9人の女神と9人の戦士 ~絆の物語~   作:アイスブルー

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今回はいままでとは違った書き方をさせていただきました。


第30路 密着と音伝

皆さんこんにちは。生徒会副会長の東條希です。

 

 

 

今回、全国高校駅伝出場を目指して活動している男子駅伝部にお邪魔しました。

 

 

 

そこで、部活紹介の一環として1人の部員の1日の生活に密着することにしました。

 

 

 

密着するのは、2年生の蔵原走君。

 

 

 

2年生ながらチームに勢いをつけているエースであり、主将の清瀬灰二君が「駅伝部の模範生」と認める選手です。

 

 

 

彼は現在親元を離れ1人暮らしをしているのですが、そんな彼が一体どんな1日を過ごしているのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~【  音 ★ 伝  】~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

【AM5:00~5:20 起床&朝家事】

 

 

 

彼は毎日朝の5:00に起床し、身支度を済ませてから5:20に朝練習に出発します。

 

 

 

今、下宿先のアパートから出てきました。

 

 

 

 

 

 

 

ガザッガザッ

 

 

 

「えっと、今日は燃えるゴミでいいんだよな」

 

 

 

 

 

 

出かける前にきちんとゴミ捨てを行っています。

 

 

 

この他にも、持っていく昼食の準備や洗濯物干しなどもやっているそうです。

 

 

 

1人暮らしなだけあって、仕事の量は膨大です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【AM6:00 朝練習】

 

 

 

 

学校に到着してから、部室に荷物を置き校門前で他の部員と共に準備体操をします。

 

 

 

何人か眠そうに欠伸をしている部員もいる中、彼は清々しい表情でウォーミングアップを行っています。

 

 

 

寝起きの良さにびっくりです。

 

 

 

 

 

「よし!みんな行くぞ!」

 

 

 

「「「はい!」」」

 

 

 

 

 

そして準備体操後、主将の清瀬灰二君の号令のもと、全員でジョギングに出かけていきました。

 

 

 

朝は学校周辺を40分間走ります。

 

 

 

清瀬君によると、朝は必ず全員揃って走るそうです。

 

 

 

チームをまとめるには、こういった一体感が大事なんですね。

 

 

 

 

 

 

 

【AM6:50~7:30 補強】

 

 

 

ジョギングから戻ってくると、今度はトレーニングルームできっちりと補強をこなしていました。

 

 

 

 

 

「33・・34・・35・・」

 

 

 

「ハッ・・ハッ・・ハッ・・」

 

 

 

 

腹筋、背筋、懸垂逆上がりなど、あんなに走った後にさらに汗を流しています。

 

 

 

でも、後輩の城太郎君によると「あれでもまだ軽いほうですよ」とのことでした・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【AM8:00 朝食】

 

 

 

朝練習が終わって教室に着くと、朝食を摂り始めました。

 

 

 

この日の蔵原君の朝食は、学校に向かう途中のコンビニで買ったジャムパンとカフェオレとヨーグルトです。

 

 

 

ちなみにクラスメイトの杉山高志君はメロンパン、ムサ・カマラ君はクリームパンでした。

 

 

 

やっぱりみんな、身体を動かした後は甘い物が欲しくなるようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

ムサ「ケニアのマンダジも美味しいデスけど、日本のパンも本当に美味しいデス。最近はソイジョイもよく食べてマス」

 

 

 

 

ムサ君はすっかり日本食が気に入っている様子です。

 

 

 

ちなみに『マンダジ』とは、ケニアで作られてる揚げパンのことです。私も食べてみたいです。

 

 

 

 

おっと、ここで蔵原君が机の上に紙を広げて何か書き始めました。一体何をしているのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

Q.何をしているのですか?

 

 

 

蔵原「今日の夕食のメニューを考えてます」

 

 

 

 

 

 

今のうちから夕食のメニューを考案するとは、さすがは駅伝部の模範生です。

 

 

 

 

 

 

 

 

【AM9:00 授業開始】

 

 

 

2年生組の午前中の授業は、1限目は英語、2限目は数学、3限目は現代文と教室での座学が続きました。

 

 

 

それでも蔵原君だけでなく、杉山君もムサ君もみんな真剣な表情で授業を受けています。

 

 

 

杉山君が言うには、「生活がしっかりしていなければ、競技にも結び付かない」と清瀬君がいつも言っていたので、みんなそれをしっかり守っているとのことでした。

 

 

 

 

「先生すみません!ここなんですけど・・」

 

 

 

「カケル。この問題ってどう解くのデショウ?」

 

 

 

「えっと、ここは・・」

 

 

 

 

 

授業が終わると、分からないところを積極的に先生に聞きに行ったり、仲間同士で一緒に解き合います。

 

 

 

強くなるためには、こうした姿勢が大事なんですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

【PM0:00 昼食】

 

 

 

「いや~今日もパンが美味い」

 

 

「穂乃果。カメラ揺れてますよ」

 

 

「あ~ゴメンゴメン」

 

 

 

 

昼食は中庭のテーブルでみんなで食べています。

 

 

 

蔵原君は手作り弁当のようです。

 

 

 

 

え~、メニューを見てみると、唐揚げとパプリカの揚げ浸し・玉子焼き・トマトとブロッコリー・ひじきの煮物、とスポーツ選手らしく栄養バランスも完璧です。

 

 

 

 

 

 

「練習や試合でいい動きをするには、食事と睡眠が非常に大事なので常にみんな心がけています。それに、ハイジさんにも言われてますから」

 

 

 

さすがは駅伝部のキャプテン、抜かりはありません。そしてそれをしっかりと守る部員たちもさすがです。

 

 

 

 

 

 

 

【PM4:00 練習開始】

 

 

 

 

「全員集合!」

 

 

 

「「「はい!」」」

 

 

 

いよいよこの取材のメインイベント。駅伝部の練習の時間がやってまいりました。

 

 

 

早速清瀬君の号令で、部員全員すばやく円を作って集合しました。

 

 

 

そしてキャプテンの指示・語り掛けを、真剣な表情で聞く部員たち。

 

 

 

これだけを見ても、本当に部がまとまっているのが分かります。

 

 

 

 

「「「よろしくお願いします!」」」

 

 

 

全員で一礼して挨拶を交わすと、いよいよ練習スタートです。

 

 

 

今日の練習は、各自フリージョッグとのことでした。

 

 

 

ウォーミングアップを終えた選手から次々と校外へ出ていきます。

 

 

 

 

 

「ハッ・・ハッ・・ハッ・・」

 

 

フォームを確認しながら淡々と走る岩倉雪彦君

 

 

 

 

 

 

「王子。今度の試合は20分切れそうか?」

 

 

「う~ん、まぁ調子は悪くないんでなんとか・・」

 

 

 

先輩と後輩でコミュニケーションを取りながら走る平田彰宏君と柏崎茜君。

 

 

 

 

 

 

「「イエ――イ!ピース!」」

 

 

 

カメラを見つけてピースする双子の城兄弟、兄の太郎君と弟の次郎君、本当にそっくりで見分けがつきません。

 

 

 

 

 

「ハッ・・ハッ・・」

 

 

 

おっと、ここで蔵原君も出発しました。

 

 

 

一体どれくらいのスピードで走るのか、カメラマンも必死に追いかけます。

 

 

 

 

 

タッタッタッタッタッ・・

 

 

 

 

「はぁ・・はぁ・・もうダメぇ~」

 

 

 

あっという間に離されてしまいました。速い!とにかく本当に速い!

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ・・ハァ・・ハァ・・」

 

 

 

「お疲れーっす・・」

 

 

 

1時間ほど経つと、走り終えた部員たちが戻ってきました。

 

 

 

これだけ走ったのに、どの選手もみんな涼しい表情です。

 

 

 

走り終わった部員たちに、ちょっとお話を聞いてみましょう。

 

 

 

 

 

 

Q.走るのは楽しいですか?

 

 

 

ムサ「ハイ。とても楽しいデス」

 

 

 

城(次郎)「メチャクチャ楽しいです!」

 

 

 

平田「まぁ調子が良ければな」

 

 

 

柏崎「最初はきつかったですけど、だいぶ慣れてきました」

 

 

 

そして、練習が終わるとみんなでクールダウン。

 

 

 

みんなで話し合いながらストレッチをしています。自然と笑顔が絶えない、いい雰囲気です。

 

 

 

 

 

それにしても、蔵原君がなかなか戻ってきません。

 

 

 

一体どこまで走って行ったのでしょう?

 

 

 

 

 

「ハッ・・ハッ・・ハッ・・」

 

 

 

あ、ようやく戻ってきました。

 

 

 

 

 

 

Q.どれくらい走った?

 

 

 

蔵原「80分くらい」

 

 

 

 

 

なんと、朝練習の2倍の時間を走っていました。

 

 

 

さすがエース。誰よりも練習熱心です。

 

 

 

 

Q.走るのは楽しいですか?

 

 

 

蔵原「まぁ・・昔からやってることなので、楽しい時は楽しいですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の練習は以上!解散!」

 

 

 

「「「お疲れ様でした!」」」

 

 

 

そして練習が終わると、再び全員集まって大きな声で挨拶。

 

 

 

礼に始まって礼に終わる。まさに体育会系らしく礼節がしっかりしていますね。私たちも見習いたいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【PM6:30 帰宅&食事準備開始】

 

 

 

部活が終わってようやく帰宅。しかし1人暮らしの蔵原君にはこのあと夕食の準備が待っています。

 

 

 

これから、蔵原君の家にお邪魔してお送りします。

 

 

 

まず玄関のドアをくぐると、すぐにキッチンがあります。

 

 

 

その反対側にお風呂とトイレがあります。そしてその奥にさらに部屋があります。

 

 

 

見てください。ちゃんと綺麗に整頓されていますね。

 

 

 

 

 

「なあ、ちょっと風呂入ってもいいか?」

 

 

 

「お、お風呂?///う、うん分かった。じゃあ部屋で待ってるね」

 

 

 

 

うふふ。まずは疲れた体を癒す時間が必要なようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、お風呂からあがり洗濯物を取りこんでから早速料理スタートです。

 

 

 

朝練習の後に考えていた今晩のメニューは、ハンバーグ・コンソメスープ・サラダ・大根とがんもどきの煮物・デザートのいちご、だそうです。

 

 

 

まずは、お米を焚いてから下ごしらえに野菜を切ることから始めます。

 

 

 

 

 

 

トントントントントントントントン

 

 

 

 

 

 

ご覧ください。見事なキャベツの千切りです。

 

 

 

やっぱり料理が出来る男の人は格好いいですね。

 

 

 

 

 

 

チラッ・・チラッ・・

 

 

 

 

 

 

おや、なんだかカメラが気になる様子です。

 

 

 

 

「ほ~らカケル君。笑って~」

 

 

 

「・・・・・」(ピース)

 

 

 

カメラマンの要望にもしっかり応えてくれました。

 

 

 

 

 

 

いよいよハンバーグ作りに突入です。

 

 

 

 

「意外と腕が疲れるんだよな・・」

 

 

 

そうボヤキながらも、しっかりと合い挽肉、炒めたタマネギなどをこねています。

 

 

 

そして、成形して、チーズを載せて、オーブンで20分ほど焼いて出来上がり!

 

 

 

 

「う~~ん・・いいチーズの匂い・・」

 

 

「おいおい・・」

 

 

 

うふふ。カメラマンもすっかり虜になってしまいました。

 

 

 

 

 

 

【PM8:00 夕食】

 

 

 

すべての料理の盛り付けも終わり、ようやく夕食にありつきます。

 

 

 

実は蔵原君、ハンバーグを作ったのは初めてだったそうです。

 

 

 

さて、気になるお味は・・・

 

 

 

 

 

モグモグ・・

 

 

 

 

 

「まぁ・・よくできた方ですね」

 

 

 

「んん!おいし~い!やっぱりカケル君が作ったご飯は最高だよ~!」

 

 

 

「お、おい穂乃果!カメラカメラ!取材中だろ!」

 

 

 

「あ、ゴメンゴメン」

 

 

 

う~ん、見てるととっても美味しそう。ウチ・・ゴホン!・・・私も食べてみたかったです。

 

 

 

 

 

食べ終わったら食器洗いをしなければなりません。

 

 

 

でも今回は取材をさせてもらったお礼ということで、カメラマンがやることになり、2人分の食器を洗いました。

 

 

 

 

 

「えへへへ、ピース」(洗いながら)

 

 

 

「おーい、ちゃんと洗えー」(カメラを向けながら)

 

 

 

 

 

【PM8:30 翌日の昼食の準備】

 

 

 

食器洗いが終わっても、まだまだ仕事が残っている蔵原君。

 

 

 

翌日の昼食の準備に取り掛かっています。

 

 

 

再びお米を仕込んでおかずをお弁当箱の中に並べて冷蔵庫にしまいます。

 

 

 

練習で疲れてるはずなのに、本当に見ていて大変そうです。

 

 

 

 

 

 

【PM10:00 就寝】

 

 

 

就寝まではしばし自由時間。一体どんな風に過ごしているのでしょう?

 

 

 

 

Q.何をして過ごしていますか?

 

 

 

蔵原「う~ん・・宿題があったら宿題をやりますけど、他には勉強したり、ゲームをしたり、本を読んだりしてます」

 

 

 

 

Q.ちなみに好きなゲームって何ですか?

 

 

 

蔵原「レース系のゲームですね」

 

 

 

 

 

 

部活をやっているにも関わらず、たくさんの仕事をこなしてだいぶお疲れの様子です。

 

 

 

翌朝は再び朝練習のために、朝5時に起きなければなりません。

 

 

 

 

なので今回の取材はここまでになります。

 

 

 

蔵原君。忙しい中どうもありがとうございました。

 

 

 

 

「・・・・・」(カメラに向けて一礼)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでは最後に、部員1人1人のインタビューをお聞きください。

 

 

 

 

 

「3年◯組、主将の清瀬灰二です。創部当初から主将として高校駅伝出場を目標に、チームをまとめてきました。現在は部員も増え、選手1人1人が着実にタイムを縮めていき、チームの士気は高まっています。今年からは、更にスピードをつけることを意識して練習しています。最後の1年なので、悔いのないシーズンにしたいと思います。応援よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

「2年◯組、蔵原走です。音ノ木坂学院に来て2ヶ月になりますが、環境はとてもよく、チームもハイジさんを中心に非常によくまとまってるいいチームだと思います。与えられた環境に感謝の気持ちを持って、もっと練習して全国の様々な強豪選手と渡り合えるようになりたいと思います。応援よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

「2年◯組、ムサ・カマラです。去年までは、チームは東京予選に出場することも出来ずに悔しい思いをシマシタ。あれからさらに練習を積んで、今年は個人としては関東大会に出場することができマシタ。これから、インターハイ、さらには全国高校駅伝出場を目指して強気の走りをシマス。応援よろしくお願いシマス」

 

 

 

 

 

「2年◯組、杉山高志です。インターハイ予選では都大会で敗退となり、悔しい思いをしました。この悔しさを晴らすべく11月の高校駅伝予選では、持ち前の粘りの走りで予選突破に貢献したいと思います。応援よろしくお願いします」

 

 

 

 

「1年◯組、城太郎です。高校駅伝とは、チームの1年間の成果を発揮する集大成の場です。これから東京予選で走れる体力・精神力を付けるため、さらに練習していきます。初めての駅伝で緊張すると思いますが、本戦ではチームのために1秒でも早く襷を繋げて、高校駅伝に出場したいです。応援よろしくお願いします」

 

 

 

 

「1年◯組、城次郎です。高校駅伝とは、長距離選手にとって憧れの舞台です。このメンバーでその舞台に立つために、東京予選に向けてこれからもっと練習を積んでいきます。高校駅伝出場に貢献できる走りがしたいです。応援よろしくお願いします」

 

 

 

 

「3年△組、岩倉雪彦です。駅伝部に入ってからずっと東京予選を想定した練習を積んできました。今年の予選では、任された区間で1秒でも速く走り、高校駅伝出場に貢献します。応援よろしくお願いします」

 

 

 

 

「3年△組、平田彰宏です。これまで故障や不調で苦しい時期もありましたが、今は徐々に調子が上がっています。今年は陸上人生の集大成として、これまで培ってきた力を発揮し、チームの力になれるような走りをします。そして、このメンバーで必ず高校駅伝に出場します。応援よろしくお願いします」

 

 

 

 

「1年◯組、柏崎茜です。僕は陸上どころか運動部に入ること自体初めてのことで、まだよく分からないことだらけですが、もっと練習を積んで早くみなさんに追いついて、チームの力になれるように頑張ります。応援よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

音ノ木坂学院に新たな歴史を造るため、9人の『戦士』たちの闘いはこれから始まる・・

 

 

 

 

 

【  音 ★ 伝  】 ~終~

 

 

製作:音ノ木坂学院生徒会役員一同

 

 

編集・ナレーション:東條希

 

 

撮影協力:高坂穂乃果

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【6月1日 木曜日 昼休み】

 

 

 

◎アイドル研究部・部室◎

 

 

 

「うん。バッチリだよ。わざわざありがとう東條さん」

 

 

「ええんよ。このくらいお安い御用や。こちらこそ取材受けてくれてありがとう」

 

 

 

 

駅伝部9人は現在、穂乃果・海未・ことり・凛、そして生徒会副会長の東條と共にアイドル研究部の部室にいた。

 

 

実は生徒会で部活動の紹介をする動画を作成しており、その取材のため東條が駅伝部とアイドル研究部を訊ねてきたのである。

 

 

 

先ほどのやり取りは、東條が編集を終えた駅伝部の紹介映像であり、全員でパソコンで映像のチェックをしていたのだ。

 

 

 

 

「俺たちバッチリ写ってるよ!」

 

 

「とても緊張シマシタ」

 

 

「これでさらに人気出るかな?」

 

 

 

駅伝部員たちは映像についてワイワイと語り合っていた。

 

 

 

 

 

「はぁ~~・・本当に恥ずかしかった・・・しかし何でこんな密着取材なんて提案したんですか?ハイジさん」

 

 

カケルはハイジに訊ねる。

 

 

 

 

「そりゃあもちろん、カケルが誰よりも真面目に取り組んでいてみんなのいい見本になると思ったからだよ」

 

 

ハイジが笑顔で返す。

 

 

 

 

「そうだよカケル。今の映像を見て改めてカケルはすごいなって感じたよ」

 

 

「俺もっす!もっとカケルさんを見習って頑張らなきゃなって思いました!」

 

 

 

「そ、そうか・・」

 

 

高志とジョータに励まされカケルは少し照れくさくなった。

 

 

 

 

 

「それと穂乃果ちゃんも、協力ありがとう」

 

 

東條は撮影に協力した穂乃果にもお礼を言った。

 

 

 

 

「えへへへ~、今回の取材ものすごく頑張ったよ!なんたって、ずっとカケル君のこと見ていられたんだから」

 

 

「や、やめろよ穂乃果///」

 

 

 

嬉しそうな穂乃果の言葉にカケルは顔を真っ赤にし、ユキ・平田・ジョータ・ジョージがその様子を見てニヤニヤしていた。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ駅伝部はこれでいいとして、アイドル研究部の方はどうなっとるん?いい映像は撮れた?」

 

 

東條に訊ねられると、ことりは生徒会から借りたビデオカメラを机の上に置き、みんなで彼女が撮影したという映像を見ることにした。

 

 

 

 

 

映像を見てみると、穂乃果が授業中にも関わらず机に突っ伏して眠っているシーンが映し出されていた。

 

 

 

「スクールアイドルとはいえ、学生である。プロのアイドルとは違い、時間外で補習を受けたり、早退が許されるという事はない。故にこうなってしまう事がある」

 

 

東條はその映像に合わせてナレーションを始めだした。

 

 

 

 

「昼食を摂ってから再び熟睡。そして先生に発見されるという1日だ」

 

 

そのナレーション通り、先生に肩を叩かれ驚いて椅子から転落してしまっていた。

 

 

 

 

「ああ。これ、昨日の様子だね」

 

 

高志が呟いた。

 

 

 

 

「「アハハハハハ」」

 

 

双子は穂乃果の転びっぷりを見て大笑いしていた。

 

 

 

 

「笑わないでよ~!っていうかありのまますぎるよ~!」

 

 

映像を見た穂乃果が恥ずかしそうに叫んだ。

 

 

 

 

「上手く撮れてますね。ことり先輩♪」

 

 

「うん。先生に見つからないかドキドキしながら撮ってたんだ~♪」

 

 

凛の言葉にことりは照れ笑いを浮かべながら言った。

 

 

 

 

ことりって結構エグイことするよなぁ、とカケルは思った。

 

 

 

 

「ことりちゃんヒドいよ~」

 

 

「普段だらけているからこういうことになるんです。カケルを見習いなさい」

 

 

腕をブンブンと降って喚く穂乃果を海未が咎める。

 

 

 

 

 

「あ、今度は海未ちゃんだ」

 

 

高志が言うと、再び全員映像を見る。

 

 

 

 

その映像には、道着姿で弓道の練習をしている海未が映し出されていた。

 

 

 

 

「ほぉー、弓道か」

 

 

「なんかカッコいいですね」

 

 

「矢を放つ姿勢がとても綺麗だね」

 

 

映像の海未の姿を見て平田と王子とハイジが感嘆の声を上げ、海未は照れたようにモジモジし始めた。

 

 

 

 

すると映像の海未は鏡の前に立ち、しばらく自分の顔を見つめてから、いきなり猫のようなポーズをとりながら笑顔になりだした。

 

 

 

 

「これは・・・もしかして笑顔の練習?」

 

 

穂乃果が呟くと海未が慌てて映像を止めてしまった。

 

 

 

 

「プライバシーの侵害です!!」

 

 

海未は顔を真っ赤にしながら大声を上げる。

 

 

 

 

「そんなに恥ずかしがらなくても、海未ちゃん可愛かったよ」

 

 

「そうですよ。アイドルは笑顔が大事ですからね」

 

 

「自信を持ってクダサイ。海未サン」

 

 

 

「うぅ~・・でもやっぱり恥ずかしいです・・・」

 

 

高志・王子・ムサが励ますが、海未はまだ恥ずかしがっている。

 

 

 

 

「よーし、こうなったらー」

 

 

穂乃果は立ち上がり、クルリと1回転しながら机の隅に置かれたことりのカバンに手をかける。

 

 

 

 

「ことりちゃんのプライバシーも・・」

 

 

穂乃果はそう言いながらバッグのチャックを開ける。

 

 

 

「おい穂乃果!勝手に人のバッグを・・!!」

 

 

カケルは穂乃果の手を掴んで止めるが、その際にカバンの中が見えてしまった。

 

 

 

 

するとことりはものすごい速さでバッグを取り、慌てて後ろ手に隠した。

 

 

 

「ことりちゃんどうしたの?」

 

 

「何でもないのよ」

 

 

「でも・・」

 

 

「ナンデモナイノヨナンデモ!」

 

 

 

穂乃果が訊ねるとことりは慌てた様子で早口で答えた。

 

 

 

 

カケルはことりの様子を見て、先ほどのバッグの中身を思い出していた。

 

 

(何か見られちゃまずいものでもあったのか?・・・そういえば、なんか1枚の写真が入ってたな・・どんなだったっけ・・)

 

 

 

 

「カケル君、ちょっといい・・」

 

 

「ん?」

 

 

 

カケルが考えていると、ことりがカケルに部屋の端の方に手招きした。

 

 

 

 

「どうしたんだ?ことり」

 

 

 

 

 

 

 

 

「何にも見てないよね?」

 

 

 

 

ことりは他の人には聞こえないような小声で囁いた。

 

 

 

カケルは感じた。

 

 

今、ことりから物凄い異様なプレッシャー、そして殺気のようものが放たれていることを。

 

 

ことりは笑顔だが目が完全に笑っていない。

 

 

カケルはその光景を見て背筋がゾクッとし、冷や汗を掻き始めていた。

 

 

 

 

 

「なにもみてないよね?」

 

 

 

「・・・ハ、ハイ」

 

 

 

ことりがさらに問いかけ、カケルはその迫力に圧倒され素直に返事を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「完成したら各部の代表の人にチェックしてもらうことにしているから、何か問題があったら撮り直したり編集もできるし・・」

 

 

東條が説明する。

 

 

 

 

「でも、出来によっては生徒会長が黙っていないだろうな」

 

 

「確かに・・」

 

 

ユキが口を開き、ハイジも同意する。

 

 

 

 

「『あなたたちのせいで、音ノ木坂が怠け者の集団に見られるわよ!』ってな感じっすかね?」

 

 

「アハハハハ、似てねーぞジョージ」

 

 

「ジョージ君おもしろ~い!」

 

 

 

ジョージが声色を変えて絢瀬の真似をし、ジョータと凛が爆笑している。

 

 

 

 

 

「まぁそれは頑張ってもらうとして・・」

 

 

「ええ~!希先輩、何とかしてくれないんですか!?」

 

 

東條が申し訳なさそうに言うと、穂乃果が縋るような目で問い詰める。

 

 

 

 

 

「なぁ、東條だっけか?お前の力でなんとかしてやれないのか?こいつらだって頑張ってるんだよ」

 

 

 

「そうしたいんやけど、残念ながらウチが出来るのはみんなを支えてあげることだけ。アイドル研究部のみんなも、もちろん駅伝部のみんなも」

 

 

今度は平田が懇願するが、東條は穏やかな表情で返した。

 

 

 

 

「支える?」

 

 

「まあ、ウチのことはええやん」

 

 

 

 

 

ガチャッ

 

 

 

 

すると部室のドアが開く音がし全員が一斉に降り向くと、走って来たのか息を切らしたにこの姿があった。

 

 

 

 

 

「ああ、にこ先輩」

 

 

「やっと来たか」

 

 

穂乃果とユキが言った。

 

 

 

 

 

「はぁ・・はぁ・・しゅ、取材が来てるってホント?」

 

 

 

今頃かよ、とカケルは思った。

 

 

 

 

「もう来てますよ。ホラ」

 

 

 

にこの問いにことりが東條を手で指しながら答える。

 

 

 

 

するとにこは、みんなの前に立つと一旦後ろを向いた。

 

 

 

 

 

 

「にっこにっこにー!みんなの元気ににこにこにーの矢澤にこでーす!え~っとぉ・・・好きな食べ物はぁ~」

 

 

 

「ごめん・・・そういうのいらないわ」

 

 

 

再びみんなの方を向き、いつもの自己紹介を始めたが東條がが遮った。

 

 

 

 

「部活動の素顔に迫るって感じにしたいんだそうだ」

 

 

ハイジが説明する。

 

 

 

 

「素顔?・・・ああOKOK。そっちのパターンね。ちょーっと待ってて」

 

 

「「「??」」」

 

 

するとにこは再び後ろを向き、髪のリボンをほどいた。

 

 

そして再び向き直ると、何かスイッチが入ったように先ほどとは違いおっとりとした雰囲気を作り上げていた。

 

 

 

 

 

「いつも・・・いつもはこんな感じにしているんです。アイドルの時の私はもう一人の私・・・髪をキュッと止めた時にスイッチが入る感じで・・・え?あぁそうです。普段は自分の事、にこなんて呼ばないんです」

 

 

 

 

 

 

しかし気が付くと、壁に寄りかかってるユキ以外のみんなは部室から姿を消していた。

 

 

 

 

 

「あ、あれ?みんなは?」

 

 

 

「もうとっくに部室から出ていったぞ」

 

 

 

「ぬぅわんでよ!!」

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?

今回はとある大学陸上部の紹介動画をもとに書かせていただきました。


分かりづらかったら申し訳ありません。

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