9人の女神と9人の戦士 ~絆の物語~   作:アイスブルー

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ここから新章のスタートとなります。


あと、タイトルはこれまで漢字2文字だったり〇〇と〇〇というふうなこだわりがありましたが、ここからはこだわりを無くします。


第2章 ~試練の夏~
第34路 現実と焦燥


【6月4日 日曜日 午前11時30分】

 

 

 

◎世田谷区立総合運動場◎

 

 

 

「さぁ着いたぞ。ここが今日の試合会場となる場所だ」

 

 

「「「うわぁ~~」」」

 

 

 

駅伝部は今日開催の世田谷陸上競技会に出場するため、µ’sと共に試合会場へとやってきた。

 

 

初めて訪れたµ’sと駅伝部1年生組は敷地内を見て感嘆の声を上げる。

 

 

 

 

「結構広いですね~」

 

 

「色んなスポーツグラウンドがあるにゃー」

 

 

敷地内を見回しながらジョージと凛が言う。

 

 

 

 

「そりゃあ総合運動場だからな。陸上競技場の他にも、野球場にテニスコートに温水プール、さらにはゴルフ練習場まであるぜ」

 

 

平田が説明する。

 

 

 

 

「そして、あれが今日俺たちが走る陸上競技場だ」

 

 

ハイジが指さす方向を見ると、陸上競技場が見えてきた。

 

 

フェンスの向こう側を見ると、立派なブルータータンの400mトラックがあった。

 

 

 

 

「へぇ~、ここも立派なトラックですね」

 

 

「俺たちは去年も来たことあるけど、ここは結構走りやすくていいよ」

 

 

感心するジョータに高志が説明する。

 

 

 

競技場内ではすでに試合が始まっており、応援の声が飛び交っていた。

 

 

競技場周辺には、既にシートを敷いて陣地を取っている人たちがチラホラと見受けられた。

 

 

 

 

「結構人がいますね。みんな今日の試合に出場する選手たちなのでしょうか?」

 

 

「だろうね。この競技会では男子と女子の1500mと3000mと5000mを朝早くから夜にかけて全部行うからね。関東の色んな高校や大学、実業団の選手が集まってくるよ」

 

 

周りを見ながら呟く海未にハイジが説明する。

 

 

 

 

関東の色んな高校と聞いてカケルは少し気が重くなった。

 

 

昨日、今日の試合のタイムテーブルを見たら船橋第一高校の選手も登録されていたのだ。

 

 

もちろん榊もである。

 

 

 

µ’sのみんなが来てる中で余計なことを言われなければいいが、とカケルは思った。

 

 

 

 

 

一同は競技場周辺の一画にシートを敷き陣地を確保した。

 

 

そしてシートの上にそれぞれ腰を下ろした。

 

 

 

 

「みんな、タイムテーブルに目は通したと思うが、俺たちが出場する男子5000mはこのあと午後1時15分から行われる。各自それぞれ試合時間を確認して、それに合わせてしっかりアップや選手コールに向かうように!」

 

 

「「「はい!」」」

 

 

ハイジは主将らしく部員たちに指示を出した。

 

 

 

 

今日の世田谷競技会は、午前中に男子と女子の1500mと3000mが行われ、午後からは男子5000m全23組が一気に行われる。

 

 

 

試合予定は以下の通りである。

 

 

 

 

 

 

 

 

王子:1組目(13時15分スタート)

 

 

ジョータ・ジョージ・平田:4組目(14時15分スタート)

 

 

高志・ユキ:8組目(15時30分スタート)

 

 

ハイジ・ムサ:11組目(16時23分スタート)

 

 

カケル:19組目(19時04分スタート)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでみんなこんなに組がバラバラなの?カケルなんてだいぶ離れてるじゃない」

 

 

「こういった記録会っていうのは、選手の実力によって組が分けられるんだ。簡単に言うと、速い奴ほど気象条件のいい後の組になるんだ」

 

 

タイムテーブル表を眺めるにこにユキが説明する。

 

 

 

 

「カケルは俺たち駅伝部の中でもダントツに速いですからね」

 

 

高志が言う。

 

 

 

「なんたって駅伝部のエースだもんね」

 

 

穂乃果が両手をカケルの肩に置きながら言った。

 

 

 

 

「カケル君ってすごいんですよ!足は速いし、頭も良いし、料理は美味しいし、歌も上手だし、特に走っている姿は本当に格好いいんです!」

 

 

「・・・/////////」

 

 

穂乃果に褒められカケルは顔を赤らめながら俯く。

 

 

 

 

「あら~すっかり照れちゃって、かわいいわね~」

 

 

「て・・照れてなんかないっすよ!///」

 

 

にこに冷やかされカケルはムキになりながら返す。

 

 

 

 

「あ~、カケル先輩赤くなってるにゃー」

 

 

「ホントだ!かわいー♪」

 

 

凛が言うと穂乃果はカケルの隣に寄り添いながら指でツンツンとカケルの頬をつつく。

 

 

 

 

「や、やめろ!///これは暑くなったせいだよ!ってか穂乃果、お前寄り過ぎだぞ!もうちょっと離れろ!」

 

 

「いいじゃ~ん。今日はカケル君の付き添いなんだし♪」

 

 

「そういう問題じゃねえ!」

 

 

 

穂乃果は尚もカケルに寄り添って離れようとしなかった。

 

 

そんな2人の光景を他のみんなは微笑ましそうに眺めていた。

 

 

特にユキ・にこ・双子・凛あたりはニヤニヤしながら状況を楽しんでいるようだった。

 

 

 

 

「穂乃果!そのくらいにしなさい!カケルはこれから試合を控えているんですよ!」

 

 

「でもー、ちょっとぐらい緊張をほぐしてあげた方がいいと思って・・」

 

 

「いいから離れなさい!」

 

 

「は、はい・・・」

 

 

 

海未に注意され穂乃果は渋々とカケルから離れた。

 

 

助かったぜ海未、とカケルは心の中で感謝した。

 

 

 

 

 

「結構結構。カケルも随分と青春を満喫してるようだな」

 

 

「もーカケルったら、素直じゃないんだから」

 

 

(お前が言うな・・)

 

 

ハイジとにこが笑みを浮かべながら呟き、ユキがにこに対して心の中でツッコんだ。

 

 

 

 

 

「さてと・・」

 

 

王子はムクッと立ち上がりシューズを履き始めた。

 

 

 

「茜君、どこに行くの?」

 

 

「ちょっとウォーミングアップに行ってくるよ。僕が一番最初だから」

 

 

「うん。気を付けてね。それと、今日の試合も頑張ってね」

 

 

「うん。ありがとう」

 

 

王子は花陽に声を掛けられると笑顔で答え、アップジョッグに向かった。

 

 

 

 

「海未ちゃん。よかったら今のうちに一緒に作詞をやらない?」

 

 

高志が海未に訊ねる。

 

 

 

「えっ?いいのですか?試合を控えているのに」

 

 

「大丈夫だよ。まだ時間はあるし、ちょっとした気分転換にもなるから」

 

 

「ありがとうございます。では、やりましょうか」

 

 

高志が答えると、海未はノートを取り出し2人は作詞作業を始めた。

 

 

 

 

「じゃあ私も、振り付けを考えようかな?」

 

 

ことりもノートを取り出しながら呟いた。

 

 

 

 

「デハ、ワタシも手伝いますよ」

 

 

「じゃあ私も」

 

 

「俺も手伝います」

 

 

「凛も凛もー」

 

 

「私も」

 

 

「みんな、ありがとう~」

 

 

するとムサ・穂乃果・ジョージ・凛・花陽も協力を表明し、ことりはお礼を言った。

 

 

 

 

「じゃあ私も、歌詞はまだだけど少し曲を考えてみようかしら・・」

 

 

真姫も楽譜ノートを出しながら言った。

 

 

 

「お、真姫ちゃんもやる気になったんだね」

 

 

「べ、別に・・ただやることがないから単なる暇つぶしよ」

 

 

ジョータの言葉に真姫はツンとして答える。

 

 

 

 

「しょうがないな。俺も新しいトレーニングメニューでも考えてやるか」

 

 

カケルもレポート用紙を取り出し、メニューを考え始めた。

 

 

 

 

「それってもしかして、体力トレーニングの考案か?」

 

 

「うわ・・は、ハイジさん?」

 

 

「それなら俺も一緒に考えてやるよ。彼女たちに協力するって宣言したのは俺だからな」

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

ハイジは後ろから覗き込むと、カケルと共にメニュー考案を始めた。

 

 

 

 

「俺たちも、何か手伝ってやるか」

 

 

「しょうがないわね~」

 

 

「退屈しのぎにはなるだろ」

 

 

残った平田・にこ・ユキもみんなに混ざり、その場にいる全員でµ’sの新曲作りが行われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【1組目:王子】

 

 

 

まず最初に王子が出場する第1組目がスタートした。

 

 

王子は後方ではあるがしっかり選手の集団についていた。

 

 

 

 

「はぁ・・はぁ・・はぁ・・」

 

 

 

 

「王子ファイトー!」

 

 

「しっかりついてけー!」

 

 

「茜君頑張れー!」

 

 

チームメイトとµ’sはコースの外側でタイム計測をしながら声援を送る。

 

 

 

しかしやがて最後尾に落ちてしまった。

 

 

 

 

「王子、以前よりは大幅にタイムは伸びてるけど、もうキツそうだな」

 

 

「茜君・・・」

 

 

タイムを計測しているジョータが呟き、花陽が心配な表情で見つめる。

 

 

 

 

「王子ー!このままだとまた最下位だぞー!」

 

 

ハイジが声を掛ける。

 

 

 

 

(さ・・最下位・・)

 

 

すると王子は何か不気味な黒いオーラを纏いながらペースを上げ始めた。

 

 

 

 

「お、おい・・何なんだありゃ」

 

 

「負のオーラが全開になってるわね・・」

 

 

王子の様子を見て平田と真姫が呟いた。

 

 

 

 

(ぜーったい最下位だけにはなるもんか・・)

 

 

 

 

 

 

そして王子は何とかゴール手前で1人を抜きゴールした。

 

 

 

王子のタイムは19分24秒で、前回より40秒以上も縮めていた。

 

 

 

 

「ぜぇ・・ぜぇ・・ぜぇ・・」

 

 

「お疲れ王子」

 

 

「茜君、大丈夫?」

 

 

ゴール地点で待っていた高志と花陽に抱えられながら王子はゴール地点を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【4組目:ジョータ・ジョージ・平田】

 

 

 

「ジョータ!負けるんじゃないわよー」

 

 

「ジョージ君!ファイトー!」

 

 

「平田先輩しっかりー!」

 

 

 

 

続く4組目では、ジョータ・ジョージ・平田が三つ巴になって並走している。

 

 

3人ともこのままいけば自己ベストを更新できるタイムで来ていた。

 

 

 

やがてラスト1km地点に差し掛かる。

 

 

 

 

(行くぞジョージ!)

 

 

(うん!兄ちゃん!)

 

 

双子は残り1kmを過ぎると、さらにペースを上げ平田を引き離しにかかる。

 

 

 

 

 

(何!?あいつらまだ上げれるのか!?)

 

 

「はぁ・・はぁ・・くっ!」

 

 

平田はついていこうとするも、余力が残っておらずズルズルと離れてしまう。

 

 

 

 

「いいぞ!ジョータ!ジョージ!そのまま最後まで行け!」

 

 

「平田先輩!ここ我慢しないとベスト出ないですよ!」

 

 

コースの外からハイジとカケルが声を掛ける。

 

 

 

 

 

「ゼェ・・ハァ・・ゼェ・・」

 

 

(分かってるけどよ・・ダメだ・・ホントにキツイ・・・これ以上上げられる気がしねぇ・・)

 

 

 

 

まず先に双子がフィニッシュした。

 

 

ジョータは15分51秒、ジョージは15分54秒であり、2人揃って16分切りを果たした。

 

 

一方平田は16分08秒で自己ベストには届かなかった。

 

 

 

 

 

「よっしゃ!16分切ったぞ!」

 

 

「やったね兄ちゃん!」

 

 

「すごいよ2人共!この短期間で見事な成長ぶりだよ!」

 

 

自己ベスト更新を喜ぶ2人にゴール地点で待機していたハイジが労った。

 

 

 

 

「ジョージ君!お疲れー!」

 

 

「お疲れ、ジョータ」

 

 

同じく待機していた凛と真姫が2人にタオルをかけ、給水ボトルを渡した。

 

 

 

 

「自己ベストおめでとう。ジョージ君」

 

 

「ありがとう凛ちゃん。でも兄ちゃんには敵わなかったけどね」

 

 

 

 

「真姫ちゃん!どうだった?俺、勝ったよ!」

 

 

「ま、まぁ・・・カッコよかったわよ・・・少し・・」

 

 

「本当!?やったー!真姫ちゃんに褒められたー!」

 

 

「ち、ちょっと!調子に乗るんじゃないわよ!////」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・はぁ・・」

 

 

(ついにあいつらに抜かれちまった・・・ラスト結局上げれなかったな・・・でも、もう少し行けたような気もするんだよな・・・くそ、何やってるんだよ・・・先輩の俺が・・)

 

 

 

 

「お疲れ平田」

 

 

「お、おうハイジ」

 

 

レース結果に悔やむ平田にハイジが給水ボトルを差し出しながら声を掛ける。

 

 

 

 

 

「またラスト上げられなかったな」

 

 

「ああ・・・全然これまでと変われてねえよな」

 

 

「でも大丈夫だ。内容は変わってなくても力は少しずつついているのは分かる。まだまだこれからだ。気を落とさずに頑張ろう!」

 

 

ハイジは平田の背中をポンと叩きながら激励の言葉を掛けた。

 

 

 

 

「おう!今度はやってやるぜ!」

 

 

平田も元気が戻り、ハイジと共にみんなの所へ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【8組目:高志・ユキ】

 

 

 

「高志ファイトですよー!」

 

 

「ユキ、頑張ってー!」

 

 

海未とにこが力一杯声援を送る。

 

 

高志とユキは揃って先頭集団の中におり、自己記録ペースで快調に走っていた。

 

 

 

 

「はぁ・・はぁ・・」

 

 

しかし3000mを過ぎたあたりから高志が若干苦しそうに顔を歪め始めた。

 

 

高志にとっては2ヶ月ぶりの5000mだった。

 

 

 

 

「ハァ・・ハァ・・高志・・根性で粘れよ」

 

 

並走していたユキは高志にそう声を掛けると、ペースを上げ始め、高志を離していった。

 

 

 

 

「ハッ・・ハッ・・はい・・・ユキさん」

 

 

高志はユキの背中を見ながら呟いた。

 

 

 

 

「ハァ・・ハァ・・ハァ・・」

 

 

そしてユキはペースを維持しながら、応援しているメンバーの前を過ぎていった。

 

 

 

 

「いいぞユキ!その調子だ!」

 

 

ハイジが声を掛ける。

 

 

 

 

一方にこは走り去っていったユキの姿をジッと見つめていた。

 

 

 

 

 

(あいつの走るところ・・・こんなに間近で見るの初めてだわ・・・よく見ると・・・・カッコいいじゃない・・・って、何考えてるのよ私は/////)

 

 

 

 

 

 

やがて2人共フィニッシュした。

 

 

ユキは15分17秒、高志は15分31秒で2人とも自己ベストとなった。

 

 

2人に海未とにこが駆け寄ってくる。

 

 

 

「お疲れ様です。高志」

 

 

「ありがとう海未ちゃん」

 

 

 

 

「お疲れ、ユキ」

 

 

「おう」

 

 

「・・・なかなかカッコよかったわよ///」

 

 

「ん?何か言ったか?」

 

 

「ううん何でもないわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【11組目:ハイジ・ムサ】

 

 

 

続いてハイジ・ムサもスタートした。

 

 

このあたりの組からは箱根駅伝の常連校の大学生が多くなってきている。

 

 

その中でもハイジとムサは攻めの走りをしていた。

 

 

 

 

「はぁ・・はぁ・・はぁ・・」

 

 

「ハッ・・ハッ・・ハッ・・・」

 

 

 

 

「ハイジさんファイトー!」

 

 

「ムサさんファイトっすよー!」

 

 

 

「ムサくーん!頑張れー!」

 

 

ことりも部員たちと共にムサに声援を送る。

 

 

 

 

 

(・・・今のところは大丈夫か・・でも、あまり無理はしたくないな)

 

 

ハイジは右膝を気にしながら思った。

 

 

 

 

「ムサ・・行けると思ったら思い切っていけ」

 

 

「ハイ!」

 

 

ハイジはムサの背中を押しながら声を掛けた。

 

 

そしてムサはペースを上げ、先頭集団に追いついた。

 

 

 

 

 

「すご~いムサ君、先頭集団に追いついたよ~」

 

 

ことりが声を上げた。

 

 

 

 

「ムサさんいけー!」

 

 

「負けるなムサー!」

 

 

「ムサくーん!」

 

 

ムサはみんなの前を通る時に声援に手を振って答えた。

 

 

 

そして2人ともフィニッシュした。

 

 

 

ムサは14分51秒で前回よりさらにタイムを縮めることができた。

 

 

ハイジは15分03秒だった。

 

 

 

 

 

 

 

カケルは1人みんなから少し離れた所でタイム計測を行っていた。

 

 

 

(うん、みんないい感じだな。タイムも縮まっているし、練習の成果がしっかり出ているよ)

 

 

今日のみんなの走りを振り返り、カケルは嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

「なにニヤついてんだ!?蔵原!」

 

 

突然後ろから声を掛けられ、カケルは振り返った。

 

 

そこにはかつてのチームメイトの榊が立っていた。

 

 

実に最初の記録会以来の再会となった。

 

 

 

 

「榊・・」

 

 

「油断してると、今日こそ痛い目遭わすぞ!」

 

 

相変わらず敵対心を込めてカケルを睨みながら言った。

 

 

 

 

「でもお前、今日は俺とは別の組だろ?」

 

 

「う・・・それより、お前のチームメイトは今どうなってるんだ?もしかして、もうやめるとか言ってたりしてな」

 

 

榊は意地の悪い笑みを浮かべながら訊ねる。

 

 

 

 

 

 

「それがさ、みんな頑張ってんだよ!」

 

 

榊の問いにカケルは笑顔で答える。

 

 

 

 

 

「・・・・え?」

 

 

「信じられないよな。最初見た時はどうなることかと思ったけど、この2ヶ月間でみんな本当に速くなってるよ」

 

 

 

 

 

 

「で?」

 

 

榊は唖然とした表情で口を開く。

 

 

 

 

「えっ・・・」

 

 

「頑張ってるって・・・まだまだ全然遅いレベルの話だろ?」

 

 

「ま、まぁそりゃ・・」

 

 

「つーか何お前?ヘラヘラして気味悪ィなー・・弱い奴らとつるんで何が楽しいんだか知らねえけど・・」

 

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

「お前、感覚おかしくなってるんじゃねえの?」

 

 

 

「!!」

 

 

 

 

 

(ハッ・・何こいつのこと心配してるようなこと言ってんだ俺)

 

 

 

 

 

 

「こら榊!!」

 

 

ガシッ!

 

 

「げっ監督!」

 

 

その時、船橋第一高校駅伝部監督の松平が榊を羽交い絞めにしながら怒鳴る。

 

 

 

 

「もうすぐお前の番だろ!早く準備しろ!」

 

 

「は、はいぃ~」

 

 

榊は松平に連れられながら去っていった。

 

 

 

 

「・・・・」

 

 

カケルは去っていく榊の姿を見つめながら呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【19組目:カケル】

 

 

 

いよいよカケルの出走時間が近づいてきた。

 

 

カケルは最後の流しを終えてからスタート地点付近に立った。

 

 

 

 

「カケルくーん頑張れー!」

 

 

「カケル!ファイトデスヨ!」

 

 

「カケルさん!頑張ってください!」

 

 

 

穂乃果やチームメイトが手を振って声を掛ける。

 

 

しかしカケルの耳には届いていなかった。

 

 

先ほど榊に言われたことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何浮かれてたんだ!?・・俺は・・・

 

 

 

榊の言う通りだ・・・みんなといるうちにすっかり感覚がおかしくなってる・・・・

 

 

 

 

 

 

 

そしてレースがスタートした。

 

 

しかしレース中も、カケルの頭の中には先ほど榊に言われた言葉がぐるぐるとまわり、レースに集中できずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

「カケルさんファイトでーす!」

 

 

「カケル君頑張れー!」

 

 

チームメイトやµ’sが声援を送る。

 

 

 

 

「にしてもすごいペースだな。この組のほとんどは大学生や実業団じゃねえか」

 

 

「そんなハイレベルな組に挑むなんて、やっぱカケルはすげえな」

 

 

レースの状況を見ながらユキと平田が呟いた。

 

 

 

 

しかししばらくすると、カケルが早くも集団から遅れ始めてしまった。

 

 

 

 

「あっ!カケル君、集団からこぼれ落ちちゃったよ!」

 

 

穂乃果が言った。

 

 

 

 

「カケル君、苦しそう・・」

 

 

「やはり、カケルにはまだきつい組だったんじゃないでしょうか?」

 

 

カケルの様子を見てことりと海未が呟く。

 

 

 

 

「いや、なんかカケル君・・・・いつもと走りが違うような気がする」

 

 

穂乃果が心配そうな表情で呟いた。

 

 

 

 

 

 

やがてカケルはフィニッシュした。

 

 

走り終え、両手を膝につけながら呼吸を荒げていた。

 

 

 

 

「はぁ・・はぁ・・はぁ・・」

 

 

 

「ひでーザマだな!蔵原!」

 

 

すると榊がゴール地点付近に立っており、カケルに声を掛けた。

 

 

 

榊はカケルの前の組で14分27秒で走っていた。

 

 

カケルのタイムは14分48秒で、前回より大幅に遅れ榊にも負けていた。

 

 

 

 

「ホントにお前どうしたんだ?去年までの走りは見る影もなくなってるぞ」

 

 

尚も榊はカケルの走りについて指摘をするが、カケルは何も答えなかった。

 

 

 

 

「おーい!カケルくーん!」

 

 

すると穂乃果が声を掛けながら駆け寄ってくるのが見えた。

 

 

 

「・・・フン」

 

 

榊は穂乃果の姿を確認すると足早にその場を去っていった。

 

 

 

 

 

「カケル君。お疲れさま」

 

 

穂乃果はカケルにタオルをかけながら声を掛けた。

 

 

しかしカケルは黙ったままだった。

 

 

 

 

 

「ねえ、さっきの人って誰?カケル君の知り合い?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっっ!!!」

 

 

 

「!?」

 

 

 

カケルは突然脚を拳で叩きながら声を荒げた。

 

 

そして穂乃果を無視し、足早にその場を去っていった。

 

 

 

 

「か・・カケル君?」

 

 

穂乃果はそんなカケルの様子を見て呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんてタイムだよ・・・

 

 

全国には藤岡さんや黒田さんをはじめとするする幾多の強豪ランナーがいっぱいいるってのに・・・全然足元にも及ばねえじゃねえかよ・・・

 

 

 

 

 

 

 

カケルは歩きながら心の中でイライラと呟いていた。

 

 

 

 

 

「おい見ろよ!次はあの黒田が出るぜ!」

 

 

「ああ、あの東京No.1日学院大付属高校のエースだろ?」

 

 

すると周りからそんな声が聞こえ、カケルは立ち止まりこれから始まるレースに目を移した。

 

 

 

 

 

そしてレースがスタートした。

 

 

大学生や実業団選手に交じって、ただ1人の高校生として黒田が走っていた。

 

 

 

高校生ながら力強く、尚且つ周りを見る余裕があるクレバーな走りを展開しており、そしてラストは以前に見た藤岡と同じくらいキレのあるスパートを見せ、組3着でフィニッシュした。

 

 

 

タイムは14分02秒と高校トップクラスのタイムをたたき出した。

 

 

 

 

カケルは今の走りを見て、打ちのめされずにはいられなかった。

 

 

 

それと同時に、このままではああいったトップクラスの選手にどんどん置いてかれてしまうという焦りにとらわれ始めていた。

 

 

 

 

 

(足りない・・・今の俺は、全然足りてねえじゃん・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、駅伝部とµ’sは全員競技場の外に集合した。

 

 

 

「今日はお疲れさま!みんなすごいよ!どんどんタイムが縮まってきている!この調子でこれからの練習も試合も頑張ってくれ!以上!」

 

 

 

「「「お疲れ様でしたー!」」」

 

 

ハイジの号令で一同は挨拶をした。

 

 

 

 

「なんか最近走れば走るほどタイム上がる気がするね」

 

 

「うんうん。やっぱ走るのって楽しいや」

 

 

絶好調な双子が嬉しそうに話した。

 

 

 

 

しかしカケルは、そんなやりとりをいつものように楽しめなくなっていた。

 

 

榊や黒田に現実を突き付けられたあとでは、駅伝部の部員たちの態度や、µ’sに付き合うこと自体も悠長すぎるように感じられてならなかった。

 

 

 

 

 

「よーし、それじゃあみんなでラーメン食べにいくにゃー!」

 

 

「お、いいね。よし、みんなでいこうか」

 

 

「「「やったー!」」」

 

 

凛の提案にハイジが賛成し、みんなはすっかり盛り上がり始めた。

 

 

 

「約束通り、ジョージ君おごってねー♪」

 

 

「ああーそうだったー!」

 

 

凛に言われジョージは呻き、一同は笑いに包まれた。

 

 

 

するとカケルは足早にその場を去り始めた。

 

 

 

 

「か、カケル・・どうしたの?」

 

 

高志が声を掛けると、みんなも一斉にカケルの方を振り向いた。

 

 

 

 

「俺は結構です・・・先に失礼します」

 

 

カケルはそう言うと先に1人で帰ってしまった。

 

 

 

 

 

「待ってよカケル君!」

 

 

「穂乃果ちゃん!今はそっとしておいてあげよう」

 

 

穂乃果が後を追おうとするのを高志が止めた。

 

 

 

 

「カケルさん、機嫌悪そうだったもんね」

 

 

「今日のレースの結果が応えたのかな?」

 

 

「あれでも充分速いのに、贅沢な奴ね~」

 

 

双子とにこが言う。

 

 

 

 

 

「カケル君・・・どうしちゃったの?」

 

 

穂乃果はカケルの後ろ姿を見つめながら呟いた。

 

 

 

 

ハイジも深刻な表情でカケルをジッと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カケルは1人、帰り道を歩きながら考え続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今まで俺は・・何をやってたんだ

 

 

 

あの駅伝部の連中とµ’sに付き合ってきたことによって、昔のような闘志とタイムへの貪欲さが失われてしまった・・・

 

 

 

どうして俺はあの時・・・怒りを自制できなかったんだ・・・

 

 

 

おとなしくしていれば・・・今でも恵まれた環境でレベルの高い練習ができたはずだ・・・

 

 

 

今のままじゃ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は・・・こんなとこにいたらダメになってしまう!!

 

 

 

 

 

 




いよいよ原作通りの展開となってきました。


しばらくは駅伝部メインが続きます。


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