【6月3日 土曜日】
◎アイドル研究部:部室◎
現在アイドル研究部の部室では、µ’sメンバー全員が集まり、机の周りの椅子に座っていた。
2日前に東條がカケルの部屋に来た際に「なぜ穂乃果がリーダーなのか?」という疑問を抱いたため、カケルはあの後穂乃果に一度みんなと話し合った方がいいと伝え、学校が休みの今日の午前練習後に、急遽話し合いが行われることとなった。
その様子をカケル・高志・ムサ・ジョータ・ジョージ・王子が後ろの方で立ちながら見守っている。
彼らも練習が終わってから、みんなの様子が気になり部室に足を運んだのである。
ちなみにハイジは治療院、ユキは勉強、平田は明日の試合に向け身体を休めるため先に帰った。
「これって何の集まりですか?」
「リーダーを誰にするかを決めるんだって」
「えっ?穂乃果先輩がリーダーじゃないんですか?」
「正式にそう決めたわけじゃないんだ。だからこうして、みんなで話し合うことにしたんだ」
ジョータ・ジョージの質問にそれぞれ高志とカケルが答える。
「リーダーは誰になるのか。大体私が部長になってから一度考え直すべきだったのよ」
にこがメンバーを見渡しながら口を開いた。
「ワタシは穂乃果サンがいいと思いますケド」
ムサが手を上げながら発言し、双子もウンウンと頷いていた。
「ダメよ。今回の取材ではっきりしたわ。この子はリーダーにまるで向いてないの」
「それもそうね」
ムサの意見をにこは拒否し、真姫もそれに賛同した。
「それに新しくPVも作らなきゃならないわ」
「「「PV?」」」
「アイドルっていうのは、基本リーダーが変わればセンターも変わってくるからね」
にこの発言に穂乃果と双子が疑問を持ち、アイドルに詳しい王子が説明をする。
「その通り!次のPVは新リーダーがセンターになるのよ!」
「でも・・一体誰が?」
花陽が問いかけると、にこは用意していたホワイトボードをクルリと回してひっくり返す。
するとそこにはリーダーについての説明が書かれていた。
「リーダーとは、まず第一に『誰よりも熱い情熱を持ってみんなを引っ張っていけること』。次に、『精神的支柱になれるだけの懐の大きさを持っている人間であること』。そして何より、『メンバーから尊敬される存在であること』」
にこは真剣な表情でホワイトボードの説明文を読み上げ、駅伝部を含むみんなもしっかり注目していた。
(確かに、この説明は筋が通っていて納得できるな。駅伝部ではハイジさんがまさにそれだ。でもµ’sのメンバーでそれに当てはまる人物は・・・)
カケルはにこの説明を聞いて考えた。
「この条件をすべて備えたメンバーとなると・・」
「海未先輩かにゃ?」
「なんでやねーん!」
にこが問いかけると、凛が海未を推薦してきた。
それについてにこがツッコミを入れる。
「わ・・私ですか!?」
「海未ちゃん向いてるかも、リーダー!」
海未は突然の指名に驚きの声を上げ、穂乃果は凛の意見に賛同する。
「うんうん・・・それもいいかもね」
「海未先輩、みんなの中で一番しっかりしてるもんね」
「うーん・・でも海未ちゃん、プレッシャーに弱いからなぁ・・変に気負いすぎるかも・・・」
双子は納得の表情で囁き合うが、高志は逆に心配の表情を浮かべていた。
「穂乃果はそれでいいんですか?」
「えっ?なんで?」
「リーダーの座を奪われようとしているのですよ?」
「ふぇ?それが?」
海未はこれまで実質リーダーだった穂乃果に問いかけるが、穂乃果は海未の言ってることにピンときていないようだった。
「だって、みんなでµ’sをやっていくのは一緒でしょ?」
「でも、センターじゃなくなるかもしれないんですよ!」
今度は花陽が口を開く。
「おお!そうか!・・う~ん・・・ま、いっか」
「「「え~~~!?」」」
穂乃果はようやく理解したようだったが、少し考えた後あっさりと引き下がってしまった。
(意外だな・・・穂乃果なら積極的に引き受けそうな気がしたんだが・・)
カケルは穂乃果の様子を見て思った。
「じゃあリーダーは海未ちゃんとということで・・」
「ま、待ってください!・・・わ、私には・・無理です」
穂乃果は海未を持ち上げるが、海未は顔を赤くしオドオドした様子で拒否する。
こりゃあ高志の言う通り無理そうだな、とカケルは思った。
「じゃあ、ことり先輩?」
「ん?私?」
花陽は今度はことりを指名した。
それについてみんなはウ~ンと首を傾げる仕草を取った。
「ことり先輩は副リーダーって感じだにゃ」
「そうですね。どっちかっていうと、みんなを支える縁の下の力持ちっていう感じですね」
凛と王子の言葉にみんなは『確かに』と頷いた。
「でも、1年生がリーダーってわけにもいきませんし・・」
「やっぱり穂乃果ちゃんの方がいいんじゃ」
「私は海未先輩を説得した方がいいと思うわ」
その後もメンバー同士で議論をぶつけ合っていた。
しかしその中でにこは1人で何度も「仕方ないわね~」と連呼しているが、誰も聞いていなかった。
(にこ先輩、自分がリーダーになりたいんだね・・)
(あからさますぎでしょ・・)
双子がにこの様子を見ながらヒソヒソと呟いた。
高志・ムサ・王子は『いいのかな~?』という表情で、話し合うメンバーとにこを見比べていた。
カケルは、ここは知らん顔をすることにした。
にこがリーダーになったら、色々変な企画を立てまくりそうだと思ったのと、自分たちに決める権利はないからメンバー同士で決め合わせるのが一番だと思ったからだ。
話し合いはしばらく続いたが、なかなか考えがまとまる気配がなかった。
ついに痺れを切らしたにこが宣言した。
「このままじゃらちが明かないわ!こうなったらここは一発、リーダー決定戦を行うわよ!」
「「「えっ?」」」
◎某カラオケボックス◎
一同は全員にこの提案でカラオケボックスへと場所を移した。
全部で13人もいるので、一番広い部屋を使うことにした。
「これで決着をつけるわよ!いい!?これからみんな1人ずつ歌って一番得点の高かった人がリーダーよ!」
にこがみんなに向かって説明をする。
「へぇ~面白そう!」
「みんなの歌が聞けるから楽しみだな~」
「ワタシ、カラオケって初めてデス」
双子とムサはワクワクした様子で眺めていた。
(なるほど。みんなの実力を見極めるにはいい機会かもしれないな)
カケルは思った。
「私、ちゃんと歌えるでしょうか?」
「私も特に歌う気はないわね」
その中で海未は不安がっており、真姫はやる気がなさそうだった。
「なら歌わなくて結構!リーダーの権利が消失するだけだから!」
にこは2人にそう告げた。すると部屋の隅の方にしゃがみ込みブツブツと独り言を始めた。
「クックック・・・こんなこともあろうかと、高得点の出やすい曲のピックアップは完了している。これでリーダーの座は確実に・・・」
(聞こえてるぞ・・にこ先輩)
カケルは心の中で呟いた。
「さあ、早速・・」
ガチャッ
「お待たせいたしました!」
にこが開始の合図をしようとした時、店員が事前にみんなが注文した人数分のドリンクとバスケットに入ったおつまみのセット2つ届けにやってきた。
「その前にちょっと食~べよっと」
「カラオケって久しぶりだよね♪」
穂乃果とことりを筆頭に一同はおつまみを食べたりおしゃべりをしたりと遊び気分になってしまっていた。
「あんたら緊張感なさすぎー!」
その様子を見てにこが声を上げる。
「カケル君も食べる?」
穂乃果がおつまみのポテトチップを差し出した。
「いや、俺たちはダメだ。そういう身体によくないものは食べないようにしてるんだ」
「明日はみんな試合があるからね」
「それに間食は基本禁止ってハイジさんに言われてますから」
カケル・高志・ジョータが答えた。
よく見ると、駅伝部のドリンクも6人全員ソフトドリンクではなく水になっている。
「あんたたち真面目すぎでしょ」
「さすがは駅伝部ですね。自分の体調管理にしっかり気を配れていますね」
「なんかかっこいいね~」
にこは呆れと尊敬両方を込めたように呟き、海未とことりは素直に感心していた。
「さあ、準備はいい?早く始めるわよ!」
にこの号令でメンバーは次々と歌いだしていった。
やがてµ’sメンバー7人全員が歌い終えた。得点は以下の通りである。
穂乃果:92.8点
海未:93.3点
ことり:90.9点
真姫:97.4点
凛:91.1点
花陽:95.1点
にこ:94.7点
「すっげえ!全員90点越えだよ!」
「皆さんとてもいい歌声デシタ」
「僕もそう思います」
「みんな毎日の発声練習の成果が出てるんだね」
「みなさん最高っす!」
ジョータ・ムサ・王子・高志・ジョージがそれぞれ拍手を送りながらµ’sを褒め称えた。
(これはすごいな・・ちゃんとみんなしっかり練習を積んでるんだな)
カケルも心の中で感心していた。
「みんなありがとう~」
「そう言ってもらえると嬉しいにゃー」
ことりと凛が笑顔でお礼を言う。
一方にこはこの結果を見て「ウソでしょ・・」というような驚愕の表情をしていた。
「じゃあ駅伝部のみんなも歌ってよ」
すると穂乃果がマイクを差し出しながら言った。
「えっ?いいんですか?僕たちも歌って」
王子が聞き返した。
「もちろんだよ!みんなの歌声も聞いてみたいし!」
「凛も聞きたいにゃー」
「私もちょっと興味あるわね」
「わ・・私も・・」
「私もぜひ聞きたいです」
「せっかく来たんだから~」
穂乃果・凛・真姫・花陽・海未・ことりが期待のこもった目で見つめながら言った。
「いいですよね?にこ先輩!」
「しょうがないわね~。まだ時間はあるから別にいいわよ」
穂乃果が確認を取り、にこは特に反論せず承諾した。
「やったー!よーし歌うぞー!」
「何歌おっかなー?」
駅伝部員たちはワクワクしながら曲選びを始めた。
(まいったなぁ・・俺カラオケなんて行ったことなかったし、みんなの前で歌うなんて初めてだ・・・早く時間切れになってくれないかなぁ・・)
その中でカケルは1人気が重そうな様子だった。
「愛されたいね~ きっと見過ごした~♪ 君のシグナルもう一度~♪」
「「「HEY!!」」」
「気まぐれかな~ でも構わない♪ 君と居たいから~~♪」
「ドラゴンナイト♪ ドラゴンナイト♪ ドラゴンナイト♪
今宵、僕たちは友達のように歌うだろう~♪
ムーンライト♪ スターリースガイ♪ ファイアーバード♪
今宵、僕たちは友達のように踊るんだ~♪」
「We are Fighting Dreamers 高みを目指して♪
Fighting Dreamers なりふり構わず♪
Fighting Dreamers 信じるがままに♪
Oli Oli Oli Oh-! Just go my way ♪
Right here Right now ♪」
「「「Bang!!」」」
「ぶっ放せLike a 弾丸ライナー!
Right here Right now ♪」
「「「Bang!!」」」
「そばにいたいよ~ 君のために出来ることが~ 僕にあるか~な♪
いつも君に~ ずっと君に~ 笑っていて欲しくて♪
ひまわりのような~ まっすぐなその優しさを~♪
温もりを全部~♪
これからは僕も~ 届けていきたい♪
ここにある幸せに~ 気づいたから~♪」
ここまでジョータ・ジョージ・王子・高志が歌い終えた。
4人の点数は以下の通りである。
ジョータ:89.2点
ジョージ:88.9点
王子:98.2点
高志:94.4点
「王子君すご~い!」
「うん!茜君、歌上手だね!」
「ま、まぐれだよ~///」
王子は現時点で全メンバー中最高の得点を出し、穂乃果と花陽に褒められ照れていた。
「高志の歌声、素敵でしたよ」
「ありがとう。海未ちゃん」
「でも、今回は私の勝ちだからね~」
高志も海未に褒められていたが、得点でギリギリ勝ったにこにドヤ顔をされていた。
「ちぇ~、もうちょっといけると思ったのに~」
「悔しいな~」
「でも2人共、いい歌声だったよ」
「本当!?凛ちゃん」
「うん!ね、真姫ちゃん」
「ま、まぁいいんじゃない?あんたたちらしい元気な歌声だったわ・・」
「ありがとう真姫ちゃーん!」
「なんか元気出てきたよー!」
「う、うるさい///」
ジョータとジョージは自分たちの結果に不満足そうだったが、凛や真姫に慰められて元気を取り戻した。
「あとはカケル君とムサ君だけだね」
「じゃあワタシがいきマス」
穂乃果に言われると、ムサは高志に教わりながら曲の入力を終えマイクを持ってみんなの前に立った。
「ちょっと恥ずかしいですけど頑張りマス」
ムサは歌う前に少し挨拶をした。
「ムサ君、どんな歌を歌うんだろう?」
ことりはドキドキしながら待っている。
「君を忘れない 曲がりくねった道を行く♪
生まれたての太陽と 夢を渡る黄色い砂♪」
(うわぁ~~)
(ムサさんうめー)
(ムサ君、声綺麗だなぁ~)
ムサは見事日本人顔負けの声で歌い、この場にいるみんなは驚き・感心の表情で聞き入っていた。
「『愛してる』の響きだけで 強くなれる気がしたよ♪
ささやかな喜びを つぶれるほど抱きしめて♪」
やがて曲が終わると、みんなは盛大な拍手を送った。
ムサの得点は88.4点だった。
「アハハ、ワタシがビリデスネ」
「でもムサ君、声綺麗だったよ!」
「うん。とっても上手だった!」
「もう完全に日本人の声ですよ!」
「すごかったですよムサさん!」
「ありがとうゴザイマス」
ことり・穂乃果・ジョータ・ジョージに褒め称えられ、ムサは照れながらお礼を言った。
やるじゃないかムサ、とカケルも感心の表情だった。
「それじゃああとは、カケル君だけだね」
穂乃果はカケルを見ながら言った。
「えっ!?いやいいよ俺は・・」
カケルは両手を振りながら断るが、みんなカケルをマジマジと見つめていた。
「え~、歌わないんですか?」
「ずるいよカケル。1人だけ逃げるなんて」
「みんな歌ったんですから歌ってクダサイよ」
ジョータ・高志・ムサが言った。
「そうだよ!穂乃果、カケル君の歌聞きた~い!」
穂乃果が言うと他のみんなも「私も、私も」と同意の声が上がってきた。
「安心してくださいカケル。残り時間はまだ十分にありますから」
海未がにっこりと笑いながら言った。
「で、でも・・・」
カケルが尚も渋っていると、ことりが両手を組み目を潤ませながらカケルを見つめてきた。
そして・・・
「カケル君・・・おねがぁ~い」
必殺『ことりのお願い』が炸裂した。
「うぅ・・・わ、分かったよ。1曲だけな」
「わーーい!」
カケルはついに観念して承諾の返事をするとみんな笑顔で喜び、特に穂乃果は両手を上げながら一番に喜んでいた。
そして曲の入力が終わると、マイクを持ってみんなの前に立ち歌い始めた。
「So now my time is up ♪
Your game starts, ♪
my heart moving? ♪
Past time has no meaning for us, ♪
It’s not enough! ♪」
カケルが歌っているのはロック系の曲だった。
(ええええ!カケルさんスゲー!)
(すごい!英語ペラペラだよ!)
みんなはとても驚いた表情で聞き入っていた。
それからもカケルは歌い続けやがて終盤に差し掛かった。
「When I’m cought in fire ♪
When I rise up higher ♪
Do you see me out there ♪
I can’t get enough! ♪
Can’t get enough!! ♪」
カケルはやりきったという表情で歌い終えた。
よほど気合が入ったのか、少し息切れをしていた。
しかし曲が終わっても、周りからは拍手が起こらなかった。
「あ・・あれ?・・・」
カケルはみんなを見渡すと、唖然としていたりポーッと顔を赤くしていたりと様々だった。
(・・・もしかして、はずした?・・それとも、あまりにも下手過ぎたのか?)
「カケル君・・・カッコいい///」
「えっ?」
カケルが不安に思っていると、穂乃果が顔を赤らめながら呟いた。
「すごい!すごいよカケル君!こんなに歌上手かったんだね!」
「いや上手いなんてもんじゃないっすよ!」
「英語の発音とか完璧でしたよ!」
「本物のミュージシャンみたいだにゃー!」
「やっぱりカケルは本当にすごいや!」
「ハイ。本当にスゴイと思いマス」
穂乃果・ジョータ・ジョージ・凛・高志・ムサがそれぞれ称賛の言葉を送った。
「そ、そうか?///」
「うん。カッコよかったよ。聞いててしびれちゃった~」
「わ・・私も・・感動しました」
「私も、なんていうか・・・聞いてて少し熱くなりました」
「カケルの意外な一面が見れて、びっくりしましたし、ちょっと嬉しかったです」
「ぐぬぬぬ・・・」
ことり・花陽・真姫・海未も褒め称え、にこは少し悔しそうな表情をしていた。
(なんか・・今、素直にすごい嬉しいな。こんなにみんなに褒められるなんて///)
カケルはみんなに褒められ、とても嬉しい気分になっていた。
「なんでしょう?この敗北感は・・・あ、それより得点は!?」
王子の言葉で一同は一斉にモニターに表示された点数を見た。
その点数は・・・
99.2点
「「「すごーーい!!」」」
「ま・・・負けた・・・」
なんと全メンバー中最高の得点を出し、みんなは驚きの声を上げ、これまでトップだった王子はガックリと肩を落とした。
「え?え?マジかよ・・」
カケル本人も驚いていた。
まさか初めてのカラオケでこんな点数が出るなんて思ってもいなかったのだ。
「くうぅ~~こうなったら、次の決戦に向かうわよ!」
「「「えっ??」」」
にこはそう宣言し、一同はカラオケボックスを出て次の舞台へと向かった。
リーダー決定戦はまだまだ続く。
思った以上に膨らませてしまいました!
駅伝部が歌ったのは、自分がカラオケでよく歌う曲です(笑)