・・ユキ」
「なんだ?」
「・・・・今日は、お疲れさま///」
「・・・サンキュー」