9人の女神と9人の戦士 ~絆の物語~   作:アイスブルー

37 / 42
第35路 広がりゆくズレ

【6月5日 月曜日 朝】

 

 

 

 

「あー昨日は疲れたねー」

 

 

「今日は朝練も放課後練もない完全休養日だからゆっくり登校できるね」

 

 

「自己ベストも出たし、やっぱ走るのって楽しいよね」

 

 

世田谷競技会から翌日となり、ジョータ・王子・ジョージがそれぞれ談笑し合いながら学校へ向かって歩いていた。

 

 

 

 

 

「試合終わった後のラーメン屋での食事も楽しかったよな」

 

 

「凛ちゃんったら、奢りなのをいいことに麺大盛りにした上にギョーザまで頼んじゃってたよ~」

 

 

ジョータが言うとジョージが昨日のことを思い出しながら呻いた。

 

 

 

 

「でもジョージだって対抗して同じの頼んでたじゃん」

 

 

王子が口を挟む。

 

 

 

 

「うっ・・・とにかく昨日の夜はお腹が苦しくてあんまり寝れなかったよ」

 

 

「僕も、溜まったアニメ見てたからあんまり寝てない・・」

 

 

「相変わらずだなあ王子は」

 

 

 

 

3人が話していると、ランニングをしているカケルの姿を見つけた。

 

 

 

 

 

 

「ハッ・・ハッ・・ハッ・・」

 

 

 

 

 

カケルはあっという間に3人のそばを通り過ぎていった。

 

 

 

 

 

「カケルさん、今日は休養日なのに朝から走ってるよ」

 

 

「気合い入ってるよね~」

 

 

「でもあれ、ペース速すぎない?朝練のペースじゃないよ・・」

 

 

ジョージ・王子・ジョータがカケルの後ろ姿を眺めながら呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ・・ハァ・・ハァ・・ハァ・・」

 

 

 

(このままじゃ・・・・このままじゃ・・ダメだ!)

 

 

 

カケルは険しい表情で、走りながら心の中で呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◎2年生教室◎

 

 

 

 

教室では高志と海未、ムサとことりがそれぞれ歌詞と衣装の考案をし合っている。

 

 

 

 

「やはりここはこうでしょうか?」

 

 

「う~ん、俺はこっちの方がいいと思うな」

 

 

 

「ムサ君、どう?かわいいかな?」

 

 

「ハイ。いいと思いマス。でも、この部分をもう少し・・」

 

 

 

高志と海未は机にノートを広げながら議論をし合っており、ことりはノートにデザインした衣装を描いてムサに見せており、ムサもそれについてアドバイスを送っている。

 

 

 

そんな4人の様子を穂乃果は嬉しそうに微笑みながら見守っていた。

 

 

 

 

(なんかいいなぁ。µ’sと駅伝部がお互い支え合って1つになってる感じがする。私も頑張ろっと!)

 

 

 

 

穂乃果がそう思っていると、カケルが教室に入ってきた。

 

 

カケルを見つけると穂乃果はパアアッと表情が明るくなった。

 

 

 

 

「はい皆さん!授業を始めますよ!」

 

 

するとすぐ後に先生が到着し、授業開始の号令が掛けられた。

 

 

 

カケルは席に着くと、急いでカバンから教科書を出し始めた。

 

 

 

 

「カケル君、おはよう♪」

 

 

穂乃果は振り返ってニコッと微笑みながら小声でカケルに挨拶をする。

 

 

 

 

「おはよう・・・」

 

 

カケルは穂乃果の方を見向きもせず素っ気ない挨拶を返した。

 

 

 

 

 

(カケル君・・・まだ昨日のこと気にしてるのかな・・・・)

 

 

 

穂乃果は心配に思いながら正面に向き直り授業を受け始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◎中庭◎

 

 

 

昼休みになると、カケルたち6人は中庭のテーブルで昼食を摂り始めた。

 

 

 

 

「どう?海未ちゃん、高志君。作詞の方は上手く進んでる?」

 

 

「うん。もう少しで完成しそうだよ」

 

 

ことりが訊ねると高志が答える。

 

 

 

 

「これも高志が協力してくれたおかげです。本当にありがとうございます」

 

 

「そんな、いいって海未ちゃん///」

 

 

海未がにっこりとしながらお礼を言い、高志は少し恥ずかしそうに返事をした。

 

 

 

 

 

「やっぱり2人ってお似合いだよね~」

 

 

「いっそ付き合っちゃえばいいのに~」

 

 

 

「「ええっ!?///」」

 

 

 

穂乃果とことりに茶化され海未と高志は顔を真っ赤にしながら驚く。

 

 

 

 

 

「ツキアッチャエバって、どういう意味デスか?」

 

 

「それはねムサ君・・・恋人同士になるってことなんだよ」

 

 

言葉の意味が分からないムサにことりがワクワクしながら説明をする。

 

 

 

 

「2人は恋人になるのデスか?」

 

 

 

 

「違う!!」

 

「違います!!」

 

 

 

ムサがストレートに問いかけると高志と海未が揃って大声で否定する。

 

 

すると2人はチラリと顔を見合わせると、高志は恥ずかしそうに俯き、海未は顔をトマトのように真っ赤にしながらモジモジし始めた。

 

 

ムサは2人の様子を見てまずいことを聞いてしまったと思いオロオロし始めた。

 

 

 

 

「いや・・その・・・違うっていうか・・・まだちょっと・・・気が早すぎるっていうか///」

 

 

「ううぅ・・////」

 

 

高志は心配するムサに対してなんとか言葉を絞り出すが、海未はまだモジモジしながら俯き続けていた。

 

 

 

 

「うふふ、2人ともかわいい~」

 

 

ことりは悪戯っぽい笑みを浮かべ、すっかりこの状況を楽しんでいた。

 

 

 

 

 

カケルはその様子を見向きもせず1人黙々と弁当を食べていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高志も、ムサも・・・

 

 

 

俺たちは高校駅伝出場を目指してるんだろ

 

 

 

まだ予選突破なんて夢のまた夢って状況なのに、呑気なことやってる場合か

 

 

 

 

 

 

 

 

カケルは聞き耳を立てながら心の中で毒ついた。

 

 

 

駅伝部やµ’sのみんなに合わせて夢物語を追っているうちに、自分がどんどん速度の世界から取り残されてしまうのではないかと、カケルは怖くなっていた。

 

 

 

その後もカケルは、楽しそうに談笑する面々をよそに1人ほとんど会話には加わらず黙りこくっていた。

 

 

 

そんなカケルの様子を、穂乃果は何度も心配そうに見ていた。

 

 

 

声を掛けようにも何て声を掛けたらいいか分からず、ただ眺めることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日も、さらに次の日も、カケルは前回の試合から崩れ出した調子をなかなか立て直すことが出来ずにいた。

 

 

 

あせりで目が曇り、自分の状態を見極められていない中、カケルはひたすらがむしゃらに走り続けた。

 

 

 

しかし、走っても走っても調子が上がっていく実感を得られなかった。

 

 

 

こんなに走っているのになぜ、と更なる焦りが生まれるという負の連鎖に陥っていた。

 

 

 

それでもカケルは走ることをやめられなかった。

 

 

 

羽ばたかなかったら海に落ちてしまう渡り鳥のように、カケルはハードな練習を繰り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

【6月7日 水曜日 放課後練】

 

 

 

◎グラウンド◎

 

 

 

駅伝部はトラックで3つのグループに分かれ12000mのペース走を行っていた。

 

 

全員それぞれの設定通りにしっかりとこなし、走り終わった部員はトラックの周りでダウンジョッグを行っていた。

 

 

 

 

「よーし終わったー」

 

 

「今日も設定通りに行けたし、最近調子いいなぁ」

 

 

ジョージとジョータが笑顔でジョッグをしながら話す。

 

 

 

 

「練習の質も上がってきてる中、みんなどんどんこなせるようになってきてるね」

 

 

「ワタシも、この調子で今度の関東大会頑張りマス」

 

 

「その意気だよムサ」

 

 

双子と共に走っている高志とムサが言った。

 

 

 

 

「そういえば高志さん、µ’sの新曲の歌詞は出来上がりましたか?」

 

 

「うん。今日になってようやく出来上がって、今頃海未ちゃんが真姫ちゃんに作曲を頼んでるところだと思うよ」

 

 

高志はジョータの問いに答えた。

 

 

 

 

「一体どんな曲になるんだろう?楽しみだなぁ~」

 

 

「ハイ。ワタシもとても楽しみデス」

 

 

ジョージとムサがワクワクしながら言った。

 

 

 

 

 

 

「ハッ・・ハッ・・ハッ・・」

 

 

 

 

すると4人は、まだトラックを走っているカケルが目に入った。

 

 

 

 

 

「カケルさん、まだ走ってるよ」

 

 

「最近すごい走り込んでるよね」

 

 

双子は感嘆の声を上げる。

 

 

 

 

「実はカケル、最近変なんだよね。俺たちクラスメイトともほとんど話さなくなって、ずっと1人で何か考え込んでるようなんだよね」

 

 

「ハイ。お昼休みもワタシたちと一緒にご飯を食べなくなってしまって、ことりサンも海未サンも穂乃果サンも心配していマシタ」

 

 

高志とムサが深刻な表情で双子に説明をする。

 

 

 

 

「そ、そうなんですか?」

 

 

「やっぱり前回の試合の結果が応えてるのかな?」

 

 

 

 

「そう思って、俺たちはあえて余計なことを言わないようにしばらく様子を見てきたけど・・・やっぱりちょっと心配だな・・」

 

 

 

「今のカケルは・・・正直、ちょっと怖いデス・・・」

 

 

 

ジョータとジョージの言葉に、高志とムサはカケルの方を見ながら心境を語った。

 

 

 

 

話し合っている4人の前を、ハイジが聞き耳を立て1人でダウンジョッグを行っていた。

 

 

 

 

走り続けているカケルをジッと見つめながら・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【6月8日 木曜日 放課後】

 

 

 

◎2年生教室◎

 

 

 

今日も授業が終わり、生徒たちが一斉に帰り支度を始めていた。

 

 

カケルも素早く帰り支度をしていると、前の席から穂乃果が声を掛けてきた。

 

 

 

 

「ねぇカケル君、今日って駅伝部の練習お休みだよね。私たちもお休みにしたから、みんなでどっか寄ってかない?」

 

 

「ダメだ。俺、自主練あるから・・」

 

 

カケルはそう言って席を立った。

 

 

 

 

「あ、カケル君!待ってよ!」

 

 

 

穂乃果がさらに呼び止めるがカケルは無視し、さっさと教室を出ていってしまった。

 

 

 

 

「カケル、今日も相変わらずでしたね」

 

 

「どうしちゃったんだろう?」

 

 

「カケル君・・・」

 

 

 

「「・・・・・」」

 

 

 

海未・ことり・穂乃果はカケルの後ろ姿を見て心配の声を上げ、その様子を高志とムサが黙って見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カケルは練習着に着替え終えると、学校の敷地内の一画でシューズの紐を結んでいた。

 

 

 

 

 

(なんで俺はスクールアイドル活動なんかに今まで付き合ってたんだ・・・そんな場合じゃなかったのに・・・)

 

 

紐を結びながらカケルは思っていた。

 

 

 

すると駅伝部とµ’sの1年生組が一緒に帰っていくのを見つけた。

 

 

 

 

「ちぇー、せっかくみんなお休みになったのに、真姫ちゃん先帰っちゃったにゃー」

 

 

「しょうがないよ。真姫ちゃんは今、作曲中なんだから」

 

 

不満な声を上げる凛をジョータがなだめる。

 

 

 

「それより、今日はみんなどこ行こうか?」

 

 

「じゃあアキバの街にでも行かない?」

 

 

花陽が訊ねるとジョージが提案する。

 

 

 

 

「賛成!今日はアイギャラの新作CDが発売される日だから!あ~楽しみだなぁ~♪」

 

 

王子はジョージの提案に賛成し、新しいCDの事を考えてウキウキし始め、他のみんなはその様子を見てクスクスと笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

フン・・・王子の奴、アニメのこと考えてる暇があったらもっと走れよ!!

 

 

 

チームで一番のお荷物のくせに・・・

 

 

 

 

 

 

 

カケルは先ほどのやり取りを聞いているうちに、苛立ちが募り心の中で王子に当たり散らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【6月9日 金曜日 夕方】

 

 

 

◎音楽室◎

 

 

 

間もなく日も暮れる時間帯の中、真姫はµ’sの練習を終えてから音楽室に来ていた。

 

 

部屋に入ると早速椅子に座りピアノを弾き始める。

 

 

 

 

「Someday いつの日か~ 叶うよ願いが~♪ Someday いつの日か~ 届くと信じよう~♪」

 

 

 

そして、いつもの綺麗な声で歌い始めた。

 

 

やがて演奏が終わると、一息つきながらこれまでのことを振り返った。

 

 

 

 

(スクールアイドルを始めて早1ヶ月になるわね・・入学当初は、こんなことをするなんてホントに考えられなかったわ・・・初めて誘われた時は鬱陶しかったけど、今は・・・なんか・・・悪くないわね///)

 

 

真姫は少し頬を赤らめながら思った。

 

 

 

 

 

 

コンコン・・

 

 

 

 

 

すると音楽室のドアがノックされる音が聞こえた。

 

 

 

真姫は音に気付いてドアの方を見ると、ドアの窓に1人の人影があるのが分かった。

 

 

 

 

(あ、来たわね・・)

 

 

真姫は素早く自分のカバンの中から1枚のディスクが入ったケースを取り出した。

 

 

 

 

 

ガラガラガラ・・

 

 

 

 

人影はドアを開けて中に入ると真姫の前に立ち、右手を差し出した。

 

 

 

 

「はい、これ・・」

 

 

 

真姫は少し笑みを浮かべながらそう言って人影にディスクを差し出し、人影はコクリと頷きながらそれを受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カケルは駅伝部の練習を終え1人帰り道を歩いていた。

 

 

辺りはもうすっかり暗くなっている。

 

 

今日もカケルは暗くなるまで誰よりも走り込んできた。

 

 

早く試合に出て自分の力を確かめたいと思っているが、次の試合までまだ2週間以上もある。

 

 

 

他の強豪選手に置いてかれることに加え、早く試合で走りたいという二重の焦燥感にカケルはすっかり苛まれていた。

 

 

 

そんなカケルに対して、ハイジは特に何も言ってこなかった。

 

 

カケルにとってはそれも気に入らなくなっていた。

 

 

 

高校駅伝出場を目指すと言っておきながら真剣さが足りないんじゃないか、と思ったり、何をどうすれば速くなるのか具体的に教えてくれないことも不満だった。

 

 

 

 

そんなことを考えているうちにカケルは、住んでるアパートの前まで来た。

 

 

 

 

 

 

「カケルくーん」

 

 

すると穂乃果が自分の家の方から手を振りながら駆け寄ってきた。

 

 

穂乃果に気付きカケルは一旦足を止める。

 

 

 

 

「今日も練習お疲れ様」

 

 

「ああ・・・」

 

 

「この前カケル君とハイジさんが考えてくれたトレーニングメニュー、とっても役に立ってるよ。今日もみんなしっかりこなせたんだ」

 

 

「よかったな・・・」

 

 

穂乃果は笑顔で今日のµ’sの練習のことを話して聞かせるが、カケルは気のない返事を返すだけだった。

 

 

 

 

「・・・そうだカケル君。私たち、新しい曲の振り付けを少し考え合ったんだ。動画撮ったからちょっと見てくれない?」

 

 

 

「・・・そんな暇ねえよ」

 

 

カケルはそう言って自分の部屋に戻ろうとする。

 

 

 

 

 

 

 

「待ってよカケル君!」

 

 

穂乃果はカケルの腕を掴んで引き止めた。そして必死に大声で呼びかけた

 

 

 

 

 

「カケル君、この前の試合からなんか変だよ!私たちとも全然喋ってくれないし!何か悩んでることでもあるの!?だったらお話聞くから遠慮なく言ってよ!私たち、友達でしょう!?ねぇ・・カケル君!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるせえよ・・・」

 

 

 

「えっ・・・」

 

 

 

「お前には関係ない!!もう俺に構わないでくれ!!」

 

 

 

カケルは穂乃果の方を振り返らずに声を荒げ、穂乃果の手を乱暴に振り払い素早く自分の部屋に入り鍵を閉めてしまった。

 

 

 

穂乃果はカケルの部屋のドアを見つめたまま呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

そして次第に涙が頬を伝い始めていった。

 

 

 

 

 

 

 

「ひどいよ・・・・カケル君・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

カケルは部屋に戻ると、バッグを放り投げドサッとカーペットの上に仰向けになった。

 

 

 

そして先ほどのやり取りを振り返りながら思った。

 

 

 

 

(これでいいんだ・・・もとはと言えばあいつが馴れ馴れしく話しかけてくるから俺もすっかり毒されちまったんだ・・・俺には・・・・友達なんていらねえよ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【6月10日 土曜日】

 

 

 

◎駅伝部:部室◎

 

 

 

「お疲れ様です!」

 

 

「お疲れさまでしたー!」

 

 

 

駅伝部の部員たちは、学校が休みの土曜日の午前練習を終えて続々と部室を後にしていた。

 

 

現在部室にはハイジと平田だけが残っていた。

 

 

 

 

 

「平田、最近随分と身体が絞れてきたな」

 

 

「ああ、まあな。最近ちょっと食う量を減らしてるんだよ。俺って人より体重があるからダイエットして落とさねえと」

 

 

「いや、その必要はないぞ。これまでより練習で動けてるんだから、今まで通りバランス良く食べていれば自然と絞れてくるよ」

 

 

「そうか?まぁ、サンキューな。んじゃ、お疲れーっと」

 

 

 

平田は少し会話を交わした後、部室を出ようとドアの前に立った。

 

 

するとちょうどカケルが練習を終えて部室に入って来た。

 

 

 

 

 

「おおカケル、悪いな」

 

 

平田はカケルを避けながら入れ違いに部室を出ていった。

 

 

 

 

 

「お疲れカケル。今日も随分と走り込んだようだな」

 

 

「・・・」

 

 

ハイジが声を掛けるがカケルは何も答えず帰り支度を始めだした。

 

 

そんなカケルにハイジはさらに声を掛ける。

 

 

 

 

「カケル、最近オーバーワークになりすぎてないか?」

 

 

「!!」

 

 

「世田谷競技会以降、君はずっと一番最後になるまで走っているだろう。無理して走ったって、調子は戻ってはこないぞ」

 

 

 

 

 

 

 

「今無理しないでどうするんですか!!?」

 

 

カケルは立ち上がって叫んだ。

 

 

 

 

「高校駅伝ですよ!?俺たち駅伝部はまだ東京王者の足元にも及ばない状況だってのに・・・俺たちは遊びで走ってるんじゃないですよね!?」

 

 

 

「当然だ。遊びや中途半端な気持ちであんなにみんな頑張れると思うか?」

 

 

 

声を上げて問い詰めるカケルにハイジは冷静に返事を返す。

 

 

しかしカケルはさらに続ける。

 

 

 

 

 

「未だに5000mを20分切るのがやっとの王子もですか・・・?」

 

 

「・・・何?」

 

 

 

「王子の無駄な努力に付き合っていたら俺の1年も無駄になりますよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分が思い通りにいかないのを王子のせいにするな!!」

 

 

 

ハイジはテーブルを叩きながら大声で怒鳴った。

 

 

普段は温厚なハイジだが、カケルを正面から見据えてくる目に怒りが宿っていた。

 

 

 

 

 

 

「カケル、君は記録のためだけに走るのか!?部員のみんなに速さだけを求めているのか!?だとしたら・・・それは君がされて一番嫌だったことじゃないのか!?」

 

 

 

「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『速いんだからしっかり仕事しろよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ち・・ちがう!!!俺は・・・」

 

 

 

カケルは脳裏にかつて中学時代のチームメイトに言われたことが頭に浮かんだ。

 

 

そして大声を上げて否定した。

 

 

しかし何が違うのか、確信を持ってハイジに説明することも出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「2人ともどうしたんですか?」

 

 

 

カケルとハイジは突然声を掛けられて振り向くと、王子が部室に入ってきていた。

 

 

 

 

 

「お、王子・・・どうかしたのか?」

 

 

ハイジが気まずそうに訊ねる。

 

 

 

 

「ちょっと携帯を忘れたんで取りに来ました」

 

 

王子はそう言うと素早く自分のロッカーから携帯を手に取ると、さっさとドアの方へ歩いて行った。

 

 

 

 

「失礼しましたー」

 

 

そして挨拶をしながら部室を出ていった。

 

 

 

王子が出ていってからしばらく沈黙が流れたが、先にハイジが切り出した。

 

 

 

 

「とにかく、焦らずにもう一度自分自身をよく見直してみるんだ。いいな」

 

 

そう言ってハイジは部室を後にした。

 

 

 

1人残ったカケルはただ呆然と立ち尽くすだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【6月11日 日曜日  昼】

 

 

 

季節はすっかり夏に移り変わり、昼頃になると気温が30度近くまで上がるようになってきた。

 

 

そんな中を王子が1人、千代田区一帯を走っていた。

 

 

 

 

 

「はっ・・はっ・・はっ・・・」

 

 

(もう3時間か・・・ずいぶん走ったな・・・)

 

 

 

王子は腕時計を見ながら思った。

 

 

そして脳裏に昨日部室の前で偶然聞いてしまった、カケルが言っていたことが頭に浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『王子の無駄な努力に付き合っていたら俺の1年も無駄になりますよ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっぱりカケルさんにとって、僕みたいな初心者はお荷物同然なんだな・・・

 

 

 

まぁ事実なんだし、それはしょうがないよね

 

 

 

でも・・・僕だって走りたいから駅伝部に入ったわけだし

 

 

 

だからこそ僕は・・・早くみんなに追いつくために・・・

 

 

 

一番多く走らないと・・・

 

 

 

 

・・・なんだろ?だるい・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かよちんが見つけてくれた新しいレストラン、美味しかったよねー」

 

 

「うん。お店の雰囲気も良かったよね」

 

 

「まぁ、悪くはなかったわね」

 

 

 

その頃、凛と花陽と真姫は3人揃って千代田区内を歩いていた。

 

 

日曜日のため、3人で出かけている途中であった。

 

 

 

 

「それで、このあとどこに行く?」

 

 

「デザートに何か冷たいものでも食べたいにゃー」

 

 

「ウエェ、まだ食べるの?でも確かに、今日は結構暑いわよね」

 

 

「じゃあ決まりにゃー」

 

 

 

 

 

「ん?ねぇあれって、王子じゃない?」

 

 

「「えっ?」」

 

 

 

真姫が前方を指差しながら言った。

 

 

その方向には王子が3人の方に向かって走ってくるのが見えた。

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・はぁ・・はぁ・・」

 

 

 

 

 

 

 

「ホントだ。王子君だにゃー」

 

 

「茜君、休みの日でも頑張って練習してるんだね」

 

 

 

「待って!なんか様子が変よ!」

 

 

「「えっ?」」

 

 

凛と花陽は感嘆の声を上げるが、真姫は王子を見て異変を感じていた。

 

 

 

 

 

3人がよく見てみると、王子は少しフラフラと蛇行し始めており、足取りもおぼつかず、目は虚ろになっていた。

 

 

 

そして・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ・・・

 

 

 

 

 

 

 

「茜君!」

 

 

「王子君!」

 

 

「王子!」

 

 

 

 

 

 

3人の前で王子はばったりと倒れ、そのまま意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。